ダークグラスパーとの大激戦を乗り越えた翌朝。俺は両側に感じた心地よい圧迫感に目を覚ました。
ベッドの中で両腕にしがみついていたのは俺の最愛の女性、愛香とトゥアールだ。
二人と付き合うというのは我ながら道を外れている気がしなくもなかったが、芽生えてしまった気持ちは止められなかった。
愛香が俺のために結んでくれているツインテールと、トゥアールが俺に託してくれたツインテール。この二対のツインテールを手放すなんてとても出来そうになかったのだ。
一般的にはこういう場合一番を取り合って女性同士の仲が険悪になったりするそうだが、うちの二人の仲は良好だ。時たま心配になりそうなほど仲良しな時もあれば、愛香からトゥアールの命を心配しなければならないほどのツッコミが入ったりもする。
本当に二人は、毎日見ていて飽きないほど愉快で、温かくて、かけがえのない
しかし、昨夜は何もせず早めに床についてゆっくり休んだはずなのに、どうにも疲れが抜けきらない気がする。激戦が二度も続いた疲労もあるが、やはり愛香がツインテールを解いているせいなのだろうか?
ツインテールの健康を維持するために、入浴や睡眠の際には髪を解かなければならないのはわかっているのだが、前に寝ぼけて眠っている愛香の髪を結んでしまって以来、ツインテールに包まれて眠りたいというイケナイ欲望が俺の心の内に芽生えてしまったのだ。
愛香に叱られて、それでも頼み込んで一度だけツインテールのまま一緒に寝てもらったおかげで、今では発作のようにツインテールを結んでしまうことはなくなったものの、愛香の髪に触れていないと安眠できないというのは少し恥ずかしい。
「……総二様ぁ……おはようのチュー❤」
そして身じろぎと共に右腕に押し付けられる柔らかい感触。目を覚ましたトゥアールが、甘えた声でキスをせがむ。
普段は大人びている彼女だが、異世界からやって来て孤独に過ごしてきた今までの寂しさがそうさせるのか、意外と甘えたがりな所があるのが可愛らしい。
「そーじぃ……あたしも……❤」
つられて起きた愛香もいつの間にかツインテールを結び終え、左腕にツインテールも絡ませながらのおねだり。これは強敵だ。
ああ……俺はなんて
着替えた三人がリビングへ行くと、憔悴しきった結とやけに色艶の良い恋香さん、結維ちゃんが揃っていた。
「おはよう総二……そっちはまともに眠れたみたいだな」
その姿は、いつぞやの結維ちゃんによって寝不足に追い込まれた彼の姿を思い出させた。
□□□□
「ほら、結。部室行こうぜ」
「……おーう」
結が睡魔に耐えるなか、午前中の授業を乗り越えてどうにか昼休みを迎えた俺たちは、連れ立って部室へ向かう。
右に愛香、左にトゥアール。後ろからトボトボと結が付いてくる。まともに寝られなかったのはさぞ辛かったろう。弁当食べ終わったらゆっくり休んでくれ……
ふと、視線を感じて振り返ってみれば、クラスの男子たちが俺たちに目を向けていた。
「両手に花、か……去年までの俺たちなら、自らを負け犬と打ちひしがれ灰と化していただろう。だが────」
「ああ! 今の俺たちにはツインテイルズのみんなが居る! お前らのような前時代の遺物に負けるほど弱くはないぜ!!」
めいめいがグッズを取り出し、またはスマホやタブレットに自分の推しメンを映し出し、数珠やロザリオのように掲げて見せる。
なんともありがたくなさすぎる信仰だ。男子全員がツインテイルズを女神のように崇め、祈祷を捧げている。
「あーいかっ」
一方、女子たちは愛香にウインクを飛ばしたり、親指を立てたりしている。愛香の人望は相変わらずだ。結のように、俺たちの仲を見守り応援してくれているのだろう。
そのまま教室の扉を開けようとしたら、先んじて扉を開けた会長と桜川先生にバッタリ遭遇した。
「観束君、長友君。今日はご一緒してもよろしくて?」
「もちろんですよ」
当然快く受け入れる。会長は普段教室や学食、生徒会室で昼食をとることが多いが、たまに俺たちに付き合ってくれるのだ。
「というわけだ、行くぞ観束、長友」
桜川先生がごくごく自然に、結の弁当箱へ折りたたんだ婚姻届を差し込んだ。寝不足で動きが緩慢になっているから
そのまま教室を出ようとした途端、俺たちに向けれらた視線が激変した。
「死ね観束うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「なんだ!?」
会長と話していた俺たちへ、男女の区別なく修羅と化したクラスメイト達が憎悪のシンフォニーを叩き付ける。
流石は人気者の会長だ。話しただけでこうまで嫉妬されるのか。
俺と結がいつかの登校時に向けられた視線を思い出していると、結がシャキッと覚醒しクラスメイト達に向き直った。
「馬鹿野郎、会長が俺たちとどうこうなるはずないだろう。第一会長には好きな人がいるんだ、俺ら相手なんてせいぜいお悩み相談ぐらいにしか発展しねーよ」
暴徒は一瞬で凍り付き、次いで悲鳴が教室を満たす。
「会長に好きな人が!?」
「うわああああああん慧理那ちゃんがああああああああああああああああああああ!?」
「……じゃあ、行くぞ」「お、おう……」
「長友君ひどいですわひどいですわ!」
阿鼻叫喚の状態を巻き起こした元凶は悪びれもせずに俺たちを連れて、顔を真っ赤にした会長にぽかぽか叩かれながらその場を立ち去った。
そして自分のせいで嫉妬されたのかと思い込み、婚姻届の束を手に微笑みを浮かべていた桜川先生は出鼻をくじかれ寂しそうに暫し立ち尽くしていた。
ツインテールをプリプリ揺らしながらむくー、と膨れてしまった会長にトゥアールが相好を崩すのを微笑ましく思いながら、廊下を歩む俺は日常の平和を噛み締める。
この平和こそが、胸の中で息づくツインテール属性と同じくらい大切な宝物なんだ。
戦い、平和を守るごとに、俺の中で日々成長を続けるツインテール……それが激闘を潜り抜けるたびに空間認識能力を押し広げて行っているのか、文字通り視野が広がっている気がするのだ。
俺は腕試しとばかりに、廊下を歩く生徒たち全てのツインテールの気配を探ってみることにした。
ソナーやレーダーのように自分の視線を広げるイメージ……その中でツインテールだけを識別し、的確に捉えてゆく。その様は、物騒な例えだがミサイルのターゲットをロックオンする作業に似ていた。
────二十八人。
おそらく廊下の端から端までと、それに連なる教室を含めて。校舎全てを含めればもっと大勢いるのだろうが、今の俺にはこれが限界のようだ。
誤差はあるだろうが、その範囲に居るツインテールの人数がこれだけだ。教室とクラスの人数から考えておよそ五人に一人の計算になる。
これは今までのツインテール人口から言って驚異的な上昇だ。
それだけの数が、流行に流されることなくツインテールを愛してくれている……地球や世界なんて言う広大な尺度でなくていい。
自分たちの通う学校というミニマムな尺度でも、ツインテールを守れているのだという確かな実感が俺を勇気づけ、胸を熱くしてくれる。
嬉しいのに、涙が流れそうだ。俺は思わず天井を振り仰いだ。
舞い踊るツインテールの気配に耳を傾けていると、愛香、トゥアール、結の視線が集中しているのに気が付く。
「もう! なに総二様に見とれてるんですか!!」
「そっちこそ! ……だって、ツインテールの事考えてるそーじって、すごくいい顔するんだもん」
流石は愛香だ。こちらの考えがすっかり見抜かれてしまっている。ツインテールはツインテールを知る、という奴か。
結は満ち足りたような笑みを浮かべて、ありがたやありがたやと手を合わせていた。
仏像か俺は。
部室に着いた俺たちは、長机に弁当箱を広げて食事を始めた。
今日は俺がトゥアールの弁当、愛香が自分の弁当をトゥアールと半分こしている。普段通り四段重ねの弁当箱なので半分でちょうどなくらいだ。
結はいつも通りの自作弁当か恋香さんの弁当と思いきや、結維ちゃんの弁当らしい。愛妻弁当ならぬ愛妹弁当という奴か。近頃ハイペースで外堀を埋められているようだが大丈夫なのか心配になる。
そして会長は部下のメイドさんが運んできた、シルクのテーブルクロスに並べられた豪勢な食事。桜川先生もご相伴にあずかっている。
先生曰く、会長のお父さんがこれを持って行ってくれと土下座する勢いで懇願(原文ママ)するらしいが、さすがに教室でこんな目立つものは遠慮したいため、人目を気にしないで済むツインテール部部室限定なのだそうだ。
こうしてみんなでわいわい食事をとるのって、青春って感じがするよなあ……
「ああ。俺のツインテールは────青春だ」
「もう、エレメリアンとの戦いじゃあるまいし何言ってるのよ……」
しかし結の言っていた会長の好きな人というのはいったい誰なのだろう? 会長と仲のいい結維ちゃんから聞いたのだろうか?
教室での話題に興味を示した愛香たちが、会長に好きな人は誰なのか尋ねたものの、会長は頑なに語ろうとはしない。
言いたくないものを無理に聞き出すのは仲間でも、いや仲間だからこそよくない。と、それを遮るように結から振られた、ダークグラスパーの対策を話し合ったりするうちにみんなが昼食を食べ終え、お茶を飲みながら一息ついている頃。
────部室に聞き慣れたアラートが鳴り響いた。
机に置かれたノートPCに飛びついたトゥアールがエレメリアン襲来を告げる。
「腹ごなしにちょうどいいわ、早速倒してやりましょう!」
「お嬢様、食べたばかりで動くとお腹が痛くなってしまいますよ?」
「ありがとう尊。でも大丈夫ですわ。わたくしもヒーローの端くれ、お腹の痛みくらい耐えて見せます!」
心配する桜川先生にそう答える会長の頼もしい笑顔。ツインテールにも気合がこもっているぜ。
俺は一足先に変身し、ロッカーへと駆けこんだ。
「ああっ、こういう時は全員一緒に変身しましょうってお願いしましたのに……!」
全員が地下基地へ移動し、トゥアールと先生に見送られながら俺たちは現場に急行した。
「────幼稚園のようですわね」
転送ポイントから移動しながら、イエローが場所を確認する。眼下に見えるのは敷地の大き目な私立幼稚園だ。
ブルーが憤っているが、確かに幼稚園児や小学生は奴らのターゲットになりやすい。
「何だあの丸いの……」
幼稚園の門前に着地し、中の様子をうかがってみると、曲がりくねった角を生やしたもこもこの巨大な毛玉が闘気を迸らせて窓の中を覗き込んでいる。
この
だが注意を引き付けるために声を上げようとしたところ、振り向いたやつから口元へ指を当て「しー」と注意を受けた。
「私は
見ているこちらが眠くなりそうな羊のエレメリアンだ。
どうやらこの幼稚園はお昼寝の時間らしく、しぶしぶ隣に立った俺は、あるがままにツインテールのまま眠る健やかな子供たちに安らぎを覚えた。
今日も世界は平和だ。正義のヒーローとしては、是が非でもこの安らぎを守らなければならないと決意を新たにした。
「わかるだろう。人は眠りに就く際が最も無防備。いかな武術の達人でも、睡眠時は最大の隙を晒してしまうもの。人類共通の睡眠時こそが、老若男女問わず人が最も輝く時なのだ……いや、もちろん幼い少女に越したことはないが」
したり顔で力説するシープギルディだったが、致命的な本音が漏れたのを俺は聞き逃さなかった。
「ふん、あたしならどんなに熟睡しててもすぐに目を覚ますわよ」
何とも頼もしいブルーの言葉。ミラージュもうんうんと頷いている。
世の達人は、なぜ津辺愛香という少女に出来ることが出来ず、弱みをそのままに強くなろうとするのか。
「ならば試してみるか? 見たところテイルミラージュは寝不足。テイルレッドとテイルブルーも、熟睡出来ているとは言えないようだな」
────!? 見抜かれた。どうやら本格的に眠りの専門家らしい。
「旅立て! 健やかなる船出!!
意味不明な技名と共にシープギルディは回転しながら突進し、そのもこもこな身体を俺たちに押しつけてきた。
拳を振りかぶり、カウンターを入れようとしたブルーだったが、その拳は毛玉の中へ飲み込まれ奴の本体へは届かない。
そのまま俺たちは奴とともに転がり去ってゆく。
地面と青空と交互に視界に映る中、場所を変えるためにやって来たのだろう幼稚園の裏山で奴は停止した。
だがこの柔らかさはヤバイ。極上の低反発マットレスか、最高級の羽毛布団とでも形容したくなるような感触がもたらす安心感。
俺もブルーも、たちまち眠りに誘われ意識が薄れてゆく。
『テイルギアの防御を抜いてくるなんて……! シープギルディは、特殊能力特化型のエレメリアンのようです!!』
腕っぷしは弱くても、フォクスギルディのように強敵だ……
「ミラージュ……イエロー……後は、頼んだ……」
アリゲギルディと戦ったあの時のテイルミラージュも、同じ気分だったのだろうか……? などと思いながら、俺は意識を手放した。
□□□□
「レッドとブルーがやられた!」
最大戦力の二人を一度に戦闘不能へ追い込まれたテイルミラージュは、ベルトから引き抜き連結したロングロッドを手にシープギルディへ立ち向かう。
とりあえずあの毛に触らなければいいのだ。ならばこちらのリーチが有利に働いてくれるはず……
「羊の怪人なら毛で水増しされているのがお約束……なら直接本体を狙ってやるよ!」
弾力も警戒して、投擲ではなく体重を乗せた刺突を選び、テイルミラージュは目標目掛けて駆け出した。
振りかぶり、勢いよく突き出されたロングロッドがシープギルディの土手っ腹へ文字通り突き刺さる。
「────え?」
真芯は逸れたが、充分本体には当たったはず……と思いきや、勢いが止まることは無くずぶずぶと腕まで飲み込まれてゆく。
もふん。先端が反対側から顔を出すのと同時に、遂に顔面までが羊毛に埋まり、テイルミラージュは眠りについた。
『なにやってるんですか結さんのアホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「もはや戦えるのはお前一人のようだなテイルイエロー」
可愛らしい外見に似つかわしくない渋い声でそう告げるシープギルディに、その身をこわばらせるテイルイエロー。立て続けに仲間たちが敗れ去るというショッキングな光景に、彼女は緊張を隠せない。
孤立無援の状態での奮闘というのは、特撮好きの彼女にとってむしろ燃える局面のはず。だがテイルイエロー神堂慧理那のエレメリアン撃破数は少ない。幹部級エレメリアンと互角以上に戦える戦闘力を有しているものの、対戦カードの巡り合わせが悪く、撃破できたのは
それも周囲の仲間が声援を送ってくれていてこそ……単独での戦闘経験の少なさが、心構えの足りなさが今の彼女の足枷となっていた。
『慧理那さん、流れ弾には気をつけてください。イエローの火力を全開にして戦っては離れていても幼稚園に被害が出る恐れがあります!』
注意を促すトゥアールの通信。
「
イエローは自分を奮い立たせるように属性玉変換機構を使用し、シープギルディの弱点を探ろうとする。
テイルミラージュは三重共鳴のエネルギー源として使用したが、眼鏡属性には相手の情報を見通す効果があった。だが確認できた情報にめぼしいものは無い。
全身のふわふわな毛はほとんどが外皮であり、本体は針金のように細い。テイルミラージュの攻撃が失敗したのはこの過剰な細さによるものだ。
全身の毛を刈り取ることが出来れば本物の羊同様の残念な姿を現すのだろうが、エレメリアンに通用する刃物の持ち合わせはイエローには無い。
「レッド……」
せめてレッドがブレイザーブレイドを抜いてくれてさえいれば、記録映像で見たように自分がブレイドを借りて戦えましたのに……と神堂慧理那はテイルイエローに切断武器が無いことを悔やむ。
だが無いものねだりなどしてはいられない。毛が刈れないなら露出した顔面を狙えばいいだけだ。イエローは自分を奮い立たせて敵に立ち向かう。
「────いきますわ!!」
「────待て!」
そこで出鼻をくじくシープギルディの制止の声。
「いったいなんですの!?」
「私としたことが、テイルレッドたちを地面に寝かせたままにしておくとは……! 者ども布団を持てい! 二人を起こさぬよう優しく運ぶのだ!!」
テイルレッドとテイルブルーの愛らしい寝姿に心打たれたシープギルディは、アルティロイドたちに命じて高級そうな布団を敷かせ、レッドたちを寝かせようとする。
「お待ちなさい! わたくしが運びますわ!!」
大事な仲間を敵の戦闘員などに触れさせるわけにはいかない。
イエローは優しくレッドを抱きかかえると布団に横たえ、恋人同士なら一緒の方がいいだろうとブルーもその隣へ運ぶ。
スヤスヤと眠る二人へ掛け布団をかぶせ、ぽんぽんと優しく叩く。慈愛に満ち溢れた、聖母かと見紛う姿にシープギルディもうんうんと腕組みをして頷く。
もっとも、腕が短いうえに毛が邪魔をしてまともに腕が組めないため、胸を抱くようなポーズになっているのはご愛敬だ。
『ああ……並んでおねむのレッドたんとブルーたんかわゆ~❤』
「一番は小さな少女だが、大人の女の無防備な寝顔というのもまた良いものだ……」
同じくテイルミラージュも布団へ横たえ、やり遂げた顔のイエローはシープギルディ、アルティロイドたちと並んで微笑ましく三人の寝顔を観賞した。通信の向こうではトゥアールもメロメロ状態で涎を垂らしている。
「……さて、名残惜しいがツインテール属性を頂くとしよう」
「はっ!?」
鎌首をもたげたエレメリアンの本能が暖かな空気をぶち壊した。
そうだった。こいつらはツインテールを奪いにやって来た悪魔の使いなのだ。一緒になごんだり、ましてや緊張などしている場合ではない。
「レッドたちのツインテールは、渡すわけにはいきませんわ!!」
ヴォルティックブラスターを構え、シープギルディをキッと睨み付けるイエロー。
「そもそも眠り属性を持つ者がそれを失えば、ショートスリーパーになるなど健康面でも悪影響を及ぼしてしまう……私はその覚悟をもって戦っている!」
健やかな眠りを愛しても、目覚めには気を配らないのですか!? との問いに断腸の思いで答えるシープギルディ。
イエローはヴォルティックブラスターを連射してアルティロイドを薙ぎ払い、シープギルディに飛び掛かった。
角を掴んでの渾身の跳び膝蹴り────シャイニングウィザードが顔面に決まる。すかさず膝のスタンガンが高圧電流を放ち、無防備な顔面にダメージを与えた。
「うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
追い打ちを掛けるべく爪先のニードルガンが発射される。だがシープギルディが体勢を崩したせいで体毛に阻まれてしまう。
「頭部を狙って来るとは……だが同じ手は……」
「────まだですわ!」
テイルイエローの手に、奴の角は未だ握られたままだ。
彼女は大地を疾駆するチーターのようにしなやかに、力強くその脚をシープギルディの胸元へ右、左と振り下ろした。
次の瞬間、もこもこの体毛がポップコーンのように弾けた。両脚の徹甲弾が密着状態から火を噴いて、分厚い毛を吹き飛ばしたのだ。
白い羊毛の中にひときわ目立つ真っ黒な棒────シープギルディの胴体が顔を出す。ここまで体毛が欠けてしまっては、もはや真っ直ぐ転がることなど出来はしない。
「なんだとぉ!?」
「まだまだ終わりませんわよ! うわああああああああああああああああああああ!!」
角を握る手へさらに力を込めて、自転車でも漕ぐようにイエローは眼下の胴体へと
「ぐほぉっ……!」
無防備な貧弱ボディへ幾度となく蹴撃を喰らったシープギルディは、血反吐を吐いて仰け反った。そこへダメ押しの小型ミサイルが撃ち込まれ、イエローは爆風にツインテールを靡かせてその場を飛び退く。
「────今ですわ!
全身の武装がパージされ、空中に
「オーラピラー!」
陽電子砲以外の全ての火器が火を噴いて拘束ビームが撃ち出され、電光の捕縛結界が満身創痍のシープギルディをその場に繋ぎ止める。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ヴォルティックッ! ジャッジメントオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
主砲から放たれた推進ビームが合身巨大砲の正面へ身を躍らせたテイルイエローを一筋の雷光と化し、地上の咎人を打ち砕いた。
「テイルイエローよ……健全な睡眠生活を送るツインテールよ……その健やかな眠りを、絶やすでないぞ……!」
シープギルディは、健やかに眠るツインテイルズを見て満足そうに爆炎の中に散る。
「────ふう。後は眠っている皆さんを、連れて帰らなければなりませんわね」
『お一人では大変でしょう! 私もすぐそっちに行きます!! 帰ったらレッドたんブルーたんハァハァパーティーをしましょう!!』
現場に駆け付け、ブルーを背負いレッドを胸に抱いたトゥアールは、テイルミラージュを負ぶったイエローと共に満ち足りた笑顔で基地へ帰還した。
────結維さん、やりましたわ。わたくし、誰の助けも借りずに一人でエレメリアンを倒せましたのよ。
教室へ向かう慧理那は、窓の向こうに見える初等部の校舎へ向かってそう呟いた。
かつて自分の背を押し、テイルイエローの座を巡ってぶつかり合った年下の友人は、このことを知ればきっと祝福してくれるだろう。
放課後、それを告げる時が待ち遠しくてたまらない。
あの時の平手の味を思い返す慧理那の頬は、戦いの高揚ではない熱にほんのりと赤く染まっていた。
□□□□
次元の狭間に浮かぶアルティメギルの前線基地。
イースナの自室の奥から分岐した通路の先に、小さなラボがある。普段生活しているメインルームが、世界中のエロゲを掻き集めたかのような広大さを誇るのに比べれば、雲泥の差と言っていい面積の、小規模な彼女専用の研究室だ。
「イースナちゃん、出来たかー?」
がしょんがしょんと硬質な足音を響かせてやって来たメガ・ネプチューンは、作業の進捗を確認しにラボの中を覗き込む。
「もう少しじゃ、夜までには完成させるゆえ、夕飯の準備をしておいてくれ」
メガ・ネに掛けられた労うような優しい声に、振り向きもせずに答えるダークグラスパーはそのまま作業に没頭する。
「うん、頑張りいや」
その真剣な背中に激励の言葉を送ったメガ・ネはドアを閉じてその場を立ち去った。
「ふふ……見ているがいいテイルレッド、テイルミラージュ……」
がしょんがしょんと木霊する足音がドアに遮られるのと同時に、ダークグラスパーは一息ついて手近な椅子へ腰掛けた。
闇の支配者の視線が向けられた先に鎮座しているのは、巨大な熊の着ぐるみと完成間近の紅い衣だ。
アルティメギルによる悪魔の計画が、着々とカウントダウンを始めていた。
「この距離なら、バリアは張れないな!」
今回登場したシープギルディはオリジナルではなくEX2に登場したエレメリアンです。原作では当然のことながら変態パワーで逆転してました。
あと眼鏡属性、今作には都合でフクロウさん出なかったからね。文学属性の代わりにね。
ダーさんも「わらわの眼鏡は全てを見通す!」って言ってたし。
巨乳と貧乳みたいに、同じバリア系でも弾力で跳ね返す系と強固に防ぐ系で違いがありますから、個人的に文学属性とは上位互換気味に違うんじゃないかと思います。