俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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過去編。三人の出会いと中学時代の終わりまでをダイジェストでお送りいたします。
お待ちかねの例のシーンもあるよ!
21.3.24:一部シーンを差し替えました。


幕間「俺、親友をくっ付けました」

 ────昔のことである。俺が陽月学園初等部に入学してから少しして、自分が二人のクラスメイトをついつい目で追っていることに気が付いた。

 観束総二と津辺愛香。幼馴染らしく、なにかと一緒に居ることが多い男女だ。大抵の子供は幼稚園を過ぎると途端に男女の交流が無くなったりするものだが、この二人は随分と仲が良いらしい。

 愛香だけでも、総二だけでもなんともないのに、二人一緒で仲良くしているのを見ていると不思議と胸が温かくなる。

 あの頃の俺はいつも絵を描いているか本ばかり読んでいる内向的な子供で、なかなか積極的に友達作りをすることが出来なかったが、たまたま席替えで二人と同じ班になった俺は、給食の時に総二が嫌いなものが出て困っていたのを見て勇気を出して助け舟を出してあげた。

「そうじくん、それ食べらんないなら僕が食べてあげるよ」

「いいのか?」

 いわゆるモンスターペアレンツと称される、給食の献立に理不尽な文句をつけるなどして教師を困らせる無駄に過保護な親が増えている近今、陽月に子供を通わせる家庭はそんなこともなく、担任も給食を残した生徒を叱りつける今時珍しく厳しい教師だった。

「合図したら皿に移してよ……よし、今」

「サンキューな、むすぶ」

 担任の目を盗んで残り物の処分を手早く行った俺は、総二からの感謝の言葉に心地よいこそばゆさを覚え心から友達になりたいと思ったのだ。

 それ以来、俺はなにかと総二と話すようになり、それに付随して愛香とも仲良くなるのは当然の流れだった。

 そして総二がツインテールという髪型が好きだと知った時、共通の話題を求めてツインテールについて調べるうちに、漫画やアニメの魅力的なツインテールキャラと出会ったことで俺自身もツインテール好きになっていった。

 

 二年生になってから少しして、俺にとって一生忘れられない事件が起きた。

 昼休みにみんなが元気よく校庭で遊ぶ中、一人裏庭でノートにペンを走らせていた俺はたちの悪い上級生に絡まれてしまう。

「こいつ、女の絵なんか描いてやがるぞ~気持ち悪りぃ~」

 ノートを取り上げられ、中身を散々囃し立てられからかわれる悔しさに、俺は泣きながら必死になって取り返そうとするが相手は年上の上に三人。喧嘩も満足にしたことのない俺が敵う道理もなかった。

「やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」

「────あんたたち、なにしてんのよ!!」

 そこへ颯爽と駆けつけてくれたのは愛香と総二。

 二人は体格と数の差をものともせずに上級生を叩きのめし、彼らを情けないほどの涙目逃走へ追い込んでしまう。

 しかし人間が吹っ飛ぶほどの蹴りなんてTVや漫画の中だけだと思っていたが、なかなかどうして世界は広いものだ。

 後に愛香が熊殺しを達成したと聞いたときは、ああ、いつかやると思っていたと素で納得してしまったくらいだ。

 落ちていたノートを拾ってくれた総二が、偶然開かれていたページを目にする。

 友達とは言え、あの上級生のように囃し立てられるのではないかとの嫌な考えが一瞬脳裏をよぎるが、帰ってきたのは予想外の称賛の言葉。

「すごいなあ……これ、愛香だろ?」

「なに? あたしの絵? ……やだかわいい」

「え……判るの?」

「ツインテールを見ればわかるよ。むすぶ、絵上手いんだな!」

 漫画チックにデフォルメされている上に、8歳の子供が描いた鉛筆画だというのに実在のモデルを看破するとは総二に備わったツインテールへの審美眼はどれほどのものなのだろう? 普通の人間なら髪型やリボンなどの装飾品で判別するはずだ。

 当時の俺は子供心に感服した。

「ねえ、隣に描いてあるのはそーじ?」

「うん、あいかちゃんのツインテール、そうじくんと一緒の時が一番きれいだから……絵に描くときも、一緒じゃないとって思ったんだ」

 それを聞いた途端、愛香の顔が瞬間湯沸かし器のように沸騰する。

「な、なななななななななにいってるのよ! もう! もうっ!!」

 真っ赤になってくねくねイヤンイヤンと悶える愛香の姿に、俺は生まれて初めてのトキメキを覚え、嗚呼、恋する女の子とはかくも美しく愛らしいのだとこの世の真理を悟った。

 蹴飛ばされた上級生の仲間は去り際に化け物と口走り、口さがない同級生からは小魔王姫(サタンプリンセス)などと恐れられている愛香だったが、助けられた俺の目には天上から舞い降りた戦乙女のように見えたものだ。

「二人とも、道場に通ってるんだよね? ……僕も習ったら強くなれるかな?」

「なれるさ! 俺はまだ愛香にぜんぜん敵わないけど、あいつらくらいならすぐだって!」

「そう簡単には追い抜かせたりしないんだからね!」

 涙をぬぐった俺は、二人と笑い合う。

 俺は胸に焼き付いて離れないこの日、総二と愛香という親友二人の関係に恋をしたのだ。

 

□□□□

 

 時は流れ俺たちは中等部へ上がり、総二のツインテール馬鹿はますます加速し、愛香のツインテールも美しさを増していく。

 そして俺は、道場の稽古に打ち込んだ後のご飯が美味しくてついつい食べ過ぎてしまい、背は総二を追い越したものの冬眠前の熊みたいにすっかり太ってしまった。

 俺以上に食べる愛香がモデルのようにスリムな体型を余裕で維持しているのは、消費カロリーを全て戦闘力に変換できているためだろうか? と不思議に思ったものだ。

 高等部に居る姉の恋香さんは、適切な位置に脂肪が付いているせいで余計に。

 そんなわけで、縦にも横にも伸びた体型と、読書量の増大やTVゲーム、PCなどによる視力の低下も相まって、定冠詞を付けたくなるほどのオタクと化した俺は、クラスの女子たちからのひそやかな悪口を完全スルー出来るほどの面の皮を手に入れこれまで通り総愛ウォッチングに日夜精を出す。

 二人の邪魔をしないよう気配を断つ技術が身についたのも収穫だ。

 だが三年に上がってから、愛香がたまに見せる不安げな表情が気にかかるようになった。

 そのことをツインテールから感じ取った総二が指摘しても、愛香は「お姉ちゃんがますますモテるようになっちゃって、うっかり変な男に引っかかったりしたらやだなって思ってるだけよ」などとはぐらかすばかり。

 素直で人を疑うことを知らない総二は騙せても、この俺は騙せないぞ。と言葉の裏の嘘を見抜き、彼女が一人になった隙を見計らって近づいた俺は不安の理由を問いただした。

「……そーじがね、あたしの気持ちに全然気付いてくれないの」

「そーじのやつ、本当にツインテールにしか興味なくて、これからもずっと幼馴染の関係から抜け出せないんじゃないか、もうじき中学も卒業しちゃうし、このツインテールもいつまで続けられるんだろう……って思ったら、不安で眠れない日も毎日のようにあって……」

「ねえ結……あたしどうしたらいいの? どうしたら総二に気付いてもらえるの? あたしから告白しようにも、フラれたらって思うとそんな勇気でないよぉ……」

 最後には涙交じりに悩み悩んだ胸の内を吐露した愛香の姿に、いつしか俺の目からも涙があふれていた。

 ────ここでなんとかしなくちゃ男がすたる。いや、男以前に友達じゃねえ!

 ひそかに決意を固めた俺は、休み時間が終わるからと話を切り上げて教室に戻り、涙の跡を目ざとく見つけた総二の指摘をウィットに富んだ切り返しで丸め込んだ。

「お前、泣いてたみたいだけどどうしたんだ?」

「ん、こいつはな……愛香から悩みを打ち明けられたんだけどさ……あいつ、恋香さんは胸のサイズがどんどん増えてるのに、自分はさっぱり育たないんだって涙ながらに言うもんでさ……あまりに哀れだったからもらい泣きしちゃったよ」

「────結、後ろ」

「────え?」

 次の瞬間、遅れて戻ってきた当の本人にすべてを聞かれ、俺は彼女の怒りの必殺キックで蹴り飛ばされ、窓を突き破りながら放物線を描いて校庭へと落下した。

 一瞬、花畑の向こうで死んだおばあちゃんが手を振っていた気がしたが、無事に授業へ戻ることが出来た。

 え? 三階から落ちてなぜ無事だったかって? それは水影流柔術を習っていたおかげで無意識のうちに受け身をとっていたからさ! HAHAHA!! ……柔術ってすごい。

 

 それからというもの、愛香のためにも俺は総二の意識改革に総力を挙げることに邁進した。

「俺、将来子供が出来たらツインテールに結んでやるのが夢でさ、うちの結維相手に練習してるんだけどバランス良く結わえるのって大変なんだよな……」

「どうりで最近結維ちゃんのツインテールに気合が入ってると思った。綺麗なツインテールって、やっぱり努力の結晶なんだな……ツインテールを結ばせてくれる相手がいるなんて羨ましい……」

 ある時は総二たちも妹分扱いしている妹の話題を出し、ツインテールのケアがどれほど大変かそれとなく伝え、ツインテールを自由にいじれる環境への羨望を喚起し。

「これ、面白かったから読んでみろよ」

 またある時は鈍感主人公のラブコメラノベや漫画(もちろんヒロインはツインテール)をさりげなく貸してやり、

「つれーわー、マジつれーわー」

「深刻な顔してどうしたんだよ?」

「連載追ってた漫画が寝取られ展開になって死にそうになった。もうあの作者の漫画見るのも嫌だわ……」

「そ、そんな酷い展開だったのか?」

「……好きな漫画のヒロインがツインテールを切り落とされたり、ツインテール好きじゃない男と付き合ってツインテール辞めちゃうシーンを思い浮かべてみろ」

「────! それは……身を切られるように嫌だ」

「今の俺の心境が分かったろう? 胃がズンと重くなっただろう?」

 失恋の辛さをツインテールに例えて語り、総二に少しでも共感を芽生えさせてみたりと、細心の注意を払って徐々にではあるが恋愛感情へ視線を向けさせていった。

 その甲斐あって、総二が愛香のツインテールに向ける視線に変化が現れたり、手と手が触れあった際に頬を赤らめるなどの胸キュン場面が時折見られるようになってゆく。

 見守る俺もクラスの女子たちもウハウハでメシウマだ。

 それからしばらくして総二の部屋で二人っきりでいる時、トドメの楔を打ち込むために愛香の将来のことを漏らしてみる。

「愛香ってさ……いつまでツインテール触らせてくれるんだろうな」

「な、なんだよ藪から棒に」

「だって愛香可愛いじゃん、いつか彼氏出来たらツインテールもそいつの物になっちまうんだぞ? それにもしそいつがツインテールに興味が無かったら、髪型変えちまうかもしれないし」

 俺がもし彼氏の立場だったら彼女の髪をホイホイ他の男に触らせたくないな。とぼんやり空を見上げながら付け加えると、総二が何かを堪えるような表情で胸を押さえるのが横目に見えた。

 ────やっと自覚が出てきたかクックック。

 俺は内心で邪悪な笑みを浮かべた。しかし俺も汚れきったもんだな。穢れなき子供の頃しか知らない昔の両親が、今の俺を見たら嘆き悲しむこと請け合いだぞ。

 

「────状況はここまで進行しております、店長」

「グッド! なかなかの手際だわ────いよいよその時が来るのね」

 総二が留守にしている時、俺はカウンター席でお冷の氷をバーボンか何かのようにカランカラン鳴らしつつ未春さんへ総二改造計画の現状を報告し、雇い主でもある彼女から称賛の言葉を聞きながらいい気分でグラスを傾けた。

 これで出で立ちが制服のブレザーではなく、黒づくめのスーツとトレンチコートあたりなら格好がつくんだがね。

 

 ────そして冬休みを迎えた中等部最後のクリスマスイブ、ついに皆が待ち焦がれたその時がやってきた。

 アドレシェンツァで開かれたクリスマスパーティーがたけなわになった頃、どちらともなく視線を向け合った総二と愛香が適当な理由をつけて会場を抜け出してゆく。

 金欠の時に度々お世話になっている未春おばさんのアイコンタクトに首肯を返し、当然のように俺もついてゆく。

 二人が店の裏手にやってきたのを確認した俺は、塀の影に身を隠して静かに深呼吸し、周囲と一体化することで気配を消し去ると、集音マイクを接続したICレコーダーのスイッチを入れる。息子の成長を楽しみにしている未春おばさんへの大事なお土産だ。

 そうこうするうちに総二が口を開き、俺は全神経を耳に集中した。音しか聞こえなくとも心の眼が二人の姿を描き出してくれる。

「────愛香、これから言うことをよく聞いてほしい」

「うん」

 期待と不安に愛香が息を飲む。チラホラと雪が舞い、二人の吐息を白く染めるこの冬の寒さに負けないほどに、その顔は赤く染まっているのだろう。胸の内では早鐘のように、耳を近づければドキドキが聞こえてしまいそうなほど心臓が脈打っているかもしれない。

「一生のお願いだ、ツインテールを辞めないでくれ。これから先、ずっと俺の隣で、俺のためだけにツインテールを魅せて欲しい」

「そ、それって……プ、プロポーズ……?」

「え!? あ! ち、違……違わないけど! えーと、お、俺と付き合ってくれ!!」

 その一言を引き金に、愛香の眼から涙が溢れた。

「────うん! 喜んで……総二……大好きだよ……」

 優しく抱きしめるようにツインテールを摘まみながら告げられたその言葉に、彼女は10年近い間胸中にしまい込まれていた想いで答える。

 街灯に照らされる二人の影が一つに重なった。サンタクロースのくれた、人生最大のクリスマスプレゼントにして聖夜の奇跡だった。

 

 ────感動の名場面にもらい泣きしてグズグズとティッシュで鼻をぬぐっていると、店に戻ろうとした二人とばったり遭遇した。ああ、表から帰らないと怪しまれちゃうしね。

「え!? 結、なんでいるんだ!? ……そのマイクは何なんだよ!?」

「あ、あああああああああああああああんた全部聞いてたわね!? 信じらんない信じらんない信じらんない!!」

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 舞い散る雪が瞬時に蒸発してしまいそうなほど顔面を紅潮させた愛香の、丸太くらいなら軽く真っ二つにできそうな蹴りを転がってかわし、俺は捨て台詞を残して現場を走り去った。

「フハハハハハハハハハハ! さらばだ明智君! この音声は君たちの結婚披露宴でスライドショーと一緒に上映してやるとしよう!!」

「もう! 馬鹿ぁ! 変態! 覗き魔!! ……………………ありがとう」

 罵声の最後に消え入りそうな声で漏れたその言葉を逃さず耳にした俺は、心に翼が生えた心境でスキップしつつ家路についた。

 

□□□□

 

 総二と愛香が前よりずっと仲睦まじくなった新年。これまでは面倒くさがって行かない年もあったのだが、今年の俺たちは三人揃って初詣に出かけ、今年の無事を祈願した。

 去年までだったら総二はツインテールが流行るように、愛香は胸の増量か総二と付き合えるように祈っていただろう。

 俺? もちろん毎年のように二人の幸福を祈っていたに決まってる。今年は神様へのお礼もかねて、奮発して諭吉さんだって投入したさ。

 そして卒業を控えた最後の新学期。愛香はメールや電話で恋が実ったことを知らせていたのだろう、女子の友人たちからスターか何かのように万雷の拍手をもって迎えられ、総二も散々冷やかされる羽目になった。

 いやあいいねえ祝福されるカップルを包むこの空気。冬の寒さも吹き飛ぶぜ。

 

 ────だが2月2日の総二の誕生日が過ぎてから事件は起きた。

 例年通りの大雪のシーズン、雪の積もる通学路をひーひー言いながら歩いていた俺は、自宅の玄関先でうずくまる女性を見かけ声をかけた。

「もしもし、大丈夫ですか……って恋香さん! どうしたんですか!?」

「……結くん」

 どれほどそこでじっとしていたのだろう? 天使の輪を描く艶やかな黒髪や、細く華奢な肩に積もった雪が立ち上がる拍子に零れ落ち、泣きはらしたように赤くなった目の恋香さんが口を開き、嗚咽した。

「愛香に………………愛香に嫌われちゃったあああああああああああああああああ!!」

 綺麗に結われた、初めて見る恋香さんのツインテールに目を奪われる。ところどころに白い雪の付いたその二房は、寒さと悲しみにその身を震わせていた。

 冷え切ってすっかり冷たくなった彼女の手を取って、まだ家人が誰も帰宅していない家に招き入れた俺は、とりあえず熱いコーヒーを淹れる。家にはインスタントしかないが、淹れ方で少しはマシになるものだ。

 スティックシュガーとコーヒーミルクを添えて差し出されたそれを静かに飲んで一息ついた恋香さんは、ポツリ、ポツリと事情を語りだした。

 

「────は? 愛香を襲いかけた?」

 彼女の口から語られた言葉に耳を疑った俺は、怪しげな物を見る目でこの恋香さんが偽物なのではないかと再確認する。すぐ彼女はシスコンだったと思い直し、納得した。

「愛香と総くんがやっと付き合いだして、愛香がすっごく可愛くなって……どんどん美味しそうに見えてきて……この間の、総くんの誕生日に、遂に一線越えたって聞いて……それで、もういいよねってツインテールにして見せたら、愛香がすっごく可愛い表情でツインテールにしないでって縋り付いて来て……それが本当にたまらなくて……家で女になった愛香の側に居たら無性に食べちゃいたくなって……」

「気が付いたら押し倒していた、と……」

 頷いた彼女に、俺は無言で平手を振るった。

「そんなの、嫌われて当然だ! あんた、姉のくせになにやってんだよ!!」

 乾いた音が響き、呆然とする恋香さんへ罵声が降り注ぐ。彼女は堰を切ったように泣きながら俺に縋り付き、必死に懇願する。

「お願い、見捨てないで! もう結くんにしか頼れないの…………何でもするから……私にできることなら何でもしてあげるから………………!!」

 道行く男が誰でも振り返るような美貌を涙でぐしゃぐしゃにしながら、俺の胸に顔を埋めてそう言われては、流石に怒りも収まってくる。

 綺麗なお姉さんに頼りにされて、下心が無かったとは口が裂けても言えないが、仲良しだった愛香と恋香さんが仲違いしたままなのは嫌だ。

 たとえ本性が変態だったとしても、彼女は愛香の自慢の姉さんなのだから。

「………………わかりましたよ、絶対出来るかは約束できませんが、愛香と話してみます」

 

□□□□

 

 ────姉妹の気持ちが落ち着くまでに一晩が経った。

 観束家二階にある総二の部屋で、クッションを抱いて膝を抱えている愛香は姉の行動がよほどショックだったのだろう。愛しの総二の呼びかけにも生返事で、いつもの元気がまるで感じられない。

「……お姉ちゃんがあんな人だったなんて思わなかった。あんなの知りたくなかったよぉ……」

「もう家には帰らないつもりなのか?」

「帰れるわけないよ! あの人と二人っきりなんて……」

 愛香の脳裏に、自分に迫り唇を奪おうとした恋香の姿がフラッシュバックする。

 未春は昔から気づいていたそうだが、尊敬していた姉が、自分をそんな目で見ていたと思うと恐怖に身がすくむ。たった一人の愛しい男(大好きなそーじ)以外とそういうことはしたくないのに……

 頼みの綱の両親も、折り悪く夫婦そろって海外へ出張して家を空けてしまっていた。もはや津辺家にはなにかあっても恋香を止めてくれる人間は一人もいないのだ。

 そんな折、総二の携帯が着信を告げる。結からの電話だ。

「もしもし────結、どうかしたのか? え、愛香?」

 名前を呼ばれてビクリと跳ねた愛香は、小声で総二へ向かって居ないって言ってと伝えるものの、根が素直で嘘の苦手な総二では態度でバレバレで、付き合いの長い結に隠しきることはできなかった。

 愛香にあまり聞かせたくないと部屋を出て、階段下で電話を続ける総二は結が恋香を連れてこちらへ来ると聞き、渋い顔をするが、ついには説得に折れてしまう。

『……恋香さん、見たことないくらい必死で、泣いてたんだ。俺、二人をこのままになんてしたくない。仲直りに協力してくれよ……』

「────わかった」

 

「愛香、ここに居るんだろ?」

「………………ああ」

 ツインテールを解き、いつも見慣れたストレートヘアに戻した恋香を連れてアドレシェンツァを訪れた結は、愛香の居るだろう総二の部屋へ向かい、話だけでも聞いてくれるよう頼み込んだ。

「………………何しに来たのよ、その人と話すことなんてないわ」

 だが愛香から帰ってきたのは、けんもほろろな取り付く島もない態度。それでもそこで諦めたくなかった結は、恋香とともに頭を床にこすりつける勢いで土下座を敢行。必死に彼女に許しを乞うた。

「ちょ、ちょっと! どうして結まで……なんでそこまでするのよ!?」

「そんなの……愛香と恋香さんに仲良くしててもらいたいからに決まってる! お前と恋香さんが泣きべそかいて塞ぎ込んでるのなんて我慢ならないんだよ!!」

「愛香、許してちょうだい! 家を出てもいいから……私のことを嫌いにだけはならないで!!」

「恋香さんがやらかしそうになったら、俺が止めるから! だから今度ばかりは許してやってくれよ!!」

 親友のその必死さで、理由に思い至った愛香はどうにか気持ちを飲み込むと、友の恩義に報いるためにも特別に顔を立てて折れることにした。

「………………本当に今度だけよ?」

「────愛香!」

「結の頼みだから特別に許すんだからね。結を泣かせたり、こいつの顔に泥塗るような真似したらただじゃおかないんだから」

「うん……うん……! もう、総くんの前でツインテールにもしないし、愛香に変なこともしないって約束する!!」

 二人しての土下座土下座土下座&土下座でどうにか彼女の怒りは鎮まり、恋香も過剰なスキンシップを控えることを約束させることが出来た。

 完全に元通りとはいかないものの、姉妹の関係が破局するという最悪の事態だけは避けることが出来、結は安堵した。

「言っておくけどな、本当にお前の前ではツインテールにさせないからな?」

「わ、わかってるさ! 俺の一番のツインテールは愛香だけだ」

 そして恋香のツインテールと聞いてにわかに色めき立つ総二へ釘を刺すのも忘れない。

「……で、結? 俺が止めるって言うけど、あんたが居ないときはこのお姉ちゃんをどうするわけ?」

「────あ」

 指摘されて今更ながらにうろたえる。

「そ、それは……私が我慢すれば……」

「ふふっ……それならさ、いっその事家に泊まっちゃいなよ。お父さんたち居ないから部屋も空いてるし、結が来れない日はあたしそーじのとこで寝るから」

「「……………………………………………………………………………………………え?」」

 愛香が言い放った予想外のその言葉に、二人は互いの顔を見合わせると言外の意味を理解して赤面する。

「────ふ、ついにこの日が来たのね」

 一方、一部始終を把握していた未春は、店でカップを磨きながら息子の友達にも春が訪れたことを静かに祝福していた。




今作での告白はこうなりました。
この手段で本当に総二の鈍感が治るかは知らん。でも彼にはツインテールでの翻訳ができる恋愛感情の先生が必要だと思います。
そして恋香さんはこんな風に落とされました。まあ前々からの知り合いで、愛香と総二をくっ付けて(最高のご馳走を用意して)くれた上に、自分の不手際でこじれた姉妹仲を修復してくれたら惨事女でもない限り惚れるんじゃないかなー? と。
一瞬脳裏をよぎったアイディアに、「許してほしかったら結と付き合ってあげなよ」なんてのがあったのですが、愛香はこんなこと言わねえな、と思い直してボツに。
あと烏賊野郎なんぞに愛香のファーストプロポーズは奪わせねーよ! ゲバラララララララwwww

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