俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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以前に思いついて温めていたネタ。


第三十二話「疾風伝説」

 夜を迎えた城下町の、とある店の地下に設けられたバー。天井でシーリングファンが静かに回り、磨き抜かれ、使い込まれた木のテーブルが、暖かみのある明るすぎない照明に照らされている。

 年齢を重ねてもなお美しさを失わない女店主が経営する、落ち着いた大人の雰囲気が漂う店内には、今日も酒やつまみを楽しむ客の姿で溢れかえっていた。

 それだけなら何処の街の酒場でも珍しくはない光景だろう。だがこの酒場で異彩を放っているのは店員と、女性客たちの髪形だ。

 ツインテールのウェイトレスがグラスや料理を運び、ツインテールの女を連れた男が愛を囁く。客をもてなす女店主の髪形も当然ツインテール。

 属性力の反応を遮断するために地下室を覆う特殊合金の壁と、属性力を認識できなくさせる認識攪乱(イマジンジャマー)で二重にエレメリアンの目から逃れたここは、国の法で禁止されているはずのツインテールが、つかの間の自由を謳歌する秘密の楽園なのだった。

「あら、いらっしゃい。お久しぶりね」

 今もまた、新たな客がエレベーターから顔を出す。

 店主の馴染みの客なのだろう、胸元まである長い白ひげを蓄えたローブ姿の老人は、いそいそとカウンター席へ着くと、久しぶりに会った店主を褒めそやす。

「ママも相変わらずお美しい……どれ、久々にママの手料理で一杯やらせてもらおうかの」

「意外と早かったな。全国行脚はもう終わったのか?」

 隣の席で飲んでいた黒マントの老人が、髭の老人へ親し気に声をかけた。

「なあに、姫様たちが異世界から援軍を呼ばれたそうでな……その勇姿を拝んでやろうと一旦切り上げて舞い戻って来たのじゃよ」

「そうか……彼女たちなら必ずや、この世界を救ってくれるだろうさ」

 その言いように、髭の老人は不思議そうに首をかしげる。

「なんじゃお主、知っておるような口ぶりで……」

 マントの老人は、眼鏡ツインテールのウェイトレスにおかわりを注文すると、髭の老人の問いを笑顔でごまかしながらグラスの残りを飲み乾した。

 

□□□□

 

 城の客間でつかの間の休息をとる俺たちは、今後の対策を話し合っていた。

 敵襲も有ったので未春さんにも連絡を入れたが、どちらの未春さんも母親が居ない方がイベントが進みそうだから。とスタートゥアールでの留守番を選んでいる。

 見知らぬ土地で一人でいるのは寂しくないのだろうかと思ったが、あの人の事だから脳内友達や幽波紋やらを呼び出して、ノリノリで一人遊びを始めてもおかしくはない。

 ……レディーバグギルディか。

 そんなことを総二たちに話したら、実際にやり出していたら本気で胃に悪いから想像させないでくれと泣きつかれた。

 とりあえずトゥアールに、未春さんたちには通信のつなぎ方でも教えておいて、互いに話し相手になってもらえばいいんじゃないかと提案しておく。

 

 それはさておき。奴らの襲撃のお陰で疑問だったことも大体わかった。

 フェニックスギルディはアルティメギルの裏切り者で、だからポニーテールの普及とツインテールの撤廃なんて言う、組織の方針とは正反対なことを勝手にやらかしている。

「そして貴の三葉は、そのフェニックスギルディを追って一部隊丸ごとこの世界へやって来た、ということなのですわね」

 フェニックスギルディの強さもだが、先程目にした規模の軍勢を丸ごと相手にしなければならないのも骨が折れる。

 だがそれよりも目下の問題は……

 先程の戦いからこっち、二人して体育座りで落ち込んでいる愛香たちなんだよなあ。

 さすがにここまでへこまれるとからかう気も起きないのか、向こうのトゥアールも匂いを気にする二人を宥めにかかっている。

 愛香が元気をなくしているのが問題なのはわかっているのだが、やはりこの光景はくるものがあるな。

「へたれ愛香、可愛いよね恋香さん」

「そうね、結君……じゅるり」

 行くぜ恋香さんよし来い結! とばかりに互いの手と手をクロスさせ、意気投合した俺たちは、よし、いっちょうやったるか! と総二たちの首根っこを引っ掴み、愛香たちの下へ投擲した。

「「うおわあっ!?」」「「きゃあっ!?」」

 狙い過たず倒れ込んだ二組は、ツイスターゲームの様相を呈して絡まり合う。

「ちょっとそーじ……! どこに顔突っ込んでるの……?」

「すまん愛香! ……あれ、手足が変に絡まって……」

 きゃあきゃあわあわあと悲鳴を上げながら、恥ずかしいところへ顔を突っ込んだり大事なところを鷲掴みにしてしまったりと、うれしはずかしハプニングに見舞われる四人の姿に笑いが止まらない。

 俺と恋香さんは無言でハイタッチを交わし、ピシガシグッグッと拳を合わせた。

 これで少しは元気が出るだろう。

「ああっ! あれは……落奇異助平(ラッキースケベ)!!」

「ご存じですの!? 結維さん!?」

 後ろの方ではうちの雷電が、口から出まかせの解説を立て板に水でペラペラとまくし立て、会長の誤解を招いている。

 クックック……だが結維よ。確かにこれは落奇異助平だが、中国四千年の拳法の歴史とは何も関係ない、俺の持つ四十八のラブコメ技だ。

 涙目になった向こうのトゥアールが、自分の所の二人を必死に引きはがそうとするのを眺めながら、俺は隣で笑みを浮かべる恋香さんと共に、自らの心に愉悦が充ちてゆくのを感じていた。

 

「……おほん。人数も倍以上ですが、愛香さんたちがこんなですし、念を入れて戦力の増強を図ろうと思います」

 向こうのトゥアールが、そう言って会長と愛香のテイルブレスを受け取ると、食器洗い機のような装置の中へセットし、ノートPCに繋いで操作を始める。

 数分ほどして、取り出された二人のブレスが返却されると、向こうのトゥアールが胸を張って新装備の名を皆に告げた。

属性玉変換機構(エレメリーション)の上位装備、属性玉多重変換機構(エレメアディッション)を追加しました!」

 その装備が、二つの属性を結び合わせる能力の、男の娘属性(ガールズボーイ)と、性転換属性(トランスセクシャル)のハイブリッドを利用した装備だという説明を聞いた俺は、思わず話に割り込んでいた。

「ちょっとまて、それってまさ二つの属性玉を同時に使えたりするのか!?」

「今からそれを説明しようとしてたのに割り込まないでください!」

 そっちの世界では、目当ての属性玉が手に入っていたなんて……! 俺は以前トゥアールが構想していた装備を見せつけられ、崩れ落ちるように膝を着き、悔しさを滲ませて先を越されたことを嘆いた。

「……こちらは総二様だけでなく、愛香さんに慧理那さんも設計外の変化をしてしまっていますから、お蔵入りせざるを得ませんね」

 向こうは奇跡のパワーアップを果たしたのが総二だけ。こちらは三人全員だからな……

 後々属性玉が手に入れば俺用の装備には出来るかもしれんが、予備パーツの流用でなんとかなったエレメリーションキューブはまだしも、俺だけエレメアディッションを貰うというのも心苦しい。

 うらやましそうに向こうの自分を眺める会長を見ながら、俺は深々とため息をついた。

 

□□□□

 

 久しく使われていなかったという来客用の浴場で、女性陣の入浴が終わった後、俺たちは男三人裸の付き合いと洒落込んでいた。

 こっちの総二は俺が居るからまだいいが、向こうの総二は男一人で気の休まる暇なんてあまりなかっただろうからな。

 聞けば向こうでは案の定、毎日のようにトゥアールが夜這いをかけ、愛香が迎撃に駆け付けるせいで熟睡した覚えがないらしい。

「……そうか、でも今晩は俺たちが居る。思う存分寝てていいんだぞ観束」

「ありがとうな、長友」

 区別するため、向こうのみんなを口に出して呼ぶときは苗字呼びだ。しかし友達と仲良く風呂なんて、修学旅行以来だな。

 疲労回復効果のあるという、ミルク色の湯に肩を並べて浸かりながら、俺たちは互いの世界での思い出を語り合う。

 互いに驚かされたのはソーラになった経緯。向こうではダークグラスパーに唇を奪われてツインテールへの想いが揺らぎ、男に戻れなくなってしまったのだとか。

 向こうの総二はその際に初めて自らツインテールを結ぶことを覚え、結び変えによる強化形態であるライザーチェイン、フォーラーチェインを会得した。

 こっちでは愛香の強化形態のフォーラーチェインが、下結びのテイルレッドの姿で、ライザーチェインが桜川先生みたいな上結びなのか……一度見てみたいが、どちらも22秒しか持たないのでは大変だろう。

「……そっちじゃ好きな時にソーラになれるんだな」

「ああ、おかげですっかり女の身体に慣れちまったな」

 苦笑するこちらの総二に対し、向こうの総二は緊張した面持ちで切り出した。

「なあ、そっちの俺……愛香とトゥアール二人と、付き合ってるんだよな?」

「ああ……二人とも、俺の世界で一番大切なツインテールだ」

「そんな風に言い切れるのって、なんだかすげえカッコイイな」

 向こうの総二の瞳には、こちらへの憧れの色が浮かんでいる。

「観束にも、いつかそう言える日がきっと来るさ」

 俺は、みんなから愛されている向こうの総二へエールを送った。

 こいつは俺が居なかったせいなのか、いまだに恋愛感情に思い至れない程にツインテール尽くしな頭をしているが、それでも観束総二なのだ。時間はかかっても、必ずやみんなの想いに気付くことだろう。

「ところでこいつらは当然ヤルことはヤってるわけなんだが……何を隠そう総二のお腹には、愛香の子が……!」

「ええっ!? ……いや、逆だろ!!」

「でたらめを言うな!!」

 ダブル総二との漫才で、笑顔が充ちた俺の心は風呂の温もり以上に温まった。

 

□□□□

 

 翌朝、身支度を整えた俺たちはみんなと一緒に、ロエルから提案された城下町観光へ出かけることになった。

 女子たちは夜通しのガールズトークに花が咲いたようで、誰も寝不足気味だ。

 ところで向こうのみんなが俺たちを、可哀想な物を見る目なのはどうしてなんだろう? 恋香さんたちは一体何を話したんだろうね? 俺の脳が何故か想像することを拒否しているな。

 だが向こうのトゥアールは、属性玉多重変換機構の最後の仕上げのために、一度スタートゥアールに戻らなければならないそうだ。

 道中の護衛のために向こうの桜川先生も観光はお預け。

 愛香並みの戦闘力に加えて、ツインテール属性が無いのでエレメリアンに狙われる心配がないから護衛には最適だしな。

「お前の分まで楽しんで来てやろう」

「土産話を楽しみにしててくださいね、私」

 こっちの二人が煽る煽る。かくして、双子姫と騎士団の先導の下、パレードじみた異世界観光が始まった。

 

 流石はお姫様でツインテールの戦士。二人が街中を歩くだけで黒山の人だかりだ。

 やって来た当初は俺たちを恐れ、警戒していた民衆も、騎士団のすぐそばを歩いていることで許可された人間なのだと納得しているようだ。

 ふと振り返ると、白髭の老人に呼び止められた総二たちが何やら話し込んでいる。

 やはりツインテールを隠さなければならないこの世界の住人には、臆することなくありのまま太陽に晒された俺たちのツインテールが眩しいんだな。

 そして総二たちから少し離れた所では、黒いマントを羽織った白髪の老人が手を振っていた……ってなんでここに居るんだ!?

 言伝をして離れた俺は、黒マントの老人────久々に生で対面するDrオヴェルに駆け寄り、再会を喜んだ。

「元気そうで何よりじゃ結君。データを見せてもらったが、属性力の三重共鳴をあのように使うとは、いやはや大したもんじゃわい」

 話を聞いてみると、Drオヴェルはあの後すぐにこの世界へやって来たそうで、俺たちの世界とここが繋がったのは、どうやら彼の仕業らしかった。

「ここで会えたのはちょうどよかった。そろそろそちらに出向いて渡そうと思っておった新装備が完成したところでな……っ!? いかん!!」

 急に眼鏡を掛け、空を見上げた博士の叫びに振り向けば、先程まで澄み渡っていた青空が突如、朱色に染まっていた。

「結君、今ベルトは巻いておるな? ……みんな! 早くどれでもいいから建物の中に避難するんじゃ! あの花粉に触れてはいかん!!」

 城下町にサイレンが鳴り響く。バリアらしきものを展開したDrオヴェルの叫びに、只事ではないと感じた俺は、慌てて離れた皆の方へ向き直る。

 真っ赤な花粉が粉雪のように舞い、逃げ遅れた人々へ降り注いだとき、その恐ろしさが明らかとなった。

 胸を押さえ、次々と座り込んでゆく人々。その中には、先程総二たちと言葉を交わしていた老人の姿もあった。

「おじいさん!」

「熟女が……あれほど好きだった熟女が何とも感じられぬようになってしまった……」

 うわごとのようにそう呟き、気を失う老人。

「この粉が原因か!?」

 総二たちも原因に思い至るが、四方八方を花粉が取り巻いているせいで飛来する方角が分からない。

「────愛香たちは、大丈夫なのか!?」

「そーじ、結! 大変よ……トゥアールとおねえちゃんが!!」

「尊! しっかりしてくださいまし!!」

 悲鳴のようなその言葉に、俺は脇目もふらず恋香さんの下へ駆け寄った。

「ようじょが……ようじょが……」

 トゥアールも周りの人々のようにうずくまり、桜川先生はツインテールを解かれ、騎士の一人が、姫様のおねしょの思い出が消えてしまった……と呟きながら倒れ伏す。

 変身したロロリーも、ツインテールこそ無事だが青い顔でうずくまっている。

 この花粉には、あのリングのように属性力を奪い取る力があったんだ。

「結くん……」

「しっかりして! 恋香さん!!」

 力無く俺に縋る彼女に必死で呼びかけるが、返事は弱々しく今にも意識を失いそうだ。

「愛香の泣き顔が、私の中から消えちゃった……ツインテールも、わからなくなっちゃったの……」

 この花粉はリング程強力ではないため、テイルブレスやエレメントドライバーを身に着けていれば効果が無い。ツインテールの戦士でも、奪われないよう持ち堪えることは出来るようだ。

 だが恋香さんは、認識攪乱以外に特別な物は身に着けていない丸腰だ。無防備な彼女が、この猛威に抗えるはずもなかった。

 今はツインテールにしていない彼女に、外見の変化はない。だがその心は、輝きを失い灰色に塗りつぶされてしまっている。

 

 ────俺は、彼女を守れなかった。

 

「結、くん……わたしの……」

 無力感に打ちひしがれた俺は、彼女の言葉を一言一句聞き逃すまいと、その口元へ耳を寄せる。

「わかったよ、恋香さん……」

 安全なスタートゥアールにたどり着いていた向こうのトゥアールからの通信で、街から出れば発生源が見えると伝えられた。

「悪い、そっちのみんな……俺たち一旦、トゥアールと先生たちを連れていくよ」

「先生はあたしが連れていくから、そーじはトゥアールをお願い」

「結維、会長……俺たちが戻るまで、戦いは任せたぞ」

 だが俺たち三人は、犠牲になった恋香さんたちを抱えてスタートゥアールに戻るため、戦いを会長と結維に任せると、ドライバーの転送装置と転送ペンを作動させる。

「わかりましたわ……尊たちをお願いします」

「おねえちゃんたちの仇は、わたしが討ってやるから!」

 手当たり次第に、見境なく属性力を奪い取りやがって……この落し前は必ず付けてやるからな、貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)!!

 

□□□□

 

 天を突くような巨大な樹、巨大化したユグドラシルギルディが悪魔の花粉を撒き散らす中、ツインテイルズは脚属性を発動して全速力で元凶の下へ向かう。

 だが当然行く手を阻むものが立ちはだかる。ラフレシアギルディとその取り巻きだ。

突因帝龍頭(ツインテイルズ)オラァ! あたいらと勝負しろや!!」

 バイクの爆音以上の叫びが、赤く染まる大気を震わせる。

 この花粉の名は“撒死舞霧(マキシマム)”、最終闘態となったユグドラシルギルディの、禁断の最終奥義だ。

 名付け親であるラフレシアギルディ曰く、一度これを使ったが最後、世界を蹂躙し尽くすまで止める術はないという。

「先生の所には行かせねえぞ! 突因帝龍頭! あたいらはおめえらブッ倒して大金星あげて、みんなで胸張って組織で生きるんだ! それが先生の願いだ!!」

「ふざけるなよ……今日という今日は頭に来たぜ……! 生きる糧としてじゃなく、存在を誇示するためだけに属性力を奪い尽くすなんて絶対許さねえ!!」

 つい先ほど、世界こそ違えどトゥアールら、身近な人々が犠牲となったテイルレッドの怒りが爆発した。

「……その怒りは全部、あのデカブツにぶつけてやって」

「ブルー!?」

 これから先、どんな変態が現れるかわかったものではないのに、この程度で怖気づいてなんていられない。

 たとえ世界が違っても、大事な姉を傷つけられた怒りで自らを奮い立たせたテイルブルーは、ラフレシアギルディとの一騎打ちを開始した。

「あんた、匂いが大好きなんでしょ? それも香水とかじゃない生き物独特の匂いが……なら、とびきり生命(ライブ)に浸れる匂いを嗅がせてやるわよ……あんた自身の血の匂いをね!!」

 

 奪われた属性力を元に戻せる正確な時間はトゥアールにもわからない。だが長ければ長い程、元の身体に戻せなくなるのは確かだ。一刻も早く元凶を打ち倒さねばならない。

 テイルイエロー二人とテイルサンダーと共に、赤い女戦闘員を蹴散らしてゆくテイルレッド。狙いを付けるまでも無く、刃を振れば振っただけ、撃てば撃っただけ倒される程に周囲は埋め尽くされている。

 女戦闘員をあらかた倒し終えたところを散弾が襲い、イエローの叫びのお陰ですんでのところでレッドは飛び退いた。

 タイミングが遅れていたらやられていたかもしれない。

「忠誠心厚いワンちゃんねぇ……決着を付けましょう、テイルイエローたち」

 先程の攻撃はそこから撃ったのだろう。髪のような葉を逆立たせるマンドラゴラギルディの登場に、テイルイエローが奮い立つ。

「ここはわたくしに任せてください皆さん!」

「一人でか!? あいつも幹部だぞ!?」

「ブルーに先を越されてしまいましたけど、一度言ってみたかったんですの。すぐに追いつきますから、先に行ってくださいまし!!」

「気をつけてね、そっちのイエロー!」

「どうかご武運を!!」

 撃てば撃つほど喜ぶ敵……脱ぎ甲斐がありますわー! という叫びを背に、三人は振り返ることなく駆け出してゆく。

 そこへ前方からマンドラゴラギルディへの加勢なのだろう、バイクや車両に乗ったエレメリアンたちの大群がやって来る。

「加勢なんて、させるもんですか!!」

 二丁のヴォルティックブラスター、全身の重火器が火を噴いて連中の脚を止めた。

「ごめんレッド、わたしたちここに残るわ。でもすぐに追いかけるし、おねえちゃんたちだって来るからね!!」

「わかった、任せたぞテイルサンダー、テイルイエロー!!」

 小さくなってゆくレッドの背を見送りながら、武装を分担して背中合わせとなった二人は自分たちを取り巻く暴走族へ一斉砲撃を開始した。

「さあかかってきなさい暴走族! 悪い子はお仕置きの時間よ!!」

「みんなまとめてスクラップにしてやりますわ! わたくしもお仕置きしていただくためにも!!」

 

 戦場の各所でツインテイルズの戦いが始まった。激流の刃が薙ぎ払い、無数の電光、万雷の砲火が軍勢を吹き飛ばす。

 確かにツインテイルズは強力だ。だが軍団一つ丸ごとという膨大な物量が、かつてない結束で徒党を組んで向かって来るという脅威が、彼女らをして苦戦を免れない状況に追い込んでいた。

 一進一退の攻防が繰り広げられる中、おびただしい花粉のせいで数百メートル先すら満足に視認できない地平の彼方から、その均衡を崩すべく超音速の弾丸が放たれる。

 降り積もった赤い花粉を土煙のように蹴立て、群れなすエレメリアンたちをも路傍の石の如く蹴散らして飛来したそれは、フォーラーチェインとなったテイルブルーだ。その両手には、髪紐属性を使用したテイルレッドとテイルミラージュがしがみついている。

 

「待たせたな! ────騎兵隊の到着だ!!」

 

「おねえちゃん!!」

 手を放したテイルミラージュは、テイルサンダーたちの下へ向かうと円を描くように舞い降りながら、ポーチからエレメントバズーカを取り出し、腰のエレメリーションキューブに騎乗属性の属性玉を叩き込んだ。

「属性玉変換機構────騎乗属性(ライディング)!」

「……え? きゃあ!?」

「武装が、勝手に脱げてしまいましたわ!!」

 強制的に脱衣されたイエローたちの武装が、砲口を後ろに向けたエレメントバズーカへと集まってゆく。

 胸部装甲はバズーカの尾栓に覆いかぶさり、三連ミサイルと脚部アーマーがその下へ。

 陽電子砲がバズーカ砲身の根元へ接続され、徹甲弾ランチャーが、分離して二枚となった円形加速器の片割れを挟み込むようにして砲身の間に収まった。

 もう一枚の加速器も、連装バルカンに挟み込まれながら脚部アーマーの間で、()()となる。

 属性玉変換機構(エレメリーション)の付いた腕部ビーム砲がタコメーターに、腕部バルカンが燃料タンクとして収まると、一対のグリップハンドルとサイドミラーが顔を出す。

 最後に腰部アーマーが砲口に覆いかぶさると、胸部装甲の襟元から風防がせり上がり、エレメントバズーカと合身巨大砲(ユナイトウエポン)の合体は完了した。

 これぞ津辺恋香が望み、長友結が発見したスーパーマシン!

 

「完成! マシンブロウアー!!」

 

「ずるいですわー!!」

 自身が変形するライトニングチェインとは大違いの正統派ライドメカの登場に、テイルイエローは抗議の声を上げる。

 その声を聞き流しつつ、マシンに跨って着地したテイルミラージュは、再びポーチから何かを取り出した。

 風を孕んではためく白い布に袖を通した彼女は、グリップのトリガーを引いて、情け容赦なく後方へ三条のビームを撃ち放つと、吹き飛ばされたエレメリアンたちを一瞥すらせずにキューブとロッドをしまい込み、先行したレッドたちの後を追う。

「“行く”っきゃねーだろ? “恋香さん”の“ツインテール”を“取り戻し”によー」

 背名に刻むは“突因帝龍頭”。奇しくもラフレシアギルディが当てたものと同じ文字。

 恋香手作りの特攻服(トップク)に身を包んだテイルミラージュは、彼女の夢を叶えるため、彼女の仇を討つために地の果てにそびえる魔樹を目指す。

 その加速は、先程の砲撃と相まって地球人類が理論上でしか生み出せていない光子ロケットを思わせるほどだ。

 

 だが爆炎の中から、マシンブロウアーを追う影が飛び出した。

「マンドラゴラギルディさんの助太刀に行くつもりだったが、こうしちゃあいられねえ! あたしは靡き髪属性(フラッター)のダンデライオギルディ! 単車で勝負とあっちゃあ見逃すわけにはいかないねえ!!」

 

                  “ ! ? ”

 

 タンポポの綿毛を思わせる、真っ白いアフロのような髪型の、特攻服を纏うエレメリアンが、モチーフの花をイメージさせる、黄色と緑に塗り分けられたフルカウルバイクでテイルミラージュの後を追う。

 頭上に事あるごとに“!?”が浮かぶような二人のデッドヒートを、呆然と見送ったサンダーとイエローの二人は顔を見合わせると、焼け跡から這い出てきた生き残りのエレメリアンへ、やけくそのようにヴォルティックブラスターを撃ち込んだ。

 

□□□□

 

 テイルレッドたちと合流せんとユグドラシルギルディへ向かう俺と、それを阻止せんとするダンデライオギルディとの猛チェイス。

 マシンブロウアーの性能は素晴らしいものだし、エレメントギア同様に手足のように動いてくれるおかげで、免許のない俺でも扱うことが出来ている。

 だがマシンの速度は向こうも負けていないうえに、純粋な運転技術では悔しいが奴の方が上だ。最初に開いていた差はみるみる縮まってしまっていた。

「へっへっへ……これだよこれ! 単車乗り回して風に靡くツインテールを特等席で眺める! これがあるから走りはやめらんねえんだ!!」

 ……いつぞやのクラブギルディみたいな奴だ。

 砲撃で吹き飛ばそうにも、ツインテールを様々な角度で眺めるためなのか絶えずジグザグに蛇行するせいで狙いが定まらない。

 かと言って横付けしようにも、奴はこちらの後方にぴったりと張り付いているせいでどんなにハンドルを切ろうとも振り切ることが出来なかった。

 こっちはいつまでも、追いかけっこなんてしてるつもりはないんだよ!

 

 ふと、ユグドラシルギルディの映る視界の片隅に小高い丘が見える。雪が積もればスキーのジャンプ台として使えそうな感じの、崖のように片側が削られた丘だ。

 俺はそれを見て、これだ! と閃いた。

「て、てめえいったい何する気だ!? 気でも狂ったか!?」

「ダンデライオギルディさんよぉ……いっちょチキンレースと洒落込もうや……?」

 壁面目掛けてまっしぐらに加速、ぶつかる寸前にスロットルを全開にして前輪を持ち上げ、ウィーリーの体勢を取る。

 一歩間違えば反発して派手に転倒するところだが、タイヤは狙い通りに壁面へがっちりと食らいつき、そのまま車体を垂直に登らせる。

「ばっ……馬鹿なぁ!?」

 宙返りする俺の視界に映るのは、追突を恐れてマシンを止め、驚愕に目を見開くダンデライオギルディの顔。

 

「“待”ってたぜぇ……! この“瞬間(とき)”をよお!!」

 

 俺はすかさずポーチから得物を引っ張り出すと、属性力に輝く()()()()()()()()()を、奴の脳天目掛けて全力で振り下ろした。

 

 ────“!?”

 

 ツルハシを叩き込まれて血飛沫か脳漿のように綿毛を散らし、ダンデライオギルディは断末魔を残す間もなく息絶えると、マシンと共に爆炎の中へ消える。

 

 やったよ恋香さん……恋香さんの夢、今だけは俺が代わりに叶えて見せるから……!

 

 ────彼女の部屋の、本棚の奥に隠してあった不良漫画。

 その真似をしてバイクで走り回り、エレメリアンをツルハシや鉄パイプで粉砕するという、馬鹿らしくも真っ直ぐな夢を、俺は地球を遠く離れた異世界の大地で叶えることに成功した。

 ツルハシを作成するべく、ロングロッド先端のキューブに予備のロッドを取り付けてみたのは、我ながらいいアイディアだったと思う。

 

 もちろん出撃前に向こうのトゥアールに連絡して、一連の戦いは録画済みである。

 これで恋香さんへのいいお土産が出来た。俺はユグドラシルギルディへ向けて、マシンブロウアーのアクセルを噴かし、赤く染まる異世界の大地を駆け抜けてゆく。




今回の正式タイトル「疾風伝説(かぜでんせつ) 特攻(ぶっこみ)の結」
武丸クンが例のシーンで持ってたのはツルハシだったので、ミラージュアームズの新たな組み換えパターンをでっち上げときました。
あと会長、一人だけまともにかっこいいマシンに乗ってごめんね!
実はエレメントバズーカはこのシーンのために用意されたものだったり。

ところでこの赤いアルティロイド、なんで原作での表記が「強化戦闘員」なんでしょうね? ギガアルティロイドじゃあるまいし、性別変わっただけじゃん。って思うんですが。

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