その日の夜、愛香は自室でトゥアルフォンを手に友人に珍しく愚痴を吐いていた。
「そーじったら、結と一緒に善沙闇子のライブに行くんだって。チケット取れなかったならまだしも誘ってくれもしないってなんなのよもう! ……結は結でおねえちゃん放っていくし」
『あははは……たまには男同士で楽しみたいこともあるでしょ? 代わりに買い物にでも付き合おうか?』
「ありがと
相手は他のクラスの同級生、
胸も寂しいもんね。と言いたくなるのをグッと堪え、電話の向こうの都波は愛香と総二の近況を根掘り葉掘り聞きだそうと躍起になる。
「……今失礼なこと考えなかった?」
『考えてない考えてない』
恐るべし蛮族の直感。
『と・こ・ろ・で~、観束君との夫婦生活はどんなものですかな? あの婚活魔人桜川先生相手に啖呵切ったって学校中で噂になってるよ。それに観束君、トゥアールさんとも付き合ってるんでしょ? 三人でしちゃったりとか、経験済みかな? ん~?』
「うぇ!? それは……その……うん、三人で、しました」
『さあその話詳しく!』
電話越しに迫る友人に押され、赤面しながら自らの体験談を告白する愛香。
『ふぁっ!? 観束君が非処女に!? おお……マジですか……』
「うん……されてる時のそーじ、可愛かった……❤」
予想外のカミングアウトにキター! とテンションを上げる友人に、愛香はもじもじしつつも女体化しただの棒を生やしただのという非日常な情報を伏せて語り、互いに大いに盛り上がる。
その後、大学部に通う都波の姉豊美得は、都波越しに総二と結の関係を聞きつけて妹に更なる情報提供を求め、腐敗した方御用達の開通済みの男子高校生という極上の餌に事実ほったらかしで妄想たくましくするのだった。
そうやって事実は捻じ曲げられ妄想が取って代わり、近い将来腐敗臭を放つ大輪のオバケコンニャクが咲き誇るのだ。
もっとも、彼らが日常的な女体化経験者だと知れ渡ればお腐れ様だけでなくTS派のみなさんもアップを始めること請け合いなのだが、そんな未来は永遠に来ないだろう。
□□□□
善沙闇子初の野外ライブ。当然のことながら数万人を収容できる会場は日中開催でも超満員。一か月足らずでここまでのし上がるアイドルなんてそうそう居るものではない。
今までアイドルや芸能人に夢中になったことは無いし、当然ライブやコンサートに行った経験もない。そんな俺が突然善沙闇子のライブに行くと言い出したのだ。愛香もさぞ驚いたことだろう。
本音を言えば愛香たちとも一緒に行きたかったのだが、確証が持てるまでは下手に正体を話したり、巻き込むのはやめた方がいいと思ったのだ。
俺自身、ツインテールのアイドルがここまで人気になるのはとても素晴らしいと思うし、その活躍を見るのも好きだ。だがそれが敵では素直に喜ぶことなど出来ない。
彼女の正体を知らずに、隣で他の観客と一緒に熱狂している結がうらやましかった。
────ツインテールよ……どうか俺にご加護を!
周囲の観客は全て眼鏡、見渡す限りの観客もほぼ眼鏡といった状況の中、恐るべき電波ソングに洗脳され、場の熱狂に飲み込まれそうになるのを必死に耐えながら俺は善沙闇子の動向を見守る。
結の隣にいる着ぐるみのファン──彼が言うには、以前のイベントでも一緒だったげんぺー君という非公式マスコットらしい──も、眼鏡を掛けたデザインだ。
そのクオリティは随分気合が入っている。とても素人の手によるものとは思えない。
会場の熱気が最高潮に達し、観客が一斉に立ち上がった瞬間────事件は起こった。
歓声の中、周囲からざわめきが聞こえたのでふと横を見てみると、げんぺー君の頭が小さくなっているのが見えた。
立ち上がった際、なにかの拍子に着ぐるみの頭が外れてしまったのだろう。
どこからどう見てもエレメリアンだった。
「アルティメギルだー!!」
遅まきながら事態に気付いた誰かが悲鳴を上げる。それが引き金となり周囲は潮が引くように無人と化した。
いくらエレメリアンがなめられているとはいえ、いきなり目の前に現れればパニックになる。ステージの上の善沙闇子も、媚び媚びな悲鳴を上げてすでに逃げ去っていた。
「……げんぺー君は……エレメリアンだったのか……」
結は酷くショックを受けて呆然としているが無理もない。仲良くなったファン仲間の正体が、死闘を繰り広げていた敵だったのだから。
「逃げるぞ結!」
俺は結の手を引いてその場から駆け出し、トゥアールに連絡する。こうなれば周囲への気遣いは無用なので迷わず電話だ。
「トゥアール、エレメリアンが現れた! 場所は善沙闇子のライブ会場だ!!」
『ええっ!? こちらには反応がありませんでしたよ!? わかりました、すぐ愛香さんたちにも連絡します!!』
逃げる観客の有無を確認した俺たちは、手ごろな物陰に隠れて変身を敢行した。ギャラリーを巻き込む心配がないなら思う存分戦える!
「現れたなエレメリアン!」
「……………………ツインテイルズか」
無人となった観客席で一人、もはや善沙闇子が戻ってくることもないステージを眺めて呆然と佇むエレメリアンは、呼ばれてようやく俺たちに気付いたのかうつろな目をこちらへ向けた。
「何を企んでいたか知らないが、ダークグラスパーの作戦もここまでだ!」
「作……戦? いったい何の話だ? 拙者はただ闇子ちゃんのライブを観に来ただけでござる。彼女の応援以外に他意はござらん」
「……なんだって?」
「お前……善沙闇子の属性を狙って観客に紛れていたわけじゃないっていうの?」
“ただ応援に来ただけ”という予想外の答えに俺は戸惑いを隠せず、押し黙っていたテイルミラージュもようやく口を開く。ファン仲間と思っていた相手に裏切られたばかりだったせいもあり、どこか口調もツインテールも刺々しい。
「拙者の名はファイアフライギルディ。ツインテイルズよ、少し拙者の話を聞いてはくれぬか」
そう言って席に着いたまま口を開いた蛍のエレメリアン、ファイアフライギルディは、現在アルティメギルではダークグラスパーの着任以来、眼鏡属性の奪取は禁じられているという衝撃的な事実を語った。
「なんだって!? じゃあお前は、属性力も奪えないのにわざわざ出て来てるっていうのか……?」
「然り! 同朋の中にはそのことを苦々しく思っている者も確かに居よう。だが拙者は! ダークグラスパー様……や闇子ちゃんの眼鏡が輝くさまを見られるだけで満足なのでござる!! ────今まで正体を偽ってはいたが、その言葉だけは拙者の眼鏡属性に賭けて微塵も嘘偽りはござらん!!」
属性力を奪うことをせず、属性を愛でるだけで満足するエレメリアン……そんな存在が本当に居たのか。しかも、それはまるで………………
「あんた……ダークグラスパーや善沙闇子が本当に好きなのね」
────まるで、彼女に恋してるみたいだ。
自身の属性ゆえに敏感に感じ取ったのだろう。幾分態度を軟化させたミラージュが、ファイアフライギルディの気持ちを言い当てた。
「こ、恋!? エレメリアンの拙者が……人間に……恋」
そう言われて初めて自分の気持ちに気付いてしまったのだろう。ファイアフライギルディは蛍らしく、尻尾の先端を混乱を表すかのように激しく明滅させる。
だが程なくしてその輝きはフッと力無く失せてしまった。
「だが……拙者はエレメリアン。人間の彼女と結ばれる道理などござらん」
彼女との間に、種族の壁という障害が立ちふさがっていることを自覚してしまった彼は、絶望に打ちひしがれたかのようにうなだれる。
なんだか可哀想に思えてきたなあ……と胸を罪悪感がチクチクと刺激する中、こちらも気持ちを押さえられなくなったらしいテイルミラージュが詰め寄った。
「あきらめるな! 種族の壁がなんだ!! ……あんたは向こうじゃダークグラスパーとはどういう間柄なの? まさかただの部下で、話もろくにしたことが無いなんて言わないよねえ?」
「そんなことはござらん! 拙者はダーちゃん様の数少ないメル友で、あの方も認める忠実な下僕だと胸を張って言える所存にござる!!」
ファイアフライギルディは、熱くなるあまりダークグラスパーが基地ではエレメリアンたちに恐れられてぼっちだとか余計なことまでべらべらと話してくれた。
トゥアールのストーカーだったそうだし、きっと人付き合いが苦手で適切な距離感がつかめないのだろう。
「よし! なら話は早い。あんたがアイツと悪くない関係だっていうんなら、何か理由付けて闇子ちゃんのライブに連れて行けばいいのよ! ……着ぐるみは新調しなくちゃいけないけど」
ツインテール好きが
好きな人と好きなものを共有できるのは確かに素晴らしいと俺も思う。だが問題は、善沙闇子とダークグラスパーが同一人物の可能性が高いことなんだよなあ……
時折り言いよどんでいたファイアフライギルディはもちろん知っているのだろうが、正体を知らずに張り切る親友へ、言い出したくても言い出せないもどかしさがなんとも歯痒い。
「……テイルミラージュ殿、お心遣い感謝する。しかし闇子ちゃんのライブをぶち壊しにした拙者にダーちゃん様の愛を得る資格などござらん! せめてもの償いとして、貴殿らのツインテールをあの方に捧げて見せようぞ!!」
だが人を襲わないエレメリアンと俺たちの和解という希望はあっけなく摘み取られた。それだけライブを台無しにしてしまった苦悩は根が深かったのだ。
「────やっぱりエレメリアンなんて結局こうなるのね! 償いならあの世で好きなだけやってなさい!!」
「「うわ────────!?」」
「いいんちょうっ!!」
天空から降り注いだ蒼き流星が、衝撃波を伴って着弾しファイアフライギルディもろとも俺たちを吹き飛ばす。
『すいません総二様、イースナをそいつに押し付けられたらだいぶ平和になるなあとつい成り行きを見守っていました』
やけに静かだったのはそう言うわけか。だが気持ちはわからなくもない。
そこへやや遅れて髪紐属性で飛んできたイエローも加わり、ツインテイルズのフルメンバーが出揃った。
「全員揃ったかツインテイルズよ……相手にとって不足はない! いざ尋常に勝負!!」
もはやこれまでと着ぐるみを強引に破り捨て、首に下がっていたペンダントらしきものを放り捨てたファイアフライギルディが戦闘態勢をとる。
途端に膨れ上がり俺たちを圧倒する気迫に、ツインテールがびりびりと震えた。この迫力はまさしく幹部級エレメリアンのそれだ! まさかこれだけの属性力を隠蔽しながら、ライブで盛り上がっていたっていうのか……?
『属性力の反応が急上昇しました、おそらくあのエレメリアンは、こちらの認識攪乱と同じものを持っていたようです!』
「ライブで熱狂しても気付かれなかったのはそういうカラクリか……」
おそらくあのペンダントがそうなのだろう。ミラージュも奴の正体が熱狂していながらバレなかった理由に納得している。
「行くぞファイアフライギルディ!!」
先手必勝と呼び出したブレイドによる大上段からの振り下ろし。だが流石は幹部級、それはやはりと言うべきか、容易く受け止められた。だがそれを受け止めたのは意外にも────
「サ……サイリウム!?」
ライブ会場でファンたちが振っている発光棒、サイリウムが奴の両手に握られ、さながら二刀を交差させて防ぐようにブレイザーブレイドを阻んでいる。
「幾多の世界でダー……眼鏡アイドルを応援し続けてきた拙者のサイリウム捌き、甘く見てもらっては困るぞ?」
アルティメギルの科学力の産物なのか、こちらの一撃を容易く防ぐそれに困惑した隙を突いて奴の翅が勢いよく開いた。
甲虫特有の硬い
「
尻の発光器官が放つ閃光が、レンズを通して無数のレーザーとなって俺たちを襲う。
「「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」」
フォトンアブソーバーの加護もあってどうにかダメージは抑えられたものの、数えきれないほど降り注ぐ光条のシャワーに全員が吹き飛ばされた。直撃しなかった余波が観客席を切り裂き、穿ち、瓦礫の山へ変えてゆく。
「……なんて火力だ」
「ここまで飛び道具に特化したエレメリアンなんて、初めてじゃない……?」
「火力には火力! わたくしが迎え撃って見せますわ!!」
すべての武装を展開したテイルイエローが、目標へ向けて一斉にビームやミサイルを撃ち放った。雷光が轟いて砲弾が飛び、バルカン砲が唸りを上げる。
装甲という戒めを解かれた無数の砲火が閃光の豪雨とぶつかり合い、空中に爆炎の花を咲かせてゆく。
銃火と閃光の応酬。無尽蔵かと思われる高エネルギー同士の大激突。彼女が初めて見せる、本気の全力全開射撃の反動でテイルイエローはじりじりと後方へ押し出されていった。その様はまるでレーザーや弾幕同士が巨大な手となって押し合っているかのようだ。
「まだですわ!」
不意にイエローのツインテールがしなるや、先端の縦ロールをドリルと化してアンカーのように後方の地面へ突き立った。硬質化したツインテールがつっかい棒となり、連続射撃の反動をしっかりと支える。
すごい……会長のツインテールにはどれだけのポテンシャルが秘められていたんだ……ツインテールの勇姿に俺は、胸の奥から込み上げる熱いものを感じた。
『慧理那ちゃん────頑張れ!!』
基地の結維ちゃんの応援が、会長のツインテールを後押しした。
通信越しに耳に届く友の
もはや鉄風雷火の嵐。ファイアフライギルディ側に傾きかけていた天秤は五分に収まり、やがて膠着状態を打ち破るテイルイエロー側の反撃が始まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「たああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ツインテールの支えもあってか連射速度が一際増し、迎撃され続けていたミサイルが遂に奴の元へたどり着く。
「しまった! ぬおおおおおおおおおおおお!?」
炸裂、轟音と共に爆炎に包まれるファイアフライギルディ。無論レーザーの途切れたその隙を逃すイエローではなかった。
「これがっ! わたくしの
すかさずアンカーを引き抜いて跳び、エクセリオンブーストを全開にして間合いを詰め、撃ち尽くした武装を一斉にパージしたイエローは、空中前転による遠心力を加えた跳び蹴りをエレメリアンへお見舞いする。
「ヴォルティックジャッジメント・ドロップですわああああああああああああああ!!」
本来なら
だが彼女の技はそこで終わりではなかった。敵を蹴った反動で再び跳び上がったイエローは、宙を舞う装甲パーツを蹴って方向転換、ビリヤードの球が弾かれるように次々と連続キックを喰らわせてゆく。
くるくると縦横無尽に宙を舞うツインテールに目を奪われそうになるほどの華麗な技がエレメリアンへと炸裂した。
会長のツインテールも、成長を続けているんだな……俺も負けてはいられないぜ。
「……………………はふぅ」
熱い息を吐いたイエローが着地し、装甲パーツが地に落ちるのと同時に、度重なる蹴撃を受け続けたファイアフライギルディもまた膝をついた。
「……流石はツインテイルズ、聞きしに勝る強さでござるな」
「まだ、生きているのか!?」
よろめく奴の甲殻はそこかしこが傷つき、軽傷とはとても言えないダメージを見せており、先程まで猛威を振るっていた無数の眼鏡が鈴生りとなった後翅は無残にちぎれ、周囲にフレームやレンズの破片を散乱させている。
「でも終わりだ! オーラピラー!!」
「完全開放────エグゼキュートウェイブ!!」
これを好機と俺はブレイドを振るって火球を放ち、間髪入れずにテイルブルーが完全開放したランスを擲った。
「だが拙者の武器がレーザーだけだと思ったら大間違いでござる!!」
だがファイアフライギルディは両手に握るサイリウムを振るい火球を、そして飛び込んできたウェイブランスをあっさりと切り払う。
「なんだと!?」「そんな!?」
「眼鏡剣法! 日食の舞!!」
左右のサイリウムに満身創痍の身体から搾り取ったような属性力が……いや、ダークグラスパーへの情念が集まり炎となって燃え上がった。
二振りのサイリウムは赤と黒、対極的な二色の炎の剣と化して振るわれ、円月殺法を両手で行うかのように太陽と月、二つの円環を左右鏡合わせの軌跡で描く。
日食の名の通り、そのまま交差させるよう中央へ振るわれた双剣から、テイルミラージュのオーラピラーを思わせるメガネ状のエネルギー弾が放たれ俺たちに迫る。
『────
避けきれずに着弾するかと思った刹那、エレメリーションキューブを作動させたテイルミラージュがロングロッドを構えて眼前へ割り込み、発生させた防御フィールドでエネルギー弾を天高く弾き飛ばした。
使用された属性と、そのボヨヨンという効果音にテイルブルーの眉間にしわが寄る。
「ファイアフライギルディ……あんたの相手はこのアタシだ!!」
友達になれるかもしれなかったエレメリアンとの和解が成らなかったことで気に病んでいるのかと思ったが、もはや彼女のツインテールには微塵も迷いが見られない。
「よかろう! 貴殿の眼鏡と拙者の眼鏡を賭けて、いざ勝負!!」
□□□□
ファイアフライギルディの必殺技からレッドたちを守った俺は、ロングロッドのエレメリーションキューブへ兎耳属性を叩き込んで投げつけた。
本体側で使えばジャンプ力の強化につながるそれは、武装側で使えば跳ねる兎さながらの強力なバウンド効果を発揮する。
「ぬお!? 小癪な!!」
不規則に跳ねまわり四方から襲い掛かるロングロッドを迎撃しようと双刀を振るうファイアフライギルディ目掛けて、俺はポーチから引き抜いたミラージュライフルを完全開放して撃ち放つ。
「プリズムシュート!!」
「甘いわ!!」
もちろんツインテイルズ三人分の攻撃を耐え凌ぐ程の実力者相手にあっさり通用するなど思っていない。両手のサイリウムがプリズムシュートを切り払うとともに、俺はすかさずオーラピラーを撃ち込んでいた。
「な……なんとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「ファイアフライギルディ……たとえ敵でもアタシは……あんたに逢えて、人を襲わないエレメリアンも居るんだと知れて良かったと思ってる。結局はぶつかり合うしかなかったけど、全身全霊でぶつかり合ったこの結果に悔いなんて無い!」
光の檻に捕らわれたファイアフライギルディに、せめてもの言葉を送る。
「テイルミラージュ殿……………………?」
「だから最期は……アタシの全力全開、手加減なしの最大火力で送ってあげるよ」
「ああ……存分に参られよ! 眼鏡のツインテール戦士に討たれるなら本望! そしてもしダークグラスパー様に会ったなら伝えてくだされ! ファイアフライギルディは……最期まで勇敢に戦い見事に散っていったと!!」
「約束するよ! ────げんぺー君!!」
ポーチから2m程もある四角い大砲、エレメントバズーカを取り出すと、後部の尾栓を引き出し属性玉を三つ装填。押し込んでハンドルを回し、ロックする。
『
ガイド音声の響きを耳にしつつ、俺は装填の終わったエレメントバズーカを小脇に抱え砲口を目標へ向けた。
後部側面の円形加速器が唸りを上げて属性力を純粋な破壊力へ変換してゆくのを肌で感じながら、俺は叫びと共に右手で側面グリップのトリガーを引いた。
「エレメントバズーカッ! ファイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
砲口からエレメリアンをすっぽり覆い隠せるほど極太の光条が吐き出され、俺は背部スラスターを全力噴射してその反動に抗う。
「!? そうか……貴殿は────」
ファイアフライギルディは、俺がげんぺー君と呼んだことに一瞬目を剥いたものの、真実を悟ったのだろう。そのまま安らかに目を閉じて、迸る光の柱の中へ消えてゆく。
────いつの日か、違った形で出会えますように。
一瞬俺は、彼が飲み込まれた閃光の中に、善沙闇子と同じスタイルのツインテールを結んだ見知らぬ眼鏡の少女の姿を幻視した。
それは感傷と眩い爆炎が見せた刹那の幻だったのだろうか……?
「三つ分は流石に街中で使うには危な過ぎるな……」
跡地に残されていた眼鏡属性の属性玉を拾い上げた俺は、初披露されたエレメントバズーカの威力に戦慄する。
捕縛結界で抑えられていてなお直径10m弱のクレーターが生じていたのだ。ここが野外会場だったから良かったものの、剥き出しのまま使っていたら射線上の物がどうなることかわからない。属性力の途方もないエネルギーを俺たちは改めて実感した。
不意にテイルレッドが何かに気付いたのか会場の外へ向かって駆け出してゆく。
金網の向こうに人影……闇子ちゃんだ。ってちょっと待て、3キロは離れてるぞ? ギアのお陰で視力が増してる俺たちならともかく、一般人の彼女が望遠鏡もなしにそんな遠くからこっちを見てるっていうのか!? しかもなんだあの射殺すような目は?
「ちょっと! あんたまでどこ行くのよ!?」
ブルーの声を背に受けつつ慌てて俺も後を追い、歩き出した善沙闇子へ向けてレッド共々駆け出してゆく。
「……善沙────ダーク────」
「……やっぱり────トゥア────レッド」
会場から程離れた森の中、テイルレッドと善沙闇子が何やら言い争っているのを見かけた。まだギア越しでも聴き取れはしない距離だ。だが彼女からはアイドル特有のオーラが完全に消え去り、表情も普段とはかけ離れた陰鬱さと、湧きあがるような憎しみを撒き散らしている。
避難もせずに遠くからこちらを見ていたことといい、闇子ちゃんの様子がおかしい。いったい二人に何があったというんだ……?
「────許しません……あなたは私の……トゥアールさんのツインテールを……大切なものを無理矢理奪ったんですね!!」
駆け寄ってゆくと彼女の口から信じがたい言葉が飛び出した。なんでトゥアールの名前が出てくるんだ? まさか、嫌だ、そんなはずはない……
駆けてゆく足が加速度的に、鉛のように重さを増してゆく。
そんな俺の内心などお構いなしに、とても信じがたい、悪い夢だと頭から否定して信じることを拒絶したくなるような光景が視界に飛び込んでくる。
「────グラス・オン!!」
眼鏡のブリッジを指で押し上げた彼女が
だがそんなものを見たことのある者が果たしてこの地球に存在するだろうか? 赤でも青でも黄色でも、まして銀色ですらない“黒い光”などという存在を。
あらゆる色彩を塗りつぶす闇の衣を身に纏う彼女は、遂にその全貌を露わにした。
「わらわはトゥアールを追い求めこうして戦士となり、世界を渡った! 答えるのじゃテイルレッドよ……何故貴様がトゥアールのツインテール属性を持っている!?」
善沙闇子が、ダークグラスパー………………?
余りに衝撃的な現実に足元が崩れ落ちそうな感覚を味わいながら、俺は二人のやり取りをただ眺めているしかできないでいた。
フュージョニックバスター? そんなものウチにはないよ。お犬様も出ません。期待してた人ごめんなさいね。
いや~やっとエレメントバズーカ使えましたわー。
あと牧須豊美得先輩は腐ってるから、都波ちゃん経由で総二と結の情報が入ったら絶対ネタにしそう。で、コミケで知り合いにバレて真っ青になるのだ。
ジャーン! ジャーン!
「げっ、津辺先輩と神堂さん!!」って感じに。
つーか都波ちゃんの出番もっと増えろ。貴重な名前有り一般人友人枠なんだから。