でも例に漏れず変態注意報発令中。
アリゲギルディとの戦闘シーン差し替え、一部台詞、描写を加筆修正しました。
────わたし、
おにいちゃんは幸せそうなカップルを見るのが何より好きで、一緒の道場に通っている友達の総二お兄ちゃん、愛香お姉ちゃんは見ていてもどかしくなるような二人だったけど、おにいちゃんのお陰でまともに付き合えるようになったようなものだ。
そんな風にキューピッド役を迷わず務められるような友達思いで、料理が上手で、愛香お姉ちゃんほどじゃないけど強くって、優しいおにいちゃんがわたしは大好きだ。
このツインテールも、初等部のころのおにいちゃんが初めて結んでくれて以来好きになった髪型だ。だっておにいちゃんが好きな髪型だし、その手で丹念に弄り回してもらえるなんて絶頂する。
そんなおにいちゃんはすごく太ってて、オタクで、見た目だけならその辺の有象無象な雌豚どもになんて全然モテる要素なんてないから、わたしは安心しきって自分を磨き続け、小学生にしては破格のスタイルを手に入れることが出来た。
一番身近な女の愛香お姉ちゃんは総二お兄ちゃんにゾッコンだったから特に。
自分で言うのもなんだけど、わたしはその辺の子たちよりは美人なほうだし、背だってスラリとしていて胸だってある。ランドセルを背負わなければ中学生か、下手したら高校生と勘違いされるくらいだ。
とっくの昔にお赤飯だって過ぎたし、あとはもうしかるべき年齢までにおにいちゃんを落とせば感動のハッピーエンド……のはずだったのに。
あ の 女 が 全 て を ぶ ち 壊 し に し た。
津辺恋香、愛香お姉ちゃんの姉の女子大生。悔しいけどものすごく美人で、スタイルよくって、優しくて物腰柔らかな完璧超人。
正直こんな女がどうしておにいちゃんとくっついたのか本気でわからなかった。
おまけにおにいちゃんに染みついた雌の臭いの正体がこいつだと気付いた時は、怒りのあまり頭が沸騰しそうで危うく表情に出るところだった。
家にあいさつに来た時は、笑顔に隠した内心で「金持ちのボンボンでもひっかけて、玉の輿狙って股開いてろよ」なんて口汚く罵ったものだ。
でも、それほど憎んでも排除なんてできやしない。そんなことをしたらおにいちゃんが悲しむ。あの女と付き合い始めたおにいちゃんは本当に嬉しそうで、幸せそうだったんだ。
万が一死に別れたり寝取られたりしたら絶対に人死にが出る。世界中の誰よりおにいちゃんを理解しているわたしにはすぐに理解できた。
そんな最悪の展開だけはなんとしても避けなければならない。おにいちゃんが前科持ちとして引き離されたり、死んでしまうなんて絶対に耐えられないもの。
そんなもどかしさを抱えたまま六年生に上がった頃、ツインテールを狙う怪人たちと、それを迎え撃つヒロインが現れた。
おにいちゃんが観ているアニメや特撮番組みたいな事件が現実に起こり、半ば呆然としていると、この間ついにわたしの通う陽月学園初等部にまで例のエレメリアンとかいう怪人が現れた。
すぐに怪人はツインテイルズが倒してくれたものの、三色のコスチュームを着たあのテイルミラージュというお姉さんには不思議な親近感がわいた。
────あの人がおにいちゃんの彼女だったらよかったのに。
そう思った途端我に返って驚いたほどに、他の女にそんな感情を抱くことなんて初めての体験だった。
おにいちゃんを奪い取ったあの女が現れてから、久しぶりに抱いた他の女へ向ける暖かな好意的感情に思わず身震いする。
でもその震えは決して嫌な気持ちから来るものではなくて、冷え切った体でお風呂に入った時のような、心に染み入るような温かさがあった。
そんな不思議な魅力のあるテイルミラージュを生で見て以来、TVやネットで見る彼女の活躍は、留守中におにいちゃんのベッドへ潜り込んで匂いを胸いっぱい吸い込んだ時と同じくらいの高揚感を与えてくれるようになった。
彼女には、おにいちゃんが外泊して家に居ない寂しさを埋めてくれるだけの輝きがあったのだ。
わたしは、それを自覚した瞬間から周りでも群を抜いたテイルミラージュのファンになった。
□□□□
ツインテイルズの活動のせいか、実家で寝るのも久々な気がする。
住み慣れた家で目を覚まし、母親の作った朝食を家族で食べる感覚に、俺は旅行から帰ってきたような微かな懐かしさを覚えた。
「あんた最近外泊多いけど、向こうさんのご両親が居ないからって羽目外し過ぎるんじゃないよ?」
「大丈夫だって隣に未春おばさんだって居るんだし」
「余計心配よ、あの人、高校時代後輩の女の子に首輪付けて犬扱いしてたんだから」
なにそれ、初耳なんですけど。なにやってるのあの人? 俺は雇い主の驚愕の過去に目を白黒させ、どうか聞き間違いであってほしいと心底思った。
「それに最近アルティメギルとかいう連中が出て物騒だしな、恋香ちゃんはしっかり守ってやるんだぞ? あんないい娘そうそう居ないんだから大事にしないと」
「言われなくてもわかってますー」
「おにいちゃん、そろそろ行こう。お父さん、お母さん、行ってきまーす」
今日は中等部に給食が無いので、結維にも弁当を持たせ数日ぶりに一緒に家を出る。
泊まりの日は途中で合流することもあったが、泊まらない日でも津辺家の朝食を作るために早く家を出たりしてたからな。
後頭部に黄色く細いリボンで結わえられた、歩みに合わせて揺れるツインテールを見て俺もなかなか腕前が上がったものだと手前味噌ながら誇らしくなった。
久しぶりに手ずから結んだ妹のツインテール、やっぱり髪を弄らせてくれる女の子は宝石のように貴重だ。それが自慢の可愛い妹ならなおの事。
総二たちと合流し、他愛のない話をしながら学校へ。そして友人に駆け寄る結維と別れて校門をくぐった。
□□□□
「妹だ! 妹を出せえええええええ!! おにいちゃんおねえちゃんが大好きな、ツインテールの妹を所望する!!」
初等部に、またエレメリアンが出た。ランドセルに続いて現れたのは、妹妹とわめき散らす変態だ。
どうしよう! わたしきっと絶対、たぶんおそらく襲われちゃう!! だってわたし、おにいちゃん大好きなツインテールの妹だもん!!
……なんて思って身構えていると、そいつはわたしをあっさりスルーして隣のリサちゃんに迫った。────なんでよ?
確かに変態に襲われるのはごめんだけど、相手にされないのも納得いかない。
「その子から離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そうこうしているうちにツインテイルズが来てくれた。やっぱり生で見るミラージュさんは素敵だよぉ……
「現れたか! スクワルギルディの仇を討ちに来たぞツインテイルズ! 俺は
そう名乗ったカンガルーっぽい怪人が、グローブみたいに大きな拳でジャブを繰り出しながらツインテイルズへ戦いを挑む。
ミラージュさんがチラリとこっちを見た。やだ、濡れる。
「さ、早くここを離れて」
「はい!」
リサちゃんはとっくの昔に逃げて、離れたところから携帯のカメラを向けていた。わたしもミラージュさんの活躍を記録しなくちゃ……と思っていると、エレメリアンがふざけたことを言い出した。
「妹属性を奪い、
モケモケ言う兵隊をブッ飛ばして、わたしを庇うように立つミラージュさん。ほんとかっこよくて惚れ惚れしちゃう。
「あ~、テイルミラージュ、張り切っているところ悪いが貴様の庇っている娘はターゲットじゃないんだ」
「────は?」
「…………………………だから、そっちのリボンの娘は趣味じゃない」
ミラージュさんだけじゃなく、レッドとブルーも揃って首を傾げた。
「だってこの娘、妹じゃなくキモウトなんだもん! 私が好むのは純粋無垢に兄姉を慕う少女であってこんなドロドロしたようなのは……」
「────オーラピラー! エグゼキュートウェイブ!!」
「ぐおおおおお…………はっ! 妹……妹の気配だ! テイルブルー、貴様は妹だったのだな!? 最後に……最後に俺をおにいちゃんと呼んで……」
「お断りよ!」
最後まで言い切れずにブルーの投げた槍で貫かれ、身体を包む水の壁の中で爆発するエレメリアン。
────キモウトって、なによ。
テイルブルーが問答無用でカンガルー怪人を粉砕するのを呆然と眺めながら、わたしは誰に聞かせるでもなく呟いた。
「大丈夫だった? 結維、ちゃん」
ミラージュさんが私を心配して駆け寄ってくれる。
「……なんでわたしの名前を?」
「え!? ほら、名札を見たから……」
あ、そうか。でもミラージュさんに名前を呼んでもらえるなんて感激だよぉ……
わたしは感激ついでに彼女へ心の中の悩みを漏らした。
「……ミラージュさん、わたし……妹じゃないんでしょうか? さっきの怪物が、わたしのこと大好きなおにいちゃんと仲良しなのにターゲットじゃないって……それにキモイって……!」
「そんなことないよ、エレメリアンは大抵ロリコンの変態ばっかりだから、結維ちゃんみたいに大人っぽい子は好みじゃないってだけよ」
「それにあなたは全然キモくなんてない。とっても美人で可愛い女の子よ……お兄さんと、仲良くね」
そう言ってミラージュさんは私の頭をやさしくなでると、「早く帰るわよ!」と手を引っ張るブルーたちと一緒に飛んで行ってしまう。
────ミラージュさんに……頭、なでてもらっちゃった……それに、可愛いって……
「うふふふふふふふふふふへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ………………」
嬉しすぎて顔がにやけるのが止まらないよぉ……
「あ、結維ちゃんズルい! あたしにも間接なでなでさせなさい!」
「やだよ~~~~ そんなことしたらミラージュさんの感触が消えちゃうでしょ~~」
先程の悩みなんてなんのその。わたしは嫉妬して追いかけてくる友達から逃げるように、羽のように軽い足取りで走り出した。
□□□□
「……………………由々しき事態だ」
「心中お察しいたします結さん」
基地で俺は、今日判明した恐ろしい事実を前に頭を抱えていた。まさか結維の奴がそこまで末期だったなんて……! おまけにトゥアールが俺の心配をするとは相当だ。
「どういう風の吹き回しだ?」
「実は私、過去にストーカーに付きまとわれていたことがありまして……」
なるほどな、ストーカーもキモウトも似たようなもんだから共感してくれたってわけか。
「会った当初はナイスな幼女だったんですが、すっかり無駄に育っちゃいましてね……無駄に大きな結さんの妹さんとダブるんですよ。いやはや世の中ままならないものです」
人は
しかし俺のラブセンサーにかすりもしないとは流石俺の妹、かなりの隠蔽術だ。
「なあ結、キモウトって一体何だ?」
「気持ち悪いくらいブラコンな妹、の略だ。よく聞く話だと一般的には兄の下着をオカズにしたり、兄の部屋のゴミ箱をあさったり、兄に彼女が出来ると排除、最悪の場合抹殺しようとしたり、強引に事に及ぼうとしたりする」
大雑把に説明すると、総二はなんとも言えない顔をする。
「で、でも……結維ちゃんって確かにお兄ちゃん子だけど、そこまでアレな素振り無かったじゃない」
「甘いぞ愛香、恋香さんという確かな実例が身近に居るじゃないか」
「そ……それを言われると痛い!」
「……精々一緒に風呂に入ったり、バレンタインに手作りチョコくれたり、髪をツインテールに結わえさせてくれるくらいだったんだが……よくぞここまで隠し通したもんだ」
「……結さん、鈍感って言葉を鏡に向かっておっしゃってみてくださいませんか?」
「母さんといい恋香さんといい結維ちゃんといい……ツインテイルズの家族ってみんなアレなのか?」
他には鋭いくせに身内に対しては途端に節穴になる自身の眼を指摘され、愛香はうろたえ総二も頭を抱える。だがトゥアール、一言言っておく、俺は結維がブラコンなのは気付いてたんだ────気付いてたんだ。
大事なことなので二回言いました。
「えー、私がアレだとかちょっとヒドイんじゃないかな?」
「事実は事実だと受け止めてください。大体まともな姉はいくら大好きでも妹を押し倒したりしませんー」
瞳を潤ませてモジモジする恋香さんへ、この雌犬が盛りやがって! という蔑みの視線を送ってみた。するとピクン、と軽く痙攣し蕩けた顔になる。向こうも受信に成功したようだ。
「はーい、結さんと恋香さん、盛るなら他所でやってくださいねー」
パンパン、と手を叩くトゥアールの声が俺を現実に引き戻す。
「結維ちゃんのこともずっと前から気付いてたけど、憧れのヒロインと片思いの相手が同一人物って、お約束よね」
「おばさん気付いてたんですか!?」
「だからなんで居るんだよ母さん!? 当たり前みたいな顔して!!」
その当事者なうえに相手が実の妹だから困ってるんですよこっちは。というかちゃらんぽらんなくせに鋭過ぎだろおばさん。
「血の繋がりという壁を乗り越えて結ばれる愛……燃えるわ!」
「それは乗り越えちゃいけない壁でしょうが! 以前の非モテな俺なら血迷ったかもしれませんが、今の俺には恋香さんという心に決めた人が……」
「わ、私は結維ちゃん相手なら浮気しても構わないから……」
「「やめろよ! 本妻が目を輝かせて積極的に旦那に浮気勧めてるんじゃねーよ! つーか妹だろうが!!」」
脳みそピンク恋香さんのトンチキ発言に思わず総二とハモってしまったがもう突っ込み疲れた。俺はひとまず家に帰ることにした。
「ただいまー」
「おかえりー! 聞いて聞いて! 今日も学校にツインテイルズが来てミラージュさんに頭なでてもらっちゃった!!」
「おお、そりゃあよかったな。お祝いに何か好きな物でも作ってやろうか?」
嬉しそうにはしゃぐ結維。だが喜んでいるのが女になった俺の活躍に対してで、おまけに俺を完全に異性として見ているのだから複雑だ。
あのエレメリアンさえいなければ、甘えん坊で兄思いの良い妹だと思っていられたのに。
そんなことを思いながら夕食を作り、帰りの遅い両親より先に食事を済ませる。
食器を片付け、ひとしきりネットサーフィンに興じた後入浴。
……しかし、ツインテイルズの扱いは相変わらずだな。エレメリアンの危険性は俺の活躍もあってか少しは拡散しているみたいだが。
ツインテイルズオンリーの同人誌即売会まで募集を始めてやがったな。日朝っぽい感じの嘘ストーリーでもでっち上げて一冊出してみようか。などとシャンプーの泡を洗い流しながらぼんやり考えていると、浴室のドアが開く。
この家に他の住人は居ないので間違いなく結維だ。これで違うほうが怖い。
「────おにいちゃん、一緒に入ろ」
高校生の愛香よりもはるかに起伏に富んだ、小学生にあるまじきプロポーションの裸体を晒し、はにかんだ可憐な笑みに肉食獣の眼光を光らせた妹の姿に俺は思った────違わなくても怖い。
「ヴェホッ、ゲェフォ、ぐるじいよおにいぢゃあああああああああん」
「あんな恰好でうろついたり、兄に夜這いなんか掛けるから罰が当たったんだこのバカチンが!」
結維が風呂場に乱入してから二日後、両親が朝から揃って旅行へ出たのを見計らったかのように妹が風邪を引いた。
桜の花が咲き誇る四月だが、夜はまだ冷えるというのに誘惑する気だったのか裸同然の格好でうろつけばこうもなろう。
「ほら、枕元に薬と雑炊とのど飴とスポーツドリンク置いといてやったからゆっくり寝てろ……もう行って来るからな」
「いっでらっじゃい……」
いざこんなのだって分かっても、可愛い妹だからな……困っているとつい世話を焼いてしまう。
「……結局まともに眠れなかった」
ベッドへ潜り込み、あの手この手でこちらをその気にさせようとする妹との攻防戦の末、気が付けば朝になっていたというのが二日続いた。裸でうろついたのと二徹の疲労が祟って結維が風邪をひいてくれたのと、その間エレメリアンが現れなかったのだけがせめてもの救いだ。
「大丈夫か? 結……」
ふらつく俺を心配する総二に、手を振って答える。
どうにかたどり着いたアドレシェンツァで飲み乾した、濃い目に淹れたブラックコーヒーでも抗えない、瞼の重さと抜けない疲労にくじけそうになりながら、どうにか教室へたどり着いた俺は、たちまち机にうつぶせになって少しでも睡眠時間を取り戻すべく目を閉じる。
────結維がエレメリアンに襲われた時に、余計なフォローをしたのが間違いだったのだろうか?
思考がぐるぐると渦巻く中、俺は意識を手放した。
□□□□
朝から二、三時間ほど眠り、のど飴をなめながら昼までしばらく横になっているとだいぶ体が楽になってきた。やっぱり「飲む点滴」との異名を持つ歴史あるスポーツドリンクは偉大だ。
エレメリアンにキモウト扱いされてから、気になってこっそりネットで調べてみたけど、やっぱりわたしはキモウトなんかじゃない。
だってわたしはおにいちゃんの恋人を殺そうとしたりなんてしないし、料理に爪やら血やらを混ぜたりもしない。ただのおにいちゃん大好きなブラコンだもん。ベッドの匂いを堪能したり下着をこっそり失敬するくらい普通普通。
あー、おにいちゃんのお風呂の残り湯があればなぁ……お父さんたちの居ない今が手に入れるチャンスだったのに、他のチャンスは一番風呂に入ってもらった時しかないもんな……あれさえ一気飲みできればこの程度の風邪なんて一発で治っちゃうのに。
そんなことをおにいちゃんの雑炊を食べながら思う。
おかゆみたいになるまで煮てあるし、冷めても体が温まるように生姜がこれでもかと効いててうれしい。おにいちゃんの愛をビンビンに感じるよぉ……
食べ終えたら薬を飲んで布団をかぶり、おにいちゃんと愛し合う夢を見ながらぐっすり眠るのだ────絶対いつか現実にしてやる。
「結維ちゃんおはよう、晩御飯は任せてね!」
────で、目が覚めたらどうして家に
□□□□
────放課後、しばらくぶりにエレメリアンが現れ、ツインテイルズは現場である他県の高校の校舎裏へ駆けつける。
そこに居たのはアルティロイドに囲まれたカップルらしき一組の男女と、ワニをそのまま直立させたようなエレメリアンだった。
────オーケー、俺の目の前でカップルを襲うとは余程死にたいらしい。
「そこまでだエレメリアン! 愛し合うカップルを手にかけようとはこのテイルミラージュが許さん!!」
「ツ、ツインテイルズが来てくれた!」
眠気や疲労を吹き飛ばすほどの怒りに突き動かされ、テイルミラージュは啖呵を切りながらミラージュロッドでアルティロイドを薙ぎ払い、退路を確保すると二人を安全なところまで速やかに逃がす。
手を取り合い逃げてゆく二人の姿と、背中に感じる「ありがとうございます!」の言葉がやけに温かく感じられた。
「おのれツインテイルズ! 貴重な耳たぶ属性をよくも……!!」
「み……耳たぶ属性?」
「そうだ! 俺は
小さい女の子……ここ、高校じゃねえか。
────はっ!? まさかあのカップルが耳をハムハムしつつイチャついているのを嗅ぎ付けて現れたのかこいつは!? そう言えば女の子の方はだいぶ小柄だった……だとしたらなおさら許せん!!
「強大な耳たぶ属性を感じて来てみたはいいものの……やはり邪魔立てしに来たか! こうなればその邪魔な耳当てを剥ぎ取り、お前たちの耳たぶを堪能してくれる! 我が尻尾の一撃、受けて見ろ!!」
ゴツゴツした太い尻尾が棍棒のように迫る。普段であれば躱してカウンターを決める流れだったが、眠気と怒りで正常な判断の鈍ったミラージュは真正面からその攻撃を受け止めた。
────ぷにょん。
「…………………………………………は?」
予想だにしなかった柔らかでもちもちの感触に目が点になる。
「見たか我が“やわらか福しっぽ”の威力は! 長年にわたる日々のたゆまぬ努力の末、理想的な耳たぶの柔らかさを手に入れたのだ!!」
心地よい柔らかさに瞼が急激に重さを増した。
「てめえこの、ふざけやがって……まともに、戦う気……あんのか……? …………ぐう」
「ミラージュうううううううううううううううううううううううううううううう!?」
「こんなところで寝るなあああああああああああああああああああああああああ!!」
ぶり返した睡魔に敗北したテイルミラージュは、それでも一矢報いようとアリゲギルディへ掴みかかると、福しっぽへ抱き枕のようにしがみつき力尽きた。
「こ、これっ! 我が尻尾は抱き枕ではないぞ……ああ尻尾に柔らかな胸の感触が……ええい、惑わされるな! これはいくら感触が似ていようともおっぱいであって耳たぶではないのだ!!」
おっぱいの柔らかさは耳たぶと同じだと言われているが、規格外の大きさを誇るテイルミラージュのそれを自らの象徴的部位に押し付けられて惑いに惑うアリゲギルディ。
「────ええい、テイルミラージュの無力化には成功したのだ、ならば彼女の耳たぶはひとまず後回しにして、レッドたちの耳たぶをハムハムさせてもらう!
「────待て!!」
暫しの逡巡の後、迷いを振り切ってレッドとブルーへ牙をむくアリゲギルディだったが、レッドのいつにない激昂についついその足を止めてしまう。
「ツインテールを引きずって走るな!!」
ハッとして振り向けば、尻尾にしがみついたままのミラージュのツインテールが地面に落ちたまま。必殺技を叩き込むために駆け出せば、彼女のツインテールをボロボロにしてしまうことは避けられない。
「ああっ、これはいかん。ほれこの手を放しなさい……」
「────オーラピラー!」
尻尾から離れさせようとミラージュへ屈み込むという、戦場で見せるには致命的な隙を見逃してやるような情けなど到底持ち合わせていないブルーが、ウェイブランスを振りぬきオーラピラーを放つ。
「のわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
テイルミラージュごと激流の柱に飲み込まれ、撹拌される哀れなエレメリアンへ、致死の一撃が間髪入れず叩き込まれる。
「……エグゼキュートウェイブ!!」
「ちょ! 待て! ミラージュうううううううううううううううううううう!?」
仲間ごと敵へ必殺技を叩き込むという所業に、レッドは頭を抱えて絶叫した。
「一度でいい、テイルレッドたんの耳たぶをハムハムしてみたかったああああああああああああああああああ!!」
「……させるわけないでしょ」
アリゲギルディは爆発四散、耳を愛でる二人の愛は守られたのだ。
レッドが呆然とする中、爆発跡からすっかり濡れ鼠のテイルミラージュがむくりと起き上がり、何事もなかったかのように転送ポイントへ向かおうとする。
「あー、もう帰って寝る。マジ眠い!」
「あ、ああ……ゆっくり休めよ?」
一時的に目が覚めたものの、眠気に限界を悟ったテイルミラージュは、二人と共に速やかに帰還した。
────結維の看病は恋香さんに任せてあるし、もう今日は何もしたくない。
□□□□
────夜の長友家。シャワーで軽く汗を流し、ベッドで泥のように眠りこける結の様子をこっそりうかがう影二つ。
「わたしがこんな体じゃなかったら、夜這いに行けたのにぃ……」
「こら、ダメよ結維ちゃん。気持ちはわかるけど、結くんに負担をかけてまでアタックするのは逆効果なんだから」
「わ、わかってるわよ……恋香おねえちゃん」
「…………うふふ」
────看病を任された恋香と出くわした結維は、抱える
「……結維ちゃん、やっぱり私の事、嫌いだよね。大好きなお兄ちゃんを盗っちゃった女だもん」
そんな結維の様子に少しへこんだ恋香は悲しそうに弱音を漏らすが、その言葉にムッと来た結維は起き上がり、胸に溜まった毒をつい吐き出してしまう。
「────あなたみたいな人が一体、おにいちゃんのどこを気に入ったんですか? わたしの看病になんて来て、おにいちゃんへの得点稼ぎのつもりで……ゴホ、ゴホッ」
咳き込むのを心配して、大人しくしてなくちゃダメと寝かしつけようとする恋香の手を拒絶する結維だったが、そんな彼女を優しく宥め、言い聞かせるように恋香は結と自身のことを語りだす。
「…………………………………………え? あなた、ソッチの趣味の人だったの!? おにいちゃんに近づいたのはまさかわたしの体が狙いで!? イヤー! 犯される!!」
彼女が過去に愛香を襲いかけたと聞いた途端、結維は風邪以上の寒気に襲われ、恋香から後ずさって距離をとろうとする。
「……そういう勘違い、酷いと思うな。じゃあ普通に男の子が好きな結維ちゃんは、男の子なら誰でもいいのかな?」
「そんなわけないでしょ! わたしはおにいちゃん一筋………………あ」
吐いた唾は呑めぬとはよく言ったもの。己の失言に気付いたものの後の祭り。結維は恋敵相手に兄へ思いを寄せていることを盛大にカミングアウトしてしまった。
「私だって、同じだよ。私の中で一番可愛くて素敵な女の子は愛香だけ……そして、私のせいで愛香に嫌われちゃったとき、一生懸命仲直りさせてくれた結くんだったから好きになったの」
────ああ、この人もわたしと同じ、結ばれてはいけない相手を愛してしまった人だったんだ。おまけに同性な分、わたしより辛いじゃない。
胸に芽生えた親近感に、抱いていた憎しみが薄れていくのを感じた結維は、気まずそうに謝罪の言葉を漏らす。
「………………嫌な態度とって、ごめんなさい」
「いいのよ、結維ちゃんの気持ち、わからなくもないから」
鷹揚に謝罪を受け止め、食事の用意をするために恋香が席を立つ。
しばらくして戻ってきた彼女の手には、熱々の鍋焼きうどんが土鍋の中で湯気を立てていた。
「はい、熱いから気を付けてね」
ふーふーと息を吹きかけ、啜り込む。汁を吸ったうどんを飲み下すと、口の中で踊っていた熱々のうどんが痰の絡んだ咽喉を根こそぎ綺麗にしてくれたような錯覚を覚える。
レンゲでスープをすくい、口に運ぶ。濃厚な味噌の味が風邪で馬鹿になった舌にも鮮明に感じられ、胃袋へと駆け抜けてゆく熱が発汗を促した。
なんというか、食べる相手への愛情が感じられる味だった。
────ま……と・く・べ・つ・に、認めてあげてもいいかな。
鍋焼きうどんをすっかり平らげ、ずびー、と鼻をかんだティッシュをゴミ箱へ放りながら、結維は思った。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
食事の用意だけでなく、汗を掻いた体を拭いてくれたりと甲斐甲斐しく働く恋香の姿に、優しい姉とはこういうものなのかと感慨深くなる。
「………………こんなおねえちゃんなら悪くないかもね」
ポツリと漏らした一言に、恋香は「何か言った?」と聞き返すが、結維は「何でもないでーす」とごまかした。
────でもね、覚悟してなさいよ。
横になり、布団を被った結維は、不敵な笑みを浮かべて排除対象でも憎悪の対象でもなく、好敵手と認めた未来の義姉へ、宣戦布告を叩き付ける。
「あなたがおにいちゃんの彼女ってのは認めてあげる、でもね────ぼやぼやしてると、
恋香はにっこりと、花が咲き誇ったような笑みを返した。
はい、結の妹、結維はキモウトでした。会長みたいな合法ロリと逆にアダルトロリ? 違法少女? な外見に。
男じゃなく泥棒猫に暴力を振るう愛香を見習って、兄の恋人を殺そうとしないマイルドなキモウトに設定。多分このままキモウトだと気付かれずに大人になっていたら、父親不明()の子を抱えたシングルマザーになるんじゃないでしょうか。で、気が付くと子供が増えてる(お目目グルグル)
兄弟のベッドにもぐりこんで深呼吸とか、風呂のお湯飲んだりするのはキモ姉妹の間では基本です。
あと陽月学園ですが、小中高大各学部の立地がどうなってるか不明だったので今作では隣り合ってたり道路はさんだぐらいの近い距離に各校舎、施設がある解釈にしました。無駄に漫画チック。
初等部の制服とか名札とか、原作に出てこない部分考えるのって楽しいけど大変です。
IFイラストの、入学式でロリソーラとロリ愛香の来ていたあの服、あれが制服ってことでいいのかな?