俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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七巻編のクライマックスが近づいてまいりました。
ツインテール爆弾処理班、出動!!


第四十五話「大決戦! 富士山頂!!」

 地球侵攻を担当する混成部隊の基地に、音も無く着艦する移動艇が一隻。その中から降りてきたのは、背中に剣の紋章をあしらった白いローブを身に纏う、なんとも珍しい来客だった。

 人知れず基地の廊下を進む来訪者は、迷うことなくスタッグギルディの部屋へたどり着くと、部屋の主を出迎えるための準備をテキパキと始める。

「な……? なんだいこの部屋は!?」

 程なくして戻って来たスタッグギルディは、様変わりした自室に面食らう。

 壁に貼ってある、ギャルゲーのハッピーエンドのイベントCGを切り取った自作ポスターの中に、BLゲーのそれが混じっていたのだ。

 更に、棚に飾ってある主人公とヒロインのカップリングフィギュアの中にも、薔薇の香り漂う絡み方をした男性同士のものが混ぜ込まれている。

 

「お帰りなさい。スタッグギルディ君」

 

 そして人知れず部屋に居座っていた侵入者────白いローブの女性エレメリアンに気付いた彼は戦慄し、冷や汗さえ滲ませて目的を問いただす。

「何故君の部隊が────まさか四頂軍でありながら結果を出せない僕たちを、わざわざ罰しに来たとでも?」

「違うわ。部隊は動いていない────私だけよ?」

 ひとたび出撃すれば世界が滅ぶ程の強力さを持つがゆえに、首領からも直々に動くことを禁じられた部隊、神の一剣(ゴー・ディア・ソード)。その所属エレメリアンが現れたことに警戒を隠さないスタッグギルディに、彼女は机の上にBLドラマCDを積み重ね、今しがた聴いていたかのようにケースを開けて配置しながら返答した。

「実は今研究中の装置の実験データが必要でね、せっかくだから苦戦している部隊に使ってもらおうと思ったの」

「装置の実験?」

 BL同人誌までも並べ始めた彼女の暴挙に辟易しながら、スタッグギルディはその目的に目を細める。

 この世界で人気のアニメ、ゲームの本に交じって、自分とビートルギルディが表紙を飾っているものが見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。

「名付けて首領の吐息(ゴッド・ブレス)……エレメリアンの潜在能力を解放し、強制的に最終闘態を発動させるものよ」

 属性玉(エレメーラオーブ)に似ているが、何のエンブレムも刻まれていない黒い宝石を袖口から取り出し、彼女はその機能を説明した。

「そんな物が……でも、何の副作用もなしに使えるわけではないんだろう?」

「当然よ。だから実験して欠点を克服するんじゃない……出撃する子に渡して、最後の切り札として使ってもらうか、スタッグギルディ君自身が使うかは任せるわ」

「そうかい……そういうことならありがたく受け取っておくよ────きっと向こうにも行くんだろうから伝えておくけど、兄さんにもよろしく言っておいてくれないかい? アルティメギル科学班最高責任者……マーメイドギルディ」

「ええ、しっかり伝えておくわ────君からのラブコールをね」

「誤解されるようなことはやめてくれないか!?」

 BLポスターの中へ溶け込むように消えてゆく笑顔のマーメイドギルディに、スタッグギルディは非難の言葉をもって別れの挨拶とした。

 

□□□□

 

「よし、お前ら今日は愛香ん家に泊まれ。俺は恋香さんを家に泊めるから」

 土曜日の午後、いつものようにたいして強くないエレメリアンを撃破して帰って来た俺たちは、結からの提案に顔を見合わせた。

「突然なによ? 泊まるならいつもそーじの所に……」

「────日曜の朝、理事長が来るんだ。アドレシェンツァに」

 地震や津波よりも恐ろしい災害警報であるその一言で、俺たちは速やかな避難を決意した。母さんと理事長が出会った際に起こる、中二核融合反応に出くわしてしまえば、荒ぶる中二中性子線に被爆して精神と胃が死んでしまう。

「愛香……俺、愛香の手料理が食べたいな」

 背筋が震え心細くなった俺は、愛香の手を握りささやかな願いを告げる。

「わかったわ。腕によりをかけて作るからね!」

「愛香さん。足りないものが有ったら、買い出しには付き合いますよ」

「それじゃあ冷蔵庫を確かめたら、三人で出かけようか」

「じゃあね、結」

 唱和する賛成の声。俺は恐怖に震える脚を必死に動かして、愛香、トゥアールとエレベーターへ向かった。

「ねえ恋香さん……今日、家に両親居ないの……」

「じゃあ今晩結君の家に、泊まりに行っちゃおうかな……❤」

「のう結維、お前の兄はいつもこんなか? TSして彼女と百合ん百合んしておるとはレベルの高い奴じゃのう……」

「自慢のおにいちゃんよ! おっぱいの揉み心地だってすごいんだから!!」

「わ、わらわだって負けないくらい大きくなってやるのじゃ!」

「じゃあどっちの胸が大きくなるか競争ね!」

「なあ結維ちゃん、結君あれでホンマにお兄ちゃんでええんか? もうすっかりお姉ちゃんとちゃうの?」

 いつの間にかミライになっていた結が、恋香さん相手に彼氏を初めて家に誘う彼女の寸劇をやって、イースナに感心されていたが、突っ込む気力さえ湧いてこない。

 胸の話題で結維ちゃんとイースナが盛り上がる中、自分の胸をぺたぺたと触ってため息をつく会長のツインテールが、悲しそうに萎れていた。

「愛香さん! エレベーター途中で停めますから総二様にツインテールを!!」

「わかったわ!」

 ドアが閉まり、地上へと移動している間、愛香が両方のツインテールを差し出してくれた。急速充填されるツインテール分が心と体に満ちてゆく。

 両手の中で存在を自己主張するツインテールの滑らかさが、河と流れる黒髪の艶やかさが、明日に迫る恐怖を振り払う勇気を俺に与えてくれるのだ。

 

□□□□

 

 真夏の死闘を潜り抜け、逞しく成長したアルティメギルの戦士たちは、一月前とは比べ物にならない程上達したイラストを、こっそりとお絵かきサイトへアップし、やれランキングが上がった、ブックマークが増えたなどと自慢し合っていた。

 そんな中、大ホールへスタッグギルディが姿を現したのに気付き、真夏の戦士たちは慌てて居住まいを正す。

 演説台へと登壇したスタッグギルディは、上達した彼らの修行の成果を褒め称えたものの、ツインテイルズもまた日々の努力を重ねていることを告げ、舞い上がる隊員たちへ残酷な現実という冷や水を浴びせる。

 努力して勝てるのは、その努力が相手を上回った時だけ。強敵もまた、努力を重ね続けているのだ。

 スタッグギルディは、別の世界にいる義兄を想った。他の世界で貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)が、二組共勢ぞろいしたツインテイルズに壊滅させられたのは聞き及んでいる。

 これまでの数か月分以上の戦いを、彼女たちは一足飛びに駆け抜けたのだ。一部隊を数日で壊滅させた戦闘経験値はどれほど膨大なものになるのだろう。

「だから────次は僕自身が出撃するよ」

 その四頂軍さえ撃ち滅ぼした戦士たちの片割れを、これから自分は相手にしなければならないのだ。

 当然動揺し、制止する声を上げる隊員たち。しかしスタッグギルディの心は、かつてない程に昂ぶっていた。

「テイルミラージュだけは、何としても僕が倒す。だから……力を貸してくれ、兄さん……!!」

 義兄ビートルギルディから預かった名剣、電光雷撃剣(エクレール・ド・アムール)を握る手に力がこもる。

 今まで幾多の世界を巡っても出会うことの無かった恋愛属性(ラブ)の戦士。自らと同質の存在に出会えたことが、本来は裏方で戦闘を不得手とする彼の闘争心を滾らせているのだった。

 

□□□□

 

 アドレシェンツァ開店前の日曜日。観束総二が恐れていたXデーは到来した。

 朝早くにやって来ていた神堂慧理那は長友結維の膝の間に収まり、訪れた観束家のリビングのソファーで、ヒーロータイムを満喫している。

 毎週の録画は欠かしていないが、彼女は可能な限り日曜朝のヒーロータイムはリアルタイムで観ることを信条としているのだ。

「お邪魔します」

 すべての儀式を終え、店内へ足を踏み入れた慧理那たちの元へ、九時ピッタリにカウベルを鳴らして桜川尊が入店した。

 そしてその背後には、黒い和服を着こなしたツインテールの麗婦人────陽月学園理事長にして慧理那の母、神堂慧夢が続いていた。

 その瞬間、奥にいた観束未春と、神堂慧夢の視線が交錯する。

 

「……………………………………えむぴー?」

「……………………………………ごしゅ、じん、さま?」

 

 運命に導かれて再会を果たした二人は、十数年もの過去へ置き去りにした呼び名を違えることなく口にしていた。

 母親と師匠たちの感動の再会を、固唾を飲んで見守る娘と弟子だったが、突如吹き抜けた轟風が、二人の感動を空の彼方へ吹き飛ばしてゆく。

 高貴な輝きを放つツインテールが宙を舞った。着物もろとも宇宙の果てへと、理事長の肩書きも、みんなの憧れも脱ぎ去り吹き飛ばした慧夢は、下着姿できゃいんきゃいんと未春へとすがりつく。

「嘘だ……奥様が……!」

 尊はアイマスクと両手で耳目を塞いで、目の前の現実から逃げ出そうとしている。

 未春は、慧理那ちゃんってえむぴーの娘さんだったのね! 夢みたい!! とコースターをフリスビーのように投げ放ち、飛びあがった慧夢に店内でキャッチさせている。

 学生時代に犬として過ごし、身体に染みついた技は未だ衰えてはいなかった。

 久々にケルベロスと呼ばれ、感極まった慧夢は主人である未春の命じるがままに、最後に残された下着までも脱ぎ去って全裸となってしまう。

「水影流秘伝、記憶を消すツボ! ……慧理那ちゃん、これは夢……悪い夢よ」

 結維は、慧夢が一糸まとわぬ姿に成り果てた瞬間、慧理那の喉元に両方の親指をピブーと突き立て、気を失わせた。頸動脈を圧迫し、彼女を締め落としたわけでは断じてない。

 話に聞いていて覚悟していたつもりだったが、この光景は見通しが甘かったとしか言いようがなかった。

 いつか慧理那にブラキオザウルスを模った大人のおもちゃをカミツキ合体させてやろうかと企んではいたが、店内実親全裸フリスビーには敵わない。

 想像を超えた衝撃映像から愛犬を守るため、結維は慧理那の意識を刈り取っていた。

 これなら目覚めたときに、いくらでも誤魔化しが効くだろう。

「ほうらケルベロス……娘や私の弟子に三十路過ぎの身体を晒してどんな気持ちかしら?」

「私ったら、裸を晒すのはご主人様の前だけでしたのに……」

 結維は理事長の痴態をパシャパシャとトゥアルフォンのカメラに収めた後、改めて自己紹介をした。

「改めて名乗らせていただきます理事長。そちらの未春さんの弟子で、若輩ながら御宅の慧理那さんの、ご主人様をさせていただいている長友結維です」

「まあこれはこれは……結維さん、うちの慧理那を、これからもどうかよろしくお願いいたしますね」

 あのう、それでそのお写真は、わたくしを脅すのに使ったりなさるの……?

「こちらこそ。乗り心地の良い娘さんを産んでくださってありがとうございます」

 いえいえ、可愛い子犬のご家族を脅すなんて人聞きの悪い……

「そ、それで二人は普段どのようなプレ……おほん、過ごされているのでしょう?」

 まあ、と結維の発言に頬を染めて期待に目を輝かせ、口元を押さえた慧夢は、二人の秘めた日常を興味津々に聞き出そうとしたが、それを遮るように結維のトゥアルフォンがコール音を奏でる。

 津辺家に居るトゥアールからエレメリアン襲来の連絡が届いたため、未春に断って慧理那をお姫様抱っこしつつ地下基地へ向かった。

「理事長、子持ちとは思えないくらい綺麗な身体だったなあ……縄の痕は目立ってたけど」

 理事長は納得だけど、慧理那ちゃんのお父さんもそっちの趣味なのかしら? 結維は神堂さん家の家庭の事情が気になって首を傾げる。

 皆より一足先にコンソールルームに着いた結維は、腕の中の慧理那と、先程までダイナミックに躍動していたその母親の尻を重ねながら、目を覚まさせるべくスナップの効いた平手を叩き付けた。

 だが結維は知らなかった。慧理那の父、神堂栄華もまた筋金入りのドMであり、夫婦が互いにSを演じることで欲求を満たし合っていたことを……

 

□□□□

 

 エレメリアンが現れたのは、日本が誇る霊峰富士。転送ポイントから飛び出した俺たちは、髪紐属性(リボン)でブルーがレッドを、サンダーがイエローを運び、俺は一人で空を飛んで現場へと向かった。

「ふええ……おしりがヒリヒリしますわ……」

 それにしてもサンダーに運ばれているイエローは、気絶から目を覚ましたばかりだが、余程ショッキングな光景に出くわしたんだろうなあ……

 俺たちが基地に来た時、結維が会長に尻叩きしてたのもショッキングだったけど。

「モケケー!」

「モッケッケケー!!」

 俺たちは麓で登山客に襲い掛かるアルティロイドを蹴散らし、速やかに避難を促す。

「おおテイルレッドにテイルブルーじゃ……本物はTVよりもめんこいのう」

「テイルミラージュも美人さんじゃあ」

「早く避難してください!」

 手を合わせて拝み始めてしまったおじいさんおばあさんをイエローたちが誘導し、俺たちは登山道を駆けあがってゆく。

「トゥアール! 登山客狙いって、アウトドアや登山関係の属性でもあるの!?」

『分析の結果、山頂付近にかなりの数の学生が取り残されているようです。休日なのでおかしいと思いましたが、どうやら修学旅行中の中学生のようですね……』

 狙いはその学生たちか……! 早く非難させなきゃ、山の中で下手に逃げだしたら遭難しかねないぞ……?

『その学校のHPを確認しましたが、目玉イベントが“富士山頂で告白大会”だそうです』

 それを聞いて俺の脚は猛然と速度を上げる。

「告白大会って……」

「恋愛属性のスタッグギルディですわ!」

 

 皆より一足先に山頂へたどり着いたとき、かなりの数の学生たちが一塊になっており、その輪から外れた数組の男女が、所在なさげに立っているのが見えた。

 それを見つめるのは、持参したらしき椅子に座る一体のエレメリアン。

 その白銀の身体と頭から伸びる二本角は、間違いなくかつて取り逃がした美の四心(ビー・ティフル・ハート)隊長、スタッグギルディだ。

「僕のことは気にせず告白するといい!!」

 戦場を睥睨する武将のような奴にそんなことを言われても、普通の少年少女は困ってしまうだろう。

 俺は奴と彼らの間に割って入り、避難を促した。

「みんな! 早く逃げなさい!!」

 しかし学生たちは、逃げるどころか俺へと我先に殺到する。

「好きです! 付き合ってください!!」

「わたしたち、付き合っちゃわない?」

「結婚してください!!」

 その瞬間、先程まで確かに彼らの間に存在していた互いへの想いの色が、すっかり霧散してしまった。

「流石はテイルミラージュ……愛は不変、されど恋は移ろい、時には奪うもの……彼らは真実の恋に気付いたとも言えるね……」

「────黙れぇっ!!」

 スタッグギルディの身勝手な持論に、俺は怒りの叫びを叩き付け、詰め寄って来ていた学生たちへと向き直り一喝する。

「なあ君たち……君たちは好きな人が居るから、気になる相手が居るからここに来たんだろう? このイベントに参加したんでしょう!? そこに突然アイドルが来たからって、相手さっさと乗り換えてるんじゃないよ!! この大会に参加するのを決めたときのことを、ようく思い出してみろ!!」

「テイルミラージュが……」

「泣いてる……?」

 知らず、俺の両目からは涙が溢れだしていた。学生たちは気まずそうな顔で俯いている。

「……俺、やっぱりお前のことが好きだ」

「私も……前からなんかいいなって思ってた!」

 勇気を振り絞って想いを口にした二人を呼び水にして、他の生徒たちも口々に思いの丈を風に、雲に、太陽に。山に大地に届けとばかりに咽喉も枯れよと叫びまくっていた。

「まさか……! 始まる前に終わった恋を、こんな短時間で再び実らせたって言うのかい!?」

「見たかエレメリアン……! これがアタシの追い求めた恋の輝きだ!!」

 レッドたちがやって来たため、俺は学生たちを避難させるべく号令をかけた。

「みんな! 全員で一列になるように手を繋ぐんだ!! はぐれた人は居ないね!?」

 確認の後、腰のエレメリーションキューブへ属性玉を装填する。

属性玉変換機構(エレメリーション)────属性玉・手繋ぎ属性(エレメーラオーブ・ジョインハンズ)!」

 起動した手繋ぎ属性が、俺と学生たち全員を力場で包み込む。手繋ぎ属性の能力は、こちらが起こした効果を、手をつないだ相手と共有すること。そして俺はエレメントドライバーの転送装置を起動する。

「ミラージュ・バイパススリップ!!」

 極彩色の光が視界を包み、風景が一変する。安全な麓まで、俺は学生たちを根こそぎ避難させたのだった。

「じゃあ皆、元気でね!」

「はい! ありがとうございましたテイルミラージュさん!!」

 学生たちから口々にお礼を言われながら、俺は再びバイパススリップで山頂へと跳んだ。

 

□□□□

 

『……避難した後我に返って、気まずくなって自然消滅するパターンかと思いきや、流石というか大したものですねえ……』

 テイルミラージュの働きに感心するトゥアールを他所に、テイルレッドたちは周囲の状況からスタッグギルディの覚悟を察した。

 土産物屋くらいは有るが、基本的に森林が埋め尽くす、暴れても被害が少ない場所……幹部エレメリアンの好む決戦の場だ。

「改めて名乗らせてもらおうか……僕は恋愛属性のスタッグギルディ。この世界を担当する美の四心の隊長代理だ」

「代理?」

「そうだよ。本当の美の四心隊長、ビートルギルディ兄さんは、もう一組のツインテイルズの居る世界を担当しているのさ」

 その細身の体から放たれる闘気。代理とは言え流石は幹部、一般エレメリアンとは一線を画す迫力だ。重圧というよりは鋭い刃物のように研ぎ澄まされている。

 ブレイザーブレイドを、ウェイブランスを、ヴォルティックブラスターをそれぞれ取り出し、ツインテイルズは臨戦態勢を取った。

「────先手は取らせてもらうよ」

 スタッグギルディの角の間にスパークが奔り、プラズマを練り上げるように光球が膨れ上がる。

恋愛断技(ドロウ・イン・ラブ)────!!」

 スタッグギルディを中心に、水色の光線が放射状に拡散した。余りの広範囲に、ツインテイルズは避けることも出来ずに直撃を受けてしまう。

『大丈夫ですか、みなさん!?』

 通信越しに響くトゥアールの心配する声に、一同は口々に無事を伝えるものの、直後に異変が彼女たちを襲う。

「う、あ……身体が熱い!」

「まさか……毒か!?」

「もう……我慢できない……!」

「限界ですわ……!!」

 富士山頂で、発情させられたツインテイルズたちによる、濃厚なラブシーンが繰り広げられていた。

『みなさん気をしっかりもって! 今攻撃の特性を分析しています!!』

 互いに手足とツインテールを絡ませあい、熱烈なキスを交わすレッドとブルー。

 イエローを押し倒し、装甲を嬲るように一枚一枚引きはがしてゆくサンダーと恍惚の表情を浮かべるイエロー。

 もはや恋する相手以外目に入らなくなってしまったツインテイルズは戦闘不能だ。

「流石のテイルギアも、恋愛断技までは防げなかったようだね。単純だからこそ強力。恋心を暴走させる、僕の最大の技さ」

『洗脳や操作の類じゃないから防げなかった……おそらくは、感情を活性化させて本能のままに暴走させる技……!!』

 焦るトゥアールを他所に、スタッグギルディの手に、属性力収集リング『宇宙の紐(ストリング・セオリア)』が現れる。

「まずはテイルレッドたちのツインテール属性を頂く……! 見ていてくれ兄さん! 僕がツインテイルズに勝利するところを……!!」

 放たれたリングが、転がる四人へ迫るその時……!!

 

「さ・せ・る・かあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 極彩色の光と共に虚空から出現したテイルミラージュが、手にしたロングロッドでリングを両断していた。

「テ、テイルミラージュ!!」

『間に合った!!』

テイルミラージュ(ライダー2号)を忘れていたな?」

 ロングロッドを肩に担いだテイルミラージュは、四人を目覚めさせるべく腰のエレメリーションキューブへと属性玉を装填する。

属性玉変換機構(エレメリーション)────属性玉・睡眠属性(エレメーラオーブ・スリープ)!」

 ツインテールが砲塔のように持ち上がり、その先端からフラッシュグレネードのような眩い閃光を放つ。

 眠りとは正反対の、相手を覚醒させる強烈すぎる朝日の洗礼が、起きながら桃色の夢に浸っていた四人の頬を張り飛ばす。

「あわわわわ……!? 俺たち……」

「こんなところでなんて真似を……!!」

 我に返り、赤面するツインテイルズ。

 それを見届けると、テイルミラージュはロングロッドを構え、鋭いまなざしでスタッグギルディへ言い放つ。

「────スタッグギルディ、お前の相手はこのアタシだ!!」

「いいだろう。僕も全力をもって、この電光雷撃剣(エクレール・ド・アムール)に恥じない戦いをしようじゃないか!!」

 スタッグギルディも、ハート形の切っ先を持つ大剣を取り出して構える。

 二人はどちらともなく駆け出し、交差した大剣と棍が火花を散らした。

 すかさず払い、幾度とない突きを繰り出すも、スタッグギルディはそのことごとくを最小限の動きで見切り、躱してゆく。

「僕の部下たちが僕のタブレットで描いた君の絵……その幾百幾千のデッサンを、僕は頭に叩き込んだ。どんなコンピューターより如実に、君の行動パターンを算出してくれたデータをね!!」

 そしてテイルミラージュが隙を晒すタイミングをも的確に突き、電光雷撃剣がじわじわと肩に、腕に、脚にダメージを蓄積させてゆく。

 かと言って距離をとり、射撃戦へ移行すればスタッグギルディも、角に生じたプラズマ球から電撃を放ち、こちらを迎撃にかかるのだ。

 エレメントギアを覆う光波防壁、リフレクトコートが悲鳴を上げるほどではない。しかしこちらを傷つけるのよりも、動きを阻害し疲労を誘うことを重点に置くそのやり口は、真綿で首を締めるようにテイルミラージュを苦しめてゆく。

「……あんた、幹部の割にへなちょこだね。こんなので突っつかれても、こっちはビクともしないよ!!」

「強がりを言っても無駄さ。君にダメージが蓄積されていることはお見通しだよ?」

「────リフレクションビーム!!」

「なんの! ビーティング(恋のドキドキ)サンダー!!」

 行動パターンを知り尽くしているというのは決してハッタリではないようだ。不意打ちのビームもあっさり迎撃され、戦況は膠着状態に陥る。

 ツインテイルズが固唾を飲んで見守るなか、苦戦しているはずのテイルミラージュが不意にニヤリと笑みを浮かべた。

 後方へ跳んだ彼女が、腰の収納ポーチからエレメントバズーカを取り出す。しかしそれも予測済みとばかりに、スタッグギルディは電光雷撃剣を構え、二本角を帯電させ始める。

属性玉変換機構(エレメリーション)────属性玉・騎乗属性(エレメーラオーブ・ライディング)!!」

 辺りに脱ぎ散らかされていたテイルイエローの装甲や武装が、騎乗属性の発動と共にエレメントバズーカを中心にして組み上がり、一台のバイクを形作った。

「なんだって!? バズーカが、イエローの武装と合体を!?」

「こいつはデータに無かったろう? マシンブロウアー! アクセル全開だあああああああああああああ!!」

 貴の三葉戦で一度しか使用していない、爆走マシンの咆吼が富士山頂に轟いた。

 迫るマシンをスタッグギルディはビーティングサンダーで迎撃しようとするが、前輪の軸に配置されたスタンガンからの電撃がそれを相殺する。

 車体を覆う可視化したリフレクトコートと、電光の防壁(アタックシールド)が二重にテイルミラージュを包み込み、姿勢を低くした彼女はそのままトップスピードでスタッグギルディへぶち当たった。

「スパークリング・ブレイカー!!」

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 迎撃することも叶わず、弾丸と化したマシンブロウアーに撥ね飛ばされたスタッグギルディは宙を舞い、そのまま地面へと叩き付けられる。

「恋する女ってのはね、昨日より今日、今日より明日……好きな人のために日々自分を磨き上げてゆくのさ! 過去のデータだけで勝てると思うな!!」

「ぐっ……ぐう……! 成程……ためになったよ……」

「まだ息が有るのか……でもこれでトドメ……何だ!?」

 ツインテイルズたちの周囲に一斉に転送ゲートが開き、続々とエレメリアンたちが姿を現したのだ。

 その数およそ十数体。すべてが昆虫モチーフのエレメリアン────美の四心(ビー・ティフル・ハート)の隊員たちだった。

「申し訳ありません。先程の会議、ツインテイルズに思いを馳せているうちに終わっており……命令を勘違いしておりました────美の四心、総力を挙げてツインテイルズと戦え、と」

「通販で買った品物を受け取りに散歩していたら、つい迷ってここへ来てしまいました」

 昆虫のエレメリアンたちが、バツが悪そうに口々に言い訳をしては進み出る。有象無象ではなく、この全てが美の四心の精鋭なのだ。

 予想外の加勢。テイルレッドたちに、緊張が走る。

「まったく……初めての命令違反が、僕への加勢だなんて……兄さんに言いつけるよ?」

 

「────本当に、美の四心の結束力は貴の三葉に勝るとも劣らぬな」

 遅れてやって来たテイルブラックが、スタッグギルディの言葉を耳ざとく拾った。

 その姿に、怪我を押して居住まいを正すスタッグギルディ。

「おいおい……ここに来て軍団丸ごとかよ……?」

 たった今、富士山頂にツインテイルズと美の四心の全戦力が集結し、地球の命運を賭けた決戦のゴングが鳴り響いた。




実験して欠点の克服(本当に克服するとは言ってない)
貴の三葉を腐海に沈めたBL汚染源、一足お先に登場です。

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