俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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今作だとダーさんはレッドに惚れてないから、トゥアールがいんぐりもんぐりなことになってる衝撃は計り知れないと思います。


第三十七話「滅びのカウントダウン」

 ────変身を解除せよ、テイルレッド……!

 

 奴は、テイルレッドの正体が男だと知っている……!

 ボロボロのダークグラスパーが放った言葉は、俺たちの動揺を誘うのに十分すぎる威力を持っていた。

 総二と愛香から聞いた話だが、貴の三葉との戦いの最中、フェニックスギルディはこともなげに認識攪乱を無視して、テイルレッドの正体を見破ったという。

 まあ奴はレッドが男だと気付いたうえで、向こうのレッドへ求婚してくるアッチの人だったらしいが、討伐命令を受けていたダークグラスパーは、フェニックスとの戦いの中それを聞いたのだろう。

「……このことを知っておるのは、今はわらわたちだけじゃ。貴様の返答次第では、このわらわの豊満な胸の内に秘めておいてやろう」

 そこへさも怪訝そうな演技で、ブルーがフォローに入る。

「あんたさあ、レッドが男言葉だからって、妙な妄想に取りつかれたんじゃないの?」

「黙れ! わらわはテイルレッドと話しておるのじゃ! そもそもテイルブルーよ、貴様とて、わらわからトゥアールを奪った恨みがあるのを忘れるな!!」

 だが結果は火に油を注いだだけ。ブルーはダークグラスパーの剣幕に気圧され、トゥアールとの関係に言及されて頬を染め、視線を逸らす。

「貴様が男など、嘘であろう? 男がトゥアールと睦みあっておるなど、もしまことであったならわらわは……わらわは……!」

 怒りと悲しみがないまぜになった表情を浮かべ、わなわなと震える彼女の肩へ、メガ・ネプチューンの手が優しく置かれた。

「まあまあ、イースナちゃん。そないなぷんぷんしてたら、レッドちゃんかて意固地になるで」

 おねえさんの器を見したり。こんな可愛い子になるんやし、元の僕ちゃんもきっと可愛い子やで。とメガ・ネはダークグラスパーを母親のように宥めすかす。

「はん、どうだか。おおかた前髪で目元が隠れたような無個性な男じゃろう。特に取り柄があるわけでもないのに学園の美少女にモテまくりで、普段はやる気がないのにベッドの上ではやたらアクティブなタイプに決まっておる」

 どこのエロゲ主人公だよ。俺とメガ・ネ双方からツッコミが飛び、テイルレッドが子供なんやし元の子も小さな子供やろ。と指摘されたダークグラスパーは、何故年上の男だと思ったのやら首をかしげている。

 明かしたくないのなら力づくでも……とこちらの変身解除を狙い、戦闘態勢を取ろうとする彼女の上に、不意に影が差す。

「お待ちなさい、イースナ。私は逃げも隠れもしません」

 給水塔の上に、仮面ツインテールとなったままのトゥアールが現れた。

「「トゥアール!?」」

「おお! トゥアール! 後生じゃ、どうかそなたの口から真実を教えてくれ!!」

 ダークグラスパーの懇願に、トゥアールは仮面を外して素顔を晒すと、テイルレッドとテイルブルーを抱き寄せて語り始めた。

「……知っての通り、テイルレッドとテイルブルーは愛し合う間柄です。そしてこの私も、二人を愛しています」

 覚悟はしていたが、実際本人の口から聞かされてショックだったのだろう。その発言にダークグラスパーは目を見開いて動揺した。

「そしてあなたの疑問の答えですが、テイルレッドは変身を解除しても可愛い女の子のままですよ────そのあんよの間に棒がぶら下がってますけど」

「ど……どういうことじゃ!?」

「テイルミラージュが、素敵な物を貸してくれたんです。女の子に棒を生やすベリーナイスな装置を! おかげで私は、晴れて処女を卒業し、肉体的にも精神的にも満たされることが……女の幸せを得ることが出来たんです!!」

 エレメントドライバーを使えばふたなり化も女体化も出来るし、そのまま変身すればテイルレッドからソーラにもなれるため、確かに嘘は言ってない。

「なん……じゃと……!?」

「ですが……私とレッドたちの関係が、あなたと何の関係があるんですかイースナ? 私と恋人でも何でもない、ストーカーのあなたと」

 予想外の答えに理解が追い付かず、困惑を隠せないダークグラスパーへ向けるトゥアールの表情に、邪悪なものが垣間見える。

「私たちは三人ともお互い、キスどころじゃなく経験済みで、棒を生やす装置を駆使して前も後ろも使ってないところなんて無いってくらい愛し合いまくりで、私はレッドたんとブルーたん無しでは生きられない体になってしまったんです!」

 トゥアールのカミングアウトを受けて、ダークグラスパーがみるみる弱気になる。これから起きることを予感して、俺の胃がミシリと軋んだ。

 

「つ・ま・り……私のこのおっぱいどころか、髪の毛から足の先まで丸っと全部、レッドたんとブルーたんの物なので、あなたが入り込む隙間なんてそれこそ髪の毛一本程も在りはしません。あなたなんて、部屋で一人寂しくエロゲーやってるのがお似合いなんですよイースナああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 わざとらしく下腹部をさすりながら勝ち誇ったように嘲笑するトゥアールの姿に、崩れ落ち落涙しながら慟哭するダークグラスパー。

 俺もまた、嫌な予感がして身構えていたものの、アヘピービデオレターまがいのNTR宣言を目の前でされて胃の腑に打撃を受け、じわじわと込み上げる吐き気と胃痛を堪えてうずくまった。

 頼むでもなく背中をさすってくれるテイルサンダーの優しさが、ストレスで出血寸前の胃壁に染みわたってゆく。

「そんな心も体もボロボロで、もう戦えないやろイースナちゃん。今日の所は帰ろう、な?」

 戦闘機形態(メガネウインガー)に変形したメガ・ネは、心折れて泣きじゃくるダークグラスパーを乗せると、お辞儀のようにこちらへ機首を下げ、空の彼方へ飛び去ってゆく。

 正体露見もさることながら、彼女が自棄を起こしたりしないか、俺たち全員の胸に、不安が渦巻いていた。

 

□□□□

 

 ダークグラスパー襲来以降、アルティメギルの侵攻は夏休み前半の遅れを取り戻すような怒涛の勢いで再開された。

 トゲアリトゲナシトゲトゲギルディと言う、棘が有るんだか無いんだかわからない名前の昆虫エレメリアンを粉砕して部室へ帰還した俺たちは、変身を解除して一息つく。

「ツンデレ属性……愛香を集中して狙って来るとはド許せぬ」

「ツンデレカフェなんてこの世に存在したのね……」

 奴は店の従業員たちを正座させ、ツンデレの何たるかを熱く語り説教していたが、確かにあの手の店は客へ無駄に媚びたメイド喫茶しかり、掲げている属性の上っ面をなぞったものが悪目立ちしている気がする。

「あいつら……俺たちの闘い方を徹底的に研究してるみたいだな」

「ああ……流石は全世界に特訓を宣言しただけのことはある」

 エレメリアンの攻撃は激化したが、反面ダークグラスパーはぱったりと姿を現さなくなった。

 エレメリアンたちが何も言ってこないということは、レッドの男疑惑や三人の関係を、むやみに吹聴したりはしていないようなのだが……

 総二は部室で待っていたトゥアールに、俺は恋香さんにそれぞれ肩を揉まれながら、深いため息を漏らす。

 登場してから日が浅く、テイルイエローを武器にする戦法を得意とするテイルサンダーの研究は進んではいないようだったが、それもいつまで保つやら……

「ところで結維、お前夏休みの宿題どこまで進んでるんだ? そろそろ終わらせないとヤバイぞ?」

 研究で思い出した俺は、長机に突っ伏して疲れたもー! とのたまう妹へ訊いてみた。

 俺はもう合宿が終わった直後から手を付け、八月初めにはもう終わらせている。

「だいじょーぶ。後は自由研究だけだから」

「わたくしも、もう終わらせてますわ」

「ならばよし」

 トゥアールは言わずもがな。総二と愛香ももう少しで終わるらしい。

「二人っきりの勉強会って、ロマンだよね」

「そうね、結くん」

 俺たちは意図的にトゥアールを除外して、二人がセミの鳴き声に交じって風鈴の涼やかな音色が響く中、額突き合わせて問題集と格闘する姿を思い描いてほくそ笑む。

 あれだよ。落とした消しゴム拾おうとして手が触れあって、互いにはにかみ合ったりするんだよ。二人とももうそんなレベル通り過ぎてるけど。

 俺もなー、恋香さんが図書館でレポートまとめるのに付き合って、椅子並べて一緒に勉強したもんなー。

 終始無言だったが大変有意義な時間でした。

 帰りにおやつと飲み物買ってなー、基地のコンソールルーム借りて大画面で映画見たりして、なんとも充実した一日を過ごしたもんだ。

 

 そんなことを考えながらまったりと休息を取っていると、俺が通行人の、総二がツインテールの気配を感じ取り、急いでみんなに指示を下した。

「誰か来る……」

「このツインテールは────」

 周囲を確認したのち、現れたのは理事長だった。後ろには桜川先生も控えている。

「ごめんくださいまし」

 もうしわけなさそうに、桜川先生が目配せしている。大方、突然部室へ来たいと言い出した理事長を止められなかったのだろう。

「おや、そちらのお二人は?」

「大学部二年の津辺恋香です」

「初等部六年の長友結維です! お宅の慧理那ちゃんとは、日頃から仲良くさせていただいております」

 二人は家族や友人の部活を見学に来たのだと危なげなくごまかした。足元もぬかりなく来客用スリッパだ。

 理事長も、用があって学校に来たついでに、友人と部活をしている娘の姿を見に来たらしい。

「そう言えば先日、慧理那から津辺さんのお誕生会をしたと聞いて、観束君のご実家が喫茶店をしていると知りましたわ」

 この暑い中、優雅に着物を着こなす理事長の、悪戯っぽい微笑みを新鮮に思いつつも、俺の脳裏には一抹の不安がよぎる。

「わたくし、学生時代はよく喫茶店に通っていましたのよ。親しかった先輩のご実家が、喫茶店を経営されていましたから」

 総二を見れば、顔を引きつらせて冷や汗を垂らしているのが見えた。

 あ、これ知ってるやつや。とかつて自らのした気遣いが無に帰したのを悟った俺は、作戦をプランBに変更し、「先輩の淹れてくれるコーヒーが大好きでしたのよ」なんて会長と母娘でほのぼのしている理事長の口から、どんな地雷ワードが来てもごまかせるよう神経を研ぎ澄ませる。

「この後予定もないことですし、良ければ観束君のお家にお連れ頂きたいのですが……娘のお友達とも、交流を深めたいですし」

 はいアウトォ────!!

 即座に総二がコーヒーは薄いし椅子は堅いし、客層もめちゃくちゃ特殊なんです! と理事長をお招きできるような店ではないと防壁を張る。

「そーじの家のコーヒーすごくおいしいじゃない。おねえちゃんもファンだし」

 やってしまったー! 愛香選手の味方撃ちだー!! 俺は無言のハンドサインで必死に総二のフォローを始めた。

 どうにか気付いてもらえ、他のみんなも総二の口走った、アドレシェンツァの客層のせいで理事長に来てもらいたくないのだと思い首肯する。

 真実は未春さんと理事長が、知り合いどころか抜き差しならない関係で、会わせたが最後、真の姿に覚醒しかねないということなのだが……明かすべきか、明かさぬべきか。そこが問題だ。

「あの、お母様! 実はわたくしこの後結維さんと大事な用がありまして……」

「まあ、そうでしたの。それではまたの機会に」

 桜川先生に帰宅を促され、みなさんごきげんよう。と優雅に去ってゆく理事長の背中を見送った俺たちは、糸が切れたように机に突っ伏した。

 前も会議中にやって来たが、よもや変身解除直後に訊ねてくるとは……

 

「なあ総二……もう理事長のこと、みんなに話しちゃっていいかな?」

「結、お前……!」

 俺の言葉に血相を変える総二だったが、俺の真剣なまなざしに気付いてくれたのか、しぶしぶと言った様子で肯いてくれた。

 つらい思いをさせてすまん。でも俺、仲間への嘘やごまかしをこれ以上続けて、“悪い大人に食い物にされる悪い子供”にはなりたくないんだ。

 そして俺は腹をくくり、椅子から立ち上がると重々しく口を開く。

「……今まで黙ってたけど、実は理事長と未春さん、昔の友達だったんだ」

 その言葉は流石に予想外だったのだろう。みんなは驚きに目を見開いて俺に問いかける。

「ちょっと待ってよ! ならなんで来るの止めようとしたの!?」

「そうですわ! お友達ならどうしてそんな……」

 俺は会長の目を見据え、優しく言い聞かせるように伝えた。

「それはね、会長……二人が出会うと、理事長が真の姿を現してしまうからだよ」

 未春さんの外道照身霊波光線を理事長が受ければ、必ずや前世魔人ケルベロスが正体を現して、総二の胃に絶体絶命の危機が迫る。

 そうなってから何とかしようにも、こちらの手にアラビア生まれのダイヤの指輪なんて有りはしないのだ。

「未春さん────真なる闇の女王(オプスキュリィ=レイヌ)と理事長、ケルベロスは学生時代、手を取り合って総二のお父さん、神魔超越神と休み時間の度に死闘を繰り広げていた間柄だったんだ」

 その名を聞いて愛香が微妙な顔になった。トゥアールは優し気な笑顔だ。総二は真顔になった。

「そのお話……未春さんから聞いたことがありますわ……! あれがお母様のことだったなんて!!」

「わたしが未春さんから習った犬の飼い方。どこで覚えたのかと思ったら、理事長が未春さんの犬だったんだ……」

 結維は知識の出どころに思い至り、会長はハッとして、口元を両手で抑えている。

「俺は母さんからこのことを知らされて、理事長まで未春さんの仲間だなんて総二や会長が知ったら傷つくんじゃないかと思って、今まで秘密にしてきたんだ……」

「結くん……今までよく頑張ったわね……」

 崩れるように椅子に座る俺のうつむいた頭を、恋香さんが優しく撫でる。親友にも明かせないつらい秘密を抱えてきた俺に、その温もりが何より嬉しかった。

 

□□□□

 

 長友家の両親が、夫婦水入らずで旅行に出かけた日の昼下がり。

 またしてもエレメリアンの出現をキャッチしたツインテイルズは、いつも通り基地の次元跳躍カタパルトで現場へと駆けつける。

 転送ポイントから飛び出した彼女らの前に広がるのは、夏祭りに集まった大勢の人でごった返す大通り。

 エレメリアンはどこだと見回せば、その溢れんばかりの人の波の中を、アルティロイドの担ぐ神輿に乗って威勢よく掻き分けてゆく、頭の先から足元まで全身真っ赤なエレメリアンの姿が目に入った。

「らっせーらー! らっせーらー!!」

「「「「モッケーモッケーモッケーケー!!」」」」

 鉢巻き姿のアルティロイドと混然一体となり、全力で夏祭りを盛り上げようとするそのエレメリアンは、涙滴型のような、頭頂へ向けて先細りになったシルエットに細長い触覚。何の虫か一目で判別は付かないが、紛れもなく美の四心の隊員だ。

「そこまでだエレメリアン!」

「むむっ!?」

「「「「「ツインテイルズ参上!!」」」」」

「みんなが楽しみにする祭りを邪魔するなんて許さないぞ!!」

 エレメリアンを避けて広がる空間に降り立った五人は、眼前の敵へ名乗りを上げた。

 ギャラリーの歓声が響く中、神輿の上からエレメリアンも名乗りを返す。

「神輿の上から失礼する! 俺は密集属性(マス)のセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシギルディ! コミケへの出陣こそ出来なかったが、観光客溢れる夏祭りはこの俺が制覇して見せる!!」

「長えよ!」

 あまりの長い名前に、テイルレッドからツッコミが飛んだ。

 しかし前回のトゲトゲといい、日本語まんまのエレメリアンも居る物なんだな。

 テイルミラージュは変な所で感心した。

「こんなに周りに人が溢れてるんじゃ、下手に大技は使えないわよ……?」

 ブルーの言う通り、このような場所ではイエローの火力どころか飛び道具であるエグゼキュートウェイブ、フォトニックランサーやプリズムシュートまでもが、封じられたも同然だ。

「なら接近戦で叩き潰すだけよ!」

 テイルミラージュは両手に握るミラージュロッドを振るい、奴らの神輿へ殴り掛かる。

 だが奴の配下のアルティロイドによる巧みでリズミカルな神輿さばきによって、その攻撃はことごとく受け流されてしまった。

「ふっふっふ。周囲の群衆によって飛び道具を封じたうえで、攻撃の角度を読み、受け流すように立ち回れば、たとえツインテイルズの攻撃と言えど恐るるに足らず!」

 奴の取り出した団扇状の武器が煽られ、突風を巻き起こす。それをもろに受け、ミラージュはブルーたちのところまで吹き飛ばされてしまった。

「大丈夫? ミラージュ!?」

「おねえちゃん!」

「なら同時攻撃だ!」

 レッドたちがこれなら躱せないだろうと攻撃を掛けるが、奴らは軽業師のようなアクロバットな動きで神輿を傾け、ひらりひらりと体勢を入れかえて、攻撃の全てを回避してしまう。

「躱された!?」

 それでも得物を横殴りに振るえば体勢を崩すぐらいは出来た筈だが、そこへすかさず繰り出されるカウンターの突風攻撃が、ダメ押しの追撃を許さない。

 吹き飛ばされた彼女たちはアスファルトへ転がり、奴との間合いを離されてしまう。

「やはり俺たちの動きを研究し尽くしている……手強い奴らだ」

『テイルサンダー、あなたの出番です! イエローと分離を!!』

「わかった! ────ガルバニックチャージ!!」

 トゥアールからの通信を受け、テイルサンダーがグリップのトリガーを引いて叫ぶ。

 テイルイエローの首元の、ロイヤルカラーに繋がるリードから流れ込んだ属性力が電光を発して、一時的にテイルサンダーへ蓄積された。

 直後に分離した変身アイテム兼用のリード、プラズマグリップが、ミラージュロッドのように変形し、オレンジ色の拳銃めいた形状から紐を刀身へと変えた、一本の細剣へと姿を変える。

 雷光の剣士となったテイルサンダーが、一足飛びに間合いを詰めて跳び、細剣による突きを喰らわせた。

「受けて見なさい! プラズマフェンサー!!」

「そのような直線的な攻撃など……!」

 当然の如く、テイルサンダーの繰り出した刺突は、神輿を持ち上げ身体を逸らせた奴らの間隙に飲み込まれ、紙一重で躱される────だが。

「おバカさん。ただ刺すだけだと思った?」

「「「「モッケケ────────────!!」」」」

 剣先から放射状に放たれた電撃がアルティロイドもろともに神輿を破壊する。

「ぬおおおおー!?」

 地面へ頭から転落したセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシギルディが最期に見たものは、逆さになった視界の中迫りくる電光の捕縛結界と、投擲ではなく刺突の体勢で放たれるエグゼキュートウェイブ、フォトニックランサーだった。

「ふっ……ふははははははははは! テイルブルーとテイルミラージュに圧し掛かられて果てるなら、本望と言うものよ!!」

 

 ────我が友アントギルディよ……叶うなら、お前と一緒にイベントに参加したかったものだ……

 

 生物学的に見ても共生関係にある種族をモチーフにした友人を想い、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシギルディは祭りを彩る地上の花火となって爆散した。

 

□□□□

 

 その場を速やかに離れ、転送ポイントのあるビルの屋上へ降り立った俺たちは、今回戦ったエレメリアンのモチーフで話に花を咲かせていた。

「え!? あの長い名前の虫、戦隊の怪人で出てきたのか?」

「ええ、見た目は全然違いますけど第一話の怪人として登場しましたわ」

「アタシも調べて写真で見たときは、色からして全然違ってて驚いたよ。TVの怪人は紫色だったもん」

 そんななか、見慣れた銀色のロボットの隣でうずくまる、黒いものが視界の隅に映り、俺は慌てて視線を向ける。

「ダッ、ダークグラスパーとメガ・ネプチューン!?」

 そこでようやく俺たちに気付いたのか、彼女はレンズの奥の泣き腫らした真っ赤な目でこちらを見つめると、無言で鋏を差し出してきた。

 何の真似かと問うと、ツインテールをやるという。

「切り落とされたツインテールで俺が喜ぶと思うか!?」

 あろうことか、自らの髪に鋏を入れようとしたダークグラスパーに、切り落とされたらツインテールではなくなるだろう! とテイルレッドの喝が飛ぶ。

「じゃがわらわには……精一杯考えても、これしか思いつかなんだ……!!」

「レッド、言い過ぎだよ!」

 俺は余裕を完全に失ってしまったダークグラスパーと、いつかのように傷だらけになり、左腕まで喪失してしまっているメガ・ネプチューンの姿に、ただならぬ出来事が有ったのだろうと察した。

「悪い、ダークグラスパー……言い過ぎたよ」

「レッドちゃんたち……イースナちゃんとウチな、アルティメギルに居られんようになってしもてん」

 メガ・ネプチューンの口から語られたのは、フェニックスギルディ討伐に失敗したダークグラスパー二人が、反逆者として処断され組織を追われることとなったという衝撃的な内容だった。

 




非公認戦隊の(前略)アブラムシ、なんで紫色だったんでしょうね?
あと、トゲアリトゲナシトゲトゲという虫は実在します。トゲハムシ(棘葉虫)の通称がトゲトゲと言うそうで。

4.5巻のイッカクギルディのお陰で、日本語もネーミングに使えるとわかって大助かりです。なので英訳がめんどくさい生き物は積極的に日本語名で行こうと思います。

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