俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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「例のシーン」のタイミングで、お気に入りのトランペット曲を思い浮かべた人は結構な数居ると思います。俺は「チェイス! ギャバン」のイントロでした。


第三十一話「夜露死苦! 悩舞流苦羅武!!」

 ロロリーの戦いが終わった後、貴賓室で紅茶とお菓子をご馳走になった俺たちは、初めは警戒心バリバリだった騎士さんたちとも打ち解けることが出来た。

 改めてこの世界のことを訊いてみると、彼女らの王国はこの大陸そのものが領土という、いわゆる統一国家で、文明も先程見た通り携帯電話や自動車など、地球と同じくらいに科学技術が発達している。

 ファンタジーに出てきそうなこの城も、蓋を開けてみれば家電や最新の電子機器が満載で、よくもまあ雰囲気を壊さずに調和させているものだと思った。

 そして肝心の国王なのだが、高齢のため実質隠居状態で、今は部下と共にツインテール禁止令を徹底するために各地を回っているそうだ。

 自身もツインテール好きなのにそんな辛い役回りをしているというのが涙を誘う。

「ところで、国民の間に密かに広がっている噂なのですが、なんでもどこかにエレメリアンの目を気にすることなく、誰でも自由にツインテールを楽しめる闇ツインテールクラブがあるとか……」

 なんだその禁酒法時代のアメリカみたいな店。

「本当に有ったら嬉しいですけど、俺たちみたいな認識攪乱も無いのにエレメリアンからツインテール属性を隠せるわけないじゃないですか」

 騎士のお姉さんも、確かにそんな発明がされたなんて聞いたこともありませんからね。と笑っていた。

 総二たちが騎士さんたちのポニーテールの見事さを褒め、リルナが元々ポニーテールも好きだったことが分かったり、国王以外男子禁制の王城に勤めるメイドや騎士が、万年男日照りなのだと見抜いた向こうのトゥアールが、再びアイカニュルニュールを貸してやろうと言い出してくっころなやり取りに発展したりと、なかなかにいい雰囲気だ。

「お兄ちゃん、そっちに行ってもいい?」

 ロエルが甘えた声で向こうの総二の膝に乗り、トゥアールたちがそれをうらやましがって残るリルナを誘っては拒絶される。

 それを嫉妬の目で見る向こうの女性陣。皆さんご覧ください、鈍感ハーレムラブコメの一幕がここに再現されております。記念に写真を撮っておこう。

 俺はすかさずトゥアルフォンを向けた。

「おにいちゃ~ん、わ・た・し・も」

「デカいんだから我慢しろ」

 それに触発されて、結維も俺の膝に乗りたがるが、このサイズを膝に乗せるのは気が乗らないので頭を右肩に預けさせ、ツインテールをさするだけで我慢させる。

「結維さん……わたくしのツインテールも触ってくださいまし……」

 そうやって結維が俺に甘えてるのに焼きもちを焼いた会長が、ツインテール先端のカールを結維の腕に絡ませて縋り、恋香さんも俺の左腕を取って頭を預けてくる。

 なんだこの金のガチョウ。左腕に当たる柔らかいものは嬉しいけど、結構シュールな状態かも知れん。

 

 結婚するなら若い方がいいよね? とロエルに挑発された桜川先生が大暴れして護衛の騎士たちを全滅させるのをBGMに、俺たちの関係を知ったリルナが、お前ら揃いも揃って重婚しまくりじゃないかこの犯罪者! とゴミを見るような目を向ける。

 その際ロエルに向こうのみんなが総二との関係を訊かれて妻、許嫁、二番目の妻などと言っていたが、先んじてこっそり後ろに回った恋香さんが、愛香の照れ隠しで言った幼馴染という台詞に被せて総二の嫁と言っていたのはGJと言わざるを得ない。

 そんな愉快で楽しい時間が過ぎる中、不意に激しい揺れが部屋を襲い、外からは爆音が轟いた。

 窓を開け放ちテラスへ出ると、場違いな騒音はその威力をいや増して由緒溢れる部屋を汚してゆく。

「冗談でしょ……何よあの数……?」

「敵が七分に草原が三分とか、そんなレベルじゃないぞ……」

 城壁の向こうに広がる草原を、文字通り埋め尽くすエレメリアンの大軍団。

 先程倒されたエレメリアンと同じ植物モチーフの集団が、バイクや車に乗って凶悪な爆音を響かせている。

 だが軍団すべてが攻めてきたかのようなそいつらは、ただのバイク集団ではない。乗っているすべてが改造車、素材が木材で出来ているように見える不思議なマシンに乗るそいつらは、どこからどう見ても暴走族にしか見えなかった。

 その中でも一際高い、櫓付きの車に乗るエレメリアンの姿に俺たちは目を剥いた。

特攻服(トップク)!?」

 特攻服を身に纏ったエレメリアン。頭にはモチーフとなったものだろう、赤い斑模様の花弁が傘のように開いている。

「チェリーブロギルディのケジメェつけにきたぞオラァ! さっさと出てこねえか!!」

 大音声の叫びに呼応して、周囲のバイクが盛大に空ぶかしを行い、エレメリアンたちの起こす騒音がけたたましく重なってゆく。

 どうやら仇討ちらしいが、そんなのは今までの戦いでも同じはずだ。あいつらはそれほど仲間意識が強いのだろうか?

 会長たちが耳を押さえ、恋香さんが俺の腕に縋る。

「反則じゃないかあんな数!」

 リルナが怯え、身をすくませるが、すぐに毅然とした態度で騎士たちに指示を下す。

「……街のみんなを避難させてくれ! 巻き込まれてしまう!!」

 慌ただしく出ていく騎士たちに続き、俺たちも覚悟を決める。

「よし、行こうみんな!!」

「お兄ちゃんたち、あんなにたくさんいるのに戦うの!?」

 心が折れかけているロエルに、愛香たちと俺は平然と告げる。

「あたしたち、強化合宿もかねてこの世界に来てるから」

「ハードなほうが、身になるでしょ?」

「それに俺たちはアルティロイドや分身だけど、あれくらいの大軍団とも戦ったことはあるからな。今回もどうにかなるさ」

 呆然と立ち尽くす姉妹を他所に、気合を入れた俺たちは総二の提案で同時変身……あっちとこっちのツインテイルズを合わせた、八人の揃い踏みを敢行した。

 見張りも居なくなって都合がいいからな。

「「「「「「「「テイル(ドライブ)・オン!!」」」」」」」」

「「未春艦長、ばっちり録画しましたよ~」」

『『さすが総ちゃん! わかってる、わかってるわ、もう!!』』

 案の定戦艦から覗いていた未春さんたちの声が通信越しに聞こえ、苦笑する。

「まさか……それが……!?」

 女になるとは予想外だったのだろう。俺たちの変身した姿を見た姉妹は、揃って驚き言葉を失っていた。

「ロエル、リルナ。ポニーテールはツインテールの代替品なんかじゃない。それぞれを愛し、大切に育んでいくべきなんだ。法で縛るのは……諦めるのは、まだ早い」

「この世界の人々に笑顔を……本当のツインテールとポニーテールを取り戻すのは、君たちの役目だ!」

 ────俺たちがツインテールの本当の強さを見せてやる。だから諦めるな!!

 総二たちの言葉に心打たれたロエルは、陶然とした瞳で向こうの総二を見つめ……その視線を下に向ける。

 ちん○んどこいったの? 幼子の純粋な疑問が俺たちの胸を刺す。

「きっと分子分解されて消滅するんだよ姉様」

 君たち、追い打ちをかけるのはやめてさしあげろ。女体化の具体的プロセスなんて考えたくもない。

 それにしても、向こうのテイルブルーのコスチュームは露出高いんだな。ちょっと目のやり場に困るぞ……胸とか背中とか。

 それはさておき、とりあえず元気を取り戻し、再び合体変身した姉妹は、ロロリーとなって俺たちに向けて決めポーズをとる。

「「そんな幼い声でちんち○って口走られたらたまりませんなあゲハハハハハハ!!」」

 平常運転のトゥアールたちは、大小二人のテイルブルーによって王宮の天井を飾る新型シャンデリアとして生まれ変わった。

「「「属性玉────髪紐属性!!」」」

 属性玉変換機構で髪紐属性を同時使用した俺と愛香たちは、ロロリーと手をつなぐテイルレッドと共にテラスから飛び立った。

 

□□□□

 

 エレメリアンでさえ、生身で放り出されれば超圧力により、たちまち五体が四散するほどの過酷な環境である世界の狭間。

 そんな宇宙空間よりも恐ろしい場所を、生身で遊園地のアトラクションでも楽しむかのような感覚で突っ切る少女が居た。

 戦闘機形態(メガネウインガー)のメガ・ネプチューンに搭乗したダークグラスパーだ。

 トゥアールの技術を模倣して造られたメガ・ネプチューンだが、属性力による意思が芽生えたことで独自の進化を果たし、スタートゥアールやアルティメギルの移動艇のように、強固な装甲で覆わねば耐えられないはずの世界間移動ですら、身一つで行える存在となった。

 彼女はただのロボットなどではない。もはや人造エレメリアン、いや、機甲(メタル)エレメリアンとでも呼ぶべき存在なのだ。

「夏休み中にメディアへの露出が出来ないのは痛手じゃが、サマーグッズの市場投入はどうにか間に合ったようじゃな」

「そんなにメガネドン推しで大丈夫なん?」

 備えられた搭乗用シートの上で、のんきに仕事──処刑人ではなくアイドル活動──の話をするダークグラスパーは、自らを包む保護力場越しに何かの接近を感知した。

「あら、この反応って……」

 それに少し遅れて、センサーでもそれを捉えたメガ・ネプチューンは正体に思い至る。

 姿を判別出来るまで接近してきたその飛行物体は、メガネウインガーと瓜二つの外見を持ち、ダークグラスパーそのものの搭乗者を乗せていた。

「────久しいのう、()()()!」

()()()()! それにMK.Ⅱも!!」

「ツーちゃん! ほんまに久しぶりやなあ!!」

「イーちゃんも、元気にしとったか?」

 二人のダークグラスパーは、久方ぶりの再会に破顔し、互いの無事を喜んだ。

 メガ・ネプチューンMK.Ⅱとその相棒のダークグラスパー、“イースナ”は、テイルミラージュが居ない世界の闇の処刑人だ。

 かつてアルティメギルのもとに降ったイースナは、首領によって同じ道をたどった平行世界の自分と引き合わされ、驚きつつも互いに協力し、競い合う様にグラスギアとメガ・ネプチューンを造り上げた。

 そして二人は共に闇の処刑人として、首領の命じるがままに各世界の裏切り者や、目に余る兵士たちの命を刈り取って来たのだ。

 当然、どちらもイースナなのだから相棒に同じ名前を選べば反発もしよう。だが彼女たちはお互い、唯一と言っていいまともに付き合える人間なのだ。

 喧嘩せず公平にじゃんけんで勝負をつけることで、相棒のメガ・ネプチューンに番号を振り、アイドルとして活動する際の名前を分かち合い、自分同士の奇妙な友情を築いた。

「みんながそろい踏みしたんは嬉しいけど……せっかく貴の三葉がおるんやし、一緒に戦ってもらった方がええんとちゃうの?」

「余計な犠牲は出せぬ。わらわたちより先に発見しただけで充分じゃ」

 それはイースナちゃんたちがもたもたしとったから……ああ、うちのアンコちゃんもや。お互いやることおんなじやなあ。と上に乗るダークグラスパーを他所に、並行して飛ぶメガネウインガーの間には、奥様同士の井戸端会議の如き会話の花が咲く。

「優秀な部隊なんやし、呼び寄せて美の四心と一緒に戦ってもらったら? イースナちゃんの所、美の四心言うても隊長さん周りの分隊だけやから人手欲しいんとちがう?」

 メガ・ネからの意見に、ダークグラスパーは二人そろって首を横に振った。

「それは出来ぬ。あ奴らは、どうあっても他の部隊と共闘させられぬ理由があるのじゃ」

 貴の三葉は、あまりの問題児ぞろいだった故、ダークグラスパー直轄の部隊としてまとめられ、欠組となっていた(クラブ)の位を与えられたと二人は語る。

「いかな豪傑でも奴らは制御できぬ。こればかりは同じ女であるわらわたちでなくてはな」

「「……………………………………………………………………………………同じ、女?」」

「「貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)……あらゆるエレメリアンを掛け算してしまう、恐るべき女傑の集まりよ!!」」

「「掛け算やってえええええええええええええええええええええええええええええ!?」」

 ────世界の狭間で、メガ・ネたちは叫んだ。

 

□□□□

 

 暴走族の前に降り立ち、俺たちが姿を晒すのと同時に、櫓の上のエレメリアンは飛び降りて部下たちへがなり立てる。

「なんだぁ? おんなじ面した信号機みてーな連中が増えてんぞ!? この世界の戦士はピンクの姫サン一人じゃなかったのかよ!?」

「へえ姐さん、チェリーブロギルディをやったのはそのちっこい姫のはずですぜ」

 じゃあこいつらは何モンだ? どいつもこいつもイカしたツインテールしやがって……特に赤いちっこいの、オメェらだ!! と名指しされたレッドたちは、堂々と進み出てそのプレッシャーを真っ向から浴びる。

 くっ……! このプレッシャー、幹部級の迫力だ。余波だけでもビリビリ感じるぜ。

「思い出した! てめえら、ツインテイルズか!? しかも二組とも勢ぞろいとかマジかよ!?」

 周囲の部下から写真が回ってきていたことを伝えられ、思い出した特攻服エレメリアンが驚きの声を上げた。

 そりゃあこんな光景見せられたら俺だって驚く。

「ツインテイルズと聞いちゃあ黙っちゃいられないねえ。てめえらはあたいらのドリームをことごとくぶっ壊しやがったんだからよぉ!!」

 いったい何のことだと思っていると、次に飛び出した名前で合点がいった。

「あたいのオキニだったリヴァイアギルディ君×()クラーケギルディ君を倒したのはてめえで間違いねえな!?」

 リヴァイアが俺でクラーケがブルー……と伝えようとしたら一足先にレッドが名乗りを上げてしまう。……おい。

「いやいやいや、倒したのはアタシとブルーだろ!?」

 抗議するも、レッドはそれを制して言葉を続ける。

「最後に合体した二人を倒したのはこの俺だ! 恨むなら俺を恨め!!」

 その叫びを耳にした途端、奴らの態度が激変し、一斉にバイクや車のエンジンを停めて異常なほどに食いついて来た。

「合体だと!? 詳しく教えろコラ!!」

「えっと……穴に」

「穴!? どっちのだ!?」

「リヴァイアギルディの穴に、クラーケギルディ(の属性玉)が入った」

 先程までの爆音にも負けじと爆発する歓声。その中に漏れ聞こえてきた受けだの攻めだのリバだのと言った腐敗臭漂う単語に、理由を理解してしまった俺は今にも戦いを放棄して崩れ落ちそうになっていた。

 愛香二人も理解できているようで、視線を逸らしている。

「あのねえイエローたち、受けとか攻めっていうのはね……」

 おいそこの馬鹿妹、こっちのはともかく向こうの多分ピュアな会長を腐海に引きずり込むのはやめろください。

 向こうのレッドも、こっちで倒したバハムギルディもクトゥルギルディの触手を二本挿されて合体したなんて言うもんだから、もはや焚火にガソリンを注ぐような有様だ。

 ヒートアップした連中は、植物らしく花粉を盛大に撒き散らし、晴れていた周囲を濃霧のように包み込んでゆく。

「そうとあっちゃあ気合入れてかからねえとな! あたいらは首領直属部隊貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)! 人呼んで悩舞流苦羅武!!」

「そしてあたいはラフレシアギルディ! 貴の三葉の特攻隊長よ!!」

 逢えて嬉しいぜ、ツインテイルズ!! と名乗りを上げた部隊名に、俺たちは四頂軍との関連を思い浮かべた。

「貴の三葉……? ダークグラスパーの部隊か!?」

「たしかに直属の上司はあいつになるが、あたいらはあいつの部隊じゃねえ! あたいらは、あたいらの先生だけの生徒(チーム)なんだからよぉ!!」

 その先生ってのが隊長……ポニーテール属性のエレメリアンか! だがイエローたちが指摘するように、さっきのチェリーブロギルディといいこいつらといい……女みたいな声してないか?

「あたりめーだ。どこに目ぇ付けてやがる。あたいらは全員女だ」

 衝撃的なカミングアウトに、俺たちは揃って驚きの声を上げた。女性型怪人をなかなか見ないと思ったら、一部隊にまとめられていたのか……!

「あたいらはよぉ、裏切り者を追ってこの世界に来た。そいつ引き渡したならすぐにでも出ていくつもりだったんだ。けど仲間をやられたとあっちゃあ、おめおめと引き下がれねえじゃねーか!」

 勝手なことを言いやがって。普段あちこちの世界で属性力を奪ってるお前らが出て来て、騒ぎを起こしてるのに攻撃されないわけがないだろうが。

 その言い分を潔く切って捨てた向こうのテイルブルーが、ラフレシアギルディにタイマンを提案し、連中が挑発に乗ったのもあり、前哨戦であるところのメンチ合戦が勃発する。

 ガンのくれあいで二人の間に散った火花が、物理的な熱をもって周囲の草花や枯れ木に引火してゆく。

「なんだあいつ、何モンだ……!? 姐さんとまともにガンつけあえる女なんて、今まで見たことねえぞ!!」

 向こうのテイルブルーは、エレメリアンたちどころか世間からも怪物のように恐れられているらしい。そっと向こうのレッドに近づいた俺は、どこまで同じなのか尋ねてみた。

「そっちの愛香も熊とか倒したのか?」

「ああ……十歳の頃にあっさり倒して、爺さんが黄昏てたよ」

「そっか……そこまで同じなら仕方ないな」

 あちらとこちらの扱いの差は、きっとおそらく外見年齢とレッドと触れ合う姿の差なのかもしれない。

 世界は違っても、俺たちはお前の味方だぞ。と後で向こうの愛香に伝えたくなった。

 なかなかやるな。そっちこそ。と互いを認め合いながら前哨戦が終わる。だがいざ本番が始まろうかという時に、悲劇は起こってしまった。

 ラフレシアギルディが、愛香の貧乳に言及したのだ。

 こっちのレッドはうちのブルーまでが飛び出したりしないよう、しっかりとその手を握り、冷や汗を流しながら事態の推移を見守る。

 だが、あたいは組織の落伍者、テメーはメスの落伍者だ。と煽るラフレシアギルディの胸が、サラシで押さえつけられているだけで愛香より大きかったことが悲劇を呼んだ。

 ショックを受けて落ち込む彼女を、こいつ貧乳吹っ切れてねーんでやんの。ひーんにゅう! あそれ、ひーんにゅう!! と嘲笑い、囃し立てるギャラリー。

 

 ────地獄の悪鬼が降臨した。

 

「すまんロロリー、助けると言っておいてなんだが、今日でこの世界は滅びるかもしれない!!」

「ええええええええええええええええええ!? 急にそんなこと言われても!!」

 そうこうするうちに、ラフレシアギルディとブルーの間に割って入ったエレメリアンが次々に血祭りにあげられ、バイクやバギーなど、目につくものすべてが引き裂かれ、粉砕されてゆく。

「お兄ちゃん……ロロリーはね、救世主に来てほしかったの……悪魔じゃないの」

「あたしが止めてくる! ほら、いい加減にしなさいよ!!」

 もう一人の自分の余りにもな姿に、こちらのテイルブルーが狼藉を止めるべく乱入した。胸元を容赦なく握りつぶそうとしてくる彼女の猛攻に、どうにかタイマンへ軌道修正したラフレシアギルディも怖気を振るい、攻めあぐねている。

 パワーは互角のはずだが体格差が災いして、しがみつくロリブルーなどお構いなしに向こうのブルーは暴れ放題だ。

 巻き添えで飛んできたタケノコ状エレメリアンが、目の前の地面へ突き刺さる。

 この乱戦を止めるためには、属性玉を使うしかないのか……?

 全身服属性ではエレメリアン全員を押しのけるには範囲が足りない。ここは体操服でラフレシアギルディとテイルブルーを押さえつけるべきか?

「おめえ……不思議な匂いがすんな。そこのチビもだ」

「「………………………………は?」」

 四つに組み合い、溢れ出る力の余波が周囲にクレーターを作る二人だったが、その一言で状況に変化が訪れた。

 ブルーの暴走状態が加速度的に収まってゆく。

 夢中になって二人の匂いを嗅ぐラフレシアギルディの属性は匂い属性(フレグランス)。愛香たちの匂いに感じ入るところがあったらしい。

 匂いをかがれる恥ずかしさから、たちまち悲鳴を上げてエレメリアンから逃げ惑うブルーたち。その姿に、先程までの悪鬼の面影はない。

「姐さんがあれだけくんかくんかするとか……あいつらやっぱただもんじゃねえ……」

 蹴散らされていた連中も、手のひらを返して称賛に回っている。

「なんてぼさっとしてる場合じゃない! ブルーたちを助けに行かないと……!!」

「お手伝いいたしますわ!」

 俺のミラージュマグナムに合わせて、こちらと向こうのイエローが援護とばかりにヴォルティックブラスターを連射する。

 しかしラフレシアギルディに向かう銃撃を、割り込んできた別のエレメリアンが盾となって防いだ。

「おふうん……効くわあ……」

 黒に近い深緑の、ラバースーツのような体表に、頭頂から葉が髪の毛のように垂れ下がったエレメリアン。

 人参か牛蒡か……そういう細長い根野菜が人型になったようなエレメリアンがくねくねとした動きで歩み寄って来る。

 マンドラゴラギルディと呼ばれたそいつは、俺たちの相手を任されると、大人びた艶のある声で返事をしながら銃撃を物ともせずににじり寄って来た。

 食らって仰け反りはするのだ。だがすぐに前進を再開する不気味な姿に、イエローたちは恐怖する。

 イエロー二人とサンダーも含めた、三丁のヴォルティックブラスターでも効果が無い。ならその頭にライフルをお見舞いしてやるぜ!

 マグナムを連結したミラージュライフルを三連射。ヘッドショットで命中させるが、それでも奴は怯まなかった。

「効いてない!?」

「いいえぇ、だいぶ効いてるわあん!!」

 その姿に奴の性癖を見た俺は、毒を以て毒を制すとばかりにサンダーに視線を向け、向こうのイエローも加えた一点集中の全力射撃の体勢に入る。

 犬っぽくてそそるわねえ! ちゃんとご主人様の前で粗相できるのかしら!? なんていうめちゃくちゃな挑発に、向こうのイエローはレッドの方を見て照れていたが、うちのは堂々と胸を張って、出来ますわ! ご命令とあらばお外でだって!! と要らないカミングアウトをしていた。

 うん、もう手遅れだわ。理事長ごめんなさい。

 そして、加勢しようとするロロリーをレッドたちが押しとどめているその時。

 

「待てえええええええええええええええええええええええええええええええいっ!!」

 

 瑞々しく精気に満ちた声が、混迷の戦場に高らかに響き渡った。

 それを耳にした誰もが、誰だ!? 何処だ!? と声の主を探して周囲を見回し始める。

「「────あそこだ!!」」

 最初に発見したテイルレッドたちの指さす方向に目を向ければ、空に輝くもう一つの太陽が浮かんでいた。

 いや、太陽ではない。一瞬そう誤認してしまいそうなほどの、灼熱の炎を放つ真紅のエレメリアンがそこにいた。

「追われる身だが、多勢に無勢は見過ごせねえ……義によって助太刀するぜ!」

「何だこの音は!? 何処から聞こえてくるんだ!?」

 高らかに響く、勇ましいトランペットの音色と共に、大空を掴み取らんばかりに広がる巨大な翼のエレメリアンは、その双眸を一際光らせて名乗りを上げる。

「ポニーテールは世界を繋ぐ架け橋! 太陽の戦士、フェニックスギルディ見参!!」

 こいつが……ポニーテールのエレメリアン……!!

 他とは一線を画すその迫力に、俺は無意識に後ずさっていた。

「あ、あ、あ、あいつだよ! ロロリーが全然敵わなかったエレメリアン!!」

 だがこいつが隊長なのかと思いきや、貴の三葉の連中は俺たちに背を向け、上空のフェニックスギルディへ一斉に敵意を向ける。

「姐さん! あいつ、自分から現れやがりましたぜ!!」

「こりゃあツインテイルズどころじゃねえぞ!?」

 と、いうことは……さっき言ってた裏切り者がコイツなのか!?

 トオッ! とビルから飛び降りるかのように地面へ降り立ったフェニックスギルディの前に、ラフレシアギルディを庇うサボテン型のエレメリアンが飛び出してきた。

 そいつは邪険属性(クルール)のカクタスギルディ。彼女はラフレシアギルディが止めるのも聞かず、腕からトゲを飛ばして攻撃を仕掛けるが、フェニックスギルディはそれをあっさり払いのけると、何故技の名前を叫ばねえ!? と説教。

 そんなの知ったことかと全身からのトゲ攻撃に切り替えたカクタスギルディに、そんな攻撃は通じないぜと跳躍からの打ち下ろし、フェニックスパンチを炸裂させる。

 だがそれで終わりではない。殴った反動で再び宙に舞ったフェニックスギルディは、必殺技の体勢に移行した。

 それは日本の男児の魂に刻まれた、伝家の宝刀。国民的フィニッシュホールドだ。

「フェニックスキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!」

「うわああああああああああああああああああ!!」

 宙返りからの必殺キックをもろに受けたカクタスギルディは、今まで必殺技を喰らったエレメリアンの例に漏れず、断末魔の悲鳴と共に爆散する。

「確かに言う通りだ……必殺技っぽく叫ぶだけで、ただのパンチやキックがとてつもなく重い一撃に感じる……」

 そう漏らしたレッドに反応し、フェニックスギルディは振り向いた。

「ほおう、流石はツインテイルズ。わかってるじゃねえか」

 やはりこいつも俺たちのことを知っているらしい。

「一流の戦士はしっかり技の名前を叫ぶものだぜ。斜に構えて黙って撃ってくるだけのヒーローなんて、見てても心は躍らねえよな!!」

 ぐうの音も出ないほどの正論に、俺とイエローたちはうんうんと頷いていた。

 レッドたちも感心していたが、ロロリーに腕を引かれたのを見て我に返る。

 しまった。いくらカッコよくても、あいつはエレメリアンなんだ。どのみちツインテールを踏みにじり、ポニーテールを奪おうとするなら俺たちが倒さなければ。

 だが目の前で仲間を倒された貴の三葉の隊員たちが怒りに燃え、フェニックスギルディへ一斉に立ち向かってゆく。

 どちらを先に攻撃すべきか迷う俺たちだったが、それを大音量の声が止めた。

「こら────────────────────────────っ!!」

 城前の平野に響き渡る子供の声。

 海を割ったモーゼのように、バイクの群れを左右に割って、奥から小さな……本当に小さなエレメリアンが歩いて来る。

 今まで見たエレメリアンは最低でも2mくらいは有ったものだが、このエレメリアンは数十cmくらいしかない。

「私を置いてどこへ行ったかと思えば……駄目でしょ!!」

 貴の三葉の連中が口々に先生と呼ぶ、本物の隊長なのだろう、盆栽か小ぶりなクリスマスツリーのようなエレメリアンは、ぷりぷりと隊員たちを叱っている。

「騒がしくして、失礼しました! 私、貴の三葉の隊長をしておりますユグドラシルギルディといいます!!」

 ラフレシアギルディの肩に飛び乗ったユグドラシルギルディは、フェニックスギルディを見て頬を膨らませた。

「フェニックスギルディさん! あなたを処罰するのは私たちの仕事ではありません。ですが仲間を倒したことは先生許しませんからね!!」

 何かが眼前で閃くが、それを気にした風もなく、フェニックスギルディは怒るユグドラシルギルディへ、お前たちが何をどうしようと、いつでも受けて立つぜ! と爽快なほど無鉄砲な返事を返す。

「みんな、帰りますよ!」

 ため息をついたユグドラシルギルディは帰還の指示を下し、隊員たちはいそいそと帰り支度を始めた。

「おうデカイ方のテイルブルー! すぐにリベンジしに来っからよお、決着付けようや! 今度こそタイマンでな!!」

 ラフレシアギルディは、先生の匂いに包まれる幸福にその身を震わせながら、テイルブルーを指さして言い放つ。

 地平線の彼方へ去ってゆく変態の編隊を見届けると、フェニックスギルディも飛び去っていった。

「もうやだ! あんたが代わりに戦ってよ! あんたもテイルブルーでしょ!?」

「あたしだって嫌よ! あんたもあたしならわかるでしょ!? しかも名指しだったじゃない!!」

「俺が代わりに戦うから……」

 怯え、弱音を吐き、互いに言い争うテイルブルーたちに手を貸そうとしたテイルレッドが何かに躓いた。

「なんだ……? これは!?」

 足元には、俺たちと奴らの間に境界線でも引くように、ギロチンか何かで切り付けたようなクレバスが口を開けていた。深さは1m近くある。

 先程閃いた何か……触手の振りで、これを刻んだのがユグドラシルギルディの力……?

 貴の三葉隊長ユグドラシルギルディと、反逆者フェニックスギルディ。二人の強敵を前に、守ることが出来た城を見上げる俺たちの胸中には不安が渦巻いていた。




アニメ最終回のラストにちらっとだけ登場したフェニックスギルディ、遂に登場。
そして今まで頑なにメガ・ネをMK.Ⅱと呼ばなかった理由がこれでした。
名前も「善沙闇子はわらわだけの名前ではないぞ? ……わらわとそなた、二人の名前じゃ」みたいな分かち合い方をしたんでしょう。

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