アルティメギルの侵攻部隊において、レーダー網の監視部署は最も暇な部類に入る。
今までのアルティメギルの歴史を鑑みても、基地の周囲を取り囲む、次元の狭間の超空間を越えて攻撃を仕掛けてきた存在は、同レベルの高度な文明を相手にする場合を除いてほとんどいなかったし、よしんば現地の文明が転移技術を手に入れ、こちらの居所を突き止めた勢力が攻撃できたとしても、圧倒的な科学力、戦闘力の差で、まともな損害を与えることも出来ずに返り討ちに遭うのがオチだったからだ。
この鉄壁の要塞に損害を与えたのは、敵よりもむしろ身内の方が多い。
────義兄弟の契りを交わす前のビートルギルディとスタッグギルディが、互いの恋愛属性へのスタンスで対立した末に、大喧嘩の巻き添えで母艦を大破させてしまった。というのが組織では有名なエピソードである。
そんな、例えるならば嵐荒れ狂う絶海の孤島に築かれた要塞。とでも形容できる、金城湯池のアルティメギル基地のレーダー室で、いつものように尻で椅子を磨く仕事をしていた隊員は、珍しくモニターに映し出された光点に気付くと、携帯ゲームをプレイする手を止めて、相手の位置、速度、予想進路を割り出した。
新たな部隊の合流は聞いていないし、反応も同胞の艦とは違う。ならばこれは敵か障害物だ。
「まずい、このままではぶつかるぞ!!」
レーダー員はすぐさま非常警報を鳴らし、操舵室へ緊急報告を行う。
────オニーチャン! オニーチャン!!
これを鳴らす日など来るはずがないと高をくくり、完全な趣味で設定した警報が基地の隅々まで響き渡った。
間一髪、回避に成功したアルティメギル基地だったが、ブリッジ要員からの報告に、部隊を預かるスタッグギルディは、苦虫を噛み潰したような表情となる。
「僕らアルティメギル以外の次元航行艦だって……? それが、地球に?」
アルティメギルを構成しているのはエレメリアンだが、フェニックスギルディのような脱走兵以外にも、アルティメギルに所属していないエレメリアンと言うのも実は存在している。
そもそもエレメリアン自体が、人の心の輝きである精神エネルギー、
そして、平行世界群の中でも一大勢力と言っていい、巨大で強大で強壮たる究極の組織アルティメギルが、侵略中の世界へ横槍を入れられるということも、少ないが稀と言う程でもない。
大抵はこちらのことをろくに知りもしない、身の程知らずの田舎者が突っかかって来る程度で、現地のツインテール戦士や、こちらの隊員に叩き潰されるのが関の山だ。
「折角のスワンギルディの晴れ舞台、何事も無ければいいんだけど……念には念を入れておくべきかな?」
スタッグギルディは、
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イースナが仲間になって以降、ツインテール部部室にも変化が訪れていた。
総二の席の後ろ。TVのある壁の斜め上に掛かっている、見慣れない出勤表なるボード。書かれているのは善沙闇子のスケジュールだ。
ツインテイルズとして出撃する目安ということなのだろう。それによると今日は17時からインタビューの仕事らしい。
会長と桜川先生、結維が合流し、とりあえずいつものメンツになった頃。トゥアールがふと、最近気になっていたらしいことを尋ねてきた。
「ところで尊さん。最近婚姻届配ってませんけど、どうかなされましたか?」
「そう言えばこの間も、会長のガードを俺たちに任せて、どこかに行ってましたよね」
護衛の仕事を外されていた、夏休み終盤のお泊り会の後。新学期に入ってから長友家に会長とイースナが遊びに来た日にも、桜川先生は用事で出かけていたのだった。
「うむ、結婚への足場固めのために、デートに行っていたのだ」
「へー、そうだったんですかってデデデデデデデデート!?」
「どどどどどどどどどどこの物好きが相手ですか!?」
「あの、わたくしと結維さんは知ってましたわ。尊がちゃんとできるところを見せたいというので、そっとしておいてあげようということになりまして……」
静寂、そして驚愕。ノリツッコミのように遅れて脳が言葉の意味を認識したり、パニックの余り道路工事を始めてしまったりと、俺たちの反応は様々だ。
「失礼な。私だってやれば出来るんだ。長友妹にアドバイスもしてもらったしな」
「何はともあれ、おめでとうございます」
とりあえず口々に祝福の言葉を送り、馴れ初めや相手の人となりを訊いてみる。
「そうだな……彼と初めて出会ったのは、コミケの帰りだったな。私があの時、印刷代の割引クーポンを添えた婚姻届を配ろうとして、スタッフに連行されていったのが彼の印象に残っていたそうだ」
そりゃあ印象に残るわ。俺たちは居住まいを正して先生の話を傾聴した。
ツインテイルズがパラドキサギルディたちを撃破した頃、トゥアールたちとの合流地点へと向かおうかとしていた矢先、先生へ声を掛ける男性が居た。
手に持っていたのは件の婚姻届。さては遂に結婚してくれる男性が現れたかと期待したものの、彼の口から飛び出したのは叱責と、先生を心配する言葉だった。
「貴女のような美人がこんなものを軽々しくばら撒いて、悪い男に捕まったらどうするんですか!? 結婚というのは、見ず知らずの相手と不用意にするものではありません!!」
今まで婚姻届を配って帰って来たのは拒絶の言葉ばかり。そんな今までになかった反応に、新鮮な驚きを与えられた先生は、互いに自己紹介をしてこう言い放った。
「これで私たちは互いの名を知り、面と向かって呼び合うことが出来ます。見ず知らずではありませんね」
「そういう問題では無いでしょう!?」
ツッコミ体質だが押しの弱い彼は、あれよあれよと先生のペースに飲み込まれ、婚姻届に判こそ捺さなかったものの、連絡先を交換させられちょくちょく会う仲になってしまったそうな。
「彼も輝見市在住でな、おかげで会うのに手間がかからないのは助かったな」
同じ市内に住んでいたとは、何という数奇な運命……! 幸運の青い鳥って奴ですね。
「で、その人のご職業は……?」
「ああ、本名と読みは同じだが漢字の違う、焔刻雄というペンネームで漫画家をしているそうだ。コミケにも“TIMEFIRE”というサークル名で参加していたぞ」
「焔刻雄先生じゃねーか!!」
「え、あの!?」
愛香の、え? 誰? という声をBGMに、名前を聞いた俺と総二は驚きの余り椅子を倒して立ち上がっていた。
「……あれ? どこかで覚えがあるんだけど、誰だったっけ……?」
「わたくしたちの漫画を描いてくださった方ですわ!」
相手の存在は知っていても、名前などは聞いていなかったらしい結維が首をかしげ、気付いた会長が助け舟を出す。
そう言われて結維はああ! と膝を叩いた。そして俺と総二の愛読する雑誌、ヤングドンドンでも、ツインテールのアンドロイドヒロインが活躍する「
トップクラスの人気というわけでもないが、ツインテールへのこだわりが伝わって来る、良い漫画だ。
コミケに参加した時も、代表作を見るに金髪ツインテールが好きなせいか、テイルイエロー1号本や、テイルイエローとテイルサンダーの突発コピー本を出してくれた恩がある。
数奇な運命にも程があるぞ……!?
「ただ、一つだけ問題があってな……」
「なんなんです?」
「私は一向にかまわんのだが、先方が子持ちのシングルファーザーなのを気にしておられてな……娘さんは陽月学園初等部の六年生だそうだ」
大人しくて可愛らしい娘さんだぞ? と先生はメールでもらった写真を表示し、俺たちに見せてくれた。確かに言う通り、ストレートロングの艶のある髪が魅力的で、大人しそうな可愛い子だ。
「穂村さんじゃないのよ!?」
結維の友達で、おまけにテイルサンダー初登場の時にエレメリアンから助けた子だったらしい。ほんと世界って、狭いね!
「あー、これは第二次性徴始まってますわー、アウトですねー」
「あんたの考え自体がアウトよ!」
暴言を吐いたトゥアールは久しぶりに愛香の打撃を受け、人生というサーキットをコースアウトさせられた。
不意に鳴り響くアラート。エレメリアンの出現だ。
「待ってください、これは────」
ノートPCの画面を見たトゥアールが告げる。
「エレメリアンが、同時に二か所に出現しています!」
またしても分断作戦か。場所は関東と関西で離れている、総合病院と中学校だ。イースナは仕事で来れないが、俺たちだけでも十分だ!
「よし、総二、愛香組と残りで別れよう!!」
戦力配分はこれでとりあえず問題ない。ツインテイルズ出動だ!!
□□□□
俺と結維、会長の三人が駆けつけた中学校の、校舎裏へ続く道を覆い隠すような植え込みの中に、目当てのエレメリアンは居た。
下校中の生徒たちは誰も気づいてはいないが、植え込みからはみ出してしまっている立派な二本角という、特徴的な姿に俺はたちどころに思い至る。
「あいつ……美の四心の隊長だ!」
「あの放送の!」
だが近づく俺たちに気付いた奴は、手でこちらの動きを制すると、静かにするように口元に指をやって示す。
いったい何かと茂みを覗き込めば、なんと告白の真っ最中。髪をツインテールに結んだセーラー服の女生徒が、学ランの先輩男子に勇気を振り絞って胸中を明かしていた。
小声で黄色い声を上げる俺たちが見守る中、見事二人の想いは通じ合い、手を取り合ってその場を去ってゆく。甘酸っぱい青春の一ページである。
「いいもん見れたなあ……」
「僕はスタッグギルディ、あらためて礼を言うよ。一つの恋が実るのを、最後まで見守ってくれて」
「言われるまでもないわ」
「わたくしたちも、恋が成就する瞬間は邪魔したくありませんわ!」
俺たちは場所を移動し、人目につかない校舎裏へ足を進めた。これで派手なことをしなければ他の生徒たちに気付かれることは無いだろう。
『アルティロイドも連れず、暴れてもいないのに発見できたということは、このエレメリアンは戦力を分断するための囮かもしれません! 油断なさらないでください!!』
そもそも隊長直々のご出陣だ、油断なんて端からするつもりはない。
「お前の目的は何? まさか出歯亀だなんて言わないわよね?」
「あれは嬉しい偶然さ。見られてよかったよ」
スタッグギルディは、俺たちを順番に見据えると、うんうんと満足そうに頷き、甘く囁くように告げた。
「君たちは皆、素敵な恋を実らせているね。これほど見事に恋を実らせた戦士は、今までの世界でも稀だよ」
恋心を見抜かれ、俺たちは表情を強張らせた。まさかこいつは────!?
「そしてテイルミラージュ、君の属性力の強さは薄々気付いていたけど、間近で見て確信したよ。君はツインテール属性ではなく、僕と同じ
「アタシと同じ属性の、エレメリアン……!!」
ついにこの時がやって来たか……! 同じ属性だけでなく、おまけに軍団の隊長ときている。俺はテイルレッドたちとドラグギルディのような宿命の対決を感じて、いやがおうにも緊張を高まらせる。
だが次の瞬間、奴が起こしたアクションは傍らに極彩色のゲートを開くことだった。
「僕の役目は終わった。話に付き合ってくれてありがとうテイルミラージュ。君に逢えて良かったよ」
「は────? ま、待て!!」
「それとテイルイエロー、テイルサンダー。君たちの恋は、
そう言い残して、奴はゲートの中へ溶け込んでいった。まさか、完全に時間稼ぎが目的だったのか?
『やはりそちらは囮だったようです! レッドたちと対峙したエレメリアンが、ドラグギルディの弟子だとか、決闘だとか口にしています! 結さんたちも向かってください!!』
俺たちは転送ポイントの近い屋上へと跳び、急いで基地へ帰還した。
□□□□
被害を出さないように移動した病院の屋上で、武器を構えるテイルレッドとテイルブルーは困惑していた。
目の前には師の仇だと戦いを挑んできたスワンギルディが、得物のレイピアをへし折られて転がっている。
「うぐぐ……なんという強さだ……! 私はこの数か月、死とすれすれの修行を積み、透けている荷物にも血反吐を吐いて耐え抜いた! それでも二人どころか、テイルレッド一人にも届かないというのか!!」
ドラグギルディの弟子で、修行を積んできたというから幹部を相手取るつもりで警戒していた二人だったが、結果は御覧の有様で、弱くはないが手こずるほど強くもないというなんとも微妙な戦闘力だった。
ドラグギルディのように、全身傷だらけだというのにこれでは拍子抜けである。
「完敗だ……流石はドラグギルディ様を倒した戦士……見事なツインテールだ……」
ドラグギルディに始まり、リヴァイアギルディにクラーケギルディ、離反したダークグラスパーと、四人もの師をテイルレッドたちに奪われたという鳴り物入りで始まったものの、あっけなく勝敗が決してしまった因縁の対決。
ブレイザ―ブレイドの一撃で、あっさりとレイピアをへし折られたスワンギルディは、憑き物が落ちたような表情で自らの敗北を受け入れている。
レッドは、ドラグギルディを倒した時より経験を積んで、地力が上がっているせいなのだろうと自分を納得させた。
「スワンギルディ……」
「モケ……」
所在なげに立ち尽くす、撮影班のアルティロイドを下がらせるスワンギルディは、最後の望みを二人へ高らかに告げた。
「さあテイルレッド、テイルブルー! もはや勝負はついた。願わくばお前たちの手でドラグギルディ様の元へ送ってくれ!!」
「レッドー! ブルー!!」
「みなさんご無事ですのー!?」
俺たちを倒すためだけに修行に明け暮れた戦士を、このままあっさり倒してしまっていいものかと悩むレッドの元へ、テイルミラージュたちも駆けつける。
レッドが出来ないならあたしが……とテイルブルーがウェイブランスを
「なんだ……あれは?」
『────皆さん! 空を見てください!!』
スワンギルディの呟きとタイミングを同じくして、トゥアールの通信が入った。
そろそろ黄昏を迎えんとする初秋の空に、場違いな代物が浮いている。
「UFO……?」
視界を埋め尽くすのは、直径数キロはありそうな巨大円盤。SF映画や特撮に出て来そうなディティールたっぷりのUFOが天を覆っていたのだ。
「おいスワンギルディ! あれはお前らの母艦か!?」
「知らぬ! あれは決して我らの母艦などではない!!」
「なんですって!?」
「じゃあひょっとして……宇宙人!?」
「第三勢力の襲来ですわ!!」
レッドの問いかけに返される否定の声。ならばいったい何者なのか、ツインテイルズも、スワンギルディも、困惑しつつ事態の推移を見守るしかない。
円盤中央のハッチが開き、お約束のように光線が照射されるや、病院の駐車場へいくつもの人影が降下してゆく。
現れたのは、アルティロイドとはまた違ったデザインの黒マスク戦闘員と、それを率いる動物を模した怪人だ。
その全員がキャップも揃ったナース服を着ており、怪人は看護師長を思わせるカーディガンを羽織っていた。
しかし彼らは断じて女性型などではない。戦闘員はまだ細いので見逃せるレベルではある。だが怪人の方は、アルティメギルのエレメリアンもかくやという、むさ苦しくも屈強な肉体をナース服へとはち切れんばかりに押し込んでいた。
見ているだけで頭痛がしそうな光景だ。
「ふむ……発展途上な文明にしては、なかなかにいい病院だ。たった今からこの病院を、我らナイチンゲイルが担当する! 者ども、看護開始だ!!」
「フロ────レン!」
号令一過、敬礼した戦闘員たちが病院のエントランスへとなだれ込もうとする。病院の中にはまだ、動くことの出来ない重症患者や、手術中の人だっているのだ。このまま行かせるわけにはいかない。
「なんなのだ……? なんなのだ奴らは……!?」
「まずい、とりあえず行くぞ!!」
「わかったわ!」
ツインテイルズは満身創痍のスワンギルディを置いて屋上から一斉に飛び降り、ナイチンゲイルと名乗った集団の行く手を塞ぐ。
彼を放置したのは、正々堂々決闘したのだから、こちらが連中と戦っている隙に、火事場泥棒のような真似をしたりはしないだろうという、信頼故でもあった。
「待て!!」
「ややっ!? 貴様たちは何者だ!?」
「俺たちは、この地球を守る戦士、ツインテイルズだ!!」
堂々した名乗りに気圧された豹頭の怪人は、負けじと一歩前に進み名乗りを返す。
「俺は宇宙の医療集団ナイチンゲイルのナース長、テンテキジャガーだ!!」
取り出された、点滴パックと巨大な点滴針を穂先に頂く長槍を構えるテンテキジャガーは、ツインテイルズを嘲笑うかのように自らの目的を語り始めた。
「そこの眼鏡はまだしも、なんとも筋肉の足りない娘たちだ。やはりこの惑星の人類には、我らによる筋肉という名の治療が必要と見える」
『属性力の反応が……? みなさん、おそらくそいつらは、アルティメギル以外のエレメリアンのようです!!』
「なんだって!?」
「百薬の長たるプロテイン! そして日々のたゆまぬ鍛錬こそが健康な筋肉を造り上げるのだ! 手始めに貴様らから治療を施してやろう!!」
「余計なお世話よ! ただでさえ筋肉付かないよう気を使ってるのに!!」
抜き放たれたテイルブルーのウェイブランスと、テンテキジャガーの点滴ランスが火花を散らしてぶつかり合い、残りのメンバーも武器を手に戦闘員と戦い始めた。
アルティメギルの幹部怪人さえ打ち倒すツインテイルズが、先遣隊程度に苦戦などするはずもなく、戦闘員はたちまち全滅し、ブルーと二三打ち合っただけで点滴ランスはへし折れ、テンテキジャガーは丸腰となる。
「な、何という強さだ! ツインテイルズ恐るべし!!」
そしてテイルブルーがランスを振りかぶり、オーラピラーを叩きつけようとした時、それを制止する声が響いた。
「待ってくれテイルブルー!」
屋上から飛び降り、ゆらり、とよろめきつつも、確かな足取りで向かって来るスワンギルディだ。そんな彼に、テイルブルーは眉根を寄せて棘のある言葉を向ける。
「何よ? 同じエレメリアンだからって、庇いだてする気?」
スワンギルディは、それを毅然とした眼差しで否定すると、怒りに震える拳を握り、テンテキジャガーへ人差し指を突き付けた。
「私とお前たちの決闘と……看護服を汚したこいつだけは、私の手で叩き潰してやらねば気が済まん! 頼む、この勝負譲ってはくれまいか!!」
意表を突かれたテイルブルーと、乱入に狼狽えるテンテキジャガー。
「エ、
「他の隊員が騒いでいたのはお前たちのことだったか……我が名は
テイルレッドは、しばし目をつぶり、考え込むとスワンギルディに許可を出した。
「……わかった。スワンギルディ、ここはお前に任せる」
「ちょっと、レッド!?」
「いや、アタシはレッドに賛成だ。男とおと……正々堂々の勝負を邪魔されたんだ。こいつも落し前は付けてやりたいでしょう」
「わたしも」
「わたくしも賛成ですわ」
『まあ、生き残った方を倒してしまえばいいんですから、大した違いは無いでしょう』
当然、ブルーからは真意を問う声が上がるが、他のメンバーが擁護に回り、ブルーも引っ込まざるを得なかった。
「テイルレッド、テイルミラージュ……かたじけない!!」
「こちらとて、ナイチンゲイル先遣隊としての面子がある。ここで尻尾を巻いて逃げ出すわけにはいかん! ゆくぞスワンギルディ!!」
「たとえこの命燃え尽きようと、恐れるものは何も無い!」
愛剣をへし折られ、無手となったスワンギルディだったが、戦う手段が無くなったわけではない。
襲い来るテンテキジャガーの爪を掻い潜り、懐へ潜り込んだスワンギルディの脚が大地をしかと踏みしめると、その反作用でもって右掌を、敵の胸と腹の境目へ叩き付ける。
「
「────ごはっ!?」
屈強な体が空中へ浮き上がるほどの威力に、テンテキジャガーは血反吐と共に肺の空気を1cc残らず吐き出し、目を白黒させる。
心肺蘇生の名前とは裏腹に、相手の息の根を止めかねない一撃だ。
「────トドメだっ! AEDパルサー!!」
大地を蹴ったスワンギルディの左脚が、テンテキジャガーの右胸に突き刺さる。そこを支点に、持ち上がった右脚も遅れて左胸へと叩き付けられる。
必殺の二段蹴りが決まった瞬間、目もくらむ電光が辺りを染め上げ、心臓を一時停止させるどころか、テンテキジャガーの身体を跡形もなく四散させていた。
先遣隊の敗北を確認するのと同時に、ナイチンゲイルの母艦である巨大円盤も退却し、空の彼方へ飛び去ってゆく。
夕日の照らす病院の窓から、ギャラリーが成り行きを見守っているなか、竜の背を追う白鳥の騎士が、見事勝利を飾ったのだ。
「ぐう……!」
しかしそこで精根尽き果てたのだろう。スワンギルディは、糸が切れた人形のようにそのままアスファルトの上へ倒れ込む。
「ここまでか……叶うなら、お前に倒されたかったぞ、テイルレッド……!」
「スワンギルディ……」
このまま一思いに楽にしてやろうと、テイルブルーが槍を振り抜き、オーラピラーの水球を飛ばす。
だが突如割り込んできた黒い影が、スワンギルディを寸前で開かれた転移ゲートに投げ込むと、そのまま捕縛結界に飲み込まれた。
「な!? アルティロイド!?」
「馬鹿な! 邪魔をするな!! なぜこのような真似を!?」
撮影班としてスワンギルディの戦いを見届けていた彼は、身代わりに受けたオーラピラーの激流に揉まれながら、閉じゆくゲートの向こうへと、その表情の分からない黒いマスクを向ける。
「モケー……」
必殺技を受けるまでもなく四散するアルティロイド。だがゲートの中へ吸い込まれてゆくスワンギルディの目には、最期の一瞬、彼が笑っているように見えていた。
「……まさか、モケーがエレメリアンを庇うなんてね……」
「それだけ、スワンギルディの頑張りを見てたんじゃないかな……?」
「今回は取り逃がしちまったけど、また戦う機会が有ったら、今度こそレッドが最後まで相手してやんなよ?」
「ああ! このツインテールに賭けて誓うぜ!!」
身を挺して上司を庇った戦闘員の死にざまに、ツインテイルズたちも思うところあったのか、敵を取り逃がしたというのにその表情はどこか晴れやかだ。
「ですが問題は、あのナイチンゲイルという新たな組織ですわ」
「アルティメギルだけでも頭が痛いのに、どうすればいいのよ……!」
そして、ここに来て新たに襲来した宇宙の医療集団ナイチンゲイルの脅威。
その規模は、目的は一体何なのか?
謎に包まれた新組織を、ツインテイルズは倒せるのか────?
地球に平和を取り戻すその日まで。戦え、ツインテイルズ!
エロゲやらされたベアギルディみたいに、足を滑らせてキーボードに突っ込んだらアルティロイドがこんなことになってました(大嘘)
あとナイチンゲイルについて。これ、ぶっちゃけると宇宙怪人です。なので筋肉、マッスル。そして属性を極めているとはとても言えない言動。
平行世界は広いので、宇宙皇帝にスカウトされなかった組織があってもおかしくないですから。