キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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04:宝物探索者の少女

           ◇◇◇

 

 

 75層攻略から3日後、穴の開いた血盟騎士団のボスの座には、俺が就く事になった。

 最初は、これまでずっと血盟騎士団を率いてきたアスナがそのままボスになるんじゃないかって思ったし、俺も推薦していたけれど、アスナは逆に後から来た俺を指名してきた。

 

 何でも、俺はアスナよりも剣の腕が達者だし、ユニークスキルを持っているうえにリランを連れている、今のところアインクラッド最強のプレイヤーであるから、自分よりも俺の方が血盟騎士団最強のプレイヤーであるボスの座につくべきだと推薦してきた。

 

 俺はそれに反論したけれど、他の血盟騎士団の者達もアスナよりをボスに推薦し、血盟騎士団のボスに相応しいのは俺という意見が、圧倒的多数を占めてしまい、結局俺が血盟騎士団のボスの座に就く事になってしまったのだ。

 

 俺は今まで人とのかかわりを避けて、ソロプレイに徹してきた。そんな俺が血盟騎士団なんて言う大軍団のボスをやって行けるなんて思えないし、適切な指示を出して、団員達を動かす事も出来るわけがないと思っていた。

 

 だから、就任した後、すぐにやめてしまいたいと思ったのだが、俺の就任をシノンも、ユイも、リランもアスナもユピテルも、イリスもユウキもリーファも、ディアベルもクラインもエギルも盛大に祝ってくれた。その時の彼女達を見て、もう引き下がる事なんて出来ない、逃げる事なんて許されない事を俺は悟り、結局血盟騎士団のボスである事を呑み込んだのだった。

 

 俺を《黒の剣士》足らしめていた、魔剣クラスの力を持つ《エリュシデータ》。その刃はヒースクリフによって手折られ、今はそのヒースクリフが遺していった《インセインルーラー》が俺の片手の剣に代わっている。

 

 しかしその色合いは《エリュシデータ》の真逆である白。これを俺はどうしても気に入る事が出来ず、使いたいと思えなかったため、就任式の後、アスナ達に攻略を任せて、リズベットの元へ向かう事になった。いつも俺と一緒に行動しているシノンも、今回はアスナと共に攻略を進めると言って、76層のフィールドへと赴いて行った。

 

 そして、場所はすっかり見慣れた48層の街《リンダース》。これからの事などを頭の片隅で考えながら、街路樹に囲まれた路地を歩いていると、肩に乗るリランが《声》をかけてきた。

 

《そんなに嫌なのか、その色は》

 

「嫌だよ。俺は片手が黒色の剣じゃないと落ち着かないんだ」

 

《確かに《エリュシデータ》はぽっきりと折られてしまったからな。言われてみれば、お前が白い剣を使っているのは、違和感がある》

 

「そうだろ。だからリズのところに持って行って、色を変えてもらおうって思ってさ。確か、素材をいくつか渡せば性能をそのままに、色を変える事が出来たはずだ」

 

《武器の色も変える事が出来るのか。ならばいっそのこと、《ダークリパルサー》の色も変えてもらったらどうだ》

 

「駄目だ。《ダークリパルサー》はリズの自信作だし、リズ自身色を変えたがらないと思う。まぁそれでも、ヒースクリフに折られたのが《ダークリパルサー》じゃなくてよかったよ」

 

 もし、あの時《ダークリパルサー》を折られていたら、もうリズに会わせる顔が無かっただろう。そんな状態でリズに会って、折れた《ダークリパルサー》を見せたら……また突っかかって来た事だろう。

 

「だけど変だな。普通、剣が修復不可なところまで折れてしまうと、消滅してしまうはずなんだけど……この《エリュシデータ》は貴重品になってしまった。なんでだ?」

 

《我に聞くでない。我は竜だが、様々な英知を抱えているわけではない》

 

 思わずリランの反応に苦笑いする。

 

「確かに、この辺りの事はお前はわからなそうだな。やっぱりその辺の事も兼ねて、リズに聞いてみるとするか」

 

 そんな話をしながら歩き続けていると、路地を抜けて、リズベットの経営する武具店の前まで辿り着いた。道中、色んな人に見られていたような気がするけれど、そんな事はもう慣れっこだからどうでもいい。

 

「さぁて、リズはいるかな」

 

 リズベットは最近イリスやシリカと共に買い物に出かけている事があり、武具店に来てもいない時があり、そういう場合はNPCがリズベットに招集をかけてくれる。しかし、その場合は大急ぎでリズベットが戻ってくるものだから、せっかくの休みや買い物を邪魔している気になってしまう。だから、リズベット自身がここにいる時が、一番物事を頼みやすいのだ。

 

 リズが居ますように――そう思いながら入り口のドアを開けて、中に入り込んだ。店の中には相変わらず、いくつもの武器や防具が陳列されていて、その奥のカウンターの方に、プレイヤーが2人確認できた。

 

 1人目の方は、鮮やかなピンク色の髪の毛に赤いスカート付きの洋服を着て、エプロンを付けた女の子――すなわち俺の目的の人物であるリズベットで……もう片方はオレンジがかった金色の髪の毛をショートボブの髪型にしており、群青色のフードつきの短いローブのようなものを着て、ホットパンツを履いている、見た事のない女の子だった。目を凝らしてみれば、リズベットがその女の子と笑顔で話し合っていたため、リズベットの友達である事がわかった。

 

《どうやらリズは、友人と話をしている最中らしい》

 

「見りゃわかるよ。……こりゃ駄目だな。せっかくの会話を邪魔したら悪いから、出直そう」

 

 そう言って、リランと共に武具店を出ようと振り返ったその時に、背後から声が聞こえてきた。

 

「あ、キリトじゃないの」

 

 背後から2人の視線を感じる。恐らく、リズベットともう片方の女の子が俺に注目しているような状態だろう。そしてもはや、この場から逃げ出す事など出来やしない。せっかくの2人の会話を邪魔してしまった事に悪い気を感じながら振り返ってみたところ、やはりそこで、リズベットと女の子がこちらを見ていた。

 

 その時に、女の子の目がユピテルのそれとはまた違った青色である事と、女の子の服装が意外と露出度の高くて、胸の上部が誇張されているものである事にも気付いて、思わず驚いてしまった。

 

「や、やぁリズ」

 

「どうしたのよ。また剣の修復?」

 

「そんな感じかな」

 

 そう言って、リズベットに近付くと、女の子が興味深そうに俺に寄ってきた。

 

「あれ、もしかしてこの人が、リズの言ってたキリト?」

 

 名前も知らない女の子から俺の名前が飛び出した事に驚いて、女の子の方に顔を向けたところ、リズベットがそれに答えるように言った。

 

「そうよ。その人が《黒の剣士》、または《黒の竜剣士》のキリト。今はかの血盟騎士団のボス。あたしが知る中で、もう一人の<ビーストテイマー>よ」

 

 女の子はもう一度興味深そうに、俺の方に顔を向けてきた。金色の髪の毛に、青色の瞳がとても美しく感じられるが、瞳は少し大きめで、可愛さも感じる。

 

《なんなのだ、この少女は》

 

 女の子に同じように見つめられていたリランが呟くと、リズベットが答えた。どうやらリズベットと俺にだけチャンネルを合わせていたらしい。

 

「紹介するわキリト。この()は、宝物探索者(トレジャーハンター)のフィリア。最近うちのお得意様になって、あたしの友達になった娘の1人なのよ」

 

 宝物探索者。このゲームにジョブシステムなんてものは存在していないが、まるでジョブシステムがあるかのように振る舞ったり、名乗ったりするプレイヤーは存外多い。このフィリアも、きっと宝箱を探したりするのが好きで、そんなふうに名乗っているのだろう。そして宝物探索者という名を名乗るからには、ダンジョン探索などに秀でているに違いない。

 

「宝物探索者のフィリアか……なるほどね。俺は、もう知ってるかもだけど、キリトだ。それで、こっちの肩に乗ってるのが、相棒のリラン」

 

「よろしくねキリト……っていうか、血盟騎士団のボスだから、呼び捨てじゃ駄目かな」

 

「駄目じゃないよ」

 

「そっか。じゃあキリトって呼ばせてもらうね」

 

 リズベットがリランの方に目を向ける。

 

「フィリア、そのリランはすごいわよ」

 

 フィリアはリズベットへ顔を戻し、首を傾げる。

 

「何がすごいの。見た感じ可愛い犬みたいなドラゴンだけど……」

 

 リランは今の見た目は翼を4枚生やして、甲殻を身に纏った子犬のような姿をしているが、本来の姿を見たら大抵のプレイヤーは驚いて腰を抜かす。そして、何よりもすごいのが、喋れる事だ。勿論それを、フィリアが知っているわけはないだろう。リズベットが事前に話していない限りは。

 

「リラン、チャンネルをフィリアに合わせてみろ」

 

 リランが顔をフィリアに向けると、フィリアはますます首を傾げた。

 

「え?」

 

《なるほど、財宝探しが趣味のプレイヤーか。我が名はリラン、よろしくな》

 

 次の瞬間、フィリアは酷く驚いたような顔をして、周囲を見回し始めた。そう、リランに初めて話しかけられたプレイヤーの反応だ。ほとんどのプレイヤーが、頭の中に《声》が聞こえてくるなんて事を経験した事が無いから、どこからともなく声が聞こえてきたように感じて、周りを見渡すのだ。

 

「あれ、なに、今の《声》……」

 

 リズベットがふふんと笑う。多分、自分がリランに初めて話しかけられた時の事を思い出したのだろう。そう言えば、フィリアの反応はリズベットの時とほとんど同じような気がする。

 

「今の《声》が、リランの《声》。キリトの肩に乗ってるドラゴンの《声》よ」

 

 フィリアは何も言わないままリランの方に顔を向けて、やがて大きな声を出して驚いた。

 

「えぇーっ! キリトのそれ、喋るの!?」

 

「あぁ喋るよ。何せこいつは俺達と同じように心を持っているからな」

 

「モンスターが……心を持ってる……?」

 

「あぁ。俺も最初君と同じような反応をしたもんだよ」

 

 フィリアは魂消ながらもリランに顔を近付けて、声をかけた。

 

「えっと、リランだっけ。わたしはフィリア」

 

《うむ、フィリアであるな。よろしく頼むぞ》

 

「わたしの言葉、わかるの?」

 

《わかるとも。我はこれでも全てのプレイヤーの言っている事がわかるからな》

 

「えっと……この子ってAIなんだよね? プレイヤーじゃないんだよね?」

 

 俺ではなく、リズベットが答える。

 

「うん。プレイヤーじゃなくて立派なモンスターよ。どういう原理で喋ったり、心を持っていたりするのかは一切不明だけど、リランとは普通のプレイヤーと同じように接してあげて頂戴ね」

 

 フィリアはあまり理解できていないような顔をしてリランを眺めていたが、ひとまずリズベットの言葉に頷いた。

 

「わ、わかったわ。なんだかよくわからないけれど」

 

 普通、モンスターが喋ったりする事はないし、ましてや心を持っている事などありえない。そしてそれが、このアインクラッドで生きるプレイヤー達――俺を含めた――の常識だったのだが、リランと触れ合った事により、それは塵に帰る事となった。

 

 フィリアもきっと、今まで心を持ったモンスターと触れ合ってきた事など無いから、リランという存在を信じられず、軽く混乱しているのだろう。まぁ、当然と言えば当然だ。

 まるで宝を見つけたかのように興味深そうにリランを見つめるフィリアの横で、リズベットが俺に顔を向けてきた。

 

「それで、キリトの方は何の用事出来たの。フィリアと同じように、武器の手入れかしら」

 

「そうじゃないんだ。あ、いや、そうかな」

 

「どっちなのよ」

 

 俺は背中にかかっている、問題の品物を鞘ごと持って、リズベットに差し出した。

 

「これの色を変えてもらいたいんだ」

 

 リズベットは少し目を丸くしながら、俺から剣を受け取ったが、次の瞬間に剣を床に落としそうになった。《エリュシデータ》の時と同じく、リズベットからすればかなり重いものだったらしい。

 

「重いわね……これも魔剣クラス……いや違う、これってヒースクリフが持ってた剣じゃ!?」

 

「そうだよ。ヒースクリフが落としていった剣を、俺が再利用してるんだ」

 

 リズベットは近くの台に剣を置き、ぽんとクリックしてウインドウを呼び出した。

 

「《インセインルーラー》……能力値はマジで魔剣クラスね。あんたの使ってる《エリュシデータ》よりも性能がいいわ。当然あたしの作った《ダークリパルサー》よりも」

 

 リズベットは俺の方を見て、突然何かに気付いたかのように目を丸くした。

 

「あれ、っていうかあんた、《エリュシデータ》はどうしたの。あんたの背中にかかってるの、《インセインルーラー》と《ダークリパルサー》じゃないの」

 

「3日前の戦いで、《エリュシデータ》は仏様になった」

 

「って事は、あの魔剣を壊されちゃったってわけ」

 

 俺はウインドウを操作して、貴重品ボックスに移動してしまった《エリュシデータ》を具現化させて、リズベットに差し出した。刃の部分がほとんどなくなって修復不可になっているのに、消えずに残っているという普通ではありえない状態の魔剣の姿にリズベットはきょとんとする。

 

「うっわ、これまた見事に折られちゃってる……っていうか修復不可って出てるのに、何で消えてないのよ」

 

「俺にもわからないよ。その原因を君に聞こうって思って来たんだけど」

 

 リズベットは目を半開きにしながら、折れた《エリュシデータ》をじっくりと眺めた。

 

「うーん……元々《エリュシデータ》は50層のボスのラストアタックボーナスでのみ出現する特殊な剣だったからねぇ」

 

「確かに、俺以外にこれを持ってる人は見た事が無いな」

 

「そうでしょう。あたしのところにもそんな人が来た事はない。だから、多分だけど《エリュシデータ》はこのゲームに一つしか存在していないもの。破壊されたとしても、他の武器のように消失してしまわないようになっているんだと思うわ」

 

 これまでやってきたゲームのパターンでは、使えなくなっても貴重品となって消失しない武器は、何かしらの素材を投入したり、クエストをこなす事によって本来の力を取り戻したり、もしくは進化したりする事が多かった。

 

「という事は、これもそれで直るかもしれないのか」

 

「えぇ。そうだと思うんだけれど……何のクエストで出来るようになるのかしらね。今のところは修復不可の文字が出てるから、素材を投入する事は出来ないわ」

 

「何か心当たりみたいなものはないのか」

 

「ないわね。今のところ《エリュシデータ》は、消えてしまわない事に感謝してこのままにしておくべきね。でも上の層が解放されていけば、いずれこの剣が治せるイベントも起こるんじゃないかしら。今のところは手の施しようがないわ」

 

 確かにこれまでも、どう使うのかわからないようなアイテムが手に入ったりしたが、後々上層エリアにて発生したイベントで使うものである事が判明するような事が相次いだ。恐らく《エリュシデータ》も同じようなものであり、上層へ行けばまた使えるようになるかもしれない代物だろう。

 またこの剣を使う日が来るかもしれないという期待は、俺の胸を躍らせるのに十分だった。

 

「じゃあそれまでこいつで我慢だな」

 

「えっと、この《インセインルーラー》をどうしてもらいたいのかしら」

 

「色を変えてほしいんだよ。丁度《エリュシデータ》みたいなカラーリングに」

 

「なるほど、《黒の剣》が折れてしまって、自分が《黒の剣士》じゃなくなりそうだから、この剣を新たな《黒の剣》にしたいわけね。なんというか、あんたらしい」

 

「そうなんだよ。どうにかできないか、リズ。リペイントって、確か出来ただろ」

 

 リズベットは軽く息を吐きながら、白き剣を見つめた。

 

「出来るわよ。色の自由はかなり効くみたいだからね、このゲームは。流石プレイヤーが生活出来るゲームなだけあるわ」

 

「そっか。なら早速やってほしいんだけど……」

 

「その程度ならお安い御用よ。ただし、素材はあんたが出すのよ」

 

「大丈夫。素材なら集めてきてるし、というか攻略の最中で色々手に入れてるからさ」

 

「流石キリト、準備がいいわね」

 

 そう言って、リズベットは《インセインルーラー》を再度クリックしてウインドウを呼び出した。中身は俺にも見えるようになっていたが、リペイントのための素材だとか、変更後の色合いなどが書いてあった。

 

「んで、どこを何色にしたいんだっけ」

 

「刀身を黒に、紅い十字部分を金色にしてもらいたいんだ」

 

「なるほど、黒と金色ね。如何にもあんたらしい色ですこと」

 

 リズベットはそう言ってから、俺の方に顔を向けた。

 

「そのためには、《黒晶鉄》、《白金晶》、《金鉱鉄》がそれぞれ5ずつ必要だけど、持ってる?」

 

 リズベットに言われた俺は、右手を動かしてアイテムウインドウを呼び出し、指定された素材を探した。リザードマンの尾やドラゴンの鱗など、様々なアイテムをかき分けてソートさせ続けていると、その内《白金晶》、《金鉱鉄》の2つが見つかった。それもリズベットが指定した数が揃っている。しかし、もう一つの《黒晶鉄》はいくら探しても見つからなかった。ウインドウの便利機能として存在している検索機能も使用してみたが、やはりない。どうやら攻略の最中に手に入れなかったようだ。

 

「《白金晶》、《金鉱鉄》はあるな……でも、《黒晶鉄》はないみたいだ」

 

「素材大量に手に入れすぎて、どこにあるのかわからないんじゃないの」

 

「いや、検索をかけても見つからない。手に入れてなかったみたいだな」

 

「となると、どうするの。やっぱりその剣はそのまま使う?」

 

「それは嫌だな。やっぱり黒色の剣が欲しい」

 

 リズベットはどこか呆れたような顔をして、俺の顔を見た。

 

「本当に黒が好きなのね、あんたは。ならさっさと《黒晶鉄》を探して持ってきなさい」

 

 と言われても、散々冒険してきた俺のストレージに《黒晶鉄》が入っていないという事は、《黒晶鉄》が俺の立ち寄っていないところにあるという事だ。即ち、これまで行って来たところの、まだ言っていない場所を隅々まで駆けまわる羽目になるかもしれない。

 

「だけど、俺のストレージに入ってないって事はある種のレアアイテムみたいなもんだぜ。《黒晶鉄》について何か情報はないのか」

 

 リズベットが考え込むような姿勢を取ったその時に、それまで俺達の話を聞いていたのであろうフィリアが口を開いた。

 

「あ、《黒晶鉄》の在り処ならわたし知ってるよ」

 

「本当かフィリア」

 

「うん。75層迷宮区手前にあるダンジョンの、迷宮区とは別の入り口から入れるところの奥深くに、採れる場所があるよ。何なら案内しようか」

 

 俺は今まで迷宮区を目指してばかりいたから、そういうところにはあまり立ち寄った事が無かった。多分、俺とリランだけで言っても迷うだけかもしれないから、ここはフィリアを信用した方がいいのかもしれない。何かあったとしても、75層のボスを打ち倒して進化したリランが居れば、大体どうとでもなる。

 

「いいのか。出会ったばかりの俺なんかに、そんな情報を教えて」

 

「いいよ。だってキリト、悪い人じゃないってリランが言ってたもん」

 

「リラン……お前、フィリアとだけチャンネル合わせて喋ってたな」

 

 リランはふふんと笑った。

 

《キリト、フィリアは信用していいぞ。この者は、信じるに足りる人物だ》

 

 確かに今まで話してて、フィリアからは悪人の感じとかしてこないし、何よりフィリアの瞳にはシノンやアスナ、リズベット達のそれと同じ、暖かい光が煌めいている。それになにより、リランがフィリアと話し、その本質を見抜いたうえで信用できると言っているのだ。もしリランが本質を見抜いて、フィリアが悪人であると理解していたら、真っ先に俺にそう言って来るけれど、そんな事はなかった。

 

「リランが言うなら大丈夫そうだな。それじゃあ、75層のダンジョンを案内してくれるか、フィリア」

 

「任せて、血盟騎士団のボスさん」

 

「キリトでいいってば」

 

「じゃあキリト、よろしくね」

 

 俺は頷き、リズベットにすぐに戻ってくると言うと、そのままフィリアと共に街に出て、転移門を使って75層へと飛んだ。その最中、未知なる人物であるフィリアと共に、未知なるダンジョンへ挑むというこれからの出来事に、俺の心は弾んでいた。

 


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