俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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四巻編終了。愛香さんってさ、敵がエレメリアンじゃなくて生物だったら、頭掴んで脊髄ぶっこぬきくらいやってるよね?


第二十八話「Forever」

 結維ちゃんと慧理那さんが無事にデートを終えて帰宅した日の夜、護衛任務を終えた私たちは地下基地のプライベートルームでくつろいでいました。

 ソファーの上で当たり前のように肩を寄せ合って、私と愛香さんが総二様に頭を預けて、何をするでもなくボーっとしている至福の時間。

 お義母様もいるリビングでないのは、今は家族の団欒ではなく男女の甘い時間だからとでも言いましょうか。

「それにしても、結一筋だと思ってた結維ちゃんが、会長相手にあそこまで積極的に迫るとは思わなかったわ……」

「ああ……ツインテールを見る限り、結維ちゃんも会長のことを好きなのは嘘じゃあなかった。でも近親相姦回避したら同性愛に走るってどうすりゃいいんだよ……」

「まあキモウトに迫られて悩みまくってた結さんにとっては、重荷を下ろせて一安心なんじゃないですか?」

 しかし慧理那さんが結維ちゃんの物になってしまったのは、ちょっと惜しい気もしますね。隙あらば私が可愛がってあげようと思ってたんですが。

「妹が小学生で同性愛に走るどころか、女子高生に首輪付けて犬扱いするのもそれはそれで大問題だよな?」

 まあまあ、会長が喜んでるんだからいいじゃない。と愛香さんは総二様を宥めて話題を替えます。

「もうすぐ夏休みよね……そーじはどこか行きたいところ、ある?」

「うーん……海にもまた行きたいけど、夏祭りや花火大会も行きたいな……トゥアールの分も浴衣用意してもらってさ」

「総二様……いいですね、三人で思いっきり楽しんじゃいましょう。トゥアールちゃんの百発百中のガンアクションで、射的の景品を総ざらいして差し上げます!」

「おねえちゃんたちも来ちゃったら、いつものメンツになっちゃうんでしょうけど……さすがに空気読んでくれるわよね?」

「そうであることを祈りましょう。もしかすると視界の外で覗いてるかもしれませんが」

 もう! やだあー! と転がる愛香さんが、本気で嫌がっているわけではないのが丸わかりでなんだか微笑ましいです。

「ところで総二様、貰ってほしいものがあるんです」

「……これは?」

 総二様の掌へ乗せたそれは、かつて私が使っていた髪留め(バレッタ)。ツインテールに出来なくなってからは、お守りのように持ち歩いていました。

 そのことを話すと総二様は当然躊躇います。ですが使わずにしまっているより、総二様に使っていただく方がずっといいですから。

「じゃあありがたく使わせてもらうよ、トゥアール」

「────では愛香さん、お願いしますね。私は結さんから借りたこれで、総二様をソーラたんにしますので」

「へ?」

 愛香さんが総二様を押さえつけるなか、さっそくドライブオン! 変身解除―!! 総二様の総二様も残しておいた方が後の楽しみも増えますからねえぐっふっふ……

「……しょうがないなあ」

 と言いつつもいそいそとリボンを解き、銀色のバレッタを手に取る総二様は慣れた手つきで髪をまとめると、バレッタで留めました。

「ど、どうかな……?」

「わあ、似合うじゃない!」

 愛香さんの称賛の言葉。けれどツインテール属性を失った私は、リボンからバレッタに変化した総二様のツインテールを品評することなど出来ません。

 それでも精一杯の言葉を絞り出して、愛香さんに追従します。

「ええ……似合っていると、思います」

「……じゃあ愛香、愛香のリボンもこれに変えてみてくれないか?」

「え? そーじのリボンに?」

「来月誕生日だろ? だいぶフライングになっちまうけど……俺のリボン、受け取ってほしいんだ」

「ありがとう、そーじ……」

 あのリボンは総二様がソーラになった時にいつの間にか結ばれていたもの……特別感はひとしおですよね。

 愛香さんはいつも見慣れた白いリボンを解くと、ご自分の黒髪を総二様に預けます。

 総二様の手が再び愛香さんのツインテールを結い上げ、笹の葉のように結ばれた太く白いリボンに代わって、色も太さも対照的な黒い色の細いリボンが結ばれました。

「これはこれで新鮮で……いいな」

「ほ、本当? そーじ……えへへ……❤」

「愛香さんも……いつもと違って、可愛いと、思いますよ……」

 その時ふわり、と柔らかく抱きしめてくれた総二様のツインテールが、私を気遣う言葉と共に身体を包み込みます。

「無理しなくて、いいんだぞ?」

 総二様の胸、温かい……ツインテールをただの髪の毛としか認識できなくなっていても、髪の柔らかさとこの温もりは感じられる……

「ありがとうございます、総二様……」

「よかったね、トゥアール……」

 この温もりと優しさを心の支えにして、私はどこまでだって頑張れます。だから……

「総二様、愛香さん……第一子は私が産んでもいいですよね(絶対アルティメギルを倒しましょうね)?」

 部屋を沈黙が支配しました。愛香さんは笑顔です。

「はっ!? つい本音と建前が逆に……!!」

 この後足腰立たなくなるまでパコパコされました……愛香さんに。

 

□□□□

 

 月曜日の朝、アドレシェンツァに足取り重くやって来た俺は、一晩明けても昨日の出来事が後を引いていた。

 先生のお見合い作戦が、あそこまで完膚なき大失敗に終わるとは……あんちゃんたちに彼女が出来たのは喜ばしいけど、結維は無事に会長と付き合いだしただけに、この結果は何ともやりきれない。

 ため息をついてドアを開けると、そこには一味違った愛香の姿が。

「あれ……愛香、そのリボン……総二のか?」

「うん……昨日ね、そーじがプレゼントしてくれたの」

「こういうのも可愛いな。総二よくやった」

 はにかみながら自慢する愛香超かわいい。素直に称賛した俺は、さっそくトゥアルフォンで写真を撮り、恋香さんにメールする。

 すると数秒と経たぬうちに返信が。

『いますぐそっちに行くから!』

 メールを開封したのとほぼ同時に店のドアを開ける恋香さんの姿に、驚いた総二たちは顔を引きつらせておはようの挨拶を送るしかできなかった。

 未春さんは、恋香ちゃんまっしぐらね。なんて笑ってたけど、実際その通りである。

 登校した後も、クラスのみんなも愛香のリボンを口々に褒めてくれていたのは俺としても嬉しかったんだが……放課後の集まりが今から憂鬱だなあ……

 

 エレメリアンと戦うこともなく、桜川先生の家庭の事情と婚活の理由を皆が知った月曜から、日をまたいだ火曜日の放課後。部室に集まった俺たちは、いつものようにエレメリアンの襲来アラートを耳にして即座に臨戦態勢をとった。

「出現場所は……この学校のド真ん前です!」

「なんだって!? すぐに出るぞみんな!!」

 予想外に近場への出現。これならわざわざ基地へ戻るより直接出向いた方が早い。変身起動略語(スタートアップワード)が唱和し、フォトンコクーンとリフレクトスフィアに包まれた俺たちは、姿を見られないよう転送ペンで高等部の上空へ転移し、そのままエレメリアンの眼前へ降り立った。

「今度は何が目的だ、エレメリアン!!」

 久方ぶりの高等部への出現に、下校中の生徒たちが歓声を上げる中、姿を見せたのは二体の虫型エレメリアン。丸い身体に水玉模様なことから、名前を聞かなくてもテントウムシなのだとわかる。

 黒い二つ星と赤い七星が揃っているのがなんとも童心をくすぐるが、奴らはどう名前が違うのだろうか?

「我々の名はレディーバグギルディ! 群れずに孤高を貫く、孤独属性(ソリチュード)の戦士!!」

「どこが孤高だ、二人いるじゃねーか!」

 七星を背に庇い、高らかに名乗った二つ星に俺は盛大なツッコミを入れる。

『気をつけてください皆さん。強さは一般レベルですが、そのエレメリアンの属性力の波形は……完全に同一の物です! 強弱にはわずかに違いが見られますが、何のために二体いるのかも不明ですし、以前のアントラギルディのように、何をしてくるかわかりません!!』

「なんだって!?」

 基地から情報を解析するトゥアールからの通信。そのことを知ったか知らずか、二つ星のレディーバグギルディの目がギラリと光る。

「孤独属性の力を知るがいい……!」

 奴が叫んだ瞬間、エレメリアンの姿がぶれた。そして二体が四体、四体が八体……と倍々に増殖し、瞬く間に黒いテントウムシの軍団が出現する。

「分身能力……厄介だな」

『新たに現れた分身の方は、属性力の強弱で区別がつきますので黒い本体へは誘導します』

 赤い方は一目で分かるが、黒い方は紛れてしまうと区別が難しい。

「でもまとめて倒しちゃえば済むことでしょ?」

「皆さん、露払いはわたくしにお任せあれ!」

 ブルーがやる気満々に肩を回し、大火力のイエローが勇んで前へ一歩踏み出す。

 だが黒い軍団は一斉に向かって来ようとはせず、二つ星が率いるその一角を、迷うことなく空へと飛び上がらせた。まさか街中に散らばる気なのか……?

『皆さん! エレメリアンは初等部に向かっています!!』

「なんですって!?」

「……よし、アタシとイエローが向こうに行く。レッドとブルーはここを頼んだ!!」

「ああ! 任せておけ!!」

「ミラージュ……ええ、参りましょう!!」

 結維さんのツインテールは、わたくしが絶対に守りますわ! と意気込む会長と共に、俺は髪紐属性を使用して後を追う。

 

□□□□

 

『あの赤い個体から属性力の流動が確認されました。あれが本当の本体で、黒いのは全て分身です!!』

「だろうと思ったよ! 行くぞブルー!!」

 テイルミラージュたちが初等部の救援に向かった後、俺の号令一過、振るわれる炎刃と激流纏う長槍が分身体を薙ぎ払い、ブレイザーブレイドとウェイブランスを構えた俺たちは赤い本体へ肉薄する。

「終わりだ! オーラピラー!!」

 ブレイドの切っ先に点る火が膨れ上がって弾け、いつものようにエレメリアンを捕縛する……かに見えた。

『属性力急上昇! 総二様離れて!!』

「!? ────うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

「レッド! きゃあ!?」

 炸裂するはずのオーラピラーは一刀のもとに切り捨てられ、返す刀で俺自身も弾き飛ばされる。

 咄嗟にブレイドを盾にしたためダメージにはなっていないが、受け止めたブルーも巻き込んで吹き飛ばすその衝撃は相当なものだ。

「いったい何が……?」

 オーラピラーを切り払ったものの正体は、紅いレディーバグギルディの持った一振りのサーベルだ。反った細身の刀身の根元には、テントウムシを模したと思しき水玉模様の、お椀型の鍔があしらわれている。

 だがそれを握っていたのはレディーバグギルディの()()()()()だ。奴のモチーフはあくまでも昆虫で、脚は六本三対。蜘蛛ではあるまいし、間違っても八本脚のテントウムシはいない。

 俺たちが息を飲む間にも、奴の変化は続いてゆく。

 ズルリ、と音を立てて這い出してきたソレは、背中を踏み台にしてくるりと華麗な宙返りを決め、騎士の如きマントと、()()()()()()を翻して軽やかに大地へと降り立った。

 遠巻きに観戦するギャラリーのざわめきがはっきりと届くほどに、目の前の衝撃的と言っても足りないほど奇異な光景に、俺たちは揃って言葉を失っていた。

「……改めて名乗らせてもらおうか、ツインテイルズよ」

 身長は、2m近い今までの分身よりだいぶ小さい。精々150cm強……愛香より少し低いくらいと言ったところだろうか?

 金属質な光沢を放つ、真紅のツインテールを留めるテントウムシを模したバレッタも、黒い斑点が透けて見える紅玉のような質感の、丸みを帯びた甲冑も、風にはためくクリアイエローのマントも……その装備品全てが天道虫というその名を表すかのように真夏の陽光に光り輝いている。

 目の前の現実が信じられなかった。鈴を転がしたような声色を紡ぐ可憐な唇に、あまりにも整い過ぎて人形めいた印象すら覚える美貌……人間の少女としか表現できない存在が、エレメリアンから生まれ出で、剣を取ってこちらに敵対しているのだ。

「────我が名はレディーナイト。我々の中でも最強の、分身奥義ジーブン・ヒ・ローイン究極の到達点にして、“私”を守る最後の剣だ!!」

「……トゥアール、あれは何なんだ?」

『幹部級の属性力こそ持っていますが、あれはあくまで属性力の塊……以前戦ったフォクスギルディの使っていたような、人形でしかありません。他の分身はともかく、人形属性(ドール)の属性玉を使えば、コントロールを奪い取れます!』

「わかったわ! 属性玉変換機構────人形属性!!」

 俺は敵であろうともツインテールを破壊できない。なら俺は本体への攻撃に注力し、愛香が奴を倒すしかない!

「完全開放! エグゼキュートウェエエエエエエエエエエエエエエエエエエイブ!!」

 テイルブルーの属性玉変換機構から波動が広がり、他の分身たちをすり抜けながらレディーナイトへと到達する。俺は投げ放たれたウェイブランスと同時にブレイザーブレイドを完全開放し、本体へと斬りかかった。

「────我々を無礼(なめ)るな!!」

 だがレディーナイトは、人形属性の力など物ともせずに反撃し、必殺のエグゼキュートウェイブを、返す刀でグランドブレイザーをも真っ向から打ち破ってしまった。

「なんだって!?」

 弾かれ、宙を舞うブレイザーブレイドとウェイブランスが、左右に分かれて地面に落ちるのと同時に込められた属性力を暴発させ、爆発を起こす。

『そんな馬鹿な!?』

 驚愕を隠せない俺とトゥアール、愛香を他所に、奴の言葉は続く。

「この身体は私が千年近い時を掛けて練り上げ、属性力を注ぎ続けてきた最高傑作! 言わば我が半身……この程度の人形属性で操れるはずもないのだ!!」

「せ、千年だって……!? なんて凄まじいツインテールなんだ……!!」

「このエレメリアン、それだけの時間を……ぼっちで過ごしてきたっていうの?」

 千年という途方もない時間に、俺たちは圧倒される。だが分身ばかりにしゃべらせて、陰に隠れた赤い本体が頑なに口を開こうとしないのはいったい何故なんだ……?

『わかりました! 孤独属性の奴はぼっちで引きこもりのコミュ障……例えるなら腹話術の人形越しにしか他人と会話できないんです! ですがこれだけの戦力を操れる処理能力は侮れません!』

「ジーブン・ヒ・ローイン……って自分の考えた最高のヒロインってことなのか……?」

『それもありますが、もう一人の自分が美少女として突然現れる系の創作ジャンルでもあります。エレメリアン的にはこちらの方が近いのではないでしょうか……?』

 つまり、このレディーナイトという存在は、レディーバグギルディ自身を理想の姿に女体化・擬人化したものということになるのか……?

「その通り! レディーナイトは我らが夢! 我らが理想! 我らの願いの全てが込められているのだ!!」

 でもそういうの、どこかで聞いたような……ああ、俺とソーラが二人になった状態を想像すればわかりやすいのか。

「何をしても怒られない、微塵も遠慮の要らない他人のツインテールの創造……そんな理想を全力で実現してしまうとは……なんて恐ろしい奴なんだレディーバグギルディ……!」

「……レッド、あたしなら何されても怒らないから。あたしのツインテールなら好きにしていいから! ね? ね!?」

「お、おう……」

 テイルブルーが縋るようにくいくいと俺のテイルギアの裾を引く。でも愛香、いくら好きな相手でも限度というものがな?

『いやあ愛香ちゃん、男に愛されてるのか不安がって縋り付く女って感じで、いい感じに重いわねえ~』

 ボリボリ、ズズー。

『愛香さんの重い女っぷりも平常運転ですねえお義母様』

 おい母親、せんべい齧ってお茶啜りながら観戦してるんじゃない。

「ふっ……リア充共の愛など、所詮その程度で揺らぐ不確かな物。盤石にして絶対なる我々の究極の自己愛には逆立ちしても届かぬだろうさ」

 ドヤ顔で言い放つレディーナイト。なんて見当違いな……俺の愛がそう簡単に揺らいでたまるかよ。

 しかし160cmに満たないレディーナイトが、2m近いレディーバグギルディをお姫様抱っこして、ツインテール触らせながら頭撫でてる姿ってシュールだよなあ……体型のせいで特大の盥かボウル抱えてるみたいに見えるぞ。

「って待てよ、あいつツインテール自分から触ってるぞ!?」

「あ、本当!」

 巨乳属性持ちが女性の胸を触ろうとしなかったように、エレメリアンは自分から人間への肉体的接触はしない。いつかトゥアールはそう言っていた。だが目の前の奴はどうだ? 進んで少女に抱きかかえられ、そのツインテールを愛でている!!

『人形だからこそ、なのかもしれません……普通のエレメリアンは、生身の女に触れるのが怖くて仕方ない童貞ですが、レディーバグギルディは等身大フィギュアを嫁と公言してはばからないレベルにまでこじらせた、筋金入りの生身童貞……ピグマリオンコンプレックスの体現者なんです!』

『あ、総ちゃん。ちなみにピグマリオンコンプレックスっていうのは、女性不信で自作した人形の美女に恋した古代ギリシャの王様が、神様に彼女を人間にしてもらったっていう故事に由来する言葉よ』

「母親の解説が痒い所に手が届くなあ!」

 解説を聞いたブルーが、レディーバグギルディたちに汚物を見るような目を向けていたが、俺は奴を心底蔑む気にはどうしてもなれなかった。

「さて……では改めて剣を交えようではないかツインテイルズよ。我が愛刀“孤独の旅路(パシフィック・ロンリー)”で、貴様らのツインテール属性を討ち取ってくれる!!」

 戦闘が再開された。黒いテントウムシの集団が一斉に襲い掛かるが、肝心の得物は手元を離れ、地面へ突き刺さっている。

 だが俺たちの武器は、一つじゃないぜ!

 俺がフォースリヴォンを叩いてもう一振りのブレイザーブレイドを抜き放つと、ブルーも属性玉変換機構を使用し、ジャンプ力を上げる兎耳属性の能力で華麗な空中殺法を決めていた。

「レッド! すぐそっちに追いつくからその女を足止めして!!」

「わかった! 行くぞレディーナイト!!」

 ブレイザーブレイドとパシフィック・ロンリーが再び激突した。火花を散らす剣戟が目まぐるしくその位置を変えて、幾度となく繰り返される。

 俺がレディーナイトを釘付けにする中、分身の大群を掻い潜って遂にブルーが本体のもとへたどり着いた。

「オーラピラー!!」

 右拳から放たれた捕縛結界。しかしそれは本体から矢継ぎ早に繰り出された新たな分身に阻まれて、レディーバグギルディには届かない。

「なんですって!? きゃああああああああああああああああああああああああ!!」

「「「────阿修羅無限太陽剣!!」」」

 オーラピラーに捕らわれた先頭の分身の陰から、二刀流となった黒い分身体がテイルブルーに迫る。

 足元から続々と、まるでムカデが伸びあがってくるように突進する奴らの斬撃が、彼女に襲い掛かった。

 当然左手でカウンターを入れるも、砕かれた影から二番手が。そこへ蹴りを決めれば三番手が……とマシンガンのような速度で続く逆だるま落としに、さしものブルーも攻撃を受けてしまう。

「ブルー!!」

「余所見をしている暇などないぞ、テイルレッド!!」

 レディーナイトのサーベルが、容赦なく俺を切り裂いた。その威力にフォトンアブソーバーが悲鳴を上げ、テイルギアにスパークが奔る。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 地面をバウンドし、テイルブルーの……愛香の側に転がった俺のもとに、レディーナイトは一歩一歩、最後のトドメを刺すために歩み寄って来る。

「────じきに向こうも決着がつく。今日がツインテイルズの最期だ」

 テイルミラージュたちも苦戦しているらしい。レディーナイトの左手から、最初の戦いで会長のツインテールを奪おうとしたリングが広がった。

レッド(そーじ)……」「ブルー(愛香)……」

 不利な戦況を表すかのように空にはいつの間にか黒雲が立ち込め、俺たちを心配するギャラリーの悲鳴が遠くに聞こえる中、俺は気付かないうちに愛香の手を取っていた。

 ツインテールを刈り取るための、悪魔のリングが迫る。

 こんなところで……

 

「「こんなところで諦めてたまるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

「な……なんだとっ!? うおおおお!?」

 最後の力を振り絞った俺たちの拳が目の前の敵に振るわれようとした瞬間、光り輝く何かが胸から飛び出しレディーナイトを弾き飛ばしていた。

「これって……」「ああ……」

「トゥアールの……バレッタ?」

「そーじの……リボン?」

 これをどうすればいいのかは、ツインテールが教えてくれている。だけどこのバレッタは、ツインテールを失ったトゥアールの、最後に残った日常の象徴なんだ。

 これを使うことは、その思い出を壊すことになる。そんなことをしていいのか……?

 俺が自問自答する中、迷いを砕き、背を押すようにトゥアールの声が届く。

『総二様、連れていってあげてください。総二様の力になれるなら……総二様と戦えるなら本望です! 私も戦わせてください────テイルレッド!!』

「────わかった! 使わせてもらうぞ!!」

 宙に浮かぶ菱形のバレッタに手を触れる。何の変哲もないはずのアクセサリーが、その瞬間属性力に包まれて形を変えた。

「プログレスバレッター!!」

 二つに割ったそれを、フォースリヴォンへ合体させる。

 ボロボロだったのに、みるみる力が湧いて来る。まるでトゥアールが支えてくれているみたいだ。

 バレッタだけではない。テイルギアまでもが、光に包まれてその姿を変えた。

 肩に、背中に、胸に、腕に、脚に、新たなパーツが展開され、腰のエクセリオンブーストが唸りを上げて今まで以上に属性力を増幅する。

 身体が熱い。燃えるようなツインテールが、比喩で無く燃え上がっている。まるで心の奥底から、ツインテールというマグマが湧きあがってくるかのようだ。

 この全身に漲る強大なエネルギーが、全ての障害を打ち砕く力を与えてくれる!

 

「これが俺の新たな(ツインテール)────ライザーチェインだ!!」

 

□□□□

 

 一方、テイルブルーもまた目の前に浮かぶリボンを手に取っていた。

 そーじがくれた、特別なリボン。絶体絶命の大ピンチの時に、それが逆転の鍵になるなんて、出来過ぎていて怖いくらいよね。

 口元に笑みを浮かべる愛香の手の中で、二つのリボンが形を変える。

 未来的な航空機の翼か、はたまた小型のブーメランか……まあ質感は自分のフォースリヴォンに似ていなくもない、というかフォースリヴォンだけを取り外せばこんな感じになるのではないか? と愛香は思った。

 使い方は、解る。ならば使える物は使って、テイルレッド(あのバカ)に追いついてやるだけだ。

「エクステンドリボン!!」

 フォースリヴォンと合体し、リボンを普段の津辺愛香を思わせる形へと変えたプレゼントが、彼女を新たな姿へ変えてゆく。

 テイルブルーの腰から脚にかけて、大型の推進器が追加された。元より航空機じみていたエクセリオンブーストも相まって、彼女の下半身がジェット戦闘機にでも変わったかのような有様となる。

 その姿は、愛しい人の背中を追う少女が求めたもの。愛を射止める最高の戦闘服(ドレス)

 ────いっつもあたしの常識を置き去りにして、宇宙の果てのツインテール星まですっ飛んで行っちゃう筋金入りのツインテール馬鹿。

 でももう置いてきぼりになんてさせないわよ? 宇宙の果てまで、異世界の果てまででも追いかけて、無理矢理隣にしがみついてやるんだからね!!

 

「これがあたしの(ツインテール)────フォーラーチェイン!!」

 

 白馬の王子を待ったりしない。自分の脚でどこまでも追いかけてゆく、超音速の姫君(スーパーソニックプリンセス)が満を持してここに降臨した。

 

□□□□

 

「すっげー! レッドたんとブルーたんがパワーアップしたぞ!!」

 ギャラリーから爆発する声援。そして強化されて復活したツインテイルズの姿に、レディーバグギルディたちは狼狽えた。

「な……何だその姿は!? 貴様らのツインテールが進化を遂げたとでもいうのか……!?」

 俺は目を閉じて、孤独に戦い続けた少女を想った。

「……誰もがツインテールに出来るわけじゃない。けれども俺は、ツインテールだ……大それたことでなくていい。どんなに身近な小さなことでも、俺のツインテールが、挫けそうな誰かの助けになるのなら……」

 母さんは言っていた……絶体絶命な窮地にこそ、こう言って強く立ち上がれと。

「────俺は本望だ!!」

『全然違う』

 母さんが何か言っていたような気がするが、きっと感極まっているのだろう。

 新しいテイルブルーの姿も、いかしてるぜ愛香! と俺たちは目と目で頷き合う。

「な……何を言っている!?」

「今からお前らを倒すと言ったんだ!!」

 ツインテールに言葉はいらない。俺がレディーナイトに斬りかかるのと同時に、テイルブルーはスカートのように広がった下半身のスラスターを全開にして、レディーバグギルディの大群の中を突っ切った。

 まさに蒼い弾丸。音速の壁を越えて発生した衝撃波が、分身たちを打ち砕きながら舞散らす中、地面に刺さっていた武器を回収したテイルブルーは、青く輝く属性力の粒子を撒き散らしながら、長槍と長剣の変則二刀流で群れの中を縦横無尽に駆け巡ってゆく。

 

「なんという速さ! 何というパワーだ!!」

 先程とは打って変わって自分を圧倒するテイルレッドの力に、レディーナイトは動揺を隠せない。

「お前らが千年分積み重ねた孤独をぶつけてくるのなら────“俺たち”は千年分のツインテールをこの一瞬に叩き付けてやる!!」

 大気揺るがす剛剣がぶつかり合い、衝撃波と轟音と、赤いツインテール属性の粒子を撒き散らして幾度となく切り結ぶ。そして打ち合いの末の渾身の一斬が、遂に奴が握るパシフィック・ロンリーの刀身を打ち砕いた。

 

□□□□

 

 残せば増えるのなら、増える前に全滅させればいい。

 そんなシンプルな思考をとことんまで突き詰めて、テイルブルーは分身したレディーバグギルディたちを、季節外れの粉雪へと変えながら蹴散らしていった。

「オーラピラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 分身を倒しながらブルーが地面へと分散して撃ち込み続けたオーラピラーが、一斉に解放された。重力に逆らって天へと伸びる大瀑布が黒い分身を一網打尽にする。

「────完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 右にウェイブランス、左にブレイザーブレイドの両方を構えたテイルブルーフォーラーチェインが、エクセリオンブーストを全開に噴かしてオーラピラーの先端へ追いつくと急速反転。大気どころか水の捕縛結界そのものすら巻き込んで高速回転を始め、捕らわれたエレメリアンの群れを脳天から一撃のもとに粉砕してゆく。

 その姿、まさに海上のあらゆるものを飲み込み噛み砕く大渦巻き!

「メイルシュトロオオオオオオオオオオムッ! ウェエエエエエエエエエエイブ!!」

 すべての分身が撃破され、回転を止めたテイルブルーは、レッドのもとへブレイザーブレイドを投げ放ち、自らも彼の下へ飛んだ。

 

□□□□

 

 レディーナイトの得物を砕きざま、左手でブレイドを受け取った俺はすかさずオーラピラーを叩き込むと、ブルーが同じタイミングで本体へもオーラピラーを展開するのを尻目に、スラスターを全力で噴かし必殺技の体勢を取った。

 赤と青の二重螺旋に捕らわれたエレメリアンを眼下に、噴射炎で天空へツインテールを描きながら武装を完全開放させた俺たちは、目標へ向けてトドメの急降下を敢行する。

 

 ────レディーバグギルディ……もしも運命が違って、アルティメギルが攻めてこず、俺がみんなと出会えなければ……俺は孤独なまま、きっと生身のツインテールに触れることなんてできずにお前のようになっていたかもしれない。

 だからこそ俺は、俺たちは! 愛と絆とツインテールの全身全霊で、お前に打ち勝って見せる!!

 

「「エグゼキュートッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 

「俺の……!」「あたしの……!」

「「ツインテールは! 希望(ゆめ)だあああああああああああああああああああああ!!」」

 

 業火と怒涛の一撃を受けたレディーバグギルディとレディーナイトの身体に紫電が奔る。奴らもこれで最期を迎えるのだろう。

「……強いなあ、ツインテイルズよ……」

「レディーバグギルディが……」

『「喋った!?」』

 初めて自分の口で声を発したレディーバグギルディの姿に、俺たちだけでなく通信越しのトゥアールも驚きを隠せない。

「そして……見事なツインテールだった……これが、リア充の輝きか……」

「お前のレディーナイトだって、素晴らしいツインテールだったぜ!」

 全力で戦った強敵に、心からの言葉を送ってやる。

「ありがとう、テイルレッドよ……その言葉を聴けただけで、俺は満足だ……願わくば、来世でも彼女と共にありたいものだ……」

「なれるさ! ────お前が、ツインテールを愛する限り」

 いつの間にか晴れ渡った夕焼けの下、笑顔のレディーナイトに抱かれて、散っていったレディーバグギルディは、どこか満足そうな顔をしていた。

「終わったわね……」「ああ……」

『結さんたちの方も、戦闘は終結しました。基地へ帰ってゆっくり休んでください』

 通常形態に戻った俺たちは笑顔でうなずき合うと、勝利を称えるギャラリーの歓声を背に転送ポイントへ飛んだ。

 

 ────愛香とトゥアール、二人が俺のツインテールだ。これから先何が有ろうと、絶対に手放したりするもんか。

 

 強敵との激戦を乗り越えた俺は、決意を新たに夕日へと誓うのだった。




二人の共同作業二回目。アラクネギルディの男の娘の楽園(パ=ラ=ダンシ)のように、意思の無い幹部級が増殖してくるのと、意思のある雑魚が大大大増殖するのではどちらが脅威なんでしょうね?
それでは五巻編をお楽しみに。
ちなみに筆者は、自分ヒロイン物は大好きです。

今回の強化形態にツッコミたい方、活動報告に解説を用意しておきますのでご覧ください。

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