赤く染まる異世界の大地を舞台に、アルティメギル四頂軍
テイルブルー対ラフレシアギルディ。テイルイエロー対マンドラゴラギルディの、大地を揺らし天を引き裂く激烈な幹部戦。
車輪の代わりに四足となったライトニングイエローに跨るテイルサンダーは、援軍に向かおうとするエレメリアンたちを二丁拳銃で掃討し、鋼の駿馬マシンブロウアーで大地を疾駆するテイルミラージュが、今またダンデライオギルディを撃破する。
そして────この世界から属性力を奪い尽くしつつある元凶、貴の三葉隊長たるユグドラシルギルディの下へ、フォーラーブルーとライザーレッド、そしてテイルレッドの三人が一本の矢となって駆け抜けてゆく。
『総二様、愛香さん、また何かが近づいてきます!』
フォーラーチェインの速度にも引けを取らない高速で接近してくる赤い光。
炎を纏うエレメリアン、フェニックスギルディだ。
「よおテイルレッドたちにちっさいほうのテイルブルー。また会ったな」
友人に挨拶するような気軽さで、声をかけてきたフェニックスギルディの姿に面食らうも、どのみちこいつも倒すか追い払うかしなければならないのだと決意した三人は脚を止め、各々得物を手に対峙する。
今すぐ戦いが始まってもおかしくない空気の中、フェニックスギルディの気軽な返事はさらに続く。
「俺様も、あいつを片付けるのを手伝うぜ」
予想外の共闘宣言に開いた口が塞がらない。世界を壊そうとする奴らを見逃してはおけない。俺様は正義の味方だからな! と言い放つ奴の言葉は、嘘を言っているようには聞こえないが、そう簡単に信じていいものか迷うのも事実だ。
「とりあえず行きましょう。あれを止めるのが先決でしょ?」
ツインテールを守る気は無いが、ポニーテールを失わせるわけにはいかない。
そう語るフェニックスをとりあえず敵ではないと認め、先を急ごうとした……だが。
「アルティメギルの侵略を止めるには、ツインテール属性の拡散を阻止することが重要じゃねえか。だから俺様は、いろんな世界でツインテールを消して回ってるのさ!」
────その一言が、観束総二たちの逆鱗に触れた。
激昂し、食って掛かるレッド二人を、目先のツインテールにとらわれず大局的に物事を見ろ。これだからツインテールを基準に物を考える奴らは……と格好つけた態度の、上から目線で諭すフェニックスギルディ。
「ふざけんじゃないわよ……そんな押しつけがましいポニーテールを、いったいどこの誰が好きになるっていうのよ!? 少なくともあたしはごめんだわ!!」
「その通りだ……この世界を見ろ! どこにポニーテールを受け入れている人が居るっていうんだ!? 自由を奪う、枷でしかないじゃないか! お前の方こそポニーテール中心に物事を考えてるだろ!!」
「力で抑えつけて、ポニーテールを無理矢理押し付けるお前のやり方を、正義だと認めるわけにはいかない! その先にあるのはポニーテールもツインテールも輝きを失った、悲しみと憎しみに満ちた世界だ!!」
その叫びに気圧され、言いよどむフェニックスギルディだったが、すぐに気を取り直し、不敵に笑って腕を組む。
「なんて奴らだ……ツインテールを信じることに、微塵の迷いもねえ……さすがはアルティメギルのアイドルたちだぜ」
「だがな、人様の説教一つでコロッと宗旨替えするほど、俺様の信念も薄っぺらかねえぞ」
「ああ……だろうな」
総二たちは思った。自分たちは、その信念を完全に否定できるほど立派な人間ではない。
だが知っている。この世界で、ポニーテールを押し付けられ、ツインテールを押し込めざるを得なかった人々の悲しみを、嘆きを。
そんな世界で笑顔を取り戻そうと、必死で頑張る少女の姿を────
「俺たちは、はっきりと助けを求められた。だから絶対に救ってみせる」
「これは俺たちの戦いだ。この世界に、本当のツインテールと、ポニーテールを取り戻すためのな!!」
踵を返し、進もうとする三人を、フェニックスギルディは呼び止める。
振り返ったテイルレッドに、フェニックスギルディは格好つけたポーズを止め、モジモジしながら言った。
「な、何ていうかよ……そういう、クソ真面目で熱いとこが……可愛いな、テメエ!!」
「突然何言い出すんだ!?」
言っちゃった、きゃは! と縮こまるフェニックスから、フォーラーブルーは無言でライザーレッドを後ろに庇い、距離をとる。
だが奴の視線は変わらず向こうのレッドに注がれたまま────奴のターゲットは、テイルレッドだ。
「俺様と結婚してくれ!」
「悪いけど、プロポーズなんて売るほどされてるんだよ」
人間にもエレメリアンからも求愛され続けて慣れっこなので、当然断りを入れるレッド。だが次の瞬間放たれたフェニックスギルディの言葉に、三人は凍り付いた。
「なんだと……? そんな清純をツインテールにしたようななりしておいて、どんだけ恋を弄んでいやがる!? この男の風上にも置けねえ奴!!」
無視して進もうとした足が、地面に縫いとめられる。
「今……何て言った?」
「ははは、隠さなくていいっての、この俺様のフェニックスアイをもってすれば、テメエら二人の正体が男なくらいたちどころに見抜けるぜ。そのうえで結婚を申し込んでるんだ!」
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
悲鳴を上げ、ブレイザーブレイドを振り回すテイルレッド。ライザーレッドも、我がことのように恐れおののいている。
「待て! なんで俺なんだ!? こっちのレッドだっていいはずだろ!?」
「馬鹿飛び火させんな!!」
「それこそ馬鹿にすんな! 人様の男横取りするほど落ちぶれちゃいねえよ!!」
「嘘でしょ!? あたしとのこともバレてるー!?」
ねちっこい足取りでにじり寄って来るフェニックスギルディ。
とっさに手を掴んだフォーラーブルーが、脱兎の勢いで逃げに徹するも、フェニックスギルディの速さも負けてはいない。
「ほおう、追いかけっこか……砂浜だったらもっとロマンチックだったんだが、いいじゃねえか、受けて立つぜ!!」
あははっ、待てよ~こいつぅ~なノリだとは口が裂けても言えない超音速の逃走劇。
「寄るなー! 寄るなー!!」
「いいや、寄るね! あの
「あいつなんて速さなの!? このスピードでも振り切れない……ていうか聞いてるこっちまで鳥肌立ってきたんだけど!?」
フォーラーチェインの速度でも振り切れない恐るべき速さ。
今まさに追いつかれそうな恐怖で、総二のダムに決壊の危機が迫る。
高校生男子の尊厳をかなぐり捨てて、テイルレッドのエクセリオンショウツが本来の役目を果たさんとしたその瞬間────!!
「教育的指導ォ────────────!!」
猛然と突っ込んだ白銀のバイク、メガネストライカーに跳ね飛ばされ、派手に地面を転がるフェニックスギルディ。
「危ない危ない、なんやヤバイ絵面やったから、MAXでブチかましたったわ」
可愛らしい声で言葉を発した無人のバイクは一瞬で変形すると、左肩にⅡと刻まれた人型ロボットとなる。
「メガ・ネプチューン……じゃああいつも!?」
案の定その後方から、勿体着けるように歩み寄って来たダークグラスパー・イースナ。そして飛来したメガネウインガーと共に、もう一人のダークグラスパー・アンコも舞い降りた。
「間一髪のようじゃったのう? テイルレッドよ」
ここに来て、テイルレッドたちはユグドラシルギルディが戦わなかった理由に思い至る。奴らはあくまで追跡役……フェニックスギルディを倒す刺客は闇の処刑人、二人のダークグラスパーだったんだ。
「なんで俺たちを助けるんだ? ダークグラスパー」
「テイルレッドよ、そなたはわらわの嫁となる娘。このような焼き鳥ごときに渡して堪るものか」
焼き鳥なんて呼ぶんじゃねえ! 俺様は一人相手に大勢でかかる連中と違って、正義の鳳凰なんだぜ!? と吼えれば、裏切り者風情がアルティメギルの在り方を語るな。と切り捨てる。
ダークグラスパーたちとフェニックスギルディの間に言葉の応酬が始まった。
ライザーレッドは、番号の無いメガ・ネプチューンの隣にいるダークグラスパー……ダークグラスパー・アンコに話しかける。
「そっちが俺の世界に来たダークグラスパーだよな? ……ユグドラシルギルディの無差別攻撃で、うちのトゥアールがやられたよ」
絞り出すようなその言葉に、ダークグラスパー・アンコは眼鏡の奥の瞳を細め、眉を上げるだけで応えた。
「それで、なぜ貴様はここでグズグズしておる? テイルレッド、そしてテイルブルーよ。貴様らもトゥアールを愛しておるというのなら、今すべきことは一刻も早くユグドラシルギルディを倒すことじゃろう?」
その言葉に、ライザーレッドはハッとなった。
「一つだけ聞かせてくれ。お前たちは……この世界を今後も侵略するつもりはあるのか?」
人口も少なく、戦士の成長も頭打ちで、侵略する価値のない世界の面倒を見る暇などわらわたちにはない。と不遜に言い放ったダークグラスパーの言葉に、テイルレッドたちは少しだけほっとする。
この戦いが終われば、この世界は本当に平和になるのだ。
「さあ! ここはわらわたちに任せて先に行けい!!」
「あ、レッドちゃんたち! どうしてもお礼がしたかったらイースナちゃんらに一通でもええからメール送ったってな~」
「「おかんか貴様ぁ!!」」
メガ・ネプチューンの声を背に、ダークグラスパーたちへの礼を告げながら、三人は一路ユグドラシルギルディの下へひた走った。
□□□□
一方その頃、各メンバーの戦いも佳境を迎えていた。
「────
テイルブルーが起動キーとなる性転換属性を使用するとともに、その左腕に手甲状の装備が現れる。
使用するのは
「姐さん! 任せて下せえ!!」
「あたいらだって、役に立って見せますぜ!!」
ラフレシアギルディを庇う隊員たちに向けて、その未知の能力が解放される!!
テイルブルーの口から放たれる青色の超破壊光線。生物学者が見れば、背びれこそないが確かにジュラ紀の生物だと断言し、TV局のレポーターと対面すれば、死を覚悟してみなさんさようなら! と別れを告げるような戦いぶりで、ラフレシアギルディの取り巻きは全滅した。
せめて加勢しようとステッキを杖代わりに、どうにかここまでたどり着いていたロロリーは、この惨状を目の当たりにして迷うことなく迂回していった。
「てめえ……よくもあたいのダチを! 家族を!!」
これで邪魔者はいなくなり完全な一対一だ。互いに得物を地面へ突き刺し、やることは一つだと無言で歩み寄る。
仲間をやられ、怒りに燃えるラフレシアギルディとテイルブルーの拳がぶつかり合う。
確かにテイルブルーの格闘能力は群を抜いている。だがなまじ格闘術を修めてしまっている分、純粋な喧嘩ではその無駄の無さが仇となった。
ラフレシアギルディの喧嘩殺法に打ちのめされるブルー。だが、一度でいいからやってみたかった後先考えないがむしゃらなぶつかり合いに、その気分は高揚していた。
これで最後だ。ラフレシアギルディは鉄パイプを構え、ウェイブランスをブルーの下へ投げてよこす。
後一撃が限界。だが必殺技をただ喰らわせただけでは倒しきれないかもしれない……一日一度しか使えない切り札の、属性玉多重変換機構はすでに使ってしまった。なら、一つ一つありったけをぶつけてやるだけだ。
属性力変換機構が起動し、
すかさず髪紐属性。飛行能力による急上昇でラフレシアギルディを上空まで押し上げ、濃密に漂う花粉の層を一気に突き抜けてゆく。
そのまま相手を置き去りにして急降下したブルーは、リボンから伸びた翼が戻るのと同時に兎耳属性を発動。着地の反動で脚を痛めるのも構わずに跳躍し、その勢いを加算した最後の一撃を投げ放った。
「
「ははっ、てめえ……ほんと、
「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイブ!!」
遥か天空に咲いた大瀑布。砕けたウェイブランスと引き換えに致命傷を受け、紫電を纏うラフレシアギルディは、気になっていたものの答えにようやくたどり着いた。
「ああ……やっとわかったぜ、ずっと気になってたお前の匂い」
ギクリとするブルーだったが、返って来たのはなんとも優しい言葉だった。
「愛……こりゃあ、愛ってやつじゃねえのか……? どおりでいい匂いのはずだ……先生に、似てらあ……」
さんざん他のエレメリアンの力使いやがって、あたいのも、ちゃんと使えよ……!
彼女の匂いを、“愛の香り”と評したラフレシアギルディは、最後にそう言い残して爆散する。
テイルブルー津辺愛香が、初めて出会った好敵手の最期だった。
「さて、と……もう一つ、ケリつけなきゃね……」
ロロリーが来ていたのも、姿を消したのも知っている。満身創痍の身体に鞭打って、痛む足を引きずる彼女は、彼方に見えるユグドラシル目指して歩き始めた。
□□□□
テイルイエロー対マンドラゴラギルディの戦い。
取り巻きが加勢していたラフレシアギルディとは違い、この戦場は増援を食い止めるテイルサンダーとライトニングイエローのおかげで、一対一の状態で戦えている。
だがテイルイエローのあらゆる火器が命中してもなおマンドラゴラギルディは健在。毛ほども堪えた様子はない。
「
不審に思い、相手の能力を見通す文学属性を使用したイエローは、今までの攻撃エネルギーが奴の体内に蓄積されていることを知った。
まるで、巨大なエネルギータンクですわ……!
「私の属性は
深入りするのは危険だ……ならば一気に決めるとばかりに、
オーラピラーに拘束されたマンドラゴラギルディへ、合身巨大砲からの後押しを受けた必殺キック、ヴォルティックジャッジメントが炸裂した。
「ほふぅうん!!」
だがマンドラゴラギルディは、あろうことか棒立ちでそれを受け、ドMの執念で必殺の一撃に耐えきったのだ。
弾き飛ばされるイエロー。転がる彼女が見たのは、頭上の葉っぱを蕾のような楕円状に窄め、ヴォルティックジャッジメントのエネルギーを大砲のように吐き出そうとする敵の姿────
「いけない、防御を────」
巨乳属性による防護膜を張るべく、合身巨大砲から属性玉変換機構がある左腕の装甲を呼び戻すイエロー。
だがマンドラゴラギルディが狙ったのは、空中の合身巨大砲。本体から離れ、フォトンアブソーバーの加護を失ったすべての武装が、なすすべなく破壊されようとしたその時。
「属性玉────
「────え?」
「ほふううううううううううううん!?」
ボヨヨンという、テイルブルーが不機嫌になりそうな音と共に、マンドラゴラギルディは跳ね飛ばされ、放たれた攻撃は明後日の方向へ逸れてゆく。
「間一髪だったわね、テイルイエロー!!」
「ああっ! テイルサンダー! 向こうのわたくしも!!」
向かって来る増援を全滅させたテイルサンダーとライトニングイエローが、救援に駆け付けたのだ。
先程、テイルサンダーの発動した巨乳属性を共有したまま投げつけられて、マンドラゴラギルディへぶつかったライトニングイエローは、その弾性のままサンダーの手元へヨーヨーのように戻り、お姫様抱っこの体勢で彼女の両腕に収まっている。
テイルイエローは密かに、わたくしもご主人様にやってもらいたいですわと羨んだ。
「んまあっ! 三人がかりで甚振られるのも、悪くないわねぇ!!」
「イエロー、上のアレ、借りるわよ!」
テイルサンダーが言うが早いか、支配権を乗っ取られた合身巨大砲が合体を解かれ、すでにイエローへ戻っている左腕を残して、テイルサンダーへ装着された。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
話には聞いていても、実際に目撃するとショックが違う。おまけに同じテイルイエローでも、こちらは異世界の存在なのだ。まさかこちらのまで使えるとは思わないだろう。
「一気に決めるわ! ────オーラピラー!!」
テイルサンダーの掛け声とともに、二門の主砲からオーラピラーが放たれる。
再び拘束されたマンドラゴラギルディへ、二人のイエローが同時攻撃を敢行した。
「「ヴォルティック! ダブルジャッジメントオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
推進ビームを背中に受けた、二人掛かりのヴォルティックジャッジメント。ダブルイエローのツープラトン技がここに炸裂する!
「んほおおおおおおおおおおおお!? でも、まだよっ! まだ私はイケるわあん!!」
「いいえ────これで終わりよっ!!」
〈属性玉────巨乳属性〉
無機質な、電子音声のみが響き渡る。弾き飛ばされた……否、
その膨らみを踏み台に、再度加速を得た二人は、互いに手を取り合って最後の切り札を切った。
「属性玉────
〈
〈
「電光オオオオオオオオオ!」
「反転っ!」
「「ダブルジャッジメントオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
その気になれば、飛び掛かって来た相手を空の星にしてしまえるほどの反発力を誇る防護膜。その反動に、脚力の強化に集中した属性玉を合わせれば────
「満足よ……最高の責めだった、わぁん……………………」
二度にもわたる必殺キック。トドメの二人の両脚蹴りを受け、マンドラゴラギルディはその許容量を超えるエネルギーに耐えきれずに爆散した。
「さて……それじゃあおにいちゃんたちのところまで行きますか」
『あのう……皆さんだいぶ消耗してますけれど、大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫大丈夫。この犬、イジメればイジメるほど回復するから」
サドとマゾの永久機関の本領発揮である。
ライトニングイエローは、テイルサンダー側の属性玉変換機構と、テイルイエローからむしり取られた武装を利用してバイクモードへ変形すると、二人を乗せて先を急いだ。
「ぶおんぶおん! ぶろろろろ~ですわっ!!」
楽しそうにエンジン音を口ずさむその走り出しは、消耗しているとは思えないほど快調だった。
□□□□
マシンブロウアーに跨り、ユグドラシルギルディをあと数キロといったところまで望んだ俺は、その端々に戦闘の光を見た。
総二たちは無事にたどり着いていたか。だが奴は恐るべき巨体で、あちらの攻撃がまともに通じていないようだ、ならすぐにでも加勢してやらねば……! と、向こうのトゥアールとの通信で身長150m以上、体重推定30万トンという奴の規格外の大きさを知った俺は、持てるすべての火力を全力投射してやろうと近づいてゆく。
『ところで結さん……そのエレメントバズーカって、属性玉三つ分の能力を弾として撃ち出せるんですよね?』
「そうだけど? 巨乳属性と貧乳属性、全身服属性でバリア三枚張るとか」
『属性玉多重変換機構、要らなくないですか?』
「…………………………………………………………あ」
何という灯台下暗し。俺はそのことに全く気付かなかった己の不明を恥じた。
だがもうすぐ射程距離内というところ、最後の最後で行く手を遮る敵の影。
「────わたくしは男の娘属性の赤騎士ローズギルディ!」
「同じく白騎士リリィギルディ! 先生の所へは行かせませんわっ!!」
「「お喰らいあそばせ! “
騎士っぽい感じにデコレーションされたバイクに跨る、ヤンキーとは毛色の違った紅白のエレメリアン。奴らは無数の花弁と共に、トゲの生えた触手を伸ばしてきた。
「邪魔をするなああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
だが俺は、フロントカウルからミサイルを発射し、前輪部からの電光放射であっさりとそいつらを薙ぎ払う。
幹部級というわけではなかったようで、あっさりと吹き飛ばされた二体だったが、奴らは更なる隠し玉を持っていた。
「バンヤンギルディ! 後のことは……頼みましたわ!!」
「わたくしたちの属性力……貴女に託します!!」
「「どうか先生に……貴の三葉に勝利を!!」」
大地を割り、姿を現す無数の茶色い触手。それは樹木の根のような姿で、散っていったローズギルディとリリィギルディの属性玉を絡めとると、残りの部分を一気に地上へ現出させる。
「あたいは貴の三葉一のノッポ!
バンヤンって何だっけ? と思いながらも、マシンを止め特攻服をしまい込んだ俺は、根っこが絡まり合ったような身体に葉の生い茂る頭部を持った、5mはある大柄な野太い声のエレメリアンへ戦いを挑んだ。
再びバイクのアクセルを噴かし、奴の周りを旋回しながらリフレクションビームのフルパワーをお見舞いする。
「はっはっはっは……痒いねえ。今度はこっちからいくよ!!」
だが倒せなくとも、並のエレメリアンなら深手を負う威力のビームを全身に受けても全く堪えていない。
バンヤンギルディが両手を地面へ突き刺すと、こちらの行く手を遮るように根の先端が次々に顔を出し、槍の連撃のようにこちらを襲った。
「うわあああああああああああああああああああああ!!」
たまらず横転し、投げ出された俺に、バンヤンギルディは更なる追い打ちをかける。
「あんたに倒されたローズとリリィの力を受けて見な! ────よく見えるだろう? この二つの、
『属性力、急上昇! ────これって……!?』
バンヤンギルディの胸元に浮かび上がった、二つの男の娘属性のエンブレムが光り輝き、その姿を見る間に巨大化させてゆく。ユグドラシルギルディ程規格外ではないが、それでも20m近くある巨体だ。
『結さん! バンヤンギルディは取り込んだ二つの属性玉を共鳴させています。属性は違えど、テイルギアと同じことをしているんです! 巨大化したのは増幅された膨大な属性力で、単純に膨れ上がっているんです!!』
俺は咄嗟に、腰のグリップへエレメリーションキューブを装着してその手を止めた。
まずい。三重共鳴なら倒せるが、この距離じゃあ他のみんなまで巻き添えになっちまう。誰かバズーカでバリアを張れる奴が居なきゃ使えねえ!!
「考え事とは余裕じゃないさ」
「……しまった!?」
その隙を突いて、バンヤンギルディが俺を掴み上げ、奴の触手が俺を絡めとった。この動き……この姿……そうか、バンヤンってガジュマルの事だったのか!!
答えが分かったからと言ってどうにもならない。巨大な絞殺し植物の魔の手に落ち、ビームも撃てず両腕も塞がれた俺は、他のみんなが勝利を収めて駆けつけてくれることを祈り、どこからか飛んできたビームに吹き飛ばされた。
□□□□
「なんなんですか……? 街のこの反応……?」
その少し前、城下町の方角に突如巨大な属性力の反応をキャッチしたトゥアールは、探査機からの映像を見て驚愕に目を見開いた。
城壁の一角が、背後にある街の一区画もろとも持ち上がり、地下から巨大なマシンが飛び出してきたのだ。
それは2、300mはあるトレーラーだ。なぜこの戦艦ほどのサイズのマシンを、わざわざ自動車にしようと思ったのか、設計した人間を小一時間程問い詰めたくなるほどに馬鹿げたサイズだった。
赤く染まる大地を、10輪あるその巨大なタイヤで爆走するビッグなトレーラーは、あんぐりと口を開けるブルーたちを追い抜いて、バンヤンギルディをその視界に収める。
「リフレクションビーム、発射!」
ヘッドライトから放たれた強烈なビームが、巨大化したバンヤンギルディを打ち据え、捕らわれていたテイルミラージュを救い出す。
「いったい何が……なんだあのトレーラー?」
バンヤンギルディが地響きを立てて倒れる中、自由を取り戻し、どうにか地面へ降り立ったテイルミラージュの下に、謎のグレートで巨大なるトレーラーから通信が入った。
『結くん! 待たせたな、君の新装備を届けに来てやったぞ!!』
「は、博士ぇ!?」
『────なんなんですかこの人は!?』
『ふっ────ついにこの時が来たのね!』
二人が驚き、未春艦長が酔っぱらうのを他所に、超巨大トレーラー・ゴッドオライオンの運転席でコンソールを操作するDrオヴェルは、コンテナ部の側面ハッチを開けると、そこから一台のマシンを射出した。
それはスタイリッシュなフォルムの、白を基調に赤と青をあしらった、トリコロールカラーの2ドアスポーツカーだ。
SFじみたディティールや、エンブレムこそ入っているものの、大きさは普通の乗用車と変わらない。
『これぞ、結君に合わせて
その言葉に合わせて、ボンネット上の恋愛属性のエンブレムがキラリと輝く。
「この状況でこれって……
『もちろんじゃとも』
運転席──日本車と同じ右ハンドル──に滑り込んだテイルミラージュは、イグニッションスイッチを押して火を入れると、ギアを入れ一気にアクセルを踏み込んだ。
運転の仕方など知らずとも、シートに座り、ハンドルを握るだけで、エレメントギアが、ライドリーベが全てを心で教えてくれる。
タイヤが唸る。命を吹き込まれ、大地駆ける鋼の獣と化したライドリーベは、今まさに起き上がろうとするバンヤンギルディへと飛び掛かってゆく。
「────チェインジ! エクスミラージュ!!」
その叫びと共に、宙へ跳んだライドリーベの内部メカニズムが、収納用亜空間を介して全く別物に切り替わった。
ボンネットからフロントガラスにかけてが、180°前方へ展開。足首を飛び出させ、末広がりな二本の両脚となる。
続いてテール部分が左右に展開、ドア部分が連動して外側へ飛び出し、シールドを備えた両腕に。
車体の底面だった胸元には、恋愛属性とツインテール属性を組み合わせたエンブレムが輝き、端正な面立ちの男性を模した顔を持つ、ツインテールじみた突起を両側にあしらった頭部が顔を出した。
この間僅か、0.1秒────スポーツカーは、一瞬にして10m程の人型ロボット、エクスミラージュへと姿を変えた。
その操縦に手足はいらない。人機一体となったテイルミラージュの手足は、そっくりそのままエクスミラージュの手足と変わる。
その姿になった時、エレメントドライバーの眼鏡属性は遮断され、代わりにライドリーベ内部の恋愛属性へとスイッチする。
ツインテール属性の装甲がテイルギアならば、この姿は言わばラブギア……長友結最大の持ち味を生かすための姿なのだ。
変形した勢いに任せて、起き上がったばかりのバンヤンギルディへ蹴りを喰らわせたエクスミラージュに、誰何の声が飛ぶ。
「ぐおおおおおお!? な、なんなんだてめえは!?」
その問いに、不敵な笑みを浮かべたエクスミラージュは、眼前にそびえる巨大な敵へ、臆することなく堂々と名乗りを上げる。
「テイルミラージュの新たな力……エクスミラージュだ!!」
「お……男の声だと!?」
その声は、テイルミラージュの女声でなければ長友結の声でもない。優し気な、大人の包容力溢れる落ち着いた声色が、毅然とした態度で放たれ聴く者の耳朶を打つ。
『……なんだか、アラクネギルディに似てる気がします』
そういう声だった。
「ちくしょうてめえ……ツラだけじゃなく声までイケメン臭えイイ声しやがって、元女だってわかってても、妄想が捗るじゃねえか!!」
変形し、ロボットの姿を得ても、その大きさは未だ倍近くある。だがエクスミラージュは恐れない。その胸に愛ある限り、彼に敗北は無いのだ!
「行くぞバンヤンギルディ! リーベミサイル!!」
エクスミラージュの両腕、ドアの断面に開いたスリットから小型ミサイルが連射される。小型と言ってもテイルイエローの胸部ミサイルよりは長く、大きいため、威力はこちらが上だ。
「うおお!? ……しゃらくせえ!!」
爆発で全身の触手がちぎれるのも厭わず、バンヤンギルディはエクスミラージュを叩き潰そうと突っ込んでゆく。
だが軽快なエクスミラージュには当たらない。猛牛をいなす闘牛士のように、ひらりひらりとその突撃を躱してゆく。
そして足元へ撃ち込まれたミサイルが、バンヤンギルディを転倒させた。
「────トドメだ! ジャイアントマグナム!!」
エクスミラージュの右脚が開き、中から拳銃が飛び出した。
リボルバー式のそれをキャッチしたエクスミラージュは、両手持ちで構えるとバンヤンギルディの中心部に狙いを定め、ためらうことなく一息に六連射を決める。
「プレアデスマッシュ!!」
天に輝く六連星の名を冠した、一発一発がエレメントバズーカの
「へへっ……あの世の仲間らに……いい土産話が出来たぜ……」
バンヤンギルディの巨体に紫電が奔る。
「ありがとうよ……エクスミラージュ!!」
笑顔でサムズアップし、友の想いを胸に抱いた
華麗なガンスピンを決めて拳銃を収納し、エクスミラージュが振り向けば、一際巨大な火柱を上げてユグドラシルギルディも崩壊し、この世界の辛く悲しい戦いが終わりを告げたことを知った。
天地を覆う赤い霧が晴れてゆく。奪われた属性力が────トゥアールやこの世界みんなの笑顔と、恋香のツインテールが還って来たのだ。
(キョ)ダイモンガー! って怪人が巨大化したから戦隊ロボが出ると思った?
残念、勇者ロボでした。
次で五巻編は終了となります。
ちなみに、薔薇で出来た百合の造花というのは男の娘同士の百合カップリングのことだそうです。