【完結】serial experiments S. A. C 作:藍色
自分は、広いライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、気付かずに崖っぷちから落ちそうになったときに、捕まえてあげるような、そんな人間になりたい……
現在ではコアな人種しか読まなくなっている紙媒体の書籍に囲まれて、青年は階段に座っていた。
彼の名前はアオイ。
自称二代目笑い男である。
そんな青年は1人の人物を話をしていた。
「あなたはゴーストが無いことを証明できる?」
「NO。それは悪魔の証明だね」
「じゃあ、あなたはゴーストを持っていることを証明できる?」
「NO。ゴーストとは何かを定義されないことには証明できない」
「素子さんや他の人達はゴーストが何かを知っているみたいだけど?」
「あの人達は特殊な人達だから。それにゴーストがあることを信じている人達の意見は、神の存在証明と同じことを言っている。つまり、信じる者は救われる」
ジェスチャーを加えながらアオイは質問に答えていく。
アオイに質問を投げかけていたのはlain。
現在は美里という名前で中学校に在籍している人工頭脳である。
電脳空間のみで構成されたため肉体というハードが存在しておらず、他者などに対しては電脳をハッキングする事で存在の認識をさせている。
電脳技術は特A級とも言われているが、彼女が暴れることは現時点では無いだろう。
「ふうん。あなたはゴーストを信じている?」
「YES。僕はゴーストを信じている」
「何故?」
「何故……。ゴーストがあることを信じたいから、かな」
微笑を浮かべて答えを返す。
「信じたい、という理由が理由になること。これがゴーストだと私は思うんだ」
「未来への希望が理由になるということだね。こういう人間になりたい、これは機械では理由にはならない。推測の1つでしかない」
「またサリンジャー?」
「YES。自分は、広いライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、気付かずに崖っぷちから落ちそうになったときに、捕まえてあげるような、そんな人間になりたい。」
「そういう事ばかり言うから素子さんに嫌がられるんだよ?」
くすくすという笑いをこぼしてlainは指摘する。
アオイは肩をすくめた。
最近あった笑い男事件、つまり公安9課とアオイが接触した事件の時にアオイは公安9課のリーダーである草薙素子と話をした。
その際に「言葉だけの人間」と草薙から称されている。
他者の言葉を借りて行動する人間はどうやら草薙はあまり好きではないらしい。
「そういうあなたはどうですか?本当の意味でオリジナルから派生したあなたは」
実存するifという存在そのものである美里は、楽しげに笑いながら答える。
「もしも、とかそういうのは想像だけの世界でしかないという事が判ったよ。あなたは私のことをオリジナルから派生したって言っているけれど、本当の意味で同一の存在であった事なんて一度もないの。私という存在はどれだけなぞってもlainにはならないし、なれない」
「成程。人生は決して二つと同じものはないのだ」
「ほら、だからそういうのが嫌がられるの。えーと、曽野綾子だっけ?」
「YES。」
唇を尖らせてムッとした表情を作っている。
そんな反応を流すようにアオイは微笑を浮かべた。
「もう。小さなことでやり返すんだから……」
「すみません、ちょっと楽しかったのでつい」
「性悪!」
どちらからともなくクスクスという笑い声がこぼれた。
「そろそろ時間ではないですか?お友達との約束なんでしょう?」
「また見てたの?」
「覗き屋ですから」
友達との約束は既に30分後に迫っていた。
そろそろlainは準備をしなければならない。
「じゃあ、また来るね」
「いつでもどうぞ」
軽い別れの挨拶。
これが彼と彼女の流儀である。
lainがアオイを通り過ぎる瞬間、lainから美里の姿へと変化する。
美里はこれからもアオイと会うことがあるだろうな、と考えながら最寄り駅へと歩いていく。
人は繋がっている。
線で、点で、空間で。
繋がることで同じ存在になることもあるが、また、同じ存在にはならない。
限りなく近い二アリーイコールの存在が、自分という存在を確かにする。
自己と他者の相違は多岐に渡り、認識できないことが多い。
そんな世界こそが生きる世界であり、だからこそ面白い。
というわけで蛇足でした。
相変わらず文字数が少なくてすみません。
笑い男が個人的にすきなので絡ませてみました。
この二人はきっと暴れなければ平和。