3.13:ドライバーの外見に関して加筆しました。
3.15:属性力変換機構の説明について加筆しました。
21.3.24:一部シーンを差し替えました。
「ただいまー」
「「おじゃましまーす」」
戦いを終えて帰宅した俺たちは、友人同士であることの強みを生かしてアドレシェンツァの入り口から堂々と、さもいつものように遊びに来た風を装って総二の部屋へ向かった。
「さて、何から話したもんかな……」
「まずお前に何があったのか教えてくれ」
「そうよ、あの恰好はいったい何なのよ?」
「それは────」
エレメントドライバーのことを説明しようとした矢先にノックの音が響き、母親がお茶でも持ってきたと思った総二が入室を促すと、意外な人物が顔を出す。
「お紅茶お持ちしましたー」
「トゥ、トゥアール!?」
「貴様……生きていたのかトゥアール!」
「なんで居るのよ!?」
「勝手に殺さないでください! というか置いてくなんてひどいじゃないですか!!」
白衣の上からエプロンをつけた痴女がぶーぶー文句を垂れるが、愛香を馬鹿にしたお前が悪い。ここが日本でなく津辺王国だったら不敬罪で極刑並みの重罪だ。
「……というか、母さんに会ったのか? いったいどんな説明を?」
「あ、同じクラスになった留学生で、総二様に一目惚れして押しかけちゃいましたって伝えたら笑顔で迎え入れてくださいましたよ?」
「おばさああああああああああああん!!」
「来ちまったもんは仕方ない、こうなったら二人まとめて説明するか」
未春店長の面白好きにも困ったもんだ。この後絶対に首を突っ込んでくるのが容易に想像できて頭を抱える俺たちは、気を取り直して湯気の立つカップを手に取る……が。
俺と愛香の分と思われるボコボコと煮えたぎる二人分の紅茶には見るからにヤバ気なものが盛られていたため、速攻で窓から放り捨て、愛香が制裁のための戦闘態勢をとる。
しかし惜しいな、これがコーヒーだったら「む? これは南米のルガーという猛毒!」のネタが使えたんだが。流石に飲んでも内臓が焼け爛れはしないだろうが。
「総二、武器置いてない? ハンマーとかアックスとか」
「ねえよ!」
「姫、金槌ならばここに」
「うむ、大儀である」
「出すなよ! 愛香も受け取るなよ!?」
とまあこんなやり取りの後、トゥアールが事あるごとに総二への要らんアピールで話を脱線させまくるのに業を煮やし、奇行に走らないよう俺と愛香で釘を刺したのち、どうにかまともな説明が始まった。
────恐るべし、テイルギア。
パンチ力やキック力を100t近くまで引き上げるスピリティカフィンガー、スピリティカレッグといい、衝撃を極限まで殺し切る上に宇宙での戦闘も可能にするバリア、フォトンアブソーバー等々の超機能の数々に、展開された紙のような超極薄ディスプレイを眺めていた俺たちは舌を巻く。
総二たちも、属性力を使ったテイルギアでなければエレメリアンには勝てないという説明に納得していた。
さらには、リザドギルディを倒した時に手に入れた菱形の宝石、属性力の結晶である
でも武器を具現化させるフォースリヴォンが「ウに点々」なのはどうなんだ。何でもかんでもV付けりゃいいってもんじゃねえぞ。
愛香も同じ意見だったようだが、直後のトゥアールの発言が場を凍り付かせる。
「年頃の男の子はウに点々が大好きなんです! 男を知らないメンヘラ処女にはわからないんですよ!!」
「処女じゃないわよ! ちゃんと男の喜ぶことぐらい、し、知ってるもん!!」
「あー愛香さん、その胸で男侍らせて姫気取りなビッチだったわけですか。そこの熊さんよく懐いてらっしゃいますもんね。あ、私は清らかな処女ですので」
その瞬間、反射的に繰り出された鮮やかな背負い投げがトゥアールに決まった。
「誰がビッチよ結に謝んなさいよ!」
「え? 怒るとこそっちなんですか!?」
「そうだぞ、俺は愛香たちのおにいちゃんになる男だ」
「いやいつも思うけど臆面もなく言うなよ……」
胸を張る俺に総二は突っ込みを入れ、トゥアールは宇宙人を見るような目を向けた。
「あんたは知らないだろうけどそーじはすっごいのよ! ツインテール触らせながらするともう止まんなくなるんだから……!!」
「なに暴露してんだよ結も居るんだぞやめてくれよ!!」
愛香によるトゥアールへの赤裸々なマウンティングに総二が顔を真っ赤にする中、不意に勢いよくドアが開き、どことなく愛香と似た容貌の美人が顔を出す。
「愛香にライバルが現れたと聞いて! 泥棒猫さんはどこの誰かしら?」
果たして、総二の部屋に現れたのは艶やかな黒髪を黒いリボンでツインテールに結んだ、白いヘアバンドの似合う絶世の美女だった。
普段であればとても魅力的に見えるそのやわらかな笑顔と揺れるツインテールが、今は達人の構える抜身の日本刀のような威圧感を放っている。
この美女こそ津辺恋香さん。陽月学園大学部に通う花の女子大生にして愛香の姉、ひいては美人で優しくて愛香大好きでおっぱい大きい俺の最愛の人だ。
「もう! おねえちゃんったらそーじの前でツインテールにしないでって言ったじゃない!!」
恋香さんがツインテールにしているのを見た愛香が、見ちゃダメ! と総二の目を両手でふさぎながら不満の声を上げる。
「え! この人愛香さんのお姉さんなんですか!? 胸とか全然似てませんよ!?」
「そう、その通り! そして俺の嫁になる人でもある……というか胸のことには触れるんじゃねーよ」
「ちょっと何言ってるかわからないですね」
そりゃあ俺たち似合いのカップルなんかに見えんわな。と思いつつも彼女の脳天へ拳骨を振り下ろし、総二が目を奪われないためにも恋香さんのツインテールを泣く泣く解いておく。
「おごごごご……乙女の頭をポンポン殴らないでください……」
「はい恋香さん、髪解きましょうねー」
あらあら残念、とニコニコしているが、貴女が総二の前でツインテールにすると愛香が不安がるんです。涙目愛香たんが可愛いのはすごくよくわかりますし俺も涙目にしてやりたいですが貴女のツインテールは俺といる時だけにしてください。
ほらー、目隠しの外れた総二が残念そうにしてるー。このツインテールは俺のだっつーの。そんなだから愛香がいつまでも不安がるんだよもー。
「で、大分脱線したけどここからは俺の説明に入るぞ」
俺は変身に使うベルト、エレメントドライバーを取り出して機能の解説と、どういう経緯でこれを手に入れたのか説明を始めた。
家族愛などの本能に根付く以外の愛、いわば趣味嗜好に注がれる愛や思い入れから生まれる精神エネルギー、
最大の違いはコアと装着者二つのツインテール属性の共鳴で力を引き出すテイルギアと異なり、エレメントドライバーは使用する属性力を選ばないことだ。
最強クラスのツインテール属性がなくとも、装着者になにがしかの属性力さえあればエレメリアンと戦える。それこそがエレメントドライバーの強みだ。
まずは頭部、眼鏡型リボンは《リフレクターリボン》テイルギアでいうオーラピラーに相当する機能を司る装置だ。
正体を隠す
そして他に違いがあるのが武装だ。フォースリヴォンから生成されるテイルギアと違い、こちらの武器はベルトの外付け武装。
あちらは使用者によって武装が変化するらしいが、こちらは遠近両用で対応できる多目的武装なのは戦隊ヒーローの剣から銃に変形する共通武器のようでちょっとうれしい。
だがいいことばかりでもない。エレメントギアには属性力変換機構が無いのだ。この先総二がどんどん強くなっていくのに俺だけそのままなのは、取り残されるみたいで少し悲しい。
「……で、なんであんなに胸が大きくなるのよ?」
子供のように総二にしがみつきながら、この世全てへの憎しみを煮詰めたような視線を向ける愛香からの質問。
「きっとこの贅肉のせいだよ」
腹の肉を両手でつかみ予想される原因を主張した途端、胸を羨む愛香の視線が突き刺さる。出来ることならこの脂肪を吸引して愛香の胸に移植してあげたい。
でも脂肪吸引は結構な肉体的負担になるそうなので、総二たち二人と俺と恋香さん、四人揃った幸せな未来を送るためには危険は冒せない。
「結、あの見事なツインテール……やっぱりお前もツインテール属性を持っていたのか」
「そりゃあ俺だってツインテールは好きだ。お前ほどじゃないにしても属性力の一つくらい芽生えるだろうさ」
「ええ、結さんからもテイルギアを十分使えるレベルでツインテール属性が確認されています……それで本題なんですが、そのエレメントドライバーをいったい何処で手に入れたんですか?」
「ああ、あれは忘れもしない4月1日────」
□□□□
お願いしてツインテールにしてもらった恋香さんとのデート中、彼女への誕生日プレゼントを選ぶためにアクセサリーショップを物色していると、道中の露店でなかなかに小洒落たチョーカーを発見した俺は、あらかじめ用意しておいた赤いフレームの伊達眼鏡とともに贈り、その愛らしさに大いにハートを撃ち抜かれた。
「こうして首輪付けられると、なんだか結くんの
なんてはにかみながら言われたら公衆の面前でもたまらなくなって押し倒したくなるわ。
「……なんと眩しいカップルじゃろう。おまえさん方、ちいとばかりこのジジイの話に付き合ってくれんか」
そんな時、露店の老店主が俺たちを微笑ましく思ったのか声をかけてきた。大抵の輩はこんな光景を見ると嫉妬まじりの視線を向けてくるものだが珍しいことだ。
「さてと、信じられんかもしれんが聞いてほしい────この世界は狙われておる」
「────は?」
「嘘ではない証拠も見せてやろう」
老人が腕時計のボタンを操作すると、訳も分からぬまま俺たちは光に包まれて路地裏へ転送されていた。
「い、いったい何が!? ────恋香さん!」
「驚くのも無理はないが落ち着け、無関係の人間に聞かれたくない話なので場所を移動させてもらっただけじゃ」
人気の無い路地裏に連れ込まれた俺は、いつの間にかイカでビールな博士のような格好に変わっていた老人から告げられた、突拍子もない内容に鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするしかできなかったが、何があってもいいように恋香さんの手をしっかり握りしめ背中に庇う。
「儂の名はDrオヴェル、おまえさん方は何という?」
「な、長友結」「津辺、恋歌です」
「儂はこの世界の人間ではなく異世界からやってきた。儂の世界を滅ぼしたアルティメギルという軍団がこの世界に迫ろうとしておる。その脅威に対抗するためにもおぬしたちを見込んでこれを託したい」
そう言って手渡されたのは、平成ライダーの変身ベルトのようなバックルだった。特撮に興味のない人間が見たら、きっと両側に取っ手の付いた何か、位にしか思わないだろうデザインだ。
そもそも横に突き出た四角い取っ手の根元に、銃の引き金のような突起が見えるのが気にかかる。引っ張ると外れて武器になるのだろうか?
「……俺たちみたいな一般人にそんな説明をするってことは、そのアルティメギルとやらには軍隊じゃ歯が立たないんですね?」
「その通りじゃ、実体を持った精神生命体とも言える奴らには、どれほど強力でも通常兵器は通用せん。同じく精神エネルギーである属性力を持った武器でなければ傷一つ付けることはできんのだ」
俺はこの時ほど自分がオタクであったことを誇りに思ったことはなかった。古今東西の作品群が積み重ねてきたお約束の数々が、生じる疑問の答えとなって理解をスムーズにしていたのだ。
「でも……どうして私たちなんですか? 他に強い人なんていくらでも居そうなのに……」
「恋香さん、こういうのは秘められた力がないと戦えないとか理由があるんだよきっと」
「結君の言う通りじゃ、このエレメントドライバーを使うには本能以外に根差した愛情である属性力が必要。そして結君はこの惑星でもトップクラスの恋愛属性の、恋香君は最強でこそないが高レベルのツインテール属性の持ち主だからじゃ!」
「恋愛属性……?」
「うむ、お主……カップルを眺めるの、好きじゃろ?」
「大好きです」
「うむ、眼鏡は?」
「顔の一部です!」
「コンタクトには」
「死、有るのみ!!」
「さらにツインテールも好きと見た、まあそれは隣の彼女を見れば猿でもわかりそうなもんじゃがな」
すげえ、なんだこの爺さん。俺はこの短いやり取りで完全に俺の本質を見抜いたDrオヴェルに感服していた。
「やはり儂の目に狂いはなかった、《恋愛属性》《眼鏡属性》《ツインテール属性》三つもの属性力を高いレベルで持った逸材に出会えるとは……頼む、結君! これを使ってアルティメギルに立ち向かい、この世界のツインテールを守ってくれ!!」
「────そこ、世界の平和とちゃうんかい」
ツインテールを守るってどういうことだよ?
「む? ああ、説明が足りなかったか。奴らが精神生命体だというのは話したな? アルティメギルを構成する怪人、エレメリアンは属性力を糧にするために人間を襲うわけだが、奴らに属性力を奪われた人間は、二度と愛する物に興味を持つことも、干渉することも出来なくなってしまうのじゃ」
「そしてツインテール属性は属性力の中でも最強……故に奴らは世界中のツインテールを、ツインテールを愛する心を狙って来るのじゃ」
「なん……だって?」
「そんな……ツインテールが無くなったら、総くんが死んじゃう! 愛香の前でツインテールにしても泣き顔にできない! そんなのって、そんなのって……!!」
愛香がツインテールを失い、総二がツインテール好きじゃなくなってしまったら……愛香の髪を慈しみ、幸せいっぱいに戯れる二人の姿が二度と観られなくなってしまう!
そんな地獄のような光景を思うだけで胸が張り裂けそうになる。恋香さんも同じ気持ちだろう、悲鳴を上げて我が身を掻き抱いた。
そんなことは、絶対に許しちゃいけない!
「儂の世界が滅んだ時もそうじゃった……少女たちは二度とツインテールを結ぶことなく、メガネっ娘たちは次々にコンタクトやレーシックにしていきよった……すべての人間が情熱を燃やすことのない灰色の世界にされてしまったんじゃ!!」
「Drオヴェル、あんたの口惜しさはよくわかった! 俺がこいつを使ってそのアルティメギルと戦ってやる!!」
「む、結くん!?」
「恋香さんにも戦えるだけの属性力はあるんでしょう……けど、貴女に危ない真似はさせられません。俺が貴女のツインテールを守って見せます、総二と愛香の幸せのためにも!」
「結くん……やだ、ジュンってきちゃった」
頬を染めて瞳を潤ませ、もじもじする彼女の姿に俺も胸が熱くなる。
「では早速変身してみてくれ、方法は────」
「わかりました! ────ドライブ・オン!!」
腰にドライバーを押し付けるや自動的にベルトが巻かれ、左右に伸びたグリップのトリガーを引き絞りつつスタートアップワードを叫ぶと、俺の全身が保護バリアである銀色の光の球《リフレクトスフィア》に包まれ、0.05秒で変身が完了した。
戦隊ヒーローのような薄手の全身スーツに金属的な四肢の装甲。某機動戦士なカラーリングも気に入った……のだが。
「な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああ!?」
スーツの胸元をこれでもかと押し上げる爆乳というありえない存在に、俺は往年の刑事ドラマの殉職刑事の如く絶叫した。
「何だよこれ!? 身体がなんか細い! 声もおかしいし髪も長い……というかツインテールだ!? 俺なんかがツインテールにしてもキモイだけだろ!? 何の罰ゲームだよ!?」
突然の変事に混乱する俺の前に、口元を押さえて絶句していた恋香さんが手鏡を差し出してきた。果たして、そこに映っていたのは────
「鏡の中に美女が!! 誰これ!? どこにいるの? まさか俺!?」
自分が女体化を果たし、ツインテールの似合う眼鏡美人へと変身したことを遅まきながら理解した俺は、ありがたやありがたやと手を合わせて拝むDrオヴェルに詰め寄るとこの姿に対する説明を速やかに求めた。
「馬鹿者! その属性力を体現する戦士となるならそれにふさわしい姿となるは必定! 恋心や眼鏡なら男でも構わんかもしれんが、ツインテール好きならツインテールの似合う美少女にならずしてなんとする!!」
その雷鳴のような一喝に打たれた俺は、己の不徳を恥じた。俺が間違っていたよ博士!
「恋香君が変身せんと知ったときは正直残念じゃったが、このサイズはうれしい誤算じゃったのうグフフ……」
「死ねこのクソジジイ!!」
スケベジジイのダダ漏れの欲望に、手のひらを速攻で返した俺は流石に変身解除したものの容赦ない蹴りを叩き込む。潰れたカエルのような悲鳴を上げて転がるオヴェルだったが、老人虐待じゃーとわめいている姿を見るにまだまだ余裕で大丈夫そうだ。
「……まあええわい。結君、恋香君、地球の未来は君たちにかかっておることを忘れるでないぞ。機能に関する説明はドライバー内のヘルプファイルに記載されておるからわからないことがあったらその都度確認するように。ではさらばじゃ!」
「え? おいちょっと待てよ、どこ行くんだあんた!!」
「儂にはまだやり残したことがある、いずれ時が来たらまた会おうぞ!!」
「博士ええええええええええええええええええええええええええええ!?」
来た時と同じように光に包まれ、気が付くと俺たちは元居た表通りに座り込んでいた。
いつの間に回収していったのか、彼の営んでいた露店は跡形もなく消え去り、俺と恋香さんは狐か狸に化かされたような気分で顔を見合わせたが、手の中のエレメントドライバーがあれが夢でないことを如実に物語っていた。
そして数日後の高等部入学式、ついに侵攻を開始したアルティメギルと俺たちツインテイルズの戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
「……これが俺がドライバーを手に入れた経緯だ。博士の行方は本当にわからないんで聞かれてもどうしようもないぞ」
「まさか私以外にもこの世界に来ていた人間が居たなんて……というか総二様がもう童貞じゃないことのほうが衝撃だったんですけど!?」
ああああんまりですうううううううううううううう……と泣き崩れるトゥアールが少し可哀想に思えた。
「俺、紅茶淹れなおしてくるよ。恋香さんの分も有るし」
「おう、出来たらお茶菓子も頼む」
愛香と連れ立って下へ向かった総二だったが、話は聞かせてもらったわ! と待ち構えて話を全部聞いていた未春さんと出くわして絶叫するのが聞こえた。
□□□□
拠点の必要性と、今は亡き夫と夫婦そろってヒーローヒロインに憧れていた未春さんの全面的賛同もあり、トゥアールによる観束家地下への基地建設が決定される中、総二の部屋に残る俺たち三人は疲れ果てた顔でうなだれていた。
恋香さんも一緒だったが、彼女は愛香が側に居れば元気を充電できるので問題ない。
「まさかトゥアールが異世界人だったなんてな……」
ああも話が噛み合わないのは世界間の壁の厚さ故かと納得してしまう総二に、あれは単にトゥアールが変人だからだと突っ込みを入れる。
「まあテイルギアなんて持ってる時点で宇宙人か異世界人の二択だろうけどな」
「あたしからしたら、お姉ちゃんまで当事者だったことのほうがおどろきよ」
「心配しなくても、総くんと結くんが守ってくれるから安心よ」
姉が戦いに巻き込まれるんじゃないかと不安がる愛香をやさしく元気づける恋香さんの姿に、俺の電池残量も回復の兆しを見せてきたが、やはり効率が悪い。総二も愛香とイチャついてくれ。お前らも回復出来て一石二鳥だろう?
その夜、津辺家に泊まっていた俺は、観束家の屋根の上で膝を抱えて月を眺めるトゥアールを見つけたので、恋香さんと話を聞きに登ることにした。
「よう、工事はもう終わったのか?」
「ああ、結さんに恋香さん。工事はもう一息といったところです」
うっかり惑星の核を貫通してしまうところでしたよーなどと冗談めかして笑う姿が、どこか無理をしているように感じた俺は、思い至る理由をストレートに切り出す。
「────総二が童貞じゃなかったのがそんなに辛いか?」
ちょっと、結くん! と恋香さんが止めようと腕を引くが、これだけははっきりさせておかなければいけない。
「────っ! ……ええ、他の女の子に目を向けても構いませんが、初めては私が貰いたかったですから」
「会って一日も経ってなかったろうに、なんで総二にそこまで入れ込むんだ?」
観念したトゥアールは、ポツリ、ポツリと途切れ途切れに自らの過去を語りだす。
かつて自らもツインテールの戦士としてアルティメギルを相手に戦っていたこと、敗北し、自分のツインテール以外の属性力を世界から根こそぎ奪われたこと、次こそアルティメギルに打ち勝つために改良を重ねたテイルギアの核に、贖罪として自らのツインテール属性を使用したこと。
「私の、命の次に大切なツインテールを託すにふさわしい男性と出会えたんです。恋に落ちても仕方ないじゃないですか! ……なのに……なのに……!!」
「トゥアールさん……」
好きな相手が出来たと思ったら、その人はすでに他の相手のものだった。確かに辛くて泣きたくもなる。俺が同じ立場だったら、もう恋なんかしないと絶望していたかもしれない。
恋香さんの胸で泣く彼女を見て、久方ぶりに胸を刺す嫌な気持ちに胃が重くなる。
「あんたが童貞厨でさえなかったら、愛香を説き伏せて愛人に収まるっていう選択肢もあったかもしれないんだがな……」
「どの口が言うんですか。総二様にアタックするたびに、愛香さんと二人して私のことポカスカ殴るくせに何をぬけぬけと……」
「それはお前が愛香を怒らせるようなこと言うからだ。本気で総二のことが好きで、愛香にも誠実に対応するんならあそこまでしないぞ?」
総二と愛香の意思が大前提だけどな。と釘を刺すのも忘れない。
結ばれて幸福を得るだけが恋じゃないのは解ってる。実る恋もあれば、敗れ終わってしまう恋だって世界にはいくらでも転がっているのが現実だ。
だが俺は声を大にして叫びたい。そんな辛く悲しいものを見るくらいなら、たとえ不誠実と罵られようともハーレムルートを支持すると!
「……結さん、もしかして傷心の私に優しくして口説き落とそうとか思ってません? 無駄ですよ、私、そんなホイホイ男を乗り換えるような尻軽じゃ、ないですから」
ひとしきり泣いた後、冗談は顔だけにしてくださいよーなどと憎まれ口を叩けるようになったトゥアールに、俺と恋香さんは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「よし、新たな恋を見つけようとしてるトゥアールさんにプレゼント。これを見て少しでも元気になって」
恋香さんが取り出した写真を受け取ったトゥアールは、月明かりに照らされたそれを見た途端、弾かれたようにこちらへ詰め寄ってきた。
「────なんなんですかこの可愛い生き物は!? 股が熱くなるじゃないですか!!」
泣いたカラスがもう笑った。
「あんた、総二たちから聞いたが幼女好きのロリペドなんだってな。それこそが俺たちが知る中で最高の美幼女────地上に舞い降りた天使、愛香たんだ!!」
「────────────は?」
時が凍り付き、そしてまた動き出す。
「え? これ、愛香さんなんですか? ……これが、あれに!? ……神よ、あなたはどれだけ残酷な仕打ちを私に課すのです? ああどうしてこの可愛さを維持したまま大きくなってくれなかったんですかああああああああああああああああああああああああ!!」
失敬な、今の愛香もめちゃくちゃ可愛いだろうが。トゥアールのその言い分に恋香さんも少しムッとする。
「……トゥアールさん、そんなひどいこと言うなら写真返してもらおうかな?」
「嫌です! この宝は絶対に手放しませんよ!!」
まあたくさん焼き増ししてあるからいいんだけどね。と苦笑する恋香さんにつられて俺も元気を取り戻した彼女に笑みがこぼれる。
「レッドたんの次に可愛いです! こうなったら一刻も早く基地を完成させて今ひらめいた計画を現実のものとしなくては!!」
ではお二人ともお休みなさい、トゥアール!! と勢いよく屋根から飛び降りてゆく彼女を見送った後、俺たちも床に就くことにした。
「……ねえ総二、全部丸聞こえだったんだけど……どうしよう」
「俺たちは何も聞いてなかった、そういうことにしよう」
その下ですべてを聞いてしまったカップルが居たことは当事者二人以外誰も知らなかった。
はい、一巻からLAPが始動しはじめます。今作ではイベントの順番が入れ替わったりオリ展開になったり原作と同じシーンは可能な限り巻いていきますのでよろしく!
愛香は結のせいで、本性を現した変態おねえちゃんの洗礼を中学時代に受けてしまったため、姉ツインテールにトラウマが出来てしまいました。
あとハーレムですが、結は「当人たちが納得している」ことが前提で賛同するスタンスです。
まあ筆者も失恋話は嫌いですけど。