俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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慧理那「部室から来たから上履きのままでしたわ!」
誰も突っ込んでくれなかった……原作でも特訓の時は部室から基地へ向かってたけど、外履きは尊さんが持ってきてくれたんだろうか?
なお今作ではあの後、認識攪乱を使用して夜の校舎へ潜入しての履物交換というシークレットミッションが始動した模様。


第十四話「開眼! テイルイエロー!!」

 放課後、ツインテール部の部室に、控えめながらややせっかちなノックの音が木霊する。

 返事をするかしないかというタイミングで滑り込むように入室してきた会長は、これから行われることが楽しみでたまらないようだった。

「はあ、はぁ……お待たせしましたわ! 生徒会の仕事が長引いてしまって……」

「そんなに急いで来なくてもよかったのに……今お茶でも淹れるからとりあえず座って……って先生がもう淹れようとしてる!?」

 俺に先んじて備品のティーセットを物色する桜川先生は、総二と俺に妙な流し目を送っている。

 確かに本職のメイドなら腕は確かなんだろうが、俺だってバイトながら喫茶店の店員だ。そうそう遅れは取らないぜ!

 と無駄な対抗心を燃やしてお茶を入れる先生の手際を注視する。だがその視線に気づいた先生は笑みを浮かべるや、ミルクと砂糖ではなく畳んだ婚姻届を添えた紅茶を差し出してきたので、丁重に婚姻届だけを返品した。

「それじゃあ基地へ向かいましょうか慧理那さん」

 トゥアールに促され、紅茶で一息ついた会長を連れて俺たちはロッカーの転送ゲートを抜けて秘密基地へ向かう。

 

 未春さんと結維、恋香さんを引き連れて、転送装置の備え付けられているコンソールルームから向かったのは、手に入れた属性玉の能力を確認するために使っている訓練場だ。

 軟性と剛性を兼ね備え、マグニチュード9相当の地震の直撃でもビクともしないという、基地の外装と同じギガレイヤースチールで覆われた内壁は、テイルギアの力でぶつかってもほとんどへこまないし、よしんば破損したとしても自動修復システムが元通りにしてくれる。

 おまけにテイルギアのバリア、フォトンアブソーバー発生機能だって備わっているので、本気で全力さえ出さなければ必殺技の練習も出来るのだ。

「イエローの武器は鞭でしたが、わたくしに使いこなせるでしょうか……?」

「いや、会長。テイルギアの武器は本人のイメージに左右されるから、同じになるとは限らないんだ」

「まあ、そうでしたの?」

「じゃあ慧理那ちゃん、銃なんてどうかしら? 総ちゃんも愛香ちゃんも剣と槍で接近戦主体でしょう? 結くんは遠近両用だけど、どうせなら後方支援用の火力を底上げしたいじゃない? せっかくイエローのギアは重武装なんだもの」

 ────真理だ! 流石未春さん、よく見ていらっしゃるなぁ……総二は母親の観察力と再び纏われた女幹部ルックに悲鳴を上げていたが、言ってること自体は間違いではない。

 そして語られる未春さんの思い出話。得意分野とそれ以外を補助する武装の妄想中にふと亡き夫と目が合ってはにかみ合ったり、お互い同じこと考えてるんだと頬を染めたり……やばい、青春時代の甘酸っぱい思い出という電流火花が俺の乙女回路に迸って来た。

 総二は胃に電撃を直撃されたような顔をしていたが、実親が相手だと辛いのだろう。

「素敵な青春時代でしたのね! わたくしも、できればヒーローについて熱く語り合える旦那様だと幸せですわ……!!」

「うふふ、その夢叶うといいわね」

 そうこうするうちに一行は訓練場へ到着した。会長が早速変身を遂げ、愛香の双眸からレーザービームじみて放たれる射殺さんばかりの熱視線を豊満な胸で受け止める。

「では、早速────ヴォルティックブラスター!」

 下結びのツインテールゆえに位置の下がったフォースリヴォンを、髪をかき上げるように触れたイエローの右手には、電光と共に黄色の拳銃が現れた。

 ミラージュマグナムを手にアルティロイドに立ち向かった勇姿の再現だ。会長は天井かや床から迫り出してきたターゲットへ銃口を向け、凛々しいまなざしで引き金を引く。

 だが放たれたのはかつての勇姿とは裏腹に、縁日のコルク銃より情けない勢いの弾丸だ。

 当然ターゲットにすら穴を穿てずに跳ね返るそれを目にし、会長は不安げな視線をトゥアールへ向ける。

「……トゥアールさん、テイルギアには訓練モードが存在しますの?」

「いえ、そんな機能はありませんよ」

 気を取り直して攻撃を再開した会長が次々に武装を試してゆくが、いずれも満足のいく結果は得られない。

「な、ならば格闘戦ですわ! ヒーローたるもの身体一つで戦ってこそ……!!」

 新たに現れたサンドバッグ風のターゲットへ会長の拳が、爪先のニードルガンを交えたキックが、膝のスタンガンを起動した跳び膝蹴りが炸裂する。

 それを見た俺たちが、中学時代に愛香がトップレコードを叩きだしたゲーセンのパンチングマシンの記録はいまだに破られていないのだろうか? などと現実逃避したくなってしまう程に、会長はイエローのギアを使いこなせていなかった。

 撃ち出された針は一本たりとも突き刺さっておらず、スタンガンも焦げ跡一つ付いていない。カウンターに表示された数字なんて、女性にしては強いがほとんど一般人並みの打撃力だ。倍力機構もまともに動作しているか怪しい。

「こんな……こんなはずでは……」

 変身が解除され、くずおれへたり込んでしまった会長の姿は、もはや直視に耐えない。

 

「俺たち三人とも、子供のころから武術をやっていたから戦いにすぐ順応できたけど、会長はきっと慣れてなくてうまく力が出せなかっただけさ! ……恋香さんもエレメントギア使ったことはあるって言ってたし」

 総二がフォローに入るが、うつむいた会長は力なく頭を振り、外したブレスを愛香へ手渡そうとする。

「このブレスは、津辺さんがお使いになるのでしたわね」

「ちょっとまってよ! そんな状態の会長からなんて受け取れないわよ!!」

 愛香に受け取りを拒まれ、宙ぶらりんになったブレスを手にしたまま、会長はポツリ、ポツリと口を開いた。

 本当はツインテールが嫌いなこと、母親から家訓とまで言われて強制されているために仕方なくこの髪型にしているだけで、したくてしているわけではないこと……

「ずっと周りから子供っぽいと言われ続けて、いつしかツインテールを憎むようにさえなっていましたわ。でも、子ども扱いされるのも当たり前ですわ。だってわたくしは自分の弱さを何の罪もないツインテールに押し付けて逃げ出したのですから……」

 会長の発言に多大なショックを受けている総二をよそに、彼女の言葉は続いてゆく。

「“貴女がツインテールを愛する限り”この言葉を告げられるたびに、わたくしは不安にさいなまれていましたわ。言葉ばかりの偽りで覆い隠したツインテールを、いつか見抜かれてしまうのではと……」

「神堂さん……」

「せっかく……せっかく憧れのヒーローに選ばれて、肩を並べて戦えるのだと思っていましたのに……」

 言葉には嗚咽が混じり、そのつぶらな瞳から涙が零れ落ちる。

 いたたまれなくなった俺たちが声をかけるより先に、この空気をぶち壊したのは意外にも結維だった。

 つかつかと無造作に会長へ歩み寄った結維は、あろうことか渾身の平手打ちをお見舞いしたのだ。

 頬を打つ音が高らかに響き渡り、驚愕で言葉を失った俺たちの空気が凍り付く。

「あらまあ」

「ちょっと結維ちゃん!?」

「ちょ、おま! いったいなにやってんの!?」

「お嬢様に何をする!? くっ、こうなれば兄である長友君に責任を取ってもらうしかないな……」

 一秒が永遠に思えるようなフリーズ状態からようやく再起動し、泡を食ったように騒然とする俺たちなど眼中にないと言わんばかりに、結維は会長へ言葉の弾丸を機関銃のように叩き付けてゆく。

「あんたね……甘ったれるのもいい加減にしなさいよ!? ツインテールが好きなのは嘘? 嫌々ツインテールにしてた? でも変身出来てるじゃない!! それじゃあ大好きなおにいちゃんのためにツインテールにして、結んでもらうのも大好きなわたしはなんなのよ!? 本当ならわたしがテイルイエローになるはずだったのに、変身すらできなかったのよ!? わたしよりツインテール属性強いくせに泣き言言ってるんじゃないわよこのチビ!!」

 嵐のように通り過ぎていった罵詈雑言にすっかり会長の目から涙は引っ込み、打たれた頬を押さえたままキョトンとした顔で結維の顔を見つめていた。

「結維……さん?」

「総二おにいちゃんはねえ、うちのお兄ちゃんが認める世界一の、横から見てて呆れちゃうくらいのツインテール馬鹿よ。その総二おにいちゃんが認めたあんたのツインテールが、嫌々やってる偽物なわけないでしょうが! 憧れてたんでしょ? ツインテイルズに! 絶対助けに来てくれるって信じてたんでしょ? なら今度も信じなさいよ! おにいちゃんたちツインテイルズを! 皆が愛したあんたのツインテールを信じて見せなさいよ!!」

 ────会長の持つテイルブレスに、光が灯った。

「これは……慧理那さんと結維さんのツインテール属性が、上昇しています!」

「え! それ本当!?」

 ぐりん、と言う音が聞こえてきそうな勢いで、首だけこちらへ振りむいた結維が血走った眼で端末を手にしていたトゥアールを見据えた。

 そのまま会長の手元へ視線を下ろすが、察した会長はブレスを掻き抱いて抵抗する。

「だ、だめですわ! これはわたくしが使うのですわ!!」

「なによ、あんたイエロー諦めるんでしょ? だったらわたしがありがたく使わせてもらうわよ」

「諦めるのはやめにしましたわ! それに誰に言われたとかではなく、わたくしがテイルイエローをやりたいのです! だからこれはお譲りできませんわ!!」

「よこしなさいよー!」「いやですわー!」

 などと小学生と高校生が同レベルで玩具(本物だが)の取り合いをするという微笑ましい光景に、未春さんも恋香さんもほっこりとした笑みを浮かべている。

「やべえ慧理那さん可愛いグヘヘ……」

 涎を垂らして邪悪な笑みを浮かべるトゥアールが、愛香と先生のアッパーで宙へ浮き上がり、ぼっこりと天井へ突き刺さる。

「────よし! なら二人とも、どちらがテイルイエローの座を射止めるか闘いで決着をつけるんだ!!」

「「望むところよ!」ですわ!」

 いきなり何を言い出すんだー!? という総二のツッコミをBGMに、俺たちはコンソールルームの次元跳躍カタパルトで決闘にふさわしい場所へ跳んだ。

 

 眼前に広がるのは使われていない採石場。かつてエレメントギアの慣熟でもお世話になった、特訓には絶好の場所だ。

 いやあこのところすっかり実戦ばかりだから、ここに来るのも春休み以来だなぁ。

「結維にはとりあえず俺のドライバーを貸してやる。会長はイエローのギアでもう一度戦ってみるんだ。互いにバリアがあるから必殺技でも使わない限りえらいことにはならないから遠慮なくぶつかれ!」

「はふぅ……おにいちゃん分が密着した肌からじわじわ浸透するぅ……❤ こんなのこっそり盗み出した洗濯前のパンツを穿いたとき以来だよぉ……❤」

 早速裸眼で背も胸もミニサイズなテイルミラージュ、アナザーミラージュへ変身し、兄のおさがりを着た自らの身体を掻き抱いてくねくね悶絶する妹の姿に膝から崩れ落ちそうになるのをギリギリで踏ん張り、俺は決闘の開始を宣言した。

「では……参りますわ! ヴォルティックブラスター!!」

 初変身よりタイムの縮まった会長が、黄色の拳銃を抜き放ち電光の弾丸を撃ち掛ける。

 彼女の属性力が上昇しているのは間違いない。物言わぬ的を相手にしていた時とは比べ物にならない勢いだ。

「なんの! ミラージュマグナム!!」

 対する結維も、右拳を支えに左手で構えたマグナムを矢継ぎ早に連射し、激しい銃弾の応酬を繰り広げる────アイツ、左利きじゃあなかったよな?

「やりますわね」「そっちこそ!」

 あれだけの銃撃を繰り広げたにも関わらず全く無傷の二人は、避けるでもなくその場にとどまって不敵な笑みを浮かべ、互いに銃口を向け合っていたが、攻撃が明後日の方へ飛んだわけではなく、ほぼ全ての弾丸が空中でぶつかり合っていたのがどうにか確認できた。

 なんなのこの二人。いつからここはヤクザの用心棒と探偵の決闘場になったんだ。

「これならいかがです?」

 展開された胸の装甲からミサイルが発射され、すかさず結維はミラージュロッドを投げつけて迎撃する。

「胸からミサイル……偽乳! 偽乳だったのね! なーんだ、うらやましがって損しちゃった。あははは……」

 必死に現実から目を逸らそうと幻想に縋り付く痛々しい愛香の言葉をよそに、何故ミサイルをその手の銃で撃たない? とのツッコミを無視した結維は、視界を遮る爆煙へあえて突っ込み、会長の頭へ飛び蹴りを喰らわすと見せかけて両足で挟み込む。

「フランケンシュタイナー? 結維ちゃんやるじゃん」

「いや違う、挟んでるのが足先だ────まさか!」

 そのまま全身をひねってイエローを地面に叩き付けるアナザーミラージュは、間髪入れずにイエローを抱えて背部スラスターを噴かし、上空へと飛びあがった。

 空中で五連続の投げモーションをかけることによって、凄まじい遠心力の加わった投げ技が炸裂、エレメントギアのパワーも相まってイエローが落とされた地点の砂利が爆発したように巻き上がり、小規模なクレーターが出来た。

「きゃあああっ! ────やはりこれは……ギロチン落としと地獄五段返し!! 結維さん! 貴女は……」

「なんで結維があの技を使えるんだよ……」

 総二が躍動する二人のツインテールに手に汗握り、愛香が「知っているの結!?」とどっかの塾生みたいな驚きを返す中、恋香さんが笑顔で無慈悲な追い打ちをかける。

「あ、結くんが練習の時に試してたヒーロー物の技ね、かっこよかったから録画した動画、結維ちゃんと観てたなあ……」

 うちの妹が地獄の使者になってしまったのは貴女のせいですかそうですか。つーか特撮の技を実現しようとしたのがみんなにバレてめっちゃ恥ずかしい……トゥアールと未春さんの生暖かい視線が刺さるんですが。

「別にわたし、おにいちゃんと一緒に見てるだけでそこまでオタクじゃないわよ? 怪人全部の名前まで覚えてないし、技の威力とかさっぱりだもの」

「それでも偉大な先達の技を見せられては、ヒーロー好きとして受けて立たねば女が廃りますわ!」

 この技だっておにいちゃんが使ってたから真似しただけだし……との結維の言葉に奮起した会長は、砲身と共用のエクセリオンブーストを全開にして結維の周りを竜巻のような速度で旋回、拳や蹴りを嵐のような激しさで叩き込んでゆく。

 打擲に合わせてまともに起動した膝のスタンガンが銀河の星々のように煌めき、技の名前をこれでもかと体現していた。

「やったわね! こんのおおおおおおおおおおおお!!」

 それに対し、結維の反撃で掴み合いにもつれ込んだ二人は再びどちらともなく舞い上がると、空中で互いに投げ技を掛け合い大車輪のように回転しながら落下。

 激突の瞬間弾かれたように距離をとって対峙する二人は、不敵な笑みを浮かべて最後に全力のぶつかり合いを宣言する。

「ねえ会長さん、いい加減そろそろ終わりにしようか」

「次が最後の一撃、というわけですわね……全力で参りましょう!」

 ────その空気をぶち壊しにするように、トゥアールの端末がエレメリアン襲来を告げた。その属性力の巨大さは、間違いなくリヴァイアギルディとクラーケギルディだ。

「こんな時に……!」

「場所は町はずれの廃工場、間違いなく決着をつけるつもりでやって来たのでしょう」

 くっ……ドライバーは今結維が使っているから決着がつくまで変身できない。幹部二体の相手を総二一人に任せるわけにもいかないが、かと言って愛香をあの触手の中へ放り込めと言うのか?

「結、心配しなくてもあたし平気よ? あんたが来るまでの間くらい持ちこたえて見せるわよ。だから結維ちゃんも会長も、思う存分やっちゃいなよ?」

「クラーケギルディは俺が何としても倒す。結も、もたもたしてると愛香がリヴァイアギルディ倒しちまうからな!」

 総二たちはそう言って、俺に心配させまいと勇んで基地へ戻るための転送ゲートへと駆けてゆく。

 そうだよな、俺があいつらを信じてやらなくてどうするんだ……なら俺も、妹たちの決闘の行く末を最後まで見届けるとするか。

「だってよ会長さん」

「ええ、この戦いに勝った方が……」

「「テイルイエローとして幹部との初陣を飾る」のですわ!」

 未春さんが、恋香さんが、桜川先生、そして俺が固唾を飲んで見守る中一陣の風が吹き、静寂を破るように崖から小石が転げ落ちた。

 

 ────────ダッ!!

 

 それを合図に地を蹴った二人は、空中で前転し、ほぼ同時のタイミングで飛び蹴りの体勢をとった。

「せいやあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

「トオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 数十年もの重みを感じさせる絶叫。裂帛の気合と共に繰り出された蹴撃がぶつかり合い、発生した衝撃波が辺りへ広がる。

 何倍にも引き伸ばされたような濃密な一瞬の後に、変化が訪れたのは会長の方だ。

 おそらくは完全開放されていなかったとしても、イエローのギアが衝撃に耐えられなかったのか、ピシリと音を立てて四散したのだ。

「お、お嬢様あああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 レッドたちより露出の高いインナースーツを剥き出しにして落ちてゆく会長の姿に、桜川先生が悲鳴を上げる。

「いや────まだだ!!」

「────え!?」

 だが会長の目は死んでない。彼女は勝利を確信した笑みを口元に浮かべると、周囲で自身と共に落下している手近な装甲を蹴り方向転換。

 そのまま壁を蹴って駆け上がるかのように、四散した────否、脱衣(キャストオフ)した装甲パーツを踏み台にして瞬く間に体勢を立て直した会長は、再び必殺キックの構えに入る。

 敗北寸前から一転した鮮やかな逆転劇に、結維はスラスターを噴かすのも忘れて自らへ迫る黄色の稲妻に魅入られてしまった。

「これが……っ! わたくしのっ! ヴォルティックジャッジメントですわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 どてっ腹に見事なまでの一撃が決まり、体をくの字に折り曲げた結維は地面へと落下してゆく。

 それをすかさず助けにかかる会長だったが、落ちる彼女を格好良くキャッチ、などと物語のようにはうまくいかず、バランスを崩してそのまま砂利の上を二人して転がると、砂まみれになった互いの顔を見合わせてどちらともなしに笑みを漏らすのだった。

「会長さん……あんた、やるじゃない。見直したわ。チビって言ってごめんなさい」

「構いませんわ、おかげで今のわたくしがあるのです……結維さん、わたくしの事は会長ではなく、どうか慧理那と呼んでくださいませんこと?」

「そうね、もうわたしたち友達だもんね……慧理那ちゃん!」

 傾く太陽が夕日へと移り変わろうとする中、今は大きくなった小さな高校生と大きな小学生の固い友情の握手が交わされた。

 ここに今、新たなツインテイルズが誕生したのだ。

「会長、このまま連戦、本当に大丈夫ですか?」

「見くびらないでくださいまし、今のわたくしに怖いものなんてありませんわ!」

「お嬢様……ご武運を」

 散らばった装甲を再装着(プットオン)したテイルイエローは先生の呼びかけに、敬礼に似た無言の指サインをシュッと返すと、変身した俺と連れ立って極彩色のゲートへ飛び込んだ。

 

□□□□

 

 ────戦闘員一人引き連れず、リヴァイアギルディとクラーケギルディら二体の幹部エレメリアンは、あちこちの破孔から陽光差し込む廃工場の中、腕を組んで総二たちを待ち構えていた。

「……むう? テイルミラージュと新顔のテイルイエローは来ておらぬのか」

「テイルレッド! 今日こそ姫を賭けて決着を付けようぞ!!」

「望むところだ! でも絶対ブルーは渡さねえ!!」

「ミラージュならイエローと一緒にすぐ来るわ! でもその前にあんたたちなんか叩き潰してやるんだから!!」

「威勢のいいことだ。では────参るぞ!!」

 そう言って二体は降り積もった埃を土煙のように巻き上げてツインテイルズへ迫る。

 クラーケギルディの振るう貧乳の剣をブレイザーブレイドが迎え撃ち、リヴァイアギルディの股間の槍をウェイブランスが受け流す。

 どうやら恐慌状態にならない程度には落ち着いていられるようだ。愛香の様子に安堵した総二は、気を引き締めてクラーケギルディの剣と触手を相手取り紅蓮の炎を巻き上げる。

「属性玉変換機構────学校水着属性(スクールスイム)!!」

「ぬうっ!? これはタイガギルディの……取るに足りない弱卒であったが、巨乳とスク水の組み合わせもなかなかに乙な物であったな……」

 学校水着属性を使用した愛香が、地面を水面のように泳ぎ回ってリヴァイアギルディを翻弄するのを横目に、矢継ぎ早に射かけられる触手を二刀流のブレイザーブレイドで薙ぎ払い、懐へ飛び込んでゆく。

「どうした! あの時の盾はもう使わないのか?」

「ぬかせ! 」

 炎の大剣と長剣がぶつかり合って火花を散らし、テイルレッドを押しのけようとする触手の攻撃を飛び退いて躱す。先程まで居た場所には嫌がらせのようにオーラピラーの置き土産。

 クラーケギルディはたたらを踏んで追撃を思い直し、忌々し気に火球を睨み付ける。

 みんなで知恵を出し合って考えた作戦は上手くいっているようだ。

 総二はみんなで記録映像を囲み、額を突き合わせてアイディアを出し合ったのを思い出す。作戦にこだわり過ぎるのは問題だが、属性玉の活用やオーラピラーを足止めにするのはなかなかに有効なようだ。

 敵が躊躇した間隙をついて体勢を整え直し、背後にある放置された機材を蹴って舞い上がったテイルレッドは、エクセリオンブーストからの最大噴射で眼下のクラーケギルディへ迫る。

「────オーラピラー!」

 右手で振り下ろされた炎の刃が拘束結界を展開。間髪入れずに円の動きで振り下ろした左の第二刃で、テイルレッドは海魔の騎士の脳天を狙う。

「ブレイクッ! レリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイズ!!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお! 貧ッッッッッッッッッッッッッッッッ!!」

 クラーケギルディは土壇場で拘束を振り払ったものの回避は間に合わず、完全開放されたブレイザーブレイドで右目を潰され、斬られた勢いのまま転がって純白のマントを土埃にまみれさせた。

「くそっ! 倒しきれなかった!!」

「負けるわけには……負けるわけにはいかない! この手に姫の星々さえ霞む眩き貧乳を! あの輝かんばかりのツインテールと共に掻き抱くまでは……ツインテールと言う太陽が昇る、貧乳の偉大なる地平線を心に焼き付けるまでは……死んでも死にきれん!!」

 長剣を杖によろよろと立ち上がったクラーケギルディが、魂の全てを吐露するかのように叫ぶ。

「────」

 空気が、一変した。

 髪紐属性を使用して、触手の届かぬ空中からの爆撃に切り替えていたブルーの水刃がピタリと止んだことに戸惑いの声を上げるリヴァイアギルディは、まなじり吊り上がり真っ赤に血走る彼女の双眸を目にして、盟友の元へ駆け出さんとする。

「テイルミラージュ、テイルイエロー参上!!」

「遅参の段、平にご容赦願いますわ!!」

 ────だが、タイミング悪く駆けつけてしまった援軍がその行く手を阻む。

「ぬおおおおおおおおおお!? ク、クラーケギルディイイイイイイイイイイ!!」

 砕けんばかりに歯を食いしばるブルーの手から投げ放たれたウェイブランスが、薄汚れたマントごと彼の背中を貫通した。

「────────────────ひ、姫……?」

 自分の身に何が起こったのか把握しきれない様子で、突然胸板から生えた三叉の穂先と空中のテイルブルーを交互に見比べるクラーケギルディ。

 テイルレッドも、駆けつけた仲間二人も、あまりにもな光景に言葉を失っている。

「貧乳貧乳うっさいのよ! そんなに貧乳が好きなら……宇宙の果ての貧乳星まで飛んでいきなさい!!」

 ズドン、と音を立てて着地したテイルブルーは、一跳びでクラーケギルディの所までたどり着くとそのまま槍の柄を引っ掴み、3m近い巨体を物ともせず、仕留めた獲物を百舌の早贄の如く頭上へ軽々差し上げる。

完全開放(ブレイクレリーズ)────エグゼキュート……ウェエエエエエエエエエエエエイブ!!」

 左手の属性玉変換機構へ叩き込まれる体操服属性、そして完全開放。重力の軛から力ずくで解き放たれたクラーケギルディは、廃工場の天井など薄紙のように突き破って夕日照らす薄紅色の空へ打ち上げられた。

 発射されたクラーケロケットはたちまち第二宇宙速度に達し、激流の尾を曳いて遍く広がる星の海を目指す。

 

 ────ふっ……敵を姫と崇め、叶わぬ恋に横恋慕した結果がこれか。我ながら何とも滑稽なことだ……

 

 属性力を伴わないため痛くもかゆくもない断熱圧縮の高温に焼かれながら、クラーケギルディは自嘲した。

 

 ────だが、最高の貧乳の手にかかって最期を迎えられるのなら悪くない。

 

 大気の壁を抜けて、遂に星々が顔を出す。遮る物のない満天の星空の中、彼はある物を見た。

 あれは……あの星々こそ、宇宙に煌めく貧乳座だ。

 散りばめられた星が描く貧乳属性のエンブレム……否、ツインテールを風になびかせ、こちらに微笑みかける貧乳の女神の姿に、クラーケギルディはどこか救われた気持ちになった。

 そしてヴァルハラへ導かれた騎士が、安らぎの平原へたどり着かんとした刹那────

 彼の身体は爆散し、黄昏の空に一際輝く一番星となった。




ピンポンパンポーン。会長の、総二や結への恋愛フラグは完全にへし折られました。
同レベルで喧嘩するおっきな小学生とちっさな高校生は書いていてとても楽しかったですw そして決闘中脳内で鳴り響く宙明節。死神が子守唄を歌っておりました。

ところで望む相手に不意打ちで殺されてお星さまにされるのって、原作と比べてどちらがひどいんでしょうね?

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