今回一万三千文字突破してしまいました。
5.3:トゥアールが現場へ向かうシーン以降に加筆しました。
23.12.06:挿絵追加
『グランドッ! ……ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
モニターの中、テイルレッドのブレイザーブレイドに両断されたエレメリアンが爆散する光景が映し出され、それを見守る観衆から同胞を失った悲しみと美しき戦美姫への賛美が入り混じった声が漏れる。
「……この二十日余りで撃破された同胞は隊員八名、アルティロイドは七十三名に及びます」
アルティメギル基地の大ホールに集結し、会議に参加していたエレメリアンたちが、数々の作戦を阻止してきたツインテイルズの強さに舌を巻く。
最強で最も可憐なレッドは言うに及ばず、この部隊では少数派だが、巨乳派を軒並みノックアウトしそうなダイナマイトボディを誇る、遠近両用間合いを選ばない万能のミラージュ。戦い方に無駄が全くなく、容赦なく敵を屠りさるものの、戦いの合間に挟まれるレッドとのやり取りが微笑ましく可愛らしいブルーと、その戦力は粒ぞろいだ。
そしてこれだけの犠牲を出しながら奪うことのできた属性力は皆無。一度は奪えても立ちはだかるツインテイルズによって即座に奪還の憂き目に遭い、基地まで回収することのできた隊員は一人として居なかったのだ。
どうすれば奪取に成功するか侃侃諤諤喧々囂々の議論が交わされるものの、他の世界では精々一人だったツインテールの戦士が、この世界では三人も存在するというイレギュラーを前に、有効な手立てを考え付く者は居なかった。
そんな中、部下たちの不甲斐なさに業を煮やしたドラグギルディが、抜身の刃のような威圧感を撒き散らしながら重い口を開く。
「……ツインテイルズの実力は本物だ、生半な戦士をぶつけてもいたずらに戦力を消耗するだけとなろう。これから先は選ばれし勇者のみに許された聖戦と知れ! 我こそはと名乗り出る者はおらぬのか!!」
その声に応え立ち上がったのは、
「よかろう、だがお前がツインテイルズと戦うにふさわしいかテストを行う」
だが彼をドラグギルディの冷酷無情な試練が襲う。
「そ……それは私のパソコン!?」
アルティロイドがキャリーに乗せて運んできたPCとモニターに、スワンギルディが動揺を見せた。
「お許しを、どうかお許しを────!!」
カチ、カチと死刑囚が座らされた電気椅子のスイッチのように無情に響くクリック音。起動されたスワンギルディお気に入りのナース物エロゲー、「イケないっ!! ナースエンジェル」のセーブデータが衆人環視の中詳らかにされてゆく。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
その精神的虐殺ともいうべき上官の行いに悲鳴を上げ、ついに気絶してしまうスワンをどこか慈しむように見やったドラグギルディは、マントを翻して自らが出撃すると宣言。
ざわめく部下たちを一喝すると、悠然とした歩みで戦場へと足を運ぶ。
「流石は五大究極試練、スケテイル・アマ・ゾーンを唯一乗り越えられたお方だ」
「あの通販で買った品が透明な梱包で一年間届けられ続けるという……? 恐ろしい! 私など一度で絶命してしまう!!」
「あの方ならば必ずやツインテイルズを……!」
怪物たちの希望を一身に背負って歴戦の将たる黒竜は往く。その手に至高のツインテールを手にするために!!
□□□□
毎週日曜のお楽しみであるスーパーヒーロータイムを観賞し終えた俺は、流しで水に浸けておいた食器を洗うといつものようにアドレシェンツァへ向かう。
奴らアルティメギルは人が多い時間帯を狙って現れるため、平日なら概ね夕方、休日でも早い時間には現れないのでこうしてゆっくりとした時間が過ごせるのだ。
それにしても今日のラセンジャーは当たりだったな。メンバー構成こそ違うものの、どこか往年の傑作、ジェットマンを思い出させる雰囲気を見事に独自の物に塗り替えたエピソードだった。
発表された時はデザインが露骨にジュウレンジャーそっくりで、ついにネタ切れかと不安になったもんだが見捨てないでよかったよかった。
「…………で、なんでお前まで付いてくるんだ?」
「今日はバイトじゃないんでしょ? ちょっとくらいデート気分を味わわせてよ」
腕をからませて小学生にしては膨らんだ胸を押し付け、いつになく露骨にアピールする妹の姿に俺は天を仰いでどうしてこうなった!? と問いかける。
風邪ひいたあたりから本当に隠さなくなったよな、コイツ……恋香さんいったい何吹き込んだんだよもう。
そんなことを考えながら歩いていると、道中クラスメイトの男子、鈴本とばったり遭遇してしまった。
「な、長友……誰なんだその可愛い子は!? お前の彼女って女子大生のお姉さんじゃなかったのか!?」
「いや、妹だし」
「見え透いた嘘をつくな! 兄妹でそんなベタベタイチャイチャするわけないだろうが!! 家の妹なんて俺を道端のゴミを見るような目で見てくるんだぞ!? おのれ二股野郎の腐れリア充、非モテの恨みを思い知れ────!!」
美少女と腕を組んで歩く光景を図らずも見せつけてしまったせいで嫉妬全開の攻撃を受けたが、俺はそれをあっさりといなし、結維の手を引いて走り去る。
「カップルを引き裂こうとする奴にこの俺は倒せんぞ! そんなだから非モテなのだ僻み野郎め!!」
「うばしゃああああああああああああああああ!!」
後ろで口撃を受けた鈴本が精神的血反吐を吐いて崩れ落ちる音が聞こえたが俺は振り返らない……ってしまったああああああああああああああああああああああああ! ついこいつの前でカップルとか口走っちまったよ!?
「カップルだなんて……うへ、うへへ、ぐふへへへへへへへへへへへ…………」
俺の失言をしかと耳にして、美少女が台無しになるような笑みとよだれを垂れ流しにする妹の姿に兄として泣きたくなった。
ちょっとしたアクシデントはあったものの、そんなこんなでアドレシェンツァに到着。店はまだ開いていないので裏の玄関からお邪魔する。
「おはよーございまーす」
「おじゃましまーす」
「あれ、結維ちゃんも来たのか」
「ああ、付いてきちまったんでちょっとおばさんに頼んでくる」
「わかった」
「じゃあ俺は総二たちと用事があるからおばさんに迷惑かけるなよ?」
「わかってますー」
未春おばさんに結維の面倒を見てくれるよう頼むと、俺は総二と連れ立って二階へ上がり転送ペンで地下基地へ直行した。
最近は俺も基地へ向かうだけならドライバーよりペンのほうが手軽なのでちょくちょく使ってはいるが、こういう時に部外者が居ると冷蔵庫の影に隠された直通エレベーターが使えないから困る。
「よし、今日はお店開けるの遅らせて、結維ちゃんにおばさんが料理教えちゃう。結くんの胃袋ゲットよ!」
「本当!? やったあ!!」
……階段を登るときに耳に入った会話。適当経営なのは相変わらずいつものとおりだが本当にいいんだろうか?
────地下基地へ到着した俺たちは、既に顔をそろえていた愛香、恋香さん、トゥアールに出迎えられてそれぞれ席に着く。
無論俺は恋香さんの、総二は愛香の隣だ。
総二の指に絡みつく愛香のツインテールが、感じ慣れた甘酸っぱいときめきと共に一抹の寂しさを運ぶ。
総二たちの前では、恋香さんをツインテールに出来ない。
指に絡むしなやかで艶のある黒髪が一番輝いている姿を、最愛の親友たちと共有することが出来ないもどかしさを少しでも埋めるように、俺は彼女の髪を
「結くん……」
「ところでトゥアール、この間の整備の時に頼んだ例のアレなんだが……」
「ええ、まだ途中ですけどそう時間もかからずに出来上がりますよ、テイルギアの予備パーツも流用できますし」
気持ちを切り替えるためにトゥアールに話を切り出したが、近いうちにアレは手に入りそうで安心した。
出会ってから少しして、Drオヴェルから自動修復機能付きのドライバーケースこそ送られてはいたものの、やはり改良となるとトゥアールのような(腕前だけは)信用できる技術者が不可欠だ。
「それにエレメントドライバーを分析して気付いたんですが、この二種類の属性力を繋ぎとなる属性を使って掛け合わせて動力にする機構……
エレメントドライバーには核となる眼鏡属性と、それを装着者の属性と掛け合わせるための
眼鏡はツインテールだけじゃなく、三つ編みにもストレートロングにも、巨乳や貧乳お姉さん妹と何にでも合うからな。こいつのベースにするにはうってつけだったのだろう。
無論それだけではなく、変身後のリフレクターリボンのデザインに反映されているように、Drオヴェルの眼鏡愛もまた込められているに違いない。
そんななか、機械が苦手で先程の話をいまいち呑み込めなかった愛香が挙手をした。
「えっと……それってつまりどういうこと?」
「つまり、今までは一つずつしか属性玉を使えなかったけど、二種類同時に組み合わせて使えるようにできるかもしれないってことさ」
「ああ、なるほどね」
「まあ二つの属性を繋ぐ効果を持った属性玉が手に入らなくては、設計しても造れないんですけどね」
「今のままでも十分すぎるくらい戦えてるし、気長に待とうぜ」
肩透かしを食らって少しがっかりしたが、総二の言う通り、焦っても仕方ない。
「総くんたちとお揃いになれなくて、残念だったね」
「その分他のことで頑張りますよ」
俺は恋香さんと笑い合う。
俺たちは記録映像で今までの戦いをおさらいしつつ、手に入れた属性玉の効果に合わせた使い方を話し合った。
総二はツインテール属性一本槍で他の属性を使おうとしないため実質愛香専用だが、いつか使う日が来た時の参考になるだろう。
しかし俺たちが戦い初めてもう一月近く経つが、敵が弱すぎるのが気にかかる。
トゥアールが心血を注いだテイルギアの性能のお陰だと思いたいが、ひょっとすると俺たちを油断させておいてから本命の主力を送り込むつもりなのだろうか?
だが俺たちは一人じゃない。総二と愛香、俺の三人が力を合わせれば怖いもんなんてありはしないんだ。
皆で揃って食事をとった後の昼下がり、野生のウサギもターゲットにしていたのか人気の無い山奥に出現したウサギ型エレメリアンをいつものように撃破した俺たちは、頭上から迫る殺気を感じて慌ててその場から飛び退いた。
直後に爆発し、おびただしい土埃を上げる地面。
「……この程度は軽々捌くかと思ったが、不意打ちになってしまったか」
土煙をかき分けて姿を現したのは、姿を見なくても感じられるほどの今までとは桁違いな威圧感を放つ漆黒のエレメリアン。
その迫力に、レッドを抱えたブルーと俺は息を飲む。
「なあミラージュ、こいつって……」
「ああ、宣戦布告の時に映ってやがった親玉だ、間違いない」
噂をすれば影と言うが、まさか予想が本当に的中し、おまけにこのタイミングで出てくるとは思わなかった。
「我が名はドラグギルディ、ツインテールを愛することにかけて全宇宙全世界でも並ぶものなどないと自負している!」
その言葉を聞いた瞬間、俺と愛香は直感的に理解した────こいつは、間違いなく総二と同類だ!!
「不甲斐無い部下が退屈をさせた、ここからは我が相手をするとしよう」
ウサギのエレメリアン、ラビットギルディが息絶えた場所に目を向け「我が行くと言ったものを……」と呟いたドラグギルディは、岩山を丸ごと削り出したかのような乱れ刃の大剣を振りかざし、その巨体からは想像もつかないほどの速さでテイルレッドへ迫る。
「葬られた部下たちの仇は討たせてもらう、お主たちの属性力を奪うことでな!!」
「ぐああああああああっ!!」
「きゃああああああああ!!」
「ぬあああああああああ!!」
数々の攻撃から身を守ってくれていたフォトンアブソーバーが、リフレクトコートがただの一撃で悲鳴を上げた。
レッドとブルー、俺は奴を挟んで反対側に居たはずなのに、ドラグギルディが円を描くように大剣を振るうや、まるで同時に攻撃されたかのようなタイミングで吹き飛ばされる。
巻き起こったのは小規模な竜巻か、はたまた衝撃波か。何と言う威力だろう。躱すどころか得物を構えて受け止めるのが精いっぱいだったが、それでも両腕に痛みが走った。
「……なにが仇だ、勝手に攻めてきやがったくせに!!」
「そうよ、そっちから手を出しておいてずうずうしいこと言ってんじゃないわよ!!」
ブレイドを、ランスを、ロングロッドを支えに立ち上がる俺たち。その闘志に気を良くしたのか、ドラグギルディは再び大剣を構えて俺たちと切り結ぶ。
「ふはははははは、それだけ力任せに打ち合っても刃こぼれ一つせんとは、何とも頑丈にできている。まるでかつて好敵手と認めた戦士を見ているようだぞ……む?」
奴が何かを気にしたかのように首をかしげるが、攻撃の手はいささかも緩まない。
「────この、剣筋は………………!」
一秒が永遠にも感じられるほど濃密な数十秒の剣戟の最中、俺たちの中で唯一まともに喰らいつけていたレッドが奴の太刀筋に気付く。
「ほう、この結び合いで見切ったか。我の太刀筋を。これだけの速さで見切れたのはお主が初めてだぞ」
仕切り直しか後方へ飛び退き、距離を開けて対峙するレッドとドラグギルディの口から、同時に言葉が紡がれた。
「お前の剣は────」
「そう、我の剣は────」
「「────ツインテールの剣技!!」」
その一言に、気合を振り絞って立っていた俺とブルーはあっさりと緊張の糸を断ち切られ、ずべしゃあ!! と倒れ伏す。
「本当のホントにこいつレッドと同類だあああああああああああああああああ!」
俺はいつでも心にツインテールを
「ようやくわかったぞドラグギルディ────お前、正真正銘ツインテール属性のエレメリアンなんだろう?」
「然り! 同じ属性同士は引かれ合い共鳴するもの。こうして我とお主たちが相まみえたのも当然の帰結といえよう」
属性力の強さは愛の強さ。総二と同格の
つまりは類友ってことじゃないのよ、勘弁してよ……と天を仰ぐブルーを見たドラグギルディが、思い出したように口を開く。
「映像で見た時より気にはなっていたが間近で見て確信したぞ。多少形が変わってはいるが青の戦士よ、貴様のその鎧……やはりあの戦士の差し金であったか」
テイルブルーのギアはかつてトゥアールが使っていたものの改良版。それに見覚えがあるということはこいつ……トゥアールを知っている?
「そうか────お前があの人の世界を滅ぼしたエレメリアンだったんだな?」
「な、なんだって!?」
「かつての戦士────同じくテイルブルーと呼ぼうか、たった一人で戦いを挑み我らを苦しめた彼女は、そこの眼鏡の戦士同様ツインテールにそぐわぬ下品な乳をしておったゆえ、幼女のお主を一度見ただけでは結びつかなんだわ」
ここに来て因縁の相手のご登場か。これだけの相手を前にしてたった一人で、しかも今よりも性能の低いギアで戦えば敗北するのも仕方ないかもしれない。
「だが皮肉な物よ……同じ衣をまとうが故、結末もまた同じとなる」
「……なんだと?」
腕を組み、語り続けるドラグギルディは、人間とはかけ離れた面相故に判別が困難だったが、目元にこちらを挑発するような笑みを浮かべると俺たちに残酷な真実を突き付けるように言い放った。
「我らをかつてないほどに圧倒し、追い詰めた無敵の女神。人々は誰もが彼女のツインテールに魅せられ、世界にツインテールが充ち満ちた! 我らが求めるツインテールが世界を支配したのだ。これ程絶好の狩場が他にあろうか!!」
────総二がかつて感じていた胸騒ぎの正体はこれだったのか! 敗北することさえも織り込み済みで、世界に
「そうか────お前らが求めていた究極のツインテールは手に入れるものじゃなく、世界って花壇一面に花を咲かせる種だったってわけか」
「……で? どうしてあたしたちに本当のことを話す気になったわけ?」
「テイルレッドのような本物の、心の底からツインテールを愛した素晴らしいツインテール属性の持ち主が、世界が滅びた後から真実を知って絶望せぬようにとのせめてもの手向けよ」
それを聞いた途端、テイルレッドが吹っ切れたかのような清々しい笑みを浮かべたのが見えた。お前ならそうなるだろうな、総二………………きっと俺も同じ気持ちだよ!!
「礼を言うぜドラグギルディ、これで何の心残りも無くなった!」
「何!?」
こうして広まったツインテールは、アルティメギルが奪いに来るほどに価値のある本物のツインテール……一過性のブームなんかじゃない、本当にツインテールを愛する人々が増えた証なんだ!
「あとはお前らさえ倒せば、ツインテールは世界中で流行ったまま、先代の仇も討てて一石二鳥じゃない!」
「あんたら二人、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、ここまで本物の馬鹿だと清々しくなるわね……でも、あんたたちのそういうところ、大好きだよ」
「テイルレッド……いやツインテイルズよ! 我は今心底感服したぞ!! 絶望を前にしても揺るがぬその心と、これ程眩きツインテールの持ち主たちと世界の命運を賭けて戦うことが出来ようとは!!」
俺の……いや、俺たち三人の心に点った火が炎となって燃え上がり、各々のギアに力が漲ってゆくのが分かる。
テイルギアもエレメントギアも、力の源は心の力。自分自身の抱く大切な物への強い想いがある限り、どこまでだって強くなれるんだ!!
「世界の命運とか、スケールのでかい話はたくさんだ! 俺は、俺たちは自分の大切な物のために戦う!!」
燃え上れ俺たちの心。鳴り響け処刑用BGM! そして不穏な気配を感じた俺は、その方向へ拾った拳大の石を投げつけておく。
「────ぐえっ!」
「あくまで己が信念を貫くか!」
「ああ、なんたって俺たちのツインテールは────」
「「「この世界の希望なんだからな!!」」」
□□□□
────モニターの中、ドラグギルディに苦戦を強いられる防戦一方のツインテイルズを固唾を飲んで見守るトゥアールと恋香。視線は二つのモニターを行き来しつつ、トゥアールの指が忙しなくキーボードの上を踊っている。
片やトゥアールの故郷を滅ぼした宿敵、片や最愛の妹と恋人たちが、火花を散らしてぶつかり合う中、戦う力もなく見ていることしかできない自分が歯がゆくなる。
「────出来ました」
ドラグギルディが前の世界の結末を語りだした頃、トゥアールの手が止まった。
「トゥアールさん、それが結くんの……?」
「ええ! 今から出来たてほやほやのプレゼントを届けに行ってきます!!」
彼女は加工機械から取り出されたそれを引っ掴むと、恋香に出発を告げ空間跳躍カタパルトへ飛び込んだ。
────トゥアールはもう戦う力が無くとも、技術面でみんなをサポートできる。
なら、自分は………………?
一人になった司令室で自問する恋香は、悩みを振り払うように頬を叩いて気合を入れ、最近結からプレゼントされた黒いリボンでツインテールを結ぶと、厨房へ続くエレベーターのスイッチを入れた。
────みんなに届け、私のツインテール。戦えなくても、属性力があるのなら。
「疲れて帰ってくるみんなのために、おやつの用意でもしてあげようかな……結維ちゃんと一緒に」
去り際に見えたモニターの中では、吹っ切れたレッドたちがドラグギルディへ啖呵を切っていた。
結くんたちはきっと勝ってくる。そうとしか思えないもの。
□□□□
「────そこまでです、ドラグギルディ!」
「む? 何奴だ、名を名乗れ!!」
突然響いた声のほうを見やれば、周囲を取り巻く山林の中でも一際目立つ大木の枝に、見慣れた白衣の女が立っていた。
だがその顔面はスモークのかかったバイザーと銀色のヘルメットに隠されており、一見して正体がわからないようになっている。
服装は普段通りなので知り合いが見ればトゥアールだと丸わかりなのだが。
「私の名は、世界を渡る復讐者────仮面ツインテール!! 待っていましたよドラグギルディ……今日が貴方の最期の日です!!」
仮面ツインテール……どこがツインテールなのかはわからないが、かろうじてマスクの輪郭がツインテール属性のエンブレムに見えなくもない。
これがツインテールを失い、ツインテールに干渉できなくなったトゥアールの出来る精いっぱいなのだろう。
「仮面ツインテールだと……何の属性力も感じられんが、よもやツインテイルズの加勢に来たとでも言うのではあるまいな?」
「加勢……? 何を馬鹿な。この三人を前にそんなもの必要ないでしょう。私は仇敵である貴方の最期を見届けに来てやっただけにすぎません!!」
何故かバイザー越しに恨みがましい視線がチラチラとこちらへ向けられる。俺、トゥアールに何かしたっけ?
「────その下品な乳! 貴様、我らと死闘を繰り広げたツインテールか!! だがあれほど輝いていた弾けんばかりのツインテール属性が、今は微塵も感じられぬ!!」
「それは……託したからです」
仮面ツインテールは、レッドへ仮面越しの笑みを向ける。
「あの時、私はアルティメギルが意図的に流出した技術をもとに造り上げたテイルギアで戦っていました」
「意図的に流出だって!?」
そりゃそうだろう。属性力の技術を元々持っているか、トゥアールみたいな天才が身近にいるならともかく、属性力の技術を持たない世界の住人がエレメリアンに独力で立ち向かうのは困難極まる。
奴らの目的に鑑みれば、そういった世界が相手だった場合設計図なり手頃な変身アイテムの現物なりを提供していたのだろう。
トゥアールも、天才だと思っていたが流石にテイルギアを全くのゼロから発明できたわけではなかったのか。
「アルティメギルの思惑にまんまと乗せられて、ツインテールが世界に満ちていったとき、私もまたレッドと同じ不安を抱いていました」
「ツインテールの拡散を、止めようと思えば止められたはずなんです。でも出来なかった! 私に憧れてツインテールにしてくれた幼女たちが元の髪形にするのをむざむざ見過ごすことなんて我慢できなかったんです!!」
────言うと思った。俺たちは彼女の発言に、揃って頬が引きつるのを感じた。
「その心の隙を突かれて私はドラグギルディに敗北し、基地に籠って対策を立てているうちに侵略は進行し、私の世界は滅ぼされました……ツインテールが失われ、道行く幼女のスカートをめくっても、うしろからちっぱいを揉んでも何の反応も返してもらえない灰色の世界にされてしまったんです!!」
「「ふざけろアホおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
俺と愛香のダブルキックが大木に炸裂し、仮面ツインテールは破裂音と共に折れた木の下敷きになった。
「もうやだこの蛮族&野獣コンビ……」
レッドに引っ張り出された彼女は俺たち二人への恨み口を漏らしつつ、俺たちも以前聞かされた、贖罪として自らのツインテール属性をレッドのテイルギアに使用したことや、幼女の笑顔を糧に異世界移動技術を解析したり認識攪乱装置を開発したりなど、酷過ぎる説明を一通り終わらせて話を締めくくった。
「なんという執念か……してやられたのはこちらのようだな先代テイルブルー、いや、仮面ツインテールよ!」
「だがいかな輝きで照らそうと、覆らぬ闇もあるのだと知れ!」
奴が大剣を振りかざすや、モケェ────────という聞き慣れた、しかし数のせいか地鳴りのような声と共に視界を埋め尽くすほどのアルティロイドが現れる。
「一人が三人になったとて、世界が滅ぶのが早いか遅いかの違いでしかないわ!」
「それは違うぞドラグギルディ! 俺たちは四人でツインテイルズなんだ!!」
トゥアールを後ろにレッドが中央、左右を俺とブルーが固める布陣で高らかに宣言する。
「────この場のアルティロイドの総数は九八七体。少しでも手間取れば残りが見る見るうちに侵攻してしまいます」
カウントを終えたトゥアールからの伝達。千体近いが怖さなんて微塵もない。
「……へっ、数ばかりは多いけど、大したことないわね」
「ミラージュ、これをどうぞ」
手渡されたのは菱形の小窓の付いた拳大のブロック。色が白い以外はテイルギアの左手首のパーツによく似ていた。そうか、これが────!
「先程完成したばかりの、貴女用の
「ありがたく使わせてもらうわ! ────レッドとブルーはドラグギルディを、雑魚は全部アタシに任せなさい!!」
ミラージュのほうが飛び道具がある分、接近戦寄りのレッド、ブルーよりは大群の相手に向いているはずだ。ここは最大戦力をボスへ集中させるべきだろう。
「わかった! 後ろは頼んだぞ」
「負けたら裸にひん剥いてネットで晒してやるんだからね!」
俺は二人と対峙するドラグギルディの脇を通り過ぎて、地平線狭しと犇めくアルティロイドの大軍勢に飛び込んでゆく。
「リフレクション……ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイム!!」
開幕早々リフレクターリボンから放たれた最大出力の光線が、露払いとばかりに数十体から百体近いアルティロイドを消し飛ばした。
リボンにかなりの熱がこもり、しばらくは冷却のためのインターバルが必要になる。
「じゃあさっそく使わせてもらいましょうか……っと」
宙に放り投げた属性力変換機構を大道芸のシガーボックスのようにロッドの柄で挟み込み、
ロングロッドの振りに合わせて放たれた重力波が一団を押し潰し、余波だけでも周囲の動きを封していた。
「……使えるな」
動きを封じられた連中をミラージュマグナムの二丁拳銃で七面鳥撃ちにしながら、散開してこちらから逃れようとする敵へ向けて、続けて
本来は単体向けだが、全身服属性の効果である拘束用の不可視の力場が、広がっていた集団を一か所へ押し戻す。
だがこれだけの出力で使うのはやはりしんどい。力を籠めねば拘束が緩みそうになるのを感じた俺は、即座に再び体操服属性をエレメリーションへ叩き込み、投げ放った重力波で軍勢の左右を叩き潰した。
そして中央へ
────ここからが正念場だ。
属性力を極限まで高めたドラグギルディが、自らをツインテールにするという最終闘態を露わにし、辺り一面を溶岩に変えるという文字通りの熱戦を二人と繰り広げる中、俺は友の後顧の憂いを断つべく人間砲台として残りのアルティロイドを確実に潰してゆく。
『結さん、残りジャスト二百です!』
「オーラピラ────────!!」
安全圏へ退避したトゥアールからの通信を耳にするや、リフレクターリボンから放たれた最大出力の光弾が、両翼への攻撃で中央へ固められていた残りの軍勢を渦を巻いて飲み込んでゆく。
「フォトニック……ランサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
地面を割るほどの踏み込みと、腕も砕けよとばかりに全力で放たれた投擲が
「これで……全部!」
変身こそ解除されなかったもののまともに動けないほど消耗しきった俺は、戻ってきたロッドをどうにか掴み取るとその場にへたり込み、激戦の行く末を見守ることにした。
「後は頼んだぜ、総二、愛香……!」
□□□□
テイルミラージュがアルティロイドを全滅させたその時、ドラグギルディとの戦いも佳境を迎えていた。
「────見事な健闘だったぞ、だが相手との実力差が開きすぎていたが故の戦闘経験の差が明暗を分けたようだな」
消耗し、精彩を欠いた斬撃はあっさりと乱れ刃の大剣に弾かれ、ブレイザーブレイドが纏った炎を散らしながら宙に舞う。エグゼキュートウェイブもすんでのところで受け止められ、離れた所へ放られてしまう。
「これで、終わりだ────」
両者の武器が地面に突き立つのと同時に、ドラグギルディが大剣をレッドの脳天へ振り下ろす────
「────や ら せ な い !!」
背後から巨体にしがみついたブルーが、密着状態からオーラピラーを展開した。
どんなにボロボロにされても……あたしの目の前で、そーじは絶対やらせない!!
「こ、この程度……」
「────まだだ!!」
全身に力を籠め、青き光の拘束を破ろうとするドラグギルディの巌のような土手っ腹へ、テイルレッドは炎を纏わせた右拳を叩き付けオーラピラーを重ね掛けする。
二人の想いを現すかのように絡み合う赤と蒼の二重螺旋。倍加する負荷に、流石のドラグギルディも完全に動きを封じられた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
わずかに生まれた猶予を一秒でも無駄にはすまいと、二人はそれぞれ一番近い場所に刺さっていた互いの得物へ跳んだ。
テイルレッドがウェイブランスを掴み、テイルブルーがブレイザーブレイドを手に取りそれぞれが完全開放を行う。
イレギュラーな行為ではあったが、同じ人間が造り同じシステムを採用したものなら互換性があるはずだと無意識に信じて行われたそれは、確かに二人の願いを叶えてくれた。
紅蓮の炎を纏ったウェイブランスと激流を纏うブレイザーブレイド。
投擲されるグランドブレイザーと斬撃によるエグゼキュートウェイブが前後から漆黒の巨竜に襲い掛かり、初めて明確な手傷を負わせた。
「わ……我の背中に傷を……………………っ!?」
全身に古傷が刻まれてはいるが、いつの日か、至高の幼女に背中を流してもらうべく守り通してきた背中に初めて傷を負わされ、古強者の巨竜は驚愕に目を見開いた。
最後まで油断なんて出来やしない。してたまるか! 赤青二色のツインテールを靡かせてそのまま前後入れ替わった二人は、腹と背中に突き刺さる自分の武器を引き抜くや間髪入れずもう一度必殺技の体勢に入る。
「なんと息の合ったツインテールか……まるで比翼の鳥、連理の枝……生まれは違えど長き時を共に寄り添い生きてきたようだ」
「当たり前だ! 俺たちはこれからも、この先もずっと一緒────」
「何があっても離れることなく側に居続けるんだから!!」
「俺の────」「あたしの────」
『ツインテールは絆だああああああああああああああああああああああああああ!!』
全身全霊の斬撃と刺突が巨竜を打ち倒す。その光景はまるで、神話に描かれる英雄譚の一節のようであった。
────背中の傷も、至高の幼女に背中を流されたと思えば悔いは無いか。こうして討ち取られることもまた、生涯を添い遂げたのと変わりはあるまい。
「ふははははははははははは……見事だ、見事なりツインテイルズ!」
「ツインテールが、か?」
「無論だ!」
最後までブレない奴……死闘の末に打ち倒した強敵に、総二は呆れ交じりの称賛を送る。
「────願わくば来世で、また逢おうぞ!!」
「お前がツインテールを愛する限り、そんなこともあるかもな」
全身から紫電を走らせ、倒れ伏すのと同時に大爆発を起こすドラグギルディ。
こうしてトゥアールの世界から続く因縁は終わりを告げたのだ。
強敵の最期を見届けるのと同時に限界を迎えたテイルギアが解除され、力尽きた二人は炎の燻る灼熱の大地へと倒れ込む。
マズイと思いながらも体に力が入らない。このままでは大火傷は必至と思われたその時、二人の間へ割り込む影があった。
「総二様! 愛香さん!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
最後の力を振り絞って間一髪滑り込んだテイルミラージュが二人を抱きかかえ、冷却スプレーを構えたトゥアールが火を消し止める。
「ごめん結……助かった」
「ありがとうって言いたいけど……やっぱこの胸ムカつくわ」
慌てて抱え込んだせいか、愛香の顔がちょうどミラージュの爆乳に押し付けられる形となってしまい、彼女をイラつかせる。
「さあ総二様も私のおっぱいに顔をうずめましょう!」
「させるかボケええええええええええええええええええええええええ!!」
「まぐまらいざー!!」
久しぶりの総二への誘惑に、驚異的な勢いで復活を遂げた愛香がトゥアールを叩き付け、鎮火したばかりの地面へうずめる。
「それにしてもお前ら、武器交換するなんてよく考え付いたな……」
「本当に咄嗟の思い付きだったんだけど、上手くいってよかったよ」
「最悪でも手に持って突き刺すくらいは出来たでしょうけどね」
変身を解除した結は、総二、愛香と共にすっかり冷却された地面へ横たわりどこまでも晴れやかな青空を見上げた。
────いい空だよな。俺たちが守り抜いた青空だもんな……というフレーズが結の胸に去来したが、口にしてしまうと結婚式へ向かう途中でひったくりに刺されそうな気がしたため、胸の内に押しとどめる。
トゥアールの造ってくれた外付けエレメリーションと、愛香の戦闘センスと総二のツインテール愛……どれが欠けてもこの戦いには勝利できなかっただろう。
仲間たちの絆と、激戦の末に掴み取った勝利の余韻を噛み締める彼らの眼には、大空に浮かぶトゥアールの笑顔が映っていた。
「って勝手に殺さないでください!!」
結「見たか俺の超ファインプレー!!」
はい、ドラグギルディとの決着でした。遂にミラージュにも属性玉変換機構が追加されましたが如何だったでしょうか?
あと原作でも素手で放った零距離オーラピラーですが、いろいろ言われてるアニメ版オーラピラーを参考に今作でも右手から出させていただきました。
多分機能的には武器でも手でも撃てるけど、武器から出したほうがテンポよく必殺技につなげられるから原作版ではそうしてるんでしょう。
知らない人のための解説。
旋風戦隊ラセンジャーというのは、アニメ版俺ツイでちらっと登場した劇中作で、デザインは本当にジュウレンジャーそっくりでした。
まあアニメではティラノレンジャー似のラセンレッドの人形しか出てきませんでしたが、これに原作のコミケ話で触れられた「レッドとブルーがピンクを取り合う三角関係な戦隊」のネタを絡ませたのが今作でのラセンジャーとなります。
おまけ
テイルミラージュ暫定デザイン(身長175cmくらい)
【挿絵表示】
(あんまり上手くないですが、リフレクターリボンの形状とツインテールはどんなのかわかってもらえると思います)