俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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総二の本妻は愛香です。総二の「本妻」は愛香です。
大事なことなので二回言いました。


第七話「陽月学園ツインテール部」

 あたしたちが激闘の末ドラグギルディを打ち倒した日の夜、おばさんがささやかな祝勝パーティーを開いてくれた後、いつものようにあたしはそーじの部屋に泊まった。

 初めのころはツインテールを結んだまま寝ると思ってて呆れたけど、今では髪を休ませるのがどれほど大切なのかちゃんと理解してくれている。

 まあ毎度毎度、目の前でツインテールを解くと悲しそうな顔になるのは、犬の前から餌を取り上げるみたいで少し罪悪感が湧かないでもないけどさ、あんたの為にこの髪を維持しているんだから少しくらい我慢してくれてもいいと思う。

 初めてそーじの家に泊まった翌朝に、いつの間にかあたしの髪をツインテールに結んでいた時は正直さすがにどうかな? って叱りつけたわ。せめて起きてる時にやんなさいよ。

 しかも普段ツインテールツインテール言ってる割りに、結び方が全然なっちゃいなくって酷いもんだったから、ついカッとなって結と二人してそーじに結び方や髪の扱い方を叩き込んだらめきめき腕を上げちゃって、今じゃすっかりあたしも髪を結んでもらうのが癖になっちゃった。

 でも今でもたまにやらかす寝ながら髪を結ぶ癖、普段あたしがやってるのとさほど変わらないくらい結び目もバランスもしっかりしてるのがすごく理不尽。

 そーじの結び癖、寂しがり屋の子供がお母さんにしがみついて離れないみたいで可愛げが無くもないんだけど……ねえ? っておねえちゃんと結に愚痴ったら、すっごく暖かな視線を向けられた。

 おばさんにも「これはうちのコーヒー砂糖いらなくなっちゃうわー」なんて惚気扱いされるし、もうあきらめるしかないのかな? してもらえなくなるのもそれはそれで寂しいけどさ。

 そして気になっているのはトゥアールの事。

 異世界から来た先代テイルブルーにして、そーじとあたしに戦う力をくれた恩人だけど事あるごとに大きな胸を強調してそーじに迫る憎たらしい恋敵。

 そーじがあたしと付き合ってることを知ってからはしばらく大人しくしていたんだけど、ときおり未練がましくちょっかいを掛けてくる。

 でも、トゥアールはもう二度とツインテールにすることは出来ない。

 自分の世界を守れなかった償いに、自分のツインテール属性を手放してしまったから。

 世界で最強クラスのツインテール属性じゃなくちゃ、テイルギアは使えない。ならトゥアールは、かつてそーじと勝負になるレベルのツインテール好きだったことになる。

 そんな彼女がツインテールを手放すなんて、どれほどつらい決断だったんだろう。

 命の次くらいに愛した存在(髪型)と好きな相手への一番のアピールポイントを失う悲しみ。もしあたしがツインテールを失ったらそーじはどうするんだろうと思い浮かべただけで胸が張り裂けそうになる。

 

 ────やっぱり私、総二様を諦められません、二号でいいのでどうか認めてください。

 

 パーティーの合間に呼び出され、トゥアールから告げられた一言。

 ねえ、あたしは一体どうしたらいいの? そーじは絶対に渡せないけど、トゥアールを拒絶し続けるのも出来そうにないよ………………

 

□□□□

 

 昨日の戦いが嘘だったのではないかと思えるような平穏な朝が始まった。

 元気よく駆けてゆくツインテールの小学生や、それを温かく見守る大人たち。

 皆当たり前の日常を謳歌して新たな一日を踏み出している。

 ドラグギルディとの決戦は報道されなかったため、TVに映るのはいつものツインテイルズ映像の使いまわしだ。

 変態に涙目になりながら果敢に立ち向かう健気で可愛らしいレッド、容赦なく変態をドツキつつ、レッドには好意丸出しの笑みを向けるギャップ萌えのブルー。

 そしてかっこいいお姉さんポジション……かと思いきや、そのダイナマイトバディがお兄さんやお父さん方にも大人気の、お色気要員なミラージュ。

 正体を秘匿するための、熱を入れまくった迫真の演技がお茶の間に流されるのを見るたびに、臓腑がグサグサと抉られるような錯覚に見舞われたり、いつだったかトゥアールに「結さんってネカマやってそうですよね」なんて日頃の演技を揶揄されて、中々の精神的ダメージを受けたことがあったのも最早過去の事。

 数々の変態たちとの戦いを乗り越えて、生まれ変わった俺はもうこれしきの事ではうろたえない!

 この間総二が居間で、未春おばさんが特撮の悪の女幹部にしか見えないコスチュームを自作しているのを見かけてしまったそうだが気にしてはいけないんだ!!

 愛香の輝くツインテールと、それに戯れる総二の姿。俺だけに見せてくれる恋香さんのツインテールという幸福な日常の象徴が、乱れ揺れ動く俺の心を癒してくれる。

 やっぱりどんなものであれ、好きな物を好きでいられる世界が一番だもんな。

 ふと、今日は珍しく悪ふざけせずに大人しくしていたトゥアールが、総二と愛香の手を取った。

「総二様、愛香さん、結さん……私の世界の仇を討ってくれて、ありがとうございます」

「俺たちにとっても他人事じゃなかったんだ、感謝するのはこっちも同じだよ」

 ドラグギルディの強大さを身に染みて知っていたトゥアールは、テイルギアが二つになり、俺のエレメントドライバーというイレギュラーが加わっても勝てるかどうか五分五分だと思っていたらしい。

 だがもはや最強の司令塔を失ったアルティメギルは烏合の衆。残存兵力もいつもどおり大したことはないだろうという結論になった。

「愛香さん……これからもずっと、三人一緒の屋根の下で過ごしましょうね」

「うぇ!? あ、ああ……あんた地下に住んでるもんね、そりゃあ一緒にもなるわよね!」

 そしていつも通りのトゥアールによるセクハラ発言……かと思いきや今回は毛色が違った。愛香の反応もおかしい。普段なら動揺する暇など挟まず、神経が光ファイバーなのかと思えるような速度の脊髄反射で突っ込みを入れていたはずだ。

「総二様も、愛香さんとの性活でお困りのことがありましたらどうぞ遠慮なく頼ってくださって結構ですからね」

「あ、ああ……」

 おい、なんか今生活の漢字が間違ってなかったか?

「ゴム製品なんて無粋な物が必要なくなるように、安心安全確実なトゥアールちゃん印の素敵なお薬だって用意して差し上げますんで!」

「朝っぱらから下ネタぶちまけてるんじゃないわよ!!」

 ────ドゴグシャァッ!!

「ぴぴるぴっ!!」

 瞬間湯沸かし器のように湯気を上げた愛香によるトゲ付金属バットのような鋭く重い殴撃。なんだか人間の拳が出す音じゃないように聞こえるが、愛香の拳は何でもできちゃう魔法の拳なのだ。

 ご覧下さい、子供たちの笑顔が行き交う通学路がなんということでしょう。あっという間に血しぶき飛び散る惨劇の舞台に!!

 でも安心安全なお薬か……普段使ってるのは値が張るし、体調にも影響あるからな……頼めば分けてもらえるだろうか? 普段の対応があれだからなにがしかの対価を要求されそうだが。

 そんなこんなで愛香の拳が血まみれになり、花が咲いたような笑みを浮かべていたというか実際赤い花が咲いたトゥアールが人生をやり直している時、いつぞやの宣戦布告同様空がスクリーンと化してエレメリアンの演説が始まった。

『ツインテイルズよ! ドラグギルディ様を倒して勢いづいているようだがそうはいかんぞ! この地は我等にとっても死地、何が何でもすべての属性力を頂くぞ! そこで我らに心強い援軍が到着した!!』

 ────増援として現れたのは、スク水属性のタイガギルディ。龍虎相打つと言う様に、竜を模したドラグギルディと並び立つ虎をモチーフにしたエレメリアンか。

 初戦から大将自ら出陣してくる上に、ドラグギルディの盟友だというのなら相応の覚悟をしなければなるまい……!

「HRの予鈴まであと二十分」

「十分で片付けなくちゃ遅刻だな」

「楽勝じゃない。ちょうどウォーミングアップも終わったことだし、ちゃちゃっとやっちゃいましょう」

 決意も新たに三人の声が高らかに唱和した。

「「テイルオン!!」」「ドライブオン!!」

 

□□□□

 

 放課後、俺は総二と二人で昼休みに技術工作室で作ったプレートを手に部室棟へ足を運んでいた。

 届け出の受理こそまだだが今日この瞬間、陽月学園高等部に新たな部活が加わるのだ。

 その名もツインテール部。入学初日に総二がうっかり希望アンケートに書き込んでしまった名前だが、もはやその名を口にすることに何の気恥しさもない。

 部長は総二、副部長は当然愛香。俺とトゥアールは平部員。部室棟の突当りにある、昔女生徒が自殺しただの幽霊が出るだのといういわくつきの部室のネームプレートを、無地のものから明朝体で綴られたツインテール部のものに差し替える。

「ツインテール部……か」

 これでこの学校にも、人類防衛の砦が築かれた。だが愛香が居ると知った途端いわく付きの物件をオススメしてきやがった樽井先生はいつか仕返ししてやる。愛香を何だと思ってやがるんだ。

「これから正式な部活になるんだ。目一杯盛り立てていこうぜ、結!」

「そうだな!」

 決意も新たに扉を開けると、俺たちの目に飛び込んできたのはトゥアールが愛香を床に押し倒してスカートの中へ頭を突っ込んでいるという衝撃的な光景だった。

「助けてそーじ! トゥアールが!!」

「現行犯極刑!!」

 即座に俺は悪質な白いマイマイカブリを天井まで蹴り飛ばし、総二が涙ぐむ愛香を引き離してしっかりと抱きとめる。

 おお、(やっこ)さんが天井に突き刺さったか。俺の腕も上がったもんだ。

 ────さて。

 パラパラと天上の破片をこぼしながら降りてきたトゥアールを引っ立てた俺は、彼女をパイプ椅子に座らせると長机を挟んで電気スタンドとコンビニで買ったカツ丼を置き、尋問を始めた。

「さあとっとと吐きやがれ、どうしてあんな真似をしやがった?」

「出来心だったんです! 総二様分があまりにも不足して……そんななか総二様の匂いをぷんぷんさせている愛香さんと二人っきりになったら抑えが利かなくなってしまって……」

 両手で顔を覆いさめざめと涙を流し、私レズじゃないですけど愛香さんとなら……出来ます! などと口走る痴女の有様に、匙の遠投世界新記録を樹立したくなった俺は、視線で総二たちに「どうするよコレ?」と問いかける。

 ついていけない、といった様子の二人は諦めたように首を振ったので、とりあえず俺の裁量で賠償案を振ってみることにした。

「よし、それじゃあこの罪は身をもって償ってもらおうか」

 カツ丼を掻き込みながら泣いていたトゥアールはそれを聞いた途端に硬直して顔を青ざめさせ、弾かれたように壁際まで後ずさる。

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! 結さんが遂に本性を!! 私に性的な乱暴をする気なんですね!? 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!! 助けてください! 助けて総二様ああああああああああああああああ!!」

「人聞きの悪いこと言ってんじゃねーよ! 俺たちの為に馬車馬のように働けってことだよ!!」

「いや、その言い方は誤解されても仕方ないと思うぞ結」

「さすがに……ねえ?」

「………………コホン。はーい、それじゃあトゥアールにして欲しいこと、造って欲しいものを募集しまーす」

 最近頻発する自分自身の失言に軽く絶望しつつも、気を取り直して意見を募る。滑りやすすぎだろう俺の口。

 何とも言えない微妙な表情で視線を逸らす親友二人の態度がつらい。

「とりあえず、天井の穴は塞いでほしいな。せっかく丁寧に掃除してたんだから……」

「────すまんかった!」

 俺は休み時間の度にこの場所を訪れて床を磨き上げていた友の苦労を思い出し、床に頭突きする勢いで総二に土下座した。

 その後、部室も地下基地のように改造できないか? というアイディアが出て、転送装置などの必要な設備を設置する作業が開始されたのだが、俺たちはその間トゥアールによって廊下へと締め出されてしまう。

 覗かないでくださいねって鶴の恩返しかよ……と思ったら、名状しがたい奇々怪々な擬音が耳を打つ。

 

 ふんぐるいむぐるうなふ。

 いあいあ。

 んがあぐあなふるたぐん。

 くふあやくぶぐとらぐるんぶるぐとむ。

 いあいあ。

 

 なんだこの耳にしただけで魂が汚されるというか正気を失いそうになる響きは。

 どこからか狂ったように調子っぱずれな太鼓やフルートの音まで聞こえてきたぞ?

「ねえそーじ、基地造った時より酷くなってない?」

「ああ……なんだか眩暈がしてきた」

「地下基地の時もこんな怪音が響いてたの!? 大丈夫だったか……?」

「正直、俺も愛香も満足に寝付けなかった」

 ご愁傷様……なんてやりとりをしていると音が止み、扉が開いて作業を終えたトゥアールが顔を出す。

「終わりましたよー、カムフラージュも完璧です」

 掃除の度に見慣れた長机にパイプ椅子、スチール本棚と掃除ロッカーといった、文化部の部室としてはありきたりな設備だが、これらはすでにトゥアール自慢の超科学で改造が施されているらしい。

 俺たちは彼女から説明を聞くべく椅子に腰かけたが、その途端にトゥアールが邪悪な笑みを浮かべて胸の谷間からリモコンを取り出したのを見て、けたたましく打ち鳴らされた脳内警報に従い、即座に椅子から飛び出した俺は抱え上げた愛香を渾身の力で天井へと放る。

 間一髪、離れた俺と愛香の椅子から金属製の手枷と足枷が飛び出すのが見えた。

「愛香あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 水影流柔術・人間投槍(大嘘)。本来は相方を目標目掛けて投げつける技だが、空中で一回転して天井を足場にした愛香はこちらの意図を察し、唖然とするターゲットへ一直線に鉄拳による急降下爆撃を敢行した。

「がーでるまんっ!!」

 何度目になるのかわからない俺たちの暴力的スキンシップに、ここは文化部だったよな? どうして運動部より激しい運動が繰り広げられているんだ? と呟く総二は疲れた笑みを浮かべていた。

「ああっ! 欲望を抑えられない自分のわがままボディが憎いっ!!」

 その後、トゥアールが赤、青、白とトリコロールという四つのスマホをピザほどの大きさの箱から取り出した。箱の出どころは白衣のポケット。その体積を無視した超科学的収納っぷりは、まるで未来の猫型ロボットを思わせる。

 彼女曰く、宇宙でも深海でも問題なく使用できるうえ、会話内容をごまかす機能を備えたスマートフォン型通信端末『トゥアルフォン』を受け取った俺たちは、早速どんな風に音声が変換されるかテストを行った。

 結果は………………。

『ツインテールツインテール、ツインツインツインテール!?(アルティメギルが現れたって!?)』

 古代ツインテール語、としか形容できない謎言語を話す総二。

『はぁ~、はぁ~、私トゥアールちゃん、今あなたの後ろでおっぱい見せてるの(急いで出撃してください総二様!)』

 いつも通り痴女丸出しのトゥアール。

『愛香、トゥアールおねえちゃん大好き! おねえちゃんにだっこしてほしいな(あたしもすぐに行くわ!)』

 媚び媚びな舌っ足らずな声で、普段からは想像もつかないトゥアールに甘える台詞を吐かされた愛香。そして────

『おう姉ちゃんええ乳しとるのう、諭吉三枚でどないやぐへへへへ……(雑魚は俺に任せてお前ら二人は親玉を頼む!)』

 変換された自分の音声は判らなかったが、視線を逸らす二人を見てどんな内容だったのか察した俺は、いつもポケットに忍ばせているICレコーダーを再生する。

「被告、トゥアール……有罪(ギルティ)!!」

「あぎいいいいいいいいいいいい! 腕の可動範囲が増えるううううううううううううううううううううう!!」

 俺を社会的に抹殺しに来たか……部室の被害を考慮して、関節技を選択した俺は痴女にアームロックを掛け、腕が折れるか折れないかのギリギリの苦痛を味わってもらった。

 携帯の録音機能で内容を把握していた愛香もトゥアールに制裁を加えようとしていたが、俺に先手を取られ振り上げた拳のやり場に困っているようだ。

「あー、結? さすがに女の子相手なんだからお手柔らかにな?」

 うん、その台詞はちょっとばかり言うのが遅いと思うぞ。具体的には部室に来た時点で言っておくべきだ。

 なんていうやり取りをしているうちに、総二が何かを感じ取ったように身をこわばらせる。遅れて俺も壁の向こうからこちらへ近づく存在を感じ取った。

「……静かに────ツインテールの気配だ、近づいてくる」

「は!? なに訳の分からないこと言ってるのよ!?」

「いやいや、総二だぞ? これくらいできてもおかしくないだろう。誰かが近づいてるのは俺も感じたし、近づいてくるのがカップルなら俺だって気配で判別できる」

 それを聞いて、口からエクトプラズムでも吐き出しそうなほどぽかんとした愛香の気持ちもわからないでもない。

 愛香は俺みたいな変態と違って一般人だもんな。肉体的には逸般人だが。

 それに総二のツインテール感覚(センス)は総二らし過ぎる程に総二らしい能力だが、どちらかと言うとツインテール好きのエレメリアンあたりが言いそうなセリフだよな。

 果たして、控えめなノックと共に声をかけてきた来訪者は神堂慧理那会長だった。

 予想外な大物ゲストの登場に軽くパニックになった俺たちは、とりあえずトゥアールをガムテープでふんじばってロッカーに放り込み、慌ただしく出迎えの用意をする。

「どうぞー!」

「お邪魔いたしますわ」

 彼女が入室した途端に場を支配する圧倒的高貴なオーラ。背後にメイドを引き連れた会長の身にまとう、どこかの王女のような雰囲気とその煌めく黄金のツインテールが放つ神々しさは、世に放たれた途端ドブ川が清流へ変わり魚が戻ってくるレベルだ。

 八の字に垂れ、歩くたびにしゃなり、しゃなりと揺れるツインテールの美しさたるや、日頃の暴力にすさんだ心がたちどころに癒されてゆくような錯覚すら覚える。

「部活新設の申請書類を見て気になりまして、直接確かめてから新設許可を出させていただこうと思い、こちらへ伺いました」

「わざわざすいません」

 まめまめしく生徒達のために働く会長に頭が下がる。幼く可愛らしい外見だけでなく、こういったひたむきさも人気の秘訣なんだろう。

「活動内容は、ツインテールを研究し見守ること、とありますが……」

「間違いありません」

 いつになく真面目な顔で総二が答える。ああ、あの視線は相手の眼ではなくツインテールを見て話しているな。まったく底抜けのツインテール馬鹿め、とブレない親友の行動に口元が緩む。

「観束君、あなたは……ツインテールが好きなのですか?」

「大好きです!」

 何故部活にするほど好きなのか、と問われツインテールを好きになるのに理由が要りますか? と返した総二。

 ほんのわずかに感じ取れただけだが、会長が動揺するのも無理はないだろう。

 可愛いもの、美しいものを好きになり、好きな相手に素敵なおしゃれをしてほしいと思うのは誰でも抱いて当然の感情だが、これほどまでに真っ直ぐ想いを貫き通せる奴は世界中探しても滅多に居るものではない。

 Drオヴェルは世界一だと太鼓判を押してくれていたが、俺の恋心も総二のツインテール愛と同じ高みに上り詰めることが出来ているだろうか?

 黙り込んでしまった会長……のツインテールを目力を込めて見つめる総二の背後に、何やらツインテールを結んだ龍が見える。ならば相対する会長の背後にふさわしいのはツインテールの虎だろうか? そういえばどっちもエレメリアンに居たな。

「……そうですか、わかりましたわ」

 龍虎相打つ激烈ツインバトル(脳内)は会長が折れることで決着がついた。

 ツインテールを研究する部活なら、ツインテイルズの応援にもつながるだろうとの彼女の発言に、俺たちは内心ガッツポーズをした。

「あら? 観束君、部室の中とはいえ派手なアクセサリーは校則で禁止ですわよ?」

 ギョっと目を見開いて右手首を隠す総二だったが、俺たちも動揺を隠せない。

 馬鹿な! テイルブレスは認識攪乱装置(イマジンチャフ)で隠されているはず!!

「テイルレッドと同じデザイン……最近よく見かけますわね」

 ツインテイルズ関連グッズは次から次に世に出ているからその辺りはごまかしがきくし、俺のエレメントドライバーは制服の下だから一見わからないはずだ。

 愛香もこっそり腕を背中に回して会長の目に触れないようにしてくれているから、ここを乗り切れば俺たちの勝ちだ。

 その時不意にトゥアールをしまい込んだロッカーがガタガタと音を立てて揺れる。

「な、なんですの!?」

 ────しめた! これを天の助けと恃んだ俺は、この部室の来歴もあって立て板に水の言い訳をまくし立てる。

 ちっぽけな疑惑の芽なんて派手な話題で押し流してやればいい。

「これはポルターガイスト現象です! 会長がおられるときに発生するとは運がいい……」

「ポルターガイストですの!?」

「ええ、この部室は幽霊の目撃情報が絶えないいわく付きの物件だったんです。なんでも大昔に女生徒が自殺したとか……」

「どうしてそのような部室が……!?」

「担任の樽井先生に押し付けられました!」

 しめしめ、あの先生に仕返しするチャンスがこうも早く巡ってくるとは部活の始動早々幸先がいいぜゲッヘッヘ。

 生徒にいわく付き物件を押し付ける教師、というイメージが広まれば会長の覚えもめでたくなることでしょう。ね、樽井ことり先生。

 不安そうに我が身を掻き抱き、メイドに急かされるまま退室した会長を見送った俺たちは、いまだにガタガタ揺れるロッカーを開けて今回のMVPを出迎える。

「────ブハア! なんてことしてくれるんですかこのケダモノ!! トゥアールちゃんの自由を奪ってこんないやらしい格好にするなんて……総二様、この発情した野獣から私を守ってください!!」

 テープでぐるぐる巻きにされた両脚でピョンピョン跳ねながら、巨乳を揺らしつつくねくね総二の胸に飛び込んでゆく痴女。

 あれれー? トゥアールに巻き付いたテープがいつの間にか胸を強調するような巻き方に変わってるぞー? 普段俺と愛香が阻止しているせいか、二つの膨らみを押し付けられて赤面する総二の姿などは久しぶりに見た気がする。

 まあ会長の疑惑をごまかした褒美に今回は見逃してやるがな。

「じゃああたしが総二っていう思春期の男子から守ってあげるわね」

「ぎゃーす! 愛を引き裂く悪魔の蛮行!!」

 俺は見逃してやるけど愛香を止めるとは言ってない。

 しかし会長が隠蔽されたテイルブレスを見破るとはな……認識攪乱装置は正体を知っていれば通じなくなると聞いたが、いつぞや総二を見つめていたのはその正体に感付きはじめていたせいだったりはしないだろうか……?

 暴力を振るうならせめてブルーたんに変身してくださいー! と喚き散らしつつ、トゥアールが折りたたまれてコンパクトにまとめられている光景を眺めながら、俺は漠然とした不安を感じていた。

 

□□□□

 

「────タイガギルディ殿がツインテイルズに敗北なされました!」

「やはり、か…………………………」

 無数の世界を隔てる次元の狭間に浮かぶアルティメギル基地の大会議室で、部下たちの報せを聞いた故ドラグギルディに付き従っていた老参謀スパロウギルディは、沈痛な面持ちで肩を落とした。

 上官を失ったことで部隊を預かる立場となった彼は、雀のような温和な外見でありながら齢を重ねた古株の軍人のような老獪さを併せ持った戦士だ。

 スク水────学校水着属性(スクールスイム)の雄と名高いタイガギルディだったが、盟友ドラグギルディに戦闘力で大きく水をあけられていた彼ではツインテイルズには歯が立たなかったか……と早すぎる新隊長の死を悼み、深々とため息をつく。

 スクリーンにはアルティロイドが撮影した彼の死の間際の映像が映し出されていた。

 

 愛らしい子猫ならともかく、筋骨隆々の虎面が仰向けにゴロリと寝そべって、腹の上で泳いでくれなどとのたまう光景に、テイルレッドは怯えて悲鳴を上げている。

 そこへ槍を携えて歩み寄るテイルブルーの姿を見たタイガギルディは、くわっと目を見開いて言い放つ。

「そこな幼女よ、その年でそんなハイレグな水着を着てはいかん! さあ早くこの旧スクに着替えるのだ!!」

「いやああああああああああああああああ! 変態!!」

 仰向けのままズゾゾッと這いより、いつの間に書き込んだのかひらがなで『ているぶるー』と書かれた紺色の旧スクを押し付けようとする変態の姿に、怖気を振るったブルーもまた悲鳴を上げて反射的に槍を振り下ろし映像は途切れた。

 

 ────ツインテイルズは強すぎる。

 長年部隊長の側近を務めているが故に、ツインテールの戦士の活躍をもって属性力を拡散し、一気に収奪するというアルティメギルの隠された基本戦略を知らされている彼にとって、部隊長の強さに頼り切り、部下たちがろくに育っていないこの部隊は、作戦の中核たる最強の司令塔であるドラグギルディが倒された時点で壊滅したも同然だった。

 もはやこれまでか……………………

 弔い合戦だと気炎を上げる部下たちの批判を覚悟の上で、この世界からの撤退を選択肢に加えようとしたその時、慌てて駆け込んできた部下から驚くような報告が上がる。

「スパロウギルディ殿! 新たな増援部隊がここへ────リヴァイアギルディ様の部隊です!!」

 リヴァイアギルディといえば、ドラグギルディの同期の桜にして実力も彼に匹敵する実力者。彼の部隊が来てくれたのならばあるいは……と絶望の中にわずかな希望を見出したスパロウギルディの耳に、更なる衝撃的な報せが飛び込んだ。

「クラーケギルディ様の部隊もここへ!!」

「なんだと? それは本当か!?」

 クラーケギルディも数々の戦いで名を上げてきた実力者だが、事あるごとにリヴァイアギルディへ執拗に対抗意識を燃やす戦士だ。

 アルティメギルの誰もが知る犬猿の仲であり、互いをライバル視する二人を同じ部隊へ統合するとは────

 主を失った混乱の未だ収まらぬこの部隊に、更なる波乱の幕が上がろうとしていた。




アンチアイカシステム(今作では名前変わるかもしれませんが)破れたり!
長友結が居る限り小癪な小細工は愛香に指一本触れることも叶わないのだ!!
はーい、痴女い子はしまっちゃおうね。
あと仰向けのまま這い寄って来てスク水を押し付けてくる変態は流石の愛香さんでも悲鳴を上げると思う。
まあ悲鳴上げながら叩き潰すんでしょうが。

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