アルティメギル四頂軍
「我々一同、元ダークグラスパー様と言えど手心を加えるなと言い含められております。ゆめゆめ、油断めされぬよう」
「フッ……エロゲーの上蓋に折り目を付けねば開けられぬ未熟者共が、わらわ相手に手加減などと笑止千万!!」
闇の鎌・ダークネスグレイブを手に、正面にいた蟻型エレメリアン、アントギルディに狙いを定めたテイルブラックは、ボクシンググローブのような球状の拳から放たれる渾身の拳打に、流れるような会心の一斬で返礼とする。
お見事、と称賛の言葉を残して爆散するアントギルディに、テイルブルーはそれまでの二人の思い出を幻視した。
「元部下相手じゃ辛いかと思ったけど、あたしたちも負けてらんないわね……行くわよレッド!!」
「応ともブルー!!」
「チェンジ・ライザー!!」「チェンジ・フォーラー!!」
プログレスバレッターとエクステンドリヴォン、双方の
テイルイエローとテイルサンダーも奮戦してはいたが、いかんせん全身に装備されていた武装が、軒並みテイルミラージュのマシンブロウアーに使われてしまっているため、ヴォルティックブラスター以外の火器を使えず苦戦している。
「でもね、武器なら特大のがここにあるんだなぁ……行きなさいイエロー!」
「名付けてヴォルティックフレイルですわー!!」
火力不足もなんのその。身体を丸め、フォトンアブソーバーとロイヤルカラーに繋がったリードの強度に物を言わせ、大質量の打撃武器と化したテイルイエローは、テイルサンダーに縦横無尽に振り回されて、周囲を取り囲むエレメリアンたちをツインテール荒れ狂う金色の旋風となって打ちのめしてゆく。
そして今、対峙する満身創痍のスタッグギルディと、戦闘バイク・マシンブロウアーに跨ったテイルミラージュの戦いもまた、最終局面を迎えていた。
「マシンブロウアーの動きにもう順応してやがる……大した観察眼だねぇ、スタッグギルディ!!」
「君たちの使う、
ダメージにふらつく身体が、却って酔拳のように不規則な幻惑効果をもたらし、マシンを駆るテイルミラージュの攻撃を紙一重で躱してゆく。
「そして……周囲を取り囲み、地上を走る相手にはこうすればいい!!」
迎撃のために角の間にプラズマ球を保持し続けていたスタッグギルディが、大剣
「うわああああああああああああああああああああ!!」
刹那、地を這い放射状に放たれる雷撃。マシンに乗ったままでは咄嗟にジャンプすることなど出来ず、テイルミラージュは直撃を受け転倒。その足を止めてしまった。
「く……くそぉ……!」
「トドメだ! 電光雷撃剣・ツインテール・ミ・アモーレ!!」
その隙を逃すスタッグギルディではない。振り上げた大剣に電光が迸り、雷光の輝きが燈る。やにわに生じた雷雲とスタッグギルディの間に、天へ地へと飛び交う稲妻の応酬は、まるで天地に引き裂かれた男女が恋文をやり取りしているかのようでもあった。
恋愛属性の
「まだだあああああああああああああ!!」
ロングロッドが投げ放たれたが、所詮は破れかぶれ。ろくに属性力を充填されていない武器を、力の入らない姿勢で投げても最大出力の電光雷撃剣に抗しうるはずがなく、あっさりと弾き飛ばされる。
ほんの一瞬時間を稼いだだけで、天にも届かんという電光の刃はそのまま無慈悲に彼女へと振り下ろされる────筈だった。
「なん……だって……?」
勝利を確信したスタッグギルディの腹を、貫く物が有った。
その一瞬でマシンの下から抜け出し、前転で間合いを詰めたテイルミラージュ。しかしまだ拳の間合いには遠く、
そう、ポーチから取り出され、打ち払われたロングロッドの他にもう一本。ベルトに初めから刺さっていたキューブ付きのロングロッドが、射程を伸ばす効果を持つ
「────
膨大なエネルギーにより、レーザーツインブレードと化したその刀身を、溢れんばかりの属性力の光に包みながら、立ち上がったテイルミラージュは柄まで貫き通さんばかりに全力でスタッグギルディへ詰め寄ると、ロッドを引き抜く勢いに乗せて腹から右肩までを逆袈裟に斬り裂いた。
「ミラージュッ! インッ! パルス!!」
返す刀で反対側の刀身を振り下ろし、同じ個所を袈裟切りに。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
投擲以外に用意されたロングロッドの必殺技が炸裂し、スタッグギルディは傷口から火花を噴き出して倒れ伏すと、残心したテイルミラージュが見栄を切るのに一瞬遅れて爆炎に包まれた。
「スタッグギルディ様あああああああああああああああああああああああああああ!!」
櫛の歯が欠けるように倒されながらも、巧みな連携でツインテイルズに食い下がっていた美の四心のエレメリアンたちが、その光景を見て悲痛な叫びを上げる。
「テイルミラージュがやったな!」
「あとはあんたたちだけよ!!」
目の前で隊長をやられ、闘志に陰りを見せるエレメリアンとは逆に、大金星を挙げた仲間の奮闘で、ここぞとばかりに燃え上るツインテイルズ。
────だが、まだ終わってはいなかった。
「うう……ぐ、う……」
「! まだ生きてたの!?」
輝いていた白銀の甲殻は今や見る影もなくくすみ、傷つき、立派だった二本の角も無残にへし折れている。
胴体にもはや助からないほど深い、袈裟懸けの刀傷を刻まれたスタッグギルディは、それでも何かに突き動かされるように、無事だった電光雷撃剣を支えに立ち上がっていた。
「僕はまだ……死ぬわけにはいかない……僕は生きて、兄さんの帰りを待たなきゃ……兄さんを、迎えてあげなくちゃいけないんだああああああああああああああああ!!」
「あれは……黒い、
その手が握るのは、アルティメギル科学班が産み出した最終闘態の起爆剤。
試作品故にどのような副作用があるかわからない、禁断の新兵器だ。
満身創痍のスタッグギルディは、それでもかまわずに傷口へと、黒い宝石・
「あ……あ、あ、アアアアアアア……アモーレエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
断末魔のそれとは違う、漆黒の放電を撒き散らし、スタッグギルディは雄叫びを上げた。黒い稲妻が天へと昇り、再び黒雲から稲光が煌めいた時、その場にいた者は敵味方を問わず息を飲んだ。
「スタッグギルディが……巨大化を……? まさかこれが奴の最終闘態……!?」
全身に刻まれた傷跡が完全に治癒しているだけでなく、白銀の身体は
極め付けがその大きさだ。3m足らずの体躯は、今や木々を見下ろすような巨躯へと変じ、眼下に犇めく者たちを神の視点で睥睨している。
「僕の名は……タイタンギルディ! 美の四心の名のもとに、恋愛属性の全てを懸けてツインテイルズを打ち倒す者だ!!」
電光雷撃剣の刀身が歪み、大剣から歪なハートを模った大振りな片手斧へ変わった。
スタッグギルディ改めタイタンギルディは、それを軍配のように振るい、生き残った隊員たちを鼓舞した。
「美の四心の戦士たちよ! 時は来た! 今こそ全身全霊をもって、ツインテイルズに打ち勝つ時だ!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!
賛同する雄叫びが、黒雲覆う富士山頂に木霊した。一糸乱れぬ連携を得意とする美の四心には、ただでさえ苦戦していたというのに、加えて先程までと段違いの気迫をもって猛然と攻めかかるエレメリアンたちに、ツインテイルズは圧倒されてしまう。
「なら……こっちも巨大戦だ!」
テイルミラージュがライドリーベを召喚し、間一髪大斧の一撃から逃れ去る。
そのままエクスミラージュに変形し、タイタンギルディに対峙するものの、その身長差は大人と子供。体格の不利は否めない。
格闘戦など望むべくもなく、リーベミサイルは甲殻に阻まれ、必殺の連射も大斧の一振りで切り払われ、一向に有効打を決められずにいる。
「今の僕に……そんな攻撃が通用するものか!!」
「ぐあああああああああああああああああああ!!」
そんな中、遂にタイタンギルディの蹴りがエクスミラージュを捉え、吹き飛ばされたその身体が山肌へと突き刺さった。
「エクスミラージュが……!」
「テイルサンダー、今は目の前の敵に集中してくださいまし! 片付けられれば、いくらでも援軍に向かえますわ!!」
ヴォルティックブラスターによる銃撃と、格闘戦でどうにかエレメリアンと渡り合う二人だったが、苦戦するエクスミラージュの姿に気を取られ、その連携も精彩を欠いている。
「わ、わかってるけど……あ、マシンブロウアーは無事よ!」
テイルサンダーが、倒れ放置されたままの、乱戦の中奇跡的に無事だったマシンブロウアーを発見した。
「これで武装が十全に使えますわね! ────来なさい、マシンブロウアー!!」
マシンブロウアーのパーツは、元々彼女の
「させるものか!!」
「────眼鏡ぇ!!」
エレメリアンたちが、そうはさせじと光弾を、ビームを、様々な飛び道具を放つ中、テイルブラックの放った光線がそれを迎撃し、イエローたちをアシストした。
「わらわはテイルイエローを助けたのであって、サンダーを助けたのではないからな! そこんとこ忘れるでないぞ!!」
「素直やない子やなあ……」
メガ・ネプチューンは、バイザーに苦笑の色を浮かべながらも、指先のレーザーでエレメリアンを迎撃する。
「あーはいはい、そういうことにしておきますよ、っと!」
走行中のマシンへと飛び乗った二人は、後方の安全を確認し、大声で避難を促した。
「ブラック! メガ・ネさん! ────避けてね!!」
その直後、ロケットスタートでトップスピードに達したマシンブロウアーが、砲口の開いた後部から高エネルギービームの尾を曳いて敵陣へ突撃する。
何体ものエレメリアンを跳ね飛ばしながら最後尾へ抜けたテイルイエローは、硬質化したツインテールを地面へ突き立てての大旋回で、噴き出し続けていたビームをサーチライトのように振るい、一気に敵群を薙ぎ払った。
「殺す気か!?」
「避けてって言ったじゃん!!」
咄嗟に飛び退いた爪先をギロチンバーストが掠め、ブラックたちが受け持つ幾体かも吹き飛んだのを目にしながら、彼女は下手人へ文句を飛ばす。
「幾多のヒーローのように、憧れのバイクを実戦の中で運転出来て、今わたくし……猛烈に感動してますわー!!」
バイクになるばかりだったテイルイエローの、歓喜の叫びが富士山頂に木霊した。
以前免許を取ろうとしたのはいいが、脚が届かなくて泣く泣く諦めた苦い思い出があるせいか、その喜びはひとしおである。
「わらわたちも負けてはおれん……! メガ・ネ、コンビネーションアタックじゃ!!」
「よしきたブラックちゃん! ────いくでぇ……デモリション・メガネや!!」
戦闘機メガネウインガーへ変形したメガ・ネプチューンが、機銃爆撃の嵐を巻き起こしながら昆虫エレメリアンたちの上空を駆け抜ける。
かき乱された隊列と爆散した隊員たちは、テイルブラックの狙い通りに生き残りをほぼ一直線に固めていた。
「これで終わりじゃ────ダークネス! バニッシャー!!」
闇の大鎌が完全開放され、一振りの剛弓となる。
直後、テイルブラックは糸が切れたように脚がへたり、その場に尻もちをつく。引きこもり故に虚弱貧弱な、体力の限界が遂にやって来たのだ。
(いつバテるかと思ったが、予想外に保ったのう……これだけは、結維に感謝しておくか)
引きこもりを現世に引っ張り出し、イジメかと思えるほど徹底的に鍛え抜いたドSな仲間に、肩で息をするイースナは心の中で感謝の言葉を贈った。
□□□□
タイタンギルディに圧倒され、あえなく山肌にめり込んだ俺は、悔しさに歯噛みした。
エクスミラージュを……恋愛属性のギアを纏っていながら、なんて
ここで俺が奴を止められなければ、軍団を相手にして消耗した皆が危険に晒される。それだけは許すわけにいかない。
『結さん、分析の結果が出ました。タイタンギルディですが、どうやら高まった属性力が極めて不安定な暴走状態にあるようです。放置すれば、いつ爆発するかわかりません』
トゥアールからの通信が、現状の危険を告げる。また、挫けるわけにはいかない理由が増えた。
ダメージのせいか、時折りノイズのちらつく視界を巡らせれば、他の皆は美の四心相手に、一歩も退かずに奮戦を続け、勢いを盛り返している。
ならば俺も、こんなところで寝ているわけにはいかないな。
機体を軋ませて起き上がった俺は、間一髪その場から飛び退き、タイタンギルディの振るう大斧の追撃を逃れた。
「往生際の悪い……諦めて属性力を渡しなよ」
「断じて断る。属性力を貪ることしか頭にない今のお前に大事な宝を渡すなんて、輪を掛けてごめんだな」
確かにトゥアールの言う通り、奴は暴走している。巨大化する前は持てる知恵を振り絞り、全身全霊でぶつかって来る、好敵手と呼ぶにふさわしいひたむきさが感じられたが、今やそんな真っ直ぐさはすっかり消え失せ、心の輝きを力に物を言わせて奪い去ろうとする悪鬼と化していた。
「寄越せよ!
技も何もあったものではない乱暴な大斧の連撃を躱し、めくら撃ちのような角からの電撃を掻い潜り、俺はわずかな勝機も見逃さぬよう銃撃を加え続ける。
だがその頑張りを嘲笑うかのように、甲殻には撃ち込んでも効果は無く、脚ならどうかと思えば分厚い膝頭に阻まれ、顔面を狙っても、電撃がバリアーのようにシャットアウトする。
そうこうするうちにGマグナムのエネルギーも底を尽き、もはやこの身を弾丸と化し、奴と刺し違えてでも……と覚悟を決めようとしたその時、メカニズムの奥深くに覆い隠された俺の耳に、トゥアール以外のメッセージが飛び込んできた。
『────結君! 完成した最後のマシンを送った。テイルミラージュ最大の力を、今こそ振るう時が来たぞ!!』
絶体絶命の窮地という、神懸ったようなタイミングでの助け舟。俺はその言葉を信じ、高らかにその名を呼んだ。
□□□□
「ツインローダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
叫びと共にエクスミラージュの額から、ガイドレーザーが渦巻く黒雲へと発射された。
雷光が閃くと共に光の道が地上へと伸び、雷雲を突き抜けて一台の巨大トレーラーが姿を現す。ツインローダーの名の通り、運転席は左右二つに分かれた双頭で、全長はおよそ20mは超えているだろう。
「何だあれは!?」
「この気配……ツインテール属性を持つ、巨大マシンだと!?」
光輝く道を激走するツインローダーは、驚愕に目を見開くエレメリアンたちを置き去りにして地上へ降り立つと、車体底部のスラスターを噴射してフロント部を上にして直立し、その形を変えてゆく。
上面の装甲が立ち上がり、左右二列に並んだウイングバインダーへと変わった。
曲がった膝を伸ばすように、車体中央付近から伸長した大腿部と腹部が、末端から足の爪先が顔を出し、分割された後半部が逞しい両脚となる。同時に上半身が180度回転。その度に内部の精緻なメカニズムが猛然と稼働し、自らの在り様を組み替えてゆく。
転送による入れ替えで、運転席だった空洞に駆動アクチュエーターを満たし、左右に分かれたフロント部が断面を表に晒し、ツインテール属性のエンブレムを左右半分ずつ刻まれた両肩となると、タイヤのある下半分が転回を繰り返して拳を迫り出させ、四角く力強い両腕となった。
胴体部の装甲が、胸から腹部に掛けて上下左右に展開し、内部から赤く燃える太陽の如き光を放つ。
「チェイイイイイン・アァァァァップ!!」
放たれた真紅の合体光波に導かれ、ツインローダー内部へ跳んだエクスミラージュは、そのまま空洞に収まると装甲に抱かれて完全に姿を覆い隠す。
胸に輝くは、黄金で縁取られ左右赤青の二色に分かたれた、巨大なハートマークのエンブレム。
後頭部に肩口まで伸びたツインテール状のブレードアンテナを、額に四角い眼鏡を模した前立てを頂く兜の中に、エクスミラージュの顔が現れると、迫り出した無機質なマスクがその表情を覆い隠し、緑の瞳がピキィィィィィンと甲高い音を立てて光を放った。
「三重合体! キィィィィィングミラァァァァァジュッ!!」
富士の頂に降臨した、勇者の名乗りが高らかに響き渡る。
エレメントドライバーとライドリーベ、ツインローダーの三位一体。長友結の持つ恋愛属性、ツインテール属性、眼鏡属性すべてを備えた、真の
「巨大合体ロボですわあああああああああああああああああああああああああああ!!」
テイルイエローの歓喜の叫びも木霊した。
「あれ……? よく見たらあの胸のハート……テイルレッドとテイルブルーじゃない?」
何かに気付いたテイルサンダーが目を凝らせば、エンブレムの中には向かい合ったテイルレッドとテイルブルーの横顔がレリーフとして彫り込まれている。ハートの曲線は二人のツインテールだった。
これはいわば愛の表れ。普段のビークル形態を鑑みれば、宇宙一カッコイイ痛車であるとも言えよう。
「うぎゃああああああああああ! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あんたなんてもん胸に付けてるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
羞恥心に耐えきれなくなった、レッドとブルーの悲鳴も木霊した。
『すごい……疑似三重共鳴の膨大な属性力を、完全に制御化に置いています……この巨大な身体は、やはりギアだけで使えば自爆必至の力を余さず活用するための……?』
分析し、驚嘆するトゥアールを他所に、キングミラージュは対峙するタイタンギルディへ一歩、その足を踏み出した。
「ぐ、ぐぅ……がああああああああああああ!!」
余りに膨大な属性力に気圧され、思わず後ずさったタイタンギルディは、その恐れを振り払う様に電撃を狙いもろくにつけず撃ち放つ。
直撃を受け、爆炎に包まれるキングミラージュだったが、煙が晴れればそこには傷一つ無い白亜の勇姿。額の眼鏡にも、胸のエンブレムにもいささかの曇りもない。
「────今度はこっちから行くぞぉぉぉぉ!!」
振り上げた拳が、タイタンギルディの巨体をあっさりと上空へ打ち上げ、雲を貫いた巨大エレメリアンはそのまま頭から落下すると、山肌を滑り落ちて登山道を大きく外れた樹海へと落着する。
「よし、あいつはあのままミラージュに任せて、俺たちはこいつらに集中しよう」
「……そうね」
衝撃画像をどうにか頭の隅へ追いやったライザーレッドとフォーラーブルーは、動揺から立ち直ったエレメリアンたちに向き直ると、ブレイザーブレイドとウェイブランス、双方の得物を手に突貫した。
フォーラーブルーが、放たれたウェイブセイバーと共に敵陣を駆け抜けて陣形を掻き乱し、時間差で起爆されたオーラピラーがエレメリアンの動きを封じる中、ライザーレッドが背部スラスターとエクセリオンブーストの最大噴射で駆け抜け、二刀流の炎刃ブレイザーブレイドツインで片っ端から切り捨ててゆく。
「このままでは終わらんぞ、テイルレッド! テイルブルー!! 美の四心には、まだこの私ホッパーギルディが居る!!」
だがその快進撃の前に立ちはだかる者が居た。
ビートルギルディから任命され、今までスタッグギルディを支えてきた美の四心の参謀、ホッパーギルディだ。
もはやこの場に残るエレメリアンは彼一人。もはや戦局は覆らないが、せめて一矢報いて見せると、真っ赤な複眼に闘志を燃やしてファイティングポーズをとる。
風が吹き、首元の赤いマフラーがたなびいた。彼の愛する
「「
二人の完全開放と、ホッパーギルディが大地を蹴って跳んだのはどちらが先だったか。
一瞬の交錯の後、確かな手ごたえと共に、ブレイドとランスを振り抜いたテイルレッドたちの首には、一本の長い毛糸のマフラーが巻かれていた。いわゆる恋人マフラーという奴である。
「「────な!?」」
赤面しつつも振り返れば、胴体に深々と十字傷を刻まれたホッパーギルディが、末期の放電を起こしながら温かいまなざしでこちらを見やっていた。
「フッ……見ていてくださいましたか、ビートルギルディ様! タイタンギルディ様! テイルレッドとテイルブルーめに、恋人マフラーを巻いてやりましたぞおおおお!!」
倒れ伏し、爆散するホッパーギルディと共に、襟元のマフラーも消えてゆく。
恐ろしい相手だった。これがもし強力な武器だったら、ホッパーギルディが攻撃的な属性の持ち主だったら、良くて相打ちになっていたかもしれない。
テイルレッドは、最後まであきらめずに立ち向かった戦士に敬意を表した。
これで隊員は全滅した。アルティメギル四頂軍・美の四心も、後は隊長を残すのみ。
□□□□
樹海の木々を蹴散らしながら、キングミラージュとなった俺はタイタンギルディを殴る、殴る、殴る。
マウントポジションでしばらくの間打ちのめしていると、貪欲な飢えと破壊衝動に支配されていたタイタンギルディの目に、微かな理性の光が戻って来た。
「僕は……一体、今まで何を……?」
「目は覚めたか?」
スタッグギルディがこうなったのは、やはりあの黒い属性玉のせいらしい。あれだけいい勝負が出来たのに、最後がとち狂って暴走なんて、スッキリしないよな。
だから俺は、ガツンとぶん殴って目を覚まさせてやることにしたというわけだ。
「あんな真似をしてしまって、僕は恥ずかしい! 死にたくない余り兄さんの顔に泥を塗ったなんて、もう生きてはいられないよぉっ!!」
暴走して散々やらかしたことを思い出して蹲り、人目も気にせず嗚咽し落涙するタイタンギルディ。俺はそんな奴の顔を上げさせ、死ぬならその恥を雪いでから死ね。介錯は俺がやってやる。と言い放つ。
「第二ラウンドの始まりだ────もういっぺん、全力でやり合おうぜ!!」
「キングミラージュ……ありがとう。今度こそ正々堂々勝負だ! この電光雷撃剣……いや、サンダーアックスが君を倒す!!」
新たにサンダーアックスと名付けた大斧を構えるタイタンギルディの、先程とは打って変わった清廉な勇姿。俺もそれを迎え撃つべく、この巨大な姿に相応しい武器を呼ぶ。
「────フォーリンソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォド!!」
右手を天にかざせば、雷鳴が応えた。降り注ぎ、掌に握られた雷光が、光の粒子を迸らせながら実体化し、柄にツインテールをあしらった、電光雷撃剣にも負けない両刃の名剣と化す。
その名の通り、稲妻と化して落ちて来た剣────
相手に対して半身となり、俺は腰の位置で構えたフォーリンソードの切っ先をタイタンギルディの顔へと向けた。
まごうことなき
ほぼ同時に、二人が動いた。
大斧サンダーアックスとフォーリンソードが激突し、火花を散らす。
その瞬間、タイタンギルディの美しい恋を求める気持ちが伝わって来る。
こいつがエレメリアンでなければ、もしこいつが属性力を奪わずに生きられるのなら、きっと総二たちにも負けないくらい気の合った親友になれただろう。
でもそんなのは所詮たらればに過ぎない。俺は俺の恋を、この胸に燃える想いを、誰にも渡したくなんかない。
総二と愛香が笑顔でいてくれる。二人の幸せを、愛する人といつまでも見守っていたい。
それを邪魔する奴は何としても潰す。
そんな混じりっ気無しのわがまま全開で、俺は一心不乱に剣を振った。
「凄い……凄いよキングミラージュ! 恋愛属性だけじゃない……ツインテール属性までも、その中に包まれて永遠の眠りに就いてしまいそうな程、素晴らしく光輝いて見える!!」
奴の上段からの振り下ろしを、こちらの逆袈裟が迎撃する。
「お前のひたむきさも、存分に伝わって来るぞ! お前自身が恋する相手に出会えてないのが勿体ないくらいさ!!」
対するこちらの唐竹割りも、奴の横一閃が迎え撃った。
「エレメリアンが恋なんて!」
「心が有るなら出来ないはずがないだろうが!!」
現に二人、人間に恋をしたエレメリアンを俺は知っている!
既に何合打ち合ったかもわからないほどの剣戟の中、遂に決着の時が訪れた。
────負けないで、結くん!!
果たして、現実か幻聴か……耳に届いたその声で、ほんのわずかにこちらの剣速が奴のそれを上回り、大斧を握るタイタンギルディの右腕が宙に舞う。
「────しまった!!」
「トドメだっ! ホールドツイスター!!」
胸のエンブレムから、赤青二色の輝く二重螺旋が放たれる。着弾し、タイタンギルディの巨体を飲み込んだそれは、三重共鳴の威力さえも抑え込む最大級の捕縛結界だ。
「フォーリンソード────チャージアァァァァァァァァァァァァァァァァップ!!」
刀身に弾けんばかりの属性力が満ち、空を覆う黒雲を吹き払う様に光り輝いてゆく。その様は、王に引き抜かれて世に光をもたらした、聖剣エクスカリバーの如し。
背部のツインスラスターが起き上がり、爆発的な噴射が我が身をターゲットへ猛然と加速させる。
顔の脇で引き絞るように、前方へ向けて両手で構えた切っ先が発生させたショックコーンが、超音速さえ超えて断熱圧縮の紅に染まる。
「トゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥエンダァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
極超音速で迫る刹那の間合いを過たず捉えた超感覚が命じるまま、タイタンギルディへ渾身の一斬が振り下ろされた。
「俺の恋心は……勇気だ!!」
「……見事だよ、キングミラージュ……君のような素晴らしい戦士に巡り会えて……僕は本当に満足だ!! やったよ兄さん! 僕は……僕は……!!」
交差し、背中合わせとなった二人。袈裟懸けに両断された電光の黒騎士は、悔いのない勝負をまっとうできたことに感謝の言葉を残し、サンダーアックスが地面へ突き立つのと同時に、富士の噴火もかくやという大爆発を起こして散ってゆく。
俺は、キングミラージュの巨大な掌で恋愛属性の属性玉を受け止め、巡り会えた好敵手の冥福を祈った。
「これで美の四心は壊滅した……俺たちの……勝利だ!!」
頂上から降りて来たみんなが、勝利を祝福してくれる。
そんな中、不意に飛び込んだ基地からの通信が耳朶を打つ。
『────結くん! やったわね、おめでとう!!』
「れ、恋香さん!? まさかあの声は本当に……? ────ありがとう、ございます。大事なところで応援してくれて」
人生有数の晴れ舞台を、大好きな彼女が見守ってくれていた……望外の喜びに、胸が熱くなった俺は、勝利の女神の許へ帰るべく、ツインテイルズのみんなを乗せて転送装置を稼働させた。
────スタートゥアールよりは小さいのだ。きっと基地にも入るだろう。
このあとトゥアールに、滅茶苦茶叱られた。
テイルミラージュの本来の必殺モードがブレイクレリーズじゃなくチャージアップだったのは伏線(迫真)
合体パターンはエクスカイザーをベースに、変形はバーンガーンとか色々混じってます。
必殺技なんてまんまファイバードだし。
ホッパーギルディが襟巻属性なのは創作です。バッタなのでマフラー巻きたくなりました。
……あと、黒くてクワガタでタイタンなら斧持ってるべきだよなあ、と兄さんの剣を斧に変形させました(重甲感)