俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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A以下さんバストアップ大失敗でござるの巻。


第十話「絶望! ラージバストが膨らまない」

 ────空想装甲テイルギア、それは果て無きツインテールへの愛によって稼働する無敵の強化服。

 柔軟さと硬度を兼ね備えた超軟性金属フォトンヴェイルで構成され、更に体表はあらゆるダメージを極限まで軽減する光膜フォトンアブソーバーが覆う二重の防御。

 そして握力、脚力を強化するスピリティカフィンガー、スピリティカレッグを始めとする各部に組み込まれた様々な特殊装備が、装着者に超人的な身体能力を与えてくれる。

 中でもその左腕には、属性力()の結晶たる属性玉(エレメーラオーブ)を取り込んで異能を発揮する属性玉変換機構(エレメリーション)が備えられており、異世界からの侵略者エレメリアンと戦う力となっている。

 テイルギアを纏い、蒼きツインテールの幼女戦士テイルブルーとしてエレメリアンと戦う津辺愛香は、今まさに新たに手に入れた属性玉を使用せんとしていた。

 その属性は“巨乳”。胸以外は完璧と言っていい美少女な彼女が欲してやまない属性だ。

「属性玉変換機構・巨乳属性(ラージバスト)!」

 左手首に設えられた小窓が開き、菱形の宝石が放り込まれたのと同時に、愛香の声が地下深くに建設された秘密基地、アイノスのコンソールルームで高らかに響く。

 

 ────だが返ってくるはずの電子音声は沈黙を保ったまま、発生するはずの特殊な能力も現れない。

 属性玉を取り出しては入れ直し、腕を振ってみたり噛みついてみたりと様々なことを試してみるも属性玉変換機構はうんともすんとも言わないままだ。

「なんで使えないのよぉ…………………………………………………………………………」

「今までだって、名前と効果が同じだったことがあったか? 兎耳属性つかってもウサミミ生えなかっただろ」

「それでも! ………………それでも希望が欲しかったのよぉ!!」

 失望に崩れ落ち、落涙するテイルブルー。恋人である総二のフォローも慰めにはならなかった。

「でも愛香さん、どのみちその属性玉は純度が足りないので使えませんでしたよ」

「いままでもそういうハズレの属性玉、いくつか有ったもんな」

 ツインテイルズとしての戦いの中、エレメリアンを打ち倒し数々の属性玉を手に入れてきた彼らだったが、それら全てが使用に耐えうるものではなかった。

 トゥアール曰く、長く生きていれば一番好きなもの以外にも好きな属性は増えていくものだが、人間ならば問題のないそれでも精神生命体であるエレメリアンにとっては属性力の純度を下げてしまうものらしい。

「そんな泣くなよ……お前の胸、小さいけどあったかくて、俺は好きだぞ?」

「そーじぃ…………………………」

「それに愛香さんの胸が小さくても、私が大きいんですからプラマイゼロです。大きなおっぱいが欲しいなら私か女の子の総二様のを揉めばいいんです! ……あ、でも私はおっぱいだけですよ? キスとかそれ以上のことはご法度ですから!!」

「トゥアール…………………………!」

 愛する男と想い人を共有する相棒、二人の暖かな言葉に波一つ立たぬ湖面のように真っ平らな胸を打たれたテイルブルーは、溢れる涙をそのままにトゥアールの豊満な胸へと飛びつき、子供が母に甘えるように思う存分顔を埋める。

 10代半ばという若さで妻妾同衾を達成した親友たちのそんな光景を、長友結と母親の観束未春は彼女たちを照らすスポットライトの外から暖かく見守っていた。

 トゥアールが妙に尻をモジモジさせていたのは気のせいだろう。

 

□□□□

 

「それにしても“主の為に巨乳属性を広める”か……間違いなく新しい隊長がやって来たってことだよな」

「そうですね。これまでの情報を総合すると、いくつもの部隊が各世界ごとに別行動をとっていて、今回のようなイレギュラーな事態には即座に援軍を投入できるような組織枠になっているとみて間違いないでしょう」

 落ち込んだ愛香を二人して慰め、気を取り直してタイガギルディに続く新たな敵の指揮官が到来したことを危惧したのもつかの間。

「そうだ、今回の巨乳属性はダメだったけど、ドラグギルディのツインテール属性なら使えるんじゃないかしら? テイルギア、パワーアップできそうじゃない?」

「いえ、属性力変換機構でツインテール属性を使用するのは暴走の危険があるので使えないようセーフティーが掛かっているんです、お義母さま」

「残念ね、二倍に掛け合わせるってお約束だと思ったんだけど……」

「なに普通に交ざってんだよ!? つーかいい歳してそんな恰好やめてくれよ!!」

 閃いたとばかりにぽん! と手を叩いた未春さんが話題に乗って来た。視界に映っていても今まで努めて触れずに来たが、彼女の出で立ちはいつぞやチクチクと拵えていた女幹部コスチュームだった。

 頭痛に襲われたように頭を抱える総二をよそに、全く動じていないトゥアールはまあまあと宥めにかかる。

「総二様、戦いに携わるものばかりでは視野が狭くなりがちです。こうして日常の象徴であるお義母さまの意見を賜ることで、思わぬアイディアが浮かぶかもしれません」

 どこが日常だよ頭のてっぺんまでどっぷりコッチ側に100数えるまで浸かってるじゃねーか!! と総二のツッコミが炸裂し、深々とため息をつく。

「………………関係のない母さんを、巻き込みたくないんだよ」

「関係あるわ。だってお腹を痛めて産んだ息子が、世界を守るヒーローなんですもの」

 総二が絞り出した言葉にかぶりを振って、未春さんは清らかな微笑みを浮かべる。いいこと言ってるのは間違いないのだが、女幹部スタイルが全てをぶち壊しにしていた。

「その息子の胃に穴が開きそうな原因に心当たり有りませんかお母様!?」

「でももったいないじゃない。あれだけの強敵だったんだもの、きっと何かの役に立つと思うわ。だって総ちゃんたちが大苦戦した初めての敵ですものね……互いの武器を取り換えて繰り出した別バージョンのグランドブレイザーにエグゼキュートウェイブ、トドメの同時入刀なんて母さん感動して泣いちゃった」

 俺はその現場を生で見てたし、記録された映像も恋香さん、未春さんたちと暇を見つけては見返したものだが、確かにあれは名場面だと言わざるを得ない。

「入刀って……そんな、おばさんったら……!」

「む、息子が繰り広げた死闘をそんな、幼稚園児のホームビデオみたいに語るなよ!」

「いや、この場合例えるなら結婚披露宴だろ」

 真っ赤になるご両人へやんわりと突っ込む。

 だがそう言われてみればあれは確かに指輪交換とケーキ入刀だ。思い至らなかったとはこの俺一生の不覚。しかしドラグギルディケーキか……今度挑戦してみようかな。土台はスポンジをカットして彫刻するとして、表面は溶かしたチョコレート、角はホワイトチョコに色付けを……

 などと脳内で食べられる胸像の作り方をシミュレーションしていると、不意に属性玉の活用法が天啓の如く舞い降りた。

「そうだ! エレメントギアならツインテール属性入ってないから使えるんじゃないか!? 俺自身のだけだから属性玉変換機構で使っても二つ分だろ?」

「あ」「まあ」「そっか」「冴えてるぜ結!」

「じゃあさっそく訓練場に……」

「あ、ベルトに差したままのグリップに接続すれば、本体側で能力使えますよ」

 その一言に硬直した俺は、ギギギギと油の切れたブリキのロボットのような動きでトゥアールに視線を向けると無言で変身し、髪紐属性(リボン)の属性玉を取り出すと、右側のグリップへ接続した属性玉変換機構へ装填した。

『属性玉変換機構────髪紐属性』

 電子音声の後に、リフレクターリボンからブルーでお馴染みの力場で構成された翼が生え、エレメントギアに包まれた俺の身体をふわりと浮かび上がらせる。

 部屋を支配する沈黙とトゥアールの笑顔。

「なんでもっと早く教えなかった! 言え! なんでだ!?」

「だって十分使えてたじゃないですか~それに死亡確認おじさんみたいな飛び方、私は嫌いじゃなかったですよ滑稽で。ぷふ~wwww……ヴォエッ!」

「ほ、ほら結! 気持ちはわかるけどとりあえず試してみろって。な!!」

 殴りたい、この笑顔。というフレーズが似合いそうな嘲笑に思わず拳を振り上げた俺は、先んじてトゥアールを張り倒した愛香と総二に宥められて矛を収め、改めて属性玉を手に取った。

「属性玉変換機構────双房属性(ツインテール)!!」

 座席を離れた空間で変換機構へツインテール属性を叩き込んだ俺は、期待を胸に叫びをあげる。

 するとたちまち頭部を覆うバブルキャノピー……おお、これが宇宙用のヘルメット! ツインテールも航空機の翼じみた装甲で覆われているぜ。

 そして放熱のためなのか次々と解放される手脚を始めとする各部の装甲……スーパーモードのようでいやがおうにも期待が高まる。

 心なしかテンションと共に体温もポカポカと上がって来た気がするぜ!

「そうか! ツインテール属性の能力は単純かつ強力な、出力の増強だったのか……!」

 そう感嘆した次の瞬間、天井と床から金属製の円筒がせり出し俺を隔離した。

 その状況もさることながら、ものすごい勢いで噴き出し視界を埋め尽くす白いガスに困惑を隠せない。

 ギアの表示を見るに、このガスはいつぞやの冷却ガスらしい。これだけの量と言うことは……氷漬けが目的か!

「おのれ地獄宇宙人! アタシを兄さんたちみたいにブロンズ像にするつもりだな!?」

 おのれ、トゥアールの正体は地獄星人だったのか! とノリノリで問いかけてみる。

「馬鹿なこと言ってないで早く属性玉を取り出してください! 冷却が追い付かなくなったらどうするんですか!!」

 言われたとおりにツインテール属性を解除すると、一分と経たずに隔離カプセルは開放された。なんだよもー。

「いったい何が起きていたんだ」

「エレメントギアの温度が急上昇したんですよ! カプセル内で六千度近くまで!!」

「太陽の表面か原爆の爆心地とおんなじくらいじゃねえか!」

「た、太陽!? 原爆!?」

「だ、大丈夫なの結!?」

 温度には驚いたものの、ちょっと蒸し暑くなったくらいで別段何ともなかったと告げると一同に呆れた顔をされる。

「────で、原因はなんなんだ?」

「以前もお話ししましたが、エレメントギアの動力はギア内の眼鏡属性と装着者の持つ属性力を、中継ぎとなる両性具有属性を挟むことで足並みを合わせ、疑似的な共鳴状態に置くものです」

「……………………まさか」

「そこへ結さん自身も持っていたツインテール属性を投入してしまったせいで、暴走の危険性の高い三重共鳴の条件が疑似的にせよ成立してしまったんです」

「でも、俺の属性で一番強いのは恋愛属性で……」

「ええ、ですが疑似的な共鳴よりも、テイルギアのように同じ属性同士での共鳴のほうが出力は高くなりますので、ギア側もそちらを優先してしまったのではないでしょうか?」

 目の前が真っ暗になる思いだった。

 と言うことは、総二たちと同じツインテール属性の力で戦うことはおろか、これから先眼鏡属性や恋愛属性といった自分自身の持つのと同じ属性玉を手に入れても、俺が使うことは出来ないってことじゃないか。

 無理して使ったが最後、確実に周囲は巻き添えになりドラグギルディ戦なんて目じゃない大惨事になるだろう。

「しかしあれほど加熱したのに平然としてるなんて、どれだけ耐熱性能に力注いでるんですか……外側からの攻撃ならともかく、テイルギアでも下手したら火傷してますよ普通」

「でもよくあんな耐熱カプセルなんて用意してたよな。科学者お約束のこんなこともあろうかと、って奴か?」

 がっくりと肩を落とした俺をよそに、総二は被害を防いでくれたトゥアールの準備の良さを称えた。

「いいえ、あれは私が用意したものではありませんよ?」

 だが彼女の口から告げられたのは予想外の回答だ。

「愛香さんたちに破壊された際の自動修復機能(リペアードシステム)も備えていますが、この基地そのものが人間と同じ思考ロジックで制御されていますので、私と一緒に考え拡張(そだ)っていくんです。演算速度はこの世界最高のスーパーコンピューター80億台分に相当します」

 俺や愛香にブッ飛ばされたトゥアールがめり込んだ壁や天井が、いつの間にか直っていたのは修復機能のお陰だったのか。

 しかし比較対象と数字が分かりやすい。総二も感心しているようだった。

「そうだ、その属性玉を核にして、もう一つテイルギアを造れないかしら?」

「やめてくれよ母さん、自分も変身しようとするの……」

「やあねえ、母さんには肝心なツインテール属性が無いじゃない」

「はっはっは。そうだぞー、未春さん相手だったら中二属性のエレメリアンを倒して造った中二ギアを用意するべきだろう」

「 用 意 さ れ て た ま る か ! ! 」

「それにね、母さん昔はヒーローに憧れていたけれど、そんな差し出がましい真似はしないわ。今は総ちゃんの母親っていうだけで満足なの」

「母さん……」「おばさん……」

 いいこと言ってるけど悪の女幹部丸出しな格好がぶち壊しだよ未春さん。

「でも仲間が増えるのは心強いかもな……」

「いけません! これ以上誰かを戦いに巻き込むなんて!!」

「そうよそーじ! あんな変態たちとどこぞの女の子を戦わせようっていうの!?」

 胸ぐらへつかみかかる勢いで詰め寄り総二の意見を否定する二人。

 だいたい部外者にどうやって事情を説明するんだよ……と俺がひとりごちる中、エレベーターの扉が開き大学帰りの恋香さんが顔を出す。

「みんな、ただいま……どうかした?」

 事情を知っていて、ギアを稼働させられるレベルで見事なツインテール属性の持ち主……今はツインテールを解いているが条件にドンピシャな人物の登場に、俺たちは再び言葉を失った。

 

「────結くんのベルトを借りて、変身したことはあるけれど……愛香や総くんと同じブレスレットかぁ……」

「ちょっと、おねえちゃん? テイルギア着けるってことは……」

「大丈夫、わかってるわ。総くんの前ではもうツインテールにしないから……ね」

 姉がまたツインテールを結んでしまうという不安に駆られる愛香を、やんわりと落ち着かせる恋香さん。流石に彼女を戦いに巻き込むのは気が進まないし、愛香へ笑顔を向ける恋香さん自身も当然積極的に約束を破る気は無いようだ。

 トゥアールが初めてやって来た時のアレは偶発的な事故だし。

 ふと時計を見れば、時間はすっかり六時半を回っていた。アドレシェンツァの閉店時間は六時だが、恐ろしいことにうちの常連さんは放っておいてもきちんと代金を払ってくれるので、未春さんが店を抜け出してもへっちゃらなのだ。

「あ、もうこんな時間だ……せっかくだし、晩飯食ってってもいいか?」

「ああ、たまにはみんなで食べるのもいいもんな」

「おねえちゃんもいいよね?」

「ええ、上に結維ちゃんも居るから声掛けてあげないと」

「じゃあ今晩はおばさん腕によりをかけてたくさん作らなくっちゃ」

「ゴチになりまーす!」

 みんな揃って笑顔でエレベーターに乗り込み、上昇ボタンを押す。

 地下から地上までの1000mの距離をあっという間に駆け抜ける速度のエレベーターが、アドレシェンツァの厨房へ停止し音一つ立てずにその扉を開く。

「────あ」

「────おにいちゃんと、恋香おねえちゃんに……みんな? ……………………何よ、これ……お店の冷蔵庫、どうなってるのよ?」

 エレベーターの出入り口が偽装されている厨房の冷蔵庫、今しがた俺たちが出てきたそれを唖然とした表情で結維が見つめていた。

 

「────おにいちゃんたちが、ツインテイルズだったなんて……………………」

 エレベーターの存在を知られてしまったので今更中途半端にごまかすよりは、と秘密基地を見せ、俺たちは結維の目の前で変身して見せた。

 憧れのヒーロー、もといヒロインが男でしかも身内だったという事実を受け止めきれずに呆然と食卓に着き、パクパクモグモグとロボットのように機械的な動きと無表情さで箸を口へ運ぶ妹を、俺たちはいたたまれない思いで見守るしかなかった。

「……ごちそうさま、じゃあ俺ら帰るわ。また明日な」

「……ごちそうさま」

「余ったオカズ、詰めてあげるからご両親に持って行ってあげて」

「ありがとうございます未春さん」

 タッパーに詰められたオカズを紙袋に収め、結維の手を引いて店を後にする俺を、背後から呼び止める声があった。

「待って、結くん。心配だから私も今日はそっちに泊まろうと思うの」

「恋香さん……ありがとうございます」

 お泊りセットを抱えた恋香さんとオカズを手に下げた俺に挟まれて、結維は連行される宇宙人のように帰路に就いた。

 ────こいつの背がもっと低かったら親子連れとか言えたんだがなあ。

「ところで結くん────来る前に携帯で夕方のTV見たんだけど、愛香に何があったか教えてくれるよね?」

 普段は心安らぐ恋香さんの笑顔が、街灯の下ではやけに恐ろしく見えた。

 

□□□□

 

 ゴールデンウィーク前日のツインテール部部室。

 結局、装着者はさておき、何かがあった時のための予備と言うことで新テイルギアの開発は決定され、トゥアールの手で着々と設計図が引かれていた。

 ノートパソコンのキーボード上にしなやかな指が走り、部屋に軽快なキータッチ音が響く中、パソコン画面の中でワイヤーフレームと無数の数式が踊り、ウィンドウが目まぐるしく出たり消えたりを繰り返す。

 なんか悪いものでも食べたのかと思いたくなるほどに、普段のひょうきんな彼女とは隔絶した、理知的で神秘的で素直にカッコイイと認めたくなるその姿に、総二はすっかり見とれていた。

「新しいテイルギアはいつごろ完成する予定なんだ?」

「ゴールデンウィーク明けには出来上がると思います。今回は思い切ってフォースリヴォンに頼らない内蔵武装を充実させてみようかと思いまして……」

 そう言って見せてくれた新型テイルギアの説明図は、確かに全身これ武器といった充実ぶりだ。

 だがビーム砲、バルカン、ミサイル……と搭載予定の武装を目で追っていくうちに、俺は見過ごしてはいけないものを見つけ、慌ててトゥアールを問いただす。

「なあ、背中のコレ、陽電子砲って書いてあるんだが……見間違いじゃないよな?」

「ええ、間違いなく電子の反物質を撃ち出す方の陽電子砲ですよ。陽・電子(ヤオ・デンツィー)博士の開発したビーム砲とかじゃありません」

「地上でこんなの撃って大丈夫なのか? 対消滅爆発の範囲とかガンマ線とか」

「大丈夫です、きちんと考えてありますよ角度とか」

 その会話に出てきた単語に反応して、愛香たちも話題に食いついてきた。

「さっきからガンマ線がどうとか物騒な単語が聞こえてるんだけど、どういうことよ?」

「ああ、このテイルギアには命中するとガンマ線を撒き散らして爆発するビーム砲が付いてたんだ」

「大丈夫なのかそれ!?」

「本当に大丈夫ですから安心なさっててください。テイルギアは環境に配慮した武器しか積んでませんから」

 まあ、これだけの科学力があるんだし、安全に反物質兵器を運用する方法は確立されてると信じよう。

「あ、そう言えばツインテイルズの食玩が出るそうなんですが、これを見て下さい」

 そう言ってトゥアールは一旦画面を切り替えると、商品の紹介ページをこちらに向けてきた。

「全八種類で各キャラ武器の有り無しで二種づつ、ミラージュはマグナム、ロッドで三種類。シークレットは初登場時のミラージュクマさんだそうですよ」

「アレまで商品化されんのかよ!?」

 そんな中、総二が難しい顔をして黙り込んでいるのを見ていると、ツインテールの造り込みが甘いな、と呟いているのが聞こえた。

 確かに画像で見る限りツインテールの躍動感が足りない。ツインテイルズの商品ならツインテールに力を注ぐべきだろう。低価格帯の商品こそ重要なポイントを一点集中しなければ。

 まあ角を矯めて牛を殺すではないが、かと言ってツインテールにばかり力を注ぎ過ぎて、他の部分が邪神像クオリティになってしまっては本末転倒だ。

 顔の造形やプロポーションはしっかりしているし、価格的にも子供たちが手に取るには手頃だ。今度向こうのチビたちに会ったら買ってやろうかな。と米を送ってくれる親戚の家の子供たちを思い浮かべる。

 

 ────その後、当のおじさんが腰を痛めて、連休中に急遽田植えの手伝いに行かないといけなくなったのは別の話。

 いやあ意外と早くその機会が来たもんだ。と連れて行った恋香さんを紹介した俺は、チビたちに散々囃し立てられ、年長の従兄弟連中に嫉妬交じりに絡まれたりしつつしみじみ思うのだった。

 

□□□□

 

 ────そんなこんなで連休明けの放課後。

 新テイルギア完成の報せを受け、秘密基地へ集まった俺たちと恋香さんのもとに、息を切らして結維が駆け込んできた。

「お願いします! わたしをツインテイルズに入れてください!!」

 開口一番そう叫んだ妹の姿に困惑し、俺も含めてみんな言葉が出ない。

「あのなあ結維、お前まだ小学生だろう」

「歳は関係ないよ! わたしもおにいちゃんの手伝いがしたいの!!」

「……結さん、試しに使わせてみたらいいんじゃないですか? ダメだったら結維ちゃんの諦めもつくでしょうし」

 結維が俺に縋り付いて懇願するなか、彼女にリモコンを思わせる形状の機材……と言うか普段モニターの操作に使っているリモコンを向けたトゥアールは、少し安堵した表情でテイルブレスの使用許可を出す。

「本当!? トゥアールさんありがとう! 絶対に変身して見せるんだから、覚悟しててよね!!」

 勇んで黄色いブレスを右手に嵌め、結維は教えられた変身機構起動略語(スタートアップワード)を高らかに叫んだ。

「────テイルオンッ!!」

 だがしかし、ブレスは何の反応も示さないまま。変身の証であるフォトンコクーンの眩い輝きも、一瞬たりとも彼女の身体を包む気配はない。

「テイルオン! テイルオン!! ……テイルオ~~~~~~~~~~~~~~~ン!!」

 何度叫んでも結果は変わらず、しまいには結維は床の上へへたり込んでしまった。

「なんで……なんで変身できないのよぉ………………」

「残念ですけど、結維ちゃんのツインテール属性ではテイルギアを使うには一歩足りませんでしたね」

 どうやら先程のリモコンには、属性力の強さを計測する属性力探査機の機能が有ったようだ。ただのリモコンじゃなかったんだな、アレ。

「ぐやじいよぉおおおおおおおおおおにいぢゃああああああああああああああああん」

 愛香よりも背も胸もデカいせいで、私服で並ぶと下手をすれば愛香と同年代か年上に見られる妹の、恥も外聞もない泣き叫びようを哀れに思った俺は、さあ俺の胸で思う存分お泣き。とばかりに胸を貸し、落ち着くまであやす破目になった。

「ほんと、結ってなんだかんだ言って結維ちゃんに甘いよな」

「ああ、あたしも巨乳属性が使えなかったときはああだったなぁ……」

 なんてピュアでお人好しな総二と、かつてはかない希望を砕かれた痛みを知る愛香はほんわかした視線を向けてくれているが、当の結維が実はとっくに泣き止んでいて、自らの肺腑の空気総てを俺のシャツ越しに濾過したものと入れ替えている真っ最中だということを知ったらどんな顔をするのやら。

「結くんみたいなお兄ちゃんに甘えられて、結維ちゃんがうらやましいな」

 恋香さんもほんわかした笑顔を浮かべているが、絶対これ気付いてる。

 

 ────なお、先程の計測結果でツインテール属性を上回っていたのは妹属性だった。かつてカンガルギルディを倒して得た属性玉は幸い純度不足だったが、これから先強大な妹属性のエレメリアンが現れないことを俺は切に願う。




戦闘シーンまで行けなかったちくしょう。
会長より先に結維に正体がバレました。そんでツインテイルズ入りを希望するも失敗。
仮に変身に成功していたら、武器は包丁のヴォルティックスライサーになってました。完全開放で切ったものがくっつかない穴あき包丁に。ヴォルティックジャッジメントは腰だめに構えてブスリと刺突→抉りのコンボ……コワイ! 視聴者からの批判殺到間違いなし!!
しかしイエローの背部大型陽電子砲……物騒ですよね。小説では最初は荷電粒子砲でしたが、アニメ版で陽電子砲に変更され、原作にも逆輸入されてましたけど……ただのビーム砲じゃパンチが弱いと思われたのかな? 腕のと被るし。
まあ陽電子も荷電粒子なのは変わらないんですが、大気中でぶっ放すもんじゃねーぞおい。空気の分子に当たっただけでも対消滅でガンマ線出るじゃねーか。
まあ粒子をエレメーラで包んだりしてエレメリアンへ有効な状態にしつつ周囲の正物質から保護隔離したりしてるんでしょうか。

あと以前ミラージュは武器を介してしか属性玉を使えないと言ったが……能力が本体から出せないとは一言も言ってない(ごめんなさい後になって思いつきました)

おまけ
テイルミラージュ・トライレゾナンスチェイン
テイルミラージュが属性玉変換機構でツインテール属性、眼鏡属性、恋愛属性のいずれかを使用し、疑似三重共鳴を行った姿。
暴走状態の溢れんばかりの余剰エネルギーを放出するためにギアの各部が冷却、放熱の為に開放されている。
その戦闘力は歩き回るだけで周囲を火の海に変え、ミラージュマグナムを撃てば通常弾ですら一発一発が火球となってエレメリアンを粉砕し、ロングロッドは振り回すだけで周囲の敵集団が一度に壊滅する。
青森県北端の地下からリフレクションビームを放てば、もう一本の青函トンネルが一瞬で開通できるだろう。
必殺技は自称オーラピラーこと拘束モードのリフレクションビームで自分もろとも相手を拘束し、至近距離からエネルギーを一気にぶつける自爆技、ミラージュダイナマイトである。
なお、使用すると拘束に使われるビーム檻が耐えきれずに崩壊し、最低でも都市一つが地図から消滅する模様。
ちなみにこの被害は装着者が無事なレベルの物であり、命と引き換えに放たれる最大出力では日本列島をすっぽり覆う範囲が壊滅し、余波だけでも周辺各国にかなりの被害が出る。
言わばヘラクレスギルディ末期バージョンである。

こんなのぜってー使えねーwwww

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