ユグドラシルギルディを目指して、赤い濃霧の中を駆け抜けてゆくツインテイルズを尻目に、討伐対象の裏切り者フェニックスギルディと対峙する、二人のダークグラスパーとメガ・ネプチューン。
まずは小手調べとばかりに携帯電話が取り出され、流れるようなアドレス交換が鯉口を切り、剣豪同士の幾度となく繰り返される鍔迫り合いにも似たメールの応酬が始まった。
速い、なんという速さだろう。ゲーム名人の秒間十六連打もかくやという速度でキーを打鍵する、ダークグラスパー二人を相手取るフェニックスギルディも、メール送信の合間にダークグラスパーのアスキーアートを拵え、返す刀でダークグラスパーたちもフェニックス名義の呟きSNSのアカウントを勝手に作り、呟きを数十件ほど書き込んでいた。
なかなかやるな。そっちこそ。そんな互いの力を見定め合う前哨戦を終えて彼女たちは得物を抜き放つ。
「本人のいねえところでネタばらしはフェアじゃねえからな。いずれ目の前で堂々公開してやるとするか!」
「何のことかは知らぬが、貴様にはもう如何なる
「はっきりしておるのはそれだけじゃ!!」
テイルレッドの正体を男と知らぬまま、嫁と言い放ったダークグラスパー・イースナに、優越感たっぷりな薄ら笑いを浮かべたフェニックスと、闇の処刑人たちの第二ラウンドが幕を開ける。
当然、一対一などという殊勝な真似を彼女らダークグラスパーがするはずがない。メガ・ネプチューンたちも指先の銃口を向け、臨戦態勢を取っている。
「それなら俺様も、ちょっとばかりセコイ真似させてもらうぜ!!」
フェニックスギルディの翼が広がり、拳大の炎が散った。
「────解放! ミラージュリバイブ!!」
叫び声と共に炎はたちどころに膨らみ、人型を成してエレメリアンの姿を取る。その姿は全身灰色の無機質な風貌なれど、まぎれもなくロロリーに倒されたはずのチェリーブロギルディだった。
属性力以外の、世界に散った雑意思を利用した技……そのエレメリアンが死んだ世界でしか発動できないうえ、世界をまたいで連れ歩くことも出来ない制限付きの技だが、舞台となる世界次第で際限なく手駒を増やせるという点においてはまさに奥義と言っていい。
「イースナちゃんにアンコちゃん、うちらが
メガ・ネたちの指先から放たれるレーザーが、続々と増えてゆく貴の三葉所属のエレメリアンたちを吹き飛ばしてゆく。
「魂無き偽りの再生であることこそ、最大の枷ではないか!」
「このような紛い物で、我等を倒せると思うてか!!」
「「倒してんの、うちらなんやけど!?」」
メガ・ネたちのツッコミを背に、振り上げられた二振りのダークネスグレイブがフェニックスへ迫る。
対するフェニックスギルディも、その手に握る真紅の長剣で迎え撃った。
二対一の剣戟の最中、二人のグラスギアを称賛し、あとで自分でもポニーテール属性で造ってみっかなと気楽に言い放つ彼に、貴様には如何なる明日もあとでも来ないと言っておろうが!! と彼女らのツッコミが飛ぶ。
大鎌と切り結ぶ長剣が、手首のスナップと共に柄が折れ曲がり銃へ変わる。
開閉した刃に開いた銃口から放たれた光弾を、咄嗟に首をひねって躱したイースナは、その虚をつくギミックにむうと唸った。
その名はフェニックスラッシューター。ポニーテールにあやかり武器は一つと定めたフェニックスギルディが、それでも剣と銃両方使いたいがゆえに生み出した可変武器だ。
なんとも舌を噛みそうなネーミングだが、彼曰く舌を噛みちぎらんばかりに猛特訓をこなし、今やスラッスラだそうだ。
「えーい面倒や! いくでツーちゃん!!」
「よしきたイーちゃん!!」
倒しても倒しても際限なく数を増す再生エレメリアンたちを、しびれを切らしてメガネウインガーへ変形したメガ・ネプチューン二体の必殺絨毯爆撃、デモリション・メガネがまとめて吹き飛ばしてゆく。
「これだけの力を持ちながら、何故組織に弓引く愚かな真似を!」
「ポニーテール属性を持つ、たった一体のエレメリアンであろうに!!」
二人のダークグラスパーによる、連携の取れた猛攻にも怯まずに食い下がるフェニックスギルディへ、二人は失望と賛辞を同時に贈る。
だがフェニックスギルディの返答は、ただひたむきな怒りの雄たけびだった。
「一人じゃねえ! 最強のポニーテール属性を持つペガサスギルディとユニコーンギルディ……俺様の
赤い霧に覆い尽くされた太陽へ向けて拳を突き上げ、吼えるフェニックスギルディの言葉を訝しむダークグラスパー。
「ペガサスギルディとユニコーンギルディだと……?」
「そのような幹部、聞いたことが無いぞ?」
「当然だ! あいつらは二人とも、首領のクソッタレに倒されたんだからな! だから俺様は、二人の心と正義を受け継いだ! てめえらもいい加減、利用されてるのに気づきやがれ!!」
「はんっ! 貴様の妄言なぞ聞く耳もたぬわ!」
得物を打ち合わせた反動で距離をとったダークグラスパーたちは、彼方で噴きあがる巨大な火柱に、テイルレッドたちの戦いも佳境に入っていると察し、決着をつけるべく完全開放の体勢に入る。
ダークネスグレイブが変形した弓に漆黒の矢が番えられ、天地を揺るがす膨大なエネルギーが一気に解き放たれた。
「「ダークネスダブルバニッシャー!!」」
一発だけでも強力無比な必殺の一撃が同時に襲い掛かり、フェニックスギルディは∞型に窪んだ大穴を残して消滅した────かに見えた。
「むむっ!?」
穴の底から噴き上がった炎が形を成し、先程と変わらぬフェニックスギルディが姿を現す。この再生能力こそが、首領ですら封印するしかなかった奴の奥の手。
「言っただろうが! 俺様のポニーテールは不滅だ!!」
「その口上……テイルレッドが言うからこそ可愛いものを!」
憎々し気に吐き捨てるダークグラスパー・イースナに、第二ラウンドと行こうぜ! と再戦を持ちかけるフェニックスギルディ。
しかしダークグラスパー・アンコが、無情にもカオシックインフィニットを叩き付ける。
「その再生能力を確認した以上、もう貴様に付き合うつもりはない────属性力の深淵へ堕ちよ!!」
「てめえらああああああああああああ! 復活直後にダメ押しとか、わびさびがなってねえぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
フェニックスギルディが脱出不可能な闇に飲み込まれたことで、再生エレメリアンたちも力を失い消滅した。
任務を完遂し、面目を保ったダークグラスパーたち。解放されたメガ・ネたちも、やれやれと肩を叩いている。
見上げた空は、未だ赤い花粉で覆われていた。
□□□□
ユグドラシルギルディの、比喩で無しに天を突く途方もない威容に、テイルレッドたち三人は圧倒されていた。
この大きさ、まさに世界樹。人の手の届かぬ神の樹と言っていい。
だが三人は、この形態があくまで属性力を奪い尽くすための花粉を撒き散らす砲台であり、無防備な彼女を守るために、一部隊丸ごとが防備についていたのだと楽観視していた、数分前までの自分たちを殴ってやりたいと思った。
この砲台は、動いているのだ。
一本一本が巨木サイズの、無数の触手を振り回し、近づくものを迎撃しようとしている。
その触手が空を切るだけで烈風が吹きすさび、振り下ろされるだけで大地が震えた。
「来ないでください! 来たら大怪我しちゃいますよ~!!」
ユグドラシルギルディが小さかった頃と同じ、間延びした声で警告が飛んだ。
「ビビってたってしょうがないでしょ! やるわよ二人とも!!」
フォーラーブルーの叱咤に背中を押され、三人が一斉に触手の一本へ攻撃を掛ける。
だがテイルギアの膂力をもってしても、たった一本の触手を切り飛ばしただけで、二本目の触手に弾き飛ばされた三人の身体は宙を舞い、地面を転がってゆく。
『もうエレメリアンの範疇じゃありません! 正面から戦うのは無理です!!』
通信によれば、今のユグドラシルギルディのサイズは全長150m以上、推定体重30万トンという大怪獣だ。
「トゥアールオーが欲しくなってきたな」
「現金なもんだけど、飛んできてほしいもんだ」
基地ではいまいちノリ切れずに見ていた巨大ロボを、土壇場になってから欲しがるなんてとレッド二人は自嘲する。
「先生は本気です! もう戦おうとしないで! 今の私相手じゃ、ツインテール属性を失うだけじゃすまない……大怪我、ううん、命まで落としちゃいますよ!!」
こちらまで生徒のように扱うユグドラシルギルディの切実な叫び、だが要は命が惜しければ近づくな。そういうことだ。
ツインテイルズ三人は、恐怖が急速に萎んでゆくのを感じた。
危険なのは……命がけなのは他のみんなも同じだ!
「プログレスバレッター!!」
テイルレッドもプログレスバレッターを取り出し、上結びの強攻形態、ライザーチェインへ姿を変える。
上結びによりツインテール属性が上半身へ集中することで、防御力と引き換えに、爆発的に攻撃力が増大した。
「合わせろライザーレッド!」
応と返したライザーレッドと同時に飛び出したテイルレッドは、触手へ二刀のブレイザーブレイドを叩き付けて両断し、ライザーレッドもフォーラーブルーと共にもう一本の触手を破壊する。
そしてすかさずフォーラーチェインへ結び変え、ブルーに抱えられたライザーレッド共々、網のように迫る触手の群れから猛加速で間一髪逃げおおせた。
この一撃離脱戦法が、今の俺たちに出来る唯一の有効な手だ。少しずつでもダメージを与えていけば、いつかはきっと……
その時不意に、テイルレッドの脳裏に遠距離攻撃の手段が浮かぶ。
プログレスバレッターを取り外し、くの字型に展開。鋭利なブーメランとして投げ放つスラッシュモードが炎刃を発しながら触手を切り裂いてゆく。
かつてブーメランを投げるゴリラを目にしたことで、想像力が養われた結果だ。
それを見たライザーレッドも、投擲に参加し、斬り落とす触手の数を少しずつ、しかし確実に増やしてゆく。
「もう! 遠くからちまちま斬るなんて、先生許しませんからね!!」
光明が見えた矢先に、彼らはまたしても絶句した。
ユグドラシルギルディはその巨体で大地を土石流のように蹴散らしながら、猛然とこちらへ突っ込んできたのだ。
山が動いたとしか言い表せない威容に圧倒された三人は、死角からの触手に捕えられてしまった。
ユグドラシルギルディの触手は根だけではなかった。樹木なら当たり前に存在する枝も、奴は触手として伸ばすことが出来たのだ。
「や……やばい」
締め付けに全身がバラバラになりそうになるが、それだけではない。
テイルレッドがフォーラーチェインになってから、もうすぐ22秒が経過してしまう。
このまま通常形態に戻せなければ、属性力の一極集中の弊害……テイルギアの暴走は必至だ……!
息子たちの危機に、スタートゥアールで突っ込んで自爆しようと未春艦長が目を血走らせてトゥアールに提案するのを他所に、テイルレッドは起死回生の一手を放つ。
フォーラーチェインで追加された、スタビライザーかスラスターだと思われていた、腰部分のパーツが勝手に飛び出し、触手の群れを斬り裂いたのだ。
「これも……武器だったのか!」
「ありがと、助かった」
「よし、もう一度だ!!」
コンマ数秒の差で元に戻ったテイルレッドは、属性力を全身に循環させて再びライザーチェインになると、触手を三人でやり過ごし、再びフォーラーチェインへと目まぐるしくツインテールを結び変えてゆく。
フォーラーブルーも見よう見まねで、レッドと共に大小五対、計十枚のパーツを一斉に発射しようとする。
だが攻撃に成功したのは、スラッシュモードのバレッターを投げたライザーレッドのみ。フォーラーチェインの二人は先程のようにはいかず、切り離されたパーツは力なく地面へと落下した。
「駄目だ……上手くいかない!」
「どうして飛んでいかないのよ!?」
そうこうする間にもユグドラシルギルディは近づいて来る。テイルレッドはパーツの回収をする暇もなく、通常形態に戻って二人と共に退避しようとする……が、三人目掛けてユグドラシルギルディは打ち下ろすように銀色の花粉を吹きかけてきた。
上空へ花粉を吐き出す頭頂部の主砲とは別に、前方へ二本突き出して目まぐるしく狙いを定める副砲からそれは発射されたのだ。
これこそが
「怖くて泣いちゃうかもしれないけれど、できればこのまま……すべてが終わるまで何もせずにじっとしていてね!!」
もはや何も見えず、聞こえず、感じられず、叫びも咽喉から出て来はしない。
三人は無の静寂に閉ざされた。
□□□□
何も見えない、聞こえない真っ暗闇な空間で、あたしは一人取り残されていた。
このままそーじがどこにいるのかもわからない状態で、嬲りものになるのを待つしかないっていうの……?
出来っこない。そんなの出来るわけがない。
桜川先生の……おねえちゃんの……トゥアールの笑顔を奪ったコイツを、一発ぶん殴ってやるまでは、絶望なんてしてやるもんか!!
不意に、あたしの左手が温もりを感じた。何も感覚が無いのに温もり……? その正体にはすぐ思い至った。
これ……そーじの手だ。
そして何も見えなかったはずの闇の中、星空のような無数の、けれど今にも消えそうな
────判る。解る! ユグドラシルギルディに奪われたみんなのツインテール属性が、そーじを通してあたしにも感じ取れているんだ!!
目を塞いでいた墨汁かペンキを、洗い流したように目の前が晴れてゆく。
耳に聞こえるのはユグドラシルギルディの悲鳴。
さっきまではまともに言うことを聞かなかったパーツが、嘘のように激しく動き回って向こうのレッドのパーツと共に奴の触手を斬り裂いていた。
向こうのパーツは灼熱の炎のような赤い輝き。あたしのは澄み渡った海のように蒼く輝いている。
向こうのがブレイザーセイバーなら、あたしのはウェイブセイバーってところかしら。
「飛べ! セイバー!!」
向こうのレッドの叫びと共に、目にもとまらぬ速さで飛んでゆくブレイザーセイバーが、ユグドラシルギルディの触手を縦横無尽に斬り落として、花粉の空を炎の赤に染めてゆく。
あたしも負けていられない。左手の
恐れる必要なんてない。ウェイブセイバーを引き連れて、ブレイザーセイバーと同じ軌道で宙を舞ったあたしは右拳をユグドラシルギルディの副砲目掛けて突き出した。
一斉に拳へ群がるセイバーたちは、右腕の周囲で高速回転して、あたしの腕を強力無比なドリルに変える。
「セイバードリル!!」
大渦巻きを纏った拳がぶつかった。ほんの一瞬の抵抗の後、太さが何メートルもありそうな副砲は二本ともあっさりとへし折れ、用をなさなくなった。
「先生わかりません! 趣味嗜好のためにそこまでできるあなたたちが、先生本気でわかりません! 本当に人間なんですか!?」
「そのたかが趣味嗜好が、命を持ったのがお前らじゃないか! 何故自分たちを否定する!? 部下たちは随分お前を持ち上げていたけど、一番自分を卑下しているのはお前じゃないか!!」
禁断の技を受けてもなお絶望しないあたしたちを、ユグドラシルギルディは眩しいものを見るように目を細め称賛した。
「世界のために、愛するツインテールを人々から奪って、涙を堪えながら戦っていた少女を俺は知っている……」
「どんなに絶望が押し寄せてきても、愛する人が側に居てくれる……」
「「「愛するツインテールが残されているのに、たかが五感を失ったくらいで絶望してたまるか!!」」」
「たかが!?」
もうユグドラシルギルディに触手は残されていない。あたしたちはトドメとばかりに必殺技の体勢を取る。
フォースリヴォンを叩いて、ウェイブランスをもう一本。向こうのレッドと共にフォーラーチェインの最大加速でユグドラシルギルディの直上へ。
そのまま回転しながら急降下。ライザーチェインになったレッドもバックパックのスラスターを全開にして突っ込んでゆく。
そして奴の足元では、プログレスバレッターを二本のブレイザーブレイドに取り付け、最大の威力を持たせたブレイドマイティモードにした、
これが、ライジングブレイザーと、あたしたち二人の合体技、エグゼキュートブレイザーの更なる合わせ技────!
「「「トリプルッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」
「「俺の────」」
「あたしの────」
「「「ツインテールは────希望だ!!」」」
炎に包まれて消えてゆくユグドラシルギルディは、自分がどれだけ問題児だったか自嘲しながら呟いた。
「私と違って、君たちみたいな先生なら……きっとみんなを泣かせず、毎日が楽しかったんだろうな……」
かっこよかったよ。ツインテイルズのみんな……
ユグドラシルギルディは、爆発するでもなく輝く粒子になって散ってゆく。
「俺みたいなツインテール馬鹿が、先生になんてなれるわけないだろうが……」
向こうのそーじの呟きを最後に、あたしたちは変身を維持する力も失って倒れ込んだ。
やったよ……トゥアール……おねえちゃん……仇は、取ったからね……
そーじの胸に抱かれるのを最後に、あたしは意識を手放した。
□□□□
ツインテイルズ連合軍は貴の三葉との総力戦の末に見事勝利を飾り、この世界に平和と青空が戻った。
精根尽き果て、眠るように気を失っている観束総二の元へ歩み寄る影。
ツインテールを揺らすロロリーは、観束総二の傍らに腰を下ろし、その手を優しく握る。
「やっぱりね」
その声に驚いて振り向けば、立っていたのはテイルブルーだ。津辺愛香は戦いが終わったというのに変身を解いていない。
ぶりっこ丸出しな仕草で、総二お兄ちゃんの寝顔がかっこよかったから、ついちゅーしようと……と白状したロロリーを、テイルブルーはそんなの絶対に許さないわよ。と夜叉の形相で睨み付け、怯えさせる。
「もしかして、ロロリーのこと、ずっと疑ってたの?」
「そーじを狙ってる女はね、目を見ればわかるのよ。あんたが子供のお遊びじゃなく、本気でそーじを狙ってることくらい、最初から気付いてたわ」
「怖いよ愛香お姉ちゃん!!」
テイルブルーは、侵略部隊が撤退してしまい活躍できなくなったロロリーが、人気を維持するためにわざとアルティメギルを呼び込んだこと、思念を拾ってやって来てしまったフェニックスギルディが、案外話せる相手だったため、これ以上ツインテールの戦士が増えて人気が割れてしまうのを防ぐため、奴との利害の一致もあってツインテールを禁じ、ポニーテールを普及させたことを予想として語った。
「ま、その話せるフェニックスギルディを追って、本物の強い部隊がやってきちゃったのは誤算なんでしょうけど……それで泡食って他の世界に助けを求め、男のツインテール戦士を見つけた」
男の戦士なら自分とも両立できる。好都合よね。と締めくくるテイルブルー。
ロロリーは悔しそうに唇を噛んでいるが、テイルブルーは別に彼女の国策自体は否定しない。国民の危機感を煽って統制するのはどこの国でもやっていることだから。
彼女が否定するのは、観束総二をこの世界に閉じ込めること────それだけだ。
チラリと向こうの総二に寄り添って眠る、もう一人の自分を見る。
幸せそうな顔で寝て……妬ましいったらありゃしない。
あたしにもいつか、そーじとこうなれる日が来るのかな?
不確かな未来へ思いをはせながら、テイルブルーはロロリーに立ち向かう。
いつかは人の黒い面も知ってしまうのだろうが、それでも今は、観束総二が無垢なほど真っ直ぐにツインテールを好きでいられるよう、全ての悪意から守る。
津辺愛香の願いは、それだけだ。
武器を失い、満身創痍のテイルブルーと、体力充分なロロリー。二人の差は歴然としていた。
チェリーブロギルディに振るわれた以上の威力をもって、ツインテールウィップがテイルブルーを打ち据える。
「なによ、やればできんじゃない……人目気にしてぶりっ子してないで、腹の底から声出してがむしゃらに暴れればいいのよ!」
これならあたしたちが帰っても、この世界は大丈夫ね。大丈夫じゃないよう! お兄ちゃんは絶対に渡さないんだから! こっちの台詞よ!!
ツインテールを振り乱し、再び二人が激突した。
そんな中、遂にテイルギアの弱点が看破された。ツインテールを維持するフォースリヴォンだ。機器に頼る変身は、要となる装置を壊されればもろい。
至近距離から放たれたツインテールビームが、フォースリヴォンを二つとも破壊した。
テイルブルーの髪が宙に散り、変身が解かれるかに見えた────だが。
「うそぉ!?」
勝利を確信したロロリーは、目の前の光景に驚愕の声を上げる。
テイルブルーは、リヴォンの代わりに指で輪を作り、ツインテールをそのままの形で維持していたのだ。
だが抵抗もそこまでだった。両腕まで封じられたテイルブルーは、ツインテールトルネードを躱すことも出来ずに吹き飛ばされる。
不意に耳に届くマシンの爆音。見れば地平の彼方から、バイク形態のライトニングイエローとテイルサンダー、そしてテイルイエローが駆けつけてくるのが見えた。
「テイルブルー!!」
〈属性玉────巨乳属性〉
〈属性玉────貧乳属性〉
起死回生の一手に思い至ったテイルブルーは、左手に意識を集中して貧乳属性を起動。背後に展開された光膜で、バイク形態による加速がついたクッションへ躊躇いなくぶち当たる。
「「リフレクションバースト!!」」
竜巻に飛ばされた勢いに巨乳属性の反発力と、全速力のバイクの加速を上乗せした必殺キック────奇しくもイエローたち三人が、マンドラゴラギルディを打ち破ったのと同じ技がロロリーの土手っ腹に炸裂し、ロロリーは地面を転がった。
「絶体絶命でも涼しい顔して反撃してきて……お姉ちゃん、何者なの……?」
トゥアールに周囲を確認してもらい、変身を解除した津辺愛香の語る、ツインテールがほどけても、すぐに変身が解除されるわけじゃないってことは気付いてたから焦りはしなかった。との言葉に、仰向けに倒れたロロリーはよろよろと起き上がりながら、咄嗟にそんな判断が出来るなんて……と戦慄する。
「あたしが今まで何千回ツインテールを結んできたと思ってるの? ファッションでツインテールにしてるような小娘とは、年季が違うのよ」
「ツインテールって……ファッションでしょ? ……お似合いだよ、お姉ちゃんたち」
津辺愛香とロロリーが話をしている最中、こちらへ向けて爆走していたライトニングイエローたちに異変が起きていた。
彼女らが視界に入ったため、減速しようとしたテイルサンダーだったが、どうにも利きが悪いようだ。
不意にバキッという嫌な音が前後の車輪から響く。
「ブレーキが……壊れましたわ」
「ええ~~~~~~~~~!?」
見る見るうちに距離が縮まり、視界の二人は大きくなってゆく。
かくなるうえは……日高式緊急脱出を使うしかない!
「飛び降りろー!!」
しかしサンダーの叫びに応じて飛び降りることが出来たのはテイルイエローのみ。テイルサンダーは手首に絡みつくツインテールのカールが外れず、逃げることが出来ない。
「ちょっと! 放しなさいよ!!」
「停まれないですわ! 怖いですわ!!」
どうやらライトニングイエローは状況にパニックになり、必死にツインテールでサンダーへしがみついているようだ。
こちらに気付き、目を見開いている二人。津辺愛香は変身を解除しているからぶつかるわけにはいかない。一番ましなのは……
テイルサンダーは迷わずハンドルを切り、変身を維持していたロロリーへライダーブレイク……もとい、ライトニングジャッジメントをぶちかました。
その衝撃で、外れたパーツが跳ね飛ばされたロロリーと共に宙を舞い、投げ出された二人も地面へと転がってゆく。
バイクに乗って変身中に、子供を撥ねたヒーローより酷い、ヒーロー史上最悪の交通事故が発生した。
□□□□
俺たちは死力を尽くして貴の三葉に勝利をおさめ、恋香さんの、そしてトゥアールたちの笑顔を取り戻した。
向こうのトゥアールによれば、フェニックスギルディの反応も消えていることから、相手をしていたという二人のダークグラスパーが勝ったらしい。
総二たちが彼女らに確認を取ったそうだが、これでこの世界にエレメリアンが来ることはない。本当の平和が訪れたんだ。
俺たちの世界とこちらを繋いだ原因、地球を旅立ったDrオヴェルだったが、彼の母艦ゴッドオライオンは、その巨大さに恥じない馬鹿げた大出力を誇り、アルティメギルによる事前の行き来が無くとも異世界へと強引に渡ることが可能なのだ。
トゥアールたちも、その小型化、高機能化を全力で投げ捨てて出力に物を言わせた、力こそパワーと言わんばかりのコンセプトに呆れかえっている。
それにしても、Drオヴェルがテイルギアと同じ機能を再現すると巨大化するとは思っていたが、まさか開き直って巨大ロボになるとは思わなかった。
「エレメントバズーカ並みの武器が通常武装ってあんた馬鹿だろ?」
そう突っ込んだら彼は、褒め言葉ととらえて笑っていた。でもカッコイイことは認める。ありがとう博士。
実は国王だった、総二たちが城下町で出会った髭の老人が言うには、Drオヴェルは、噂に上っていた闇ツインテールクラブを各地に設営し、ツインテールを楽しめない国民たちの悲しみを、密かに癒す場を与えてくれた恩人でもあるそうだ。
確かにこの人なら認識攪乱も用意できるから、エレメリアンの目を逃れられるな。
こちらと向こうの会長は、エクスミラージュの存在を知ると乗りたい乗りたいと駄々をこねていたが、俺専用のギアだから使えないよ? と諭すと渋々肩の上の記念撮影で我慢してくれた。
恋香さんは当然のようにビークルモードのハンドルを握りたがったので、発進までの間運転席に乗せて、邪魔者の居ない平原を想う存分ブッ飛ばしてあげたものだ。
元気を取り戻して生き生きした彼女の、心からの笑顔を見られた俺は収納式のヘッドライトをにんまりとさせ、声を出すたびにライトを点滅させながら、あとで録画した映像、二人で観ようね。と約束した。
別れの時間が近づく。ダークグラスパーへ総二たちと共にお礼のメールを送り、ロエル、リルナ、向こうのツインテイルズと別れの挨拶を済ませた俺たちは、スタートゥアールへ乗り込んだ。
向こうの愛香と仲良くなったロエルたちは、何故か結維たちイエロー組には、恨みがましい視線を向けている。
Drオヴェルはもうしばらくここに残り、貴の三葉から得られた純度の低い属性玉を利用して研究を進めるそうだ。
浮上するスタートゥアールの窓から覗けば、ツインテールのゴリラたちが空を見上げ、こちらへ手を振っている。
実に濃密な異世界合宿だった。機会があればまたこの世界の人たちとも、向こうのツインテイルズとも会いたいものだ。
挨拶の間は気力で保たせてはいたが、激戦でみんなの疲労も限界に達する。空間転移し、窓の外が極彩色になるのを横目で見ながら俺は、シートに突っ伏して目を閉じる。
窓の外では、向こうのスタートゥアールがUターンするのがチラリと見えて、ああ……バイオジェット1号みたいだなあ……と思いながら意識を手放した。
日高式緊急脱出:伊吹鬼さんは泣きました。
バイクで変身:他にもこの虎、ムー原人倒した巻き添えでコンビナートも全焼させる畜生だしなあ……
あとピンクの髪で姫様の魔法少女は、トラックに轢かれるべきだと思ったんですが、ゴッドオライオンに轢かれたら、いくら変身してても二次元存在になっちゃうからやむなくバイクに。
これにて五巻編は終了。三巻四巻と同じく、六巻以降も概ねオリジナル展開となります。