個人的な意見ですが、眼鏡を取ったら美人とかいう唾棄すべきシチュエーションは、単にその眼鏡のデザインがダサいだけで、おしゃれなメガネかけたら普通に美人なメガネっ娘になると思うのですが如何か?
「テイルレッドよ……何故貴様がトゥアールのツインテール属性を持っている!?」
目にしたテイルレッドと善沙闇子の口論の中、善沙闇子がダークグラスパーであると知ってしまった俺は、目の前でその正体を露わにした彼女に言葉を失った。
その衝撃は筆舌に尽くしがたく、トゥアールが自ら俺にツインテールを託してくれたんだ! というテイルレッドの反論も、トゥアールを慕って居ながら何故アルティメギルに加担するのかという問いかけにも、満足に反応することが出来なかった。
「そうじゃの、その前に……ファイアフライギルディを倒したのは見事じゃった。隠居同然とは言え、あれほどの猛者は眼鏡属性のエレメリアンの中でもそうそうおらぬ」
今の今まで心臓を鷲掴みにされ、彫像のように固まっていた指がピクリと動く。先程ダークグラスパーの漏らした名前に、ようやく俺の身体が自由を取り戻してくれた。
「あいつを……倒したことを恨んでないの? あんたの一番のファンだったんでしょう?」
「あやつもエレメリアン……戦いで果てる覚悟はとうに出来ていよう。互いの属性力を振り絞った結果じゃ。そのことに関しては恨みなどない」
どうにか絞り出した言葉に対する回答で、彼女は決してエレメリアンたちを駒扱いなどしておらず、一人の戦士としてきちんと向き合っているのだと知ることが出来、俺は幾分救われた気がした。
「わらわは眼鏡を愛しておる。トゥアールと巡り合わせてくれたツインテールにも感謝はしているが、最も守りたいと願うのは眼鏡じゃ……じゃが眼鏡属性は、アルティメギルが奪うまでもなく世界から消えつつある。テイルミラージュよ、眼鏡属性の鎧を纏い、ツインテールだけでなく眼鏡属性を併せ持つ貴様ならその理由がわかるじゃろう」
その一言で、今までそこかしこで耳目にしてきた苦いものが胸中に浮かび上がる。
「ああ……コンタクトレンズやレーシックなどの、医学の発展による視力矯正……眼鏡を掛けない方がおしゃれだとか、眼鏡を取ったら美人だとかぬかす裸眼派の宣伝工作……」
「そうじゃ! テイルレッド、テイルミラージュ! 戦士として戦えるだけのツインテール属性を持つ貴様らなら、一度ならず同じ思いを味わったはずじゃ!!」
ツインテールもまた、子供っぽい髪型の代表として大人になるにつれて卒業されるものの一つだ。
ツインテールと眼鏡は似ている。
ファイアフライギルディは……ダークグラスパーが眼鏡属性の奪取を禁じたと語っていた。やはり彼女は、眼鏡を守るために戦っていたのか……?
「わらわがアルティメギルに与するための条件は、眼鏡属性だけは奪わぬこと! 無数の世界が遍く属性力を奪われつくしても、眼鏡だけは残る。この約束は、今まで一度たりとも違えられてはおらぬ」
その言葉を聞いて善沙闇子の歌詞が脳裏に浮かぶ。やはりアイドル活動は、眼鏡属性を拡散するために……! だけど、眼鏡だけが輝く灰色の世界で、お前は本当に満足なのか? それは本当にお前が望んだものなのか……?
少なくとも……同じく眼鏡を愛したDrオヴェルなら、きっとそんな世界は望まないだろう。
「────本気で言っているのか!? トゥアールやお前の
テイルレッドの言葉に、ダークグラスパーが動揺を見せた。
「お前なんかにトゥアールは……トゥアールのツインテールは渡せない! 渡してたまるか!!」
ダークグラスパーが憎しみか、悔しさか、ギリリと音を立てて歯ぎしりし、次いで射殺すような冷たい視線をレッドへ向ける。
「よく吼えるわ。その卑劣な作戦とやら、貴様も再現しておるだろうに」
ダークグラスパーは、何故テイルレッドが善沙闇子の正体や作戦を見抜くことが出来たのかを語る。それはツインテール属性を広めてきたツインテイルズの中核たる、テイルレッドこそが属性力拡散の旗手。
この世界最強の
「貴様とわらわ、何が違う? 属性を奪うか押し付けるかだけの違いじゃ! アルティメギルと何も変わらぬ!!」
「違う! ダークグラスパー……! この世界にツインテール属性が広まったのは、アタシたちが戦う目的の、結果でしかないんだ!!」
「俺たちは奪いも押しつけもしない! ただ守るだけだ!!」
ツインテールと
「とうに神となる覚悟は出来ておるか……」
「なんでそこまで大げさな話になるんだ!? 俺はツインテールが好きだ、今も昔もそれだけだ!!」
「レッド! ミラージュ!!」
そうこうするうちにブルーたちが木々の間を駆け抜けてやって来た。
「他の色も追い付いて来たか……これ以上の問答は無駄のようじゃの」
「まとめて葬り去ってくれよう────
妖しく輝く奴の眼鏡から放たれた光が∞の形を描いて俺たちを取り囲むのと同時に、意識が沈んでゆく。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
────光が逆流する。白い闇が全てを塗りつぶし、無地のキャンバスが見慣れた何の変哲もない日常を描き出す。
□□□□
気が付くと俺はいつもの通学路にたたずんでいた。
青い空には真っ白な雲が浮かび、歩道に目を向ければ髪をツインテールに結んだ子供たちが笑顔で駆けてゆく。
学校へ向かう男女が笑顔で挨拶を交わし、手を取って通学する姿。
主婦が夫を笑顔で仕事に送り出す光景……どこの町でも見られるだろう朝の一幕だ。
「おーい、結―!」「なんで先に行っちゃうのよー」
「ああ、悪い。少しぼーっとしてたみたいだ」
本当にどうしたんだろう? いつも一緒のこいつらを置いて学校に行くなんて、今日の俺はどうかしている。
恋香さんと結維も、途中まで一緒に登校していただろうに。
「結君、今日は私がお弁当作ったの。残さず食べてね」
「やだなあ恋香さんのお弁当残すなんて罰当たりな真似、出来るはずないじゃないですか」
「おにいちゃん、夜はわたしが作るから期待して待っててね!」
「おお、そりゃあ楽しみだ」
校舎が近づき、大学部と初等部に向かう二人と別れて俺たちは高等部へ向かう。
少しばかり寂しいが、恋香さんの手作りお弁当に結維の手料理という楽しみが出来た。今日はツイているなあ。
いつものように授業を受け、昼休みは会長も交えて部室で弁当を食べながらおしゃべりに興じ、仲睦まじい総二と愛香の微笑ましいやり取りを眺めながら帰る。
当たり前にある幸せな日常を噛み締め、俺の顔に笑みが浮かぶ。
何かが、足りない気がした。
だが、まあいいか。と気のせいだと片付けた俺は、最近とみに上達してきた結維の手料理に舌鼓を打つ。
食後は寄り添ってのんびりとTVを見、三人で風呂に入り、互いの身体を洗いっこする。美人の彼女と可愛い妹、仲のいい友達にも恵まれて、俺って本当にリア充だよなあ……
きっとあいつらも三人でワイワイ風呂に入ってるんだろうなあ……と思った途端、違和感に冷や水を掛けられた。
三人って……総二と、愛香と……いったい誰だ?
そのことに思い至った瞬間、脳裏に銀髪碧眼の美少女の姿がフラッシュバックする。
幼女が大好きで、愛香と正反対の抜群なスタイルで総二に迫っては、その度に愛香と俺にしばき倒される白衣の痴女。
総二のために自らの命の次に大事なツインテールを差し出して、二度とツインテールを結ぶことの出来なくなった悲しみを笑顔の内に秘めた少女。
何度叩き潰しても挫けず蘇り、総二が愛香と結ばれていると知ってもなお、諦めきれずに愛香を説き伏せ妾に収まった往生際の悪いシロバネギンイロゴキブリ。
────ちょっと! 最後だけ扱いがひどすぎませんか!?
……どこからか叫び声が聞こえた気がしたが、あんな個性の塊みたいなやつを忘れるとか本当に俺はどうかしている。
「トゥアールの愛は本物で、あいつらは三人が互いを想い合っているんだ……! それを忘れて心から締め出すなんて、やっていいわけないだろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
幻影が消え去り、周囲が混沌の闇に変わる。見渡しても黒い大気が波のように揺らめいているだけで、一寸先も満足に見通せやしない。
だが行先なんてわかり切っている。だって見上げればすぐそこで、あいつのツインテールが……太陽のように燃え盛っているのだから────!!
────俺のツインテールは……
闇の彼方から響く総二の叫びと共に、ツインテールの輝きが偽りの闇を打ち砕いた。
「テイルレッドといいこやつといい、カオシックインフィニットに飲み込まれなんだとは信じられん! ────うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
カオシックインフィニットの崩壊に、堪らず吹き飛ばされるダークグラスパー。
俺たちは……帰って来たんだ……このかけがえのない本当の日常に!!
『結君! 総くん! 愛香! ……みんな無事だったのね!? よかった……』
『おにいちゃあああん! 慧理那ちゃあああん! よかった……よかったよおおお!!』
恋香さん……結維……心配かけて、ごめんよ。
「そーじぃ、トゥアールゥ……二人いっぺんなんてこわれちゃうよぉ……あれ?」
「駄目ですわ結維さん……女同士なんていけませんわぁ……それにこんなところで、誰かに見つかったらどうしますの……あら?」
地面に転がり、くねくねと悶えていたブルーとイエローも目を覚ました。見せられていた幻覚の内容には触れないでおいてあげよう。
□□□□
目を覚ました俺たちは、同じく体勢を立て直したダークグラスパーと対峙する。
奴は闇を砕き散らしたテイルレッドの、世界最強でありながら未だ成長を続けるツインテールの果ての無さを称賛し、獰猛な笑みを浮かべた。
「ツインテイルズよ……貴様らの力、いささか以上に侮った……!」
ダークグラスパーは、フォースリヴォンと同じ機能があるのだろう眼鏡の縁をなぞり、漆黒の巨大な
「返礼に、我が
鎌の柄からもう一つの刃が飛び出し、処刑鎌は光の弦が張られた暗黒の弓へとその姿を変える。
放り捨てられたマントを支えていた骨組みが片翼となって右手に広がり、光の矢をつがえた奴の身体を空中へ浮かび上がらせてゆく。
オーラピラーを警戒して、レッドの叫びが飛ぶ。だがこちらを見下ろす奴はその必要すらない、目の前全てを的として完全粉砕してくれる! と豪語した。
暗黒の長弓が引き絞られ、完全開放された凄まじい属性力が光の鏃へ集束してゆく。
なんという常識外れのエネルギーなのだろう。解放前の余波だけで大地が震え、抉れ、巻き上がってゆくとは……
「あれは……やばいぞ……!」
あれに対抗するためには、俺たち全員の必殺技を結集するしか勝ち目はない。だが────
俺たちを捕えていた亜空間を焼き尽くしたテイルレッドには、もはや戦う力は残されていない。ブルーとイエローも、かく言う俺自身も、あの空間に捕らわれていたせいか、かなりの体力を消耗してしまっている。
それに加えて幹部級エレメリアンとの激戦を繰り広げた直後なのだ。もはや奴の一撃を防ぎきる余力など有りはしない。
俺たちはこのままなすすべなくやられてしまうのか……? 膝を着き、悔しさに地面を掴む俺は、ふとダークグラスパーへの対抗策に思い至る。
成功すれば全力の完全開放すら跳ねのけてお釣りがくる、起死回生の一撃だ。
だがその策は威力に比例して、周囲の被害も凄まじい……だが。
「三人とも、コイツを頼んだ。アタシの一撃が決まったらこれで
俺はレッドにエレメントバズーカを手渡す。
「おい、ミラージュ……何をする気なんだ!?」
『まさか結さん────アレを使う気ですか?』
「トゥアール、計算上は防ぎ切れることになってるんだろう? ギア自体は充分耐えられるんだ。もうこれしかないよ」
『わかりました。総二様、愛香さん、慧理那さん、使用する属性玉は────』
トゥアールが三人へ指示を下すのを尻目に、俺はダークグラスパーへ向かって最後の力を振り絞り、一直線に駆け出した。
「万策尽きたか? これで終いじゃ────ダークネスバニッシャー!!」
奴の構える弓から遂に必殺の一撃が解き放たれる。すかさず俺は右手に握る属性玉を右腰のエレメリーションキューブへ叩き込むと、天空にたたずむ黒き堕天使へ全力噴射で跳び上がった。
「
「ファイアフライギルディの力……? だが今更
俺の眼鏡属性とギアの眼鏡属性、そして属性玉の三つが疑似的ではない本物の共鳴を果たし、疲労を吹き飛ばすような熱が全身を駆け巡る。
まるで天井知らずに回転を上げるエンジンへ、ニトロを噴射されたレーシングカーにでもなった気分だ。疲れ果てていた両脚も、今や属性力の後押しを受けて力強く大地を蹴っている。
俺は迫りくる莫大なエネルギーの奔流へ向かってドロップキックの体勢を取ると、堪らず内側の熱を吐きだそうとする全身の装甲を意志の力で抑え込み、オーラピラーを足先へ照射した。
全身に眼鏡属性の力を漲らせ、拘束エネルギーを纏った両足が、錐揉み回転しながらダークネスバニッシャーとぶつかり拮抗する。
「この出力はまさか貴様────属性力の三重共鳴を!?」
「大正解だよダークグラスパー────脚部装甲、開放!!」
限界まで抑え込まれ、暴発寸前となっていた属性力が出口へ向かって我先にと殺到した。拮抗していた両者の天秤が一気にテイルミラージュ側に傾き、ダークネスバニッシャーのエネルギーがたちまち射手の元へ押し戻されてゆく。
「────サンライズッ! ジャッジメントオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
その名を俺は意識するまでもなく口にしていた。それは暗黒の闇夜を切り裂く黎明の光。地に遍く存在する万物を照らし、裁きを与える太陽の一撃だ。
太陽────その言葉に、つい先ほど闇を切り裂き光をもたらした
『────
「「「エレメントバズーカッ! ファイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」
エレメントバズーカを構えたテイルレッドたちが、指示通りの組み合わせでこちらへ砲撃を撃ち込んでくれた。今回の巨乳属性と貧乳属性は、リヴァイアギルディとクラーケギルディの物。持ち主と同じく、強固なバリアを発生させてくれるのだ。
必殺のキックがダークグラスパーに届くのと同時にバズーカの一撃も着弾し、捕縛結界と二種類の防御膜、拘束力場の四重結界が俺と奴を取り囲む。
直後に解放された全エネルギーが結界を満たし、視界の全てを閃光が覆い隠した。
浮遊感、そして落下────捕縛結界が役目を終えて消失したのと同時に、俺たちはそのまま地面へと転がる。
三重共鳴が解除されたエレメントギアは無事、体にも怪我は無い。だが今度こそ体力を根こそぎ使い果たして満足に動けないうえに、何やら胸元がモゾモゾと蠢いている。
それはうつ伏せになった俺の爆乳に顔面を圧迫され、苦しそうにもがいているダークグラスパーだった。
「……悪い、今どくから少し待ってて……せー、のっ!」
流石に胸に潰されて窒息なんていうのはあんまりな最期だろう。俺は武士の情けでどうにか寝返りを打ち、彼女を解放してやる。
「ぶはぁ! なんていう殺人的なおっぱい……し、死ぬかと思った……」
「ええっ!?」
『────あら』
「なんで裸なのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
『そんなストライクゾーン外れた貧相な裸なんて見せないでくださいこの痴女! 露出狂! 変質者!!』
『屋外で! 裸の女の子押し倒して! おにいちゃんのケダモノおおおおおおおおおお!! あとでわたしにもしてくださいお願いします!!』
予想外の光景に総二が目を剥き、その場にいた愛香から、基地のトゥアールと結維から、三者三様の絶叫が飛ぶ。
全裸というだけでなく、顔を赤らめ、酸素を求めて呼吸を荒げる姿の色っぽさに目のやり場に困った俺は、上体を起こして視線を逸らすとポーチからタオルを取り出して彼女に掛けてやる。
「ほら、これでも巻いてろよ」
「あ、ありがとう……はっ!? め、眼鏡……私の眼鏡が無い!?」
自らが裸眼であることに気付き、慌てて周囲をやすしサーチし始めるダークグラスパー。だがその言動は普段の自信満々な物とは程遠い、おどおどした陰性な雰囲気を纏っていた。
これじゃあまるで、さっきレッドと言い争っていた時の……
「変身が解除されて、イースナに戻ったのか……」
レッドの言葉に、なるほどこれが彼女の素だったのかと得心がいく。いつぞやのトゥアールとの会話でも、変身中は性格が変わっていると言っていたのを思い出した。トゥアールの隣にふさわしい本当の私、デビューだったか……
でもあれだけの爆発だったからなあ……壊れてないといいけど。と俺も探すのを手伝ってやると、程なくして無傷の変身眼鏡……名前は確か
「めがね……メガネ……私の眼鏡……」
涙すら滲ませて、ひったくるように神眼鏡を受け取ったイースナは、眼鏡を掛け終えるやこちらをキッと睨み付け、恨み節のように糾弾を始める。
「テイルミラージュ……あなたは、裸眼の私を……トゥアールさんにも見せたことのない恥ずかしい姿を見ました……! この恨みは……いつか必ず晴らしてやります……!!」
「いや、裸を見られたの間違いじゃないのか? お、女同士だけどさ……」
「私たち眼鏡を愛する者にとって……眼鏡は心臓と同じ……たとえ裸になろうとも……眼鏡だけは外さない……!!」
流石はトゥアールの同郷。話がすこぶる噛み合わない。それとも理解できないのは、俺が彼女のように眼鏡属性の頂にたどり着いていないせいなのか?
総二の奴は敵ながら見事な心意気だ! なんて感心して愛香に突っ込まれているが。
眼鏡って、汚れたり曇ったりしたら人前でも外して拭くよなあ……?
『今ならイースナは無力です! さっさと取り押さえてギタギタにしちゃってください愛香さん! 普段私にしてるみたいに! 私にしてるみたいに!!』
変身を解除されたイースナと、ギアを維持している俺たちという状況にも関わらず、彼女は怯えるどころか逃げ出す素振りすら見せない────後ろから!?
耳に届く轟音に振り返れば、迫りくるは蒼穹を切り裂いて飛ぶ白銀の流星────既存の物ではありえないデザインのジェット戦闘機が、翼の先端からビーム機銃と形容すべき光弾を矢継ぎ早に撃ち放ってテイルブルーの接近を阻むと、イースナの上空で滞空しその姿を変える。
翼が折りたたまれ、各部が展開。鋼鉄の手足が現れたかと思うと胴体中央から頭部がせり上がり、陽光に輝く鋭いツインテールを備えた人型ロボットが俺たちの前に降り立った。
そのバイザーアイに灯が点り、一歩、また一歩と白銀のロボットは俺たちの元へ歩を進める。
「“彼女”はメガ・ネプチューン……私の……唯一人の相棒……!」
なんてことだ……二度にわたる激戦を乗り越えて、更なる敵の増援とは! ここまで鳴り物入りで出てきたのだ、その戦闘力も並みのエレメリアンと比べるようなレベルではないのだろう。
こうなったらもう、どうにか注意を逸らして退却する以外に手立てはない。バズーカはまだ撃てても、これ程消耗しきった状態では反動に耐えられそうもないからだ。
レッドもまた、ブルーとイエローだけでも逃がそうとしていたが、メガ・ネプチューンと呼ばれたロボットは、あまりにも予想外過ぎる行動をとった。
「初めまして~イースナちゃんがお世話になってます~」
「…………………………………………………………………………………………………は?」
衝撃の余り眼鏡がずれた。何故俺たちにぺこぺこ頭を下げる?
「ほんまごめんなぁ、この子友達おらんから遊んでくれる子らに粘着質で……」
せやから余計に友達なくすのになぁ~と漏らすメガ・ネプチューンへ、余計なことは言わなくていい! と噛みつくイースナ。
なんだこれ。ツインテール以外、女性型にはとても見えない外見からは想像もつかない、子役のアイドル声優ばりの甲高い声に似非関西弁……本当に何なんだこれ……?
俺たちは突如目の前で展開された、母親と反抗期な娘の一幕にどう反応していいのか考えあぐねていた。
「あら……タオル、どうもおおきに。きちんと洗濯して返しますよって」
「ああ、どうもご丁寧に」
警戒してたけど、いい人だなこのロボット……
「テ……テイルレッド……テイルミラージュ……あなたたちを、私の好敵手として認める。トゥアールさんのことはもうとやかく言わない……受け継いだそのツインテール……しっかりと使いこなしてくれれば……」
「言われるまでもねえ」
「そしてテイルミラージュ……私の裸眼を見た罪はいつの日か必ず償ってもらう……その眼鏡と……おっぱいを洗って待っているといい」
俺たち二人にライバル宣言し、陽光を反射するレンズの奥からねちゃりと水音がしそうなほど粘着質な視線を投げかけてきたイースナは、メガ・ネプチューンの取り出した文庫本程の大きさのシールを俺たちに手渡した。
おお、メガ・ネプチューンの腹部にも収納スペースが……と俺はつい場違いにも感心してしまう。
「好敵手なら……アドレスを交換するのは当然……登録したらすぐにでも送ってほしい。二十四時間……いつでも受けて立つ……」
QRコードのシールを寄越したイースナは、フヒヒと陰気な笑みを浮かべてそんな重苦しい台詞を吐くと、戦闘機ではなくバイクへと変形したメガ・ネプチューンによっこいしょと跨り、砂塵を巻き上げて走り去ってゆく。
「恐ろしい相手だった……」
「ああ……これから先、もっとツインテールを磨かないとな……」
歪んでしまってはいるが、守りたいもののために戦う奴の信念の強大さを目の当たりにした俺たちは、決意を新たに果てしない大空を見上げた。
気が付いたら眼鏡ふっ飛ばして変身解除させてました。
でも原作通りのフラグなんてこの作品では立ちません。
でもかわいいイースナは描きたいので頑張らなくちゃいかんのじゃぜ。
三重共鳴の使い道その1。
流石にオーラピラーにバリア系属性玉三つ重ね掛けすれば戦略核並みの爆発でもどうにか保つかなあと。