俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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今までのネタばらし回
自己紹介の場面に加筆しました。


第三十話「ツインテイルズVS魔法少女ロロリー」

 アルティメギル首領より転送されてきた、自動的に消滅する封書により、逃亡した反逆者の討伐を命じられたダークグラスパーは、しきりにそのことを吹聴して回り、部下たちからの花束や、涙ながらの見送りを期待していた。

 しかし返事はなしのつぶて。その度に今日は気分が乗らないと延期していた彼女であったが、ついにしびれを切らしたメガ・ネプチューンは「ホンマにこれで最後やで!」とメガネドンの着ぐるみを着込み、ダークグラスパーを引っ張って皆の下へ向かう。

 

 エレメリアンたちが集うホールでは一同押し黙っており、液晶タブレットをペンが擦る音だけが響いていた。

「これはダークグラスパー様」

 入室したダークグラスパーに気付いたスタッグギルディが、一礼して迎える。

「スタッグギルディよ、兵の訓練は順調か?」

「ツインテイルズを描き続けることで、皆彼女らの魅力を見極め、心身ともに着々と成長を遂げております」

 ビートルギルディの残した訓練メニュー。誰よりも傍で、この場に居ない隊長の手腕を見続けてきたスタッグギルディと参謀ホッパーギルディは、それを自分なりに噛み砕き兵士たちに課していた。

 一朝一夕に画力は向上しない。しかし大事なのは描き続け、彼女らの輝きを見極めることにこそある。

 少しずつ貫禄の出てきたスタッグギルディと、いつになく闘志を燃やす隊員たちの姿に満足げに頷くダークグラスパーは、咳払いをして今一度別れの挨拶を始めた。

 え? まだ行ってなかったの? という戸惑いの空気の中、耳にタコができるほど散々聞かされた言葉の繰り返しに、隊員たちはどんなリアクションを返そうか困り顔だ。

 当然そんな淡白な反応ではダークグラスパーも怒る。彼女の眼鏡が輝き、カオシックインフィニットが炸裂する────

 ところを寸前で慌ててホッパーギルディが執り成し、彼女はプリプリ怒りながら捨て台詞と共に走り去ってゆく。

「帰って来た時に何の進歩もなくば、貴様らのエロゲー全て、OPムービーで紹介されるヒロインをわらわに書き換えてくれるからな!」

 何とも情けなく、嫌な捨て台詞である。

 

 一方スワンギルディは、侵攻休止宣言があったにもかかわらず出撃を強行しようとしてスパロウギルディに止められていた。

「考え直せ! 今お前がツインテイルズと戦うのは時期尚早だ!!」

「それでも往かねばならないのです! 侵攻が完全に停滞している今、時間を空け過ぎればそれだけこの基地が突き止められる危険も増しましょうぞ!」

 今の実力がツインテイルズに届かないのは百も承知。戦っても時間稼ぎにしかならないとしても、その時間こそが大切なのだ。

「死ぬとわかっていても私は……我儘を受け入れてくれたこの隊に、恩を返したいのです!!」

 もう自分にはスワンギルディを止めることなど出来ない。そう諦めるスパロウギルディの前に、救いの手が差し伸べられた。

「おお、スワンギルディではないか。ようやく見つけたぞ」

 ダークグラスパーである。

「……このスワンギルディ、ダークグラスパー様の武運長久を祈っております!」

 上司の出立を聞かされ、しばらくメールも出来なくなるとの言葉に浮かびそうになる笑みを、過酷な修行の日々で得た鉄面皮にて包んだ礼を捧げる。

 だが別れ際に託された余計な置き土産。

「うむ、では三十分以内に激励のメールを五十通送れ。もちろん文面は全て変えてな」

「は」

 闇の処刑人の面目躍如。死刑宣告にも似た命令に絶句するスワンギルディを残して、ダークグラスパーは去ってゆく。

「しっかりするのだスワンギルディ! 私も文面を考えるから!!」

 崩れ落ち、頭から壁に突っ込んだスワンギルディを介抱するスパロウギルディ。

 幸か不幸か、この有様では出撃する気力など残りはしないだろう。

 

□□□□

 

 普段出撃するたびに見慣れたゲートにも似た、マーブル模様じみた揺らめく極彩色の光の中をスタートゥアールは征く。

 自動操縦に切り替わってから、これといったアクシデントがあるでもなし、コックピットブロックの俺たちはめいめいくつろいでいた。

 外の空間はいつものゲートと同じなのかという総二の質問に、意外にもトゥアールは否定の言葉を返す。

 曰く、テイルギアでも長時間は耐えられないほど有害な物質で満ち溢れており、同じように見えるのは、知覚できる限界の色彩としてこのように映るかららしい。

「このスタートゥアールも、技術の大半を防御に割り振っているだけのただの箱のようなものですから……思念だけを飛ばしたロロリーちゃんは、理にかなっていますね」

 トゥアールが、メッセージを送った異世界の少女に感心する中、アラームが鳴った。

 三十分も経っていないのに、もうすぐ到着するらしい。

 愛香が驚きの声を上げる中、不意のアクシデントがスタートゥアールを襲う。

 右へ、左へ船体が大きく揺れ、血相を変えたトゥアールが操縦席のモニターへ駆け寄る。

「目的地に近づいた途端制御できなくなりました!」

 最初は慌てていた未春さんがたちまち目を輝かせて喜びの声を上げる。

「戦艦に乗って制御不能になるなんて憧れのシチュエーション、叶っちゃったわ」

「叶わないように避けて行動するから母さんの憧れ全部、あらかじめ教えておいてくれないか!?」

 恐るべき死の預言者(デス=プロフェッセス)へ総二のツッコミが飛んだ。

「もう空間転移(ドライブアウト)してる……!? どうして!?」

「みんな! 座席にしっかりつかまれえええええええええええええええええええ!!」

 真っ逆さまに墜落するスタートゥアールの中、俺の叫びが響き渡った。

 

「みんな……無事か?」

 拍子抜けするような微々たる衝撃。どうやら総二が問いかけるまでもなく、全員シートにしがみつくだけでやり過ごせたようだ。

「すいません皆さん……メンテナンスは完璧だと思ったんですが……」

 恐縮しきりのトゥアールを、トゥアールの造ったものだったから怪我もなく済んだんだと総二がフォローする。

「ありがとうございます総二様。ただ、原因がメンテナンス不足だけならまだわかるんですが……どうも大きな力で干渉されたような感じがしたんです」

「大きな力……まさか属性力か?」

「いえ、気のせいでしょう。それより機体の立て直しにマジになって、墜落のどさくさにおっぱいおしつけるチャンスを逃したことの方が心残りです」

 皆のピンチに何考えてやがるんだこのアマ……

 墜落したのは幸いにも平原のようで、俺たちは生まれて初めての異世界の景色を一目見ようと、窓へ駆け寄った。

「普通だ……」

 抜けるような青空と白い雲。緑の森に草原……そんなありふれた光景が、窓の外には広がっている。総二のもらしたその一言が、全員の感想を代弁していた。

 様々な異世界を渡り歩いてきたトゥアールが言うには、どこもそんなものらしい。

 だがいくら平行世界とは言え、少しくらい異世界情緒を期待してもいいのではないだろうか? 物騒なのは困るが未知の動植物とか。

 まあそれはさておき、お城に居ると言っていた件のロロリーという少女を探すべく、トゥアールは艦載の探査機を射出した。

 ロロリーもツインテールの戦士、その強力なツインテール属性を探せば必ず見つかるはずだからな。

 まあ普段世話になっている困った名前の人工衛星“ようじょ”程の探知精度は無いそうなのだが、何もしないよりはずっといいだろう。

 ちなみに、一定年齢以下の女の子の探知精度は本家の衛星に比肩する……その努力を属性力探知にまわせよと言ってやりたかったが、ロロリー探しにはうってつけなのがなんとも歯痒かった。

 数十分後に探査機は帰還し、トゥアールによる調査結果の説明が始まった。

 この惑星の九十五パーセントは海で、大陸は今俺たちが居る一つだけ。

 一つの大陸……超古代の地球に存在していた超大陸パンゲアを思い出すな。

 属性力も無事にキャッチできたようで、モニターに見慣れた光点が映し出される。もっとも、この短時間の調査では建物までは描画できなかったようで、そこがお城かはわからなかったが。

「同じ場所に二つあるようですね……認識攪乱のようなもので隠匿されていたら手の打ちようがありませんでした」

 同じ場所に二つのツインテール属性……それってもしや……

「その方も、ご自分のツインテール属性と、変身のためのツインテール属性とで二つ持っているということでしょうか?」

 属性力の共鳴効果はDrオヴェルも発見しているから、可能性としては無くは無いし、この世界は戦いが終わっているらしいからな……ロロリーも、二つのツインテール属性の力で侵攻してきた隊長に勝利したのかもしれない。

「とりあえず、歩いて行ける場所のようですし行ってみましょうか」

 そういうことになった。

 俺たちが身支度を整える中、未春さんは、異世界へ行く夢はかなったから出しゃばらないわ。と言って留守番だ。

 外へ出ると、現代の日本ではそうそう味わえないだろう清浄な空気が肺を満たし、真夏の日本とは大違いの穏やかな日差しが俺たちを照らす。

「結維さん……わたくし、なんだかワクワクが止まりませんわ」

「わたしも……ここが異世界なんだね」

 結維たちが感慨深げに呟いた。確かに、平凡な光景のはずなのに、どこか幻想的に思える不思議な高揚感がある。

「よし、それじゃあ行こう。合宿だから羽目を外し過ぎないようにな」

 トゥアールから大まかな地図の表示された端末を受け取った桜川先生を先頭に、どこかハイキング気分でツインテール部の合宿が始まった。

 雑談交じりに進むこと数分。横目に見えていた森の向こう側から俺たちの目の前に人影が現れた。むむっ? これは第一異世界人発見か? と思っていたが、距離が近づくにつれて俺たちは表情を強張らせる。

 表情まで判別できる距離で対峙する二組の集団……向こうに見えるそれは、もう一組のツインテール部と言っても過言ではないほどに瓜二つな一団だったのだ。

「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」

 どちらが先にあげたかもわからないほどにタイミングの揃った、驚愕の叫びが木霊した。

 ────その叫びに触発されたのか定かではないが、近づいて来る無数の気配。

 土煙を上げながら、地面を揺るがしてやって来た黒い塊……それはゴリラの大群だった。

 ただのゴリラではない。その毛深い体毛は地球のゴリラよりはるかに長く、ツインテールに結ばれている。

 それはつまり、ファッションを楽しむほどに知能を発達させているということ! 野生の力と高い知能の合わせ技は手強いぞ……?

「友好的な態度には見えないな……」

 全身を無数の殺気が叩く。奴らの筋肉が、今にも飛び掛からんばかりに強張る。

 向こうの愛香(仮)とこちらの愛香が前に出て、俺もポーチから取り出したクマの着ぐるみを着込んで戦闘態勢を取った。

「「なんでやる気満々なんだよお前ら!? そもそもなぜ着ぐるみを着る!?」」

 二人の総二の見事にハモったツッコミが心地よい。

 狂戦士(バーサーカー)の語源となったのは、“熊の毛皮を着る者”という言葉だった。俺たちの背後には、戦う力のない恋香さんや結維、会長たちが居る。彼女たちのためなら俺は獣でも鬼にでも、悪魔にだって成り果ててやろう。

 向こうでゴリラ同士の戦いだと煽られた愛香(仮)がトゥアール(仮)の襟首を引っ掴み即席の盾にした。やめてくださいこのゴリラ! と罵り喚くさまは、本当にこちらの二人を思わせるやり取りだ。

 その上級者向けのやり取りに、流石のゴリラも戸惑いを見せるが、二人がやり取りするその隙に、一頭のゴリラが体毛の中から取り出した何かを投げ放った。

「きゃあ!」

 ブーメランだ! 荒く削られた木製のソレが狙うのは向こうの会長(仮)。だがブーメランは向こうの桜川先生(仮)の華麗な足技によって迎撃され事なきを得る。

「簡単につがいが見つかる野生動物如きが、婚期を焦るアラサーに勝てると思うな!!」

 ハングリーさが違うのだ! とゴリラ相手に吼えるその姿に、目頭が熱くなった。こっちの先生も触発されてファイティングポーズとってるし。

 これは俺も負けていられないと、闘気を滾らせて両腕を振り上げ、威嚇のポーズをとる。立ちはだかる俺と二人の愛香、二人の桜川先生のツインテール包囲網に気圧され、ゴリラたちは迂闊に動けない。

 そんな中、均衡を崩すように棍棒を握った一際大きなゴリラが一頭、群れの中から進み出る。

 片目が刃物傷に塞がれた古強者の風貌に、見事に結ばれたツインテール。おそらくこいつが群れのボスだろう。

 俺と向かい合う形となったボスゴリラは、俺を指さして吠え猛り、威勢よく胸を叩くドラミングを始めた。

 これは野生のゴリラが行う威嚇ではなく挑発……一番体の大きな俺を好敵手とみなして、勝負を挑んでいるに違いない。

「ほあああぁぁぁぁぁぁ…………………………………………………………………………」

 俺は迎撃のための構えを取り、奴の目から視線を外さずゆっくりと息を深く吸った。

 ボスゴリラが唸り声を上げる。だがその瞳に浮かぶのは怯えの色か……?

「待ってくれ結! ここは俺に任せてほしい」

「愛香たちも下がっていてくれ。俺たちが話し合ってみる」

 二人の総二があげる制止の声。その言葉に俺は素直に従い、構えを解くと愛香たちと共に距離をとった。

「そーじこそ一体何言いだしてんのよ!?」

 まともな奴なら当然の疑問が飛ぶ。だが総二たちは、ゴリラのツインテールから悪意のなさと、人間に対する不安や怯えを看破していたようだった。

「ツ、ツインテール……」

「喋ったああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 総二たちがツインテールを辛抱強く見つめていると、不意にゴリラが口を開いた。

 両陣営でタイミングもバッチリな驚きの声の大合唱。

「お前たち……ツインテール、か?」

 たどたどしいしゃがれ声ながら、ボスゴリラははっきりと言葉を発している。

 総二たちは、変身していないのにツインテールを見抜いた野生の勘に感心していた。

「お前、笑わない、のか?」

 棍棒を下ろし、真っ直ぐに総二たちの目を見るボスゴリラは、人間たちは自分たちゴリラがツインテールにするのをおかしいと笑うのだと告げた。

 そうか……こいつらは人間のツインテールに憧れて、真似をし始めたのか。

 総二たちも、その努力を口々に称え、人間が笑うのは嘲りだけじゃない。お前たちがツインテールにしているのを嬉しく思ったって笑うんだ。と心からの言葉で伝えた。

「お前たちのツインテールは本物だ。そりゃあ可愛いとかは流石に違うけど……すごくかっこいいぜ」

 その言葉に心打たれたボスゴリラは、向こうの会長に謝罪し、俺たちも警戒を解いた。

「人間、嫌い。でも、ツインテールは、好き……人間、ツインテールに戻って、欲しい」

 アルティメギルの侵略の影響で、この世界のツインテールは少なくなってしまったのだろうか?

 総二たちが、戦いはもう終わったんだ。狙われないようにやめてしまった人もいるだろうけど、じきに戻るさ。と精いっぱいゴリラたちを励ます中、不意にそれは現れた。

「いくらツインテールでもゴリラは困りますー。この世界、本当どうなっちゃってるんでしょー」

 総二たちの隣で、全身ピンクの細身なエレメリアンがゴリラを見つめていた。

「「うおわああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」」

 揃いの悲鳴を上げ、飛び退く総二たち。何でゴリラ目当てで……いや、何でエレメリアンがここにいるんだ!?

 ピンクのエレメリアンは、みんなのツインテール属性が感じられないのを不思議がりながら、危害は加えないからと言ってそそくさとゲートの中へ消えていった。

「残存兵か……?」

 きっとロロリーは、すっかり戦いが終わったと思って安心しきってる。と彼女の油断を危惧した総二たちは、急いでこのことを伝えようと決意する。

 が、その前に────

「「お互い、自己紹介しようか」」

 同じ顔の集団二組が、互いの情報交換をすることとなった。

 

□□□□

 

 ────予想通りというかなんというか、驚きの結果だ。

 顔どころか名前も家族構成も通う学校も、全てがこちらと同じ向こうのツインテイルズ。さらにはテイルギアの開発経緯や、流石に戦ったエレメリアンは違ったものの、トゥアールの世界を滅ぼした黒い竜のエレメリアン、ファフナーギルディに始まり、スク水のジャガーギルディに、巨乳と貧乳のバハムギルディとクトゥルギルディ。

 さらには美の四心の軍勢だけでなく、ダークグラスパーまでもう一人いるという、大まかな戦いの流れまでほぼそっくりというのには開いた口が塞がらなかった。

「まさに平行世界のわたくしたち……!」

「スーパー戦隊のVシネマみたいで燃えますわ!!」

 会長たちは古い方の動物戦隊のアレを思い出して大いに盛り上がっている。

 もっとも、向こうの愛香は初代テイルイエローとして戦った恋香さんの存在に面白いくらいに動揺し、向こうのトゥアールも、俺の存在や結維が変身するテイルサンダーに驚きを隠せないようだった。

 まあ一番驚いていたのは、うちの総二と愛香が結ばれてることだったんだけどな!

「きー! 愛香さんの後塵を拝するなんて、それでも私ですか!!」

「プライドにしがみついてチャンスをふいにするよりよっぽどマシです!!」

 弾VS超七の決闘。普段愛香にコテンパンにやられているトゥアール同士の、実力伯仲した見どころが無くもない戦いを、俺たちはポーチから引っ張り出した防水シートに腰かけて、同じく取り出したポップコーンと飲み物片手に観戦する。

「愛香さんの可愛らしさがわからないから、邪魔され続けるんです!」

「私の顔で、身の毛もよだつおぞましいことを口走らないでください!」

 解説の恋香さんは両隣の愛香に、幼き日の愛香の写真をトゥアールにあげたことが原因で、テイルブルーがレッドと同じくらい可愛らしい幼女になっていることを語る。

 表情こそ普通の笑顔に見せかけているが、恋香さんが二人の愛香に挟まれて内心ウハウハなのはお見通しだ。

 向こうの愛香も、こっちの愛香たちがトゥアールも交えて三人で仲良くやっていると聞いて、何とも言えない顔をしている。

 それにしても、俺と結維が居ないだけあって、髪型も昔のままな向こうの会長は総二が好きなんだな。こっちの会長が結維とくっついているのを知って、とても驚いていた。

 だが愛香も含めて、誰一人総二の心を射止められていないのがなんとも悔しい。

 もどかしい恋のさや当ても、嫌いなわけではないんだが……

「よし、じゃあそろそろ出発するか」

 争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない。そんな言葉を体現するようなトゥアール同士一進一退の戦いは千日手を迎え、ポップコーンも食べ終わったので、俺たちは後片付けをしてロロリーの下へ一足先に向かうことにした。

 地図は桜川先生が持っているしな。

 

「「置いていくなんてひどいじゃないですか!!」」

 数分もしないうちに、二人のトゥアールは互いの脚を掴んだ人間車輪となって転がりながら追いかけてきた。

「じゃあ先に行ってなさい」

「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 向こうの愛香の蹴りで、トゥアール車輪はドップラー効果と共に目的地の方角へ、猛然と円月回転で転がってゆく。

 

□□□□

 

 平原を抜けた先でようやく見えてきた、トンガリ屋根のお城と周囲に栄える城下町にたどり着いた俺たちは、そこで事件に遭遇する。

 一見ごく普通の西洋風の街並みだが、道行く住人にツインテールが一人もいない。それどころか老若男女全てがポニーテールだ。

 ツインテールの俺たちを見た住人は全員が驚きの表情を浮かべ、飲んでいるジュースを噴き出すわ携帯を取り落とすわ。おばあさんなんて跪いて念仏を唱え始める始末だ。

 これは何かがおかしいと思いつつ、一路お城を目指して急いだ俺たちは、どうにか端末の示す目的地へたどり着くことが出来た。

 だがそこでも一悶着。門を警備していたポニーテールの女騎士が白刃を抜き放ち、ツインテールの俺たちを糾弾。処髪(しょばつ)すると言って会長のツインテールを狙ったのだ。

 怒る総二と桜川先生の四人、そして愛香たちと俺が立ちはだかり、女騎士たちと俺たちの間に一触即発の空気が漂う。

 その時、重厚な音と共に城門が開き、制止する声が飛んだ。

「待て! その者らはボクたちの客人だ!!」

 門をくぐってやって来た、ピンク色のドレスを纏った小さなお姫様の姿に、やっぱり夢じゃなかったんだと総二たちが声を上げる。

 あの姫様がロロリーというわけか。確かに、ツインテイルズのように世界中が夢中になってもおかしくないほど可愛らしい。

 だが彼女までポニーテールなのはいったいどういうわけだ……?

 A級認定待ったなし、トゥアール賞ですと飛び上がって喜んでいるトゥアール二人はさておき、総二たちは彼女のサイドポニーの放つ圧倒的な存在感に気圧されていた。

 この俺でさえ感じ取れるほどの迫力……これが王族のオーラだというのか?

 騎士たちは口々に謝罪し、ロロリー姫は俺たちを城の中へ案内してくれた。

 道すがら聞いた、この国のツインテール禁止令にショックを受ける中、向こうの総二が何を思ったかロロリーのサイドポニーに触れたとき、またしても騒ぎが起きた。

「よくもボクの純髪(じゅんぱつ)を汚してくれたな、この大罪人め!!」

 上がる悲鳴、卒倒する騎士。唖然とする俺たちにロロリーは、この世界では父親以外に髪を触った男性を夫にするという、カルチャーショック過ぎるしきたりを語る。

 向こうの総二は、夢の中で触らせたくせに何で今更文句を言うんだと憤り、向こうのトゥアールは、いっぺんヤらせたんだから何回でもヤらせろということですか。男はそれくらい強引でいいんです。と腕組みをしてうんうん頷いていた。

 俺と向こうの愛香は突っ込みを入れた。

「お兄ちゃ────────────────────ん!!」

 そんな中、門の向こうから甘えた声を響かせて、もう一人のロロリーが駆けてくる。

 正面を見ればこちらにもロロリーが居る。

「もしかして、君がロロリーだったのか?」

「嬉しいよう、本当に来てくれたんだね!!」

 向こうの総二に抱き着いたロロリーは元気いっぱいに頷き、もう一人は髪を触られた時よりも絶望に満ちた声で絶叫した。

「姉様ああああああああああ! そんな汚らわしい男に抱き着くなんて駄目だよぉ!!」

 あ、これうちの結維とおんなじ奴や。

 総二たちは、彼女らが双子だったことに得心したようだった。

 

「ようこそ、異世界の皆さま!」

 お城のエントランスで可愛らしくターンし、お辞儀をするロロリー。だが警戒心バリバリの騎士たちといい、とても歓迎する雰囲気ではない。

「紹介するね。この子は双子の妹のリルナ。そして私の本当の名前はロエルだよっ!」

 何とも対照的な姉妹だ。じゃあロロリーというのは……

「ロロリーは、戦うときの名前なの」

 なるほどな。ツインテイルズたちのように、変身した後の名前だったのか。

 そっくりな二人だが、姉のロエルは左結びのサイドポニーに黒いリボン、チョーカーやブーツも黒で、妹のリルナは右結びに白いそれらだ。

 ガルルルルッと唸りつつ、気が立った犬のように姉を警護するリルナを他所に、俺たちは案内されながら自己紹介をする。

 案の定と言っていいのか、俺たちも双子と思っていたら、それぞれ別の異世界の戦士だと聞いたリルナの驚きようは傑作だったな。

 姉の方は夢に出たときに知ったようだったが。

 最上階の貴賓室に通された俺たち庶民ズは、調度品の豪華さに緊張しつつも宝石を加工したかのような艶めく円卓を挟んで着席する。

 流石に会長たちは実家が実家だけに慣れたものだ。

 向こうの愛香がリルナに、異世界人だから無効にならないの? と説得を試みるも、異世界人でもエレメリアンならともかく人間なんだぞ!? と反論されている。

「……なあ、あっちはロエルが自分から髪触らせたって言ってるけど、お前の方はどうだったんだ?」

「こっちは触らなかったな。あっちが先だったからかもしれないけど、俺の顔見て最初驚いてた」

 なるほどな。だがうちの総二相手に舐めた真似しなくてよかったな。もしそうなっていたら、愛香とトゥアールを解き放っていたところだ。

「ボクは生涯男に髪を触らせず、姉様と結婚するつもりだったのに! 貴様ボクを汚したばかりか姉様の髪にまで触っただと!? 絶対に許さんぞ!!」

 気炎を上げるリルナを、ロエルは女同士じゃ子供作れないけど、お兄ちゃんとならつくれるもーん。とバッサリ切り捨てる。

 姉の子供を頑張って想像妊娠するとか、十歳そこらだろうにませてんなあ。

 そして向こうの愛香たちが、地方ルール押しつけられて犯罪者にされたらたまらないから帰ろうと言い出すのを他所に、ダブルトゥアールが予想通りの反応を示す。

「姫様! さっきからこの銀髪の女たちの目つきが怪しすぎます!!」

 邪悪なオーラを陽炎のように揺らめかせる二人は、抜刀する女騎士にひるむことなく、触手の飛び出す箱などを取り出して戦いを挑もうとしている。

 アンチアイカシステム五号ってなんだよ。向こうのトゥアールはそんなもの駆使してまで愛香に立ち向かってるのか?

「あたしに使わなくてよかったわね。その時は手加減できなかったと思うから」

 乾いた声でうすら笑う向こうの愛香に怯え、涙目のリルナは俺たちに矛先を向ける。

「だ、だいたいお前たちは何なんだ! 姉様はツインテールの戦士を招待したんだぞ!? 男はお呼びじゃない!!」

「違うよリルナ、総二お兄ちゃんたちは、すっごく強いツインテールの戦士なんだよ! ロエルの心が届いたのが証拠だよ? ……そっちの眼鏡の人は知らないけど」

 一斉に護衛の騎士たちの目が不審者を見るものに変わった。

 まあ俺はツインテール属性こそ有るものの、どちらかと言えば恋愛属性の戦士と言った方が正しいからな。そのツインテール属性も総二には敵わないから、ロエルの心が届かなかったのも仕方ない。

 話の腰が折れたのをこれ幸いと、俺たちは道中で残存兵だろうエレメリアンに遭遇したことを告げた。

 それを聞くとロエルは笑顔をしぼませ、躊躇いながら隠していたことを語り出す。

 

 この世界は戦いが終わっているわけではなく、どうしようもないほど強力な敵が現れて、助けを求めるために他の世界へ心を飛ばしていたのだという。

 愛香とトゥアールたちは薄々感付いていたようだったが、何故最初から助けを求めなかったんだという総二の問いに、リルナはどこの世界も自分のことで精いっぱいで、他を助ける余裕なんてないんだと返した。

「君たちの世界は、アルティメギルとの戦いが終わっているのかい?」

「俺たちの世界は、どっちも奴らから言い出して休戦中なんだ。数日もすれば再開するけどな」

「そうか……本当に奇跡のようなタイミングだったんだな」

 初めて安堵の表情を浮かべるリルナ。今までどれほど張りつめていたのだろう。幾度となく断られて、ぬか喜びの連続だったに違いない。

「でも一度は、本当に平和になったんだよ? 何度目かの戦いで現れた隊長に全く歯が立たなくて、どうしようって思っていたら、あっさり部隊ごとこの世界を出ていっちゃったんだ」

「ところがしばらくして別のエレメリアンがやって来て、そいつがデタラメな強さだったのさ。あいつらが何をしたいのか、さっぱりわからないよ……」

 ロエルとリルナが経緯を説明してくれたが、途中で退却というともしや……

 トゥアールがどんなエレメリアンだったか尋ねると、二人はどいつもこいつも巨乳のツインテールを求める連中だったと語る。

「「十中八九、リヴァイアギルディ」バハムギルディとその部隊でしょう」

 二人のトゥアールの台詞がダブり、互いに顔を見合わせて「かぶらないでくださいよ!」と低レベルな小競り合いを始めた。

 俺と愛香のチョップが黙らせた。

「リヴァイアギルディというのは知らないが、バハムギルディを知っているのかい?」

 同じ巨乳属性でも、俺たちの世界とは縁が無かったようだ。きょとんとするリルナに、向こうのトゥアールは愛香を指示してにんまりと笑う。

「そのバハムギルディを素手で血祭りにあげた化け物がここにいますよ」

「なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 熊どころじゃない。向こうの愛香は幹部エレメリアンを素手で倒したのか……!

 俺も最終闘態と化したガルムギルディを必殺の拳で打ち破ってはいるが、愛香の方がすごそうに聞こえるのは身内の贔屓目だろうか?

 向こうのトゥアールは、増援として招集され撤退したせいで、この世界との通り道が出来たのでしょうと考えを語った。

 一度行き来した世界同士は、トンネルが繋がって移動の敷居が下がるそうだが、なら俺たちの世界とはどうやって繋がったのだろうか?

 疑問が俺の心に引っかかるのを他所に、次に現れたのはポニーテール属性のエレメリアンで、ツインテールを奪われたくなかったらポニーテールにすることを強要してきたらしい。そのせいでロエルたち姉妹は国民を守るために、国王である父に頼んでツインテールを禁止する法律を作ったのだ。

 なんてことだ……自分の属性のために他の髪形を強引に駆逐するなんて、許しておけるわけがない。

 俺たちツインテイルズ連合軍は、満場一致でこの世界の救援を決めた。

「姫様、大変です! 城下町にエレメリアンが現れたとの報せが!!」

 扉が乱暴に開け放たれ、血相を変えた女騎士が飛び込んできた。

 冷静に詳細を尋ねるリルナは、炎は纏っていなかったため例のエレメリアンとは別物だという報告を受け、姉妹揃って席を立つ。

「行こう、リルナちゃん!」

 俺たちが戦わなくて大丈夫か尋ねるが、あのエレメリアンじゃなければ大丈夫! と元気いっぱいに二人は飛び出してゆく。

 リルナも行ってしまったが、彼女もツインテールの戦士なのだろうか?

 疑問を抱きながらも、俺たちはパニックを避けるため、初陣でお世話になった気配を遮断するほうの認識攪乱で身を隠しながら、二人の戦いを観戦することにした。

 

 地球と同じようにギャラリーであふれかえり、TV局の中継車までもが陣取っている襲撃現場。

 人々が皆、仕方なく嫌々ポニーテールにしている悲しい光景の中、俺たちの目の前で新たに異質な光景が現出した。

「モキュー! モキューッ!!」

 甲高い声とともに現れたのは、内股の格好をした赤いアルティロイド。

 女の子の仕草だと会長も指摘するが、色の違いといい振る舞いといい、確かに女性型戦闘員としか思えない。

 そして先程見かけたピンク色のエレメリアンもやって来た。

「どうも姫様こんにちは! 私、チェリーブロギルディと申します!!」

 あいつは桜のエレメリアンだったのか……植物モチーフは初めてだな。

「いやあこの世界は実に健康的ですねえ……皆さん姫様を見てよだれどぼどぼですよ!」

 ギャラリーが慌てて口元をぬぐう。ツインテール戦士のファンってみんなこんなか!?

「よだれは健康の雫! 愛の蜜! スプリンズハズカアアアアアアアアアアアム!!」

 涎属性……きっついなあ……

「言い得て妙だ。ボクは姉様のために毎日グラス二十杯分は涎を垂らすからな!!」

 こっちの妹もきっついわあ……

 だがこれで二つのツインテール属性が、二人の物なのか変身アイテムを含んだものなのかはっきりするだろう。

 

「「ツイン・コネクト!!」」

 

 二人が互いの手を合わせ、変身機構起動略語(スタートアップ・ワード)に類する言葉を叫ぶ。

 光に包まれた二人のシルエットは一つに融け合って、星の雫を振りまき、虹の光を弾けさせ、白と黒のリボンに彩られたツインテールを誕生させた。

「姉妹合体! ロロリー参上っ!!」

 その正体は、どちらでもありどちらでもなかった。

 一心同体、二人で一人のツインテール。

 旅立つ以前、可能性の一つとして挙げたファンタジーなツインテール。

 ステッキを持つツインテールの魔法少女という、これ以上ないお手本が目の前に舞い降り、ギャラリーを沸き立たせている。

「ツインテールウィップ!」

 彼女がステッキをかざすと、意思を持ったかのように伸びたツインテールが、鞭となって戦闘員を打ち据え、薙ぎ払う。

「すごいぞロロリー!!」

「愛だよ愛! ツインテールへの愛が、ツインテールに無限の可能性を与えるんだよっ!!」

 総二たちの歓声に応える彼女の言葉に、俺も胸を打たれた。彼女たちは日常のツインテールを奪い去られても、挫けることなくツインテールを守るために立ち上がっているんだ。

 チェリーブロギルディが撒き散らす、地雷のように地面を爆ぜさせる花弁を華麗なステップで躱し、ツインテールで払いのけるロロリーの勇姿。

「ツインテールビ────────────────────ムッッッ!!」

 ステッキと共に、砲塔のように持ち上がったツインテールの毛先に光が集束する。

 必殺の威力こそなかったものの、放たれた光線がチェリーブロギルディを怯ませ、すかさず彼女は必殺技の体勢に入った。

「ひぃっさああああああああああつ! ツインテールトルネ────────ド!!」

 バトンのように回転させたステッキを胸元で構えると、彼女を中心に風が巻き起こり、竜巻となってチェリーブロギルディへ襲い掛かる。

「風は嫌────────! 風は嫌よ────────! よだれが乾くわ────────────────────っ!!」

 ツインテールの生み出した轟風のミキサーに飲み込まれ、チェリーブロギルディは爆散し、空の藻屑と化した。

 

 可憐な姫君の勝利に沸く、ギャラリーのあげる大歓声の中、俺は総二たちと共に、この世界を救う決意を新たにした。

 少しでも人々を笑顔にしようと頑張っている女の子を、放ってなんかおけないもんな。

 ────ふと愛香たちを見てみると、皆一様に言葉を失い石化してしまっていた。




はい、蝶々フクロウお犬様とアラクネ一派を倒したのは原作版(に限りなく近い)ツインテイルズでした。
何でこうなったかの詳しい説明は活動報告で。

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