俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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六巻編開始。ちょくちょく西川魯介ネタが増えます。


第三十五話「今日は楽しい誕生日」

 七月末日、俺と恋香さんは彼女の大学での友人たちに誘われて、キャンプへ行くことになった。

 最初は初対面の人ばかりで緊張したものの、話してみれば気のいい人たちばかりで、詠子さんや彼氏の金子さんたちとも、キャンプ場へ着くころにはすっかり打ち解けていた。

「とりわけ我らを狂わせるのは……味噌漬けモツの、カレーの匂い!!」

 昼にバーベキューを楽しみ、腹ごなしにみんなで遊んだあと夕食の支度をしていると、不意にそんな声が耳に入る。

 見れば日本赤軍か全学連みたいな連中が、楽しそうに大鍋でカレーを拵えていた。

 漏れ聞こえる単語を組み合わせるに、彼らはどこかの大学の料理サークルらしい。

 なるほど……味噌漬けモツのカレーというのは初耳だ。今度試しにやってみよう。

 俺は心の中で向こうの大学生たちに礼を言うと、フライパンで飴色に炒まった玉ねぎを鍋に投入し、あらかじめ軽量しておいたカレー粉や各種スパイスと共に他の具材を煮込み始めた。

 小麦粉とバターでルーを作りつつ、灰汁を取りコンソメや調味料、隠し味の投入……!

 ふっふっふ……みんな辛いのが平気なのは調査済み。俺のアドレシェンツァカレーがアウトドアキッチンで火を噴くぜ!!

 

「んまーい!」

「ああ……母さんにもこのカレー、食べさせてあげたかった……」

「恋香……いい買い物したね」

「でしょう? 自慢のお嫁……お婿さんだもの」

 詠子さんたちは皆うめーうめーと言ってカレーを平らげ、口々にその味を称えてくれた。でも恋香さん、嫁って言い間違えたでしょ? まあ恋香さんが望むならそうなっても俺は一向に……っていかんいかん。

 ミライの姿で津辺家に嫁入りなんてしたら、俺がタイやモロッコへ行ったのかとおじさんおばさんが混乱してしまう。

 俺は、何かが手遅れになってる気がしなくも無かったが、さして重要なことでもないだろうと記憶の片隅へ追いやった。

 

「おやすみ、結くん……金子君や根古君が可愛いからって、襲ったらだめよ?」

「襲いませんよ!!」

 夕飯は大好評で鼻が高かったんだが、就寝直前に恋香さんが爆弾を投下していった。

 俺を何だと思ってるんだちくしょう。襲うのはむしろあなたの方でしょうが……

「長友君、大きくてたくましいから……そうなったら敵わないよね」

「根古さん、洒落にならないからそういうのやめてくださいよ」

 テントの中で枕を並べる俺たちは、互いの体験談や彼女との惚気、馴れ初めを語り合い、絆を深め合った。

 歳は離れていても、俺たちは親友だ! 魂の兄弟なんだ!!

 じゃあ俺シンクレッダーな!

 でもときおり金子さんへ、レンズ越しに熱っぽい視線を向ける眼鏡っ子の根古さんは、もう手遅れだと思いました。

 

□□□□

 

 うだるような暑さの昼間を過ぎ、どうにか過ごしやすくなる夕方を迎えた輝見市。

 貸し切りの札が入り口に掛かる喫茶店アドレシェンツァでは、有志一同の手により店内に飾り付けを施され、パーティーの準備が万端となっていた。

 今日は八月八日。アルティメギルの宣言した休戦期限を過ぎても動きが無かったため、残りの休みも満喫してしまおうと俺たちは愛香のバースデーパーティーをすることにしたのだ。

 去年までは愛香の家で行っていたものに俺たちがお邪魔する形だったのだが、今年は愛香の両親が居ないため、せっかくだからとツインテール部のみんなも一緒に、店を借り切ってパーッと派手に行くことにした。

 飾り付けを手伝ってくれた常連さんたちも、三角帽子を被りクラッカーを手に参加してくれている。

 くす玉が割られ、盛大な拍手で祝福された愛香はバツが悪そうに苦笑しているが、内心喜んでいるのは俺も総二もお見通しだ。

「それじゃあ蝋燭に火を点けましょう! 総ちゃんお願いね」

「え? 俺が点けるのか?」

 未春さんがそのまま点けるものだと思っていたらしい総二は訊き返す。

 ほらお前、キャンドルサービスの練習だとでも思えよ。と言うと、まだ早いわよ! と愛香からもツッコミが飛ぶ。

「だって総ちゃん、炎の使い手じゃない」

 無防備にポロリと漏らした言葉に、総二は慌てて未春さんの口を塞ごうとするが、常連の皆さんはそういう設定なのだろうと解釈して、ニコニコと見守っている。

「ほほう、総二君も炎を使うのか。おじさんもそうなんだよ。昔は光とかの方が強いって思われていたけど、ツインテイルズの影響で炎使いや水使いも光と同じくらい人気が出てきたからね」

 ロマンスグレーの、タキシードの似合いそうな炎使いのおじさんは、うんうんと頷きながら言った。

 確かに最近出たラノベには炎や水の使い手が目立っている気がする。ミラージュは光使いだから据え置きだ。

 炎使いのおじさんの隣に座る天然パーマのおじさんが、総二へ何かを投げ渡す。

 取り落としそうになりつつも何とかキャッチされたそれは、どうやら高級そうなオイルライターだった。

「君にあげるよ、炎使い君」

 彼は奥さんから、禁煙しないと天パでキャンプファイヤーすると脅されており、炎使いを卒業したのだという。

「ありがとうございます。でも俺、大人になってもタバコは吸わないつもりなんです。周りの人のツインテール……髪に、煙の匂いつけちゃうの、申し訳ないですし」

 それを聞いた愛香が真っ赤になってモジモジとし始め、トゥアールがイリュージョンでケーキの上の蝋燭へ一斉に点火する。

 惜しみない拍手を送るお客さんたちに交じり、隣り合って座る会長と結維も、それに合わせて拍手していた。

「そう言えば慧理那ちゃんの誕生日って、十二月だよね?」

「ええ、まだまだ先ですわ」

「その時もこんな風に、みんなでお祝いしよっか……あ、慧理那ちゃんの家だとすごいパーティー開きそうだよね……?」

「お父様やお母様と一緒にお祝いするのも大事ですけれど、わたくし、今年は皆さんにお祝いしてほしいですわ」

 照明が落とされ、室内を包む薄闇と蝋燭の炎が雰囲気を盛り上げる中、俺はトランペットを取り出して伴奏し、常連さんたちがそれに合わせて、これまた見事なテノールでバースデーソングを歌いあげる。

 

「来年も……再来年も、その先も……わたくし、結維さんと……」

「────わたしもよ」

 

 淡い炎に照らされて寄り添い合う二人を他所に、愛香が一息で蝋燭を吹き消した。

 明かりが点くまでのほんの数秒、俺は二人が何をしていたのか見逃すことは無かった。

 おめーらは人の誕生会でなにしてんだよ。と苦笑交じりに頭を小突いておく。

 来月誕生日の桜川先生が、三十路へのタイムリミットが刻一刻と近づいているのに気づいて半狂乱になったりしたが、パーティーはその後も盛り上がり、俺たちは賑やかで充実した一日を送ることが出来た。

 ────このまま夏休み中、アルティメギルが来なきゃいいのに。

 俺は期限を過ぎても全く動きの無い変態共へ思いを馳せた。

 

□□□□

 

 ペン入れ終了の報告に続き、ベタ入れやトーン貼り、集中線の確認などの指示がそこかしこで飛ぶ。

 アルティメギル母艦の大ホールを熱気で埋め尽くし、タブレットへペンを走らせるたびに立ち昇る、漢スメルと漢スチームが天井に漢クラウドを生成しつつあるほどに屈強な肉体から繰り出されるクリエイティビティが、PCの液晶画面上に血と汗の結晶を生み出さんとしていた。

 ツインテイルズが異世界で、貴の三葉と死闘を繰り広げていた休戦期間中、エレメリアンたちは遊んでいたわけではない。

 打倒ツインテイルズの意志の下、漫画を描いていたのだ。

 憧れのツインテイルズたちの魅力を徹底分析するように、それぞれの隊員たちが愛する属性を生かした、様々なシチュエーションでのイラストを、一心不乱に描いて描き続けた日々の果て、向上した画力を生かして漫画を描こう。と指令が下った。

 もう一つのツインテイルズが猛威を振るう異世界へと旅立ったビートルギルディから、この部隊を預かるスタッグギルディより、八月一日に言い渡された指令に従い、数人ごとの班に分かれてB5サイズ40Pの同人誌を描き上げることに邁進するエレメリアンたち。

 印刷所の入稿締め切り、落下するコロニー(原稿)の阻止限界点である八月八日。奇しくも愛香の誕生日と同じ日。遂に全班の作業が完了し、原稿データが滞りなく印刷所へと入稿された。

 後は会場に搬入される新刊の、出来栄えを楽しみに待つばかりだ。

 一丸となっての困難な共同作業を成し遂げた隊員たちの顔は、満足感に満ちている。

 そこへスタッグギルディが、ねぎらいの言葉と共に参加する即売会のカタログを持ってやって来た。

「電子版のカタログもあるけれど、美の四心以外のみんなはイベントが初めてだと聞いたからね。思い出になるよう冊子版のカタログを選んでおいたよ。現地に向かうのは選抜された二名だけだけど、僕らはみんなが参加者だ。今日はイベントに向けて、カタログのチェックをしよう」

 一冊ずつ席に配られた、人を殴り殺せそうなほどに分厚いカタログを手に取り、緊張した面持ちで表紙をめくるエレメリアンたち。

 注意事項を記した案内漫画を意気揚々と読み進めるうち、サークルカットの載るページを開いた彼らは、そこに描かれたものを見て驚愕に目を見開いた。

 数十ページに渡って、ツインテイルズの絵が連なっていたのだ。サークル数に直せば四桁に届く数の参加サークルが、ツインテイルズを描いていたのだ。

 今までも、その年に流行した作品があればその作品のイラストでページが埋まることは多々あった。

 しかしツインテイルズは、アニメじみたスーツを纏っているとはいえ、現実に存在する生身の人間なのだ。

 彼女らが現れたのは四月。参加申し込みの締め切りは過ぎ去り、サークルカットの変更が可能なギリギリの時期だ。それがこれだけの短期間で最大ジャンルにまで膨れ上がるとは、まさに前代未聞である。

 めくってもめくっても、可憐なテイルレッドやテイルブルー、美麗なテイルミラージュのイラストが続き、エレメリアンたちはほくほく顔でカタログを読み進めてゆく。

 

 コミケに出征する戦士の発表も終わり、美の四心と残存部隊の隊員はすっかり打ち解けて和気あいあいとした空気を大ホールに振りまいている。

 そんな喧騒から背を向けるように廊下で一人、修行に励んでいたスワンギルディが、壁に背を預けて携帯電話を見つめていた。

「どうした? ダークグラスパー様のメールに恐れおののいて、しばらく携帯電話なぞ見たくもないと言っていたお前が……」

 満足げにホールを離れた老参謀スパロウギルディが、その様子を見て声をかけ、スワンギルディはどこか寂しげな声を漏らす。

「いえ、任務に赴かれてから随分と時間が経つというのに、一度もダークグラスパー様から何の連絡もなく……」

 メールを題材にしたホラー映画でも作れそうなほど、あれだけ恐怖したメール攻勢も、いざ来なくなると寂しいようだ。

「あのダークグラスパー様が、戦いで後れを取るとは思えんが……」

 こちらにも連絡は来ていないと告げたスパロウギルディは、顎鬚状のパーツを撫でながらスワンギルディと目線を合わせる。

 その時、不意にスワンギルディの握る携帯電話から異音が響いた。

 ダークグラスパーによってフジツボのようにデコられた色とりどりのビーズが、ピシリと音を立てて割れ、剥がれ落ちたのだ。

「なんと不吉な……」

「ダークグラスパー様は今……何処で何をしておられるのでしょう……?」

 剥がれ落ちたビーズを拾い集めながら、物言わぬ携帯電話を手に、スワンギルディは胸中の不安を吐露した。

 

□□□□

 

 見渡す限り岩石と砂に覆われた、月面のように荒涼とした無人世界。

 カオシックインフィニットさえ物ともせずに復活を果たしたフェニックスギルディは、ロロリーの世界には一体のエレメリアンも残さないという、ダークグラスパーたちがテイルレッドと交わした約束に従い、この世界へと連れてこられた。

 究極の最終闘態へ到達していたフェニックスギルディが復活した直後、テイルレッドの正体は男だ。と伝えられたダークグラスパー・イースナは、そのようなことを信じられるものかと拒絶し、対するアンコも、愛しのトゥアールが男と睦み合っている姿を想像してしまい、大いに狼狽える。

 だが惚れた相手なら男でも女でも問題無いんじゃないか? とフェニックスギルディに言いくるめられたイースナは、気を取り直して得物を手に取り、アンコもトゥアールに真実を問いただすべく奮い立ち、反逆者への第二ラウンドのゴングを鳴らした。

 

 何時間にもわたる熾烈な戦いに、辺り一面におびただしい無数のクレーターや、高熱に焼かれ熔け爛れた大地が広がってゆく。

 途方もない攻防の果てに、ダークグラスパーたちは遂に膝を屈し、メガ・ネプチューンたちもエネルギーを使い果たして待機状態になってしまった。

「おのれ忌々しい奴め……!」

「不死身の次は幽霊にでも成り果てたか!?」

 時間の感覚があやふやになるほどの長きにわたって戦い続け、疲弊するダークグラスパーたちとは裏腹に、腕組みをして不敵に笑うフェニックスギルディの()()()()()には傷一つ、汚れすらもついていない。

 まさに暖簾に腕押し。彼女たちを徒労感が襲う。

「言っただろう? 俺様はポニーテールだ。悪のアルティメギルと戦う、正義のポニーテールだ! あんたがアルティメギルである以上、負けるわけにはいかねえからな!!」

 燃えるような真紅の長髪を、炎を押し固めたシュシュでポニーテールにまとめ、極薄の炎のドレスを身に纏った美少女が、高らかに叫んだ。

 上辺だけのまやかしだが、人間に化けられるエレメリアンは存在する。

 だがこのフェニックスギルディは違った。まやかしでなく、心の底からポニーテールを求め、愛に邁進し、遂にたどり着いた最終闘態────トゥアールやテイルレッドに想いを寄せるダークグラスパーたちでさえ、色眼鏡抜きに称賛し、目を奪われるほどの煌びやかな美しさを放つ天上の女神と言っていい姿。

 アルティメギルの誰もがたどり着けず、想像だにしえなかった美の到達点が、その誇りを純粋な力に変えて、闇の処刑人を圧倒していた。

「ポニーテールを極めし者……」

「その力は、これ程の物であったか……!」

 首領ですら持て余した稀代の反逆者の力を、身に染みて思い知らされたダークグラスパーたちは、普段周囲へ傲岸不遜に振りまいていた自信を喪失しかけていた。

「さすがにそろそろ、俺様には勝てないと思い知っただろ?」

「たわけ! 勝てぬのではない! 貴様のその破廉恥な格好が気に障るのじゃ!!」

「神聖なる戦いの場で裸同然の姿とは、乙女の風上にも置けぬ奴! 少しは恥じらいを知れ!!」

「あかん! 避けるんやイースナちゃん!」

「アンコちゃん! 今あんたらがブン投げた特大のブーメラン、すぐにでも戻ってくるで!!」

 オカンたちの弱る身体に鞭打って放たれるツッコミが、空へむなしく響く中、ダークグラスパーたちはフェニックスギルディの、オシャレしたつもりなんだけどな。確かにスケスケだから上に着るもんは欲しいな。という言葉に瞠目する。

「エレメリアンがオシャレじゃと……?」

「しかも恥じらいがあるのか……!? エレメリアンの貴様が!?」

「この身体になった時から俺様は女だ。変身を解除したあともそれは変わらねえ。そこに戸惑いはねえし、誇りだって持っているつもりだ。恥じらいだって、自然に芽生えたさ」

 ただ強いだけではない。力を超えた異質な何かが本能へ危機を訴えかけてくるフェニックスギルディへ、大鎌ダークネスグレイブを振り上げて衰えぬ戦意を示したダークグラスパーたち。

 必ずやこいつを討ち果たし、テイルレッドとトゥアールへ真実を問いただしに行く!

「だったらそろそろ俺様からも行かせてもらうぜ!!」

 第三ラウンドのゴングが鳴った。だがここに来てダークグラスパーたちは、フェニックスギルディがこちらの攻撃を受け流すばかりで、攻撃を仕掛けてこなかったことに思い至る。

 首を鳴らし、屈伸したのちに天高く跳躍したフェニックスギルディが、必殺の飛び蹴りの体勢を取った。だがそれはカクタスギルディを屠り去った技ではない。

「バーニングゥゥゥ! フェニックスキィ──────────────ック!!」

 身体を中心に、蓮華のように美しい炎の華が咲く。

 フェニックスキックより巨大な炎を纏う蹴撃が、ダークグラスパーたちに襲い掛かった。

 だがフェニックスギルディがその身に纏うのは、薄手のドレス一枚だけで、下着などという気の利いたものは履いていない。

 おまけに二人のダークグラスパーへダメージを与えるため、そのスラリとした魅惑的な美脚は水平線のように開かれていた。

 悲鳴を上げてダークネスグレイブを盾にし、もろ出しの恐怖に抗う闇の処刑人たち。

 だがコンマ1秒が差を分ける最強クラスの戦いでは、相手の股間から目を逸らすことさえ許されない。

「「ギャー! モロじゃああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 ダークネスグレイブは、あっさりと融解して弾け飛び、二人は衝撃で大きく吹き飛ばされて地面へと転がった。

 メガ・ネたちの悲鳴が響く中、ダークグラスパーたちは悔し気に地面を握りしめる。

「諦めな。今のあんたらじゃ俺様には絶対に勝てねえよ。女同士の裸に恥じらって隙を見せるようじゃ、戦士としては二流だぜ!!」

 二流呼ばわりされた怒りで自らを奮い立たせた二人は、メガ・ネに三点セットを要求した。しかしあれでもないこれでもないと、腹の引き出しをひっくり返しても、目当ての物は見つからない。

「QRコードも宅配伝票もないで!?」

「今ある奴で似たようなのは、ゲームソフトに入ってる、ポイントのシリアルコード用紙だけや……!」

 それで構わん! と紙片を三枚ずつ受け取った二人は、気合一閃グラスギアを天に地にと弾けさせる。

 タイミングも完璧なその二人同時脱衣は、まるで装甲を脱ぎ捨てて高機動形態へ移行するヒーローのようであった。

 この場にテイルイエローが居れば、さぞかし羨んだことであろう。

 局部へ紙片を張り付けた二人のダークグラスパーは、覚悟を決めてフェニックスギルディへ対峙する。

「これは、お前が自身を女であると認めたが故の脱衣じゃ!」

「一撃にすべてを託すには、鎧など甘えにしかならん!」

 二人のメガ・ネが惨状に目を覆う。舞い戻ったブーメランが、彼女たちの頭に直撃した瞬間だった。

 武器を失っても、わらわたちにはこの眼鏡がある! 二人の覚悟に敬意を表したフェニックスギルディは、二流と言ったことを取り消すと、自らも衣装を限界まで切り詰めて成型し直し、局部のみの防御に倣う。

「サシじゃあねえが、これで眼鏡とポニーテール、自分の信じるものの真っ向勝負ってわけだ!!」

 ダークグラスパーたちの局部を覆うのは、ただの紙片。シールのような粘着力など有りはしない。

 落ちることが無いのはただひとえに、激戦で彼女らの柔肌に浮かぶ珠の汗で張り付いているだけに過ぎないのだ。

 乾いてしまえばたちどころに乙女の守りは失われるだろう。

 待ちに徹することも出来ない乾坤一擲の闘法を察したフェニックスギルディが、不敵な笑みを浮かべて立ち向かった。

「よおし、いくぜえ!!」

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 半裸どころかほぼ全裸の女同士の大激突という地獄絵図。振り上げられた拳の着弾に伴い、炸裂した閃光の中、メガ・ネたちの悲痛な叫びが木霊する。

 

 ────視界の全てを閃光が白く染め上げてゆく中、剥がれ落ちた六枚の紙片が、力無く異世界の空を舞った。

 

□□□□

 

「最近、かぶと♪ラバーさん更新してないなあ……プライベートが忙しいのかな?」

 寝る前に自室で、お絵かきサイトのお気に入りを巡回していた俺は、お気に入りの絵師の更新が最近滞っていることを寂しく思いながら、ふと最新イラストのコメント欄に目を落とした。

 

 くわがた☆アモーレ:どうも、かぶと♪ラバーの身内です。かぶと♪ラバーは

           現在ネット環境の無い地域へ転勤になってしまいました。

           必ず戻って来るそうなので、みなさん気長にお待ちください。

 

 まじか。まじで、まじなのか。転勤なら仕方ないな。

 かぶと♪ラバーさんも、よりによってネット環境の無い地域とは辛かろうに。

 しかしかぶとさんの身内がくわがたって、絶対狙って名乗ってるだろ……と俺は少し愉快な気分で窓の外を見上げ、夜空に広がった遥かなる天の川に想いを馳せる。

 不意に流れ星が二つ、何かのメッセージのように星空から零れ落ちたので、俺はお約束のように「総二と愛香の世界が平和でありますように」と願った。

 




金子さんは元ネタそのまんま。根古さんは大姐B大姐Cのおもちゃの、子猫ちゃん(本名不明)くんが元ネタです。
日本赤軍や全学連みたいな料理サークルは、まかない君のモブ先輩。

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