俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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お待たせしました、更新です。
今回「ふぉーくーるあふたー」の重大なネタバレを含む部分がありますので未読の方は何卒ご容赦ください。


第四十七話「勝利のメイド長」

 かつて異世界で『地球』と呼ばれた惑星が、アルティメギルとの戦いで敗色濃厚となった際、その世界のツインテール戦士が乾坤一擲の賭けとして、惑星丸ごとの異世界転移を行い、追撃を振り切った世界が有った。

 しかし転移の影響か、はたまたエレメリアンに属性力を奪われた後遺症なのか、住人はツインテール戦士一人を除いて、青森県の郷土玩具である八幡馬の如き姿に変質し、自らの住む惑星が地球という名前であることすら忘れ去ってしまったという。

 そんな惑星、ユーマエルが存在する20151223世界を訪れた(ふね)が一隻。

「へぇ……なかなか面白いものが残ってるじゃない。アルティメギル(うち)以外の組織も馬鹿にできたものじゃないわね」

 この世界でも、地球へ表側だけを向けて公転する衛星・月の引力に捕らわれ、周囲を力無く漂うモノを眼下に見下ろして、マーメイドギルディは愉快そうにほくそ笑む。

 漂う二体はいずれも属性力がほとんど底をつき、どう見ても死に体だ。ここまで手酷くやられていて、爆散していないのが不思議なくらいである。

 死にぞこないの上になりそこないの、お世辞にも純度が高いとは言えない存在だが、これ程巨大なエレメリアンは、最終闘態に到達したアルティメギル隊員にもなかなか居るものではない。

 なればこそ、首領の吐息(ゴッドブレス)の実験にはもってこいだ。実験データもサンプルも、多いに越したことはない。

 マーメイドギルディは移動艇のハッチを開くと、巨大怪獣と巨人、穴の開いた箇所を雑に補修された巨大円盤を、掃除機で吸うかのように異次元空間に収納し、実験場に定めた世界────テイルミラージュの存在する20150308世界へ舵を切った。

 この世界周辺の次元域は大規模な異世界転移の影響で、かれこれ一年以上経とうかというのに次元境界線は歪んだままで、超空間も嵐の海のように荒れ狂っており、近づく者を容易には寄せ付けないのだが、有象無象の組織ならいざ知らず、アルティメギルの科学力なら未舗装の山道を行くが如しだった。

 

□□□□

 

 アルティメギル四頂軍の一角、美の四心(ビー・ティフル・ハート)は激闘の末崩れ去った。

 だがいつまた新たな四頂軍が侵攻してくるかわからない。地球に訪れた束の間の平穏を、俺たちツインテイルズは基地のモニターで朝のニュースを眺めながら、噛み締めるように満喫した。

 

『────それでは富士駐屯地の自衛隊員が撮影した映像がこちらになります』

 

 キングミラージュとタイタンギルディの大決戦、ばっちり撮影されてました。

 富士山の麓には基地有るからね。そりゃあ撮影されるよね。

 キングミラージュの細部を確認するための画像解析が行われ、明らかとなった胸のレリーフをしっかり全国のお茶の間に流されたせいで、観束家のリビングでは総二と愛香が羞恥に頬を染めテーブルに突っ伏して呻き声を上げてました。

 それを眺める恋香さんも俺も、ニヤニヤ頬が緩むのを抑えられませんでした、はい。

「きっとこの後襲来するのは、順番から言って死の二菱(ダー・イノ・ランヴァス)ですわ」

「タイトルコールにも、“恐竜軍団シリーズ”とか追加される感じよね。イースナちゃんもバイクになるメガ・ネさんと合体するし」

「わたくしもバイクになれますから、メガ・ネさんと合体したいですわ……チェンジ・合体ツインテイルズ! という感じで」

「メガ・ネと合体するのはわらわじゃ! こればかりは慧理那でも譲らんぞ!?」

 一人だけ年上の年少組がPプロ臭たっぷりに盛り上がっている。しかし流石は会長、あえて合体コールをストロングと言わないところにこだわりを感じるぜ。

 おい結維、念のため釘を刺しておくが飛龍三段蹴りは生身で使うなよ? あれは訓練を受けた秘密刑事だから使えるんだからな?

 重ねて念を押すが、ライバル好きだからって、サンダーパンチやハリケーンパンチも禁止だぞ?

 ……俺も愛香もやろうと思えば使えるけど。

 

「慧理那があんなに楽しそうに、ツインテールをイキイキとさせる姿を見られるなんて……ありがとうございます、未春さま」

「もう……私とえむぴーの仲じゃない」

 そしてここに、総二の胃痛の原因がもう一つ。

 学園へ向かうついでに、会長の車に相乗りしてきた神堂慧夢理事長である。

 美の四心との決戦当日、アドレシェンツァを神堂慧夢理事長が訪れていたのは皆も知ることだったが、あの後俺たちの正体が彼女にバレたのだ。

 テイルレッドとテイルミラージュの正体が男だと知っても、温かく受け入れてもらえたのはいい。

 だが未春さんと理事長の感動の対面の際、結維が何をしたのかは知らないが、やけに気に入られてしまっているのがそこはかとなく不安を誘う。

 会長に訊ねてもその辺りの記憶があいまいだそうで、何とも要領を得ない。

 筋金入りのドMの理事長が、TVに映るテイルサンダーの暴れっぷりに惚れこんでしまっただけではない気がすると、俺の第六感が叫ぶのだ。

「わたくしが裸になるや、すかさず写真を撮って脅しの種にする結維さんの迷いの無さ。まだ小学生だというのに、わたくし彼女の将来が楽しみで楽しみで……」

「結維ちゃんには私の技術を全て伝授するつもりだから。期待しててね、えむぴー♪」

「「結局そういうオチかよ!!」」

 俺と総二も台詞をハモらせて、トンチキな母親たちへと叫ぶのだった。

 

「朝からドッと疲れが出た気がする……」

 TVでの扱いと、強烈な母親のやりとりとのダブルパンチを喰らった総二は、愛香とトゥアールに手を引かれながら、半ばグロッキーになりつつも通学路を歩いてゆく。

「そーじ大丈夫? あたしのツインテールさする?」

「トゥアールちゃんのおっぱいもありますよ?」

 二人の言葉に甘え、豊かな胸に顔を埋め、艶やかなツインテールに指を絡ませる総二だったが、その回復量は芳しくない。

「愛香……一発ガツンと、俺に気合を入れてくれ!」

 このままではだめだと頭を振り、腹に力を入れて仁王立ちした総二は愛香に嘆願する。

「わかったわ! ────ふっ!!」

 その言葉に応えた愛香は、自慢のツインテールを風切り音も高らかに振るい、総二の横っ面に一発二発と愛の鞭を喰らわせた。

 効いた! 愛の目覚め!!

「ありがとうな、愛香。おかげで目が覚めたよ」

「そーじ……」

 途端にシャキッとした総二は、愛香の手を取って感謝の言葉を述べると互いに見つめ合い、一方は打撃痕、もう一方は紅潮で頬を染める。

 

「いやー、朝からいいもん観させてもらったわー!」

「うおっ!?」

 途端、どこから湧いて出たのやら、学園の生徒たちが冷やかしとも祝福ともとれる言葉を贈りながら、ベルトコンベアーのような等間隔で流れるように通り過ぎ、最後の女子はバレリーナのように回転しながら去っていった。

 俺はその一部始終をメールにしたため、速やかに未春さんへと送信する。

 不意に、車道を挟んだ向こう側の電信柱の陰に潜んでいたアドレシェンツァ常連さんの、トレンチコートおじさんと目が合う。俺たちは無言で頷き合い、総二の周りで起こるラブコメイベントを見守る者同士の絆を再確認するのだった。

 

□□□□

 

「なあ見たかゆうべと今朝のニュース!」

「見た見た! かっけーよな、ツインテイルズのロボ!!」

 陽月学園初等部6年2組の教室では、朝から男子たちが目を輝かせて、ニュースで報じられていたツインテイルズの巨大ロボットの話題で盛り上がっている。

 それを横目に友人と談笑する結維も、基地格納庫の整理が済んでからは慧理那と共に連れ立って、トゥアールオーと並び立つキングミラージュの勇姿を間近で眺めに行った口だ。

 合体形態を維持してこそいたが、主が降りた無人のため、その瞳も胸のエンブレムからも灯は消えていたが、それでもカッコいいことに変わりはない。愛しの兄の愛機なのであるから感動もひとしおだ。

「キングミラージュって言うんだってな。映像でエレメリアンが呼んでるの聞いたぞ」

「必殺武器はフォーリンソード、必殺技はトゥルーエンダー! たまんねえよなあ……」

「あのクワガタのエレメリアン、夏休み前にTVに出てたやつだよな? 親玉っぽかったけど、もうアルティメギル来ないのかな?」

「今までも色々親玉っぽいのが演説してたじゃん。きっとまだ他の幹部や首領とか、帝王が残ってるって!」

「でも映像じゃ男の声が聞こえなかったか? 乗ってるの、もしかしたらテイルミラージュじゃなくて別の奴なんじゃ……?」

 その話題を耳にした途端、結維の身体は素早く反応していた。

「馬鹿ね。ああいうのは男の声でしゃべるって相場が決まってるのよ。テイルミラージュだってノリがいいんだから、こだわって声変えるくらいするに決まってるでしょ!」

 普段から男女ともに人気があり、最近めきめきと運動でも活躍している結維という、一見オタ知識とは縁遠い意外な人物の意外な発言に、男子も女子も目を丸くする。

「……わたし、おにいちゃんと慧理那ちゃんの影響で、そういうの詳しいから」

「そう言えば慧理那ちゃんヒーロー好きだっけ……」

 高等部の生徒でありながら、結維を通じて初等部の面々とも顔なじみの慧理那は、ここでもその愛らしさから人気を博しており、彼女のヒーロー好きも結維の友人なら周知の事実である。

 咄嗟の言い繕いで、どうにか教室の空気は元に戻った。内心安堵の息を吐く結維は、教室の隅で浮かない表情を浮かべている穂村あけみが目に入り、気になって話しかけてみることにした。

「穂村さん、元気ないけど何かあった?」

「あ……長友さん。実は……」

 かつてエレメリアンから救われて以来、結維に対して胸襟を開いている穂村あけみが、人目を気にして小声で言うには、数日後の九月十五日に父親の交際相手と三人で外食に行くことになったのだが、どう接していいかわからないそうだ。

 正直、友人の家庭問題なうえに思いっきり身内の話題なだけに、話を振られた結維としても返答に困る。

「あ……いきなりこんなこと言われても、困るよね。ごめんなさい、長友さん……」

「……そのお相手の尊さん、うちのおにいちゃんたちの先生で、わたしもよく知ってる人なんだけどさ、空気読めないし変な所でずれてるけど、本当にいい人だから嫌わないであげてね」

「……え?」

 よもや眼前の友人が身内だったとは。あけみはつぶらな瞳をぱちくりさせて、理解が追い付かないまま間抜けな声を漏らすしかできなかった。

 我に返り詳しい話を聞こうとしたものの、担任教師がやって来てホームルームが始まってしまったため、やむなくその話題は休み時間へ持ち越しになってしまう。

 

「……ってわけなの」

「へえ……そうだったんだ……」

 人目につかない校舎の隅へ移動した後、ざっくりとかいつまんで尊の事情を説明され、あけみは結維との関係に得心する。

「でもすごいなあ……長友さん、高校生とも友達なんて……私とは大違い」

「そんな自分を卑下しちゃだめだよ。穂村さんの一つのことに没頭して脇目を振らないところ、それはそれでわたしはいいと思う。望んでないのに無理して変わる必要なんて、どこにもないんだよ?」

「あ……あうあうあう……」

 こちらの両肩をがっちりと掴み、目線を合わせてはっきりと肯定的な言葉を伝える結維にあけみは面食らい、距離の近さに緊張と気恥しさの入り混じった赤みが頬を染める。

 内向的で自分の殻に閉じこもるばかりが得意な自発的ぼっちが、クラスか下手をすれば学年でも上位に食い込むだろう美少女に、自分の性向を間近で肯定されれば同性でもこうなるのは仕方のないことだった。

「長友しゃん……結維ちゃんって呼んでもいいですか?」

 噛んだ。

「いいよ? わたしも穂村さんのことあけみちゃんって呼ぶから」

 あけみの笑顔が花開く。ぼっちに親友が出来ると、今まで孤独だった反動もあってやたらと執着するものなのだ。

 重ねて言うがこれは同性でも仕方のないことなのだ。

 結維は他人の性癖を頭ごなしに否定しない。ツインテイルズ一同との交流で彼女が身に着けた、寛容の精神の賜物である。

 そもそも結維の本性は、実兄のパンツを被ったり穿いたりして悦に入り、女子高生を犬として飼い馴らす程に極まった女だ。どの口で他人の趣味を否定できようか。

 

□□□□

 

「────ってわけでさ、あけみちゃんがなんか次の日からツインテールにしてきたんだ」

「……そうか。夜道には気を付けろよ」

「うう~~~~」

 秘密基地アイノスに設けられた音楽室で、トランペットの練習をしていた俺は、先程まで俺の演奏に合わせてギターを爪弾き、マカロニウエスタンじみた旋律を奏でていた結維の報告に、薄ら寒いものを感じていた。

 

 ────人、それを悪寒と言う。

 

 まあ半ば冗談で言ってみたものの、実際見てみればただの取り越し苦労だった、ということも十分あり得る話だがな。

「ほら、慧理那ちゃん心配ないって。あけみちゃんとは本当にただの友達なんだから……」

「でもでもだって、ですけど……!」

 凄い友達に対する憧れなんて、この俺を始めとしてどこにだって転がっているものだ。

 だから会長。そんな犬みたいに唸って、可愛らしく嫉妬する必要なんてないんですよ?

 

 そんなこんなで桜川先生の誕生日を翌日に控えた九月十四日の放課後。女子たちは桜川先生を連れて出かけてしまったため、俺は総二の部屋で今月のヤングドンドンを読みながら、益体も無い話題に花を咲かせくつろいでいた。

 普段みんなと一緒なせいか、男同士二人っきりでだべるのも久しぶりだな。

「あ、総二お前読者アンケート出してないな? いかんぞ~ちゃんと穂村先生に投票しておかないと……こういった地道な活動が作家の生活を支えるのだ」

「ああ、この間までバタバタしてたからすっかり忘れてた」

「帰りにコンビニ寄って出してきてやるよ。ほらハガキ」

 ポーチから取り出したカッターと下敷きを駆使して手早くハガキを切り離すと、俺は総二へ読者の権利である清き一票を手渡し、桜川先生の交際相手である焔刻雄の代表作でお気に入りの、黄金(こがね)のライカを読みふける。

 ……くぅ~~~~! 既に読んだ漫画だが、やはり面白い。特に今回の、日常パートで子供がジャンクパーツから組み上げたプラモデルのオリジナル武器をヒントに、苦戦するライカが周囲のスクラップを活用して逆転する流れが実に素晴らしい。

 高速回転するドリルが巻き起こす旋風に舞い上がったツインテールの描写も、毎度おなじみの白黒印刷を前提としてベタとトーンを巧みに駆使した金髪描写へのこだわりも流石と言える。

「先生たち、明日上手くいくといいな」

「ん? ……ああ」

 雑誌を読み終わった俺は元の本棚へそれを戻しながら、ハガキへペンを走らせる総二に声を掛けると、盆に載せられたグラスを手に取り、コーラを流し込んで一息ついた。

 

□□□□

 

 決戦の時は来た。

 普段のメイド服ではなく、私服のスーツに身を包んだ桜川尊は、いつになく緊張した面持ちで穂村家の門前にたたずみ、チャイムのボタンへ震える指を伸ばす。

 時刻は約束の時間を数分ほど過ぎた頃。家の場所は地図で何度も確認したし、表札だって掛かっている。訪問するタイミングもバッチリのはず。

「何度か一緒に出掛けていたが、いざ家を訪ねるとなると、意外と緊張するものだな……」

 深呼吸をした尊は、意を決してボタンを押し込み、家人が出迎えるのを待ち受ける。

「ようこそ、尊さん」

「今晩はよろしくお願いします、時雄さん」

 程なくしてドアが開き、顔を出した人の良さそうな中年男性────引っ張り出したスーツで精いっぱいおめかしした穂村時雄は、我が家を訪れてくれた尊を温かく出迎えた。

 笑顔ながらそのギクシャクした振る舞いで、お互い緊張していたのだと察した二人は、どちらともなく噴き出してしまい、どこか強張っていた顔をほころばせた。

「……あの、娘のあけみです。き、今日はよろしくお願いします」

「直接会うのは初めてだな。よろしく、あけみちゃん。私が桜川尊だ」

 こちらも緊張し、余所行きの服に身を固めておずおずと名乗りを上げたあけみにも、尊は笑顔で挨拶する。

「じゃあ三人揃ったところで、出かけましょう!」

 

「え!? あけみお前、尊さんが神堂のお屋敷でメイド長やってるだけじゃなく、高校で教師までやってるなんてどこで知ったんだ?」

「友達の結維ちゃんに聞いたの。結維ちゃんのお兄さん、尊さんの生徒で兄妹どっちもお嬢様と友達なんだって」

「……後でもう少し詳しく聞かせてくれ。メモするから」

 時雄が運転する乗用車での道中、三人は会話に花を咲かせ、ぎこちない雰囲気を少しずつ解きほぐすように言葉のキャッチボールをしてゆく。

 中でも学園のアイドルと美人の先生、謎の部活動をしているその友人たちと言う、慧理那たちの漫画のような人間関係に、時雄がついつい創作意欲を刺激されてしまったのはご愛敬だ。

 

 そうこうするうちに、目的地のレストランに到着した一行は、駐車場に車を停めると店のドアをくぐるまでのほんのつかの間、三人川の字に手をつないで歩く。

「私……恥ずかしながら、こうして親子三人で川の字になって歩くのが夢でした。時雄さん、この機会をくださったことに感謝します」

 頬を染め、握り返すあけみの手のぬくもりをしかと感じながら、尊は笑顔で夢が叶ったことへ感謝の言葉を贈る。

 その笑顔に感極まった時雄は、娘とつないでいない反対側の手で尊の手を握り、彼女の夢ならいくらでも叶えてみせるとその瞳を見据えて言い放った。

「これから先、いくらでも手を繋いで歩きましょう尊さん……親子三人で!」

 なんだか盛り上がった父親が、娘の目の前で勢い余って店に入る前からプロポーズを始めてしまったことに、恥ずかしさと微笑ましさ、若干の居心地の悪さを感じながらも、あけみはその様子を静かに見守る以外に手段の取りようが無かった。

 

「いやあ……昔はよく行ってたけど、全然変わらないなあ……」

「この店にはご家族で?」

「ええ……娘が小さかった頃は、誕生日なんかによく連れて行っていました」

 あけみも小さなころ特別な日には連れていってもらっていた、時雄おすすめの店の味が今もなお健在だったことに気を良くしながら、三人は料理に舌鼓を打つ。

「私も、ここへ毎年行けるようになりたいものです」

「はい! 必ず連れてきます!!」

 完全に二人の世界を作ってしまった父親と未来の母親に辟易したあけみは、トイレにかこつけてその場をいったん離れることにした。

 だが不意にあけみは、自分たちの隣のテーブル。尊の後ろの方向に天を衝くドリルが聳え立っているのに気が付いてしまう。

 その威容に一瞬気圧されるが、よくよく見ればそれは席に座るご婦人の髪の毛だ。

 その姿を見て、いつだったかネットで見かけた“昇天ペガサスMIX盛り”なる髪型をあけみは反射的に思い出した。

「あら、何か?」

 こちらの視線を感付かれた。笑顔で振り向くご婦人に、あけみは山中で熊と出会ったような緊張を覚え、身を強張らせる。

 落ち着け。こういう時は慌てず騒がず相手を刺激しないように、目を合わせてゆっくり後ろに下がるのだと、物の本で読んだことがある。

 この時あけみはドリル婦人に気を取られて意識が向いていなかったが、婦人と同じテーブルに着いていた夫とその息子は「ああ、またか……」という納得とも諦めともとれる視線を夫人の頭部へと注いでいた。

「あけみちゃん、一体どうかしたのか────」

 そこへトイレに立ったきり動きを止めてしまった未来の義娘(むすめ)を訝しんだ尊が、振り向いて声を掛け────ようとしてその言葉を失った。

 時雄も背後に聳え立つドリル婦人を目にして言葉を失っていた。

 

「貴女は……先代メイド長!!」

 

「「ええ!? この人(コレ)が!?」」

 尊の声にようやく我に返ったあけみと時雄は、驚愕の内容を耳にして人目もはばからず大声を上げると、視線をドリル婦人こと先代メイド長と尊との間で何度も往復させる。

「貴女は、尊さんではないですか! 久しぶりね……奥様とお嬢様はお元気?」

「はい! お二人ともご健勝で、お嬢様は去年転入された陽月学園で、恋い慕う相手をお見つけになられて……」

「まあまあ! それはめでたいことだわ!!」

 師弟としての旧交を温め、昔話や現在の仕事の話に花を咲かせる神堂家の新旧メイド長コンビ。盛り上がる二人の話題があけみたちとの関係に移ると、居心地悪く視線を彷徨わせていたあけみと時雄は、詰め寄って来た先代メイド長に短く悲鳴を上げる。

「あなた方、尊さんの家族におなりになるのですってね?」

「「ひっ!!」」

 一瞬、頭のドリルがギュルンと廻った気がした。

「尊さんを、どうかよろしくお願いしますね……ではこれで」

 向こうの家族が、終始申し訳なさそうな表情をこちらに向けて浮かべる中、強烈なキャラクターの、竜巻のような婦人が席に戻ってゆく。

 一息つく穂村親子だったが、余りの強烈さにドリル以外の物事が脳内から完全に吹き飛んでしまい、もはや料理を楽しむどころではなくなっていた。

 

 ぐったりとした様子の時雄と、恩師とも呼べる先代に出会えてウキウキ気分な尊はどうにか帰宅した。

 時雄は自分と同じくぐったりしたあけみを家で下し、尊を屋敷まで送り届けるべく気力を奮い立たせてハンドルを握りしめる。

 いくらこの街の治安が良くても、尊が腕に覚えが有ったとしても、近頃はエレメリアンだって出没している。おまけに尊は奴らの付け狙うというツインテールだ。夜にそんな女性を独り歩きさせるのは男が廃るというものだろう。

 甘い雰囲気は台無しになってしまったが、尊さんが喜んでくれたのならまあいいか。

 ────ハッピーバースデー、尊さん。

 時雄は疲れた顔に笑みを浮かべ、アクセルをゆっくりと踏み込んだ。

 

 父と別れ、リビングへたどり着いたあけみは、ソファーに身体を投げ出し何の気なしにTVを点けた。別段観たい番組が有ったわけでなく、脳内をドリルに占有された今の気分を紛らわしたかっただけだ。

『────では次の映像を見てみましょう!』

 流れてきたのはどうやらいつものツインテイルズ特集番組で、今までの活躍を映した映像をランキング形式で紹介するものらしい。

「────え?」

 次に紹介された映像を見て、あけみは目を疑った。

 それは五月ごろに撮影された、陽月学園の高等部をエレメリアンが襲った時の映像だ。

 その映像の中で、つい先ほどまで共に食卓を囲んでいた尊が、ミニスカートのフレンチスタイルメイド服に身を包み、世間では鳴き声からモケーと呼ばれているアルティメギルの戦闘員アルティロイドを、銃を握り高等部の制服を纏った小学生くらいの女の子と共に、ちぎっては投げちぎっては投げしていたのだ。

 

「尊さんって……実はとんでもない人だったんだ……」

 TVから垂れ流されるナレーターやタレントの声など、もはや耳に入らない。

 近い将来自分の母親になる女性が、勇敢極まる女傑であったことに感嘆したあけみの胸は、感動に打ち震えていた。




電人エリーナー・ゴーッ!!(菊池サウンドと子門真人の歌声を添えて)

ふぉーくーるあふたー既読者の方へ。
こいつらな、倒されてるけど宇宙の彼方へ吹っ飛んでっただけで爆散してないんだぜ。
ヴァンドエイドの円盤に至っては放置状態だし。

以下尊さん関連。
多分平日になったらこの二人、朝一で婚姻届出しに行くんじゃないですかね?
あと先代メイド長ですが、独断で名前付けようかとも思いましたが原作で出たら困るので曖昧に。

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