俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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慧理那イエロー変身回。総二視点大目です。


第十三話「愛香よ、あれがロリの乳だ」

 テイルイエローに変身した恋香さんがオクトパギルディを撃破した直後、殺到した報道陣から逃げるようにその場を後にした俺たちは、帰還したコンソールルームでコーヒーを傾けながら休息をとっていた。

 だが一日ぶりに戻った男の身体が妙に懐かしく感じるのは、すっかり女体化が当たり前な状態に思っているからではないと信じたい。

 モニターに映し出されたTV映像には『緊急特番! テイルイエロー出現!!』の文字が躍っており、お茶の間でお馴染みのコメンテーターたちが揃って顔を連ねている。

 事件が起きてからさほど時間も経っていないであろうに、ここまで迅速に集合するとは連中の錬度の高さもかなりの物だと見ていい。

 俺たちが今までのように、イエローに対しても好意的な意見が飛び出してくるのだろうと思っていると、番組は予想外の展開を見せた。

『────私はねえ、このテイルイエローと言う存在は危険なのではないかと危惧しています』

『ええ!? でもテイルミラージュと一緒にやってきましたし、テイルブルーはおねえちゃんと呼んで慕っていましたよ魯理辺堂先生?』

『確かにツインテイルズの仲間でブルーの姉なのは事実なのでしょう、ですが私が危惧しているのはテイルイエローの精神性です』

 そう言ってかつてレッドとブルーにはぁはぁしていた魯理辺堂というおっさんは、イエローがブルーを抱きしめている画像を表示させた。

『見てくださいこの邪悪な表情を! 彼女がテイルブルーに対して性的に欲情していることは明白。テイルイエローは女性でありながら女子児童に興奮する変態……おまけに妹に欲情する異常者なんですよ!!』

 その瞬間、恋香さんが盛大に咳き込み、全員の視線が集中する。

 ……確かに彼女には前科があるし、妹に欲情しているのも本当だ。だがお前だけには言われたくないぞこのハゲが! と画面の中で盛大にブーメランを頭に突き刺しているおっさんに、俺の怒りが爆発しそうになった。

 だが変身してスタジオへ殴りこんでやろうとした俺を、すんでのところで当の恋香さん本人が押しとどめる。

「恋香さん……! いいんですかあんなのに言いたい放題言われて!!」

「うん、いいの……きっとこれが私が背負わなくちゃいけない罪の証だと思うから」

 そう言って儚げな微笑みを浮かべる恋香さんを、俺は思わず抱きしめていた。

 愛香を救う為に結ばれ、今また愛香を思って解かれたツインテールを艶めく射干玉(ぬばたま)の川の中に見出すように、俺は一房分の髪を手に取り想いを馳せる。

「恋香さん……」「結くん……」

「……………………浸りやがって、ケッ!」

 結維が何か呟いていたようだがよく聞こえない。

 そんな俺たちをよそに、姉の悪口を言われて不機嫌な愛香が面白くなさそうにチャンネルを変えていると、見知った顔が映りその手を止める。

「見てよ! 会長が出てる!!」

 モニターには俺たちが撤収した後に撮影されたのだろう、神堂慧理那会長がインタビューを受ける姿が映し出されていた。

 画面の中の会長は、ツインテイルズの助けになれたことを心底嬉しそうに語り、周りの生徒たちやマイクを向けるレポーターを軒並みほっこりさせているのが実に微笑ましい。

 なお、会長の話が終わった直後に桜川先生が婚姻届を手にカメラ越しに相手を募集した途端、スタッフは潮が引くように退散した。

「会長のツインテール、画面越しにでもわかるくらい嬉しそうだなぁ……」

「確かに、犬の尻尾が振られてるみたいに跳ねてるよな」

 まだまだ至らない俺では、総二のようにツインテールに込められた心の輝きを見抜くことは出来ないため、仕草を含めた髪の動きから心理状態を推し量るのが精いっぱいだ。

「情けないとこ見せちゃったけどあたし、会長の勇気にはちょっとジーンときちゃった」

「わかります、愛香さん。私も拙い手つきで戦う愛らしい慧理那さんの姿にジューンときちゃいました」

 今まで守られる側だった会長に逆に助けられたことを、はにかみながら語る愛香にトゥアールも同意する。

「あんたはホントぶれないわよね!」

「きゃいん!」

 ズパーン! と愛香がトゥアールの尻へタイキックを叩き込む快音がコンソールルームに響いた。

「……で、これからのテイルイエローのことなんだが」

「うん、私がこれ以上変身を続けるわけにはいかないものね」

 その言葉に動揺した愛香が恋香さんを引き留めようとするが、彼女は首を横に振る。

「おねえちゃん、あたしもう大丈夫よ? ツインテールの事は気にしなくても……」

「それでも、よ。愛香や総くんがどうしようもないとき以外は、結くんのためにしか結ばないって決めたから」

 ────それが嘘つきお姉ちゃんへの罰なの。と笑顔で愛香の頭を撫でる恋香さんに、愛香も押し黙らざるを得ない。

 結維はいまだに未練がましく、使えなかったイエローのブレスへ刺さるような視線を向けているが、そんなすぐに属性力が増大するわけはないんだから諦めろ。と生暖かい視線と共にたしなめておく。

「でもイエローのブレスがたまにしか使われないのも、なんだか少しもったいない気がするわね」

 残念だけど仕方ないよな、と諦めていた総二が、未春さんのその一言でハッとした表情になる。

「────今日本当は会長を部室に呼ぶはずだったけど、エレメリアンが来てうやむやになっちゃったろ?」

 その言葉に言いたいことを察した俺たちは、若干震える声で訊き返した。

「そーじ?」「総二様?」

「ま、まさか総二お前………………」

 総二は頷き、決意に満ちた口調で言葉を紡いだ。

 ────会長に、恋香さんのテイルブレスを預けようと思うんだ。

 

□□□□

 

 翌朝、開かれた全校集会はかつてない熱気に満ちたものとなった。

 季節はいまだ初夏だというのに、体育館の中は真夏のような暑さが煮えたぎり、結から聞いたような年二回の大型同人誌即売会の様相を呈している。

 ……と言うのはあくまでも雰囲気的な物ではあったが、皆の心の中では確かに会長の言葉を心待ちにする生徒たちの、期待と滾る情熱と青春の熱量が、炎と燃えて激突していた。

 壇上へ上った会長の姿に、全校生徒が襟を正し水を打ったように静まり返ったのを確認した会長は、深呼吸するといつも通り生徒一人一人に聴こえるようはっきりとその言葉を発する。

「────皆さん、昨日この学園にアルティメギルの魔の手が迫ったことは記憶に新しいと思われます。昨夜のニュースをご覧になった方はご存知かと思われますが、わたくしはテイルミラージュが強敵に敗退した際に落とした変身ベルトを拾っておりました」

「どうやって彼女に届けたらいいか考え抜いたわたくしは、自分がいつもアルティメギルと遭遇することに目をつけ、駆けつけてくれたツインテイルズへ返そうと思ったのです」

 生徒たちは皆、ツインテイルズ関連の番組は余さずチェックしているのだろう。驚きの声を上げる者は一人もいなかった。

「そして予想外に早くやって来たアルティメギルの前に、テイルブルーがピンチに陥った時、わたくしは自分を奮い立たせましたわ。後程知ったのですがテイルレッドは別な場所で戦っており、その場には居ませんでした。テイルミラージュは変身出来ません。そしてわたくしの手には奴らと戦える武器があり、怯えるテイルブルーを助けられるのは自分しかいないのだと気付いてしまったのですもの」

 そこで会長は言葉を一区切りし、生徒たち一人一人を視界に収めるように見渡すと、笑顔で続く言葉を高らかに言い放つ。

「────けれどそれは間違いでした。わたくしだけではなく、援軍が駆けつけるまでの間立ち向かってくれた、皆さん一人一人の勇気ある行動が、テイルブルーを救ってくださったのです!」

「わたくしはそれを誇りに思います! 皆さんの胸には確かに正義を愛する心が宿っているのだと知ることが出来たのが、何よりも嬉しかった!!」

「わたくしは、そんな皆さん全員が大好きです!!」

 会長のツインテールがふわりと舞い上がり、輝いた直後一瞬の間を置いて、体育館が爆発した。

「会長おおおおおおおおおおおおおお! 俺たちも会長が大好きだああああああああ!!」

「慧理那ちゃん愛してるううううううううううううううううううううううううううう!!」

 そんな喧騒の陰で、当のテイルブルー愛香は顔を真っ赤にしてもじもじと居心地悪そうにしていた。

「あ、あうううう………………」

 そんな彼女が愛しくてたまらない俺は、思わずそっと肩を抱き寄せてツインテールを撫でさする。

 その時、不意にトゥアルフォンが振動し、後ろに並んでいる結からのメールが届く。

『この騒ぎじゃ気付かれないかもしれんが、ブルーの話題で照れると怪しまれるから存分にイチャついてごまかすがよい』

 まったく、あいつときたら……俺は親友の気遣いに苦笑し、背後から物欲しそうな切ない視線を向けてくるトゥアールに申し訳ない思いを抱きつつ愛香のツインテールを愛でた。

 

 そして放課後。休み時間に愛香たちからもう一度伝えてもらい、俺たちは部室で少し緊張しながら会長が来るのを待ち構えていた。

「それにしてもレッドとブルーの熱愛報道に続いて会長のお手柄だもんな……いやあ紙面が華やかでめでたいめでたい」

「今朝のニュースでも取り上げられてたな……会長も、学園のアイドルからついに全国デビューか……」

「あんなにかわいい子だもの、きっと大人気よね」

 アイドルと言っても歌ったり踊ったりするわけではないが、結から見せてもらった書き込みによると、ネット上でも会長はかなりの話題になっていたようだ。

「でも、TVじゃああ言われてたけどネットじゃあテイルイエローはどうなんだ?」

「んー? まあ見て見ろって」

 

名無しのツインテール:

   ブルーたんの姉が現れた件について。

 

名無しのツインテール:

   お姉さん! 妹さんを僕に下さい!!

 

名無しのツインテール:

   馬鹿お前ブルーたんはレッドたんの嫁だろ

 

名無しのツインテール:

   ならイエローと結婚できればレッドたんとブルーたん二人が俺の妹に!?

 

名無しのツインテール:

   お前天才だな! だが二人は俺が貰う

 

名無しのツインテール:

   でも「おねえちゃん」だぜ? 実妹に欲情できるガチシスコンはキツイわ……

 

名無しのツインテール:

   今やってる特番で魯理辺堂がイエローをボロクソに貶してるんだが言い過ぎじゃ

ね?

 

名無しのツインテール:

   でも実妹にあの邪悪な表情向ける女は通報物だと思うんだが

 

名無しのツインテール:

   テイルイエロー=おれら

 

名無しのツインテール ID:Tmmsb

   お前ら仮にブルーたんが実妹だったとして、涙目の彼女に縋り付かれて

ハアハアしない自信あるのか?

 

名無しのツインテール:

   くっ……真理だ!

 

名無しのツインテール:

   ごめんなさいツインテイルズの画像や動画眺めてるとき同じ顔してました!

 

名無しのツインテール:

   ところで触手に襲われて涙目のブルーたんを庇った幼女がマジカワなんだが

 

名無しのツインテール:

   禿同。しかもあれでJKらしい

 

名無しのツインテール:

   おまけにミラージュさんの変身まで見られてついてるな

 

名無しのツインテール:

   でもなんで熊なんだよw私服で来てくれてもいいじゃんwwww

 

 そう言って渡されたトゥアルフォンを見てみると、俺たち三人ほどには好意的ではないものの、住人たちの反応はまともではあった。

 一部不愉快な書き込みがチラホラ見られたが、おおむね俺たちのことを祝福してくれているようなので大目に見よう。

 ……そこで俺はようやく、先程から部室に居る部外者について言及した。

「ところでなんで恋香さんがここにいるんだ?」

「テイルイエローの引継ぎをするんだから当たり前だろう?」

「というかなんで制服着てるんだよ!? 卒業してるじゃねーか!!」

「まだまだ現役だろうが! 俺だって恋香さんと同じ制服着て同じ校舎に通いたかったんだっつーの!!」

 我慢しきれずに入れたツッコミに対し、結は逆切れして願望をぶちまける。

 愛香は頭を抱えて机に突っ伏し、トゥアールは紅茶を飲みながら恋香さんを温かい目で見ていた。

 そんななか、扉がノックされ客人の来訪が告げられる。

「お邪魔しますわ」

 兵士の詰め所に王女が足を運んだ時のような緊張感が走り、俺たちは襟を正して会長を出迎えた。

「どうぞ」

 後ろに桜川先生を控え、部室に足を踏み入れた会長のツインテールに圧倒されつつも、扉が閉められたのを確認した俺は、彼女へ真実を告げる覚悟を決めて着席を促す。

「……あら? そちらの方は」

「実は制服着てますが大学部に通う先輩でして────」

「大学部二年、津辺愛香の姉の恋香です。妹がいつもお世話になっております」

「まあそうでしたの。でも皆さん、卒業生とは言え部外者の方を、変装までさせて内緒で連れ込むのは感心しませんわよ?」

 恋香さんは基地から直接部室に来たため、当然来賓の許可なんてとってない。

 俺たちは申し訳なく思いながらも、会長へ真実を告げた。

「会長、恋香さんは今回の件に無関係なわけではないんです。彼女は────」

「彼女がテイルイエローなんだ」

「────え?」

 その言葉に理解が追い付いていないのか、会長はキョトンとして目をしばたたかせる。

 そして俺たちは意を決して右手首を彼女の前に晒し、血を吐くような心持ちで正体を告白した。

「こういうことなんですよ、会長」

「あたしたちが、ツインテイルズなんです」

 かつて部室でテイルブレスを見られたことから考えて、もう彼女には俺たちの右手首にブレスが嵌まっているのが見えているはずだ。

 結も取り外したバックルを見えるように差し出している。

「観束君たちが……ツインテイルズ」

「驚いただろう? テイルレッドとテイルミラージュの正体が男だったなんて……」

「いえ、わたくし……実はあなたたちがツインテイルズの関係者ではないかと、ずっと考えておりましたの」

「なんだって!?」

「そうか……前に会長が認識攪乱を破ってテイルブレスを見つけられたのは、やっぱり正体に感付きはじめていたからだったのか」

「ツインテール部を作ってしまうほどにツインテールが好きだと、ためらいもなく真っ直ぐに言ってのける観束君。そんな彼の隣にいつも寄り添っているツインテールの津辺さん。二人と息がぴったりで、テイルミラージュと同じモデルの眼鏡をかけていて、熊のような長友君」

「“ツインテールを愛する限り”その言葉を聞いて、観束君たちと出会った時から、私はあなたたちのことを思い浮かべていました」

 指折り気付いた理由を述べてゆく会長。彼女が認識攪乱を見抜けたのは、そんな単純な理由だったんだな。

 俺たちは会長たちにアルティメギルの事、トゥアールの事、結にドライバーをくれた老科学者Drオヴェルのことを話した。

 トゥアールの世界が滅ぼされた顛末は衝撃が強すぎるため、上手く誤魔化してはおいたがおおむね問題なく伝えられたと思う。

「異世界を渡る怪物、エレメリアン……」

 全世界へ向けての宣戦布告を行ったものの、その本質についてはさっぱり人口に膾炙していなかったアルティメギルの正体に、会長は緊張した面持ちで拳を握る。

「それにしても学園きっての問題女子二人が、揃ってツインテイルズ関係者とはなあ……いやはや世間は狭いものだ」

 あれれー? 婚姻届を見境なく配りまわる問題教師がなんか言ってるぞー? とすっかり順応してしまった桜川先生に結が呆れるのを横目に、会長が疑問を口にした。

「でも皆さん、どうしてわたくしに正体を話してくれましたの?」

「それは、結の落としたベルトを拾ってくれたのもあるけど……一番の理由は、会長が勇気を出して愛香を助けてくれたからだよ」

 緊張に息を飲む会長のツインテールが揺れる。

「恋香さんは事情があって、本当に大事な時にしか変身できない。でもあの勇気と、アルティメギルに何度も狙われるほど見事なツインテールを持った会長になら……このテイルブレスを託せるって俺は思ったんだ!」

 ────千の言葉より一のツインテール。これほどの輝きを持つ彼女なら、絶対にテイルギアを悪用なんてしない。

 昨夜皆に伝えた言葉を胸に俺は会長へ頭を下げ、感謝の言葉を述べた。

「ありがとう、会長……テイルブルーを……俺の世界で一番大切な人(ツインテール)を助けてくれて」

「神堂さん、私からもお礼を言わせてもらうわ。妹を助けてくれてどうもありがとう」

 席を立った恋香さんが右手からブレスを外すと、会長の手へそっと握らせる。だがそこに待ったをかけたのが、今まで傍で話を聞いていた桜川先生だ。

「待ってくれ観束君、津辺君のお姉さん! お嬢様を戦いに駆り出すくらいなら、私が戦うべきだろう! 話を聞く限り、ツインテールの女性であることが、変身する条件なのではないか? まあ観束君は例外のようだが」

「いえ、桜川先生にツインテール属性はありません。慧理那さんと一緒に居ながら今まで一度もエレメリアンに狙われなかったのがその証拠です。ただツインテールにしていれば属性力が芽生えるわけではありませんので」

「そうか……残念だが仕方ない。私は結婚を控えた身、体をいたわれと言いたいのだな未来の夫観束君?」

 トゥアールにばっさり切り捨てられ、落ち込むかと思われた先生はいつも通りとんでもないことを言い出してツッコミを誘う。

「いえそーじはあたしの未来の夫です」「いえ俺は愛香の未来の夫なので」

 思わず顔を見合わせた俺たちは、言葉がハモったことを照れくさく思い、互いにはにかんだ。

「総二様に妻はもう間に合ってます! 私と言う妾だっているんですから先生みたいな年増の入る隙なんてありませんから!!」

「こら! いきなり飛びついてくるんじゃないわよもう!」

 と俺たち二人に飛びついてくるトゥアールを、愛香が笑顔で引きはがすのをよそに、会長はドキドキを隠しきれない面持ちでテイルブレスを恋香さんによって右手へ嵌められていた。

「これがテイルブレス……」

「九州に帰るわけじゃないけどイエローの引継ぎ、おめでとうございます会長」

「もう! 縁起でもないことを言わないでくださいまし!!」

 結が振ったよく分からないネタ(会長が分かるということは多分戦隊ものか何かなのだろう)に反応して、頬を膨らませてぷんすか怒り出した会長の愛らしい姿にほっこりしつつ、俺たちは部室のロッカーを開け会長たちを基地へ招き入れる。

「じゃあ俺たちの秘密基地で、早速変身テストですね!」

 

 ────ゲートを抜けた後、俺たちの目に飛び込んできたのは新コスチュームでばっちり決めた母さんの姿だった。

「なにやってんだよ母さああああああああああああああああああああああああああん!!」

「────ここでは司令と呼びなさい!!」

 黒い生地によく映える白で“覇”の文字が力強い筆致で書かれたマントを翻しながら、母さんは見事なドヤ顔でそう宣言した。

 前の露出度高い女幹部も大概だったが、30過ぎでミニスカは勘弁してくれよ本当に!

「か……かっこいいですわ! 観束君のお母様ですの!? 初めまして、陽月学園高等部の生徒会長を務めさせていただいている、神堂慧理那ですわ!!」

「これはどうもご丁寧に、総二の母の未春です」

「長友結の妹で、陽月学園初等部6年の結維です」

 うわああああああああああ! 会長がものすごく瞳を輝かせて母さんを見つめている!! この母さんの衣装センスがヒーロー好きな会長のセンスにドハマリしていたなんて!! しかも結維ちゃんまで無駄に体にフィットしたミニスカメイド服姿で当たり前のように隣に座ってるしなんなんだよもう!!

「未春司令ーカッコイイー! 結維も可愛いぞー!!」

「結も乗ってんじゃねーよ! 母さんが調子に乗るだろ!!」

 結維ちゃんはすっかり母さん側だし、恋香さんはそんな母さんたちをのんきに微笑ましく見てるし、母さん相手にはツッコミ役だった結も今はあてにならない。

 もう突っ込み疲れたよパトラッシュ……俺は愛香の胸に縋り付き、よしよしと頭を撫でられるがままにされる。

「愛香さん、次は私の番ですからね」

 何事か呟いたトゥアールは、会長にテイルギアの説明をするためにモニターへ概要を表示した。画面のテイルイエローには全身に備えられた武装のせいもあり、テイルレッドの画像に付いていたのよりも多くの説明書きが見える。

 案の定、大興奮でデータを暗記しようとする会長は、トゥアールによる説明をうっとりと表情を蕩けさせながら聞き入っていた。

「ところで観束君、変身の掛け声はドライブオンでよろしくて?」

「いや、それはテイルミラージュだけで、俺たちはテイルオンって叫んでるな」

 意図的に空欄にされていた、戦闘中に催した時に吸収・分解するハイテクおむつ機能であるエクセリオンショウツへの質問を華麗に躱しつつ、やれポーズは共通なのか各自違うのか、などといった質問に答えてゆく。

 結の奴め……勝手にポーズ決めて変身するとか、会長の筋金入りのヒーロー好きに油を注いでどうするんだ。

「それでは……変身してもよろしくて?」

 言葉よりも変身したいという意思を確かに持って、というアドバイスを受けた会長は、深呼吸すると高らかにお馴染みの変身起動略語を叫ぶ。

「────テイルオン!」

 いつもの俺たちより一瞬遅れてフォトンコクーンが展開し、会長の身体をテイルギアが包み込む。だが変身が完了した彼女の姿に俺たちは驚愕の声を上げた。

「会長が……大人になってるぞ!?」

「これが……わたくし?」

 小学生と見紛う背丈はトゥアールや結維ちゃんと同じくらいまで伸び、胸も流石にトゥアールよりは控えめながら、それに見合うほどに成長を遂げている。

「巨 乳 に な っ て る じ ゃ な い !! よく考えたらお姉ちゃんも大人のままだったし、子供にならないってどういうことよトゥアール!?」

「あばばばばばば……じ、実は幼女になる機能を組み込んだギアはテイルブルーのギアだけで、レッドとイエローのには組み込まれてはいなかったんですううううううう! いい加減止めてください、脳が! 脳がみぞれになりゅうううううう!! 」

 光を失った目を見開いた愛香に襟首を掴まれて、熟練のバーテンダーが振るうカクテルシェイカーのようにシャカシャカと揺さぶられるトゥアールの口から語られる新事実。

 いつの間にか照明が暗くなり、トゥアール周辺にスポットライトが当たった。

 何事かと思っているうちに、あれよあれよとコンソールルームの机から電気スタンドとカツ丼が現れ、往年の刑事ドラマじみた物悲しいBGMが部屋の隅から迫り出してきたスピーカーから流れだす。

「テイルレッドの幼女化を、最初は“私の趣味”だと説明していましたが、実際に機能として身体変化を組み込んだつもりはありませんでした。ですが幼い頃の愛香さんを知り、その魅力に心奪われた私は死に物狂いでかつての私のギアへ自らの幼女への想いを注ぎ込み、幼女化の技術を完成させました」

「……かつての、ということはトゥアールさんもツインテイルズでしたの?」

「ああ、今はもう変身できないけど彼女が異世界で戦っていた先代のブルーだったんだ」

 引継ぎイベント、というわけですわね! と拳を握る会長をよそに、トゥアールの話は続いてゆく。

「レッドのギアを造り上げたときも、私の胸には守るべき愛しい子供たち(ロリっ子)への想いが燃えていました。おそらくそんな心理状態でテイルギアを造り上げたせいで私に残された幼女属性が影響を及ぼしたのでしょう。現にテイルイエローのギアを造ったときには幼女化させたい候補も居ませんでしたし、作業中も普通のテンションで、幼体変化機能はオミットしていました」

 子供たち、にツッコミを誘うルビが振られている気がするが、そこで一息入れるようにカツ丼を啜るトゥアール。

 ……いつからカツ丼は飲み物になったんだろう?

「あくまでも仮説ですが、今回慧理那さんが成長した姿になったのも、そういった心理的な部分に原因があるのではないでしょうか?」

 ハッとした顔でトゥアールを見つめた会長は、震える声でうなずいた。

「……確かに、わたくしはずっとこの子供じみた容姿がコンプレックスで、早く大人になりたいと願っていましたわ」

「そんなもったいない! 慧理那さんはずっとそのままでもいいんですよ? ────ぎゃぽ!?」

 愛香に投げ飛ばされたトゥアールがスピーカーに突っ込み、BGMを中断させる。同時に照明も元に戻り、愛香に恐れをなしたように演出の小道具がその場から逃げ去ってゆく。

 基地自体が自ら考え育ってゆくというのが本当によく分かる光景だ。

「一時的にですけど、願いが叶ってよかったじゃないですか」

「長友君……ありがとうございます!」

 祝福を受け、会長のツインテールが悦びに揺れる中、背後でゆらりと愛香が幽鬼のように立ち上がり、その口から地獄の底から響いてくるかのような重苦しい呟きを漏らす。

「ネエ……会長ノギアヲツカエバ巨乳ニナレルノヨネ? アタシ、コンナニモ巨乳ヲモトメテイルンダモノ……絶対ニナレルハズヨネエ?」

 その眼は血走り、顔には亀裂のような笑みが浮かんでいる。

 愛香よ、お前はなぜ悪魔に魂を売ってしまったのか? あんなにも愛し合っていたというのに、ありのままのお前でいいと言う俺の言葉はお前のツインテール(こころ)には届かなかったのか?

 無力感に打ちひしがれ、俺は会長へ魔の手を伸ばす愛香を止める気力すら出せずにいた。

「よし! じゃあ会長の戦闘テストも兼ねて愛香のアナザー変身もやってみるか! 会長、負けたら一度だけでも愛香に貸してあげてくださいね!!」

 ブレスを交換するしないと土下座交じりの押し問答を続けていた愛香と会長だったが、結の鶴の一声でみんなと一緒に外出する運びとなった。

「ふぁ……」

「いかん、もうそろそろ八時か。お嬢様は九時には眠くなられるのだ、そろそろお暇せねば……」

 だが、会長の可愛らしいあくびと先生の言葉が俺たちの目を時計に向けさせる。

「話に夢中で気付かなかった、もうこんな時間か」

「駄目ですわ、尊。せっかくツインテイルズの仲間入りが出来ましたのに途中で帰るなんて……」

 名残惜しいが、こんなにもおねむなツインテールを見せられては無理をさせるわけにはいかない。

「無理しない方がいいよ。今日はゆっくり休んで、また明日部室に来ればいいさ」

「そうそう、眠い目こすりながら訓練したっていい結果は出ないですよ」

「ではお言葉に甘えて……皆さんごきげんよう」

 泊まっていけばいいじゃないと引き留めようとする母さん、トゥアールを「門限が迫っておりますので」と桜川先生が遮り、二人は家路についた。

 

 ────これで愛香の頭も冷えてくれるといいんだけどなあ……

 しかし愛香対会長か……テイルギアに守られているとはいえ……大丈夫なのか?

 言い知れぬ不安を感じながら、俺は明日執り行われるかもしれないベテラン対ド素人の、決闘と言うのもおこがましい公開処刑が取りやめになることを切実に祈っていた。




テイルギアによる会長の身体変化の解釈がシュイダー様作の「俺、ツインテールになります。IFソーラ」での設定と被っていますが、ご本人の許可を得ていますので皆さんご了承ください。

未春将軍あらため未春司令爆現。全力でジャスティス。
元ネタの人、若い頃はツインテールだったけど三十路になってからはポニーテールになるんだよなあ……そして結維のメイド服にはNIθ(にしー)皺が浮いています。
ちなみに作者はメイド服はヴィクトリアン派。露出度は低く、スカートは膝丈より長くないと認めない。
結はメイド属性無いからこだわらないんですが、ついメイドに対する作者の気持ちを代弁させそうになるのを、邪気眼か何かみたいにキーボード打つ手を抑え込んで防いでます。

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