俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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原作で眼鏡属性のエレメリアンが出ないのは何故なんでしょうね?
規制されてたダーさん時代ならともかく、イースナが善堕ちした今なら出てきてもいいと思うんですが。


第二十話「輝け! 眼鏡アイドル!!」

「────というわけで、お母様の誤解を長友君たちが解いてくださったのですわ」

「わー、望まない結婚をぶち壊しにするとか少女漫画みたーい……おにいちゃんがその当事者ってのがものすごく釈然としないけど」

 朝、家出以来すっかり結維さんと一緒に登校するのが日課になってしまったわたくしは、お母様と仲直りをして神堂の家に戻ってからも、こうして通学路を連れ立って歩きながら結婚騒動の顛末を話しておりました。

 みんなのヒロインであるテイルミラージュの言葉なら、とわたくしの事情をお母様が酌んでくださり、見合いの話が取りやめになったのは幸いでしたわ。

 けれどケルベロスや真なる闇の女王(オプスキュリィ=レイヌ)とはいったい何のことなのでしょう? お母様に訊ねても笑顔ではぐらかされるばかりで、教えていただけませんでしたわ。

「あ、結維ちゃんおはよー! 今日も慧理那ちゃんと一緒なんだ、おはようございます!!」

 校舎に近づくにつれ、初等部のお友達がちらほらと見えるようになり、わたくしたちは口々にあいさつを交わします。

「それにしてもさ……トランペットと共に登場とかどこの昭和ヒーローよ……おにいちゃんが兄さんになっちゃったじゃない」

「あの時の風を切るようなトランペットの勇ましいメロディー……結維さんにも聴かせて差し上げたかったですわ」

「くそー、家じゃあ近所迷惑になるからお願いしても吹いてもらえないじゃん! うーらーやーまーしーいー!!」

 ころころと変わる結維さんの表情を見ていると、ほんのりと胸の奥が温かくなります。

 テイルイエローの座をかけて競い合ったライバルで、わたくしの背中を押してくださった恩人で、大事なお友達。

 ────神堂の女は他人にツインテールを結んでもらうべからず。

 あの日、結維さんに結んでもらった後ろ結びのツインテール……彼女にとってはただの思い付きだったのでしょうけど、図らずも家の掟を破ってしまったわたくしの胸に、得も言われぬ初めての感覚が湧き起こりました。

 初めてわたくしのツインテールを結んでくださった、ツインテイルズの一員として長友君と並び立ちたいと願っていた結維さん……わたくしは、戦えない結維さんの気持ちだけでも戦場へ連れてゆくことを密かに決意したのです。

 

□□□□

 

「昨日のトランペット、テイルミラージュさんだったらしいぞ!」

「マジかよ? 嘘じゃないだろうな?」

「別のクラスの奴が見かけて写真撮ったんだって、ホラ!」

「うわあマジだ!」

 教室へ入ると、みんなが昨日のトランペットの話題で盛り上がっていた。

 すわまたしてもアルティメギルの襲来か? と口々に参上した理由を想像するクラスメイト達の姿に、そりゃああれだけ高らかに吹いてりゃあ気付くよな。と席に着く俺たちだったが、ふと気になってトゥアルフォンで掲示板を開いてみると、やはりと言うか当然のように情報は拡散していた。

 

名無しのツインテール:

   テイルミラージュさんが特オタだった件について

 

名無しのツインテール:

   ソースどこだよ

 

名無しのツインテール:

   テイルイエローが初登場した陽月学園。2時限目の授業の頭に

   突如トランペットが鳴り響いて、少ししたらミラージュさんが

   飛び出していくのが見えた。証拠写真

 

   ttp://***********jpg

 

   で、そのメロディーがクラスのオタが言うには特撮の曲だった。

 

名無しのツインテール:

   マジか! なんて奴?

 

名無しのツインテール:

   人造人間01で、主人公が登場するときに吹いてるやつだって

 

名無しのツインテール:

   昭和かよwww古すぎワロタwwww

 

名無しのツインテール:

   横笛も吹いてもらいたいな。#のシ、ラ、ソのメロディーで

 

名無しのツインテール:

   並んだレッドたんとブルーたんを苦しめるつもりかwwww

 

名無しのツインテール:

   ツインテールに生まれしものはツインテールに帰れ~

 

名無しのツインテール:

   このスレおっさん通り越してジジイばっかかよwwww

 

 近今の情報化社会、自分が産まれる遥か以前の作品でも手軽に調べられるというのはとても良いことだ。こうして長き時の中に埋もれていた先人の作品が今を生きる人々の目に触れ、再び光を当てられる時がやってくるのだな。としみじみしつつ、先生が来てSHRが始まったため俺はトゥアルフォンの画面を落とした。

 

□□□□

 

 アルティメギル基地の廊下を、いつになく憔悴した足取りで進むスワンギルディ。彼のスマホが今日何度目かもわからぬ着信を知らせ、受信されたメールを開くことを言外に強要する。

 放置すれば送信者の苛立ちが伝わるかのように、バイブレーションが超振動ブレードもかくやという荒ぶりようを見せるため、可及的速やかに内容を閲覧しなければならない。

 

だっぴ~

スワンギルディちゃん

ダークグラスパーだよ

ダーちゃんでいいんだぞ♪

教えてあげるね☆

だっぴ~っていうのは、ダーちゃん語で、おはようって意味なのだ~

 

 ダークグラスパー自らが、比類なきイマドキ女子のセンスの赴くままビーズアートでフジツボのようにデコったスマホの画面に映し出された文面を目にした途端、スワンギルディは殴られたように吹き飛び、壁面へ大の字に叩き付けられて人文字を刻み込んだ。

 語尾に☆や記号、絵文字の飛び交う比類なきイマドキ女子のセンスが存分に発揮された視覚の暴力に晒された彼は、自身の成人男子メンタリティーにヘビー級のパンチを喰らい、文字通り精神的に打ちのめされたのだ。

 スケテイル・アマ・ゾーンの試練を背負ったうえ、上司から間断なく投下される殺傷力の高いメールの絨毯爆撃という責め苦を受け続けるという修羅の日々。

 それをこれまで耐えていられたのは、自分の勝手な単独行動を認め、陰から支えてくれる老参謀スパロウギルディのお陰だと満身創痍の白鳥は知っていた。

 なればこそ、挫けるわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。いつの日かツインテイルズを打ち倒し、師であったドラグギルディを乗り越えるその日まで。

「ぐうっ! ……何のこれしき……これくらいで躓くようでは、ツインテイルズに勝つなど夢のまた夢……」

 床に落ちたスマホを拾い上げ、痛みなのか先程目にした文面の恐怖故か、震える指先で返信メールを書き上げてゆくスワンギルディだったが、いつの間にやら側に現れていた、こちらを見下ろす大柄な影がそんな彼を嘲笑う。

「メールを受け取るだけでそのザマとは、笑止千万でござるな」

 ハッとして振り向けば、そこに居たのは赤と黒の甲殻を持った甲虫のエレメリアン。紛れもなく美の四心(ビー・ティフル・ハート)の一員だ。

「た……確かに私は道半ばの未熟者。ですが少しでも高みに至るべく日々研鑽を……」

 四頂軍は首領直属の部隊。そんな彼らからすれば、隊長ですらない一般隊員など路傍の石も同然なのだろう。

 そんな思いを飲み込んで、スワンギルディはメールを打つ手に意識を向ける。

 だが武士のように時代がかった口調の昆虫エレメリアンは不思議そうな顔で首を傾げ、彼の想いを知ってか知らずかその口を開いた。

「そもそも、何故(なにゆえ)メールを読んで吹き飛ぶのでござるか? ダーちゃん様からのメールなぞ、ご褒美以外の何物でもなかろうに?」

 一瞬、スワンギルディは聞き間違いかと我が耳を疑った。

 あの精神(こころ)蝕む暴力的文章をご褒美? しかもあの方をダーちゃん様!? 確かにあの方はメールではご自分をダーちゃんと呼んではいたが、更にそれへ様を付けて呼ぶとはなんという胆力……そしてなんと恐るべきセンスの持ち主だろう!! と彼の脳裏に困惑と驚愕、感嘆がグルグルと渦を巻いてゆく。

 これは勝てないと、眼前に聳え立つ高い壁に屈しそうになり、スマホを取り落として膝をついてしまうスワンギルディだったが、落ちたスマホの画面を見たエレメリアンは目を見開いて彼への語気を強める。

「ややっ! これはいかん、返信は一分以内に返すのが礼儀。疾く書き上げてダーちゃん様の元へ送信召されよ!!」

 叱咤されたスワンは目が覚めたようにスマホを拾い、消耗した精神を振り絞って打ち込みを終え送信ボタンをタップした。またすぐ間を置かずに送信されてくるだろうが、これでひとまずは肩の荷が下りた。とほんのつかの間でも責め苦から解放された彼は安堵のため息をつく。

「……看護服属性のスワンギルディ殿」

「なっ……! 何故私の名を!?」

「拙者の属性にかかればその程度見抜くなど、造作もないことにござる」

 名乗ってもいない自らの名と属性を言い当てられ、驚愕に目を見開くスワンギルディに、昆虫エレメリアンは高らかに名乗り、一枚のチラシと円盤状のペンダントを差し出した。

「────拙者の名はファイアフライギルディ。全世界の何よりも敬愛するダークグラスパー様と同じく、燦然と輝く眼鏡属性を頂く戦士でござる!!」

 蛍をモチーフとしたエレメリアンは、後光の射す神々しい姿でそう言い放ち、心の折れかけた傷だらけの白鳥の騎士へそれを握らせる。

 後光の正体は、背後で眩く光る尻だった。

「嘴の黄色いひよっこには荷が重いかもしれぬでござるが……高みに上りたいのなら少し拙者に付き合うでござる」

 チラシは近々開催される、とあるアイドルイベントの物で、そこには他のアイドルよりも大きな扱いで善沙闇子の姿が載っていた。

 

□□□□

 

「俺の名は騎乗(ライディング)属性のローカストギルディ……」

「よりによってこんな日に出てきてるんじゃねえええええええええええええええええ!!」

 数日後、久方ぶりに現れたイナゴのエレメリアンを、テイルミラージュはミラージュロッドの一撃であっさり粉砕すると返す刀で基地へと帰還。皆が困惑するのも構わずにコンソールへ飛びつき、他県のイベントホール周辺を衛星で拡大する。

「悪いトゥアール、衛星カメラ私用で使わせてもらうわ!」

「ちょ! いきなりなんなんですか!?」

 会場近くの路地裏に人気が無いことを確認したミラージュは、すかさずドライバーの転送装置を久しぶりに起動し、県境を超科学の力で一足飛びに越えた。

「……いったい何なんですか?」

「あー、結の奴、今日善沙闇子が出るイベントがあるから行きたいって言ってたな」

「あいつがここまでアイドルにのめり込むとか相当よね。おねえちゃん放ってアイドルの尻追っかけるとか、嫉妬されても知らないわよ? ……まあデートで連れていかれても反応に困るけどさ」

 愛香は帰還とタイミングを同じくして、慧理那、結維と共に基地へ降りてきた姉を見て苦笑する。

「ああ、闇子ちゃんの話? 私は気にしないわよ? 彼の趣味に口出しする気ないもの」

 コーヒーの入ったマグカップを手にニコニコとしている恋香は、そう言って気にするそぶりも見せない。

「彼の趣味を受け入れられるかは大事なことだもんね」

 私は旦那と同じ趣味だったから全く問題なかったけど~とは当たり前のように店を放って基地へやってきている未春の談。

 客自身がコーヒーを淹れ、備え付けのお菓子を摘まみ、きちんとお金を置いて帰ってゆくという、セルフの駄弁り場と化しているアドレシェンツァの経営は順調に軌道に乗っている。

「わたくし、出番がありませんでしたわ……」

「また今度活躍すればいいじゃない」

 生徒会会議のせいで出遅れ、戦闘に間に合わなかった慧理那は寂しそうに結維へ擦り寄ると、おーよしよしと頭を撫でられご満悦だ。

 実年齢は逆転しているが、一見子供が年上のお姉さんに慰められているようで、集まった皆は彼女たちを微笑ましく見守っている。

 一方桜川尊はきりっとした眼差しを手元に向け、真面目な書類仕事かと思う程一心不乱に婚姻届のストックを作成していた。

 

□□□□

 

「時間には間に合ったな……」

 今日このイベントホールで催されるのは、人気の女性アーティストやアイドルの集まるイベントで、当然あの善沙闇子も参加しているのだ。

 開催が平日、しかも他県だけあって学校帰りでは特急列車を使っても間に合わないスケジュールだったが、エレメントドライバーの力があればこのとおりだ。

 平和を守るための力をみだりに乱用している負い目はあるが、チケット代は自分で稼いだものだし法に触れるようなやましいことは一切していない。それに何を言っても善沙闇子の魅力には抗えなかった。

 まあドライバーを夜の生活の充実に使用している時点で今更ではあるが。

 路地裏を出た俺は、近くのコンビニのトイレで制服からポーチにしまっていた私服に着替えると、ゼリー飲料とフルーツ大豆バーを購入して水分と栄養の補給を行う。

 戦闘後というのもあって本音を言えばペットボトルでがっつり行きたいところだが、イベント中に催しても困るため最低限で我慢する。

 準備は完了、時間もバッチリ。あとは開場まで列に並んで待つだけだ。

 

 会場へ入り、指定席へたどり着くとそこには巨大な壁が聳え立っていた。

 一瞬Gの付く台所の嫌われ者かと思いきや、よく見ればデフォルメされ眼鏡をかけたホタルの着ぐるみだ。隣にはナース服姿の白鳥の着ぐるみも座っている。

 段差があるとはいえ少しでも後ろの席の迷惑にならぬよう、立ち上がれば2mは確実に超えていそうな巨体を折り曲げ縮こまらせている姿は少し可愛らしかった。

「随分気合の入った着ぐるみですね。隣の方は眼鏡かけてませんが、もしかして闇子ちゃんの非公式マスコットですか?」

「まあそんなところでござる。拙者はげんぺー君と呼んでくだされ。隣の友人のしらとり君は布教のために連れてきた故、別段眼鏡好きというわけではないのでござるが、ゆくゆくは眼鏡を追加したいと考えているでござるよ」

 何とも気合の入った応援団だ。眼鏡に関する動物ならメガネザル、昆虫ならトンボがポピュラーだが、ホタルと白鳥というのは結構意外でインパクトがある。

 しかもござる口調……! どこか同類の匂いがする彼には親近感がわいた。

 程なくしてイベントが始まり、アイドルたちが続々と姿を現す。その中でも段違いの輝きを見せているのが、我らが闇子ちゃんだ。

 他のアイドルたちの歌も踊りも悪くはないのだが、善沙闇子に比べてしまうと物足りなさを感じるというか、俺の属性的に訴えかけてくるものが違う。

 そんな前菜のサラダを突いているような気分を味わいつつ迎えた本番(メインディッシュ)────善沙闇子の出番に、会場は一段と沸き返る。

「みんなー! 眼鏡ってるー!?」

 ────うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 怒号のような歓声が爆発した。そこから先は集まったファン全員と一丸となって熱狂の坩堝に飛び込んだような、夢の時間だった。

 普段の彼女の発言に見られるとおりの、眼鏡への愛をこれでもかと詰め込んだ歌詞に加え、振り付けに盛り込まれたメガネとツインテールを強調する動き。

 隣のげんぺー君たちも興奮し、観客席の大半が立ち上がり曲に合わせてサイリウムを振っている。だが後ろへの気遣いを忘れずに、座ったままサイリウムを振っているのは流石だと言わざるを得ない。

 今回は間に合わなかったが、出来ることなら恋香さんや総二たちと隣り合ってこの生闇子ちゃんという感動を分かち合いたかった。そう心から思えるほど俺は彼女に心を奪われていた。

「しかしこれ程闇子ちゃんに熱狂し、眼鏡を掛けこなしているというのにこの少年から眼鏡属性が感じられぬのは何故でござろうか……?」

 イベント終了後、隣のげんぺー君が俺を見て何事か呟いたのもまったく気付けなかったほどに……

 

 興奮冷めやらぬ面持ちで帰宅した俺は、風呂に入る前に軽いストレッチをしながらPCを立ち上げ、登録しているお絵かき投稿サイトを開く。

「おお、感想とブックマーク増えてるじゃん……ってまじか! かぶと♪ラバーさんが!?」

 俺自身もお気に入りに登録し、いくつものイラストをブックマークしてきた描き手からのまさかの反応に、思わず画面へ詰め寄り詳細を確認する。

 震える手で感想への返信を終え、生の善沙闇子を見られた興奮と憧れた絵師からの評価に感動しつつ、俺は喜びを噛み締めながら旅の汗を流すべく浴場へ向かった。

 しかしこの様子では嬉しすぎてまともに眠れないかもしれない。明日も授業があるのに困ったなあ……俺はシャワーを浴びながらもニヤニヤした顔を止められなかった。

 

□□□□

 

「……いかがでござったかスワンギルディ殿、ダーちゃん様の晴れ姿は?」

「ええ! ナース服を着ていないのが惜しいほど魅力的な方で……ってダークグラスパー様ぁ!?」

 驚愕に悲鳴を上げた途端に、脳裏に焼き付いていた善沙闇子の笑顔がダークグラスパーの物へ置き換わる。彼女の正体を知って認識攪乱の効果が切れたのだ。

 他の隊員たちには作戦としてアイドル活動を行っていることは知れ渡っているのだが、日々修行に明け暮れていたスワンギルディはいまいちその辺りに疎かった。

 部屋の隅から滲み出てくるような陰鬱でじめじめとして、おまけにズケズケとこちらのプライベートに踏み込んでくる傍若無人な上司がフリフリの衣装を身に纏って歌い踊る……そんなリアクションに困る姿を知ってしまったスワンギルディは、善沙闇子の姿に好感を抱いた分の落差をもろに受け、気を失ってその場に崩れ落ちた。

「……………………この未熟者が」

 

 そんな風にホタルと白鳥が仲良く帰還したころ、アイドル衣装からジャージ姿に戻ったイースナもまた、自室のソファーでくつろいでいた。

 今までの世界に比べればいささか遅かったが、十分成功と言っていい自らの人気に気を良くしたイースナは、頑張った自分へのご褒美と称して相棒のロボット、メガ・ネプチューンにある物を催促した。

「夢がかなうまで封印するって言うとったのに……こういう願掛け、一回でも折れるとあかんで?」

 でも頑張ったんはホンマやしな……とメガ・ネプチューンは腹部の引き出しから一冊のアルバムを取り出す。中身はイースナが盗撮し続けたトゥアールの写真だ。

 だが喜び勇んでページをめくった彼女の笑顔は、再び普段の陰鬱な表情へ変わる。

「なに……これ……」

 映し出されているのは現在の物より露出の高い蒼いテイルギアを凛々しく纏ったトゥアールの勇姿。大きく開いた胸元から覗く豊満な胸の谷間が、背中から覗くシミ一つ無い地肌が眩しい。

 しかし一点だけ見過ごせない異状があった。彼女の髪だ。

 煌めく銀髪こそそのままだったが、テイルギアを纏っていれば存在して当然、必要不可欠のツインテールが頭のどこにも見当たらない。

「トゥアールさん……ツインテール属性を失ったんだ」

「なんやて!?」

 属性力の喪失は過去の記録にさえ干渉する。その事実をまざまざと見せつけられ、結論にたどり着いたイースナはアルバムを取り落とし、今の今までトゥアールだと思っていた、思いこまされていたテイルレッドへ激情の炎を燃やす。

「テイルレッド……奴はトゥアールではない!!」

 燃え上がるように噴き出した闇が彼女をダークグラスパーへ変える。ステージの上では夢と希望を観客たちに振りまいてキラキラと輝いていたレンズの奥のその瞳は、今や光すら飲み込むブラックホールのように底なしの闇を宿していた。

 

□□□□

 

 今やテレビだけでなくネットのバナー、街角のポスター、雑誌の表紙に至るまで善沙闇子の姿を見かけない日は無い。

 結と共に初めて彼女を見たときに心の片隅に芽生えた不安。この異常なまでの人気がその正体だったのだろうか?

 テイルミラージュの影響で増えていた眼鏡人口は、善沙闇子の登場によって爆発的に勢いを増した。彼女が眼鏡を好きなのは本当の事なのだろう。俺のツインテールのように、最強の眼鏡属性の持ち主が居るとすれば善沙闇子だと断言したくなるほどに。

 そこで俺はこの状況がどこかで見覚えのあるものだと思い至る。

「ツインテイルズの人気……ツインテールの戦士……まさか!」

 この人気の高まり方は、アルティメギルの行っていたツインテール属性の拡散に似ていたんだ! どうして今までそれに気付けなかった!? そしてそれが意味することはただ一つ────

「────善沙闇子が、ダークグラスパー!!」

 気付いた途端に二人の存在が=で結ばれる。正体を確信したことでグラスギアの認識攪乱が破られたのだ。

 奴はツインテール属性の代わりに眼鏡属性で、自らアルティメギルの作戦を実行しようとしていたんだ!!

 

 俺は迫りくる闇の戦士との戦いの予感を、ひしひしと感じ取っていた。

 




ケルベロスP? ダーちゃん様が普通に人気出たから相談に行きませんでしたがなにか?
スワンさんの反応ですが、彼はこの時点ではまだダーさんの仕事内容を知らなかったってことで。

あとどうでもいいことですが、ぼかした番組タイトルを「ゼロダイバー01」か「地獄からの逃亡者01」のどちらにしようか悩みましたが結局無難に。

ちなみにげんぺー君の由来はゲンジボタル、ヘイケボタルから。

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