俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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中二台詞に読み仮名つける作業が一番めんどくさい。この回一場面で連続しすぎだろうJK。そして書いてるうちにオチが(薄い本的な)ヒドイことに。
今のうちに謝っておきます、普通の性癖の方ごめんなさい!!
あとトゥアールのフラグへし折りきれませんでした。

お悩み相談に加筆しました。


第八話「痴女と蛮族とツインテール」

 ────下校してアドレシェンツァの店内へ入った俺たちは、扉のカウベルが鳴るのと同時に眼前に広がった稀に見る混雑ぶりに目を丸くした。

 カウンター席以外ほぼ満席ってどういうことだよ。

「な、なんでこんなに混んでるんだ?」

「最近少しずつお客さんは増えてたけど、これは流石に多すぎだろう」

「ごめんみんな、二人だけじゃ追いつかないの。少し手伝ってちょうだい」

「────恋香さん!? わかりました、すぐ用意します!!」

 厨房を切り回す未春さんと、ウェイトレスとして駆け回るエプロン姿の恋香さんに頼まれた俺たちは、すぐさまエプロンを着用して救援に入る。

 愛香とトゥアール、総二が給仕。俺は未春さんを調理に集中させるべく支援として溜まり気味になっていた食器を洗い、片づける。

 相変わらず白衣のままエプロンを着用し、フィギュアスケートかなにかのように流麗な動きでテーブルを行き来するトゥアールはさておき、初めて見るウェイトレス姿の恋香さんの愛想よい接客振りには新鮮なときめきを覚えた。

 愛香は少々愛想が足りんが、武道で培った足運びで早足で動きながらも、一滴もコーヒーをこぼすことなくてきぱきと働いている。

 三者三様だがそれぞれ魅力的な看板娘たちの姿に、この店の将来は安泰だと感心していると勢いよく扉が開き、一人の男性客が息せき切って飛び込んできた。

 無精ひげを伸ばし、よれよれにくたびれたスーツを着た、サラリーマン風の男性だ。

「マスター! 水と……今日の新聞をくれ!!」

 その姿を目にした瞬間、未春さんはスイッチが切り替わったかのように神妙な顔をしてミルを挽く手を止め、望みの品をスッと差し出す。

「四月二十五日……俺は……帰還(かえ)ってこれたんだな……」

 その一言を耳にして総二と愛香が目を丸くした。見回してみると周囲の客は誰一人気にした様子もなく、スーパーハッカー気取りでノートPCのキーボードを目茶目茶に叩いていたり、吸血鬼か何かのつもりで気取った様子でコーヒーの香りに酔いしれていたりと、各々気ままに自分の世界へ没入している。

「……時間(みち)彷徨(まよ)ったら、いつでもここに来て頂戴。過去(むかし)も……現在(いま)も、未来(この先)も……いつだってこの店の道標(コーヒー)の味は、変わらないから……」

「ありがとう、マスター……行ってくるよ、俺が、俺であるために……」

 そうこうするうちに追加で差し出されたコーヒーを飲み乾したくたびれサラリーマンは、気前よく万札をカウンターへ置くと扉から差し込む光の中へ溶け込むように去っていく。

 ────なんだこれ。タイムトラベラーかなんかかな?

 あの客は知り合いかと聞かれて「ううん、知らない人」と答えた未春さんが、総二から突っ込みを受けていた。そりゃあそうなるわな。

 なんで平然と当事者みたいなやり取りができるんですか。え? 亡くなった旦那さんも中二? 筋金入りか。

 あー、総二に遺伝しなくて本当に良かった。

 いつの間にやら中二喫茶と化していたアドレシェンツァという光景に固まってしまった愛香をよそに、未春さんたちの話は進んでゆく。

 トゥアールによると、どうやら高まり続けた未春さんの中二属性の影響でこうなってしまったらしい。あれか、スタンド使いは引かれ合うように、同じ属性持ちも互いに引き寄せ合うというやつなのか?

「誰もが熱く青春を駆け抜けることが出来るわけじゃない。だけど大人になって仕事や毎日に疲れた時、ふと自分が輝いていた時代を思い出して懐かしい気持ちになったりする手助けができるなら、母さんは本望だわ」

 ────中二病って悪く言われがちだけど、本当は何よりも優しくて、何よりも強いものだと思うの。好きな物に打ち込んで誰よりも青春を楽しんでるってことだもんね。

 ────なんか未春さんがかっこいいこと言った。普段はちゃらんぽらんなくせに、不意にこういうことをぽろっと言うからこの人はたまんないんだよなあ……

「今の台詞、覚えた? じゃあ次にドラグギルディ戦ばりにピンチになったら思い出してね! 逆転の糸口になったりするから」

「どうすればなるんだよ!? ツッコミが追い付かねーよ!!」

 と、まあ大抵は直後にこういうオチがきて、いいこと言ってもぶち壊しになるんだけどなー。

 観束家のみんな(愛香含む)が名言をこぼすたびに、レコーダーのスイッチを入れるのはもうすっかり癖になっているので台詞は録音してあるし、書き起こしてどこかで使うときの為にとっておくか。

「ほら愛香、気をしっかり持つんだ。この家の嫁になったら嫌でもこの光景と向き合わなくちゃならないんだぞ?」

「……うん、あたし……頑張る…………」

 この世に顕現した異界の光景に石化した愛香をどうにかよみがえらせるが、恋香さんは「なんだか不思議なお客さんが増えたわねえ」と多少困惑するくらいで平然と働いていた。

 ────何となく感じてたけど、やっぱ大物だわこの人。

 

「なあ結……この後二人で話したいことがあるんだ、時間いいか?」

「ああ、構わんぞ」

「……母さん、愛香、ちょっと結と出かけてくる」

「じゃあ愛香、トゥアール。ちょっと総二借りていくな……恋香さんもまた明日」

 無事に閉店時間を迎えたアドレシェンツァの店じまいを終え、夕食を済ませた俺と、どこか思いつめた表情の総二は連れ立って近所の公園へ足を運んだ。

「ほら、烏龍茶でいいよな?」

「ああ、サンキュー」

 すっかり日も沈みかけ、子供たちの姿も無くなった茜色の公園で二人ベンチに腰掛けた俺たちは、自販機で買った缶のお茶を開けながら口を開く。

「────で、話したいことってのはトゥアールと愛香のことか?」

「……まいったな、やっぱりお前は何でもお見通しなのか」

 部室で押し倒された愛香をトゥアールから引き離した後のお前の態度を見てれば、大体は察しが付くさ。と答えると、俺ってそんなにわかりやすいのか……と総二は頭を掻いて自嘲気味に笑う。

 その裏表のない素直さがお前の魅力なんだろうが、もっと胸を張れよ。

「俺さ、最初の日にトゥアールとお前たちが屋根の上で話してるの、愛香と一緒に聞いちゃってたんだ」

「……うわ、きっつ」

 普段から好意を隠していないとはいえ、秘めていた本音を当人に知らないうちに聞かれてしまっているのはつらいだろうな。

「正直、トゥアールはものすごい美人だって思うし、スタイルだって抜群だ。好意を寄せてくれるのも嬉しいと思う。それに大切なツインテールを手放してまで、俺に戦う力をくれたことは感謝してもし足りないくらいさ」

 ────でも、とうつむいた総二の声が震える。

「俺は愛香が好きだ。あいつのツインテールを……あいつを手放すなんて考えられない。今日……部室で愛香がトゥアールに押し倒されてるのを見たとき、胸が締め付けられるようだった。愛香が取られちゃいそうで嫌だなって思ったよ。でも、きっとトゥアールは……そんな気持ちを今まで毎日のように感じてたはずなんだ」

 そりゃあ惚れた相手が恋敵と仲睦まじくしている光景を見せつけられるなんてのは、割り切れていなければ苦痛以外の何物でもない。というか想像したらこっちまでつらくなってきた。我慢して聞いていなければならないのはわかるが、失恋の話題とか正直勘弁してほしい。

「それで、思っちまったんだ……“トゥアールを受け入れたら、愛香へのアプローチも治まるんじゃないか”って…………」

「正直ゾっとしたよ。これじゃあまるで、女の子の気持ちを利用するクズみたいじゃないかって…………最低だよな、こんなんじゃ愛香のツインテールに……いや、この世全てのツインテールに顔向けできない! なあ結、俺……どうしたらいいんだ? トゥアールは他の女に目を向けてもいいって言ってたけど、それにうなずいたら二股掛けられた愛香の気持ちはどうなるんだ? 確かにトゥアールはどうにかしてやりたいさ。だけどもしも愛香に嫌われたら俺……立ち直れないかもしれない」

 思い悩む総二が半ば涙声になりながら心情を吐露するという既視感溢れる光景のなか、ふと今朝繰り広げられた愛香とトゥアールの一幕を思い出した俺は、深呼吸で気持ちを落ち着けると総二へ切り出した。

「────気持ちはわかるがまずは落ち着け」

 すっかりこいつら似たもの夫婦だな、とかつて中学時代に愛香から相談を受けた時のことを思い出す。

 たとえトゥアールといえど、失恋する女の子を見るのは嫌いだしカップルが破局するのはもっと嫌だ。さらには大好きな二人が別れる未来なんて輪をかけて大嫌いだ。

 ────だからお前らの関係だけは何としても守って見せるさ。

「愛香がお前を嫌うなんてありえないから安心しろ。むしろ絶望して自棄になった愛香が心中図るほうがまだ可能性あるわ」

 両肩をがしっと掴み、目を見て諭すように話しかけると、総二は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。

「で、だ……そもそもの前提としてお前はトゥアールを好きなのか? 念のために言うけどLOVEだぞ? LIKEじゃなく」

「好き……だと思う。トゥアールが他の男とくっついたら嫌だなって思うくらいには」

「……そうか、それくらい自覚できてるなら大丈夫だろ」

 親友の気持ちを再確認し、破顔する。

「まずはきちんと愛香に気持ちを伝えて見ろって。“お前をトゥアールに取られたくないんだ”ってさ。ベッドの中で抱きしめながら囁いたら効果覿面だぞ?」

「結…………流石に、ちょっと恥ずかしい」

 自分がそうする様を想像したのか、うつむいて目を逸らす総二が何とも可愛らしかったので徹底的に頭を撫で繰り回す。

 はっはっは、真っ赤になって照れているのか夕日に照らされて赤いんだかさっぱりわからんなー。

 やーめーろーよー、と俺の手を振り払おうとする親友兼未来の義弟がすっかり持ち直したのを確認したので、ひとまず男同士のお悩み相談はお開きにする。

「そいじゃまた明日な、吉報を期待しているぞ」

「うるせーよ!」

 ────でも、少しは気が楽になった。ありがとうな。

 背中に投げかけられた照れ隠しの罵声がなんとも心地よい。そして俺の耳はその直後に漏れ出た、常人なら聞き取れないであろう消え入りそうな総二の呟きを聞き逃さなかった。

 これだからこいつらの友達やるのはたまんねーんだよ。と胸に暖かいものが充ちたトキメキに拳をグッと握る。

 果たして、明日俺は親友が愛を貫き通すのか、はたまた妻妾同衾を達成する歴史的瞬間を目の当たりにすることが出来るのだろうか?

 

□□□□

 

 土曜日の早朝から多くの客が列をなす大手ショッピングモールの玩具店。

 ゴールデンウィーク直前の週末は、特撮ヒーローの新ロボットや新戦士の変身アイテムなどが投入されるおなじみの時期だ。

 神堂家のメイド長、桜川尊は、視線の先でレジに並ぶ護衛対象にして尽くすべき主、神堂慧理那の後ろ姿へ深いため息をついた。

 アルティメギルが現れてからというもの、慧理那は幾度となく狙われているため、出来ることなら買い物は自分に任せてほしいと何度となく進言しているのだが、“自分で買うからこそ愛着がわく”とその度にお決まりの文句が返ってくるのだ。

 メイドの自分が主人の趣味にとやかく口をはさむつもりなど毛頭ない。むしろ神堂家の跡取りとして、学園でも生徒会長として肩ひじ張った生き方をしている彼女に、ひたむきに熱中できるものがあるのは喜ばしいくらいだ。

 ────たとえ襲われても、ツインテイルズは必ず助けに来てくれる。

 ヒーローが好きな慧理那は、現実に現れた本物のヒーローを心から信じているのだろう。と尊は護衛としては複雑な思いを抱いた。

『────メイド長! 今すぐお嬢様を連れて逃げてください!!』

 慧理那が会計を済ませたのとほぼ同時に、耳元のレシーバーに受信を示すノイズが走る。

 聞き返すまでもなく駆け出した尊は、慧理那をお姫様抱っこで抱え上げるや、脇目もふらずにフロアを駆け抜け階段を次々に飛び降りてゆく。

 エスカレーターよりも速く、直通エレベーターの速度さえも凌ぐ、彼女の健脚に物を言わせたショートカット。だが自動ドアを潜り抜け駐車場に飛び出した彼女は、そこに広がる光景を目にして一歩遅かったと歯噛みした。

 モケーモケーと怪声を上げる黒づくめの戦闘員の群れと、それを率いる直立した蟹のような怪人。またしても、慧理那はエレメリアンの標的にされてしまったのだ。

「ほほう、中々にハイポテンシャルな幼女。これ程のツインテールならばさぞかしアレも素晴らしかろう!」

「またそれか化け物め!」

 理屈はわからないが、奴らが慧理那のツインテールを狙ってやってきているのは紛れもない事実。安全のためには髪型を変えるのが一番手っ取り早いのだろうが、神堂家の人間にはそうできない理由がある。

 歯痒さに、尊は唇を噛んだ。

「我が名はクラブギルディ! ツインテールと常に共にある麗しき項後属性(ネープ)を後世に伝えるべく邁進する探求者なり!!」

「ネープ……うなじ? ですの!?」

 相変わらず俗なことばかり口走る化け物どもだ。

 尊は駆けつけた部下たちに慧理那を任せると、果敢に怪物の前に立ちはだかる。

「ここは私が食い止める! お嬢様を早く!!」

「ほほう、妙齢の女性よ、お主もツインテールを嗜むか」

「妙齢だと!? 化け物が! 貴様ごときに品定めされてたまるか!!」

 ウェーブのかかった髪を上結びにし、背中へと落とすようにまとめたツインテール。

 首元までの長さで自己主張し、活発さを象徴している尊のそれは、今年二八歳になる彼女にとっていろいろ思うところもあるが、神堂家に仕えるようになって以来一度も変わらない尊の誇りであった。

「ツインテイルズに頼るまでもない! 貴様なぞ私が成敗してくれる!!」

 そんな自らのツインテールを馬鹿にされ、これまでも度々慧理那を狙われてきた怒りに燃える彼女の猛烈な蹴撃が容赦なく繰り出される。

 だがしかし、一流の格闘家にも劣らない、野生の猛獣とさえ渡り合えるだろう脚技の数々がエレメリアンに通用することはなかった。

 全身を覆う甲殻はまだしも、装甲の薄いだろう腹部でさえもまるで鋼鉄のような硬度を持っていた故に、何度も蹴りをお見舞いし続けた尊は足を押さえ苦痛に顔を歪める。

「なんて硬さだ……金属の塊を蹴っているようだぞ…………!」

「きゃー!」「お嬢様────!!」

 そうする間にもアルティロイドによって部下のメイドたちから慧理那が引き離され、尊自身も取り押さえられてしまった。ひょろひょろの身体でありながら、いくら力を込めてもびくともしない戦闘員の膂力に臍を噛む。

「大丈夫ですわ、絶対に彼女たちが……」

 怪物に項後を観賞されるという肉体的にはどうでもいいが精神的苦痛を伴う状況でも、慧理那は恐怖に屈さずに希望を抱き続ける。

(ああ……やはりお嬢様は…………)

 そしてついに慧理那のツインテールに魔の手が伸び、年増の項後に興味はない、ほうれい線対策にでも躍起になっていろと断じられた尊が激昂し、アルティロイドに手刀を叩き込まれてその意識を刈り取られた刹那────

属性玉(エレメーラオーブ)────兎耳属性(ラビット)!!」

 高らかに響いた少女の声と共に、天空より降り注いだ蒼き弾丸が稲妻のごとき速さで戦闘員たちを次々に蹴散らし、捕えられていた慧理那たちを救い出した。

「ああ…………」

「────その人たちを頼んだぞ!!」

 一拍遅れて破裂し空中で雲散霧消するアルティロイドたちの姿に、嘆息する慧理那の瞳に映ったもの、それは巨躯の怪物に敢然と立ちはだかる、憧れのヒロインたちの姿だった。

 

□□□□

 

 ────やはり狙いは会長か。

 現場に駆け付けた俺たちは、戦闘員を蹴散らして会長たちを救い出すと彼女を狙っていたエレメリアンに対峙する。

 やはり会長は完全にアルティメギルの標的にされてしまっている。漫画に出てくるような学園のアイドルたる彼女を、慕い憧れるみんなのためにも彼女のツインテールは守り抜かねばならない!

「現れたなツインテイルズ! お主らの強さ、美しさたるや他の世界にも轟いているぞ」

「そいつは光栄だな、なら侵略なんてとっとと諦めろって仲間にも伝えておけよ!」

「そいつは出来ぬ相談だ。タイガギルディ様の仇を取らずして、どうしておめおめ諦められようか!」

 啖呵を切ったレッドに反論するエレメリアン。確か基地の映像ではクラブギルディと名乗っていたか。あのタイガギルディの部下だったとは……こいつも上司同様見かけ倒しだと嬉しいんだが。

 先手必勝と振り下ろされたブレイザーブレイドが、奴を脳天から両断した────かに見えた。だが切り裂かれたはずの奴は空気に解けるように消えてゆく。

「────残像だ」

「何だと!?」

 一瞬でレッドの後ろをとったクラブギルディの単眼がズズイと迫り、彼女の首筋を射抜かんばかりに見つめる。

「やはり素晴らしい、まさに生命を育む海! これ程のうなじを併せ持ったツインテールに出会えようとは!!」

 慌てて横薙ぎにされたブレイドをあっさり躱し、滂沱の涙を流しつつ奴はブルーの背後へも現れた。

「こちらのうなじもまた見事! 大人の階段へ足をかけているかのような……幼女とは思えぬ色香に満ちている!!」

「やだあ! こいつキモイ!!」

「────!? ブルーから離れろ!!」

 大人の階段へ足をかけるどころかすでに登ってしまっていることを見抜かれかけたブルーが怖気を振るい、恋人へ欲望に満ちた視線を向けられたレッドが怒りに燃えて三度得物を振るう。

 結果は三度目の空振り。となれば次は俺の番かとベルトのバックルから引き抜いたロッドを連結し、振り向きざまにロングモードで殴り掛かろうとしたが奴はそれを嘲笑うかのように回避してのけた。

「躱された!?」

「成熟したうなじもまたよし。年増は論外だが若々しい色気と凛々しさがある」

 なんてスピードだ……だがドラグギルディは別格としても、兄より強い弟、上司よりも強い部下といった、エレメリアン連中のこの戦力の偏りは一体何なんだ?

 俺は首筋を視姦される感覚と、変態の恐るべきスピードの双方に怖気を振るう。

『結さん、スピードは驚異的ですがそれ以外は大したことはありません。総二様たちが引き付けている隙に髪紐属性(リボン)で上空から攻撃してください!』

「わかった! レッド、ブルー頼んだぞ────属性力変換機構(エレメリーション)!!」

 トゥアールからの通信を受けた俺は、ロングロッド中央へ接続した属性力変換機構へ髪紐属性の属性玉を放り込む。

 すると変換機構から列車やバスの吊革を思わせる取っ手が飛び出し、ロッドの両側が翼に変化した。

「あー、これは、そういうことなのか?」

 その形状からなんとなく察した俺は取っ手を左手で掴み、ロングロッドを頭上へ掲げる。

 案の定、翼が生えて双刃刀のようになったロッドはヘリのローターのように回転を始め、俺の身体を上空へと上昇させた。

「武器を介してしか使えないのは知ってたけどさ、もうちょっと何とかならなかったのかねぇ……」

 せめて宇宙大帝のビッグウイングみたいなのがよかった。

 そうぼやきつつも、腰の収納ポーチから予備のミラージュマグナムを取り出した俺は、眼下でレッド、ブルー相手に立ち回りを演じているクラブギルディへ狙いを定める。

 腕を上げたこの体勢ではリフレクターリボンが隠れてしまうため、レンズ四枚から放たれるリフレクションビームは使えないのが困るところだ。

「「うなじを見るな────!!」」

「残像だ────そして見る!」

 レッドを狙えばブルーが、ブルーを狙えばレッドが攻撃するというコンビネーションを軽々回避しつつ、8の字を描いて駆け回る超スピードの変態へタイミングを合わせて引き金を引く。

「ぬお!?」

 直撃こそ出来なかったものの、マグナムの光弾は奴の脚を撃ち抜き見事機動力を削ぐことに成功していた。

「今だ! やれえええええええええ! レッドオオオオオオオオオオオオオ!!」

「オーラピラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 たたらを踏んで足を止めた敵へすかさず放たれたオーラピラー、そして完全開放され間髪入れずに振り下ろされたブレイザーブレイドが爆炎を上げて今度こそクラブギルディを両断した。

 炎の捕縛結界に視界を遮られ、愛するものを見失ったエレメリアンの悲しくも情けない断末魔が青空に木霊する。

「うなじが! うなじが見えぬううううううううううううううううううううううう!!」

「グランドッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 ────爆散。うなじに全身全霊を傾け、うなじを極めた戦士ここに眠る。

 フォースリヴォンへブレイドを納刀して、会長の元へ歩み寄るテイルレッドを見やり、これからは少しくらいうなじを意識してやってもいいかな。と俺は地上へ降り立ちながら思った。

「メイドさんは大丈夫ですか?」

「はい、気を失っているだけですわ」

 殴られたメイドさんを案じるレッドに、また助けていただきましたねと微笑んで礼を言う会長。

 何度も襲われて不安かもしれないが、ツインテールを辞めることだけはしないでほしい。ツインテールが危機に陥るたびに、俺たちが必ず駆けつけるのだから。

 それにしても、どんな目に遭ってもツインテイルズが来てくれると心から信じてくれているなんて会長は本当にいい人だなぁ。これぞヒーロー物の守られる系ヒロインって感じがする。

 ────なんて思っていると、総二の馬鹿がやらかした。

「貴女がツインテールを愛する限り、私たちは必ず駆けつけます!」

 といつもの台詞を告げられ、どういうわけか表情を曇らせた会長のツインテールを、あいつはうっとりとした顔で摘まみ上げたのだ。

「あの……」

「あ! ご、ごめん会長!────あだっ!?」

 早足で詰め寄り脳天へ拳骨を落とす。

「ごめんね、うちの馬鹿が……それじゃあ!」

 レッドを小脇に抱えてミラコプターを掲げると、いつものようにブルーをおぶってその場から飛び立った。

 ……やっぱりブルーの時よりスピードでねえな。

 

□□□□

 

「この浮気者」

 帰還した直後、総二は地下基地でテイルミラージュ、愛香、トゥアールに囲まれ、冷や汗を流しながら正座させられていた。

「見とれるだけならまだしも、おさわりとか何なの? 愛香以外の髪愛でてんじゃねーよ」

「おまけに会長とか口走っちゃうし、バレたらどうすんのよ!!」

「そうです! これ以上嫁が増えたらただでさえ愛香さんが独占してたのに私の取り分が減っちゃうじゃないですか!! …………まあ慧理那さんみたいなかわいこちゃんなら私の嫁にするのにやぶさかではありませんが」

 欲望丸出しの本音を漏らし、愛香の拳で打ち上げられたトゥアールが天井へ突き刺さりブラブラ揺れるのを華麗にスルーしながら、テイルミラージュは愛香に耳打ちをし、愛香は言われるがままに総二を後ろから羽交い絞めにする。

「……ちょっと素敵なお仕置きがあるんだがゴニョゴニョ」

「わかった」「え!? 何されるんだ!?」

「よし、トゥアール。総二のテイルブレス外せ」

「はいはーい」

 復活したトゥアールも指示に従い、総二の右腕からテイルブレスに手を掛ける。奪われない機能はあるが、流石に開発者本人を相手に通用するものではないため、あっさりと真紅の腕輪は抜き取られ、総二は完全に無防備となった。

 それを見届けると、変身を解除したミラージュが銀色の光に包まれ、結に戻る────ことはなく、装備だけがサイズの変化した結の私服に変わり、一同を驚愕させる。

「は!? な、なんで女のままなのよ!?」

「あー、結さんもしかしてアレをやるおつもりなんですか」

 整備の関係上、エレメントドライバーの機能を把握していたトゥアールは、その行動に納得した様子でうなずき、私服のテイルミラージュ=女体化した結は愛香たちへ手短に説明した。

「このドライバーはテイルブレスと違って、設定を変えれば女のままでも変身解除できるんだ。そして総二にこれを着けて……ドライブオン」

「むぎゅ」

 密着していたせいで防御フィールドであるリフレクトスフィアに顔面を押しのけられ、一瞬愛香が結へ恨みがましい視線を向けるが、変身が完了した途端それは総二へと向けられた。

「……胸、有るじゃない…………しかもこんな大きいの!!」

 テイルレッドを中高生くらいに成長させたような少女がテイルミラージュのスーツを着た状態に変身を遂げた総二。

 慧理那より少し高い程度の身長に比してその胸はたわわに実っており、いわゆるトランジスタグラマーの様相を呈していた。

 親友が爆乳へ変身するのは贅肉のせいだとどうにか折り合いをつけていたものの、目の前で愛する男が自分をはるかに上回る巨乳へと姿を変えた事実に、愛香の心は嵐のように荒れ狂った。

「はい、じゃあもっかい変身解除ー」

 ドライバーを操作してホログラフタッチパネルを表示し、両端にF、Mと記されたスライダーを中間へと持ってきた結は、再び変身解除の操作を行う。

 また銀色の光膜が展開されるが、今度はうまく顔を逸らして潰されることを避けた愛香。

 光が消えた後には、成長した姿で男物の私服を纏ったテイルレッド────女体化した総二が呆然と立ちすくんでいた。

「もどして! 男にもどしてくれ!!」

「お仕置きなんだからもう少しそのままでいな。あと息子さんは無事なんだから文句垂れるな」

 涙目になり結に縋り付き、告げられたその言葉の真偽を恐る恐る手探りで確認してパニックになる総二を尻目に、結は愛香にもドライバーを差し出す。

「次は愛香の番な」「え!?」

 自らも巨乳になれるかもしれない期待に、愛香が喜色ばんだ。

「じゃ、じゃあ……ドライブオン!」

 総二を押さえるのをトゥアールと代わるとベルトを腰に巻き、ワクワクしながらトリガーを引く。

 果たして、そこに現れたのは身長もそのままで三色のボディスーツに包まれた、いつも見慣れた大平原であった。

「なんで変わらないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 希望を砕かれた少女の慟哭する様を、ロリペド痴女は大草原を生やして嘲笑う。

 そこへ投げつけられるミラージュロッド。二本とも顔面に直撃された痴女は「フィーバー!!」と瞬殺された悲鳴を上げ、どんがらがっしゃんと椅子を倒しながら転がってゆく。

「はーい、気を取り直して変身解除しましょうねー」

 スライダーを弄って変身解除。ただし、今回はM側の表示が灰色になっており、最大まででも中間点にしか届かない。

「で……あたしのは何か変わって……な、なにこれ!? 脚の間に何かある!?」

「説明しよう! エレメントドライバーの設定をF(フィメール)とM(メイル)の中間にすると、女性に息子さんが生えるのだ」

「なんてことしてくれるのよ!?」

「────総二の初めて、もう一回貰っちゃえばいいじゃん? お仕置きなんだし、今度は立場逆でさ?」

 眼鏡の位置を中指でスチャリと直して邪悪な笑みを浮かべた結に囁かれ、想像してしまった愛香がゴクリと生唾を飲み込んだ。

「あ、おっきくなっちゃった……」

 そして駄々をこねはじめた息子さんに前かがみになる。

「……ところであんた、なんでこんなに手馴れてるわけ? まさかお姉ちゃんともこういうこと………………」

「さーてもうすぐお昼だしお店手伝ってこなきゃー。トゥアール、総二が逃げないよう戸締りはしっかりな!」

「もちろんです結さん! こんな上玉逃がすわけないじゃありませんかグヘヘヘヘ……」

 愛香の疑問を華麗に躱して変身し、エレベーターへ飛び乗るテイルミラージュ。当然この姿で接客するわけにもいかないため、移動中に男体化を終えるつもりなのだろう。

 エレベーターが地上へ出たのを確認するや即座にドアを閉鎖したトゥアールは、女総二へ向き直るやその欲望を開放した。

 口端から涎を垂らし煩悩にまみれた野獣の笑みを浮かべる銀髪の痴女が、赤毛のツインテール美少女へ迫る。

「や、やだぁ……」

「…………そ、そーじが悪いんだからね。あたしがいるのに他のツインテールにデレデレするから………………!」

 頼みの綱の恋人も、自慢の槍を振り上げて今やケダモノの仲間入りだ。

 熊殺しの愛香と超科学力のトゥアール。生身では絶対敵わない二人から欲望にまみれた視線をダイレクトにぶつけられ、無力な乙女たる総二は涙を浮かべながらツインテールを抱きしめて怯えることしかできない。

「────や、やさしくしてね?」

 せめてもの懇願。消え入りそうなその声を皮切りに、二匹の野獣は哀れな子羊へ我先にと飛び掛かった。

 

 ────総二が結に悩みを打ち明けたあの後。

 結論を先に言えば総二たちはトゥアールを受け入れ、三人の想いはぎこちないながらも通じ合った。

 “するときは三人で”そう誓いを立てた愛香とトゥアールは、その日から総二を取り合う恋のライバルから共に総二を支えるパートナーとなったのだ。

 店で未春の手伝いに精を出す結は、花瓶に活けられていた花が力なく散るのを目にして、親友たちの絆がより強固なものとなることを切に願い、窓の外の青空に浮かぶ総二の笑顔を幻視した。




公園のシーンは、先代会長の牧須先輩がこの場に居たら目を輝かせてハッスルしそうだと書いていて思いました。台詞を都合よく区切ったりして誤解を招いたりね。やっとBLタグが活きてきたぜ。まあ友情なんですが。
そして多分史上最低なソーラの登場と愛香さんのウェイブランス。薄い本の愛総ものだと鉄板なコレ、変な電波が飛んできてついやっちゃいました。
ところでうちのミラージュは後付システムの都合上、武器を媒体にしてしか属性玉を使えないわけですが、兎耳属性を使うとロングロッドがホッピングになるよ! 超かっこわりい!!

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