俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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偽物は、少し違うのがお約束。
(目つきとかマフラーの色とか)


第二十四話「戦慄の偽ツインテイルズ作戦!」

『ヴォルティック! ジャッジメントオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

『俺は……お姉ちゃんに叱られたかったんだああああああああああああああああ!!』

 

 むくつけき異形共の犇めくアルティメギル基地の大ホールに、テイルイエロー必殺の叫びとエレメリアンの断末魔が響き渡る。

 エレメリアンの面々が、今まで散々その強さ可憐さ美しさを見せつけられてきたテイルレッドたちはともかく、後発組で特に目立った活躍の無かったテイルイエローが、近頃めきめきとその勢いを増していた。

「マンティスギルディまで……」

「テイルイエロー……彼奴めのツインテール、見違えるように輝きを増しておる……」

「テイルレッドたち三人だけでも手強いというのに、ここに来て実力を伸ばしてくるとはあなどれん……!」

 ダークグラスパー直轄軍である美の四心(ビー・ティフル・ハート)を中心に、強力に再編成されたこの部隊だったが、己が身を奮い立たせて出撃した残存部隊だけでなく、四頂軍の戦士までもが立て続けに打倒されてゆく現状に驚きを隠せない。

「……これで美の四心の戦士も四体までが倒されました。その中にはファイアフライギルディ様までも……」

 美の四心の参謀格であるホッパーギルディが、朱色の複眼に悔しさをにじませて、主であるダークグラスパーへ戦況を報告した。

 隠居状態にあったとはいえ、かつては現副官のアラクネギルディと並び、隊長であるビートルギルディの副官を務めていた実力者までも失ったのだ。古株の彼にとってその悔しさは如何ほどのものだろうか?

「やりおるのう。流石はファイアフライギルディに競り勝った女じゃ」

「いかがでしょう、ここはダークグラスパー様が直々に我ら選りすぐりの戦士と出撃なされては……」

「却下じゃ。指揮官であるわらわを恃みにする前に、お前らでなんとかして見せよ」

 ここにいる面々の総意と言ってもいい進言を無碍にされ、落胆の色を隠そうともしない面々に、ダークグラスパーも眉を寄せて追撃を掛ける。

「なんじゃその態度は。そもそもわらわに一度もメールを寄越さぬような連中がどの面下げて共闘などとぬかすのじゃ?」

 それを言われては返す言葉もない。エレメリアンたちは申し訳なさそうにうつむいた。

「そもそも貴様ら美の四心は、連携こそが本来の持ち味じゃろう。なにも残存部隊の足並みを乱してまで全軍で出ろなどと無茶を言うつもりはないが、二、三人組で出撃するくらいの知恵は働かせてみよ! 貴様らの頭には見た目通り、脳ではなく梯子状神経系が詰まっておるのか?」

 節足動物モチーフのエレメリアンに対するこれ以上ない侮辱を吐き捨て、わらわは独自の対ツインテイルズ作戦を準備せねばならぬから一旦部屋に戻る! とマントを翻して去ってゆく上官を見送った一同は、火が着いたように闘志を漲らせてモニターへ齧り付き、残存軍四頂軍の垣根を越えて、今まで以上にツインテイルズの戦力研究にとりかかった。

 

□□□□

 

 地下基地へ帰還した俺たちは、いつものように反省会を開始する。

「まさか桜川先生が狙われるとは思わなかったな……」

 日曜の午前中。先生の運転する車で長友家に向かう途中の会長は久しぶりにエレメリアンの襲撃を受けたのだ。

 会長にはテイルブレスがあるため、変身しなければツインテール属性が感知されることはないし、桜川先生にもツインテール属性はない。

 しかし現れたカマキリのエレメリアン、マンティスギルディの目的は姉属性(エルダーシスター)。ツインテールではなく桜川先生本人がターゲットだったのだ。

 幸い、駆けつけた俺たちの援護によって変身することが出来たテイルイエローが、エレメリアンを無事撃破したものの、予想外の事態に俺たちは頭を悩ませることになった。

「尊さんにツインテール属性はありませんから、もしかするとアルティメギルの作戦が次の段階に移行したのかもしれません」

 次の段階……奴らの基本戦略だった、ツインテールの拡散からの収奪が失敗したからか? そう呟くと、トゥアールはむしろ遅すぎたくらいですと頷いた。

「今までの属性はツインテールのオマケだったのが、その属性そのものがメインになるってこと?」

「なんてこった、それじゃあターゲットが何倍にも……いや、無数に膨れ上がっちまう!」

 

『こんにちは~あんこちゃんだよ~!』

 ────!!

 総二も含め、俺たちに不安が広がる中、つけっぱなしのTVから善沙闇子の声が響き、俺と総二は身をこわばらせた。

 善沙闇子……いや、ダークグラスパーがバラエティ番組に顔を出し、視聴者に愛想を振りまいている。

 それを見たトゥアールは気に食わぬとばかりに吐き捨てた。

「ぺっ、な~にがあんこちゃんですか。総二様、騙されてはいけませんよ。あの女、間違いなくとんでもないキャラづくりしてます。きっと本性は男漁りが趣味のビッチです!」

 愛香の方も、総二が自分をほったらかしにしてライブへ行ったのを根に持っているのか、不機嫌な態度を隠そうともしない。

「うっせ! あんこちゃんはビッチなんかじゃねーし! あの声は処女膜から出てるに決まってるし!!」

「声が処女膜から出てるとかほざくドルオタとか笑い死にさせるつもりですかうごあああああああああああお腹が物理的によじれるううううううううううううううううう!!」

 俺はわざと怒ることで空気をぶち壊し、俺の道化ぶりを嘲笑いしばかれるトゥアールに紛れて総二とアイコンタクトを取る。

 テイルレッドとダークグラスパーが対峙していたあの時、衛星のカメラはその場を捉えていなかったようで、トゥアールたちや基地の面々は善沙闇子の正体を知らないままだ。

 秘密を知っているのは俺と総二だけ。こればかりは誰にも話すわけにはいかないと、あの後俺たちは固く誓ったのだ。

 もしもばれたら、きっと愛香は番組やライブイベントに襲撃を掛け、かつて敵対したものから畏怖を込めて呼ばれた小魔王姫(サタンプリンセス)の名前に相応しい暴れぶりをお茶の間に、ひいては世界中のメディアへ見せつけるだろう。

 ダークグラスパーも、喜々として襲われるか弱い被害者を演じるに違いない。

 

 そうなったら、テイルブルー(愛香)は終わりだ。

 

 せんべいを齧る未春さんとお茶を飲みながら、膜の有り無しで声なんて変わらないわよねえ? なんて話に聞く末期の女子校みたいな会話をのほほんと交わしていた恋香さんが、先程までの内容を感じさせない笑顔で俺に寄り添った。

「ねえ結君、今度闇子ちゃんのライブに行くときは、私も連れていって欲しいな」

「ええ、絶対誘いますよ」

『好きな男性のタイプ? もちろん眼鏡の似合う人ですね!』

 俺はTVから流れる善沙闇子の声を聴きながら、如何にして正体を明らかにせずにダークグラスパーを打倒するか頭を悩ませた。

 

□□□□

 

 アルティメギル基地の大ホールに、これ以上ないのではないかという程のクオリティを誇るツインテイルズの精巧なフィギュアが飾られている。

 アルティメギルが誇る超科学力と技術の粋をこれでもかと無駄に凝らした超一級品の等身大フィギュアだ。

 その姿はまさに生き写し。今にも動き出しそうなその完成度の前には、不気味の谷などという発展途上文明が陥るような障害など、ブレイクスルーの彼方へ超光速で置き去りにされてしまうだろう。

 自らが写し取った輝かんばかりの総天然色の女神像のもとにエレメリアンたちが集結し、今ここに直属部隊、残存部隊の垣根を越えてのツインテイルズ対策会議が開かれた。

 司会進行は故ドラグギルディの参謀を務めたスパロウギルディが。両脇をホッパーギルディとアントギルディが固め、意見を募っている。

「レッドやイエローは滅多にないが、ミラージュとブルーの強みは倒した我らの力を自在に使いこなすところにある」

「だがテイルミラージュは、左腕の装備で能力を使う他のツインテイルズとは違い、武器やベルトに取り付けた装置を介して使っているが、これはどういうことだ?」

 挙げられた疑問の声。属性玉変換機構はテイルギア全てに備わっているが、ツインテール一筋のレッドや装備の充実したイエローはほとんど使う機会が無い。

 そしてテイルミラージュは、エレメリアンは知る由もないがトゥアールではなくDrオヴェルの手による戦闘服故、属性玉変換機構そのものが無いため、オプションとして外付けされている。

 誰かが武装のパターンから、テイルミラージュの鎧は他のツインテイルズたちのプロトタイプではないか? などと仮説を立て、なるほど、あの可変武装から特化した剣、槍、銃へと分化したのだな。と周囲から納得の声が上がる。

 ────だが。

「待て、テイルミラージュと他のツインテイルズたちの装備は全くの無関係。中身はともかく技術的には赤の他人じゃ」

 正面の定位置に座るダークグラスパーは、手元のテイルミラージュ、テイルレッドのフィギュアを弄びながら、衝撃的な事実を何でもないことのようにポロリと漏らした。

 当然のようにざわつくエレメリアン。スパロウギルディも目を剥いて彼女へ問いただす。

「まことでございますかダークグラスパー様!?」

「うむ。わらわが本人から直に聞き出したのじゃがな、あ奴はテイルレッドとは別口で戦う力を得たと話しておった。何者かは知らぬが、我等と戦えるだけの科学力を持つ勢力がこの世界に少なくとも二つ存在するということじゃろう」

 なおもざわつく面々をダークグラスパーは一喝し、たちまち黙らせた。

「やかましい! 誰が造っていようが、ツインテイルズが敵であることに変わりはあるまい。気にせず戦力分析を続けよ」

 無駄にざわつかせたのは目の前の上司なのだが、思っていても口に出すわけにはいかない。苦労人の老参謀は、気を取り直して画面をレッドに切り替える。

「最強の存在は紛れもなくテイルレッドでありますが、幼子ゆえ戦いの最中に怯えることも多く、そこが弱点と言えば弱点かと。しかし仁厚き戦士ゆえ我らの意志を酌み、正々堂々戦う誠実さも併せ持っております」

「うむ。流石は我が好敵手の一人、何とも真っ直ぐな性根の持ち主のようじゃな」

「そしてテイルミラージュ。属性力こそテイルレッド、テイルブルーに劣りますが、様々な武器を巧みに使いこなし、距離を選ばぬ隙の無い戦闘スタイルは手強く、リヴァイアギルディ様、ファイアフライギルディ殿が撃破されております」

「されど我らの情熱にも一定の理解を示すほどに、味方だけでなく敵にすらも情けを向ける情の厚い戦士でもあります」

「して弱点は?」

 眼鏡のレンズを光らせて問うダークグラスパーに、スパロウギルディは画面を切り替えて答える。

「どうやらテイルミラージュは睡眠に弱いようで、一般隊員のアリゲギルディ、シープギルディと戦った際に眠らされ、地に伏しております」

「待て、眠り属性(スリープ)のシープギルディはともかく、このワニは耳たぶ属性(イヤーリブ)じゃろう? 相手を眠りにつかせる能力なぞ有ったか?」

「アリゲギルディの尻尾は奴の理想とする耳たぶと同じくらいに柔らかいそうで、おそらくその柔らかさが抱き枕のように彼女の眠りを誘ったものかと」

「……そうか。しかしこのワニ、そんな尻尾で本当に戦う気あるのか?」

 彼の尻尾は、ひっぱると伸びるらしい。

 敵前であっさり眠りにつくという、テイルミラージュの意外なちょろさを知ったダークグラスパーの脳裏には、かつてプレイした睡姦もののエロゲが映し出されていた。

 勝利した暁には、眠りこけるあやつの下半身に落書きなんぞしてやるというのもいいかもしれんのう。彼女は皮算用をして内心ほくそ笑む。

 そして議題はテイルブルーへ移る。かつてトゥアールの纏っていたテイルギアを受け継いだ彼女は、ツインテール属性そのものを託されたレッドとは別ベクトルで油断ならない相手だ。

「テイルブルーも、属性力こそテイルレッドに劣りますが、その戦闘能力は群を抜いており、レッドと共にドラグギルディ様を打倒し、不意打ちとは言えクラーケギルディ様へ一撃でトドメを刺しております」

「ただ……」「どうした?」

 わずかに言いよどむスパロウギルディに、ダークグラスパーは尋ねた。

「テイルブルーは貧乳をいたく気にしているようで、クラーケギルディ様が彼女の貧乳を褒め称えた際、怒りに我を忘れたかのように、レッドと戦っていたクラーケギルディ様を背後から……」

『そんなに貧乳が好きなら……宇宙の果ての貧乳星まで飛んでいきなさい!!』

 切り替わった映像の中、普段の可憐さをかなぐり捨てたような形相となったテイルブルーは、槍で串刺しにしたクラーケギルディを宇宙空間へと追放していた。

 それを見ていた群衆は、強気でおてんばなところが可愛いブルーたんが悪魔に……と目を覆って嘆き悲しんだ。

「わらわより小さな子供であろうに、何故そこまで貧乳を気にするのじゃ……?」

 正体が十五歳の女子高生だと気付けなければ、到底思い至ることのない理由に首をかしげるダークグラスパーは、続いて弱点を訊く。

「テイルブルーはうねうねしたものが苦手なようで、クラーケギルディ様やオクトパギルディの触手を見た途端、かつてないほどに取り乱しております」

「なるほど、ならばうねうねしたエレメリアンを差し向ければ……」

「ですがその状況となると、ほかのメンバーが怒りに燃えてブルーを助けに入ることが確認されております。特に彼女を愛するテイルレッドの怒りはすさまじく、クラーケギルディ様も手傷を負わされ撤退する羽目になったと……」

「レッドとブルーが愛し合っておるじゃと!? そういうことはもっと早く言え!!」

 スパロウギルディは突然食いついて来た上司に面食らいながらも、レッドがブルーへの愛を叫んだ場面をチョイスして映し出す。

(トゥアールがブルーを愛しておるというのは、わらわをだますためのブラフじゃったはず……じゃがレッドとブルーは映像を見る限り好きあっており、そして二人はそれぞれトゥアールのツインテール属性とテイルギアを受け継いでおる。あのトゥアールが、いくらなんでも属性力が強いだけで大切な物をおいそれと渡すはずがない……この事実が表しておるのは……!)

(あ奴らは二人揃ってトゥアールに可愛がられておるに違いない! あれだけ愛らしい幼女なのじゃ、きっと毎晩三人でくんずほぐれつ、二人してトゥアールのふわとろ巨乳へ顔を埋めておるのじゃ! きー羨ましい妬ましい!!)

 彼女の暗黒の脳細胞(エロゲ脳)は、幼き百合ップルが経験豊富な大人の女にまとめて堕とされ丼ぶりになる光景をカメラワークもバッチリなイベントCGとして描き出す。

 恐るべき思考回路で、当たらずとも遠からずな回答へたどり着いてしまった闇黒のストーカーは、テイルイエローの分析を部下たちに押し付けると、かねてより計画していた作戦実行のために自室へと舞い戻った。

 

□□□□

 

「────で、何するつもりなん? イースナちゃん」

「ネットで、ツインテイルズの連中をちょっとディスる……そして連中の噂を広めた後に、アレを使う……完璧な計画」

「うわー……世界を渡る闇の処刑人の割にやることがしょっぱいなぁ……」

 そうと決まればイースナは素早い。かつて人間メールサーバーの異名を轟かせ、トゥアールを恐怖のズンドコへ叩き落としたその手腕を存分に発揮し、保護者の嘆きをよそにめぼしいツインテイルズ応援サイトへ突撃を開始した。

 

 ────その戦果と言えば、考えるまでもなく火を見るよりも明らかな惨敗である。

 テイルレッドたちをディスるたびに出禁にされても、めげずに各サイトを渡り歩くイースナは、眉を寄せて唸り声をあげ、この強敵たちを攻めあぐねていた。

 試しに「テイルレッドはエロい」と書き込めばすかさず「背伸びするレッドちゃん可愛い」と擁護がつき、続いて喫煙疑惑を書き込めば、あまりの信憑性の無さに失笑を買う。

 その時擁護に入ったのは、テイルレッドがため息をついた瞬間、眼前へ滑り込んでその息を吸ったと豪語する社会人女性。タバコの匂いなど微塵もしなかったという。

 さらにテイルミラージュに目を向けて見れば、あの胸は偽乳。と書き込んだとたん「実際に揉んだから間違いない、アレは本物だ」という高校生女子からの書き込みが相次いでこの世の闇を感じさせた。

 これが連中の日常……阿鼻叫喚な状況に、イースナは思わずツインテイルズへ同情する。だが心を鬼にして書き込みを続けなければ……と今度はテイルブルーにターゲットを変える。

 こいつもトゥアールに好かれている以上、おっぱいが好きに違いない。と偏見マシマシで「テイルブルーは巨乳好き」と書き込んだ。

 だが次の瞬間、予想外の賛同の声が。やれ「ブルーちゃんは巨乳に憧れているからな!」とか「何当たり前なこと言ってるの?」と自分の胸にブルーを埋めさせたと豪語する書き込みなどが殺到する始末。

 テイルイエローは三人ほど大人気でもなかったが、1号も2号も普通に賛否両論でディスっても大した変化は無かった。

 イースナ曰く、脱ぐところやおっぱい大きいところにシンパシーを感じるため、敵とは言えいじりづらい。というのもある。

 

「だめ……ツインテイルズは強い……みんなツインテイルズを好きすぎて、全然人気を落とせない……」

「あばたもえくぼやなあ……」

 頭を抱えるイースナを見守っていたメガ・ネも、この戦いの勝算が薄いことは感付いていた。

「仕方ない……こうなったらもう、ネットでの活動は諦めて次の段階に移る」

「え? やっぱりアレやるんか? ……うまくいくかなあ……」

 再び闇の衣を身に纏ったイースナは、今回の作戦のために誂えた特殊装備を携えたメガ・ネと共に、部下たちの集う大ホールへ歩を進めた。

 

□□□□

 

 ダークグラスパーが自室でネットワーク戦士(ウォーリアー)と化していたころ、エレメリアンたちのツインテイルズ研究は佳境を迎え、隊員たちのリクエストによる幹部たちとの激戦の記録──名場面集とも言う──がモニターに上映されていた。

『サイクロンッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「むう……! 普段のレッドの力が100万ツインテールだとするならば、クラーケギルディ様、リヴァイアギルディ様が一つになった姿……リヴァイアクラーケギルディ様を打ち倒した時のテイルレッドは1000万ツインテールを優に上回っておるぞ!!」

「うむ、二刀流となっただけでなくジャンプの高さ、加速と、ツインテイルズの力そのものが一つとなっておる……!」

「あの回転……まるでクラーケギルディ様の極意を掴んだかのようではないか! 敵ながらあっぱれな幼子よ!!」

 そんな盛り上がりのなか、帰還したダークグラスパー……だが、彼女の装いには凄まじい違和感があった。その不協和音を奏でる原因に、エレメリアンたちは先程までの歓声を忘れて視線を集中させる。

「────どうじゃ」

 紅かった。ツインテールから足の先までを赤い星からやって来た赤いアイツばりにコーディネートしたダークグラスパーがそこに居た。

 まさに緋色の不協和音がサウンドの新時代を迎えていたと言っていい。

 コスチュームの完成度自体は高い。エレメリアンたちはほとんどその名称を知らないが、映像と見比べずとも目に焼き付けた本物と違わぬ再現度を誇っている。

 だが最大の問題は中身だ。赤いツインテールも、黒いアンダーリムの眼鏡も、似ても似つかぬ目つきも……極めつけの、中途半端に育ったその肢体も、全身全霊の太文字ゴシック体大型フォントで“これはテイルレッドではない”と主張していた。

 そしてその隣には、聳え立つ2mものクマの着ぐるみ。テイルミラージュのものだろう。こちらの再現度も本物同然だ。大きさを除けば。

 永遠ともいえる数秒の硬直の後、ぎこちなく立ち上がったエレメリアンたちは微妙なスタンディングオベーションを始めた。

「ハハハハさすがはダークグラスパー様」

「驚きましたぞハハハ」

 だが彼らを責めてはいけない。理不尽な上司から身を守る精一杯の処世術なのだ。

「そうであろうそうであろう。いやあ少し努力しただけで部下のハートをがっちりキャッチしてしまうとは流石わらわじゃ」

 彼女の辞書におせじ、おべっか、リップサービスの文字は無い。たちまち得意になってツインテールのウィッグをふぁさっとかき上げるダークグラスパー。

 そのウィッグも、既製品などではなく彼女が身に着けた際に、本物と同じバランスになるようにカスタマイズした特別製だ。

「惜しむらくはわらわのゴージャスな肢体ではレッドのロリボディを再現できぬことじゃな。テイルミラージュならまだしも、といったところじゃが、奴は唯一着ぐるみでごまかせるゆえ相棒に譲らねばならぬ」

 テイルミラージュなら再現できるとでも言いたげな、神をも恐れぬその発言に、貴女の眼鏡は度数が合っていないのですか? と全エレメリアンの意見が心の中で一致した。

 

 ────彼女には、テイルレッドの格好が絶望的に似合ってない。

 

 端的に言えば、その一言に尽きる。

「スパロウギルディ様……私は今、自分の弁の立たなさに憤りすら感じています」

「言うな、ここにいる皆も同じ気持ちだろう」

 ダークグラスパーから離れた位置で、スパロウギルディは周りの隊員たちと悲しみを分かち合っていた。

 正直に指摘するには距離が遠く、さりとて婉曲に伝えるには弁舌に疎い。

 戦士たちは皆、自らの不甲斐なさに身を震わせていた。

 そんな彼らをよそに、当のダークグラスパーは美の四心のシケーダギルディとモスキートギルディの姿が見えぬ。と彼らの間の悪さを嘆いていたが、仮装属性(コスプレ)だからこそ、この惨状を回避すべく退散したのだろう。

 虫の知らせという奴だ。昆虫軍団だけに。

「よし、では誰ぞ出撃に名乗りを上げよ。わらわたちも後からついていくゆえな……先程の共闘を願う進言、却下を取り下げて受けてやろう」

「そ……そのお召し物で、でございますか?」

「当たり前じゃろう」

「作戦の骨子を教えていただきたく……!」

「よかろう、とくと聞け。この姿で民衆に、テイルレッドたちがエレメリアンと仲良くする様を見せつけてやるのじゃ!」

「「「「なんと!?」」」」

 ツインテールの戦士と、倒すべき怪物が仲が良いところを見せつける……どの世界でもいまだかつてない奇天烈な作戦だ。

「民衆のアルティメギルへの警戒を薄れさせ、属性力奪取を容易とする……自分の才能が恐ろしいわ」

 参謀たるスパロウギルディも、ホッパーギルディも、必死に作戦の穴を伝えようとするが二の句が継げない。

 こんな時、特撮に詳しい神堂慧理那や長友結なら「偽物はヒーロー物のお約束」と言うだろうが、それが効果的なのは偽物が本物と一見して区別がつかないほどに似ている場合のみだ。

 このような、テイルレッドの格好をしたダークグラスパーや2mもあるミラージュクマがエレメリアンと仲良くしていても、レッドとクマの格好をした人たちがエレメリアンと一緒に居るな。と思われるのが関の山だろう。

 そんなことで本物に影響などあるのだろうか?

 すっかりやる気のダークグラスパーは、テイルレッドが二人になるのじゃ、嬉しかろう? と誇らしげに言っているが、そんなことをされたら映像から彼女を取り除くトリミング作業の過労でアルティロイドが全滅してしまう。

 さりとて正直に伝えては怒りに触れること明白。退くも地獄、進むも地獄の状況に苦悩するエレメリアンたちは、満足な反応を返すことなど出来なかった。

「……よくわかった、この腰抜け共が。貴様らなんぞに目を掛けたわらわが愚かだったわ!!」

 遂に空気を察してしまったダークグラスパーは、悔しさをにじませてツインテールを翻し、その場を去ろうとする。

「────お待ちくだされ!!」

 だがそこへ掛けられる制止の叫び。

 スワンギルディに次いでダークグラスパーの標的とされていたベアギルディが、兜のような頭部を雄々しく天へ突き上げて立ち上がっていたのだ。

 暴力属性(バイオレンス)の雄とはいえ、心の痛みは見過ごせない。

「テイルミラージュと同じモチーフの、私ならば民衆の親近感も湧くというものでしょう」

「…………クマ…………」

 レンズの奥の瞳が潤み、険しい顔が笑顔に変わる。

 そして、立ち上がったのは彼だけではなかった。

 ────我等もお供いたしましょう!!

 ホールに居た全員が席を立ち、彼女の元へやって来る。

「…………お前たち…………!」

 

 ────ダークグラスパー様ああああああああああああああああああああああああ!!

 

 戦場(いくさば)の鬨の声のような怒号を上げ、駆け寄ってくる部下たちに満面の笑みを浮かべたダークグラスパーは────その手にダークネスグレイブを握りしめた。

 

「全員来てどうするのじゃ多いわあああああああああああああああああああああ!!」

 

 黒い旋風と共に最大級のツッコミが炸裂し、エレメリアンたちは無数のうわー、という叫びを反響させてロケット風船のように宙を舞う。

 

 ────こうして、ダークグラスパーの恐るべき作戦は始まる前に瓦解した。

 だが奴は再び新たな作戦を企てるに違いない。

 地球に平和(ツインテール)を取り戻すその日まで。

 戦え! テイルレッド!! テイルオンせよ! ツインテイルズ!!

 

□□□□

 

 帰還した自室でテイルレッドの衣装を抱きしめ、微笑みを浮かべるイースナ。

 一部始終を見ていたメガ・ネは、表情のない鋼の顔へ笑みにも似た優しさの色を浮かべてそんな彼女を見守る。

「……メガ・ネ、いつか……これを着てテイルレッドたちと並んだ写真……撮ってね」

「そういうお願いなら、大歓迎やで」

「メガ・ネとも、一緒だから」

 作戦は不発に終わったが、衣装を作ったのは無駄ではなかった。

 

 ────そのお召し物、テイルレッドへの愛は存分に感じました!

 

 去り際に掛けられた称賛の言葉に、心からの微笑みを浮かべたイースナは、いつか来るであろう好敵手と肩を並べる日を思い描く。

 

 だが世間ではそれを“友達”というのだと、彼女が気付くのはもう少し先の話である。




尊さんはおねえちゃんが大好きだからね。婚活もおねえちゃんのためだからね。
マンティスギルディの姉属性ですが、3巻巻末の応募はがきに書いてありました。
今作の世界だと空気中の姉分が多かったため出撃に踏み出すことに。
この人何気に美の四心初登場から壊滅まで通して出てるんですよね。

ちなみに原作に登場した単位「ツインテール力」は桁数を減らすための、cmがmに上がるような、上位の単位という解釈をしましたごめんなさい超人強度ネタ使いたかっただけですすいません。

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