キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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リズベットとレイド組んでボス戦。


10:火山攻略戦 ―84層主との戦い―

 俺は血盟騎士団と聖竜連合、その他沢山のギルドの者達に声掛けをしてボス戦攻略会議を開き、回廊結晶を使用してボス部屋の前までやって来ていた。

 

 今回のボス戦は、少し強力そうなモンスターが立ち塞がるだろうと予測していた俺は、アスナ、シノン、アルベリヒといった血盟騎士団のエース達、聖竜連合のボスであるディアベル、風林火山のボスであるクライン、更に商人であるが最前線で戦える実力を持つエギル、アスナの友達でマスターメイサーであるリズベットと、アスナの付き添いでユウキをボス戦に連れ込んでいた。

 

 皆それぞれの事情があるから、ひょっとしたら断られてしまうのではないかと思っていたが、マーテルがいなくなった今ようやくボス戦に臨む事が出来ると皆思っていたらしく、俺からの頼みを快く受け入れてくれた。 

 

得にリズベットは、ボスの頭めがけてソードスキルをぶっ放せなかったのが非常に心残りだったらしく、今回ボスの頭に思い切りソードスキルをぶちかませるのが嬉しいそうだ。

 

「リズがこんなにやる気だなんて、珍しいな」

 

 俺の隣に並ぶリズベットが頷く。

 

「当たり前でしょ。この前せっかくキリトと組んでボス戦に挑んだのに、あったのはもぬけの殻になったボス部屋のみ。あんな状況を見せつけられて、悔しくないわけないじゃないの。今回はあんたとレイドを組ませてもらうわ」

 

《要するにハンマーを振るえる相手がいなくて、フラストレーションがたまっていたという事か》

 

「そういう事よ……って」

 

 リズベットはきょとんとしたような顔をして、俺の隣に並ぶ狼竜に顔を向けた。その顔に何かついているのかと思ってそこに目を向けてみても、狼竜の顔はいつもどおりだった。

 

「どうした、リズ」

 

「リラン……あんたフラストレーションなんて言葉知ってたんだ」

 

 リランがどこか呆れたように溜息を吐く。恐らく、リズベットがもっと真剣な話を持ちかけてくると思っていたのだろう。

 

《馬鹿にするでないわ。我だって様々な言葉を知っておる。竜を舐めるな》

 

 しかし、最近リランは様々な言葉を学習してきたと本当に思う。リランは初めて会ったばかりの時は、灰燼を「はいじん」と言ったり、少しぎこちなく喋ったりしていたというのに、今となっては実に様々な言葉を、その全ての意味を理解して発言する。

 

 これまでリランも俺達と一緒に強くなってきたけれど、同時にそのAIも成長して来たらしい。もはや人間のそれと変わりがないように思えてきた。

 

「まぁ、よかったじゃないかリランもリズも。今日は待ちに待ったボス戦、思い切り楽しむと同時に、気を付けていくぞ」

 

 リズベットは頷いて、自慢のメイスをその手に持ち、身構えた。その隣で俺の相棒のリランもボスの気配を察知したのか、力強く地を踏み、身構える。

 

 俺も同じように身構えると、右横にシノンとアスナとユウキが、左横にアルベリヒとディアベル、クラインとエギルが並んできて、そのうち右横にいるシノンが声をかけてきた。

 

「キリト、ボスの情報があるとはいえ、油断しないで」

 

「あぁ。火山のボスだから物理的にも見た目的にも熱そうだ。気を付けていくぞ」

 

 続けてアスナとユウキが言う。

 

「久しぶりのボス戦、気を引き締めていかないとだね、キリト君」

 

「ボクも全力で戦わせてもらうよ。77層から83層までずっとボス戦無かったもんね」

 

「あぁ。2人もしっかり戦ってくれよ。でも、無理だけはするんじゃない。血盟騎士団の団長として命令しておくぞ」

 

 2人が頷いたのを確認すると、今度は左側にいるアルベリヒ、クライン、ディアベル、エギルが声をかけてきた。

 

「団長、ボス戦を共にするのは初めてですね。その戦いぶりを、しっかり学習させてもらいます」

 

「久しぶりの本当のボス戦だ。溜まってたストレスをみんな爆発させてやるよ!」

 

「キリト、今回も勝とうぜ。クリアに少しずつ近づいてきてるんだからな」

 

「さぁ、今回のボスは何をドロップして、商人を慰めてくれるんだか。それが確認できるまで力尽きるつもりはないぜ」

 

「あぁ。お前達の力も全部借りるからな。絶対に死ぬんじゃないぞ」

 

 俺は皆を見回した後に、扉の前に集まる攻略組の戦士達50人近くに呼びかけた。そう、かつてこのギルドを率いていた騎士、ヒースクリフ事茅場晶彦のように。

 

「さぁいくぞ皆! 生き延びて、現実へ帰るぞッ!!

 全員、戦闘開始だ!!!」

 

 扉の前を人々の猛々しい咆哮が包み込んだのと同時に俺は扉を蹴り上げてボス部屋への入り口を解放、そのままその中へと走り込むと、俺を含んだ攻略組の者達が一斉にボス部屋の中へと雪崩れ込んだ。

 

 部屋の中に広がっていたのは、ファンタジーなどによくある、火山遺跡の儀式の間のような大部屋だった。

 

 その中央付近まで行ったところで、俺は立ち止まって剣を構え、他の皆も同じように武器を構えた。部屋の中央に、縦だけでも10mはあると思われる、大きな赤熱した岩山が聳え立っていたのだ。

 

 それだけならば、ただのオブジェクトとして無視をしたのだろうけれど、それに向かって小さくなったリランが、身構えてぐるぐると喉を鳴らしていたので、多だのオブジェクトではないと同時に、ボス戦がすでに始まっている事を察した。

 

 次の瞬間、火の粉と赤い火山灰のエフェクトが舞う中、目の前の雄大なる岩山から、岩のような甲殻に包み込まれた足が4本伸びて、更に尻尾が出て来た。その如何にもな姿を目の当たりにしたクラインが驚いたように声を上げる。

 

「か、亀!?」

 

 その声に反応するように、尾の反対側の穴から、青い眼をした、赤黒い色に染まった、岩石のような質感の甲殻に包み込まれた頭が突き出てきて、完全に姿を把握できるようになったと同時に名前が現れた。

 

 その名は《The_Eruption_Turtle_Dragon》……《噴火の亀竜》。どうやら亀の姿をした、火山の竜であるようだ。

 

「イラプション・タートル・ドラゴン……だと!?」

 

「あぁ。《噴火の亀竜》ってところだろう。こいつはかなり歯ごたえがありそうだぜ」

 

 エギルにそう言った瞬間、《噴火の亀竜》はその大きな口を開いて咆哮、雪のように舞う火の粉を全て吹き飛ばしたと同時に、周囲から間欠泉の如く溶岩柱を吹き出させた。

 

 そのファンタジーにありがちな能力が発言する瞬間を目の当たりにした、周りの仲間達が驚きの声を上げて、そのうちの1人であるディアベルが言う。

 

「溶岩を操るボスなのか……!?」

 

 恐らくあの溶岩柱は演出用のエフェクトなどではなく、実際に当たり判定のある強力な攻撃なのだろう。あの時はあいつの周囲に出ただけだからよかったけれど、もしあれに巻き込まれるような事があったら、どれだけ甚大なダメージを追う事になるかわかったものではないし、あいつ自身、身体の至る所が溶岩のように光っているから、火山の竜らしく体内に溶岩を溜め込んでいるのだろう。

 

 今までプレイしてきたゲームのセオリーから考えれば、それらを攻撃に用いてくるのは確実だが、どのような形で放って来るのかまでは推測できない。ひとまず、いつもと同じように様子を見ながら散開し、確実な隙が出来たところで攻撃を仕掛ける戦術で行くしかない。

 

「全員散開! どんな攻撃が飛んでくるか不明瞭だから、防御の姿勢のまま移動して、攻撃に対応できるようにしろ!」

 

 俺の指示は《噴火の亀竜》の座するボス部屋全体に広がり、《噴火の亀竜》を討つために集まってくれた皆は気を張り巡らせながら散開を開始、俺の周りはリランとアスナとリズベット、ユウキとアルベリヒの4人だけになった。

 

 クラインは自分のギルドを引き連れて散開、今回誰ともレイドを組んでいないシノンはそこに混ざるような形で後退して適切な間合いを取り、エギルはその他ギルドの者達を支援するように混ざり、《噴火の亀竜》の様子見に入る。

 

 

 あいつ自身84層を守るものであるから、相当な攻撃力を持っているのは確実にわかるが、同時にあいつは亀と火山をモチーフにしたドラゴン――亀のような高い防御力を持っているのもその外観から把握できる。多分、ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないだろう。

 

 しかし、あれだけ大きな甲羅を担いでいるからには、早く動く事は苦手なはずだ。スピードで引っ掻き回して尚且つ動きを見極め、隙を突いて確実にダメージを与えていけば、勝機は見えてくるはず。

 

 その中で俺も切り札である人竜一体ゲージを溜めて、リランを元の姿に戻して攻撃すれば、さらに大きなダメージを与えられるだろう。あの骸鎌百足ほどではないけれど、気を引き締めてかからねば。

 

「どう攻めていく、キリト君」

 

「団長、指示を」

 

 アスナが右横に、アルベリヒが左横に並んだのが見えると、俺は咄嗟に頭の中を回転させて作戦を練った。あいつが防御に長けているのは見えているが、今までのボスのセオリーとパターンから考えて、どこかに脆い部分、すなわち弱点があるはずだ。

 

 このゲームはデスゲームであるけれど、プレイヤーにクリアが非常に難しい敵を向かわせるような理不尽はないため、一見弱点がなさそうなあのボスにだって弱点は存在している。

 

「ひとまずあいつの動きを見極めて、どんな攻撃を出せる奴なのかを把握しておく必要がある。いつでも防御できる姿勢を保ちながら、あの亀の出方を伺え。そして必ず隙が出来るから、その時に弱点を探そう」

 

 アルベリヒが熱風を纏う《噴火の亀竜》に目を向けて、顔をしかめる。

 

「あんなものに弱点なんてあるんですか。全身岩石のような甲殻に加えて、破れそうにない小さな火山のような甲羅が目立ちますが……」

 

「どんなモンスターにだって弱点があり、そこを突けば勝機が見える。勝機の見えてこないボス戦なんてない――そう囁くんだよ、俺の2年間培った勘がね」

 

 アルベリヒは一瞬驚いたような顔をして俺を見た後に、やがてキッと《噴火の亀竜》に顔を向けて細剣を構え直した。

 

「わかりました。団長の勘の囁きを信じてみます」

 

 俺も同じように驚きながらアルベリヒの方へ顔を向けたが、次の瞬間に《噴火の亀竜》はその樹齢数百年の大樹を思わせる巨大な前足を持ち上げて、思い切り地面に叩きつけた。

 

 その一撃はボス部屋全体に伝わるほどの衝撃波を放つと同時に地震を思わせる大きな揺れを引き起こし、それに足を掬われた俺達はその場でよろけてしまった。

 

 ――直後に、《噴火の亀竜》の周囲の地面が突き破られて溶岩柱がいくつも立ち上り、その溶岩の間欠泉に巻き込まれたのであろう、部屋の上部へ吹っ飛ばされたプレイヤー達十数人の姿が確認できた。

 

「ッ!?」

 

 《噴火の亀竜》の周囲と言っても、彼らの立ち位置はかなり離れていたはずだ。なのに、あいつが地面を叩いた瞬間プレイヤー達は揺れに足を掬われ、すぐさま溶岩の間欠泉を受けて上空へ吹っ飛ばされた。明らかに、プレイヤー達の足元に溶岩柱が上ったとしか考えられない。

 

(まさか……)

 

 今まで散々ゲームをプレイしてきた事により培われてきた俺のゲーマーとしての勘が、その答えを弾き出した。あいつはその自重により動きが非常に遅いが、溶岩を操る能力で防御力を強化している。

 

 そしてあいつは、プレイヤーの足元をピンポイントで狙って溶岩を吹き出させて、大きなダメージを負わせる事が出来るのだ。そうでなければあんなふうに狙ったようにプレイヤー達を吹っ飛ばすことは出来ないはず。

 

 流石は、《噴火の亀竜》。

 

「そんな、みんなが!?」

 

 吹っ飛ばされて大きなダメージを負わされたプレイヤー達、その姿に戸惑うアスナを目の当たりにしながら、俺は再度指示を送る。

 

「皆、立ち止まらず、常に動き続けるんだ! 動きが止まると、下から溶岩が来る!」

 

 皆に指示が届いた直後に、リズベットが右隣に並んで声をかけてきた。

 

「無理よ、あいつが地面を叩くと揺れが来て動けなくなる!」

 

「なんとか耐えるしかない。それに、走り続けていれば揺れが来た時あの溶岩に当てられる事はないはずだ。リズも気を付けろよ」

 

 リズベットは頷いて、俺の隣で身構える。しかし、あの溶岩を直に受けてしまったプレイヤー達の方に目を向けてみたところ、HPが黄色に突入してしまっているのが見えた。

 

 マーテル戦を乗り越えて、より一層防御を重視するようになった皆は、防具をそれなりにいいものに揃えているのだが、それに大打撃を与えるくらいにあのボスの攻撃力は高いものに設定されているようだ。

 

 あの骸鎌百足の時のように一撃で死亡させられるなんて事はないみたいだが、それでも連続で受ければ死に直結する。どうにかして攻撃を受けないように、そして攻撃を受けてしまったら回復を忘れずに使用して、体勢を立て直しながら戦う――つまり、いつものボス戦のセオリーで戦っていくしかない。

 

「くそっ、あいつだけ溶岩を使っての遠距離攻撃が出来るとか、あいつだけ魔法が使えるみたいじゃねえか!」

 

 確かにあいつの攻撃は見方を変えれば魔法、俺達プレイヤーが決して真似できないような所業だ。

 

 リーファとユウキ曰く、ALOならば魔法を使って戦う事も出来るそうだが、このゲームはあくまでSAOであり、剣と身体を使って戦うしかないのだ。つまり剣と身体で魔法を打ち破る必要がある。

 

 しかし、俺達の中でも少し魔法じみているものである回復スキル、ヒーリングサークルが展開される音が周囲から何度も響いてきた。そこに目を向けて、そのまま見回して見れば、回復スキルを連続で発動させ、減らされたHPを取り戻している仲間達の姿があった。

 

 骸鎌百足の時は回復するのもひと苦労だったけれど、激しい戦いを生き抜き続けたプレイヤー達は、その時とは比べ物にならないくらい、こういった状況に追い込まれる事に慣れていた。

 

「みんな、回復するのが早くなったみたいね」

 

 リズベットの言葉に俺は頷く。

 

「あぁ。皆追い込まれる事に慣れて、どうすれば脱する事が出来るかも理解しきっているんだ。少し心配になったけれど、そこまで心配しなくてもいいみたいだ」

 

 直後、周りの皆は咆哮を上げながら、《噴火の亀竜》に突撃を開始、ソードスキルをその忌まわしき足に叩き付け始めた。

 

 皆は既に、団長の指示に頼り切らなくても、どういう行動をすればいいのか、どういった攻撃を仕掛けて、次にどう行動を取ればいいのか、もう各自で理解してくれている事に俺は気付く。――血盟騎士団と攻略組がそこまで成長する事が出来ていたのだ。

 

 心の中に不思議な感動が躍ったが、俺はすぐさま正気に戻った。あの《噴火の亀竜》は攻略組の皆に攻撃を受けても、全くびくともしない。

 

 一応攻撃が当たった時のダメージエフェクトが出ているけれど、それでも全然平気そうな顔をして立ち尽くしているだけだ。

 

 クライン達のギルドの名を借りれば、風林火山の《山》、『動かざること山の如し』。《噴火の亀竜》との戦いは、もはや山を剣や戦斧、片手棍で崩して平地にするようなものだ。

 

 しかも俺達の攻撃力も回復もアイテムも無限にあるものではないから、何とかして弱点を見つけ出して、そこを攻撃して一気に倒してしまわなければ、じり貧どころじゃない。

 

 そして《噴火の亀竜》は近寄ってきた蟻を振り払うかのように前足を振り回して、攻撃を続けていた攻略組の者達を吹っ飛ばして見せた。攻撃を受けて地面を転がったプレイヤー達のHPが、先程の溶岩攻撃の時ほどではないが、かなりぐっと減ってしまっているのが確認出来たのか、少し《噴火の亀竜》から離れていたディアベルがぐっと歯を食いしばった。

 

「くそ、硬いな! 流石亀ってところか!?」

 

 ディアベルの言葉に頷きながら俺は剣を持ち直し、駆けだす姿勢を作りながらリズベットに声をかけた。

 

「リズ、俺達もあいつに攻撃を仕掛けるぞ。俺達もあいつの弱点を探すんだ!」

 

「わかったわ! 間違っても噴き出してくる溶岩にはねられないでよ」

 

 俺は既に、それへの対策がわかっていたような気がした。あいつの溶岩攻撃は震動で動きを止めてから、真下に溶岩を送り込む仕組みになっているようで、その揺れも1秒間程度のものであり、ジャンプして空中にいれば当たらないようになっている。

 

 あの攻撃が来そうな時に、移動しながらジャンプして空中に舞い上がり、すぐさま前方へ走り続ければ溶岩の間欠泉に当たる事なく、あの《噴火の亀竜》の隙を突く事が出来るに違いない。

 

「それだけど、あいつの溶岩攻撃はジャンプすれば揺れを回避できて、走り続けていればかち上げられないようになってるみたいだ」

 

「って事は、ジャンプしておけばいいわけね。でも、アタシのジャンプ力はそんなに強いものじゃないわよ」

 

「それでも大丈夫だ。軽くジャンプするだけでも揺れを防ぐ事は出来る。

 さぁ、準備はいいかリズ」

 

 リズベットはどこか納得できないような顔をした後、やがて頷き、片手棍を構え直した。

 

「いいわよ。あんたはあまり嘘を吐かないから、信じさせてもらうわ」

 

 意外と信頼されていたという新たな事実を知って、思わず軽く笑った後に、俺は地面を蹴り上げ、滑空するリランの如き勢いで《噴火の亀竜》に突撃。あっという間に《噴火の亀竜》の足元まで接近して、剣に光を宿らせて、それを爆発させるように振るった。

 

 軽い衝撃波を伴う剣撃を放ち、前方周囲の複数の敵を攻撃できる四連撃ソードスキル《カウントレス・スパイク》が《噴火の亀竜》の大樹を思わせる足に炸裂する。

 

「たあああああああああッ!!!」

 

 続けて俺とスイッチしたリズベットが前方へ飛び出し、片手棍――というよりももはや戦闘用ハンマーにしか見えない武器に光を宿らせて、片手剣で縦斬りを放つように振り下ろし、《噴火の亀竜》に打ち付けた。

 

 恐らく、敵や地面に力いっぱい打ち付けて衝撃波を引き起こす片手棍スキル《パワー・ストライク》――それが《噴火の亀竜》の足に炸裂するや否、俺達の剣ではびくともしなかった《噴火の亀竜》の足が、大きくよろめいた。一瞬何が起きたのかわからなくなり、《噴火の亀竜》のHPに着目してみたところ、ようやくまともに減ったのが確認できた。

 

 《噴火の亀竜》は硬い甲殻に身を包んでいるため、剣による攻撃を通さないが、リズベットなどの持つ片手棍のような打撃属性武器にはめっぽう弱くなっているらしい。

 

 硬い殻を持つモンスターは打撃攻撃に弱いという法則は他のゲームでよく見てきたが、どうやらこのゲームでもそういう設定は採用されているようだ。

 

「あれ、あたしの攻撃が効いた!?」

 

「そうだ。多分、こいつの弱点は打撃属性、リズの持ってる片手棍はそいつの天敵みたいなものなんだ!」

 

 俺は周りの皆の方に顔を向けたが、そこで十数人、リズベットと同じように片手棍を装備しているプレイヤー達の姿が確認出来た。

 

 俺達の剣が全く通じていないというわけではないけれど、弱点属性となる武器を持っているプレイヤー達がいるのであれば、その者達を中心に戦いを繰り広げていけば、より優位に、被害を出さずに戦闘を繰り広げ、勝機を掴む事が出来るだろう。咄嗟に俺は頭の中を回して作戦を練り上げて、叫んだ。

 

「この亀の弱点は打撃属性だ! 片手棍を持つメイサー達、ソードスキルを叩きつけてやれ! 周りのプレイヤー達はメイサー達の援護に取り掛かり、メイサー達と交替しながら攻撃を仕掛けていけ!」

 

 このボス部屋に集まる者達全ての耳に俺の指示が届くと、受けた者達はメイサーを援護する形の立ち回りをして、メイサー達はそんな仲間達に守られながら《噴火の亀竜》に突撃を開始した。

 

 直後に俺はリズベットを引き連れて《噴火の亀竜》から後退、声をかけた。

 

「リズ、まだいけるか」

 

「えぇもちろんよ。弱点がわかったなら、こっちのものってところじゃない?」

 

「そうだな。頼むぞ、マスターメイサー!」

 

「任せておきなさい!」

 

 そう言って、俺達は再度《噴火の亀竜》に突撃を開始した。




次回から、ちょっと全体的に怖くなるかも。

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