俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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原作にも零番部隊出ましたけど、あっちのは完全な秘匿部隊だからうちの眼鏡部隊はその存在を知りません。


第五十二話「恐怖! 無限の円環!!」

「いかにも! 我らは無限の円環(アイン・ソフ・オール)────至高の属性たる眼鏡属性(グラス)を掲げる軍団にして、諸君らツインテイルズの仲間、テイルブラックへの復讐者である!!」

 

「無限の円環……じゃと……? まさか、あやつらが……?」

「イースナちゃん、どうしたんや!?」

「イースナ! しっかりしなさい、イースナ!!」

 

 二体の巨大エレメリアンを撃破したのも束の間、隠し玉として不意打ちをかけてきたもう一体をあっさりと打ち倒し、周囲を取り囲むように現れた漆黒のフード姿の集団は、テイルブラックを名指しでその標的に掲げた。

 眼鏡属性を掲げる集団、すなわちかつてのアルティメギルに於いて、ダークグラスパーのせいで下された眼鏡属性収奪禁止令の最大被害者。

 ダークグラスパーがテイルブラックとなりアルティメギルに弓引いた今、向けるべき矛先を遂に得た彼らの、積もり積もるその恨み果たして如何ばかりか……

 戦いを見守っていたスタートゥアールのブリッジで、テイルブラックは地の底から這い出てきた過去の因縁に押しつぶされようとしていた。

 

「ぬう……そこなロボットからは彼奴めの気配がせん。となると上空の(ふね)か」

「ひぃっ!!」

 フードの集団が一斉に両の指で眼鏡を模った丸を作り、キングミラージュや完全開放から元に戻ったトゥアールオー、スタートゥアールを、透視しかねないほどの熱心さで覗き込んでいる。

 フードの闇から覗くいくつもの瞳と画面越しに目が合ったテイルブラックは、怖気を振るって悲鳴を上げた。

 尊大さの欠片も見えないそれは、まるで普段のイースナに戻ってしまったかのようだ。

「お前たち! テイルブラックに何かしようっていうなら俺たちが相手になるぞ!!」

「大切な仲間に指一本触れさせるものか!!」

 怯える仲間を庇う様に、二大スーパーロボが互いに背を預け合い、周囲を囲む無限の円環に負けじと睥睨する。

「ほっほっほ……確かにこれは分が悪い。残念だが日を改めさせてもらおうか」

「何っ?」

 鳴り物入りで現れてからの、あまりにもあっさりとした撤退宣言に、ツインテイルズたちは拍子抜けする。

「もとより全員で参ったのも、半ば顔見せのような物。テイルブラックめが引き籠ったきり出てこぬのならば一当てする理由も無い」

「だがゆめゆめ忘れるな、テイルブラック。我ら無限の円環全員がこれから先貴様を付け狙い続けることをな!」

「我らが勝利の暁には貴様の神眼鏡(ゴッドめがね)で眼鏡酒を注ぎ、勝利の美酒を全員で回し飲みしてくれるわ!」

「今までは他の隊員相手にブイブイ言わせておったようだが、我らを前に怯えて引きこもっている小娘に、果たして我らが倒せるかな?」

 富士山を臨む夜の演習場に、エレメリアンたちの挑発と嘲笑が響き渡る。

「こいつら……!」

「今までの連中とは、悪い意味で違うみたいね……!」

 仲間であり、憧れのアイドルでもあるイースナを嗤う無限の円環に、キングミラージュは鋼鉄の拳をギリリと軋ませて怒りを滾らせた。

 トゥアールオーのシートに座るテイルイエローとテイルサンダーも、友人を馬鹿にされては武装のトリガーへ伸びる指を抑えきれそうにない。

 テイルレッドやテイルブルーも、今までの変態だが真っ直ぐな物を持っていたエレメリアンたちとはベクトルの違う品性の下劣さに、不快さを隠そうともしなかった。

 独自の美学を持ち卑怯な不意打ちこそ嫌っているようだが、こいつらはその実ヘドロのようにドス黒い邪悪だ。

「それではまた会おうツインテイルズよ。次こそはテイルブラックに出会えることを期待しているぞ」

 隊長らしき個体の号令で極彩色のゲートが開き、連中が撤退を開始してゆく。

「逃がすか! チャクラムホイール!!」

「フィンガーキャノン!!」

 トゥアールオー指先の砲口が火を噴き、ビークル時には前輪を成す、キングミラージュの両腕のタイヤに嵌まっていたホイールキャップが鋭利な戦輪と化し、怒りのままに列を成したエレメリアンたちへ襲い掛かった。

 だが一際大柄な隊員がその間に割って入り、その巨体に見合わぬ俊敏さで巨大な六角形のバリアーを展開する。

 一発ごとが並みのエレメリアンなら即座に爆散しかねないほどの高エネルギー砲弾はあっさり霧散し、弾かれ元の位置へ戻って来たチャクラムを受け止めるように回収するキングミラージュは、その力に戦慄を隠せない。

「大した威力ではあるが、俺の守りを抜けるほどではないな。もっとも、貴様の眼鏡属性がもっと高ければ結果も違ったかもしれぬが」

「────畜生!!」

 そのまま何事も無かったかのように撤退を再開するエレメリアンたちに、鋼の最奥でツインテイルズたちは届かない悔しさを吐き捨てた。

「きっと来いよ?」

「必ず来いよ?」

「絶対来いよ?」

 ゲートをくぐる前に振り返り、口々に念を押して去ってゆく無限の円環隊員たち。

 最後の一人がゲートを通り抜け、極彩色の超空間が閉ざされるまでツインテイルズは指を咥えて見ているしかできなかった。

 

□□□□

 

 悔しさを胸に基地へ帰還した俺たちは、変身を解除して席に着いた。イースナだけは普段のジャージではなく善沙闇子の姿だ。

 未春さんが無言で差し出したコーヒーカップが音も無く机の上を滑ると、イースナの前でピタリと静止し、それを手に取った彼女が口を付ける。

 大人ぶってはいるがその実子供舌な彼女が、苦みに顔をしかめる様子も無かったので、しっかり砂糖入りなのだろう温かなコーヒーが、まるで初めてこの基地にやって来た時のように怯え、うつむくイースナを落ち着かせると、俺たちは彼女の語る、奴ら無限の円環のことをじっと清聴した。

 

 ────予想通りと言えばよいのか、かつてイースナがダークグラスパーとしてアルティメギルに協力していた頃、その見返りとして眼鏡属性の収奪が禁じられたのは以前耳にしていた通りだ。

 その際にしわ寄せを受け、活躍の場を奪われることとなった眼鏡属性のエレメリアンたちが奴らなのだという。

 だがそれだけではイースナがここまで怯える理由にはならない。

 ファイアフライギルディやスティラコギルディのような、眼鏡属性でありながら彼女を愛してやまないエレメリアンもまた存在していたからだ。

 世界を股に掛ける変態の名をほしいままにするエレメリアンたちに対して、尊大な態度を崩さず圧倒すらしているイースナが、ここまで奴らを恐れる理由とは?

 

「奴らは……アルティメギルに参加したばかりの頃、わらわのことを執拗につけ回しておったストーカー集団だったのじゃ……!!」

 

「はい、解散。みなさんお疲れ様でしたー」

 トゥアールが解散の音頭を取った。確かに俺ですら新手のギャグかと思う。

「待つのじゃ! 本当なのじゃぞ!? 奴らときたら、床に寝転がって足ふきマットに成り代わろうとしたり、空気椅子に腰かけながら穴の開いた新聞越しにこちらへ熱視線を送り続けたり、アドレスを知ったが最後、人間メールサーバーもかくやという一時間に何百通も、おぞましい内容のメールを送り続ける陰湿な奴らなのじゃ!!」

 いくつもの巨大なブーメランが、イースナの頭に深々と突き刺さっていた。

「だから! いつものあなたと何が違うんですかそれ!?」

「ストーカーもメールも、イースナちゃんが普段からやってることでしょ!?」

 トゥアールと結維のツッコミが冴えわたる。

 愛香は呆れ顔、総二も可哀想な物を見る視線を向けている。

「トゥアールも、イースナのこと話すときおんなじこと言ってたよな?」

「向こうの人ってこういうのばっかりなのかしらね?」

 そんな周囲の反応を他所に、イースナの話は続く。

「意気込んできたものの、怪物どもの居城で寄る辺なく震える無力なわらわたちに、花に集る虫の如き奴ばらが粘着質な視線を向けてくるのじゃ……向こうのわらわと肩を寄せ合って、励まし合いながらグラスギアが完成し、師から手ほどきを受けるまでどれだけ心細かったことか……!」

 それを聞いて俺はハッとした。イースナも初めから闇の支配者だったわけではない。変身した後の尊大な態度も、度々エレメリアンに襲われ、恐怖に震えていた幼少期の裏返しなのだろう。

「あ、この表情(かお)同情してうるっと来てる奴ね」

「あ、わかるわかる」

 恋香さんと結維が何やら話しているがよく聞こえない。だが仲間が落ち込んでいる時に俺たちが出来るのはただ一つ。

「安心しろ、イースナ……危ないときは俺たち皆が君を守る」

 目線を合わせ、励ましの言葉を伝えた。

 コンソールルームの机を囲む総二たちも、その言葉に同意するように頷き返す。

「そうだとも。つらいときはいつだって俺たちを頼ってくれ」

「あたしも、あいつらに一発かましてやりたい気分になっちゃったしね!」

「わたくしたちは仲間ですもの。嬉しいときもつらい時も、いつだって一緒ですわ」

「そうそう、イースナちゃんが戦えない時は、わたしたちが代わりに戦うから!」

「だそうですよ。よかったですねイースナ」

 席を立ち、自らを囲む仲間から口々に向けられた激励に、イースナの瞳がレンズの奥で潤み、ついには決壊した。

「お前たち……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「イースナちゃん……良かったなあ……」

 仲間たちの胸に飛び込んで泣くイースナの姿に、メガ・ネももらい泣きするようにバイザーアイを指で拭う。

「イースナちゃんは、普段みんなに笑顔をくれるアイドルだけど、プライベートでつらいことが有ったらいくらでも私たちが力になるからね」

 恋香さんも年長者らしい包容力でイースナを慈しむようにその頭を撫でている。

 もっとも、指定席に陣取る未春将軍同様の女幹部ルックなのが雰囲気をぶち壊しにしていたのだが。

 

□□□□

 

 アルティメギル基地の大ホール。そこに集まる無数のエレメリアンたちは困惑に包まれていた。普段はツインテイルズたちの映像が映し出されているスクリーンに、現在テイルブラックと善沙闇子の勇姿が躍っていたからだ。

「おお、メガ・ネプチューンとテイルブラックが合体した姿の勇壮華麗なことよ!!」

「白銀の装甲が黒髪と赤いフレームに映えるわい」

「ステージでのこの振り付け……またしても腕を上げたな……!」

 一方、大いに盛り上がっているのはご存知無限の円環一派である。

 かつて残存部隊のエレメリアンたちを恐怖のズンドコに叩き落としてきた元上司を、まるでテイルレッドたちアイドル戦士のように扱う一団に困惑を隠せない名被害者ベアギルディは、恐る恐る傍らの無限の円環隊員に訊ねてみた。

「つかぬことをお聞きしますが……なにゆえテイルブラックの映像を流しておられるのですか?」

「たわけたことを抜かすな! 我等にとってテイルブラックは永遠の宿敵! 故にこのように徹底的に研究するのは当然のことである!!」

 そのように断言されてはクマも退き下がらざるを得ない。

 しかしかれこれ一日近く彼らは元上司がフリフリ衣装で歌って踊る悪夢の映像記録を見せられ続けているのだ。流石に視界の暴力を逃れて、他のメンバーからの癒しを求めたくもなる。

 勇ましい武者鎧に身を固めるベアギルディは暴力属性(バイオレンス)を好む男だが、心抉る精神的暴力はノーサンキューなのだ。

 なんともクマった……もとい、困った事態にクマは頭をひねってなんとか打開策を導き出そうとする。

 ────その時ベアギルディに天啓奔る! 脳裏にフレクサトーンの音色が鳴り渡ったクマは、一計を案じて黒ローブの上司たちに揉み手で進言した。

「無限の円環の皆様方にとって、テイルブラックめが宿敵であるというのはよーく理解できました。ですが我等にとっては他のツインテイルズも因縁深い宿敵。出来れば席をはずし、独自に研究、対策を練りたいのですがよろしいでしょうか?」

 クマにとって、ダークグラスパーからのメアド登録を携帯への吐血で回避した一幕に等しい乾坤一擲の大勝負。

 感付かれ怒りに触れれば、一般隊員である彼の身など一瞬で滅ぼされてしまいかねない。

 ────恐れるな俺の心、流れるな俺の冷や汗。今この瞬間だけでいい、どうかこの方々を欺く力を!

「ふむ……いいだろう。元よりテイルブラックは我らの獲物。それに誰しも乗り越えたい壁と言うものは違っているわけだしな」

 果たして、クマの祈りが天に届いたか許しを得た混成軍隊員たちは、押さない・駆けない・喋らない避難訓練もかくやと言う一糸乱れぬ足並みで大ホールを後にした。

 クマは賭けて運命に勝ったのだ。

 

□□□□

 

 エレメリアンの襲来が無いことを確信した放課後。俺たちツインテイルズ全員は、かつて結維ちゃんと会長がテイルイエローの座をかけて相争った採石場に勢ぞろいしていた。

 ご主人様となった結維ちゃんとの思い出の場所なのだという、会長のお願いにより買い取られ、今や神堂家の私有地となっているため、派手に暴れても問題ないツインテイルズの特訓にはもってこいの場所となっている。

『先日遂にトゥアールオーが完成を迎えましたので、今日は改めて皆さんの現状把握と戦力分析を行いたいと思います!』

 離れた場所ではトゥアールと恋香さん、母さんと桜川先生が待機し、トゥアールがこちらへ仮面ツインテールの姿で通信を送っている。

 一陣の風が、つむじを巻いて過ぎ去ってゆく。

 風渡る採石場に勢ぞろいするツインテイルズという、なんとも絵になるだろう勇姿に胸が熱くなった。

 イエローとミラージュも同じ意見だ。ツインテールを見ればわかる。

『まずは皆さんの基本形態。テイルレッド、テイルブルー、テイルミラージュ、テイルイエロー、テイルサンダー、テイルブラック、メガ・ネさん────この7人が、今のツインテイルズの主戦力です』

『そして、恋香さんもデビュー戦で披露したように変身できます』

『あくまで非常時だけどね』

 補足を入れた恋香さんも女幹部ルックに黄金の仮面を被り、仮面ツインテール二号と化している。

 トゥアールはお馴染み白銀の仮面。母さんもお馴染みの女幹部ルック。唯一まともだと思っていた桜川先生も、いつの間にか緑色の仮面を渡されて仮面ツインテール三号に成り果てていた。

 仮面、仮面、仮面、コスプレ。並び立つ保護者達の凄まじい破壊力が、俺たちツインテイルズを襲う。

『今までぶっつけ本番でコンビネーションを発揮してきましたが、これから激しくなる敵の攻撃を予想して、仲間の戦力を知り、いざという時に活かせるようにしましょう!』

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。俺たちは強化形態に変身した。

「まずは俺から……プログレスバレッター!」

「エクステンドリボン!」

「ロイヤルカラー!」

属性玉変換機構(エレメリーション)────騎乗属性(ライディング)!」

「インフィニットコンバイン!」

属性玉変換機構(エレメリーション)────眼鏡属性(グラス)!」

 装甲が追加され攻撃力が底上げされたライザーチェイン、スラスターが追加され速度が上乗せされたフォーラーチェイン、ギアの属性力を共用して互いにエネルギーを高め合い、属性玉を併用することで一体となったバイク形態となるライトニングチェイン。

 三重共鳴で莫大なエネルギーを振るうインフィニットチェインとトライレゾナンスチェインが揃い踏みし、ほんの数秒でテイルミラージュは開放された装甲を閉じて元の姿に戻った。

 トライレゾナンスチェインは自爆専用の形態なので、エレメントバズーカで強固なバリアを張らなければ多大な被害が出てしまうのだ。

『結くーん! ちゃんとみんなと一緒にパワーアップした写真、撮っておいたからねー』

『パワーアップしたツインテイルズ揃い踏み! もう向かうところ敵無しって感じじゃない!?』

 手を振る恋香さんの声に、テイルミラージュが手を振り返す。

 超科学デバイスな通信機を使いこなす母さんも、俺たちの壮観な眺めに歓声を上げた。

『これからマシンを転送しますので、準備をお願いします』

「よし! ────ライドリーベ!!」

 極彩色のゲートから、テイルミラージュの声に応えた赤、青、白の配色のトリコロールのスポーツカーが現れる。

「チェインジ! エクスミラージュ!!」

 スポーツカー、ライドリーベは瞬く間に変形し、10m程のロボット、エクスミラージュへ姿を変えた。

 声も凛々しくも色っぽい女性の物から、優し気な成人男性の物へと変化する。

 人間を模した端正な顔立ちに、頭部にツインテールじみた突起を頂くこれが、異世界の天才科学者Drオヴェルの生み出した、結の持つ恋愛属性に対応したギアなのだ。

 続いて俺たちもゲートへ向けて自分たちのマシンを呼ぶ。

「スカイトゥアール!」

「アクアトゥアール!」

「「ランドトゥアール!!」」

 真紅の戦闘機、紺碧の潜水艦、黄色のドリル戦車がゲートから飛び出し、俺たち四人は高く跳躍して飛び乗った。

『このエクスミラージュ、スカイトゥアール、アクアトゥアール、ランドトゥアールの四機が、敵組織が巨大怪人や戦闘機などを繰り出してきた際に対応する巨大戦力になります。テイルギアの性能から言って、大抵の機動兵器は単体でも撃破できますが、流石に数が多いと火力が必要になってきますから』

 確かに、ロロリーの世界で戦った巨大なユグドラシルギルディですら、力を合わせればメカに頼らずに勝てたのだ。しかし宇宙に拠点を持っていたナイチンゲイルとの戦いのような状況では、テイルマシンが無ければ厳しかっただろう。

『では皆さん、合体をお願いしますね』

 

「ツインローダー! チェイィィィィィン・アァァァァァップ!!」

「「「「双房合体!!」」」」

「三重合体! キィィィィィングミラァァァァァジュ!!」

「「「「完成! トゥアールオー!!」」」」

 

 テイルレッドとテイルブルーの横顔を胸に抱いた白亜の巨神と、ツインテールを備えたデフォルメトゥアールの巨大な似姿という、合体を終えた二大ロボの勇姿が採石場へ降り立った。

『このキングミラージュとトゥアールオーが、現状でのツインテイルズの文字通り最大戦力になります。スタートゥアールの改造が終わっていればグレート合体も可能だったんですが、まだまだ時間もかかりますからね』

 ツインテール属性、眼鏡属性、恋愛属性という、テイルミラージュの持つすべての属性による疑似的な三重共鳴を使いこなすキングミラージュと、ツインテイルズ四人分の属性力を一点に集中させたトゥアールオー。

 まだ上があるとはいえ、確かにこれならどんな奴にも負ける気がしない。

「トゥアール! また作業を手伝うから、スタートゥアールが変形できるようになったらわらわたちに操縦させてくれなのじゃ!」

『最初からそのつもりですから落ち着いてください!』

〈うちらだけおっきくなられへんの、仲間はずれみたいやもんねぇ〉

 眼下を見れば聞こえてくる、自分たちもとロボに乗りたがるブラックたちのやり取りが微笑ましい。

 そろい踏みした俺たちの巨大ロボが、それぞれ武術の型を披露して関節の可動範囲や技のキレを確認していると、それを見ていたブラックから提案が上がった。

「そうじゃ! 戦力を測るなら手っ取り早い方法があるぞ、トゥアール」

『どうするつもりですかイースナ?』

「模擬戦で実際に戦ってみればよいのじゃ!」

 ブラックがトゥアールオーを指さし、自信満々に言い放った言葉に俺は目を剥いた。

「────テイルサンダー! 第一のカードはわらわと貴様じゃ!!」

「やってやろうじゃない」

 チラリと横を見てみれば、当のテイルサンダーは自信に満ちた笑みを浮かべている。

 普段イースナを筋トレでしごいているせいで勘違いしているのかもしれないが、テイルブラックを敵に回すと手強いぞ? なんて言っても彼女は聞かないんだろうなぁ……

「イエロー、武器借りるわね」

「ご武運を!」

 そうこうするうちにサンダーはイエローから全身の武装とエネルギーを借り、戦闘準備を整えて飛び降りて行ってしまう。

 昔の結維ちゃんは元気ではあってもそこまでお転婆ではなかったはずだが、なんだか結や愛香から手ほどきを受けているうちに随分好戦的になってしまったようだ。

 愛香は模擬戦を楽しみにしているようで、ツインテールがウキウキとはしゃいでいる。

 会長も喧嘩なら止めに入るけど、こういうのだと加入イベントだとか言って、目を輝かせてOK出しちゃうんだよなぁ。

 そうと決まればギャラリーの行動は早かった。トゥアールが白衣のポケットから長机とパイプ椅子を取り出すと、母さんと並んで実況と解説のポジションにつく。

 ふとキングミラージュを見れば、愛弟子の試合を見守るコーチのように、静かに腕を組んで地面を見下ろしている。

「せめてものハンデをくれてやる。もっともハンデを付けたとしても、貴様に万に一つも勝ち目など有りはせんがのう」

「そっちこそ、後でベソかいてお母さんに泣きつかないようにしなさいよね」

 合体を解除したブラックと、全身に武装を纏ったサンダーが相対し、マイクパフォーマンスじみた煽り合いをしながら互いに大鎌と細剣を構えて、ゴングが鳴らされるのを今か今かと待ち構えている。

『ルールだが、本気の必殺技の使用は厳禁。降参か戦闘不能と判断されたら負けだ。それでは試合開始!』

 レフェリー役の桜川先生がゴングを鳴らした。泣いても笑っても試合開始だ。

 その瞬間、振るわれたダークネスウィップとプラズマグリップの鞭形態・プラズマスナッパーが火花を散らしてぶつかり合う。

『さあ試合開始です! 互いの鞭と鞭のぶつかり合いが火ぶたを切りました!!』

『高いレベルでまとまっているブラックと、火力と格闘センスは充分なれどスタミナに欠けるサンダーの戦い。どのような結果になるか目が離せないわね』

 ブースターを吹かして懐に飛び込もうとするサンダーを危なげなく迎撃するブラック。

 プラズマシューターの雷球と眼鏡からの光線の応酬が採石場を彩った。

 手数に勝るサンダーが全身の火器を使用して弾幕を張れば、ブラックもダークネスグレイブを縦横無尽に振るってその全てを迎撃する。

「わらわの眼鏡は全てを見通す! 貴様の攻撃などすべて見切っておるわ!!」

「そんなの百も承知なのよ!!」

 わざとブラックの足元へミサイルを放ち、爆風で視界を遮ったサンダーが属性玉変換機構を作動させた。

「属性玉変換機構────兎耳属性!」

 跳躍力の強化とエクセリオンブーストの加速を併用したサンダーが、土煙の中を突っ切ってブラックへ襲い掛かる。

「甘いわああああああああああああああ!!」

 すかさず振るわれた迎撃のダークネスグレイブを前に、サンダーは不敵な笑みを浮かべると再び属性玉変換機構を使用した。

「属性玉変換機構────巨乳属性!」

「そのようなものっ! 所詮胸元でしか展開できぬ防護膜など通用するか!!」

「かかったなアホが!」

 その瞬間、飛び出した巨乳がブラックの手首を跳ね飛ばした。

『おーっと! テイルサンダー、躱されるかと思われた巨乳属性が見事に炸裂した!!』

『胸元にしか発生しない防護膜でも、イエローの武装を身に着けていれば胸の装甲を分離できるものね。普段から慧理那ちゃんの脱衣を間近で見ている結維ちゃんの観察力の勝利ってことかしら』

 宙を舞うダークネスグレイブと胸部装甲。テイルサンダーが、未だ超弾性防護膜の発生しているそれへ向けて回し蹴りを繰り出す。

「キラーBスピンキック!!」

 ギアのカラーリング(スズメバチ)と、かつてイースナを下敷きにしたミラージュの殺人おっぱいのダブルミーニングが込められた技が、遠心力で弧を描くツインテールと共にテイルブラックの顔面へ決まった。

 テイルイエローたちの数々の戦いの中、敵の攻撃を弾き、味方のジャンプ台となって来た超弾性防護膜がテイルブラックを真横へ弾き飛ばす。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

『この技でサンダーのチャージは切れたようですね。文字通り全てを振り絞り、性能差を乗り越えた薄氷の勝利と言ったところですか……』

 だがそのまま勝負が決まるかと思いきや、まだブラックのツインテールは勝利を諦めてはいなかった。

「まだじゃ! まだわらわは負けておらん!!」

 山肌への衝突コースに乗っていたブラックだが、ダークネスウィップが地面へ突き刺さり、アンカーとなって衝突を食い止めた。

『何という執念! しかもブラックのこの軌道は!?』

 ブラックは蹴り飛ばされた加速を突き刺さったウィップを起点に遠心力へと変え、速度をほとんど殺さずに元来た方向への帰還を遂げた。

「そんなのあり!?」

「格闘戦は! 貴様だけの専売特許ではないぞ!!」

 エクセリオンブーストの全力噴射で漆黒の弾丸となって突き進んでゆく、ブラックの両腕がガッキィィィィン! と音を立てかねない勢いでクロスされた。

 もはやこの距離では属性玉変換機構は間に合わない。

「────クロスッ! ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォウ!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 フライングクロスチョップの変形技か、喉元から下顎に喰らいついた両腕が振り抜かれ、テイルサンダーが錐揉みしながら宙を舞った。

 そのまま頭から地面へ激突し、彼女の上半身が埋没したことで勝負はついた。

『勝者! テイルブラック────!!』

 桜川先生が高らかにゴングを叩き、勝利を伝える。

『解説のお義母様、今回のテイルサンダーの敗因は?』

『ダークネスウィップを持つブラックを、横方向に吹き飛ばしてしまったことが致命的だったわね。これが上方向だったら結果は違っていたわ』

 素の状態でも強力だったテイルブラックを相手にして、ここまで食い下がれたテイルサンダーの勇姿に俺たちは惜しみない拍手を送った。

「そーじ……機会が有ったらあたしとも()ろうね❤」

「ああ! 今までずっと負け越してるけど、今度ばかりは負けないからな!!」

 さて、すっかり日も傾いてしまったので、今日の特訓はこれでお開きだ。

「見たかメガ・ネ! わらわが初めて結維に格闘戦で勝利したぞ!!」

「うんうん。イースナちゃん頑張ったなあ……」

 結維ちゃんから勝利をもぎ取ったイースナが、メガ・ネに飛びついて大喜びで勝利の報告をしている。

「っぷはあ! ……イースナちゃん! 覚えておきなさいよ、今度戦うことが有ったら絶対わたしがあなたを這いつくばらせてあげるんだからね!!」

 対する結維ちゃんは、イエローに引っ張り出されて一息ついたあとイースナへ向けてリベンジマッチを勇ましく宣言していた。

「おうおう、その時はまたわらわが返り討ちにしてやるのじゃ!」

「わたくしだってイースナさんと戦ってみたいですわ!」

「うむ! 慧理那も胸を借りるつもりでかかって来るがよい!」

 戦い終わって日が暮れて。真っ赤な夕日に照らされた少女たちのツインテールが、青春と友情の輝きに彩られていた。




結維がタイガーファング喰らわせた仕返しにクロスボウぶち込んでやりました(虎覆面感)
イースナの師匠が誰なのか知らない人は15巻読もうね!

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