イメージするのは常に最高の調理だ   作:すらららん

7 / 9
今は確か2016年の15月ぐらいだっけかな?(白目)
FGOの出現でFate熱が冷めていたのと、スランプが重なり書けていませんでしたがようやく書けたので投稿です。年内には間に合いましたね
きっと多くの皆様は当作の上昇に気付いてお気に入りを外されることでしょう。それでもまだね、お付き合い下さる方はどうぞよろしくなのです!





ルート2
前編 君の願う幸福すら知らず


 そこは暗い場所だった。

 暗く。とても暗い。その実態は人が人である限り決して許容する事が叶わない深い闇の淵。その顕現。

 もしこれが完全に光の射し込まない闇の中ならばまだ良かった。ほんの少しの灯りも無ければ、まだ心強かっただろう。物理的に完全に閉ざされた地下であればどれだけ救われたことか。凡そ考え付く限り、ある種の世界法則とも言える程に人類不踏の地。

 そんな場所で有り得ざることに人影があった。

 この冬木で長らく活動している神父、名を言峰綺礼という。表だけでなく“裏”からも敬虔な信徒として有名なこの男ーーーーこの男こそが、この地を絶望が肌を包む闇の地へと変貌させていた。

 

 パキリ。

 何の音かも定かではないが、その音と共に散った火花が男の相貌を僅かに窺わせる。その瞳はじっと、ただ一点を見つめ続けていた。ただひたすらに“ソレ”を。

 そうだ、僅かでも“ソレ”が見えてしまっている事。言峰以外に人間の存在が無い場所で、嘗て人間と“呼べた”存在達が煖炉にくべられる薪が如く放り込まれ燃え盛っている悍ましい光景。

 そんな、全身を錆び付いた包丁で無造作に無遠慮に解体される方が心穏やかでいられる様な光景が、この地下室で無造作に展示されていた。

 然しそれも。

 

『それがお前の選んだ(望んだ)答えか』

 

 その声の主が語るだけで、静謐さすら感じさせる厳かな空間へと地下室は様変わりした。先程までの暗さは、もはや微塵も窺えない。

 言峰という男から感じる気配すらもまた、敬虔な信徒としか感じられない程に。灰となり消え行く“モノ”達が天に召されているかと錯覚する程に。

 

 “黄金の男”

 

 現代の言葉ではそうとしか呼称できそうにない、いと尊き絶対無二の存在が彼“ら”を見定めていた。

 

『そうだ。お前には物足りぬ答えであろうが、私にとってこれ以外にもはや執着はない。気に入らねば自害せよとでも命じればいい』

 

 言いながら袖を捲る言峰の腕には聖痕が刻まれていた。

 神の子イエスに由来する聖痕ではないものの、そこに内包された神秘は確かに神の力の模倣としてその役割を果たす事だろう。一つの軛として。

 それでもこの黄金の男がその気になれば塵芥に等しい代物に過ぎない。

 

『よい、今日までのお前の功に報い今後も生を謳歌する事をとくに赦す』

 

 下知を賜った言峰は恭しく頭を垂れる。

 その隠れた表情が酷く歪んだ笑みを湛えていたとしても、その様だからこそ生かしておく価値があった。

 

『それで? お前は何処に行くのだ』

『ふん……』

 

 黄金の男の背面が揺らぎ、その中へ帽子が吸い込まれる。何処にでも売ってある量産品の帽子は酷く汚れ、解れ、もはや帽子としての役割すら果たせていないーーだが、ただ一つ。

 ただ1つだけ特別な意味がある。

 この帽子の持ち主へと買い与えた者こそが目の前の黄金の男であるという事実。それだけでこの帽子は史上最高にして最古の価値を持っており。その持ち主は凡そこの世に在らざるべき存在によって命脈が断たれた。

 要するに……。

 

『我の所有物に手を出したのだーーー決まっておろう?』

 

 黄金の男へと唾を吐きかけたに等しい。

 

 時は第五次聖杯戦争の開催よりも数年前。

 

 とある日の出来事。

 

 

 

 

 

 前編 君の願う幸福すら知らず

 

 

 

 

 

「悪いな美綴、今日はやっぱり帰らせてもらう! スマン! 埋め合わせはする、な? よし、じゃあな!!」

 

 放課後。

 HRが終わった瞬間に一も二もなく鞄を担ぎ駆け出した士郎は、そのまま逃亡すれば良いにも関わらず律儀に断りをいれてからそそくさと下駄箱へと向かった。

 その愚直さが却って功を奏してか、呆気に取られる美綴を尻目に士郎は強化を叩き込んだ走力を持って戦術的撤退を成功する。

 

「は? あ、ちょ、待てよえみ……はやっ!?」

 

 有無を言わさぬ言葉の嵐に反応の遅れた美綴は、どう見ても友人(一応)であり穂群原陸上部に並ぶもの無しとされるエースの蒔寺楓(近人種)より明らかに速く走って消えていった士郎の背中を見送るしか出来なかった訳だ。

 その姿をぶすーっとした表情で一瞬だけ見やってから教室を離れた凛の姿は、誰に気付かれる事もなかった。

 

「むぅー、そりゃ来て欲しかったけど用事があんなら私だって無理強いしないぞ?」

 

 グイグイと押すぐらいの姿勢で勧誘しなければたちまち紐を離した風船の如く飛んでいってしまうから仕方なくなのだ。別に体育会系特有の強情さは関係ない……筈。

 とはいえ、今日は手応えがあったので残念な事に代わりはなく、早速明日また誘おうと頭を切り替える。

 あの射を観る為ならば機は選ばない。

 即断実行が唯一最善の手段なのだ。

 

「おおおー!? 何だよ衛宮のヤツ、やっぱ普段は手ぇ抜いてんのな!!! うぎゃー!! 舐められてる気がす☆る☆ZE!!」

 

 美綴の中でギリ友人(人間)のカテゴリに振り分けられているとは知らない蒔寺楓が士郎の隠し持つ力を前に対抗心を燃やし叫ぶ。

 その音量は優に公害レベルだが、生憎と周囲の生徒は慣れてしまっていた。

 

「五月蝿いぞ蒔の字」

「ほんとすごいねー衛宮くん」

 

 常に冷静沈着なツッコミを入れる氷室鐘と、どう考えても身体がマイナスイオンで出来ている三枝由紀香も各々の感想を述べる。

 それに何故だか知らないが気分が良くなった美綴は、鼻高々になりながら自慢げに胸を張る。張るほどのものではないが、とある友人よりは御自慢の逸品だ。

 

「だろう? お前らにはやらん、衛宮は弓道部のエースに戻るのだからな!」

「へっ、今までずっと断られてんの知ってんだぞ~?! オマエしつこいから嫌われてんじゃねーの。友達とも思われてなかったりしてな、ハハハ!」

「誰がだ! 失礼な、大体お前と違って私と衛宮は歴とした親友……じゃないか……友達……うん、すっごい友達だからな!」

 

 わいのわいのと何時の間にか集まってきた3人組と語らいながら迎えた放課後、そんなこんなで部活の始まるまでの短い時間を美綴綾子らは“生涯最後”に見ることとなった衛宮士郎の話で盛り上がった。

 

 

 

「ただいまー……っと、寝てるのか」

 

 居間の中央に堂々と鎮座するは対冬特化Aランク宝具であるコタツ。そこで寝こけている小さな姉の姿に苦笑しつつ鞄を置き冷蔵庫を開いて嘆息する。作り置いていたシチューの容器は触れられた様子もないのに、備蓄してあるジュースのペットボトルだけは無くなっている。ついでに幾つかの菓子もだ。

 何時もの事ではある。

 

「栄養偏るって言ってんのになぁ……ったく」

 

 言葉ほどには不快さを滲ませず、ガスコンロに火を点し温め直す。野菜を手頃な大きさに切り分けつつオーブンでパンを加熱し、コトコトゆっくりかき混ぜながら香り付けと消毒に香草を混ぜた頃に背後でモゾモゾと動く気配に気付いて振り向いた。

 

「くぁぁぁ……ぉかえりーしろー」

 

 ほわわ、と欠伸をしながら起き上がったイリヤの頬にはカーペット模様の紅葉色がだらしなく刻まれており、眠りの深さと長さを感じさせた。へにゃりとした表情筋は弛み、頭は起ききっていない。

 それでも緊急事態なら魔術で無理やりにでも覚醒するのだが、まあそんな緊急事態なんて早々起きはしない。

 

「悪い、起こしちゃったか」

「ん~……ちがうけどぉ、でも美味しそうな匂いだねー。おかわりー」

「はは、まだ食べてないだろ」

 

 寝惚け状態のイリヤに先ずは気付け代わりに苦みばしったコーヒを与える、温め直したシチューを器によそってからスプーンと共に側へ置く。

 何の躊躇もなく水を飲み干すように勢い良くコーヒを嚥下したイリヤの目が大きく見開かれる、ぷるぷると震え脂汗を垂らしながらも何とか飲み込めばバッチリお目覚めだ。

 

 途端に、自分の状況に気付いたイリヤは時計をちらりと覗き「あ、やっちまった」と言わんばかりにガツガツとシチューを掻き込み始めた。

 

「いただきます」

「いただいてまふ!」

 

 対面に座って手を合わせてから士郎もシチューを食べ始める。ゴロゴロとした大きめのサイズの鶏肉やじゃがいもはしっかりとした食感で口腔を賑やかせ、クリーミーなスープの中に溶け込んだ玉ねぎの甘みと一緒にお腹を温めてくれる。まるで極上の羽毛布団に包まれているような安心感だ。

 隠し味のチーズがコクと味の奥行きを演出し、1口サイズに切り分けたトーストの相性はバツグン。付け合せのサラダがいい箸休めとなり飽きさせない。

 急いで帰って疲れた身体にこれは効く。

 

「もぎゅ、もぎゅ……シロウ、食べ終わったら出かけるわよ」

「ん? そりゃいいけど、話があるんじゃなかったか」

「大丈夫よ、向かいながら……もぎゅ……はなしゅから」

 

 かなり忙しなく食べ終えたイリヤは、食器をテキパキと洗うとバタバタと忙しなく家中を駆け回り始めた。

 そんな姉の姿に呆れつつ、ゆっくりと食べ終えた士郎が食器や鍋を纏めて食洗機に入れ終えふと後ろを向くと其処には、余所行きの衣装に身を包み大きなトランクを2つ重ねた上に乗ってニンマリとこちらを見つめる小さな雪の妖精が居た。

 

「え……いや、イリヤ?」

「なぁに?」

「出かけるって、その……何処なんだ?」

 

 てっきり近所に出掛けるのだとばかり思っていた士郎の予想を裏切り、イリヤの姿はどう見ても遠出のそれだった。クスクスと笑い、更に驚愕するような内容を告げる。

 

「決まってるじゃない、海外旅行よ!」

「…………なんでさ」

 

 まだ春休みには早いんだけどなぁ。

 そんな呑気な事を考えながら、衛宮士郎は“二度と帰ることのない”我が家を後にした。

 

 

 

「ねぇアーチャー、あんたも昔は生きてたのよね」

「キミは英霊をなんだと思ってるのかね?」

 

 軽く人払いをしながら校舎内に張られた結界の基点の魔力を散らせつつ凛は、退屈凌ぎに己がサーヴァントへと語り掛けていた。

 全くもって無意味な問いだ。訊いた相手がそもそも記憶障害持ちで、それでなくとも生涯を戦いに明け暮れたであろう英霊の生前の話など歴史の証人程度の意味合いしかない。

 魔術師は過去へと疾走するものだが、別に過去の時代に興味があるわけでもない。寧ろ未来の方に興味がある、金策的な意味で。

 

「別に。ただ、英霊が人間みたいに普通に生きてたなんて、なんかしっくり来ないし」

「ふむ」

「大した事じゃないのよ、ゴメン。気を悪くした?」

「いや……っ」

 

 ふっと霊体化したアーチャーを訝しがる間もなく、目の前を走り去って行った藤村大河の背中を見送った凛は彼女が走って来た方向に目をやり……弓道場を視界に入れた。

 だからどう、と言うことはない。特に理由の存在しない衝動に流されるままに部員からは死角になる場所へと踏み込み丁度いい足場を見つけ優雅に腰を掛けた。

 だから、別にその姿を見てどうこう思いはしなかった。今、正に射る瞬間の少女の真剣な表情を、放たれた矢の向かう先を目で追い、その結果に薄く微笑んだのも光の加減で偶然そんな風に見えただけに過ぎない。

 

 暫くはそうしていたか。

 それぞれのタイミングで放たれる矢、的に中るのも有れば外すのもある。何時しか陽は落ち始めていた、更衣室に1人の少女が向かった処まで見送りふと……疑問が湧いた。

 弓の英霊とまでなったこの男から見て現代の弓道とはどう映るモノなのか。

 

「ねぇアーチャー、アンタから見て彼らの弓はどうなの?」

『さて、どう……と言われてもな。私の弓は彼らのソレとは大きく違う、弓を放つ意味が違う以上は比べる様な事ではないさ』

「そりゃそうかもだけど……」

 

 それで話は終わった。

 再び人払いをしながら校舎内へと向かった凛は、この夜ランサーと出会す。アーチャーとランサー、2人の英霊の闘いを邪魔する者はなく今夜、1体目の脱落者が生まれる。

 そんな遠坂凛の聖杯戦争、最初にして“最後”となる闘いの火蓋が切られようとしていた。

 

 

 

「ちょっとー! イリヤちゃんってばァ、どういうことなの!? ちゃんと説明しなさーい!!」

 

 ギャォオオオオン!!

 冬木の誇る怪獣藤村大河の咆哮が轟く、こてんと首を傾げたイリヤは逆に貴方が何を言っているのか理解出来ませんとばかりに澄ました顔でもう一度要件をそのまま告げた。

 

「だーかーらー、明日からシロウは1週間休学させるからタイガも一緒に旅行に行かないかって言ってるんじゃない。あれ? 私ってば日本語じゃなくてアインツベルン訛り出ちゃってた??」

「うわぁぁぉぁあん! イリヤちゃんが何言ってんのか分かんないよー士郎ぅ~! なんで、なんで学校休むのぉ?! うぇぇぇんっ!!」

 

 それと私一応教師だからズル休み出来ないんだよー、と話の内容を理解して叫んでいる大河には悪かったが士郎も何が何だか分かってはいない。

 分かってはいないが、それはそれ。

 

「いや、そりゃ俺もいきなり過ぎると思うけどさ。でも俺はイリヤのすることを信じてるから、だから1週間ほど休むな。休学届けはちゃんと書いてあるから、藤ねえ行かないなら出しといてくれ」

 

 んっ、と渡された休学届けを握り締めつつ私の御飯はどうなるのよ~と情けない事を喋りながら何とか引き留めようと抱き着こうとするのを防ぐ様に、ペシペシと小気味いいジャブで牽制しつつひらりと宙を舞ってそそくさとベンツの中へと戻った。

 

「もうっ! いいタイガ、ほんとは無理やりにでも連れて行きたいとこだけど何でか知らないけどタイガは放っておいても平気そうだから置いてくわ! でも夜は出歩くんじゃないわよ、保健所に通報されちゃうから」

「誰が虎じゃぁあああ!!」

「えー、そんなの決まってるじゃない♪」

 

 アハハハハと高笑いしながらアクセルを踏み込み空港へと向かったベンツ、2人の唐突な海外旅行を渋々ながら見送った大河は今日はもう自棄酒して寝ようと固く決意をした。

 1週間もしたら帰ってくるのだし?

 それからクドクドと自分を置いて楽しんでくるだろう2人から美味いものでもたかってやろうと。

 

 そんな訪れることのない未来を描いていた。

 

 

 

 イリヤと士郎。

 2人が冬木の地を離れてより少しして、とある“ナニカ”がこの街へと訪れる。聖杯戦争の匂いに誘われてか、はたまた……。

 だがそれは問題ではない。

 このナニカは共に連れてきてしまったのだーーーー1つの災いを。

 

 それから数日後。

 遠き海外の地にて世界へと発信されたセンセーショナルなニュースを知った士郎は、愕然としながら大通りのショーウインドーで流れるニュースを見続けていた。

 

 高感度カメラによる遠距離映像。

 

 そこに映るのはまるで。

 

 あの日の焼き直し。

 

 生存者は絶望。

 

 

 

 ーーー冬木市は世界地図から姿を消した

 

 

 

 




活動報告で1回だけネタバレした事あるんでこの際だから語りますけど、今回のルートは士郎が聖杯戦争に参加しないことで起きる共通バッドエンドです。
後編では10年の時を経て政府の封鎖が解かれ変わり果てた故郷に帰ってきた士郎とイリヤによるこの物語のラスボスに関する話をちょろちょろとします。

まぁ裏ボスは別にいるんですけど。


では、まぁ……次の更新は年内には余裕なんで(ニコッ



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