俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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唸れ! テイルブラックの新必殺技!!


第四十二話「虎よ! 虎よ!!」

 新学期を迎えて数日が経ち、休み気分も抜けていつも通りの雰囲気に戻った陽月学園。

 俺たちもいつも通りツインテール部の部室へ足を運んでいた。

「ようやく来たか。待ちかねたぞ!」

 扉を開けた俺たちを出迎えたのは、黒い生地をフリルで彩ったアイドル衣装の、眼鏡を掛けた少女────今をときめく眼鏡アイドル、善沙闇子こと、テイルブラック・イースナだった。

「なんで学校にまで来てるんですか! 学園ラブコメでも夢見てるんじゃないでしょうね?」

 慌てて扉を閉めたトゥアールを気にするでもなく、気さくに俺たちを出迎えたイースナは、せっかく仲間になったのじゃ、友達の学校も見ておきたいと思うのは当たり前じゃろう? と会長の隣へ自然に陣取った。

「どうも~お邪魔してます~」

 桜川先生に先んじて、同じくやって来ていた保護者ロボ、メガ・ネプチューンが人数分のお茶を淹れてくれている。

「おにいちゃんたちお疲れ! あ、イースナちゃんも来たんだ」

 ロッカーが開き、初等部の授業を終えた結維も顔を出す。お茶はちゃんと八人分。仕事は完璧だ。

「ちゃんとトレーニング続けてる? 変身に頼らなくてもライブ出来るようにならなきゃだめよ?」

「余計なお世話じゃ! 貴様のおかげで家に帰っても、メガ・ネが腹筋やらストレッチやらのアシスタントをしようと、ひっきりなしに世話を焼いて来るのじゃぞ!?」

「良かったじゃない。せっかくだし金のきしめん、使えるように目指したら?」

「良くないわい! あんなもん軽々使える人間なんてゴリラじゃ!!」

「ナナちゃんディスったらあかんで!? ……ナナちゃんって誰やろ?」

 会長を挟むように反対側に座った妹と、まるで昔の愛香とトゥアールのように軽口を交わすイースナを会長、メガ・ネと共に微笑ましく眺めながら、俺はバースデーライブで彼女の正体が知れ渡った時のことを思い返していた。

 

「で? あんたらいつから気付いてたの?」

「ファイアフライギルディと戦ったあたり……」

「……同じく」

「ダークグラスパーが来てすぐの頃じゃない! どうしてあたしたちに教えなかったの!?」

「だって……正体を知った愛香が殴り込みをかけて、ブルーへのネガキャンに使われたらと思うとどうにも言い出せなくて……」

 俺は泥をかぶるつもりで、総二の代わりに愛香へ弁明するが、当然愛香はそんなに信用できないの!? とごもっともな怒りを露わにする。

「まあまあ、愛香さん。総二様も結さんも愛香さんが大好きなんですから、評判が悪くなるのが耐えられなかったんですよ」

「そりゃあそうかもしれないけど……」

「「黙っててすみませんでした」」

「うむ、よろしい」

 トゥアールによる仲裁もあり、二人そろって頭を下げることでどうにか許してはもらえたものの、しばらく愛香に頭が上がりそうにないと俺たちは顔を見合わせて苦笑した。

 

 さて、現在の部室に時間を戻す。

 俺たちの話題はメガ・ネによる、愛香や結維はともかく会長は変身後のテイルイエローとはさっぱり結びつかないという評価から、それぞれのメンバーが、アルティメギルでどのような扱いを受けていたかにシフトしていた。

 まず大人気な俺たち初期メンバー三人。イースナ曰く、以前ツインテイルズペロペロキャンディーを買ってやったら、一晩中手の上でハアハア眺め続けて熱気と湿気で溶かしてしまい、崩れたキャンディに号泣したらしい。

「買うなよ! クラスの連中が舐めてるの見るだけでも頭痛いのに!!」

「エレメリアンが飲み食いしないのがせめてもの救いだな。連中が愛香のキャンディーをペロペロしてるなんて知ったら、俺は自分を抑えられん」

「やめてよ気色悪い! あいつらがあたしのキャンディー舐めるとか、変に意識しちゃうでしょ!?」

 愛香は怖気震い、ツインテールを掻き抱いてうっかり想像してしまった光景を脳内から追い出そうとする。

「イースナさん。わたくしは、どのような扱いを受けていますの?」

「なんじゃ、気になるか? 一人(ピン)の頃は特に話題にはなっておらなんだが、サンダーとコンビを組んでからは、人前でSMプレイに興じる危ない奴扱いじゃな」

 評価が的確過ぎて何も言えねえ! 会長の、ひどいですわー!! という叫びを耳にしながら、俺は目を覆っていた。

「まああれじゃ、エレメリアン共は皆童貞臭い奴らばかりじゃ。慧理那たちのようなハッチャケた女は苦手なんじゃろう」

「気にすることなんて無いわ慧理那ちゃん。敵の評判を気にしてへこたれるヒーローが居た? みんな見た目がアレで世間から後ろ指刺されても、挫けず戦い抜いた人たちばかりじゃない!!」

 イースナと結維のフォローのお陰で、落ち込みかけた会長は持ち直すことが出来た。

 そんな中、部室に鳴り響く出現アラーム。ツインテール部、部活の時間だ!

「イースナ、あなたも皆さんと一緒に出撃しますか?」

「いや、テイルブラックは世間に周知されておらぬし、現れたのがわらわ直轄部隊の者では動揺して何を口走るかわからぬ。アルティメギルの関係者だと知られるわけにはいかぬゆえ、折りを見て駆けつけるとしよう」

 確かに初登場のタイミングは大事ですわ。わたくしも頑張って、テイルイエローここにありと示さなくては! と会長は可愛らしく拳を握りしめ、闘志を燃やしていた。

「ウチも、ツインテイルズの戦いでは頑張って協力するさかいな!」

 俺たちは、メガ・ネのエールを背にロッカーをくぐり、基地へと転送されてゆく。

 

□□□□

 

 出撃し、たどり着いた先は日本でも有数の乗降客数を誇るターミナルステーション。パニックにこそなっていないが、避難しようとごった返す人々を助けようと、駅員さんがエラーを繰り返す改札のドアを開放しようとしている。

 逆にアルティロイドたちは律儀に電子マネーカードをタッチして、規則正しくスムーズに客を追いかけている。

 おい、お前らはどの駅から何線に乗って現れたんだ?

「レッド! あそこにエレメリアンが!!」

 イエローが指さした先に、女性に迫るずんぐりとしたエレメリアンの姿があった。

「うむ、素晴らしい。胸と脇が互いを引き立て高め合う、これぞ真理よ!!」

 ノースリーブのブラウスを着た女性へ、舐めるような視線を向けるエレメリアンが、ブルーの怒りに火を点ける。

「あいつどこ見てるのよ……胸? 胸関係のエレメリアン? ならすぐにでもブチ殺さなきゃ……狙われてる人のためにも!」

 狙われた被害者は結構巨乳でした。恋香さんの夏服もなー、ノースリーブで強調されてるしなー。

「その人から離れろ!」

 駆けつけた俺たちに気を取られた隙に、被害者は一目散に逃げてゆく。

「あらわれたなツインテイルズ!!」

 しかしこいつ、脚がたくさんある何かの虫には見えるので美の四心(ビー・ティフル・ハート)なんだろうが、モチーフがいまいちはっきりしない。

 ダンゴムシのようでもあるし、ワラジムシかもしれない。ゲジゲジかもしれないし、特撮的には裏をかいてムカデのような気さえする。悩ましいことだ。

「俺は死の二菱(ダー・イノ・ランヴァス)所属のアースロギルディ! 袖無属性(ノースリーブ)を愛する森林の王者だ!!」

「あれは、アースロプレウラ……!」

「知っているのイエロー(雷電)!?」

「巨大トンボ、メガネウラなどと同じ時代に生きていた、古代の大ムカデですわ!!」

 マイナー生物の登場をスイッチにして、サンダーとイエローの寸劇が始まる。やはりムカデだったか。ずんぐりしているが、(あか)くないからわからなかったぜ。

「死の二菱は、恐竜だけじゃなく古代生物の軍団だったのね……」

「前に戦ったシーラカンスギルディも、強くなったらこの部隊に異動してたのかもな」

『いけませんね、レッドもブルーも、テイルギアはノースリーブ。脇丸出しです!』

 俺たちを見回して、この世界の戦士は豊作だと吼えるアースロギルディの熱視線に、ブルーが怯え脇を隠してレッドの陰に隠れる。

 くっ、愛香たちの脇を変態の目に晒すわけにはいかん。ここは露出の無い俺が……と前に出ようとすると、テイルレッドが手を引いた。

「俺だって戦えるぜ? ブルーを守るのは俺の役目だからな!」

「レッド……よし、アタシたちでやってやるわよ!」

 闘志を燃やす俺たちを他所に、イエローからノースリーブを狙うには時季外れでは? という指摘を受けたアースロギルディが、この時期だからこそ汗を気にせず自然な振る舞いで無防備な脇を晒せるのだと反論している。

 奴には長年そのことについて討論し続けた、脇を愛する親友が居るそうだ。なんだかそいつは向こうの世界に行ってそうな気がした。

 ロングロッドを連結し、ブレイザーブレイドを抜く。各々得物を手に戦闘態勢を取った俺たちに、眼光鋭く光らせたアースロギルディは真正面から突っ込んでくる。

「速い!?」

 どうにか躱すことは出来たものの、ずんぐりとした外見に見合わぬスピードと、すれ違いざまの脚による攻撃に、俺たちは苦戦を強いられた。

「肩の装甲が……!?」

「きっと肩だけひん剥いてノースリーブにする気よ! そんなの許さないんだから!!」

 装甲が大きいせいで、掠るような攻撃を受けた俺とイエローの肩部装甲が、機銃掃射でも受けたような、一列の規則正しい打擲痕でへこんでいる。小さな脚だというのに防御を抜いて来るとは、ムカデ特有の脚の数が影響しているのか、大した打撃力だ。

「うむ、赤も青も甲乙つけがたし。スーツの色と肌のコントラストが実に良い!」

 そして奴は、すれ違いざまにレッドやブルーの肩口をしっかり観賞している。抜け目のない奴だ。脇が見えなくても、袖無しを着ていれば喜んでしまうのが手強い。

「イエロー、サンダー、弾幕を張れないか?」

「だめ! 逃げた人が戻ってきちゃってる!!」

「下手に撃てば巻き添えになってしまいますわ!!」

 見れば改札の向こう側や階段付近など、一見安全そうな距離からギャラリーが戦いを見物している。

 駅の施設内でもあるし、これでは不用意にイエローたちの大火力は振るえない。

「ゆくぞツインテイルズ、お前たちのノースリーブは何としても堪能する!!」

 俺たちを取り囲むような動きで退路を封じたアースロギルディは、高速移動の残像でさながら本物のムカデのように見えている。

「受けるがいい! 古き良き夏の追憶(サマーバケーション)!!」

 周囲を走り回る奴の目がギラリと輝き、触角から放たれた波状光線によって風景までもが歪み始める。ギャラリーも何事かと不安げな声を漏らすなか、目まぐるしく変化していた景色はほどなくして完成を見た。

 

 ────喧しい程に鳴り響くセミの声。時刻は夕方だったはずなのに、天頂から俺たちを照らす力強い夏の太陽。

 大都会のターミナルステーションは、いつの間にか青々とした稲が爽やかな夏風にそよぐ、田舎の田園風景に変わっていた。

「おい! 俺たちの服装が!!」

 変化したのは風景だけではない。俺たちのテイルギアやエレメントギアも、ノースリーブの白いワンピースに変わっている。ご丁寧に頭には、それぞれのパーソナルカラーのリボンのあしらわれた、つばが広い帽子まで被せられていた。

「……親戚の居る田舎に遊びに来た、都会の女の子ってシチュか?」

 手触りはちゃんとギアのまま。コミケの時と同じだ。しかしまずい、総二たちがめちゃくちゃ可愛い……!!

 ……お盆休みによく遊びに来ていた女の子と仲良くなった田舎の子に、いつしか恋心が芽生えて、成長した彼が彼女にいつでも会いたいあまり、一念発起して都会の学校に進学しようと猛勉強に励んで、見事再会を果たす……あー! もうたまんねえ! 総二と愛香でも、ソーラと男装愛香でも、ソーラと愛香でキャスティングしてもそそられるなあ!!

 ……って惑わされるな! 今は戦いに集中しろ俺!!

「どうだ! ツインテイルズ全員にノースリーブを着せてやったぞ! ううむ、タンクトップやブラウスもいいが、やはりノースリーブには夏の田舎と、ワンピースにつば広帽子の組み合わせこそ至高!!」

『ああああああああああ! レッドたんもブルーたんも超かわいいいいいいいいいいい! いますぐそっちに行ってペロペロしてもいいですよね!?』

『トゥアールさん、映像の保存は!?』

『もちろん完璧です! ようじょの予備機もフルに駆使したマルチアングルでばっちり確保済みですよ!!』

『愛娘の写真や映像が次々増えるのって最高ねえ~』

 かわいいー! と沸き立ち、携帯で写真を撮りまくるギャラリー。通信の向こうでトゥアールも恋香さんも暴走している。

「うおー! おねえちゃんの脇ペロうおー!!」

「あーん! 戦いに集中してくださいましー!!」

 こちらでもテイルサンダーが暴走して、犬と飼い主が逆転していた。だから惑わされるなと言っておるー!!

「フハハハハハ……攻撃を仕掛けても、脇を堪能するチャンスが増えるだけで当たりはしないぞ!」

「くそっ!!」

 互いに背中合わせになり、俺とレッドで攻撃を仕掛けてみても、取り巻く輪を広げることで間合いを外されてしまう。

 横に走りながらバックステップとか器用な奴だ。

 ここは属性玉変換機構(エレメリーション)でチャンスを作るか? とエレメリーションキューブを取り出した俺の耳に、聴きなれた爆音が飛び込んだ。

 田んぼのあぜ道を土煙上げて爆走するのは、白銀の爆走機、メガネストライカーを駆る新戦士、テイルブラックだ。

「ぬおわ────────────────!?」

 高速で走り回る中、狙い過たずアースロギルディを背後から跳ね飛ばしたメガネストライカーは、俺たちを庇う様に変形し、テイルブラックと並び立つ戦闘ロボ、メガ・ネプチューンとなる。

「脇が好きな割には、脇が甘いんとちゃうか?」

 放たれた痛烈な一言と、かつての上官の登場に動揺するも、田んぼの中から立ち上がったアースロギルディは言葉を飲み込んだ。

 スティラコギルディの敗北が知らされていれば、ダークグラスパーが離反し、テイルブラックとなったことも伝わっているはず。

 ギャラリーの前でいたずらに騒ぎ立てないでくれているアースロギルディに、俺は少しだけ感謝した。

「大丈夫か? テイルイエロー、テイルサンダー!」

「テイルブラック! メガ・ネプチューン!!」

「ウチらが来たらもう安心やで、レッドちゃんたち! 機械のウチには脇なんてないし、ノースリーブの服も着とらんしな!!」

 ファイティングポーズを取ったメガ・ネプチューンの勇姿に、ギャラリーは湧いた。

「カッコイイ! 変形ロボットだ!!」

「かっこいいのに声はかわいいわ!!」

「彼女こそテイルシルバーだ!!」

 慣れぬ声援にメガ・ネが照れくさそうにする中、ギャラリーが今更のように隣のテイルブラックに気付いた。

「あれ? 黒いツインテイルズも居るぞ」

「怪しいな。モケーと同じ色じゃないか」

「イエローたちみたいな変態かもしれないわ」

 酷い言い草である。一般人にモケーで定着しているアルティロイドたちも、一緒にしないでくれという否定の身振りをしている有様だ。

 しかし服だけのコミケの時とは違って、駅の内部にまで立体映像が被せられているが、ギャラリーやアルティロイドたちが、田んぼの中に立っているように見えるわけでもなく、ちゃんと足元へ田んぼの畔や、用水路の橋などが上手く配置されているのが何とも芸が細かかった。

「ふ、ふひへへ……」

 あまりの扱いに、普段のイースナばりのどんよりオーラを撒き散らし始めたブラック。

 俺とメガ・ネを始めとする仲間たちは口々に通信や小声でエールを送る。

「普段もっと大勢の前で歌ってるだろ!?」

「グラスギアは脇が隠れてるんだから、頑張りなさいよ!」

「ディスられたくらいでへこたれるなブラック! アタシも含めて世界中のファンが君の活躍を待っているんだよ!!」

「あの時の勇気はどこへやったの!?」

「そうですわ! せっかくのお披露目なのですから、シャンとなさってくださいまし!!」

『これだけ言われてるんですから、期待に応えて見せなさい!!』

 意を決して自らを奮い立たせ、アースロギルディに対峙するブラック。

「……もはや語る言葉はありません。ノースリーブで語るのみ!!」

 敵として対峙した以上、もはや問答無用とばかりに、身体の側面に生える無数の脚を蠢かせ、アースロギルディは引き絞られた弓のように突撃の機会をうかがう。

「────よく言った! カオシックインフィニットに続く、わらわの新必殺技を見せてやろう!!」

 迷いを振り切った眼差しで、マントを翻すテイルブラックが、神眼鏡(ゴッドめがね)に指を添えた。

 放たれる光輪が、アースロギルディへ迫る。あれはあの時の幻覚攻撃か? だが新必殺技とは一体どう変化したのか……?

 

「セラフィックインフィニット!!」

 

 普段ならそのまま相手を包み込む光輪が、煌びやかな閃光を放つのと同時に、俺たちは新必殺技の正体を目の当たりにした。

「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 アースロギルディが、そして一部のギャラリーが悲鳴を上げた。

 見れば田んぼ道の向こうから、おーいおーいと野太い声を上げる、麦わら帽子でランニングシャツに、半ズボン姿のマッチョなおっさんが、群れを成してにこやかに駆け寄って来るではないか。

 おまけに胸毛も腋毛も脛毛まで、大サービスのてんこ盛りだ。

「嫌だあああああああああああ! おっさんのランニングシャツなぞノースリーブではないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 むさ苦しさ1000%増しな田舎少年たちの、逞しき大胸筋とモサモサな腋毛のマリアージュに打ちのめされた、アースロギルディとギャラリーの悲鳴は続く。

 セラフィックインフィニットは、本来幻覚として見せる恐怖や幸福を、現実に具現化するのじゃ! 刮目して見るがよい!! とブラックが誇らしげに解説しているが、これのどこが神々しい(セラフィック)のか小一時間問い詰めたい。

「あんた何てもん見せてくれるのよぉ!?」

「なんじゃこの! やるかー!?」

 視覚の暴力を受けた俺たちを代表して、ガルバニックチャージでイエローの力を蓄えたサンダーが、ブラックにツッコミという名のプロレス技を仕掛けている。

 BGMは、通信の向こう側でひっくり返るトゥアールたちの悲鳴だ。

「レッド、ブルー。今のうちにトドメ刺しちまえ」

「わ、わかった────チェンジ・ライザー!!」

「チェンジ・フォーラー!!」

 プログレスバレッターとエクステンドリヴォンが接続され、二人はそれぞれ攻撃特化のライザーチェイン、速度特化のフォーラーチェインに強化変身する。

「パワーアップしたレッドとブルーが生で見られた! 腋毛のダメージが癒されるううううううううううううう!!」

「行きなさい、ウェイブセイバー!!」

 脇をがっちりガードしたフォーラーブルーから放たれた攻撃端末、ウェイブセイバーが空間を蒼く染め上げながら飛び、マッチョたちに取り囲まれていたアースロギルディを周囲のアルティロイド共々滅多切りにした。

 ブラックの背にサンダー渾身の踵落としが決まり、追い打ちの膝蹴りという虎の牙が彼女のみぞおちに突き刺さる。

 俺の放ったオーラピラーがエレメリアンを捉え、完全開放したライザーレッドのブレイザーブレイドツインが紅蓮の炎を噴き上げる。

「ライジングッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「見事だテイルレッド! 最期に最高のノースリーブを、この目に焼き付けることが出来ることを感謝するぞおおおおおおおおおおおおおお!!」

 二刀流でX字に斬り裂かれたアースロギルディは、テイルブラックがテイルサンダーによって、トドメの虎王を極められる姿をバックに爆散した。

『中継可能な幻覚ってタチ悪すぎですよ……私もお義母様も恋香さんも、画面見て大ダメージでした……』

『キッツイわー! お父さん脇ツルツルだったから耐性無くてキッツイわー!!』

『うわー! どうせ見せられるなら結くんのがよかったー!!』

 通信越しに聞こえるみんなの嘆きが、基地で繰り広げられた惨状を物語っている。確かに俺の毛は人並みレベルだから、アレより被害は少なかろう。

 あ、ミラージュの時はツルッツルだかんな! 変なこと考えんなよ!?

「わらわもうお家帰るのじゃー! サンダーのばーかばーか!!」

 黄色い悪魔の本領を発揮したテイルサンダーに手酷くやられたブラックは、泣きながらメガ・ネに縋り付き、メガネウインガーに乗って飛び去って行った。

「……俺たちも帰るか」

「ああ」

 きっとTVでは、ブラックがひどい扱いになってるんだろうなあ……

 

 “マッチョ使い現る”

 

 ────こういうことになった。

 ちなみにメガ・ネプチューンは“テイルシルバー”の愛称が広まって全世界で大人気となり、ツインテイルズのサポートロボット開発をもくろんでいた各国は、米国のモダエル国防長官を始めとして、先を越されたことを口々に悔しがっていたという。

 イースナ、強く生きろ。とりあえずマッチョは封印な?

 

□□□□

 

 迎えに来た尊の運転する高級車(くるま)で観束家から帰路に就く慧理那は、尊に今日の出来事を話していた。

 ニュースは尊も見ていたようで、主人の友人であるイースナがひどい扱いになっているのを慧理那と共に憐れんでくれている。

「でもイースナさんは、相棒のメガ・ネさんが人気者になったのですから、誤解が解ける日もそう遠くないと思いますわ」

「あのロボットですか。部室へ片付けに向かった時には、既に彼女によって掃除が終わっていました。相当な花嫁修業を積んだと見て間違いないでしょう」

「そ、そうですわね。メガ・ネさんも、素晴らしい新たな仲間ですものね」

 はにかみ、肩をすくめながら、慧理那は思っていたことを尊に伝えてみた。

「尊……わたくし、お母様に親孝行がしたいですわ」

「それは……やはり、お嬢様と私が愛する人と結ばれ、一刻も早い花嫁姿を見せてあげることが、一番奥様が望まれていることかと」

「ですがわたくしたちは今、世界を守るために戦う身。結婚はその後ですわ……それに、結維さんは女の方ですし」

「そうですか……なら一足先に、私が何としてでも結婚して見せましょう!」

 首を振る慧理那に、尊は自信満々に言い放つ。

「結婚以外となると……やはり奥様を観束の家に招待することでしょうか?」

「ですが観束君は……そうですわ! 観束君や長友君を、津辺さんたちとどこかへ招待すれば、お母様と顔を合わせずに、観束君のお母様と会わせてあげられますわ!!」

「それは素晴らしいアイディアかと」

「そうと決まれば……うふふ」

 地獄への道は善意で舗装されている。この選択が何をもたらすのか、慧理那はこの時知る由も無かった。

 

□□□□

 

 地球を狙うアルティメギル基地の大ホール。

 そこでは集った戦士たちが、衝撃的な映像を前に動揺を必死に押し殺していた。

 首領補佐として指揮を執っていたダークグラスパーの離反。そして新戦士テイルブラックとしてツインテイルズへ加入し、部隊へ合流することなく出撃した死の二菱の戦士が腋毛の深淵に飲まれて打ち倒される姿。

 隊長を務めるスタッグギルディは、勢い良く立ち上がると皆に告げた。

「全ては君たちの目にした通りだ。ダークグラスパー様は組織を出奔し、処刑部隊・死の二菱が行動を開始した」

 いつもは黄色以外のツインテイルズを愛でる声に満ちた大ホールだが、今や隠し切れない動揺や戸惑いの声が、不協和音となって場を満たしている。

「元々手ごわい相手だったツインテイルズに、強力な新戦士が加わった。それだけのことだよ」

 以上だとまとめるには難しすぎる。スタッグギルディどころか、美の四心の真の隊長であるビートルギルディでさえ、それは不可能だったろう。

 当然、納得できないとの声が、彼女と付き合いの長かった美の四心の隊員から上がる。

「ならば皆……自分の胸に手を当てて、考えてみるといい」

 確かにダークグラスパーは、執拗で執念深く、部下のプライベートを顧みない上司だった。だがエレメリアン相手でも分け隔てなく接してくれる優しい少女だった筈だ。

 スタッグギルディの言葉に胸を打たれたエレメリアンたちは、口々に己の罪を吐露してゆく。

 アドレスの交換を拒否した者。投げキッスを返品してしまった者。スク水姿に驚いて、バク転でその場を逃げ出してしまった者……

 微妙な距離感の思い出が、古い布団を叩いた時の埃のように湧いて出た。

「だからこそ僕は、ダークグラスパー様……テイルブラックを、反逆者ではなく正統なる戦士として扱い、正々堂々戦っていきたいと思う。異存のある者はいるかい?」

 居ようはずも無かった。満場一致で拳を振り上げ、賛同する戦士たちを前にして、スタッグギルディは満足げに頷いた。

 この場にビートルギルディが居れば、きっと立派に成長した義弟を誇らしく思ったことだろう。

 

 決起の怒号に揺れた大ホールが静けさを取り戻し、隊員たちが退出した後。

 スタッグギルディの元へ傷だらけの白い戦士が歩み寄り、頭を下げた。

「君は……スワンギルディ」

 スタッグギルディが告げられたのは、ダークグラスパーとメル友だったという彼の自負。そしてスワンギルディによる、ダークグラスパー打倒の宣言。

 過酷な修行と、ダークグラスパーのメールによって刻まれた全身の傷跡……白鳥らしからぬ努力を隠さぬ男の勲章に、スタッグギルディは眩しそうに目を細める。

「どうか私に出撃の許可を! ダークグラスパー様……否、テイルブラックと、ドラグギルディ様の仇、テイルレッドとテイルブルーと、今こそ決着を付けたく!!」

 ついに、看護服属性(ナース)の若き神童スワンギルディが、修行の成果を示すべく起ち上がる時が来た────




劇中で登場したきしめんというのはトレーニング用の、色ごとに負荷が違うゴムバンドのことです。金色が最強。
なんかミラージュに帽子とワンピース着せると八尺様が思い浮かぶのは気のせいでしょうか?
あとタイガーマスクWは名作でしたね。

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