日数の経過にミスが有ったので冒頭を修正しました。
「おはようございます、いい朝ですね!」
「「いえーい!!」」
日曜日、いつも通りにアドレシェンツァへ立ち寄った俺は、ルンルン気分で挨拶すると未春さんとアイコンタクトの後にハイタッチし、そのまま流れるように椅子へ腰かけると差し出されたカップを受け取りモーニングコーヒーを口へ運ぶ。
ちなみにヒーロータイムは急遽特番で潰れてしまったので、俺も朝食はまだだ。家族の分は作って来たけどな。
「朝から元気だな……」
そうつぶやくのは、寝不足なのかいくらかくたびれた様子の総二。だが“彼女”のしっかりと結い上げられた輝くような赤毛のツインテールは、本体とは裏腹に元気満タンだ。
マグカップを両手で持ちながら、夢見心地で中空へ視線を浮かべるトゥアールも、一斤分のパンをスライスと言うよりぶった切ったとしか形容できない厚切りのトースト──自宅からやってきたときは常識的な厚さなので、お泊り後の定番メニュー──を厚切りハムを添えた卵四つ分の目玉焼きと共に彼女の隣でぱくついている愛香も、そんな総二のツインテールばりにつやつやしている。
「────結さん、ありがとうございます。かつて総二様と結ばれた愛香さんも、こんな気持ちだったんでしょうね………………」
「そうだろう、存分に感謝するといい……この俺の海のように広い心にな!」
「ははっ、ナイスジョーク。瀬戸内海ぐらいの間違いじゃないですかおごああああああがぼがぼふがふが」
相変わらずの憎まれ口を吐くトゥアールを寛大な心で許した俺は、淹れたて熱々のコーヒーをご馳走してやった。頭を掴んで強引に上を向かせた彼女の鼻から。
「あ~ん! 愛香さん! 結さんがいじめるんですう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「おー、よしよし。あんたも相変わらず学習しないわよね」
「ああ、慣れて見れば悪くないものですねえこの安らぎの大平原……うぼあああああ!」
珍しく愛香に泣きつくトゥアールだったが、その体に染みついた失言癖がまたしても彼女を襲う。
抱き合った状態からくるりと180度反転させられ、そのまま流れるように繰り出されたバックドロップで、床に前衛的なオブジェが突き立つのを尻目に俺は未春さんへ話を振った。
「ところで夕べお赤飯炊いてみて、どうでした未春さん?」
「いやあ、息子しかいないのにお赤飯でお祝いする日が来るなんて思わなかったわ。結くんがくれたお米もおいしかったし、やっぱり親戚に農家が居ると助かるわよね」
昨日の午後、店の手伝い中いったん外出させてもらった俺は、自宅へ戻るや人数分のもち米を米袋から計り取ると、返す刀で飛び乗った自転車を飛ばして近所のスーパーへ赴き、小豆を買ってアドレシェンツァへ舞い戻った。
恋香さんと付き合いだしてから、毎年親戚からもらっていた米を津辺家にもおすそ分けするようになったが、ほぼ正月にしか使い道のなかったもち米が余っていて良かったと心から思ったものだ。
おかげで昨夜の観束家の食卓に、親友たちの新たな門出と再び大人の階段を登ったことに捧げられた祝福のメニューであるお赤飯を無事用意することが出来た。
「息子が雌の悦びを知ってしまった雄の顔するのを目にする日が来るなんて……総ちゃんの母親やってて良かったって心から思うわ」
「もうやめてくれよぉ~~~~」
そんなことをしみじみと言い放つ母親の姿に、総二は泣いた。
俺は笑った。
PS.その後総二と愛香は無事に元の身体へ戻り、普通に学校に行きました。
DTを捨てて一皮むけた愛香と、処女を失って男が目覚めちゃいけないものに目覚めてしまった弱気な総二は可愛かったです。
□□□□
「はーい、今日は皆さんに新任の先生を紹介します~」
朝のSHRで、担任の樽井先生の気だるげな声に促されて入ってきた人物の姿に俺たちは目を疑った。
促され、教室へ入ってきた彼女の身を包むのは、胸元が空きミニスカートに切り詰められたフレンチ式の黒いメイド服。
上結びにされたふわっとした柔らかなツインテールの似合う、キリッとした凛々しい眼差しの美人だ。
いつも会長の側に付き従っているメイドさんが、堂々とした足取りで教卓の前で俺たちへ向き直った。
「今日から非常勤の体育教師として赴任された、桜川尊先生です~」
「うむ、よろしく!」
当然疑問に思った女生徒の声を、樽井先生は「知りません~私は何も知りません~」と耳をふさいで知らないアピール。
空気読まないうえに事なかれ主義かこの野郎。初日の総二への扱いと部室の件に加えて、また一つ俺のヘイトポイントが追加されたぞ。
「しかし君たちは大人しいな。普通、美人の先生が赴任して来たらスリーサイズやら彼氏の有無など質問攻めにするところだろうに」
ジャージでもスーツでもない、メイド服に身を包んだ体育教師などと言う奇天烈な存在にみんなが呆然としている中、桜川先生は「慧理那様の、生徒会長のメイドだからと言って遠慮することは無いぞ?」などと無茶苦茶なことを言う。
「む? 何やら熱い視線を感じるな。君は……おお、観束君じゃないか」
「……え? え?」
そんな中、不幸にも総二がロックオンされてしまった。くそっ、あいつの視線がツインテールに吸い寄せられる癖が裏目に出たか。
まずい、これから起こることをおぼろげに予想した俺の第六感が警鐘を鳴らす。
「せんせー、観束はツインテールが好きなんでーす」
「そうかそうか、ではこれをあげよう。私からのささやかな贈り物だ!」
余計なことを抜かした男子の言葉に上機嫌になった桜川先生が、なにやらA6サイズの封筒を取り出して総二の元へ歩み寄った。
封筒の中から出てきたのは先生の名前が記入された婚姻届。愛香は呆然とするあまり即座に行動に移すことが出来ない。ならばやることは一つ────!
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
怪鳥の如き叫びを発して飛び掛かった俺は、蹴りの一撃で総二の手に有った噴飯物の紙切れを粉砕した。
それがきっかけとなって我に返った愛香が席を立ち、彼女持ちの生徒へ求婚するという暴挙に出た先生へ猛然と抗議の声を上げ、トゥアールも遅れて追従する。
「────先生! 冗談でもやっていいことと悪いことがあります!!」
「その通り! だいたい総二様は売約済みです! 誰に許可を得て求婚なんてしてるんですかこの年増! 私の目の黒いうちは絶対認めませんよ!!」
「────ほう、君たちは確か津辺愛香君とトゥアール君だったか。だが冗談ではないぞ? これまでにも526枚婚姻届を配ってきたがいずれも本気だ! ただ先方の都合が悪かっただけだ!!」
「なおさら駄目だろ………………」
冗談じゃないぞこの非常識教師。俺はあまりの状況についていけず頭を抱える総二をこの嫁き遅れの暴力的な婚活攻勢から守るべく、胸のエンジンに火を入れて親友を叱咤した。
「総二、こんなところで頭を抱えている場合じゃないだろう。嫁と妾がああして泥棒猫と戦っているんだ、ここはお前自身の口からもガツンと言ってやるべきじゃないか?」
男なら、グズグズしないで行動しろ。
「────ああ、そうだな。惚れた女への愛も胸を張って叫べないようじゃ、ツインテールに笑われちまう!」
意を決して立ち上がった総二は、心で
「桜川先生! 俺は貴女の婚姻届けを受け取ることなんてできません! 何故ならこの俺観束総二には……」
そこで一拍置いて、愛香のもとに歩み寄った総二は彼女を抱き寄せた。
「婚姻届けに津辺愛香以外の名前を書かせる気なんて毛先程も無いからです!!」
「────そーじ………………!!」
頬を染めて口元を押さえ、感極まった愛香が涙を流して総二の胸に顔を埋めるのと同時に、教室を爆発したかのような歓声が埋め尽くす。
その光景に一瞬目を見開いて気圧された先生だったが、その瞳が思い出したようにこちらを向いた。
「ふむ、そういえば活きのいい男子がもう一人いたな。確か長友結君だったか……先程の蹴りはなかなかの切れ味だった、どうだ、君も婚姻届にサインする気はないか?」
要るわけねーだろ結婚を何だと思ってるんだあんたは。
「俺もそんなものを受け取る気はありません。俺にも心に決めた女性が居るんだ! そんな見境なしに相手が欲しかったんならそこに居るフリーの鈴本君にでも渡してやったらいいんです!!」
「ファッ!?」
即答でのお断り&たらい回しに鈴本が驚愕の叫びをあげる。いやお前、彼女欲しがってたしちょうどいいだろ? 先生美人だしスタイル良いし。
うちの結維に反応してたし、ロリコンではない、はず。多分、きっと、メイビー。
「ふっ、現在恋人が居ようが関係ないと言いたいところだったが、独り身の男子を紹介してくれるとはなかなか見上げた生徒だ────さて鈴本君、婚姻届をやろう」
これで飢婚者の矛先が変わり、俺たちは鈴本の悲鳴をBGMに安堵のため息を漏らす。
どこから取り出したのか、トランプマジックのように彼女の両手に現れた幾枚もの婚姻届が手裏剣と化して逃げ惑う鈴本に襲い掛かり、その四肢を昆虫標本さながらに壁へと磔にした。
わー、すごーい。まるで漫画みたいだー。
ただの紙切れであるはずの婚姻届が制服の袖を貫いて壁に突き刺さるという怪現象を全力でスルーする俺。
なるほどなるほど、あの人は中途半端に逃げ出すとかえって追って来るのか。
そうこうするうちにチャイムが鳴り渡り、SHRが終わりを告げる。
「む、ホームルームが終わってしまったか。まあいい」
磔にされて泣きじゃくる鈴本をそのままに、メイド先生は教卓へと戻ると教室の男子生徒たちを見渡して言い放つ。
「さて男子諸君、他にも婚姻届が欲しいものが居るなら名乗り出るといい。男子生徒全員分は持ち歩いているから何も心配はいらないぞ」
その声を聞くが早いか一斉に視線を広げた教科書に向けて、試験前の追い込みか受験勉強のような有様を見せる男子一同。
「観束たちに負けていられるか! 俺はテイルレッドたんにふさわしい男になるために学年主席を目指すぞ!!」
「俺はミラージュさんだ!」「俺はブルーたんを……!」
………………どうしよう。こいつらに、彼女たちは全員恋人が居るんだよなんて告げたら死人が出そうな雰囲気だ。
これが世界を魅了してやまないツインテールの負の側面だというのか………………。
「まあいいだろう。男子諸君、気が変わったらいつでも婚姻届にサインしてくれ」
そう言って去ってゆくメイド先生。あえて例えるなら“嵐を呼ぶ教師”と言ったところか。実際教室と生徒たちの心は暴風が吹き荒れたように引っ掻き回されている。
これから先も似たようなことをされたらたまったものじゃないので、一刻も早く相手が見つかって落ち着いてくれるといいんだが。
────なお、騒動の最中俺が漏らした妾発言を耳ざとく聞きつけた女子たちが総二、愛香、トゥアールの三人を取り囲み尋問を始めたのは不幸な事故であった。
悪くねえー! 俺は悪くねえー!!
□□□□
派遣された二つの部隊を迎え入れるため、参謀のスパロウギルディは主君であるドラグギルディを喪い意気消沈していたスワンギルディを伴い、搬入口ヘ歩みを進めていた。
ドラグギルディと旧知の仲であるリヴァイアギルディが、彼の心に再び火を点してくれることへの期待はある。
しかしリヴァイアギルディ、クラーケギルディの二人はそれぞれ巨乳と貧乳を掲げて対立する水と油、犬猿の仲だ。手を取り合ってくれれば鬼に金棒だが、果たして自分に両名を取り持つその大役を務められるだろうか……? と老兵は焦燥と不安が入り交じった面持で基地の最奥を目指す。
エレメリアンたちは自らの存在そのものと言っていい属性にひたむきであるがゆえに、相反する属性の持ち主同士互いに一歩も譲らず争いとなってしまうことは珍しくない。
スパロウギルディがいつだったか風の噂で耳に挟んだことだが、その喧嘩の巻き添えで拠点である戦艦を二隻大破させてしまった部隊長も居るそうだ。
そういうわけで、アルティメギルが部隊を小分けにして無数の世界へ同時進行を行っているのは、効率だけでなくそういった争いを可能な限り避けるためでもある。
案の定、移動艇の着艦した搬入口は互いの部隊員たちが殺気を発して睨み合い、今にも争いが勃発しそうな剣呑な空気に包まれてしまっていた。
その中心は当然両軍の将、海竜を模したリヴァイアギルディと、伝説上の巨大烏賊を模したクラーケギルディだ。
恐れていた事態が現実のものとなり、スパロウギルディはどうやって事態を収拾するべきか内心で頭を抱えつつ、敬礼と共に挨拶を切り出した。
「リヴァイアギルディ様にクラーケギルディ様……お二人がこの世界に来ていただけるとは光栄です」
「首領様の命令は絶対だ。どうも強敵打倒の増援にかこつけて、どこぞの能無し部隊のお守りまで任されたようだが、まあやり遂げて見せるさ」
挨拶を手で制したリヴァイアギルディは露骨な不機嫌さを隠そうともせずに口を開く。
「言ってくれるな、侵攻する世界で幾度となく情けをかけて属性力奪取を完遂出来なかった半端者が」
当然それはこっちの台詞だと言い返すクラーケギルディ。
売り言葉に買い言葉。火が付いた二人はやれ時代錯誤な騎士かぶれ、巨乳などと言う下品な属性などと言い争いをエスカレートさせ、ついには実力行使に打って出る。
「巨ォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「貧ッッッッッッッッッッッッッッッ!!」
裂帛の気合と共に破裂音が耳をつんざき、衝撃波が辺りを揺るがした。
目にもとまらぬ一瞬の攻防。その正体は一瞬遅れてリヴァイアギルディの胴体へ巻き付いた股間から伸びる太い一本の触手と、クラーケギルディの背中へと格納された幾本もの触手の激突によるものだと知れた。
「……まあいい、部隊が大きくなれば今の基地では足りなかろう。我らの母艦も合わせねばならん。作業が済み次第、噂のツインテイルズとやらの記録を見せてもらおう」
そう言って踵を返し、部下たちを引き連れて移動艇へ戻ってゆくクラーケギルディ。
リヴァイアギルディも同様に帰還するかと思いきや、彼は部下のみを帰還させ、スパロウギルディに基地の構造とドラグギルディの部屋を尋ねる。
「ドラグギルディ様のお部屋に、何か御用が……?」
恐る恐る訊くスワンギルディに、リヴァイアギルディは「負け犬の面影でも見て戦いの前に大笑いさせてもらおうと思ってな」と笑い答えた。
「────ドラグギルディ様は立派に戦われ、昇天されました! 敗北したとはいえ誠に見事な……」
「慎め若造が!!」
「ぐうっ!!」
幽鬼のように歩み寄ったスワンギルディは、その言葉を取り消してほしいとリヴァイアギルディへ掴みかかり、スパロウギルディが止めるのも構わずにまくし立てるが、邪魔なハエでも払うかのように股間の触手の一振りで壁に叩き付けられる。
「貴様も戦士なら、いつまでも敗将になどこだわらず剣の一本でも振っておれ!!」
倒れ伏したスワンギルディを傲然と見下ろしたリヴァイアギルディはそう言い捨てて案内のあった方向へ歩み去ってゆく。
だが敬愛する上官への侮辱と自らの無力さに悔やむ若者は、老参謀に諭されて罵倒の裏に隠された不器用な優しさに気づけなかった己が不明を恥じ、いつか彼の高みへ上り詰めんと上官がかつて踏破した
果たして、白鳥は竜に届くのか? その答えは神のみぞ知る。
────後にドラグギルディの部屋を訪れたスワンギルディは、隊長への手向けとして隊員たちの持ち寄った幼女のフィギュアに混じって、おっぱいマウスパッドが捧げられているのを目にし、より一層修練に力を入れるようになったという。
□□□□
クラス中に三人の関係が知れ渡り、総二が男子たちから尊敬の目を向けられるようになってしまった日の放課後。
グラビアアイドルのオープンコンテスト会場にエレメリアンが出現した。
逃げ惑う女の子たちと揺れるツインテール、そして実りに実った豊かな膨らみ。
「くっ! む、胸糞悪い瘴気の濃い場所ね! とっとと終わらせてか、帰りましょう」
愛香は彼女らには有るのに自らに無いものに対して怒りを向けているようだったが、なんだか頬は紅潮しているし、声も言葉と裏腹にどこか上ずっている。
まるでツンデレキャラがやらかすバレバレの照れ隠しだ。
「……今朝、確かに愛香さんバー消したよな?」
「………………おい、あんまりジロジロ見るなよ」
何かを我慢するかのように脚をモジモジさせる彼女の姿に、幻肢痛的なアレなのだと遅まきながら思い至った俺は、むくれるレッドに肘で小突かれて我に返った。
ごめんな、女の子の股間を凝視するなんてマナー違反だよな。
親友へ謝罪した俺は気持ちを切り替えて、不機嫌そうに仁王立ちする牛のようなエレメリアンに向き直る。
「はったりばかりで見かけ倒しの者たちばかり……真の巨乳はここにはおらぬか! ────やや!?」
そう吐き捨てるように言い放ったエレメリアンは、何かに気付いたかのようにこちらへ顔を向けると、アメフトのフェイスガードのようなマスクの奥で光る赤い瞳を驚愕に見開いた。
「ツインテールも素晴らしいが、なんという巨乳! アルティロイド、お前たちはツインテール属性を奪え! この戦士は何としても我自らが相手をしなければならん!!」
戦闘員に囲まれて怯え悲鳴を上げる女の子たちだったが、やけにその態度があざとい。まるでこちらを捉えるTV局のカメラをバリバリに意識しているみたいだ。
助けに入ろうとした俺たちの前に立ちふさがったエレメリアンはいつも通り高らかに名乗りを上げる。
「邪魔はさせんぞツインテイルズ! 我が名はバッファローギルディ! 我が愛する
巨乳属性……なるほど、目当ては俺か!
「ブルー、レッド、こいつはアタシが相手をするから二人は襲われてる人たちを頼む!」
「わかった!」
「………………つまりアイツを斃せば巨乳属性の属性玉が手に入るのね」
ブレイザーブレイドを構え駆け出すレッドと、何事かを呟きながら属性玉・兎耳属性を発動し、アルティロイドの群れに飛び掛かるブルーを尻目に、俺はしの字に曲がった角を振り立てて猛然と突進してくるバッファローギルディへ、渾身の正拳突きをお見舞いする。
「グフッ、パンチに伴う至近距離の乳揺れ、ごちそうさまです! そしてかかったな!? 本命はこちらの────」
肉を切らせて骨を断つとばかりに、顔面に拳が突き刺さるのも厭わず繰り出されたのは尻尾の先に設けられた
それを迎撃するべく俺は咄嗟に回し蹴りの体勢に入ったが、その瞬間目に入ったのは戦闘員をあっさりと全滅させて舞い戻ったテイルブルーが、獲物を前にした肉食獣の目で
ヴォーパルバニーも裸足で逃げ出すような、空中を縦横無尽に跳ねまわる死の刃と化したテイルブルーによる、遠心力も加わった大上段からの刺突から一瞬遅れての爆発。
「やった! やったわー!!」
爆煙が収まった後、残っていたのは先程の鬼気迫る表情など欠片も残さずにぴょんぴょんはしゃぎまわる蒼き天使の満面の笑顔と、その手に握られた菱形の宝石だけだった。
まあ“殺ったわー”の間違いじゃないかとか思ったりもするが、愛香が可愛くて心がぴょんぴょんするから全部許す。
「あ、あの~」
襲われていたグラビアアイドルの何人かが、俺たちのもとへおずおずと歩み寄ってきた。
「ツインテール、触ってもらえますか?」
「今、噂になってるんです! ツインテイルズのみんなにツインテールを触ってもらうと幸せになれるって!!」
おいおいどこ情報だよそれ。どこから聞いても怪しさ爆発の都市伝説じゃねーか。
あまり邪険にも出来ないし、かと言って俺や総二がホイホイ女の子のツインテールを触るわけにもいかない。
なので同性で一番問題のない愛香にやってもらうことにしよう。
「……じゃああたしが」
「あん♪」
うわー、あざとーい。
だがそのわざとらしくクソあざとい声を皮切りにどっと押し寄せた女の子たちが、胸の津波と化してテイルブルーを運び去ってゆく。
「ああっ、ブルー!!」
もみくちゃにされ、たわわに実った無数の果実に押しつぶされそうな有様の彼女を慌てて救出した俺たちは、恒例の髪紐属性で上空へ舞い上がり帰路に就いた。
「…………おっぱいに埋まるって、あんな感じなんだ……えへへ、イイかも…………」
なんだか脇に抱えたブルーから不穏な気配と胸に注がれる熱視線を感じる。
「だ、ダメだぞ? アタシのおっぱいは恋香さんのなんだから……総二とトゥアールのおっぱいならいくらでも好きにしていいけどさ」
「ば、馬鹿! わかってるわよそんなこと!! ………………あとでまた、あんたのドライバー、貸して?」
もう、このお猿さんめ! どうやら愛香は本当に新しい世界に目覚めてしまったらしい。
俺は昨夜のことを想像して顔を赤くするテイルレッドと、もじもじとはにかみながら「例のお願い」を切り出してきたテイルブルーという二大エロ可愛い生き物に満足しつつ、トゥアールから転送ポイントとして指定された人気の無い空地へ降下した。
□□□□
────ベキリ。
テイルブルーがコンテスト会場でグラビアアイドルの群れにもみくちゃにされているのと同時刻。
講義を終えた学生たちの屯す、陽月学園大学部の一角でおやつを片手に友人たちと談笑していた津辺恋香は、我知らぬうちにケーキをつついていたプラスチックのフォークをへし折っていた。
「え? れ、恋香!? どうかしたの?」
「────あ、いけない。どうしたんだろう……なんだかすごく不愉快な感じがして」
「恋香ちゃんがそういうこと言うのって珍しいね」
「はは~ん、さては彼氏が浮気してたり……なんてな」
「うん、それだけは絶対ないよ」
毛先程の迷いもなく言い切った恋香を、小学校のころから付き合いのある友人たちは口々に囃し立てるが、彼女の口元は微笑みのまま固定され、視線は手元のケーキに注がれたまま微動だにしない。
(────愛香に悪い虫が付いた気がする)
彼女の属性力は、日を追うごとに高まり続けていた。
なんだか友人に囲まれてる恋香さんが、「城下町のダンデライオン」の葵姉さんでしかイメージできなくて困る。
そしてうちの愛香は一体どこへ行くのだろうか?