俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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ラブコメでデート中に寄って来るナンパ野郎とかホント邪魔。
プライベートビーチ万歳。


第二十五話「夏だ! 海だ! 割腹筋だ!!」

 ────みなさーん! 俺たちは今、神堂家のプライベートビーチに来ていまーす!!

 天気は見事な晴天青い空。雲は白いし、波が寄せては返す砂浜にも、邪魔な海水浴客なんて一人も見えませーん!

 周りを見渡せば、目の覚めるような可憐な美女に美少女にツインテールが、見事なエメラルドブルーに透き通った海の煌めきにも負けないほど輝いています!

 花に集う虫のような、言い寄って来るナンパ野郎が居ないのも高ポイント! まさにこの地上に現れた至福の楽園と言っていいでしょう!!

 

 ────でもね?

 

「どうしてミライになんなくちゃいけないのさああああああああああああああああ!?」

 問題はさあ……ビーチに着いた途端、恋香さんにとっ掴まって問答無用で女体化させられたことなんだよね。

 彼女チョイスの水着が、めちゃくちゃセクシーです……

 

□□□□

 

 七月の日差しに肌を炙られながら、俺たちは体育の授業で水泳に興じていた。

 夏とは言え上旬のため水温はいささか冷たいが、照り付ける日光の熱と合わせれば程よい加減となってくれる。

「長友お前……デブだと思ったけど意外と筋肉あるのな」

「まあな。子供の頃から道場通ってたし」

 隣にいた男子の声に、腕を曲げて力んで見せると、たちまち贅肉の二の腕から盛り上がる力こぶに周囲から感嘆の声が。

 自慢じゃないが、腹も力入れると贅肉越しに割れて見えるんだぜ……おいぺたぺた触るなよ気色悪い。

 泳ぎ終わって上がって来た総二の身体も、無駄なく引き締まっててなかなかいいと思います、はい。

 しかしまあ、男子って鍛えた筋肉比べるの好きだよなあ……

 

 ところで普段トゥアールからクマ呼ばわりされてる俺だが、泳いだら男子たちからトドやらセイウチ呼ばわりされた。解せぬ。

 

「ツインテールは太陽の子だ、太陽エネルギーを胸いっぱい吸うんだ!」

 女子たちに先んじて教室へ戻った俺たちは、プールで冷え切った身体を温めるべく陽光差し込む窓に向かってデュワっと仁王立ちし、二人そろって心のツインテールへ存分に熱量を取り込んだ。

 他の男子たちの、こいつらまた何か変なことやってるよ……という視線を物ともせず敢行された日光浴だったが、戻って来た愛香による脳天へのダブルチョップによって中断の憂き目を見た。

「あんたらなにやってるのよ」

「冷え切った身体を、太陽熱と心のツインテールで内と外から温めようとしていたんだ」

 呆れたような問いかけから返って来たその答えに、何とも言えない顔になった愛香は、総二を引き寄せて席に着かせると、その膝の上へ向かい合う形で腰掛け、全身で温めようと彼を抱きしめる。

「こっちの方が、太陽よりあったかいでしょ!」

「あ、本当だ……」

 おお……とどよめく教室の生徒たちと、目尻が下がる俺。

「んま! 愛香さんったらいやらしい! 公衆の面前で対面座位だなんて!!」

「ふぇいっ!?」

「馬っ鹿お前、愛香が気づいちゃっただろうが!」

 トゥアールの余計な一言で自分の状態に気付いてしまった愛香は、顔から火を噴いて座った姿勢のまま飛び退いてしまった。ええい残念。

「レッドたん……君の炎で俺を温めてくれ!」

「なら俺はブルーたんとレッドたんの愛の炎で……!」

 そんな二人に触発されたのか、男子たちはツインテイルズグッズを抱きしめて、心の炎を燃やすかのように暖を取り始める。

 公衆の面前でやらかしてしまった恥ずかしさにきゃーきゃー言いながら転げまわる愛香を他所に、いつも通りトゥアールが総二へ迫った。

「さ、総二様。私の柔らかおっぱい湯たんぽで温まりましょうね~」

「だから教室じゃ困るって……」

「ってあんたも同じことしてるじゃないの!」

 我に返った愛香が、流石に自分の状況に気付いて頬を染めた総二へ腰かけるトゥアールを引っぺがして太陽へと放り投げる。

 飛んで行ったトゥアールはたった一つの勇気を友にしてちっぽけな黒点と化す。

「いかろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおす!!」

 俺は、彼女がちゃんと父親(ダイダロス)の言いつけを守って飛ぶことを祈り、次の授業の準備をした。

 

□□□□

 

『今度の週末、皆さんと海へ行きませんか?』

 結維の元へ慧理那からメールが届いたのは、その日の夕方の事だった。

 部活中に総二たちとそういう話になり、慧理那は行くのならツインテイルズ全員で行くべきだと主張したのだ。

 もちろん結維が結と一緒で賛成しないはずがない。彼女は速やかに返信メールを作成し送信ボタンをタップする。

「おにいちゃんと……海! うふふ、ふふふ……うふふふふふふふふふふふふふ……」

 波打ち際で兄と戯れ、人目につかない岩陰で関係を進展させる妄想を好き放題フル回転させる結維は、プライベートビーチを保有する親友に、五体投地しかねないほど心の底から感謝した。

 アドレシェンツァの店内で、だらしない表情でくねくね悶える彼女の姿を、未春と常連客達はあたたかく見守った。

 

 一方、大学部に居た恋香もまた、結維からのメールを受け取っていた。

「なに恋香? 彼からのメール?」

「ううん、妹ちゃんからよ。週末にみんなで海に行かないかって」

「な~んだ、コブ付きか~」

「車もない高校生が二人きりで遠出できるわけないだろ」

 友人三人の中で一番背の低い、ソバージュヘアの詩子が、二人きりの海デートではないことを残念がり、サングラスにセミロングの美子からツッコミを受ける。

「夏休みとか、今度出かけるときに車出そうか? ダブルデートとしゃれこもうよ」

 黒髪のストレートロングに眼鏡の詠子の申し出に、美子と詩子はそれがいいそれがいいといいました。と賛同した。

 いつも一緒の三人だ。彼女らもボーイフレンドを連れて付いて来る気満々なのだろう。

「にぎやかでいいわね。じゃあ結君の都合が付いたらお願いしようかな」

 詠子は恋香の答えに破顔し、いえーいとハイタッチした。

 

 詠子、美子、詩子の三人は、恋香が中等部でクラス替えになった際に出会った友人だ。

 三人とも昔から成績はそこそこいいのに全力で馬鹿をやる、真面目に不真面目なタイプで、穏やかな恋香とはまるでタイプが違うようだが、彼女たちは不思議と馬が合い、今まで濃密な友人関係を続けている。

 流石に恋香が超科学の力で棒を生やしたり、恋人である結を女体化させたことは口外していないが、開通工事を行ったことはしっかりバッチリ知れ渡っていた。うん、結は泣いていい。

 ちなみに、詠子の恋人は女装の似合う美少年で、美子たちのペット……もといボーイフレンドも、それに加えて玩具で開通済みという事実は、一見共通点の無さそうな恋香と彼女たちの奇妙な連帯感の、一つの回答かも知れなかった。

 卵が先か鶏が先か。ともかく恋香の性癖はこの友人たちによって花開いたのは言うまでもない。

 

□□□□

 

「ここが……私有地……………………?」

 ────そんなこんなで、神堂家保有のビーチにやって来た俺たちは、眼前に広がる信じられない光景に唖然呆然としたのだった。

 学校のプールか市民プール。精々芋の子を洗う海水浴場くらいにしか行ったことのない俺たちは、島一つをプライベートビーチにするという、本物の金持ちのスケールのデカさに気圧され、無意識に後ずさる。

 粉っぽいカレーや具の少ない焼きそば、醤油の匂いも香ばしい焼きもろこしでお馴染みの海の家も、安っぽい板張りの更衣室も、このビーチには在りはしない。

 近くに見えるのはビルタイプとコテージタイプ二種類の立派なホテルだ。

 ここに来ているのは桜川先生を始めとして総二と愛香、トゥアール、会長と結維、そして恋香さんと俺だけで、未春さんは居ない。

 付いてきたがると思ったのだが、総二曰く「おばさんの水着なんて見たくないでしょ?」と言っていたとのこと。

 いつもの女幹部コスプレも露出的に大して変わらないと思うんですが……これはもしや、外ではしゃぐのに親の目があると、若者たちが安心して羽目をはずせないだろうという親心だろうか?

 あの人のことだからなあ……基地のコンソールもいじれるし、衛星でこっそり覗いてるんじゃないだろうか? と冗談半分に思った俺は、何とはなしに上を見る。

『貴様……見ているな?』

 マジでした。とりあえず総二には黙っておこう。

 さておき、ホテルで小休止してから着替えて海へ行こうということになったのだが……

 桜川先生が年甲斐もなくはしゃいで、水着をメイド服の下に着てきたり、トゥアールに脱がしっこしようと誘われて、愛香と総二が真っ赤になって断ったりしたのはまあいい。

 だが恋香さんと結維が眼光鋭く俺の腕を取り、ポーチから抜き取ったエレメントドライバーと共に脱衣所へ直行した時、俺は抗えない自らの運命に涙し、ドナドナを歌うしかできなかった。

 

「いつかプールに行くときのために、二人して水着選んだんだもんね。結維ちゃん❤」

「そうそう、せっかくスタイル良いんだもん、見せなきゃ損だよね恋香おねえちゃん❤」

 それがこんな素敵なビーチで、おまけに邪魔の入らない環境なんて最高過ぎて涎が出ちゃう……なんて呟きながら二人してものすごく邪悪な表情してるんですが。

 恋香さんは腰にパレオを巻いたビキニ。布地が少な目な黒、というのが普段の清楚さとのギャップを生み出し大人の色香を醸し出す。

 対する結維も赤青白の三色ビキニだが、布面積が絶妙なバランスで、その年齢にそぐわない発育した肢体の放つ魅力を十二分に引き立てている。

 正直、生唾ものだ。普段の俺であれば、二人とも一目でときめいてしまいそうに眩しい魅力を放っている。結維は妹だけど。

 ────そして、だ。

 俺が着せられたのは、星条旗柄のマイクロビキニでした。

 ……うん、面積的には局部しか隠さない紐水着ってほどでもない、普通の人が着ればまだ言い訳が付くサイズなんだろう。

 でも俺のサイズに合わせたらさ、北半球とか南半球どころじゃない、もう極点の氷って感じ。丸の中に三角だよ。下とか横とか肌色思いっきり丸見えなんですが。

 おまけに下半身の方もTバック同然なんですけど。テイルイエローのアンダーより酷いよ!? 向こうはサイド紐だけど後ろはまだ隠れてたもん!!

「引き締まった腹筋、素敵よね」

「うん……おねえちゃんなおにいちゃんマジエロス。ぺろぺろしたい」

 ああ……愛香と総二とトゥアールの憐みの視線が痛い。会長も自分の胸と比べてものすごく悲しそうな顔してるのが痛ましいし。ツインテールまでしょんぼり萎れてるよ。

「ほおー、あらためてみるとものすごい身体だな、長友」

 動じずに感心してる桜川先生の態度だけが救いだ。

「じゃあ結君……向こうで日焼け止め塗ろうか」

「わたしとも塗りっこしようね」

 

「結……強く生きろよ」

「骨は拾ってあげるわ」

「じゃあ総二様、愛香さん、お互いに日焼け止め塗りましょう……うっかり手が滑ったり指が入ったりしても許してくれますよね?」

 俺はこれ見よがしに波打ち際に点在する岩蔭へ連れていかれ、総二たちも日焼け止めを塗るために、レジャーシートの敷かれたパラソルの下へ向かい、俺たちに背を向けた。

「あのっ、わたくし結維さんと……」

「さあお嬢様、私たちも向こうで日焼け止めを塗りましょうね」

 最後の希望の会長は、抵抗むなしく桜川先生に連れていかれた。もはやこれまで。

 俺は野獣の表情で迫りくる、恋香さんと結維の指技に身を任す覚悟を決める。

 パレオの中が、なんかものすごいことになっているが、屈したりなんてするものか。

 

 ────二人になんて、負けたりしないっ!!

 

□□□□

 

 しぶしぶ尊の手で日焼け止めを塗られた慧理那は、結維の姿を探して先程彼女たちが姿を隠した岩へ子犬のようにとてとてと駆け寄った。

 何やら声が聞こえるため、まだ塗り終わっていないのだろうかと覗き込み、声を掛けようとした慧理那は、とんでもない光景を目にしてしまう。

「結維さ……ええええっ! な、なにがどうなっていますの!?」

 思わず叫びそうになるが、慌てて口元を押さえて引っ込んだのち、もう一度恐る恐る岩陰を覗き込む。

 幸い彼女たちには気付かれずに済んだようだ。だが慧理那は、“友人たちが日焼け止めを塗りあう光景”から目が離せないまま、事が終わるまでその場を動けないでいた。

『うわ~、恋香ちゃんと結君ったら強烈ぅ~結維ちゃんも大したもんね~』

 テイルブレスから、この場に居ないはずの未春の声が漏れた気がしたが、多分気のせいだろう。

 

 小一時間ばかり経ったころだろうか、ようやく声や特徴的な水音は止み、ふらついた足取りで女体化した長友結が這い出るように岩陰を後にした。

「か……勝った……アタシは……二人に勝ったぞ……!」

 そう呟いて、身体に付着した日焼け止め以外の液体を落とすべく波打ち際へ歩を進める。二対一の激闘は、体力で勝る彼が薄氷の勝利をつかんだようだ。

 顔を茹蛸のように真っ赤にしながら最後まで見届けてしまった慧理那は、慌てて岩の死角へ移動して縮こまり、彼女が海へ入るまで、心臓をドキドキさせながら何事もなくやり過ごせることを祈る。

 遠くでは水上バイクやジェットスキーに興じる、総二たちの楽しそうな声が波間に響いていたが、そんな陽性の空間と、目の前で繰り広げられていた行いを覗き見てしまった自分とのギャップが、まるで隠れてイケナイことをしているように思えて、芽生えた背徳感が慧理那の胸を捉えて離さない。

(長友君と、恋香さんは恋人同士なのですから、このようなことをなさるのは何もおかしくありませんわ……でもどうして女の人なのにあんなものが付いていますの!? それにご兄妹なのに結維さんまで交ざって、あんな……あんな……わたくし、どうにかなってしまいそうですわ!!)

「お嬢様?」

 慧理那は訳も分からないまま駆け出し、その場を後にした。

 少し離れたところで砂の城を作っていた尊も、走り出した慧理那に気付いて後を追う。

 一方、遊んでいた総二も少し休憩すると言っていつの間にか姿を消していた。

 

 気付けば林道を抜けて、二人は島の反対側へ出ていた。この島は反対側にも砂浜が整備されているのだが、無人のはずのそこに見慣れぬ人影が。

 

「────作戦は次の段階にシフトしたのじゃ、あいつらもやる気が増すはずじゃ」

 

(ダ、ダークグラスパー! どうしてこの島に居るんですの!?)

 砂浜に居たのは、スクール水着に身を包んだ闇の処刑人、ダークグラスパーその人だ。

 ご丁寧に、胸元の名札には「だーくぐらすぱー」とマジックで名前が書いてある。

「……隣の眼鏡を掛けたサメは、新手のエレメリアンでしょうか?」

 2m近い大型の、ぼへっとしてぬぼ~っとした間抜けな顔の着ぐるみを尊は訝しんだ。

 彼女たちは何やら騒いで、メガネサメの着ぐるみが名札を剥がしてダークグラスパーの胸を丸出しにした。遠くであまり聞こえないが、どうやら途切れ途切れに聞こえる声や口調から言って、あのサメは彼女の相棒のメガ・ネプチューンというロボットのようだ。

 だが今は木陰に隠れられているが、いつ見つかってしまうかわかったものではない。

 慧理那は変身して姿を現すべきか、島の持ち主であることを利用して注意を引き付け、みんなに知らせるべきか選択を迫られる。

「────何者じゃ!?」

 気付かれた。ダークグラスパーの誰何の声が飛ぶ。

「そちらこそ一体どなたで……」

 慧理那は覚悟を決めて、一般人の振りをして姿を現そうとするが、岩陰から姿を現したテイルレッドが彼女の視線を持ってゆく。

「テイルレッド! なぜここに!?」

「パ、パトロール中だ! それに、それはこっちの台詞だぞ!!」

 助かった。助かったが……何か釈然としない。木の陰に引っ込んだ慧理那は、眉を寄せ首をひねる。

 

「正体知られたくせにアイドル続けやがって、いったい何のつもりだよ?」

「そちらこそ、他の仲間にはわらわの正体を告げておらんではないか」

 

 あまりよく聞こえないが、レッドとダークグラスパーの口論の最中に、メガネサメの着ぐるみからメガ・ネプチューンが姿を現した。

「お仲間のご到着じゃぞ」

 駆けつけるテイルブルーとテイルミラージュ、そしてマスクを被ったトゥアール、仮面ツインテールの姿に、慧理那も慌てて変身し、テイルイエローとして参戦する。

「ダークグラスパー!」

「ってぎゃあああああああ! なんなんですかイースナその攻撃的すぎるスク水は!?」

 胸元が露出したスク水を着て堂々としている、ダメ過ぎな潔さを誇るイースナにトゥアールは悲鳴を上げた。認識攪乱によって正体を隠匿されているため、気付かないトゥアールたちにとって彼女は“スク水姿のダークグラスパー“なのだ。

「おお! その声、そのおっぱい! 仮面を被ってはいるが紛れもなくトゥアール!! わらわに会いに来てくれたのじゃな!?」

 ギャラリー増えてきたから丸出しはまずいで。とメガ・ネがシールを局部へ貼り付けるのを他所に、やっとトゥアールと対面できたイースナは眼鏡の奥の瞳を歓喜の色に染めて再会を喜んだ。

「あなたは毎度毎度、局部におもしろデコレーションすることに命かけてるんですか!? 負けませんよ!!」

「張り合うんじゃないわよ!!」

 そんななか、テイルミラージュはイースナの胸元のシールの正体に気付く。

「なあレッド、あのシール、通販か宅配便の宛名シールじゃないか?」

「じゃあ奴の住所が……?」

 男が二人、少女の胸元へ熱視線を向ける。そんな思春期にはよくあることだが、実際には情報収集という、劣情の欠片もない行動が不幸にも誤解を招いてしまった。

「なんじゃそんなにわらわの胸を見つめて……吸いたいのか?」

「レッドたんに吸わせるおっぱいは私ので間に合ってます!」

「そうよそうよ! ブラックホールでもなきゃ吸えないようなぺったんこのくせに!!」

 レッドとミラージュは、投げ放たれた特大ブーメランに顔を見合わせた。

「ダークグラスパー……とっととグラスギアを着けなさい。あんたが生身でも、お構いなしに殴るわよ」

 流石に、人間相手でもトゥアールより強めにやればいいと豪語した女は格が違う。

「ふふん、貴様らと戦うのはわらわではなく部下の役目じゃからのう」

 その声に応えるかのように一際大きな波が浜に打ち寄せ、大きな塊がごろんと転がった。

 すわエレメリアンか! と思いきや、それは彫像のように動かない。

「腹筋……腹筋の割れた女子(おなご)はおりませぬか……?」

 喋った、動いた。老い先短い爺の、冥土の土産に見せてくだされ……と、お盆までまだ先だというのに彼岸から舞い戻って来た彷徨える魂が、幽鬼のようなおどろおどろしい声で懇願する。

「……誰じゃ貴様は!?」

「「「こっちの台詞だああああああああああああああああああああああああああ!!」」」

 指揮官であるダークグラスパーすら知らないエレメリアンの登場に、レッドたちは全力で突っ込んだ。

 覚束ない足取りで歩いて来る、随分と耄碌した様子のエレメリアンは、ダークグラスパーの問いかけに、リヴァイアギルディの部下だと答える。

 リヴァイアギルディ? 一月以上前にこやつらに倒されておるぞ、今まで何をしておった? と聞けば、出撃したはいいものの、力尽きて波にさらわれたという始末。

 海流に負けるほど消耗し、彫像と見紛うほどに動きが緩慢なら、エレメーラサーチャーに引っかからないのも無理もない。

「それは……長旅ご苦労様」

 ダークグラスパーはライブ会場に見繕い、エレメリアンは流れつく……慧理那には悪いが、この島は呪われているのでは? とテイルレッドは疑った。

「リヴァイアギルディの部下……あんたも巨乳属性(ラージバスト)じゃないでしょうね?」

「いえ、爺はシーラカンスギルディと言いますじゃ……申し訳ありませんのう。割腹筋属性(シックスパック)は稀少故、力を失ってこの通り……」

 テイルブルーが疑いの目を向けるが、彼は胸と腹の高みを目指す者同士仲良くしようと誘われたらしい。

「シックスパック……? 六つの袋ですの?」

「ムキムキに割れた腹筋の事よ」

 聞きなれない言葉に戸惑うイエローに、すかさずミラージュが説明する。

「まあ、流石はテイルミラージュですわ」

 ムキムキという程でもないが、伊達に腹筋割れてない。

「まあよい、後は任せた。戻るぞメガ・ネ」

 ダークグラスパーは飛行形態、メガネウインガーへ変形したメガ・ネに飛び乗り、呼び出したアルティロイドたちと入れ替わりにこの場を飛び去った。

 追いかけようとしても、もう彼女たちは空の彼方。気を取り直してツインテイルズは眼前のエレメリアンに向き直る。

 よく目を凝らさなければ動きを確認できないほど生気の無い、シーラカンスギルディの視線が、テイルミラージュへ注がれる。

「おお……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 枯れ木のような老体に、見る見るうちに生気がみなぎり、シーラカンスギルディは雄たけびを上げた。

「い、いきなりなんだ!?」

「腹筋じゃ……程よいボリュームの割腹筋が見事にツインテールと調和しておる!!」

 先程の動かなさが嘘のように、シーラカンスギルディは猛然とテイルミラージュへ突進してくる。

 魚の頭を模した両手による突きを、すんでのところで躱したミラージュは、その明らかに武術の心得のある動きに、かつて総二と共に教えを受けた愛香たちの祖父を思い出していた。

「なんということでしょう! テイルミラージュのドスケベボディが、枯れ果てていた老人を回春させてしまったんです……!!」

「腹筋が、な?」

「あたし、筋肉付かないよう気をつけてて良かった……」

 ヴォルティックブラスターの銃撃で次々と戦闘員(アルティロイド)を蹴散らすテイルイエローを背景に、他人事のようにテイルミラージュとシーラカンスギルディの戦いを観戦する二人。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろう! 加勢するぞ!!」

 残像すら見える組手の中、口を開くように展開した魚状の腕で両手をがっちり咥え込まれたミラージュは、遂に動きを封じられてしまう。

「なんて手強いジジイだ……まるで先生みたいじゃない」

 全力で押し合ってもびくともしない。恐るべきパワーだ。

「ほほう、ならばこの爺めを師と思ってくださっても構いませんですじゃ」

「ふざけんな! ────リフレクションビーム!!」

 そのまま宙づりにされて、蹴りも封じられたミラージュは、リフレクターリボンからのレーザービームをシーラカンスギルディの顔面へ叩き付け、窮地を脱した。

「おおおおおおおおお!?」

「オーラピラー!」

 テイルミラージュが拘束を振りほどいて、シーラカンスギルディから距離をとるのと同時に、ブレイザーブレイドを構えたテイルレッドがオーラピラーを叩き込んだ。

 着地の間際に、シーラカンスギルディとアルティロイドたちの位置関係を把握したテイルミラージュは、ポーチからエレメントバズーカを引き抜いて両方を射線に捉える。

「イエロー! そこから離れて!!」

「了解ですわ!」

属性玉二種装填(エレメーラオーブ・ダブルロード)────巨乳属性(ラージバスト)! 巨乳属性(ラージバスト)!!』

 せめてもの情け、仲間たちの力で引導を渡してやろう。かつてリヴァイアギルディと死闘を演じたテイルミラージュは、リヴァイアギルディとバッファローギルディの属性玉をエレメントバズーカに装填した。

「エレメントバズーカッ! ファイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 純粋な破壊エネルギーと化した属性力の奔流が、アルティロイドもろともシーラカンスギルディを飲み込んでゆく。

「おお……リヴァイアギルディ様……バッファローギルディ殿……爺は……見事な胸と腹筋の女子(おなご)に巡り会えましたぞ……」

 死の間際に、散っていった仲間の幻影を見たのか、老兵は満足げな笑みを浮かべて光の中に消え去ってゆく。

 

 アルティメギルが襲来してしまってはもう、一泊などと言ってはいられない。ツインテイルズたちは変身を解除し、残念そうに元の砂浜へ向かう。

「もうすぐ夏休みですし、その時ゆっくり、みんなでお出かけいたしましょう」

「ああ、そうだな!」

 

□□□□

 

 ────戦いが終わり、コテージのベッドへうつ伏せに倒れ込んだわたくしは、日中の結維さんたちのことを思い返していました。

 結維さんが長友君のことを、兄ではなく一人の男性として想っているのは薄々気付いていました。

 わたくしも子供ではありませんので、愛し合う男女がすることも理解はしているつもりです。ですがはじめて生で目にしたのが、よく知るお友達のそういった姿だというのが、あまりにも衝撃的すぎて……

 あの時はどうしたらいいのかわからないほどに混乱していましたが、いざ時間がたって落ち着いてみると、わたくしの胸は締め付けられるような痛みを覚えていました。

「なんなんですの……? この気持ちって……一体なんなんですの?」

 堰を切ったように、目からとめどなく溢れ出る涙をぬぐうことも出来ず、わたくしは枕を抱えてうずくまることしか出来ませんでした。

 

「結維さん……わたくし、どうなってしまいましたの……?」

 

 聞く者の居ない呟きは宙に溶けて消え、誰にも届くことはありません。

 帰り支度を終えた尊が呼びに来るまで、わたくしはずっとそうしていました。




恋香さんのお友達トリオ
詠子、美子、詩子。元ネタは漫画「野蛮の園」の三大姐(スリー・アネーゴス)こと大姐(ダージェ)A、B、C。……大姐Aは原作でアヤメって名前が明らかになってるんですがそこはまあ。
あと西川魯介先生の漫画は眼鏡好きにとっちゃバイブルだと思います。どれもこれもエレメリアンみたいな奇人変人変態がたくさん出てくる愉快な漫画なのでみんなもいっぺん読んでみよう(ダイマ)

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