七月の半ばを過ぎた頃。世の学校と同じように、我らが陽月学園も一学期の終業式を迎えていた。
ツインテールを可憐に弾ませ、壇上でスピーチを行う神堂慧理那会長の、愛らしくも凛々しい姿に生徒たちは襟を正してその清澄な声に聞き入っている。
思えば長いようで四か月ほどでしかないこの戦いも、入学式でみんなを魅了した会長のツインテールから始まったんだよなあ……と俺は感慨にふけっていた。
終業式が終わり、体育館から教室へ戻る道すがら、周囲の生徒たちから漏れ聞こえるのは夏休みの予定一色だ。
やれ倍率四百倍以上の“ツインテイルズを見つけようツアー”に当選しただの、TGSこと、ツインテイルズ・頑張れ・祭(三日間開催)に参加するだのと平常運転極まりない。
前方では女子たちが愛香に群がり、祭りに誘って神社裏に連れ込まれろなどと一夏の思い出を増やすアドバイスを受けていた。うむ、仲良きことはうつくしきかな。
俺は年頃の少女たちの友情にうんうんと頷いた。
レッドたちがパワーアップを果たしたことで玩具会社の株が急上昇したこともあり、連日の祭りなど、日本の不況を吹き飛ばすような景気の良い話題が続いて喜ばしい限りだ。
一方、イエローの首に縄をかけ尻を足蹴にし踏みにじる新戦士テイルサンダーの活躍が、現場にいた小学生たちの撮影した動画によって明らかとなったことで、世間でのテイルイエローの扱いは急転直下の大暴落。SNSで世界に拡散したことで海外からも批判の声が相次ぎ、国会でも総理が槍玉にあげられる騒ぎとなってしまったが。
ツインテール部部室で、愛香とトゥアールのいつものじゃれ合いを眺めた俺は、遅れてやって来た会長と桜川先生を迎え入れる。
「お待たせしましたわ!」
生徒会の仕事があったにもかかわらず、会長は表情にもツインテールにも少しの疲れも見せていない。
それに少し遅れて、ロッカーから息を切らした結維が顔を出す。部室にこいつが来るのは初めてだが、一学期最後なのだ、特別に居てもいいだろう。
戦闘メンバーが全員揃ったところで、会長が夏休みの予定を訊いて来た。
長期休校中の予定を決めるのは部長である総二の役目。だがツインテール部の予定はアルティメギル次第なので、どうしたものかと頭をひねっている。
「最近エレメリアンが出ないけど、そろそろ奴ら全滅したかしら?」
「いや、流石にパターンも知れてきただろ。あいつらが大人しくなるのは次の部隊が補充されるまでの小休止だ」
しれっと言う愛香に総二の返し。善沙闇子が未だにTVに出ているため、諦めて撤退したという線もないだろう。
しかし、このところ生放送ではさっぱり見かけなくなったよな……妙なことを企んでないといいんだが。
「補充かどうかも怪しいと思いますよ? この間のレディーバグギルディ、強敵でしたが隊長とは思えませんでした……」
「奴の上に、隊長が居るのは確実ってわけか……」
気が滅入りそうになる中、すっくと結維が立ち上がる。
「でもみんなパワーアップして、ツインテイルズも五人になったんだよ? わたしも含めて! あれより強い隊長が出たって、きっと勝てるよ!!」
「そうだな、結維ちゃんの言う通りだ」
自分も話題を変えようとしていたのだろう総二は苦笑し、トゥアールも白衣のポケットから取り出したものを結維へ手渡した。
「はい、結維ちゃん。貴女用のテイルブレスです。テイルブレスと言ってもツインテール属性は組み込まれていませんが、認識攪乱も組み込んでありますし、念じれば手の中にプラズマグリップが現れるようになっています」
「ありがとうトゥアールさん!」
手渡されたオレンジ色の腕輪を右手に通し、結維は嬉しそうに眺めている。
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初等部でのレディーバグギルディとの戦いの後、結維は変身してしまったテイルサンダーの事をトゥアールに分析してもらった。
結果は、素材だけならテイルギアと同じ。だがギア内部のツインテール属性を始め、武装を生み出すフォースリヴォンや、属性力を増幅するエクセリオンブーストなどの各種装備はごっそり欠けており、正体を隠す認識攪乱や衝撃を吸収するフォトンアブソーバーも、イエローと繋がらなければ使用できないことが判明した。
危ないところだった。もし戦闘中に接続を解除していたら、アルティメギル側に結維の正体がバレていたに違いない。生徒たちへは校舎に背を向けていたから大丈夫なはずだ。
「おそらく、総二様たちのパワーアップ同様のことが結維さんのリードと慧理那さんの首輪に起こり、それを通じてテイルギアの生成が共有され、不完全な形で結維さんに作用したのではないでしょうか?」
「じゃあ結維ちゃんは、会長が側に居ないと変身出来ないのか?」
「いえ、どうやらこのリード……プラズマグリップが、変身アイテムとしては完全に機能しているようで、変身自体は結維さん単独でも出来ます」
「やった! じゃあ二人で一緒に変身出来るね!!」
結維と会長は嬉しそうにはしゃいでいる。
ですが慧理那さんと繋がらなければ、テイルギアの半分程度の力しか出ませんから、単独での戦闘は避けてくださいね。と結維に釘を刺したトゥアールは、考え込むような仕草の後、何かに思い至ったように口を開いた。
「……もしかすると、他の世界の戦士もこれに近い場合があるのではないでしょうか」
「ああ……! 科学の力で変身しているのではなく、思い入れのある物が属性力の力で変身アイテムに、っていうファンタジー寄りのパターンか」
確かに、そういう場合もありだろう。まあ実際に見たわけではないのだから、どうなのかは箱を開けてみるまで分からないわけだが。
いっぺん会ってみたいなあ、異世界のツインテール戦士。
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────まあそんなわけで、あそこまで派手になってしまったリードを普段から持ち歩くのは厳しいという結維のリクエストを受け、トゥアールが収納用のブレスレットを造ってくれたというわけだ。
俺たちが会長からの、合宿とそれに伴う特訓というアイディアが出て盛り上がる中、不意にそれはやって来た。
「────誰か、ツインテールがやって来る!」
「はーい周りチェックー」
「結維はロッカーに隠れてろ」
「わかったー」
総二のツインテール警報発令。俺たちは愛香の号令のもと、トゥアールの機械などの一般人に見られて困る物を確認し、小学生の結維を見えないところへと隠れさせた。
「ごきげんよう」
ほどなくして、ノックの後入って来たのは理事長の神堂慧夢さんその人であった。
扉にツインテールを挟まないようにする際、手を使わずに重心移動だけでそれを行い、さらには一見してそれとは気づかせない優雅な動き……やはり侮れない人だ。
「お母様! 何故ここに!?」
「ごめんなさいね、慧理那がお友達と仲良く部活に励む姿が見たかったものですから」
驚く会長に笑顔で返す理事長は、桜川先生の用意した椅子に座るとそのまま総二と愛香に向き直る。
「さて、観束総二君に津辺愛香さん」
「は、はい」「はい!」
二人は見て分かるほどに緊張して返事を返した。
「お二人とも、ツインテールを大切になさってくださいね。観束君は今時珍しい程に立派な男性で、津辺さんもこんなにきれいなツインテールなんですもの……」
「もちろんです!」
「あ、ありがとうございます」
「……本当に、慧理那の婿でないのが勿体ないくらい」
「「え!?」」
ここからではよく聞こえなかったが、理事長の呟きに二人は揃って驚きの声を上げる。
その様子に、理事長は口元を押さえて嬉しそうに笑うと会長へ声をかけた。
「おほほ……冗談はこれくらいにして、慧理那。ツインテール部は夏休みに合宿を行うようですが……」
「そうですわ……なので外泊の許可をいただきたいのですが……」
ホワイトボードに目をやった理事長が合宿の文字を見つけ、笑顔のまま会長を、そして
「────!?」
「ええ、いいでしょう……慧理那、
「お、お母様……? あ、ありがとうございます」
俺たちはその言葉に、驚きを隠すことも出来ずに顔を見合わせるしかなかった。
「そして長友結君」
「は、はいっ!」
それに加えて不意打ち気味に名を呼ばれ、俺の頬が、咽喉が引きつる。
「尊のために骨を折ってくださったようですわね。結果は残念だったようですが、わたくしからもお礼を言わせてくださいな」
「いえ、そんな! お世話になった先生の助けになりたかっただけですんで……」
理事長が去ってから、俺たちは潜水から上がって来たように一斉に息を吐き出した。何という緊張感だ。あの見事なツインテールだけじゃない。ロッカーの結維に気付いていたことといい、やはり理事長は只者じゃない。
「うわーん! おにいちゃーん! 理事長に見られたときなんかツインテールがぞわってきて怖かったよぉー!」
理事長が去ったのに気付いた途端、ロッカーから飛び出した結維は怯えて泣きながら俺の胸に顔を埋める。こらお前会長のほうに行けよ、散歩期待したらスルーされてしょんぼりしてる犬みたいな顔してるから。
────結局、あの後は計画を立てる雰囲気ではなくなってしまい、俺たちはそれぞれ帰路に就いた。
「……でさ、合宿に行くことになったんだけど、恋香さんは行きたいところとか有る?」
「うーん、どうしようかなあ……」
昼食に、作り置きのカレーを食べながら俺は恋香さんと合宿の行き先について話し合った。ちなみにメニューはヨーグルト漬けの鶏肉にトマトとカレー粉を合わせた、夏野菜たっぷりのバターチキンカレーである。
アドレシェンツァのカレーは食べ慣れた味で一番好みではあるが、たまには他のも食べたくなるのが人情だろう。
「特訓って言ったら山なんだろうけど……また海にも行きたいよね」
「そうだけど……今度はちゃんと泳いだりしようね」
「えー? どうしようかな~」
恋香さんの浮かべる悪戯っぽい笑みが、カレーによって浮いた汗と相まって俺の心をくすぐる。もうそれだけで、彼女のなにもかもを許せてしまいそうだ。
たとえそれが、男としてのプライドをぐちゃぐちゃに踏みにじる行為であっても。
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次元の狭間に浮かぶアルティメギル基地に、激震が走っていた。
この基地を離れ、別の異世界へと赴いた副官アラクネギルディ戦死の報せ。本来であれば四頂軍の一角を担うビートルギルディは、軽はずみな仇討ちなどしようとはせず、戦力の強化に専念したことだろう。
しかし、ビートルギルディは荷物をまとめ、移動艇へ乗り込む準備を進めていた。普段の彼らしからぬふるまいだ。
「どうしてだい!? どうして兄さんはここを離れるなんて言い出したんだ!?」
「……アラクネギルディの遺した徒弟たちのためだ」
疑問をぶつけ、返って来たその答えに、一瞬反論しかかるスタッグギルディだったが、すぐにその意味を悟りすんでの所で口を噤んだ。
「お前も分かっているだろう。分隊とは言え四頂軍を退けた世界へ補充されるのは、同じ四頂軍をおいてほかにない。だが
「
「ああ、アラクネギルディの遺した男の娘属性の息吹は、確実に払底されてしまうだろう」
エレメリアンが死して残すものは、属性玉だけではない。命を燃やして皆に知らしめた想いとて、後の世に受け継がれてゆくのだ。
長年共に戦い抜いて来た副官の属性だからこそ、あの超ド級KYのダダ滑り大帝に踏みにじられるわけにはいかない。
「私は残された彼らだけでなく、残存部隊の隊員たちにも、こちらと同じ特訓を課すつもりだ。ツインテイルズ打倒のための特訓をあちらの部隊にも広め、見事目標が成った暁には────必ず、ここに戻ってくると約束しよう。この剣に誓って!」
「兄さん……その剣は?」
刃渡りおよそ3m、末広がりの切っ先はハート状に湾曲している。ビートルギルディが抜き放った、彼の身の丈ほどもある年季の入った、されど手入れの行き届いた大剣の見事さに、スタッグギルディは息を飲んだ。
「
「そんな大事な物を……! わかったよ兄さん。兄さんの留守は僕が必ず守って見せる」
震える手でそれを受け取ったスタッグギルディは、覚悟を決めて義兄を送り出すことを誓い、自らも
「僕からも、これを……ついさっき完成したばかりの新型タブレットさ。これを僕だと思って、向こうでの特訓に生かしてほしい」
「ありがたく使わせてもらうぞ弟よ……ホッパーギルディ、留守の間、スタッグギルディを頼んだぞ」
「かしこまりました。ビートルギルディ様」
長年連れ添ってきた義弟と参謀に別れを告げ、わずかばかりの手勢を引き連れたビートルギルディは移動艇に乗り込み、もう一つの激戦地である異世界へ旅立った。
「……行こう、ホッパーギルディ」
────涙は見せない。たった今から僕は、この部隊を預かる隊長なんだ!
戦闘力に秀でているわけではない。指導力に優れているわけでもない。だがその技術力と、仲間たちを想う心だけは本物だ。
────僕一人の栄誉はいらない。勝利の栄光は
スタッグギルディは、決意も新たに放送スタッフを招集すると、各部隊隊長の宣戦布告でお馴染みの、地球への一斉電波ジャックを敢行した。
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翌朝、リビングで朝食を摂りながらニュースを見ていた俺と結維は、TVに映し出されたクワガタのエレメリアンの姿に言葉を失っていた。
「おにいちゃん、これって……」
「ああ……TVに映ってるってことは、多分コイツが美の四心の隊長だ」
今日の午前零時に行われた電波ジャック。画面の向こうの奴が語るのは、日本時間八月六日正午までの侵攻休止宣言。理由は俺たちを倒す強靭な兵士を育成するため。
『これが偽りでないことは僕の誇りにかけて誓う。そのかわり、期日以降は容赦しない。しばしの間、さらばだ!』
切り替わったスタジオでは、この宣言による影響をキャスターが語っていた。
『この宣言の後、「ツインテイルズの活躍が見れない」と五百名以上の男女がデモを起こし、機動隊が出動する一幕が────』
何やってるんだ世間。エレメリアンに来てほしいみたいじゃないか。
「……あいつらも、夏休みあるのかな?」
「さあな……でもこれだけ堂々と宣言したんなら、連中が休むっていうのは嘘じゃないと思うぞ?」
ツインテール部、活動開始だ。
ロッカー経由で、結維だけでなく恋香さんも含めて部室に全員集合した俺たちは、今朝の映像に関する議論を交わした。
こちらを騙す策略か、はたまた同人誌即売会へ参加するための追い込みか。
ダークグラスパーによる計略ではないかとの予想も出たが、トゥアール曰くそんなことをすれば、エレメリアンだけでなく俺たちからも総スカンを喰らうのは間違いないため、あの根暗ストーカーにそうする度胸なんてあるわけがない。とのことだった。
結局、あれは連中のフェアプレー精神の表れで、深く考えることは無いだろうとの結論が出て、本格的に合宿の計画を立てることとなった。
「合宿の行き先……異世界じゃ駄目かな?」
「異世界!?」
総二の口から飛び出した予想外の言葉に、俺たちは面食らう。
理由を聞くと、夢の中で異世界のツインテールの戦士だという女の子と出会い、そちらの世界へ招待されたのだという。
「その子が言うには、俺たちの世界とあっちの世界はトンネルで繋がっていて、行き来するのは難しくないんじゃないかって」
戦いの終わった世界のツインテール戦士か……俺は図らずも叶ってしまった願望に今からワクワクが止まらず、恋香さんと結維に笑われてしまった。
行先は総二が夢の中でメモした位置情報でばっちり。招いてくれた少女がテイルレッドと同じか小さいくらいのロリということで、トゥアールのやる気もばっちり。というわけで、彼女がこの世界へ来るのに使っていた移動艇の出動にGOサインが出て、三時間後に基地へ集合の運びとなった。
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とりあえず三日分の着替えをバッグに詰めて、みんなと一緒にコンソールルームへ降りた俺を未春さんが出迎える。服装はいつぞやのミニスカ指令服だ。
「部活の合宿に母親同伴とか勘弁してくれよ!!」
炸裂する総二のツッコミ。だが未春さんは異世界に行ってみたいだけで、後は出しゃばらずに書き割りに徹するから。なんて言っている。
「母さん、店にはちゃんと臨時休業の札、出してきたのか?」
この人の行動力はもうこういうものなんだと諦めるしかないが、総二の言う通り店は大丈夫なのだろうか?
「大丈夫よ『二十四時間以上私が店を開けるときは“渦”に身を投じている時だから、お店をお願い』って常連さんに頼んであるもの」
「この人すげえ」
「セルフどころかもう半ば共同経営になってるじゃねーか!!」
最近は常連さんの密かな勧誘で新規の客も次々引き込まれてくるらしい。よかったな、総二。将来は安泰だぞ。
そうこうするうちにトゥアールの案内で、足を踏み入れたことのない工場スペースへやって来た俺たちは、薄暗い中ライトアップされた操作端末によって、壁から姿を現したモニターに視線を奪われる。
「まずは今ここで製作されているものをお見せしますね」
モニターの左半分が三分割され、万が一巨大エレメリアンが出現した時の
一つはボディだけでなくキャノピーまで真っ赤なジェット戦闘機。
もう一つは黄色いボディのドリル戦車。前方へ向けて鋭く輝く一対のドリルと、車体の各部に設けられた火器が力強くも勇ましい。
最後が二両編成の電車を思わせる蒼いマシンだ。車輪が見当たらないようだが、いったい何なのだろう?
「これがツインテイルズの大型支援メカ。スカイトゥアール、ランドトゥアール、アクアトゥアールです。テイルブレスからの属性力供給で稼働します」
なるほど、アクアトゥアールは水中用メカか。やけに四角いが、ヒーロー番組でも流線型の潜水メカなんて、そもそもイルカやサメモチーフのくらいしかなかったしな。
「まあまあまあ! ロボですの? 合体しますの!?」
「もちろん合体しますよ~」
「素晴らしいですわ!!」
会長が目を輝かせてトゥアールに食いつく。やっぱこういうのって燃えるよな! きっとあれだな、この構成と形状から言って、掛け声は「ツインディメンジョン!」だな。
「慧理那ちゃんって本当に合体好きよね」
「はい! わたくし、合体大好きですわ!!」
おい未春さんとトゥアール、何を顔見合わせてほくそ笑んでるのかな? 会長の台詞を録音して何をする気だ。
ちなみに案の定と言っていいのか、スカイトゥアールは頭部を、ランドトゥアールが胴体、アクアトゥアールは脚部を構成するらしい。
総二たちがモニターを眺める中、桜川先生と恋香さんはあまり興味が無さそうだった。
まあ普通の人の反応なんてそんなもんだろう。恋香さんも巨大マシンよりバイクなんかのライドメカ派だからな。
騎乗属性の能力を知った時も、俺に向けて乗りたそうな目を向けていたもんだ。
「では、いよいよお見せいたしましょう」
こちらを焦らすトゥアールによって、遂に工場の照明が全灯された。
暗さに慣れていた俺たちの目を、眩い照明が焼く。だが眩しいのは照明のせいだけではなく、目の前のそれが光を反射していたからだ。
────目の前に、魔神か超電磁か新世紀かという風情で、白銀の髪を照明に煌めかせる巨大なトゥアールの顔が鎮座していた。
「巨大ロボですわ────────────────────────────っ!!」
俺たちが絶句する中、会長が大はしゃぎでロボを囲う安全柵に飛びついた。
数階層にわたるタワーファクトリーの最上階、それが俺たちが居る場所だ。
安全柵から覗き込んでみると、工場の中央に位置する空洞部に、トゥアールらしく白と銀色で塗り分けられた巨大ロボットが直立している。
赤、青、黄の三色のメカがどう合体変形したらこうなるんだと突っ込みたかったが、絶句する理由にして最大の疑問点はその頭部だ。
トゥアールを模しているのは、ツインテイルズは対外的にはヒロインチームなのだから、女性型ロボに乗るのは不自然ではないのでまあ許そう。
だが瞳がゆるキャラかアスキーアートばりのまん丸で、口が逆三角形の笑顔固定ってどういうことだ?
「これぞ三機のテイルマシンが合体した姿、双房合体トゥアールオーです!!」
「……てめえ巨大ロボットなめてんのかあ゛あ゛!?」
自信満々に紹介するトゥアールの声、絶賛する会長の嬌声、そして俺の怒りの叫びが工場内に響き渡った。
乗りたい乗りたいとはしゃぐ会長を、まだ未完成ですからと宥めるトゥアール。結維はせめて乗るならかっこいいのがいいと漏らしている。
「そうか……会長はゆるキャラみたいなのでも巨大ロボなら乗りたいのか。でも等身大の敵相手に使ったりしちゃあだめだぞ? 間宮の悲劇の再来を招くからね」
「……間宮の悲劇ってなんだよ」
会長を微笑ましく見やる俺の言葉に、疑問を覚えた総二が問いかける。
「俺らが子供の頃にやってた戦隊でな、ツインテールのイエローが最強合体した巨大ロボで、等身大の敵を仲間もろとも吹き飛ばしたことがあったんだ」
「ああ、その頃の戦隊にツインテールのイエローが居たのは覚えてるけど……そんな話が有ったのか……」
オタク界隈には有名だが、一般にはさっぱり知られていないトリビアに総二は唸り、愛香は呆れた眼差しを向ける。
そして未完成な最大の理由をトゥアールに説明され、会長は納得してくれた。
本当はトゥアールも、ツインテールのロボットにしたかったそうだが、今の彼女には身に着ける以外の物も……マネキンだろうと鋼鉄のロボットだろうと、ツインテールにすることは出来ない。
そんな切なさの混じる吐露に絆された俺は、まあこのデザインもファンベル星のロボットみたいで、慣れれば可愛げがあるじゃないかと許す気になった。
あたしに出来ることが有ったら手伝うから! と愛香もトゥアールに協力を申し出ているのが何とも眩しい。
端末がシャットダウンされ、再び案内された俺たちは、柵の外周を歩いてロボの反対側へ向かう。
「で、トゥアールオーの支援メカ……いわゆる二号ロボになるはずだったのがこれです」
「これは……」
陽月学園の体育館に収まるかどうかくらいの大きさの、巨大な乗り物がそこにあった。
ライトバンを思わせる箱型のボディに、左右から生えた大きな主翼が折りたたまれて上を向いている。
このサイズと形状……
「これが……俺のマシンか?」
「結さん、何言ってるんですか?」
「え?」
なんだその理解できないみたいな表情は? 言わば俺って追加戦士が最初から居るようなもんだろ? 総二たちが一号ロボなら、二号ロボや追加マシンに俺が乗るのが筋ってもんだろう? な? なあってば!!
「私が世界を旅するのに使っていた小型戦艦、スタートゥアールです」
なんでいちいちあんたの名前がついてんのよおおおおおおおおおおおおおおお! と俺をスルーするトゥアールへ、遂に愛香のツッコミが炸裂する。
「構想では、これを四番目の支援メカに改造するつもりでした。合体ではなく単独変形で巨大ロボになり、最終的にはトゥアールオーと合体してグレートトゥアールオーになります」
「素敵ですわ───────────────────────────────!!」
「こんな簡単に慧理那さんが手に入るなら、もっと早く見せておけば……」
会長に抱きつかれ、邪悪な表情に変わったトゥアールを、愛香と俺、桜川先生のトリオが無慈悲に排除する。これが恐怖のトリプルアタックだ。さっき俺をハブった罰も兼ねている。
この艦、スタートゥアールも、テイルブレスを動力源に動くそうだ。長期の航行を考慮して、コックピットブロックと居住ブロックが別れている。
荷物を積み終えた俺たちは、全員コックピットに集合した。そして未春さんが力強く腕を突き出して命令を下す。
「発進準備よ! トゥアールちゃん!!」
「了解です、未春艦長!」
ノリノリな二人に、俺と総二は顔を見合わせるがもっとすごいのが窓に張り付いていた。
「きゃーきゃー! おっきなボルトですわ! タラップですわ!!」
窓の外の光景に圧倒される結維共々、会長がとても微笑ましかったので景気づけに俺はトゥアルフォンにダウンロードしておいたBGMを流すことにした。
こういう場面にピッタリな宙明サウンドの母艦テーマを聴きながら、下降するリフトやターンテーブル、上下左右に展開してカタパルトとなるゲートなどの発進シークェンスを存分に味わった俺たちは、未春さんの号令一過、異世界へと飛ぶ────!
「スタートゥアール、発進!!」
この虹色の光の向こうには、いったい何が待つのだろう?
俺は未知の冒険への期待に胸を膨らませて、まだ見ぬ異世界に夢をはせた。
穂村さんのポケットへ放り込んだ認識攪乱は、あのあとちゃんと回収しました。
本作のアクアトゥアールは、可愛い愛香さんへのせめてもの情けで、各部にディティールが追加されています。原作と違ってちゃんとメカっぽいよ! 形は箱だけど!!
あと今回と次回の皆さんの反応が怖くて胃が痛くなってきました。