俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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善沙闇子は宿無し眼鏡。頼る人はトゥアールがいるけれど、帰る家は無いのだ。

サブタイトル「アイドルお宅訪問」から変更。


第三十八話「汚い闇子ちゃんを拾ったので虐待してみる」

 組織を追われたダークグラスパーと、満身創痍のメガ・ネプチューンを基地へ招いたツインテイルズだったが、一同の変身と警戒が解かれることは無く、テイルブルーは取り調べ中の刑事のように、ダークグラスパーへ疑いの視線を向けている。

「わらわも、お前たちに迷惑をかけるつもりはない。ただ、トゥアールにメガ・ネプチューンを修理してほしいだけなのじゃ……」

「修理が終わったら、すぐにでも出ていきますよって……」

「メガ・ネプチューンはあなたが造ったのに、なぜわざわざ私に頼むのですか?」

 トゥアールの問いにダークグラスパーは、メガ・ネプチューンをここまで仕上げられたのはアルティメギルの超科学の粋を凝らした工房があってのもので、充分な設備もなしに直せるだけの技術は持っていないのだと答えた。

 彼女の殊勝な態度に、どうにか態度を軟化させたテイルブルーだったが、続いてダークグラスパーが憎々し気に告げた、アルティメギル首領の存在に、テイルレッドとテイルミラージュは思わず席を立つ。

「アルティメギルの首領だって!?」

「そいつが、メガ・ネプチューンをこんな目に……」

 彼女の語る首領は、全エレメリアンを統括する最強の存在で、一切の慈悲を持ち合わせていない悪魔の如き存在だった。

 余りの恐怖に口には出されなかったが、その恐ろしさたるや……姿は神秘のヴェールに包まれていて、年齢も性別すらも判別することは叶わないうえ、その口は常人には九十回。アルティメギルの上級エレメリアンでさえ、七十回録音を聞き返してようやくおぼろげに理解できようかと言う難解な言葉を紡ぐ。

 その極め付けが、チェスと碁石が入り混じる、まるでかっこつけた中学生が何かにつけてチェックメイトと言いたいがために、ルールも分からずにチェス盤を弄り回しているかのように誤解しかねない例え話だ。

 人間が超宇宙的存在と遭遇し、自らの矮小さを思い知らされて発狂するというのはこういうことか。と経験者は語る。

 

 首領を倒せば戦いは終わると、居場所を聞き出そうとするテイルブルーだったが、首領の間への道は、無限に等しい組み合わせの経路を、手順通りに繋いで初めてたどり着くことが出来る。もはやそれは変更されており、同じやり方ではたどり着けないし、今のツインテイルズの力では首領に勝つことは出来ない。

 ダークグラスパーは、そう告げると一筋の涙を流してコンソールルームの机を叩いた。

「メガ・ネプチューンとて、我らギア装着者と遜色ない力を有しておったのじゃ。世界を隔てた半身たる、MK.Ⅱが庇ってくれなんだら、こちらのメガ・ネまでバラバラにされていたやもしれんのじゃぞ……!」

 ダークグラスパーの叫びに、コンソールルームの空気が重くなる。

 テイルレッドがやにわに立ち上がり、口にすれば間違いなく止められるだろうと無断で変身を解除した。

 その無謀な行いに、ブルーの非難する声が飛ぶ。光と共に現れたのは、赤毛の男子高校生、観束総二。テイルレッドは女だとトゥアールから聞いていたダークグラスパーは、予想外の光景に混乱を隠せない。

「あ……え? 男……? テイルレッドが、男……?」

 観念し、テイルミラージュも変身を解除し、その麗しい姿とは似ても似つかぬ、逞しい筋肉の上に贅肉を纏った巨漢、長友結の姿を晒す。

 テイルミラージュまでもが男であったことに固まってしまうダークグラスパーは、救いを求めるように、かつてテイルレッドは女の子だと言い放った仮面ツインテールに目を向ける。

「誤解しないように言っておくと、トゥアールは君をごまかしはしたけど、嘘をついたわけじゃない」

 再び変身した結は、エレメントドライバーを操作して変身解除を行った。

 銀の光の中から現れたのは男物の私服を着た、ツインテールも眼鏡も、胸のサイズもテイルミラージュそっくりの長身美女。

「────こういうことなんだ。テイルミラージュの変身ベルトには、性別を変える機能がある。男を女に変えられるし、女に生やすことだって出来るんだ」

「驚きすぎて、腰抜けたわ……」

 普段の子役アイドル声優のような声から、驚きすぎて地声になってしまったメガ・ネプチューンの呟きが響く中、ダークグラスパーも腹を括り、神眼鏡(ゴッドめがね)のブリッジに指で触れる。

 一瞬奔る黒い光と共にグラスギアが消えうせ、紺ジャージを着た女の子が姿を現した。

 観念した他のメンバーも変身を解除し、トゥアールも仮面を外す。

 ダークグラスパーが、テイルレッドが男だという疑念を抱いたのは、フェニックスギルディが原因だと総二と愛香が告げた。

 どうして奴が認識攪乱を物ともせずに正体を看破できたのか、それはダークグラスパー────イースナにもわからなかった。

 一人称が「私」になり、普段見慣れた傲岸不遜な態度から一転してしおらしくなった彼女の姿に、総二とトゥアール以外のメンバーは面食らう。

「……確かに私は、フェニックスギルディに、テイルレッドの正体を聞きました」

 だが奴は闇の処刑人二組を向こうに回してもなお圧倒し、まんまと逃げおおせている。

「そーじの正体を知ったエレメリアンが野放しってことなのよね……」

「ただ……私たちにだけ、特別に教えたとも言っていたので、他に告げ口はしないと思います。奴は今も、追われる身ですし」

 それを聞いて、総二は少しだけほっとした。

「なあイースナ、メガ・ネプチューン。俺たちは君たちから無理に何かを聞き出そうなんて思わない。何もせずにここにいてくれて構わないから」

「そーじ!?」

「ほんまにええの? なんか悪いわあ……」

 無理を聞いてもらう側だというのに、そこまで厚遇されるのは恐縮だというメガ・ネとイースナだったが、今までの行いを許したわけではないが、組織の秘密を漏らす恐怖や、友達や家族を傷つけられた悲しみを考えろという総二の言葉に絆され、反論しかけた愛香も引き下がった。

 トゥアールもまた、これ程あっさり切り捨てるということは、直属戦士の地位を与えていても最初から信用などされておらず、無理に聞き出したところで重要な情報も持っていないだろうと判断した。

「イースナ……この間は酷いことを言って、すみませんでした」

 バツが悪そうに謝罪したトゥアールは、イースナの頭を優しく撫でると、メガ・ネプチューンの設計図が収まった神眼鏡を受け取り、彼女の修復作業を引き受ける。

「ありがとう、ございます……トゥアールさん……!」

 予備の眼鏡を掛けたイースナと、恥ずかし気にそっぽを向くトゥアールの間に、ぎこちないながらも温かい空気が満ちた。

 この世界で初めての、ギアや仮面に遮られていない生身のイースナと、トゥアールとの再会だった。

 過去のわだかまりが解ければ、二人はもっと仲良くなれるだろう。

 

「はーい、それじゃあギスギスした雰囲気は終わりね!」

 部屋の入り口からパンパンという手を叩く音と共に、話は全て聞いていたのだろう。女幹部装備の観束未春と津辺恋香が満足げな笑みを浮かべて姿を現す。

「ようこそダークグラスパー……いえ、イースナちゃん」

「メガ・ネプチューンさんも、私たちはあなた方を歓迎します」

「は、はい……あの、この人たちは?」

「俺の母さんと」「あたしのおねえちゃんよ」

「テイルレッドとテイルブルーの……おかあさんと、おねえさん」

 先程まで震えていたイースナが真顔になり、悪の女幹部丸出しの格好をした二人をまじまじと見つめる。

 総二は、出会ってはいけない三人が出会ってしまったと内心頭を抱え、愛香も姉はどうしてこうなってしまったのだろうと遠い目をしていた。

 イースナの肩を叩いた未春は、遊びに来た友人へジュースを振る舞うかのような気軽さで、あなた結くんの所で生活しなさい。と言い放つ。

「結くんの家、今両親居ないの」

 笑顔で放たれる恋香の援護射撃。総二と愛香はまぬけな声を出すしかできなかったが、当の結と結維、おまけの慧理那は驚きの叫びをあげる。

 一旦イースナとメガ・ネを部屋の外へ遠ざけた未春曰く、ついこの間酷いフラれ方をしたイースナを、当事者であるトゥアールや恋敵の総二、愛香と一緒にしておくには時期尚早で、傷ついた心を癒す時間が必要だ。

 なので彼女と一番関係性が希薄で、年齢も近い結維が居る長友家に任せた方がいいと判断したのだそうな。

「まさかおにいちゃんと一緒の部屋なんてことは……」

「んなわけねーだろお前の部屋だ」

「ならわたくしも一緒にお泊りいたしますわ!」

「私もー」

 こうして慧理那と恋香も名乗りを上げ、あれよあれよという間にイースナが長友家に泊まることが決定してしまった。

 

 子供たちが去っていったコンソールルームで、椅子の背もたれに身体を預けた未春は一人、天井を見上げて微笑みを浮かべる。

 女幹部とヒーローの禁断の恋。死んだあの人の理想のシチュエーションだったわね。

 私はそれとは正反対な、男の幹部とヒロインが結ばれるシチュエーションが好きで、よくあの人とはぶつかり合っていたけれど……遂にその時が来て、私たちの夢を継いでくれる子が現れてくれたわ。

 正直、血を分けた総ちゃんの方が感動としてはひとしおだけど、流石に愛香ちゃんトゥアールちゃんたちを、これ以上引っ掻き回すわけにもいかないものね。

 頑張りなさい、結くん、結維ちゃん────どっちが彼女を落としても、私たちの夢は叶うんだから。

 立派に育った愛弟子たちに想いを託し、かつて真なる闇の女王(オプスキュリィ=レイヌ)と名乗っていた喫茶店の女主人は、その瞳を閉じて心を斜め十五度に。色鮮やかな青春時代へのタイムリープを敢行した。

 

□□□□

 

 さて、所変わって長友家。イースナを迎えた俺は、女子三人が集まって何やらやっている結維の部屋へ、飲み物とおやつを持っていくところだった。

 現在の俺の姿は、万が一にも間違いを起こさないよう完全に女体化されたミライの姿だ。エレメントドライバーは恋香さんに預けてある。

 エプロン姿が新婚の奥さんみたいだね。と評した彼女の言葉が、胸に刺さるやら面映ゆいやら、なんとも複雑だ。

 トレーに乗せたアイスティーと、お茶請けは手作りのクッキー。我ながらいい出来だと自画自賛しつつ、ノックの後にドアを開ければ、結維が待ち構えていたように顔を出す。

 少々顔の赤い結維にトレーを渡しながらも、気になって隙間から室内をちらりと覗き見れば、そこにはノートPCを囲んで画面を凝視する三人の姿。

 画面に映っているのはあられもない姿の美少女キャラのCG────どこからどう見てもエロゲーだ。会長なんて頭から湯気が出そうなほど真っ赤になっている。

 お前ら男子中学生か。と胸の中でツッコミを入れつつ、階段を下りる……が、突如いかがわしい声がドアを越えて響き渡り、俺は慌てて部屋へ舞い戻ると、稲妻電光を操る二人へ特大の雷を落とした。

「音量下げてやれえええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 そうこうするうちにエレメリアンが出現した。

 

 基地を経由して現場へ向かった俺は、そこで怒りのボルテージを上げざるを得ない光景を目の当たりにする。

「そのキーホルダー……貴様ら! 善沙闇子のファンでありながら伊達眼鏡を掛けるなど恥を知れ!!」

 重戦車のように厳ついフォルムだが、サイやゾウなどとは大違いのド派手なカラーリングかつ、見ているだけで目がおかしくなりそうな奇怪な文様のエレメリアンが、眼鏡を掛けたカップルに詰め寄っていたのだ。

 彼らの鞄には、お揃いのメガネドンキーホルダーがぶら下がっている。

「恥を知るのはお前の方だ!!」

「ぬおお!?」

 出会い頭のドロップキックを喰らわせるも、エレメリアンはたたらを踏んでつんのめりそうになっただけで、目立ったダメージにはなっていない。

「さあ、早く逃げて!」

「ありがとうテイルミラージュ!」

「レッドちゃんとブルーちゃんも、来てくれてありがとう!」

「おのれツインテイルズ、あと一歩と言うところで……! 現場へ駆けつけるこの速さ、予想以上に手強いと見た」

 イエローたちには全く言及せずに逃げてゆく被害者と、歯噛みして悔しがるエレメリアンを分断するように間に立ちはだかった俺たちは、指を突き付けて口々に奴を糾弾する。

「ミラージュの蹴りを喰らってビクともしない……幹部級のエレメリアンか?」

「その強さの見積もり、上限まで上げといた方がいいかもよ?」

「平和を乱す悪が居る限り……」

「わたくしたちは風のように駆けつけますわ!!」

「カップルを襲うとはふてえ野郎だ。明日の朝日は拝めないと思いな!!」

 見ているだけで目が痛くなりそうな、ド派手なエレメリアンはこちらに答えるように高らかに名乗りを上げた。

「我が名は四頂軍死の二菱(ダー・イノ・ランヴァス)所属のスティラコギルディ! 真の眼鏡属性拡散のために戦うものなり!!」

「まだ美の四心(ビー・ティフル・ハート)も倒してませんのに……」

「新たな四頂軍だって!?」

 ド派手な外見に紛れてさっぱり気付けなかったが、襟巻状に広がった頭部から放射状に生える何本もの角といい、二つ並んだ目玉模様といい、よく見れば確かにスティラコサウルスの特徴を持っている。

 四頂軍の死の二菱というのは、恐竜軍団と言うわけか。

「待て、我は属性力を奪う気は無い。ただ伊達眼鏡やコンタクトレンズを、この世から駆逐したいだけなのだ」

「させてたまるか!」

「さらばだ!」

 俺たちは武器を抜き、いざ攻めかかろうとしたが、ド派手なスティラコギルディの体表が、まるでトリックアートか、眼鏡を掛けずに見た3D映像のように歪んだ。

 遠近感が狂い、攻撃に失敗する俺たちを尻目に、スティラコギルディは一目散に退却していった。

『どうやら奴の体表は幻惑迷彩の一種で、目の錯覚を起こさせる幻惑光線を、周囲に放っているようです』

 くそっ、攻撃がまともに当たらないんじゃ勝負にならないぞ……

 悔しがる俺たちだったが、奴こそが首領から差し向けられたダークグラスパーへの刺客だと知らされたのは、それからしばらくしてからのことだった。

 

□□□□

 

 太陽がそろそろ西へ沈み、街の家々から夕飯の匂いが漂い始めようかという頃。長友家でも夕餉の準備が出来ていた。

 今晩のメニューはカレーライス。今も昔も、大人も子供も分け隔てなく胃袋を掴んできた大正義メニューだ。

 会長は辛いのが苦手なため、甘口に調整したものを別の小鍋に作ってある。

 今回は付け合わせのサラダと、野菜の皮むきを恋香さんに手伝ってもらったので何ともときめく共同作業となった。

 いつか結婚して子供が生まれたら、またこんな風景が見られるのかな……

 俺は今、自分が女になっていることを頭の脇へ追いやりつつ、夕食を今か今かと待ち構える子供たちを微笑ましく思った。

 

「「「いただきます!」」」

「い、いただきます」

「はい、召し上がれ」

 食事の挨拶が唱和し、みんなが一斉にスプーンを咥える。

「あ、おいし……~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」

 突然、イースナの顔から汗が吹き出し、火を噴かんばかりに声にならない悲鳴を上げて、コップを引っ掴んで中の麦茶を一気に飲み干した。

 いったいどうした? イースナは辛いのは平気だと言っていたから、俺たちと同じルーをよそったんだが……

 みんなから心配されるイースナを他所に、あることに思い至ってトゥアルフォンを取り出した俺は総二へと電話をかけ、メガ・ネプチューンと話が出来ないか確認する。

『え? イースナちゃんが普段食べてるカレー? ……あ。あの子ぉ背伸びして、カレーは辛口にしろって言うてたんやけど、ほんまに辛くすると食べられへんから甘口寄りの中辛にしとったんよ……』

 そう言うことか。なら仕方ない。手を加えてやるか。

 一旦下げた彼女のカレーに、バニラアイスをティースプーン山盛り投入。かき混ぜた後、再加熱した会長用のルーを少し加えてもう一度混ぜ合わせて出来上がりだ。

「はい、もう大丈夫だよ。うちのカレー、辛目だからイースナの家のカレーとは勝手が違ったんだろうね……ほら、ベルモンドカレーの辛口がVAVAカレーの甘口と同じだって言うだろ?」

「ああ、なるほど……慧理那ちゃんも、市販のルー使う時いつもベルモンドだって言ってたもんね」

 彼女の名誉のためにも、俺は甘口と辛口でそれぞれ有名なカレーを例に出し、上手くフォローしてやった。

「カレー、おいしかったです……ごちそうさまでした」

 サラダも好き嫌いせずに綺麗に平らげたイースナは、食器を洗う俺に礼を言うと、結維たちと共に二階へ上がっていく。

 

「イースナちゃんて、戦ってる時とは大違いの、大人しくて内気な子だけど、可愛い子だよね」

「そりゃあね。トゥアールの世界で、アルティメギルに何度も狙われてたくらいの子だもの、可愛くないわけないよ」

 ゆすいだ食器を食器籠に立てかけながら、恋香さんと他愛もない言葉を交わす。

 彼女は実は、国民的アイドルの善沙闇子でもあるのだが、今ここでそれを言ってしまうべきかどうしたものか……

「そんな子を裸にして、押し倒したんだよね、結くんは。このおっきなおっぱいに顔を埋めさせて」

「いえ、あれは事故です」

 やべえ、あの時のこと根に持ってた。恋香さんの朗らかな笑顔が怖い。

 指をわきわきといやらしく蠢かせて迫る恋香さんによって、逃げ場のない台所で背後から捕まえられてしまった俺は、これから彼女にされることを思い頬を染める。

「せめて……部屋、行かない?」

「無理。だってこんな、薄着でエプロン付けた若奥様みたいな結くんと台所に立ってるなんてシチュ、我慢なんて出来ないよぉ……❤」

 俺はジーパンの尻に突き付けられた凶器に観念し、ベルトに手を掛けた。

 

□□□□

 

 風呂の準備も終わり、大きな小学生と小さな高校生、年相応の小学生の凸凹トリオは浴室へ勇んで突撃した。

 だがイースナの雑な洗い方に憤りを覚えた結維は、忠犬エリ公に指令を下す。

「慧理那ちゃん、腕押さえときなさい」

「わかりましたわ」

「え? ……え!?」

 ガッシリと両腕を掴まれ、自由を封じられるイースナ。悲しいかなグラスギアが無ければクソザコナメクジな引きこもりの彼女では、発育が足りないとはいえ小学生……もとい中学生レベルでは健康優良児な、慧理那の腕力には敵わないのだ。

「わたくし高校生ですわ!」

 慧理那は虚空へと抗議の声を上げる。

 それはさておき、怯えるイースナに、結維の魔の手が迫った。

「ほーら目ぇつぶっときなさーい」

 洗うのに邪魔な眼鏡は無情にも外され、痛んだ髪の毛は丹念に濡らされてからシャンプーの洗礼を受ける。

 愛する兄のため、ツインテールのために、愛香から髪のケアを学んだ結維のしなやかな指先が、引きこもりのキューティクル痛みまくりな髪へ薬液を浸透させてゆく。

 頭皮へのマッサージも念入りに行われた後、泡は洗い流されイースナは安堵した。

「じゃあリンスするねー」

 だがそうは問屋が卸さない。結維はリンスのボトルを手に取ると、中身を手にあけイースナの髪へ擦り込み始める。

「身体は……身体は自分で、洗えるから……っ!」

「だーめ、そんなこと言って適当に洗ってたでしょ?」

「いやああああああああああああああああああああ!」

 リンスがなじむまでの間、洗顔料で顔から耳の裏まで、ボディソープで体中泡まみれにされたのち、もう一度シャワーを頭から浴びせられてようやく彼女は拘束から解放された。

「あの、結維さんわたくしも……」

「え? 慧理那ちゃん高校生なんだから自分で洗えるでしょ?」

 期待の目で結維を見るも、おねえちゃんなんだから自分でやりなさい。とにべもなく切って捨てられた慧理那はしょんぼりしながら、湯船に浸かる二人を尻目に、これは放置プレイなのだと自分に言い聞かせて、一人寂しくシャワーを浴びるのだった。

「百数えるまで上がったらダメだからね」

「うう……おかあさんが、増えたみたい……」

「そう言えば、メガ・ネプチューンって、イースナさんのお母さんなのですわよね」

「お母さんの怪我、早く直るといいね」

「え、うぅ……」

 イースナの頬を染めるのは風呂の温度か、はたまた裸の付き合いによる羞恥心か……口ごもる彼女が、答えを語ることは無かった。




敗北宣言ー。
首領の言葉は人類には早すぎるので、省略させていただきました。
あんな一文ごとに正気度のチェックが必要になるシーンなんて、まともに書いたら死んでしまいます。
トゥアールに改造されてる観束家とは違い、長友家は防音されてないので音量最大にすると音がめっちゃ漏れる模様。あと男相手のフラグはへし折る。絶対にだ!

どうでもいいことですが、VAVAカレーのパッケージには、バーボンのグラスを傾ける肩にキャノン砲付いたSWのボバ・フェットみたいなロボットが。ベルモンドカレーのパッケージでは、チェック柄のクマが蜂蜜の壺と林檎を抱えています。

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