俺、総二と愛香が大好きです。   作:L田深愚

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思い切って書いてみました。これが俺の総×愛だ!
3.13:武器の描写に関して加筆しました。


第一話「カレー食ってる場合じゃねえ!」

 ────この俺、長友結(ながともむすぶ)には命の次に大事な親友が二人いる。

 一人は世界一なんじゃないかと思えるほどのツインテール馬鹿の観束総二。もう一人はこれまた世界最強なんじゃないかと思えるほどの武闘派美少女、津辺愛香。

 小学校に入学して以来ずっと一緒のクラスの俺たちだったが、中学最後のクリスマスから総二と愛香が遂に付き合い始めたことでその関係に変化が……特に訪れなかった。

 何故かって? 出会った頃から愛香が総二を好きなのは丸わかりだったし、興味をツインテールへ全振りしているせいで男女の機微に疎い総二に、想いを伝えられずにやきもきしている愛香というもどかしい二人を応援するのが俺は大好きだったからさ。

 それにいくら相手が美少女だといっても、横恋慕とか寝取りは完全に趣味じゃないのだ。どういうわけだか彼氏持ちや片思い中の女子って、なんとなく判っちゃうんだよね。なのでそういう人間は全然ピンと来ないからほんと安心できる。

 当然俺は他人が対象のそういう下種行為も大嫌いなわけだが、もし仮にそんな魔の手が二人に迫ろうというのなら、この俺がそいつを青森湾に沈めてやる。

 と、いうわけで────

「中等部から繰り上がりの長友結です。趣味は読書と料理、あとそこの津辺愛香さんは観束総二君の嫁なので、いくら超絶可愛いからってちょっかい出したら次の日から学校に来れなくなっちゃうから気を付けてね!」

 俺は入学式後のHRでの自己紹介で、盛大な自爆テロをかまして二人の高校デビューを盛大に景気づけしてやった。

 

□□□□

 

 入学式を終えた日の昼下がり、喫茶店アドレシェンツァにて高校生の男女三人が遅めの昼食をとっていた。

 男の方はこの店の息子、観束総二と俺こと長友結。向かいの席で大盛りのカレーを二皿ペロリと平らげているツインテールの女子が、隣の家に住んでいる彼の幼馴染、津辺愛香だ。ちなみにこの大盛りカレー、自爆テロの対価として料金は全て俺のオゴリである。

 店長である母親はただいま外出中のため、閉められている店内に居るのは俺たちだけだ。

「終わった……俺の高校生活」

「ツインテールのことばかり考えてるのはいいとしても、なんでああもやらかしちゃうかなあ……」

「せめてフォローしてくれてもよかったじゃないか~~俺とおまえの仲だろ~~」

 HRで配られた部活希望のアンケートで、総二は生徒会長のツインテールに魅せられたうえに愛香とカップルであることを盛大に暴露され混乱した状態でついつい『ツインテール部』なる単語を記入し、担任を務める空気の読めない女性教諭によってクラスの晒し者にされたのだった。

 会長を務める神堂慧理那先輩は、確かにツインテールのよく似合う美少女だ。

 学園の理事長を親に持ちメイドたちを引き連れた、漫画の中から飛び出してきたような生粋のお嬢様なうえ、小学生にしか見えない低身長ゆえか、病気じみたファンが大勢いるようだったがその点を差し引いても総二が見とれるのも無理はない。

 しかし生徒がうっかり妙な事を書いただけで変質者扱いとは、教育者として嘆かわしいぞ……まあ総二が自己紹介でもしどろもどろになるくらい騒ぎの種をばらまいた俺にも幾許かの責はあるが。

「まあいいじゃない。そーじのツインテール馬鹿が広まっても、余計な邪魔者が寄ってこなくて済むだけだし……というか、最大の原因はこいつよね」

「そうだよ、みんなから黄色い声が上がるわ変に生暖かい視線を向けられるわで、ものすごく居心地悪かったんだからな!」

「安心しろ、俺も恥ずかしかったからお相子だ!」

 にこやかな笑みでサムズアップした直後、眼前を通り過ぎてゆく愛香の拳。

 しかしそれが俺の顔面に当たることはない。オタク丸出しの贅肉まみれでメガネデブな俺だが、こと回避することと逃げ足にかけては一方ならぬ自信がある。

 初等部のころにドッジボールをやったら俺だけが最後まで生き残り、そのまま時間切れになったくらいだ。たとえそれが幼稚園で瓦を割り小学生の時点で熊殺しを達成した愛香の拳であっても、同じ道場に通い彼女たちを見つめ続けてきた俺に死角はない。

 まあこんなやり取りは慣れっこなので、追撃することもなくため息をついて早々に諦めた愛香は愛しの総二に身を寄せて乱れた精神の安定を図った。

 まともな友達が欲しいよ俺は……と嘆きながら愛香の髪を指で弄ぶ総二と、髪を弄られてうっとりとご満悦な愛香は見ていて本当に微笑ましい。

 親同士が友達で家も隣同士、津辺の家が経営している武術の道場でも一緒。小学校から大学までエスカレーター式の私立校、陽月学園に入学して以来クラスもずっと一緒という筋金入りの幼馴染同士。

 そんな二人が男女なら、ふとしたきっかけさえあれば関係が進展するのは当然の結果である。

 物心ついた時からツインテールのことを考えない時間は無いと断言できるほどのツインテール好きな総二と、その隣で彼のためだけに長年髪をツインテールにし続けてきた愛香。

 それほどまでに一人の男に想いを寄せている女の子が居れば、よほどのひねくれ者か僻み野郎や悪党でもない限り応援したくなるものだろう。

 高校生活をスタートした微笑ましくも初々しいカップルに目を細め、反芻するように二人の甘い思い出を一つ一つ思い返そうとした時、ふと視界の隅に違和感を覚え俺は驚愕に目を見開いた。

 閉めているはずの店内に客がいたのだ。しかも「あの」愛香が気付けていないという異常事態に冷汗が止まらない。

 俺はこっそりとその場を離れ、熊の着ぐるみが掛けてある隅の衣紋掛けへ向かった。

「私、トゥアールと申します、相席よろしいですか?」

 いつの間にか店内に居座り、新聞に穴をあけるという昭和臭ただようやり方で俺たちを覗いていた女は、突然新聞を放り棄てるや総二のもとへ駆け寄り厚かましい要求を突き付けてきた。

「……あたしのツレでしょうが、いきなり現れて何言ってんのよおとなしそうな顔しておっぱい目立つ服着てムカツクわね!」

 突然の闖入者に不快感をあらわにした愛香はビキビキと青筋を浮かべ、トゥアールと名乗った銀髪外人女の無駄に強調された豊満な胸元へストローを何度も突き刺した。

 甘いひと時を邪魔された挙句、そちらの貧乳さんに用はないので。などと言われればこうもなろう。

 さすがに総二による制止が入ったものの、「ツインテール、お好きなんですか?」との問いに素直に答えてしまった隙を突いて、彼女が取り出したものを見て咄嗟に繰り出された愛香の一撃が決まる。

「オワ────!!」

 トゥアールがテーブルに叩き付けられ、総二が悲鳴を上げる。どうやらその手に握られていたのは赤いブレスレットだったようだ。

 こんなものを嵌めたら後で法外な金額を吹っ掛けられるに違いないと妄想たくましくヒートアップする愛香と、怪しいものではありませんと泣き落としを交えた必死の弁解を始めたトゥアール。

 痴女めいた仕草で誘惑するように胸を押し付けて総二にすがる姿にイラッと来た俺は、愛香に続いて一発シバくことにした。

「ひでぶ!」

 スコーン! と軽快な音を立ててフライパンの一撃が決まり、再びテーブルに叩き付けられたトゥアールが破裂するモヒカンのような悲鳴を上げる。

「いったい誰が……どぅええええええええええ!? な、なんなんですかこの熊は!? あ、そういえばそこにいたメガネの人が居なくなってます!! いつの間に!?」

 気配は消せても気配を探るのは不得手だったようだな。まあ熊の着ぐるみが突然殴りかかってきたら誰でも驚くだろう。

「おい(むすぶ)! フライパンはまずいだろ!!」

「えー、愛香の拳に比べたらかわいいもんでしょ?」

「なんで動じてないんですか総二様!?」 

「いや、こいつがこうなのは今に始まったことじゃないし……」

「この店での定位置よね」

「いやいやいや……あ」

 ひょいっと彼女の手からブレスレットを取り上げ、しばし観察してみる。返してー! 返してくださいーと手を伸ばすトゥアールの顔面を片手で押しのけつつ、あることに気付いた俺はそれを総二に手渡した。

「え!?」「いやあんたなにしてんのよ!?」

「トゥアールさん、殴ってすまんかった。こいつはどう使えばいい?」

「え……み、右手に嵌めて変身したいと強く念じれば」

「だそうだ。総二、必要になったら言われたとおりにするといい」

「変身……って何言ってるんだよお前!」

「論より証拠です! この熊さんのことは気になって仕方ないですがさておき、時間がないので私について来てください!!」

 その瞬間、極彩色の閃光に包まれた俺たちは店内から姿を消した。

 

□□□□

 

 ────目を開けたとき、そこは慣れ親しんだアドレシェンツァではなく、そこから車で二十分はかかる距離にある地元最大のコンベンションセンター、マクシーム宙果の屋外駐車場だった。

 だがそこに平時の穏やかさはない。弾け飛び、そこかしこで炎上する車が放つ焦げ臭さが風に乗って辺りに充満している。

「迎え撃つつもりが後手に回ってしまいましたか……」

 トゥアールは先端が光るペン状の機器を握りしめて呟く。なるほど、あれが俺たちを運んだ転送装置というわけか。

 そして彼女が指し示した方向に居た、この惨状を引き起こした犯人の姿を目にした俺たちは驚きに声を漏らした。

「な、なんだあれ」

「ちょっと、嘘でしょ」

「ぬ、ぬううう……!」

 駐車場の真ん中に居たのは、甲冑を着て直立したトカゲとしか言いようのない怪物だった。その周辺には戦闘員と思しき黒づくめの雑兵がたむろしている。

 ともすれば特撮番組の撮影かと思ってしまいそうになるが、実際に自動車が腕の一振りで吹き飛ぶ様や、その怪物の持つ確かなリアリティは作り物であることを真っ向から否定していた。

「この世界の生きとし生けるすべてのツインテールを我等の手中に収めるのだ!!」

「者ども、究極のツインテールはこの周辺で感知されたのだ。草の根分けてでも探し出せ! ぬいぐるみの似合う幼女はあくまでついでぞ!!」

 ────ついにこの時が来てしまったか!

 高笑いをした怪人が高らかに宣言したその言葉を聞いて、俺はあまりのトンチキな内容に言葉を失った総二たちへ向き直ると重々しく告げる。

「……奴らアルティメギルはこの世界のツインテールを狙ってやってきた連中で、このまま野放しにしていたらこの世界からツインテール……いや、何かを好きだと思う心そのものが永遠に消えてなくなってしまうんだ」

「ツインテールが消えてなくなるだって!? どういうことなんだ結!!」

「なんであいつらのこと知ってるような口ぶりなのよ!?」

「というかそれって私が説明するべき内容ですよね!? 台詞まで横取りするんですかこの熊さんは!?」

 トカゲ怪人の「ぬいぐるみを持った幼女を連れてこい」との言葉を皮切りに、戦闘員たちがツインテールの女の子を次々に捕え始める。その中に慧理那会長が混じっていたのを見て、一刻の猶予もないと焦りを覚えた俺は、残りの説明をトゥアールさんに放り投げ、弾かれたように駆け出した。

「会長まで……時間がない! あとはトゥアールさんに聞いてくれ!!」

「待てよ結! 何をする気なんだ!!」

「待ってください、ただの人間がかなう相手ではないんですよ!?」

「────お前が大好きな、ツインテールを守りに行く!」

 背中に投げかけられた友の言葉に、俺は着ぐるみ越しの笑顔を向けると、勢いよくアスファルトを蹴って虫のようにカサカサ蠢く集団へと躍りかかった。

 

 戦闘員の一体がメガネ少年と一緒にいたツインテール少女に手をかける。瞬間、俺の中で常時稼働し続けているラブセンサーが二人をカップルであると認定。即座に怒りの鉄拳が野暮天な黒助を吹き飛ばす。

「モケー!?」

 光の粒となって弾け飛ぶ戦闘員に目もくれず、俺は少女を少年に託すと次の目標へ意識を向けた。

「あ、ありがとうございます!」

「彼女を大切にな!」

「ぬう!? 人間がアルティロイドをこうも容易く……貴様何者だ!!」

 乱入してきた熊に驚愕したトカゲ怪人の誰何の声を、問答無用で切って捨てる。

「お前らに名乗る名前は無い!!」

「おのれ小癪な、命は奪わんが邪魔をするなら容赦はせぬぞ!」

 怒る怪人の手から光線が放たれ、数体の戦闘員を倒した直後の俺に直撃した。

「きゃあああああああああ!」

「嫌ああああああああああ!」

「結ううううううううううううううううううう!!」

「落ち着いてください総二様、愛香さん、多分あの方は無事です! ……アルティロイドを倒せたことといいこの反応といい、まさか結さんは……」

 弾け飛び、瞬く間に炎上する着ぐるみの姿に、愛香や捕らわれた少女たちが悲鳴を上げた。しかし俺は倒れず、しっかりと二の足で大地を踏みしめ、怪人を炎の中から見据える。

「結構気に入ってたんだけどな……この落とし前はつけさせてもらうぞ」

 次の瞬間、まとわりつく炎を振り払った俺は、炎に焙られながらも焦げ跡一つ付いていない艶やかな黒髪のツインテールを風になびかせてその姿を初めて衆目に晒した。

 全身を包むぴったりとした三原色のコスチュームに、四肢を覆うメカニカルな装甲。太鼓腹の面影もなく引き締まった腹部には、菱形の大きなバックルが付いたベルト、エレメントドライバーが巻かれている。

 首から上は剥き出しだがその顔は、日ごろ愛用している黒縁のメタルフレームを除いて、十人中十人全員が満場一致で美女と認めるものに変貌していた。以前鏡で確認したから間違いない。

 そう、これこそが奴らアルティメギルに立ち向かう俺の最大の武器、エレメントギアだ!

 炎の中から現れたその存在を目撃した全てが、動くのを忘れたかのように目を奪われた。

 だがそんなことを意にも介さずベルトのバックル両脇にマウントされたグリップを引き抜いた俺は、止まった時間の中自分だけが動いているような流麗さで、手にした二丁拳銃で次々と戦闘員を撃ち抜いてゆく。

「こうなったらもう名乗るしかないわな。アタシは────テイルミラージュだ!!」

「「誰だよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」

 駐車場に総二たちの絶叫が響き渡った。

 

□□□□

 

 「彼女」が姿を現した時、総二たちは三者三様の理由から揃って絶句していた。

 総二はメガネをリボンにしたとしか言いようのない髪飾りで留められたツインテールに。

 愛香は戦うたびにゆさゆさ揺れる、スイカ玉のような爆乳に。

 トゥアールはその豊満だが引き締まるところはしっかりと引き締まっている肉体を包む白をベースに赤青黄の乗った戦闘スーツに視線を釘づけされていた。

 おまけに先程まで友人、それも男が入っていると思っていた着ぐるみから、突然見知らぬ美女が現れ怪物と戦い始めたのだ。驚くのも無理はない。

「トゥアール、さっき言ってた変身って、ああいうことなのか?」

「はい、総二様。このテイルブレスは、身体能力を強化する戦闘スーツを生成するためのデバイスで、これを使えばあの怪物と互角以上にやり合えます! ……結さんが何故あんなものを持っていたのかはわかりませんが」

「なんで結が女になってるのよっていうか何なのよあの胸!」

「おやおや? 男におっぱいで大差をつけられたのがそんなに悔しいんですか貧乳愛香さん? まああの方、丸々太ってましたから変身しなくても負けてましたよねぷぷー」

 テイルミラージュの爆乳へ引きちぎらんばかりの羨望と嫉妬の入り混じった視線を向け、くきー! と地団駄を踏む愛香を見て愉快そうに煽り始めたトゥアールは、流れるような動作で腕の関節を極められ必要な情報を吐かされた。

「────つまり、俺のツインテール愛が地球を救う唯一の武器?」

「はい、結さんを含めれば唯一ではなかったようですが、現時点で総二様のツインテール属性が最強であるのは確実かと」

「で? 変身したらそーじも女になるわけ?」

「ええ、なります。ツインテール属性の力を最大限引き出すのがテイルギアの役目ですから」

 迷いなくきっぱりと断言するトゥアールに、愛香は頭を抱えてうずくまるしかない。

 そんな中、テイルミラージュとアルティメギルの戦いの第二ラウンドの幕が上がる。

「ほう……テイルミラージュか。我はアルティメギルの切り込み隊長リザドギルディ!  少女が人形を抱く姿にこそ男子は心ときめくべきとの信念のもとに戦うものよ。無駄に育ちすぎているのが残念極まりないがなかなかのツインテール、任務ゆえ貰い受ける!!」

「冗談言うな、お前なんかにこのツインテールも、みんなのツインテールも渡すもんか!」

 チラリ、とぬいぐるみとともにソファーへ座らされていた会長を見る。

 どうやらまだ何もされていないようだ、と一応安堵したテイルミラージュは、両手の拳銃《ミラージュマグナム》をスナップの効いた一振りで銃身を伸長させて警棒(ロッドモード)へと変形、リザドギルディを引き離すべく格闘戦を挑んだ。

 振り下ろされたロッドに鼻っ柱を叩き潰され、鼻血を噴き出して悶えるリザドギルディは、その隙に得物を収納したミラージュに投げ飛ばされ、捕らわれた人々から強制的に距離を取らされる。

「さあ! 早く逃げてください!!」

「おごごごごご……おのれ、せっかく集めた幼女たちのツインテールを奪えぬまま手放すどころか、我が眼前で下品な乳をことあるごとにゆさゆさ揺らしおって目障りな! 揺れるのはツインテールだけでよいのだ!!」

 周囲のアルティロイドが倒されたことで逃げ道ができた少女たちは、ミラージュの声に弾かれるように逃げ出した。

 顔面を潰された痛みと獲物を掻っ攫われた悔しさ、彼のストライクゾーンを外しに外した大暴投級に育ちまくった故のダイナミックな乳揺れに憤るリザドギルディは、怒りに燃える目でミラージュを睨み付けると渾身の大技を繰り出した。

「人形と幼女が交わりし時の如く────イナズマスパーク!!」

「────やばっ!?」

 逃げる人々に気を取られたせいで反応が遅れたミラージュは、防御態勢をとるも放たれたスパークボールの一撃をもろに喰らってしまう────かに見えた。

「何だと!? ────ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 直撃の寸前、風のように割り込んだ赤い“ツインテール”がその手に握る大剣で雷球を切り捨て、爆発的に迸る幼気でリザドギルディを吹き飛ばす。

「────お前、もしかしなくても総二か?」

「ツインテールを守るなら、俺だって他人事じゃない。加勢させてもらうぜミラージュ!」

「なんという幼気……そして素晴らしきツインテールか! そこな幼女、貴様名を何という!?」

 四肢を装甲に、胴体を水着じみたボディスーツに包んだ幼女(総二)は、その問いに真っ向から答える。

「俺はテイルレッド! そして俺たちは────ツインテールの守護者、ツインテイルズだ!!」

 

「女になるだけじゃ飽き足らず、なんで子供になってるのよ!?」

「幼く愛らしい姿には敵を油断させる効果がありましてようじょかわいいよようじょグヘヘ……」

「あんたの腐れた趣味か!?」

 テイルレッドと化した総二の愛らしさにロリペドの本性を丸出しにして発情し、問いかけについ本音をポロリと漏らしたトゥアールの頬を、愛香はべしんべしんと張り続け小気味よい音を響かせ続けた。

 

□□□□

 

 ────話は少し遡る。

 結がテイルミラージュとやらに変身し、会長たちを無事助け出している時、俺の胸の中には熱い炎が燃え上っていた。

 気配を消して物陰に潜んでいたり、いつの間にか後ろに居たりと正直に言って変態なところはあるけれど、俺たちを心から支えてくれる親友が、ツインテールのために命がけで戦ってくれている。

 そんな姿を見て、心が震えない男が居るわけがない!

 俺はブレスレットに意識を集中し、変身したいと強く願った。友の心意気に応え、俺自身の手でツインテールを守り抜くために!!

 瞬間、体が赤い光の繭に包まれ弾けるのと同時に全身を強化スーツが包んでいた。

 手足には紅の装甲、胴体は紅白と黒を基調としたボディスーツ。結の姿を見て薄々予感はしていたが、やはり女になってしまうようだ。しかし我ながらなんてすばらしいツインテールだろう。と傍に停められていた車の窓に映りこむ自分の姿につい見とれてしまう。

「……そーじ?」

 いや、違う。浮気じゃないぞ? とジト目で睨んでくる愛香に弁明しつつ、気を取り直して説明を聞く。

「トゥアール、こいつの使い方を教えてくれ」

「はい、頭のリボンに触れて念じれば武器が生成されます。出力制御は精神力次第ですので総二様の思うままぶちかましちゃってください!」

「じゃあ行ってくる────愛香、お前のツインテールは俺が絶対守るからな」

 最愛の人へ去り際にそう告げると、俺は友のもとへ一直線に跳んだ。

 

□□□□

 

「つーかタイミング良すぎだろ、狙ってたんじゃないの?」

「偶々だっつーの」

 総二……やっぱお前、最高にかっこいいよ! ────見た目はものすごく可愛くなってるけどな!!

 トゥアールさんのブレスレットで変身し、高らかに名乗りを上げた総二と並び、軽口を交わしながらアルティロイドを薙ぎ払いリザドギルディに立ち向かう俺は、熱くなった目頭を押さえていた。

「なあレッド、その剣なんてーの?」

「ブレイザーブレイド! そっちは?」

「ミラージュマグナム、警棒の時はミラージュロッド!」

 紅蓮の炎を纏った刃が迫る集団を薙ぎ払い、光弾を放つ二丁拳銃が次々に敵を撃ち倒してゆく。機敏に立ち位置を変えながら行われる息の合った連係に付随して、赤と黒二色のツインテールが戦場に舞い踊る。

「おお……宙を舞うツインテールのなんと美しきことよ……俺は今、神話世界へ迷い込んだかのような錯覚を覚えたぞ!」

 俺たちの姿に見とれていたのか鼻血をそのままに立ちすくんでいたリザドギルディが、涙を流しつつ感嘆の声を上げた。どう見ても錯覚だよ、眼科行け眼科。もしくはお脳のホスピタル。

「レッド、そろそろ決めようか」

「そうだな、ミラージュ! ────オーラピラー!!」

 ブレイザーブレイドの剣先に炎が点り、テイルレッドは膨れ上がり火球と化したそれを大きく振りかぶって投げ放つ。

「ぬおおおおおおおおおおおお!? う、動けん!!」

 それが目標へ到達した瞬間、解放された光の柱がリザドギルディを拘束した。なるほど、あれがレッドの拘束技というわけか。

「────完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 ブレイドの刀身が展開し、全体が燃え盛る炎に包まれる。いいねえいいねえ、これぞ必殺モードという感じでとてもよろしい。なればこちらも。

「────ミラージュロッド・ロングモード! エレメーラ・チャージアップ!!」

 グリップ同士を連結したロッドがさらに伸長し、身の丈以上の長さとなって光輝いた。

 それは俺自身の内に秘められた情熱の光だ。

 レッドの腰部スラスターが火を噴いてリザドギルディへ迫るのに合わせ、俺は属性力(エレメーラ)を目一杯充填したロングロッドを槍投げの要領で振りかぶり、拘束された相手へ目掛け渾身の力で投げ放つ。

「フォトニックランサアアアアアアアアアアアアア!!」

「グランド────ブレイザアアアアアアアアアア!!」

 ロングロッドが敵を貫くのに一瞬遅れて、振り下ろされた一閃が脳天から唐竹割りに両断した。

「ふははははははは、素晴らしい。これほど素晴らしい幼女に討たれるのなら本望というもの! だが最後にせめてぬいぐるみを持って記念写真を……」

 世迷言を残してリザドギルディは派手に爆散した。オーラピラーのおかげか周囲への被害は足元が焦げた程度だ。なるほどこれは周りにやさしい、と手元へ飛ばされてきたロッドを掴み取り感心する。

 そんな折、レッドのもとへ通信が入る。どうやら愛香が宙に浮かぶ輪っかがツインテール属性を収集する装置なのだと伝えてきたらしい……一緒にいて説明をしていたはずのトゥアールさんはいったいどうなった?

 まあ今は悪魔の装置を処分するのが先だ、こんなものはとっとと壊してしまったほうがいい。あっさりと両断されて消滅するリングを見届けると、役目を終えたレッドの剣は光となって消え失せ、俺は分割したロッドをベルトに収めた。

「あの……助けていただいて、ありがとうございます」

 振り向くと、戦いが終わったのを機に戻ってきたのだろう生徒会長が俺たちを見つめていた。

「当然のことをしたまでです」

「ところで、テイルミラージュさん、そちらの方は?」

「お、俺……いや私はテイルレッドです!」

「お二人とも、素晴らしい戦いぶりでしたわ! わたくし、感動いたしました!!」

 お礼目当てで戦ったわけではないが、実際お礼されるとやっぱり気分がいい。ついつい頬が緩んでしまう。

「また……会えますか?」

「────貴女がツインテールを愛する限り!」

「ツインテイルズはいつだって駆けつけます!」

 ────あれ? 即興にしてはいいセリフだと思ったが反応が芳しくない。少し寂しげな表情になってしまった会長に、俺たちは顔を見合わせる。

「お嬢様ああああああああああああああ!!」

 少々心残りはあったが、リムジンに乗った会長のメイドたちが駆けつけたのをいいことに、俺たちは撤収することにした。

 

「そーじ! 結!!」

 愛香たちのもとへたどり着いた途端、初めての実戦で消耗し、緊張の糸が切れた総二が愛香の胸に倒れ込む。

 そしてそれを見たトゥアールが「そんな地面に顔を押し付けるなんて可哀想です! ここはクッションになる私の胸に!!」などとほざいたので、俺はさん付けすることを放棄してアスファルトへ叩き付けてやった。

「てめえ愛香の胸が地面だと? てめえが地面とキスしてろ!!」

「ファーストキス!?」

 よかったな、地球にファーストキスを捧げられて。地球にILoveYouを告げるといい。

 俺は腰の収納パックから防水シートを取り出すと、手ごろな大きさに畳んで座布団代わりに敷いてやる。アスファルトに直接正座したら愛香の綺麗な脚が傷ついてしまうからな。

 初陣を勝利で飾った総二を膝枕し、慈愛に満ちた笑みを向ける愛香の姿に心が洗われる。正直俺もヘトヘトだが、この光景が見られるならもう一晩くらい戦える気がする。

 

 一休みを終えてもうすぐ日が沈もうかという時間になった頃、俺たち三人は変身ベルト、エレメントドライバーの転送装置でアドレシェンツァへ帰還した。

 ────駐車場に頭から突き刺さったトゥアールを残して。




次回、メガネデブオリ主に皆から怨嗟の声が!
こんな見るからにアレな外見のオリ主が出てくる俺ツイSSがあってもいい。
自由とはそういうものだ。

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