クロノにとってシロノとは士官教導センターでの相棒と言って過言ではない。お互いに男性であり心の在り方が似ているからか二人の趣味や性格はとても似ている。加えて、リンディの突然の暴露により親戚である事が判明した事で、もしかすると血の影響ではないかと思われ始める始末である。と、言うのも、近場のショッピングモールへ徒歩で向かった際での出来事が理由である。
「……見事に前にクロノが選らんだのと同じなんだけど」
「そう言われても……」
黒による黒のための黒さ極まる一辺倒な服装から、女性陣のコーディネイトによって黒いインナーに淡い青い綿シャツ、無難な紺色のジーパンに身を包み後ろ髪をうなじ前で緑の紐リボンで束ねたウルフテールと言う姿になったシロノはこざっぱりとした格好に慣れないと言った様子で佇んでいる。その隣には似たような格好のクロノが肩を竦めているが、女性陣は遣り切ったと言った様子で和気藹々としている。その間からひょこりとフェイトが前に出てシロノとクロノを見比べて苦笑する。
「少し格好と髪型は違うけど……、本当にクロノとそっくりですね」
「そうかい? まぁ、僕は母親に似ているそうだからその関係かな」
「……完全に血筋じゃないか」
「でも、匂いは結構違うみたいだよ。クロノは淡い感じだけど、シロノはなんかこう、清涼剤? みたいな爽やかさがあるんだ」
「あ、あはは……、それは常人には分からないから同意を求められても困るかなぁって……」
小首を傾げているアルフにエイミィは苦笑せざるを得ない。未だアルフの人間形態しか見ていないシロノはその会話に首を傾げながらも、野生の獣のような活発さのある女性だとある意味間違っていない印象を抱いた。昼前に向かったと言うのに既に昼頃を回っているのは女性特有のお洒落議論会のせいに違いなかった。尤も、姦しいのは主にリンディとエイミィの二人であり、最近まで普通の生活をしていなかったフェイトは二人に巻き込まれる形であり、アルフに至っては散歩に来ている飼い犬の如く大人しくしていた。
「さてと、シロノ君の生活品も買ったし。此処からは自由行動にしましょうか。フェイトさんも折角だから新しいのを買っちゃいましょ」
「良いですね! ほら、アルフさんも少しはお洒落しましょうよ!」
「え、えっとえっと……、その、わたしはシロノさんともう少し交流深めたいと思うので!《アルフ! お願い!》クロノも一緒に行こうよ!」
「《りょうかーい》そうだよ、フェイトの新しい洋服はこの前も買ったじゃないか。ほら、お二人さんフェイトと一緒にお茶でもしてきなよ」
「お、おい!?」
(ああ、フェイトさんもこの二人のハリケーンみたいな盛り上がりは苦手なのか……)
「……そうだね、それじゃ借りてしまおうか。ほら、クロノ行くよ」
「ま、待て! 腰を抑えられている時に引っ張るんじゃない!?」
フェイトのやけに必死そうな顔を見て二人の姦しさを知っているシロノは、フェイトによって既に腰を掴まれているクロノの腕を引っ張って先程見かけたカフェショップへと足を向けた。つんのめり掛かっているクロノは結構必死な様子で蹈鞴を踏んでおり、勝手知ったると言った様子でシロノは倒れないギリギリの程度を見切って引っ張って行った。その鮮やかな逃走具合にリンディとエイミィはきょとんとした顔を苦笑顔にして肩を竦める。
「あらら、振られちゃいましたねリンディさん」
「そうね、残念だわ。……でも、良い機会かも知れないわね」
「そうですねぇ。クロノは兎も角、シロノは本当に他人に興味が無いって感じでしたからそれっぽい噂も多分無いでしょうし……。まぁ、大丈夫でしょう。甲斐性は無いけれど気持ちを察するのだけは鋭いですし」
「暴漢に絡まれてもあの二人なら簡単に伸しちゃうでしょうしねぇ……」
両方が現役執務官、それも片や修羅の弟子である。むしろ、相手した方を心配してしまう面子であった。シロノの先導によりクロノとフェイトが芋蔓の如く遠方へ歩いていく楽しげな様子を二人は微笑みながら見送った。
「おい、取り合えず手を離せシロノ!」
「くくっ、其処で腰の腕を取らせない辺り良いセンスしてるねクロノ」
「ち、違う! フェイトも腰から手を離せ!」
「あ、ごめんクロノ」
腕と腰の拘束を解かれたクロノはやけに疲れた様子で溜息を吐いた。乱れた服装を直すとクロノは目の前を行くシロノとフェイトの後ろへ付くように歩いて行く。美男美女、しかも美男が二人と言う逆ハーレム状態のフェイトらへ向かう視線は微笑ましいものを見るものが多い。それはその内の二人が外国人風である髪色をしており、従兄弟の黒髪の少年が外国に居る兄妹に日本のショッピングセンターを案内しているようにも見えるからである。
雑談もさて置いてフードコートに連なるように存在していたカフェに三人は来店し、日本語が読めていないシロノと漢字が少し怪しいフェイトの代わりにクロノが無難なパンケーキセットを注文し、数多く存在する片方がソファ席になっているテーブルの一つへと腰を落ち着かせた。昼間であり休日と言う事もあってフードコートと隣接するテーブルであるからか、家族連れの客たちの喧騒に包まれていた。その様子に心なしかうんざりしているシロノを見てクロノは「ああ、やっぱりか」と他人を拒絶する頃の面影を見て少し安心していた。
何しろフェイトの手前であるからか今まで口にしていなかったが、シロノはクロノに見せていた素の表情ではなく、執務官としての仮面でも無い
「此方での生活にはもう慣れたかい? 案件を見るに相当大変だったようだけれど」
「……はい。リンディさんたちも明るく振舞ってくれてますし、何よりも手を差し出してくれた友達が居ますから」
「へぇ、もう友人が出来ていたんだ。いや、フェイトさんの容姿ならむしろ人気者かな?」
「い、いえいえ! そんな事無いですよ。なのはが居なかったら多分孤立してたと思いますし!」
「なのは……、ああ、そう言えば此処の民間協力者の子がそんな名前だったね。確か、高町なのは、さんだったかな。君と一緒に嘱託魔導師をやっているんだっけ」
「はい! そうです! 他にもアリサやすずかも友達です。皆
「……
水辺に沸いた泡の如き呟きを誰も捉える事も出来なかった。シロノは冷静にフェイトに対する分析を行なっていた。案件では騙されていたとは言え犯行の一人である少女だ。他人は須らく他人だ、の精神で一時期病んでいた頃のあるシロノはリンディたちの後押しはあってもフェイトと言う一人の少女を可愛そうな被害者であると言う色眼鏡で見た事は無かった。
シロノはクロノに頼んで注文して貰った黒珈琲を口に入れるその数秒の間思考を走らせる。
「フェイトさんは凄いね」
「え?」
「此処の言語は少し難解で難しいのに。学校生活を送れる程にはマスターしているようじゃないか。僕はまだ分からなくてね。このメニューの一欠けらも分かりやしないんだ……。口語自体は翻訳魔法を走らせれば良いけれど、読み書きだけはね……」
「ああ……、そうなんですよね。今もお勉強してますが漢字が少し難しくて困ってます」
「学校生活は楽しいかい?」
「はい! 先日もですね……!」
陰りが見えた様子も感じられない程に明るくも饒舌に学校生活を話し始めたフェイトの表情は笑みが浮かんでいて、シロノもそれに適度に相槌を打ちながら笑みを見せていた。そんな二人の仲睦まじいお喋りをクロノは苦い顔をして見ていた。
(……流石はシロノだな、あの一瞬で察したか。カウンセラーの資格を取らせた方が良いかもな)
クロノはフェイトの裁判の頃から身近に居て今では同じ空間で生活をしているために、ほんの少しの陰りに気付く事が出来た。けれど、それは空元気をしていた頃の事を知っているから理解できたに過ぎなく、シロノのように心情を察して理解できた訳ではない。他人を拒絶すると言う事は即ち相手の行動を先に折り、我を通して続く手を打ち払う事が必要になる。そのため相手への分析は執務官と言う職務上でも必須であるため磨きが掛かっていると言って過言ではない。尤も、今では思考の方針は負の感情へと向いていないため純粋な観察眼でしか無いのが幸いだろう。あの頃のままであったならこの和やかな雰囲気は存在していなかったに違いないのだから。
「それで――」
「ちょっとアンタたち! フェイトに何してるのよ!」
端から見れば九歳の少女と談笑する高校生程の少年とその片割れである。その光景は小さな彼女の目には友人が絡まれているようにしか見えなかったのだろう。尤も、絡まれているかもしれない友人の天然さを理解できているからこそ、色眼鏡が少し掛かっているかもしれない。
はっきりとフードコートに響いた幼さが残る怒鳴り声の方向を見やれば、肌寒い季節にぴったりなワインレッド色のセーターに身を包んだ金髪の少女がシロノに躊躇い無く一指し指を突きつけて三人の前に立っていた。シロノは急な怒鳴り声に驚きはしたが誰かが近寄る気配は感じていたため、驚愕を表情に出す事はせずに場を見やった。視線を少しずらせばきょとんとして金髪の少女を見ているフェイトの様子から、初対面の誰かの指摘なのではなく、突然の友人の奇行に驚きを隠せないと言った風に表情が固まっている事から事態を察し、少女の怒鳴り声で注目を浴びてしまっている現状を脱するための最適な言葉を選び出す。
「フェイトさんの義兄のクロノ、僕はその友人。君はフェイトさんのご友人かな?」
「……へ!?」
努めて冷静と言った様子に呆れを滲ませてシロノはクロノを指差してから自分の顔に指先を移した。そのあっさりとした返答に面食らったのは金髪の少女――アリサ・バニングスの方であった。年上の男性に怒鳴るその気概は友人を護るための一心であったようで、「やっぱり……」と後ろに居た濃い紫髪の少女の呆れるように肩を落とした時に零れた言葉で、止めを刺されたアリサはがっくりと顔を俯かせた。彼女たちの格好は対称的であり、色違いのペアルックであるようだった。サファイアブルーのセーターに身を包んだ白いカチューシャを付けた少女――月村すずかはアリサに向かって少しむっとした顔を向けた。
「ほら、アリサちゃん謝らなきゃ駄目だよ? 勘違いだったんだから……」
「わ、分かってるわよ……。その、あの……、ごめんなさい!」
「あ、ああ……。気にしてはいないさ。フェイトがお世話になってるみたいだな。僕はクロノ・ハラオウン、隣のこいつはシロノ・ハーヴェイ。血が繋がってるからか似ているが双子じゃなくて従兄弟だ」
「えと、その、アリサ・バニングスです。フェイトとは同じクラスで……」
そうアリサはバツの悪そうな表情で肩越しに振り向いてすずかに視線を向けた。視線を向けられ注目を浴びたすずかは少しはにかんで礼儀良く一礼する。所作の所々から上品さが垣間見れ、良い所のお嬢様であると思わせるには十分であった。
「月村すずかです。フェイトちゃんと同じクラスで今日はアリサちゃんとお出掛けしてました。お姉ちゃんも一緒に居たんですが……」
「……彼氏の恭也さんと熱々なご様子で何時の間にか逸れて、此処で落ち合う事になってるの。相席しても良いかしら?」
「うん! クロノもシロノさんも良いですよね?」
構わないと言う旨を伝えたシロノはフェイトの隣を空けようと立ち上がり、ソファ席からクロノの座る椅子の隣に腰掛け直す。アリサとすずかはシロノに礼を言ってフェイトの隣に腰を落ち着けた。色賑やかな席になったなとシロノは口角を少々上げ、仲良さげに座る三人を微笑ましいものをみる表情で見やる。
「仲が良さそうで何より。僕とクロノは友達が少ないからね、気兼ね無く笑え合える友人は大切にした方が良いよ」
「お前の場合、自分から接点を作らないからだろうに《少しは友人を作る努力をしろ》」
「そりゃそうさ、事務的な仕事ばかりで外に出る機会が少ないからね《信用なる親友が二、三人居れば十分さ》」
「……はぁ、性根はあんまり変わってないな《認めてくれているのは嬉しいんだがな、複雑だぞ友人としては》」
「人間がそんなすぐに変わる訳無いじゃないか。人が変われる瞬間はそう多くないよ。明日出来ない事が今出来る訳が無いだろう《そうかい? 唯一無二の親友なんだがね君は》」
「超えるべき壁を越えまいとしているようにしか見えないぞ《もう少し増やすべきだろう、将来困るぞ?》」
「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由、なんだろう?《さて、どうだかね》」
「おい、人の言葉ではぐらかそうとするんじゃない。そもそも、お前はだな……」
論争のような会話を仲良さげに続ける二人の様子に三人は苦笑した。よっぽど仲が良くてお互いを知らなければ出てくる事の無い内容による舌戦に切り替わったのを境にアリサは肩を竦めて呆れた声を漏らした。
「フェイトのお兄さんとシロノさんってそっくりなのに性格が真逆なのね……」
「あ、あはは……、そうみたいだね。シロノさんはわたしもさっき紹介されたばかりであまり知らないけど優しい人だよ」
「そうみたいね。二人とも楽しそうだし」
言い争いへ発展はせず、クロノとシロノの論争は次第に生活習慣や健康管理の話題へと移り変わっていて最初のような相対する雰囲気ではなく、素で語らいあう友人同士の少年たちにしか見えなかった。そんな二人を、いや、その片方をじっと見ているすずかにアリサは「あら?」と内心で疑問を抱いた。すずかの表情は何処か呆けていて上の空のようにも見えるが、何処か待ち望んでいたものを見つけた子供のような瞳をしていた。そう、それはまるで店先に並ぶ人形を欲しがる幼い少女のような純粋な表情だった。何処か頬が上気しているように見え心がまだ幼いアリサは「寒いのかしら」と勘違いをしたが、遠目でフードコートから少し離れたカフェ側の席に座っている探し人を見つけた二人の内、彼女と同じ髪色をした女性の口元はにんまりと笑みを浮かべていた。それは大切な者の成長を喜ぶような、そして面白い事になりそうだと上機嫌な表情であった。それを見た隣の青年は彼女の何かを企んでいるような表情に呆れと、これから彼女が起こすであろう何かに巻き込まれるであろう名も知らぬ少年に内心で合掌した。
「野菜は数種類は取るべきだろう。弁当の買い置きは理想的では無いぞ」
「と、言ってもだね。クロノと違って僕は炊事をするまでの余裕が無くてね。君は片手間に待っていれば良いだろうが、補佐の居ない僕はかなり多忙なんだ。流石に睡眠時間と食事の摂取は減らしはしないけど、そこまで拘っているつもりはないよ」
「ふん、これからはお前も同じ食事を取ると言う事を忘れてはいないか」
「……それは今回に限るだろう。君が言いたいのは私生活面での事だろう、論点が違うよ」
「ぐ、確かにそうだな。……最近は簡易的なサラダもあるらしい。それを足してみればどうだ?」
「成る程、満腹と栄養が取れる程度で良かったからその発想は無かったな。そう言えばそんなのも売っていた気がするね……。前向きに検討するよ」
「ああ、巷ではサラダパスタと言うのもあるらしいぞ?」
「それは……、予想できないと言うか、凄い発想だね」
「最初は僕も半信半疑だったが、胡麻ダレのソースが中々マッチしていて美味かった」
「へぇ、試してみようかな」
話が区切れたのを境にシロノはハッとしてフェイトたちの方を見やった。それに連れて今まで会話に集中していて同席する三人の事をすっかり忘れていたクロノも見やる。其処には何時の間にか増えていた青年の男女が居り、女性はすずかと何やらこそこそと話していて男性はその隣で溜息を吐いていた。その反対ではアリサとフェイトがお喋りに講じており、増えていた二人に対し反発を行なっていない事から知り合いである事が見て取れた。
すずかとこそこそと喋りあっている女性は目鼻や雰囲気、少し色素が薄いが髪色にも類似点が多く、姉妹と言う言葉が合っているように感じられた。その訝しむ際の視線を感じたのかすずかがシロノへと振り向き目が合った。シロノは笑みを返すと目を少し見開いてから、ぎこちない様子で笑みが返された。そんな微笑ましい光景ににんまりしている女性に視線を移せば、ふふっと笑みを浮かべて柔らかそうな唇を開いた。
「あら、お喋りはもういいのかしら?」
「ええ、周りが見えなくなるくらいに話し終えましたので。して、貴方は予想するにすずかさんのご家族、先程話題に上がったお姉さんでしょうか」
「そうよ。私はすずかの姉の
「と、申し訳無い。僕はシロノ・ハーヴェイと申します。フェイトさんの義兄であるクロノの友人です」
「へぇ、そうだったの。あんまりにも似ているから双子かと思ったんだけど、違うみたいね」
「骨格や生まれが違う点から見て一目瞭然だろうに」
「……いえ、それで分かるのは貴方だけかと、いや、師父も居たか……」
恭也はシロノの師父と言う単語に反応し、何かに納得したような素振りを見せた。そして、にやりとシロノにとって見覚えのあるタイプの獰猛な笑みを浮かべた瞬間、その姿が掻き消えた。突然の出来事に少女たちは驚愕の表情をしたが、彼の性格を一番知っているであろう忍はくすりと仕方が無いと言った風に笑った。そう、予想が当たって笑っていたのである。
「貴方
「すまないな、ちょっとした試しだったんだが……、予想以上の腕だ。良い師匠に習ったんだろうな」
「ええ、師父たちはこの程度の奇襲で不意を打たれるような指導をしてはいませんので」
恭也の右拳を肘を引いた状態の左掌で受け止める形で、シロノは椅子から少し浮かんだ空気椅子に似た姿勢で不意の一撃を受け
「君は武道を習っているのかい?」
「ええ、槍術と徒手格闘を主に。どちらかと言えば格闘が主体ですが、この
「成る程、鍛錬も怠っていないようだ。……数年後、君の身長が理想に届いたなら手合わせ願いたいものだ」
「……その時は喜んで受けましょう。尤も、僕の方が
「ああ、楽しみにしておくとしよう」
シロノは肘打ちを寸止めする瞬間の出来事を見逃していなかった。恭也の左手が拳を作って肘を弓の如く引いていて、その肘を上へ克ち上げていたであろう動作を止めた事を。つまり、シロノが当てる所存であったならばその肘打ちは跳ね上げられて掠りもせずにいたと言う事他ならない。刹那めいた数瞬の間に起こす行動を先読みしていた恭也に対し、シロノは敬意と畏怖を感じていた。たった十数センチのリーチの差と圧倒的な経験の差により、師父の一撃には劣るとは言えども自分よりも遥かに上である技量を感じ取れたためだった。シロノの言葉に恭也は深い笑みを浮かべ、一瞬ながら獰猛な獣の如く飢えた瞳を魅せてからソファの端へと座り直した。
そんな一瞬の交差を目撃したクロノは酷く焦りを感じていた。それは友人に起きた出来事を自分なら対処できていたか、と言う自問に答えを即答できなかったからだ。一年と言う別れの時を経て、友人はこんなにも成長していた。果たして自分はこの一年間で成長できているのだろうか、そんな問いの答えが霧のように隠れてしまい、その後の彼らの会話を耳に入れる事すらも忘れて呆然としてしまったのだった。