母艦の連結作業を終え、かなりの大部隊となった総二の世界のアルティメギル。
だが各部隊の要人を集めて大会議室で開かれた頂上会議では、巨乳派貧乳派の対立が今もなお尾を曳いて、大部隊を真っ二つに割ってしまっていた。
ある者が“貧乳は小さいからこそ愛が生まれる”と説けば、“稀少だからこそ巨乳は美しい!”と燃え尽きる瞬間の流星の輝きになぞらえて反論する。
またある者は谷間に食い込む鞄のベルトを天地創造、世界開闢の再現。この左右の美しさこそツインテールの根源に通じると言い切り、負けじと貧乳派は貧乳とスク水の調和を持ち出して、貧乳だからこそ数多の衣装が映えるのだと吼える。
どこまで行っても会議は平行線をたどり、口論はいつしか口喧嘩から掴み合いの乱闘へと発展した。
「静まらんか!!」
これでは埒が明かぬと激昂したクラーケギルディの一喝で静まり返る会議室。
部隊の統合はいったん白紙に戻すしかないと苦渋の決断を下したリヴァイアギルディに、部下たちは総力を結集しなければツインテイルズには勝てませぬと言いすがるが、その言葉をこのままいくら続けても事態は変わらぬとクラーケギルディが切って捨てる。
愛が深いゆえにいがみ合い、ぶつかり合う。それがエレメリアンの悲しき本能であった。
「大変です……! ダークグラスパー様が、この基地を視察に来られるとのことです!!」
そんな中、駆け込んできた部下から告げられた報せ。
部隊を持たず、首領の勅命を受け単身世界を渡る戦士。反逆者の処罰を使命とするその戦士は、いつしか闇の処刑人ダークグラスパーと呼ばれ恐れられているという……
だが処刑人などと言う物騒な存在が実在するとは考えにくい。実際は噂を利用して弛んだ組織を引き締めるための、監視役としての存在なのだろうとクラーケギルディは考えていた。
ともあれ、処刑人が実在しようがしていまいが、いずれにせよこの現状が首領に好ましく思われていないのは確実だ。のんびりと手をこまねいては居られない。
「どうだリヴァイアギルディよ、こうなれば私たち自らが出向き、直接手の内を見てみるというのは?」
「小手調べと言うわけか、面白い。おあつらえ向きにツインテイルズには一人巨乳の戦士が居るようだしな」
リヴァイアギルディの脳裏に、資料映像で見たテイルミラージュの姿が浮かぶ。
────あの見事な巨乳、映像越しではなく直に相対しその実力を見定めたいものだ。
かつて目にした映像の中、彼の胸に焼き付いたのは、アリゲギルディの尻尾に抱きつき、戦場の真っただ中で悠々と眠りにつくその豪胆さ、瞼を閉じてもなお戦いを止めようとしない執念。
そして尻尾に押し付けられて変形する見事な乳房の柔らかさと豊かさに彼の戦士としての血が滾り、股間の触手が武者震いのようにビクンビクンと脈打つ。
今ここに、アルティメギルでも有数の巨乳属性と貧乳属性の実力者たる二人の部隊長自らが、双璧をなして戦場へ降り立つ時が来た。
□□□□
────基地で変身できずに泣く結維を慰める中、けたたましいアラートがエレメリアン襲来を告げ、モニターを見たトゥアールの目が険しくなる。
「ものすごい属性力のエレメリアンが二体……ドラグギルディの時のような、幹部級が同時に現れたようです!」
かつての激闘を思えば、それは絶望的な報せだったろう。だが不思議と俺たちの心には微塵の不安も浮かびはしなかった。
「上等! どんな相手が来たって、負ける気がしないわ!!」
「その意気だぜ愛香!」
「前と同じく、片方は俺が抑えるから二人はもう片方を確実に潰してくれ」
掌に拳を打ち付けて闘志を燃やす愛香と同じく俺の心も燃え上る。
総二と愛香なら、何より固く結ばれた
「「テイルオン!!」」「ドライブオン!!」
同時に変身を遂げた俺たちは、勇んで転送ゲートへ飛び込むと戦場へ舞い降りた────
「この摩天楼を闊歩する巨乳のツインテールはおらぬかー!」
「何を言う! 私たちは正しく貧乳のツインテールをこそ求めねばならぬのだ!!」
いつもながら汚らわしい言葉を声高に喚き散らす変態の姿に出鼻をくじかれた俺たちは、もんどりうって地面へ激突し、アスファルトを砕いて自身が生きた証を大地へと刻み付けた。
「何なのよ最近のこいつらは!? 口を開けば胸の事ばかり………………あ」
怒りのままにめり込んだ顔を上げたブルーだったが、不意に何かに気付いてその怒りを鎮める。
「………………幹部級ってことは、あのクズと違って確実に使い物になる巨乳属性、持ってるはずよね? ウフ、ウフフ、ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ………………」
獲物を見つけた狩人の目になったブルーは、邪悪な笑みを浮かべるとフォースリヴォンへついっと手をやり、ウェイブランスを手に歩を進める。
「ムムッ! 現れたなツインテイルズ!!」
気付いたエレメリアンたちが振り返り、俺たちの前に立ちはだかるが、いかんせん場所が悪すぎた。
“奴らに襲われると何かを好きな気持ちを奪われる”と言う情報こそ広まってはいるものの、普段俺たちが速攻で事件を解決してしまったり、エレメリアンが直接人間へ危害を加えないせいか、事態を甘く見て事が起こるたびに辺りを取り巻く野次馬は少なくない。
都心のビル群の真っただ中にある、大型プラザホールの真ん前だ。看板を見れば何かのイベントが行われているようで、観客も相当集まっているに違いない。
俺は山中で繰り広げられたドラグギルディとの激戦を思い出した。
木々をなぎ倒し、大地を紅蓮に染めるあのような大決戦が街中で再現されたら、大惨事などと言う言葉では追い付かないだろう。
「テイルミラージュ……やはり見事な巨乳とツインテールだ。テイルレッドとテイルブルーのツインテールも素晴らしいが、成長途上の幼子なのが何よりも惜しい。貴様と会えたことを光栄に思うぞ」
各部にヒレの目立つ竜のようなエレメリアンが、そう言って俺を称える。
ヒレの形状や伸びた口吻といい、ドラグギルディよりも爬虫類度は上だ。
「フン! 下品な乳の女を褒め称えおって……ツインテールは彼女たちの完璧な
貧乳派なのだろう白い烏賊のようなエレメリアンが、俺の巨乳へ悪態をつきつつレッドたちへ視線を向けるや、雷に打たれたかのように硬直した。
「────まずい、二人とも避けろ!!」
予想を外れ、テイルブルーの元へ滑り込むように襲い掛かる烏賊型エレメリアン。しまった、二人ではなくブルーが狙いだったのか!
「………………美しい」
「………………はい?」
ブルーでも反応しきれないほどの高速で接近してきたエレメリアンの予想外の発言に、俺たちは張りつめていた緊張の糸を断ち切られ放心した。
「まさか敵である貴女がそうだったとは……なんという運命の悪戯か!」
────こいつは一体何を言ってるんだ? 理解に苦しむ俺たちの疑問をよそに奴の言葉は続く。
「私の名はクラーケギルディ。我が剣を貴女に捧げたい、我が愛しのプリンセスよ」
ふざけた戯言に湧きあがった怒りが、かえって冷静さを取り戻してくれる。
「とうとう奴の悪癖が出たか……あの騎士道被れめが……」
良く知った仲なのだろうもう一方も、烏賊エレメリアンの発言に苦虫を噛み潰した顔で腕を組み、忌々し気にその様子を見ていた。
「貴女の美しさに魅せられたのです! 幾多の世界を巡ってもこのような気持ちになるのは初めての事! どうか私の愛を受け取っていただきたく────」
………………てめえ、誰に断って愛香を口説いてやがるんだ?
俺の怒りのボルテージが上がってゆく中、当然のことながら総二の心にも火が点り、燃える赤毛のツインテールが本物の炎さながらに熱量を増す。
「ちょっと、そういうの、困る────」
口説かれ慣れていないブルーがやんわりと断ろうとするよりも、俺がミラージュロッドの一撃を入れるよりも早く、吹き荒れる真紅の熱風が二人の間に割って入った。
「────俺のブルーに、ちょっかい掛けるなああああああああああああああ!!」
「ぬおおおおおおお!?」
数千度の炎を纏うブレイザーブレイドの一閃で吹き飛ばされ、ブルーから引き離された
「“俺の”だって!?」
「今までもなんとなくそうなんじゃないかと思ってたがマジだったのか!」
「今すぐ輝見市を木間市に改名するよう市議会に訴えるんだ! そしてここに塔を建てよう!!」
「赤×青キタアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「早まるな! 青×赤かもしれないだろう!?」
「そんな……お、俺のブルーたんとレッドたんが……」
「あ゛!? 誰がてめえのだよムッコロスぞ?」
「オデノゴゴロハボドボドダー!!」
エトセトラ、エトセトラ。
だがそんな観衆たちの騒ぎなど耳にも入らぬと、剣を油断なく構えクラーケギルディを睨み付けるテイルレッドの姿に、テイルブルーも頬を染め、恥ずかし気にモジモジと身をよじる。
「俺の、って……もう、レッドったらぁ……こんな大勢の前で叫ぶこと、ないでしょう……?」
「……成程、姫を賭けての果し合いと言うわけだな? テイルレッド!」
「────ああ、ブルーは絶対渡さない! テイルブルーは俺の女だ!!」
クラーケギルディも腰に佩いていた細身の長剣を抜き放ち、レッドと対峙する。
愛を賭けた男同士の真剣勝負と、近寄っただけで切れそうなほどピリピリした空気に、もはや手出しは不要と背を向けた俺は、残る竜型エレメリアンに向き直った。
「俺の名はリヴァイアギルディ、
なるほど、奴のモチーフは海竜リヴァイアサンだったか。
俺は連結したロングロッドを構え、リヴァイアギルディを見据える。
「ツインテイルズー! 頑張ってくださいましー!!」
強敵との戦いを前にして、観衆の中から投げかけられる幼い少女の声に胸が熱くなる。
そうさ、子供たちの声援はいつだってヒーローたちのエネルギー源なんだ……!
「ってまた会長が居るー!?」
振り返り、その姿を見つけたブルーの声に、桜川先生と一緒の会長を発見した俺たちも目を見開いた。
「まずいわ……会長に気付かれたらこいつに狙われちゃう! 会長は今の私と同じくらい胸が小さいもの。今の私と同じくらい……!!」
『大事なことなんで二回言ったんですね、わかります』
トゥアールのツッコミはさておき、予想に反してクラーケギルディは、会長の存在に気付いても色よい反応を示さない。
「むう……見事なツインテール。しかしこちらもまだ子供……ままならぬものよ」
「確かに素晴らしきツインテールだ。だが貧乳属性が芽生える可能性は万に一つもない」
「なんだって!? あれだけ熱心にブルーに迫っておいてどういうことだ!?」
「幼女は胸が小さくて当たり前、ときめく道理などない……はずだった。だが彼女は! 彼女の胸には成長しても巨乳になる可能性が微塵も感じられなかったのだ!!」
────のだ!! のだ! のだ……のだ…………のだ…………………………
初夏だというのにどこか肌寒い一陣の風が駆け抜け、クラーケギルディのやたら渋い声がビルの谷間に木霊する。
「へえ……あたしは当たり前じゃなかったってこと……………………?」
『何ということでしょう! 愛香さんの貧乳が、幼女に変身してても見抜かれてますよ!! なんて、恐ろしい……相手なんでしょうぶひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwwwwwww』
基地で笑い転げるトゥアールの嘲笑をBGMに、顔から表情の消えたブルーがなにやらトゥアルフォンを弄った後、地獄の門でも開くような重々しさで口を開いた。
「────トゥアール、今のうちに学校に休みの連絡しておいた方がいいわよ」
『ふっ、甘く見られたものですね。たとえ愛香さんの攻撃をどれほど受けようと、一晩もあればばっちり回復……』
「……来年のそーじへのプレゼント、男の子と女の子どっちがいいかしらね?」
『…………………………………………………………………………………………は?』
「あんたのあの日もそろそろだし、三日くらい続ければ、準備も終わるでしょ?」
『ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ! この人、私の周期チェックしてますううううううううううううううううう!!』
愛香のトゥアルフォンの操作ログを確認したらしいトゥアールが通信の向こうで悲鳴を上げ、恋香さんと未春さんがノリノリで愛香の味方をする。
『愛香、子育ては私も協力するからね!』
『あらあら……でもこの年でおばあちゃんは結構きついものがあるわね……』
『お義母様も恋香さんも! 何をのんきなことをおっしゃってるんですか!? 下手したら……十中八九総二様のじゃないんですよ!?』
『でも、トゥアールちゃんも愛香ちゃんも、うちの娘同然じゃない? それに総ちゃんは二人とも大好きなんだから、お互いの子ならきっと可愛がってくれるわよ』
嬉しい発言なのに全然嬉しくありませんー! 托卵だなんて、私は落ち物ラブコメのヒロインであってNTR物のヒロインになった覚えはないんですううううううううううううううううううううう! とのトゥアールの悲痛な叫びを最後に通信は途切れた。
「じゃああんたのベルト、また後で貸してね」
笑顔の愛香の吸い込まれそうな瞳に、ブラックホールのような底知れぬ闇が宿っていた。
閑話休題。
愛香とトゥアールのエスカレート気味ないつものじゃれあいは横に置いておき、俺は気を引き締めてリヴァイアギルディとの間合いをじりじりと詰めてゆく。
奴の武器は一体なんだ? ドラグギルディは大剣を得物にしていたが、戦いが始まってもリヴァイアギルディは腕を組んだまま一向に武器を抜こうとしない。
徒手空拳、鉄身の五体こそが最強の武器とでも言うつもりだろうか? エレメリアン、しかも幹部級の膂力で繰り出される技は手強いぞ……
警戒に肌が粟立ち緊張の糸がピンと張り詰める中、俺は奴の腹部に巻き付いた尻尾状の器官に気が付いた。
あれが武器の可能性が高い、か……? 警戒するのは大事だが、このまま手をこまねいていても埒が明かない。
ええい、ままよ! 俺は現状を打破するためにあえて打って出ることにした。
「────ようやく来るか、テイルミラージュ!!」
ロングロッドによる刺突を奴のどてっ腹にお見舞いしてやろうとした瞬間、何かが顔をかすめ咄嗟に飛び退いた俺は、遂にリヴァイアギルディの武器の全貌を目にすることが出来た。
目にもとまらぬ速さで繰り出され、今ここにテイルミラージュを苦しめるそれは果たして、先程まで腹部に巻き付いていた尻尾ならぬ、股間から雄々しく生えた一本の触手であった。
「ひぃ! 触手!!」
「なんつーところから生やしてるんだよ………………」
そのあまりにもアレな場所から生えたその触手に、ブルーが悲鳴を上げる。流石に女の子には刺激が強い。
だが怯む間も与えぬとばかりに、リヴァイアギルディの攻撃は続く。
「この速い突きが躱せるかああああああああああああああああああああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
打たば太刀、払えば薙刀突かば槍。という棒の多彩な攻撃手段を謳った言葉があるが、こいつの触手は槍どころか鞭でもあり、連撃の速さは機関銃にすら例えられる。
そのドラグギルディの太刀捌きに劣らない猛攻、だが線の軌道ではなく無数の点となって襲い来るそれは、ロングロッドでどうにか直撃を避けるのが精いっぱいだ。
属性玉変換機構を使う暇もねえ……!
体操服属性か、全身服属性が使えれば、奴の動きを阻害して反撃のチャンスが作れるものを……!
「どうしたどうした! そんなものかテイルミラージュ! 防戦一方とはその立派な巨乳が泣いているぞ!!」
リヴァイアギルディの挑発。反応する余裕などない。
だが奴は腕を組んだ仁王立ちのままその場を動こうとしない。なら懐にさえ踏み込めればチャンスは必ずあるはずなんだ……! 退いてはだめだ。一歩ずつでも確実に、奴との距離を詰めるんだ!!
目を逸らすな。触手の動きを、行きと戻りのタイミングを見極めろ。あの触手を、組手中の愛香の拳だと思いこめ────今だ!
「────────────────────────捕まえた!!」
「何だと!?」
数えきれない無数の連撃の中、願っていたベストポジションの一撃を捉えた俺は、高速の触手が火花を散らして胸元をこするのも厭わずに左脇で挟み込むと、死んでも離すものかと全力でしがみつき、そのまま突きが戻るのに身を任せて懐へ飛び込んでゆく。
奴の元へたどり着くまでの刹那、ロングロッドをベルトへ叩き込んで無理矢理収納し、分割するのももどかしく縮めた先端へエレメリーションキューブを、次いで体操服属性の属性玉を叩き込んだ。
『属性玉変換機構────
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
電子音声が響くとともに俺は右拳を振りかぶり、地球に迫る隕石すら真っ向から打ち砕けるのではないかと思えるほどに高重力を凝縮した鉄拳を、奴ご自慢の巨乳属性のエンブレムが描かれた胸板へお見舞いする────だが。
─────────────────バイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン。
インパクトの瞬間、そんな弾力のある物を思い切り弾ませたような音と共に、俺の身体は宙を舞っていた。
「な、何だああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「ミラージュ!?」
アスファルトを砕いて路面へ叩き付けられた俺をブルーが心配してくれるが、リフレクトコートのお陰でこれくらいは大したダメージではない。
『攻撃の直前、奴の胸部に強力な力場の発生を確認しました。そのバリアーがクッションとなって、こちらのパンチを跳ね返したようです!』
「これぞ我が攻防一体の奥義、
復活したトゥアールの通信が、手品の種を教えてくれた。
「………………ここに来て、バリア持ちかよ」
流石は幹部級、一筋縄ではいかないな。起死回生の一撃が不発に終わった徒労感に、全身からドッと汗が吹き出し重圧が圧し掛かる。
そしてテイルレッドとクラーケギルディが戦っていた方角から、不意に影が差した。
リヴァイアギルディを警戒しつつそちらを見やると、クラーケギルディから伸びた数えきれないほどの触手が、ビルの谷間から覗く青空を覆い尽くさんばかりに広がり、今まさにレッドを飲み込もうとする光景が視界に飛び込んだ。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 触手うううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
────間の悪いことにブルーが大量の触手に異様なまでの怯えを見せ、どちらへの援護も不可能となった。
□□□□
「────ブルーのツインテールには……
俺の怒りに応えるように、ブレイザーブレイドが炎を噴き上げて唸る。
「いいだろう、テイルレッドよ。姫の愛は我が貧乳の剣で勝ち取って見せよう!!」
クラーケギルディの剣もまた、鈍い光を放ってこちらを照らす。
そのままどちらともなく大地を蹴って互いの得物がぶつかり合い、周囲に衝撃と火花を散らした。
「やはり心を揺さぶる見事なツインテールだ……姫が懸想するのも当然か。願わくばその胸が育たぬまま大人になってほしいものだ」
「残念だったな! 俺は大人になったら巨乳になるって決まってるんだ!!」
奴の身勝手な願望をばっさりと切り捨て、二合三合と打ち合いを続ける。
流石は幹部、大した剣だ。ドラグギルディ程のパワーは無いが、その分スピードは上回っている。
「部隊長を討ち果たすほどの戦士……ここまで私と打ち合えるとは聞きしに勝る強さだ」
寄せては退き下がっては踏み込み、ひっきりなしに目まぐるしく立ち位置を変え、何度打ち合ったかもわからない剣戟の果てに漏れる称賛の声。
「あのアルティメギル……レッドたんたちと互角に戦ってるだと……?」
「頑張ってツインテイルズー!!」
「ブルーたんを渡すなー!!」
毎度敵が秒殺されるいつもの戦闘とは違い、初めて見る幹部級との戦いに、興奮したギャラリーも口々に声援を送ってくる。
だがこれだけで終わるわけがない。幹部エレメリアンは、かつてのドラグギルディがツインテールと化したように、最終闘態と呼ばれる最大の戦闘力を発揮する第二形態を持っている可能性が高いのだ………………タイガギルディという例外はいたが。
「だが私も……幾多の戦士たちを打倒してきた誇りがある! そしてようやく巡り合えた最高の貧乳を持つプリンセスを手に入れるため……今こそすべてを晒そう!!」
その叫びと共に、クラーケギルディが爆ぜた。
否、それは爆発さながらの速度で伸ばされた触手だ。
全身から周囲を埋め尽くす勢いで伸びる無数の触手。その名の通り、船舶を海底へ引きずり込む海魔クラーケンさながらの威容と化したクラーケギルディの姿に、観客たちも息を飲む。
そこへ割って入るのは、絹を裂く愛香の悲鳴。
「────ブルー!?」
あいつ……触手が苦手だったのか!!
触手に怯え、ツインテールを抱えてうずくまる彼女の姿に、俺はやはり愛香をこいつと関わらせてはいけないと決意を新たにし、ブレイザーブレイドの柄を握り直す。
「本来は姫への求愛の儀であるが……貴様には求婚ではなく全力の攻撃であると知れ!!」
豪雨のように襲い来る触手を前にしても、俺の思考は驚くほど
「────オーラピラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
殺到する触手の中心へ、炎を纏わせたブレイドを叩き付け、そのままオーラピラーを展開する。
「ぬおおおおおおおおお? 我が触手が……動かん!?」
すかさず剣の柄を踏み台に、上空へと飛びあがった俺は、フォースリヴォンを叩いてもう一本のブレイザーブレイドを呼び出した。
「に、二刀目だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「ツインテールは二つあるんだ! 二本無くちゃ守れないだろうが!!」
俺のツインテールと愛香のツインテール、どちらも渡してたまるものか!! エクセリオンブーストを全開にして、直上からの急降下。こいつはここで終わらせてやる!!
「────グランドッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「────貧ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!」
「────何っ!?」
刃が達する直前、奴の裂帛の叫びと共に拘束と突き立っていたブレイザーブレイドが弾け飛んだ。
「
すべてを飲み込む
限界までねじったゴムが解き放たれたように、飲み込む求心力から全てを弾き飛ばす遠心力へ転じた大回転が、完全開放されたブレイザーブレイドと拮抗し、工場の金属カッターさながらに火花を散らした。
────グランドブレイザーが……破られた!?
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
全力の鍔迫り合いもむなしく弾き飛ばされた俺は、アスファルトをバウンドしながら愛香の元へ転がった。
「レッド!!」『総二様!!』
「……頃合いか。引き上げるぞクラーケギルディ」
「何っ!? ……いや、そうだな。ここでは互いに全力を出し切れん」
そう言って剣を収めたクラーケギルディは、マントを翻して俺たちに背を向ける。
「テイルレッドよ、この勝負預けたぞ。次に
奴らの背後に見慣れた極彩色のゲートが開く。
確かにこんな街中じゃあ、ドラグギルディ戦程思い切りよく戦えなかったのは事実だ。
だが愛香の前で、愛香に言い寄る輩に泥を付けられた不甲斐なさに、言いようのない悔しさがこみ上げる。
「────くそっ!」
悪態をつき、路面に拳を叩き付けるが、視界の隅で立ち上がったテイルミラージュが退却する奴らに追撃をかけようとするのが見えた。
「待ちやがれ! ────リフレクションビーム!!」
『深追いは危険です結さん!!』
だがトゥアールの警告も聞かずに放たれたビームが、望み通り直撃することは無かった。
「甘いというのだ! だが最後まで食い下がろうとするその執念や良し!!」
「何……だと?」
振り返ったリヴァイアギルディが、着弾の直前に両の拳を胸元で打ち合わせると、左右の拳のそれぞれを中心にして空間が球状に歪む。
いや、あれは……ただの歪みじゃない! あれは二つの巨大な胸なんだ!!
今や肉眼で確認できるほどの質量を得た防御バリアーが、ぶるるんと震えながらその谷間でビームの奔流を飲み込んでゆく。
「見事な巨乳ではあったが……我が乳には届かなかったか。ほうら、返礼だ!!」
リヴァイアギルディが合わせた拳を前方へ解き放つのと同時に、吸収されたビームが撃ち返されて結を襲う。
躱すことも出来ずに反撃をもろに受けてしまったミラージュは、数秒の棒立ちの後に膝を折り、うつ伏せに倒れ込んだ。
「しっかりしろ! 目を覚ませミラージュ!!」
「起きてよ! 起きなさいったら!!」
「加減はした故、命に別状はないはずだ……再戦の日が来るのを、ツインテールと乳を洗って待っているがいい」
親友の危機にパニックになった俺たちは、もはやゲートに消えるエレメリアンをそっちのけで結を揺さぶり、必死に呼びかけた。
『総二様! 奴の言う通り、結さんは気絶しただけです。でももうすぐ変身が解けます! 急いで隠れてください!!』
「わ、わかった!!」
事実、結の身体を光が包み、衆目に正体が晒されようとしていたため、俺は慌ててオーラピラーを展開して身を隠し、現場から立ち去った。
どうにか人気の無い路地裏へ転がり込んだ俺たちは、間に合ったことに安堵するとオーラピラーを解除する。
だが、そこにいたのは見慣れた男子高校生長友結ではなく、学園の男子制服姿のテイルミラージュ……女体化した状態の結の姿だった。
「……間一髪だったな」
「これなら人前で解除されてもばれなかったでしょうけど……おねえちゃんに感謝ね」
一安心したのもつかの間、俺は重大な違和感に気が付いて結のブレザーをめくる。
彼は体育の授業がある日以外は、認識攪乱とブレザーに隠れているのをいいことに、エレメントドライバーを普段のベルトの代わりに締めているのだ。
そこにあったのは……何も無い空のベルト通しだけだった。
「結のドライバーが無い」
「なんですって!?」
「きっとあの時に外れたんだ……!」
慌てていたとはいえ、俺はベルトが落ちたことに気づけなかった自分を悔いた。
『……エレメントドライバーの反応、移動してます』
基地で衛星を使い、行方を捜してくれたトゥアールが現在のドライバーの在り処を知らせてくれたが、軽い絶望に見舞われた。
ツインテイルズは世界中から押しも押されぬ大人気だ。そんな彼女たちの落とし物なんて有ったら、そりゃあ拾いもするだろう。
『総二様、持ち主が自宅に戻るまでしばらくの辛抱です』
「そうよそーじ、場所がわかったら取り返しに行けばいいだけじゃない!」
────結の目が覚めたら、なんて伝えたらいいだろう?
俺は親友の落ち込む姿を想像して、なんとも憂鬱な気分になった。
はい、ロリブルーさんは成長しても貧乳なのだと見抜かれました。
幹部のお二方には属性玉変換機構を使用したのと類似した技を使わせてみましたが、如何でしょうか? 読みはかっこいいけど漢字がヒドイ技名考えるのは苦労します。
つーか自分で書いてなんだけど今作のこいつら強えー。
あと木間市にはシンボルとなるタワーが必要不可欠。
ちなみに愛香さんは普段はヘタレの受け体質ですが、オプションパーツを装備することで野獣と化し攻め手に回ります。
────こんなラストになりましたが、ちゃんと会長はイエローになりますよ?