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「ユピテル、キリト君、シノのん、リラン……」
《
その中には息子であるユピテル、親友であるシノンとリラン、頼れる仲間の筆頭であるキリトも含まれていた。その人達が戦地へ向かい、実際に戦っている映像が流れ始めた辺りから、アスナの胸中は不安と一種の恐怖でざわめいて止まらなくなっていた。
「ったくもう、なんであたし達は行けないのよ。あたし達だって別に行けるっていうのに……なんであたし達に行かせないで自分達だけで行くんだか……!」
アスナの左隣に座っている親友リズベットが、悔しそうな表情をして膝を軽く叩いている。今、チームルームには《SAO》の時から一緒に戦い続けている友人達、仲間達がほぼ全員
なので、後続プレイヤー達からすれば命が懸かった戦地に行くというのにも慣れているつもりだ。そこで死なずに勝利する方法を見つけ出す事、そして実際に勝利するという経験もしてきている。
だからこそ、今回の《死銃》討伐戦にも参加したいと思っていたところだったのだが、キリトとシノンの両名に強く止められてしまい、結局本当に大多数がここに残って観戦するしかない状況になってしまった。
その中の一人とされてしまった、野武士のような雰囲気の赤毛の青年、クラインがまた悔しそうに呟く。
「オレ達は《SAO》をクリアしたデスゲームの専門家みたいなもんだぞ。なのにキリトとほんのちょっとしか行かせてもらえねえなんてよ。それでキリトが死んじまったらどうするっていうんだよ……!」
「キリトの事だ。そうだからこそ俺達を《スクワッド・ジャム》から遠ざけようとしたんだろう」
《SAO》からの付き合いである黒人江戸っ子のエギルが返答し、クラインが「くそっ」と声を出す。クラインは《スクワッド・ジャム》で《死銃》を捕まえるという役目をキリトがこなしてカッコつけようとしている事に怒っているのではない。本当に死ぬかもしれない戦地へ行ってしまった事に怒っているのだ。
いつもはキリトが美味しいところを持っていく事が多い事に怒るクラインだが、今はそのキリトの命を本気で心配している。それはアスナも同じだった。キリトは
本当は自分達全員で挑まなければならないくらいの相手だというのに、僅かな戦力だけで戦おうとして、本当にその状態で行くなんて。心配が尽きないどころではない。
「キリトさん……無事でいて……!」
シリカが身を縮こまらせて強く呟く。彼女も不安で仕方がないのだ。いや、ここに居る全員がほぼシリカと同じ気持ちになっていると思っていいだろう。
「きっと大丈夫ですよ。おにいちゃんは死にそうになっても結構生きてる人ですし、そんな簡単にやられちゃったりしませんよ。それにシノンさんもリランも一緒に居てくれてて……アーサーさん達もレンさん達も居てくれてますから、大丈夫です」
キリトの妹であるリーファが皆に呼びかけるように言っているが、その声は震えている。キリトの
本当はリーファもキリトと共に《スクワッド・ジャム》に参加して、キリトの事を守りたかったに違いない。しかし、それをキリトが決して
アスナと同じ事を思ったのか、フィリアがリーファに寄り添って声掛けする。
「リーファ、無理しないで……」
「……」
リーファは
彼女達だけではなく、彼女達が該当している《
「くそッ、アーサーの奴も無茶して飛び込んでいきやがって……ここは俺の出番だっていうのによ。サイバーテロリストの
クライン達の近くにいるバザルト・ジョーが呟く。とても悔しそうな声色だが、そこにアルトリウス達がこんな事件に巻き込まれてしまった事に対する申し訳なさが
彼と一緒に過ごしてきて判明した事だが、バザルト・ジョーは結構
もしかしたらバザルト・ジョーは警察官や機動隊員、自衛隊などの、犯罪者やテロリストと戦い、捕まえる仕事を
「あぁもう、やっぱり見てるだけなんてしてられないよ!」
そう言って椅子から立ち上がったのがユウキだった。皆が驚いて目を向けると、彼女はすぐ隣にいるカイムを見た。
「カイム、《スクワッド・ジャム》に飛び入り参加しよう! キリト達を助けるんだ!」
ユウキは勢い付いていた。やる気、戦う気に満ちている時の彼女のそれと変わりがないように見えるが、今はいつものそれと異なっているという事にアスナは気が付く。ユウキは《死銃》という強敵と戦いたくてこの勢いを出しているのではない。本気でキリト達を助けたいのだ。
だが、それを向けられたカイムは首を横に振る。
「そんな事はできないよ。《スクワッド・ジャム》とか《BoB》は一度始まったら、途中参加とかはできないんだ。それは最初に見てたはず」
ユウキは悔しそうに歯を食い縛ってから答えた。
「だけど、このままキリト達が《死銃》と戦って、殺されそうになったら本当に殺されるところを見ているしかないなんて……ボクは我慢できないよ」
「ぼくだって同じ気持ちだ。だけど、こうなった以上は見ているしかないんだ……」
カイムもまた悔しさを顔に
「なんか……誘い込まれてる……? キリト君やシノンちゃん達が……?」
その時、不意に
「セブンちゃん?」
「やっぱりそうよね……キリト君達を誘い出してるようにしか……」
どうにも聞こえていなかったらしい。アスナがもう一度声を掛けようとしたその時、その代わりのようにセブンの姉であるレインが声掛けした。
「セブン、どうしたの。何か思い付いた事があるの?」
セブンはレインの方に顔を向ける。
「おねえちゃん、やっぱり変よ、これ。偶然にしてはあまりに出来過ぎているわ」
「え?」
「この《死銃》事件っていうか、《死銃》が原因かもしれない死亡者が出たタイミングが、あまりに意図的みたいなのよ」
アスナは思わず首を傾げた。この《死銃》事件が偶然にしては出来過ぎているというのはどういう事だ。皆が同じような反応をしている。それをすぐに把握したセブンは続けてきた。
「《死銃》が事件を起こしているのはこの《GGO》だけど、《GGO》自体は結構前からサービスが開始されている。もしプレイヤーを死なせる事が目的なら、もっと早くからのこの事件を起こす事もできたはず。あぁ、いえ……多分《死銃》がプレイヤーを死なせるやり方自体最近完成したものっていう事だから、サービス開始時にはこの事件が起きなかったっていう事なのかもしれないのだけど、問題は開始されたタイミングよ。《死銃》が事件を起こしたのはキリト君達が来てから。
それだけじゃないわ。キリト君達が《GGO》で有名になってきてから、あいつは事件を起こし始めたわ。まるでキリト君達が来たからやり始めたみたいに。事件の回数を増やしてプレイヤーを死なせているのも、キリト君達が大きな事件が起きればやってくる事を知ってたからであって……そして今、キリト君達は《死銃》も参加してる《スクワッド・ジャム》に行った」
集中しているとそうなるのか、
その内容を聞いたアスナは、すぐさまとある結論を見出す事ができて、そこに驚いていた。恐らくセブンも同じ結論に辿り着いていて、そこに皆を辿り着かせようとしていたのだろう。
「まさかセブンちゃん、《死銃》は初めからキリト君達を自分達と戦わせるのを目的にしてたって言ってるの? 《死銃》がプレイヤー達を何らかの方法で死なせていたのは、キリト君達を呼び寄せるためだったって?」
セブンは頷いた。皆がほぼ一斉に驚いた声を上げる。
「えぇ。なんだかそんな気がするのよ。まぁ、あくまであたし一個人の意見って言うか、考えてる事なんだけど、どうにもそうとしか思えなくて……それで、これもふと思った事なのだけれど……」
セブンは皆を見回してから続きを言った。
「《GGO》全土を巻き込んで、実際にプレイヤーが死亡してる《死銃》事件……これだけの事ができる奴なんて限られてくるわ。だから……これには
二〇二十三年頃に姿を見せて、この日本社会の全てを荒らし回り、混乱させたサイバーテロリストの根源とも言うべき者であるが、一方でその名前は一般的には出回っておらず、誰にも知られていない。如何にも企てを進めるには都合の良い社会情勢を作り出し、そこで自信満々に
そいつの名前は――。
「まさか、
ユウキが
全身ピンクの戦闘服に身を包む小さな少女、白と水色からなる戦闘服に身を包んだ栗色の髪の小さな少年がそれぞれの武器を発砲している光景が広がっていた。更に彼女らの近くでは双頭の狼型戦機が勢いよく動き回っているのも見える。
全身ピンクの少女はレン、双頭の狼型戦機はゴグマゴグとピトフーイ。そして栗色の髪の少年は、ユピテル。我が子。
「ユピテル、レンちゃん!!」
アスナが思わず叫んだその時、ユピテルの目の前に突如として黒くて大きな影が踊り出た。全体的にしなやかなでありつつもどっしりとしているその体型は、どことなく
戦機だ。見た事もない戦機が、ユピテル達を襲っていた。
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「急いで! ユピテルからの信号が救難信号に変わってる!」
「ユピテル、まさか《死銃》と交戦を!?」
ティアとプレミアの二人が焦りながら言う中、キリトは彼女達の指し示す方向へ走っていた。同じこの《スクワッド・ジャム》に参加した仲間のうち、ティア、サチ、マキリ、シュピーゲルの四人、アルトリウス、クレハ、イツキ、ツェリスカ、プレミアの五人からなる九人に合流する事はできた。
これでこの場にいる人数は十二人。《死銃》の討伐を狙う者達のほとんどを集める事ができた。後はレン、ピトフーイ、フカ次郎、エム、ユピテルの五人と合流して《死銃》と戦いに向かうという手筈になっていたが、丁度アルトリウスのチームと合流した時に異変が起きた。ユピテルから発信されているという《アニマボックス信号》が、助けを求めている信号に変わったというのだ。
ユピテルがいるのはレン達のチームであり、レン達は凄腕の銃士と言える者達だ。なので、そこら辺のスコードロンや敵チームに絡まれたところで、ユピテルが救難信号を発するとは考えにくい。そんな事をしなくてもレン達の火力で敵を倒せてしまうからだ。それにユピテル自身もミサイルランチャーを持っている事と、その扱いに秀でているという事もあって、かなりの火力を出せる。
そんなユピテルが加わっている事もあって、レン達の戦闘能力はいつもより増しているから、尚更苦戦するような事もなければ、わざわざ救難信号を発する事もないだろう。
しかし、そうであるにもかかわらずユピテルが救難信号を発し始めたのが現状だ。これはレン達でも苦戦させられるような相手に出くわしたという事を意味している可能性が高い。
レン達の火力も織り込み済みにしているのが今回の《死銃》討伐戦だ。誰かが欠けてしまえば、その時点で《死銃》の討伐の難易度は上昇してしまい、誰かが殺される危険性も跳ね上がる。
それだけではない。《アニマボックス信号》を利用した救難信号を出しているという事は、全員を集める理由が存在するという意味でもある。もしかしたらユピテルを入れているレン達は、討伐目標である《死銃》のチームに出くわしているのかもしれない。そうであるならばこれは危機でもあり、チャンスでもある。
皆で合流し、《死銃》を討つチャンス。この事件を早く終わらせられる絶好のチャンスだ。キリトは皆に号令しつつ、プレミア達の案内を受けてレン達の許へと走っていた。
「キリト」
走っている
「シュピーゲル、今のうちだと早いかもしれないけど、《死銃》についてわかりそうな事はないか。あいつがどういう方法を使ってそうか、掴めてないか」
シュピーゲルは首を横に振る。やはりまだ早かったようだ。
「今のところ何も……ただ、《死銃》に殺されたっていうプレイヤーは皆くも膜下出血になってたから、結局の原因は脳にあると思うんだ。脳に何かされて、くも膜下出血になってたんだと思うんだよ」
「何かって、何なんだ」
「そこまではわからないんだってば。脳に原因がある事だけは確かなんだけど、それ以上はまだわからない」
シュピーゲルもシュピーゲルで要因を探そうとしてくれているのは間違いないのだが、キリトが求めているような答えは出てきそうになかった。しかし冷静に考えてみれば、この結果は仕方がない。
《死銃》という存在自体が明らかになったのはここ一ヶ月以内の事だし、交戦経験だってない。そんな存在の事を隈なく調べ上げろという方が無理があるのだ。キリトは自分の言っている事がかなり無茶苦茶であるという事に気が付き、シュピーゲルにすまなさを感じていた。
その話を隣で聞いていたリランが《声》を飛ばしてくる。
《脳に原因があるとなると、それを
シュピーゲルはリランに頷いた。
「うん。僕もそう思うんだよ。《死銃》は死んだプレイヤーのアミュスフィアに何かしらの動きをさせて、それを利用して脳に異常を起こさせて殺人をしてたって思うんだ。というか、そうとしか考えられないよ」
キリトは思わず眉を寄せる。《死銃》の殺人方法についての考察はずっと行っているが、どうやってもそれはシュピーゲルの言っているアミュスフィアの何らかの動作によるものという、否定するしかない結論に辿り着くものだった。
アミュスフィアの動作のせいでプレイヤーは死んでいた。そう考えるのは簡単ではあるものの、そのメカニズムがさっぱりわからない。アミュスフィアは何度も言われている通り、絶対安全なプレイ環境を届ける事を約束するフルダイブ機器であり、その性能を
《SA:O》の最初期の頃に見受けられたような
そして《死銃》に撃たれた直後に死んだプレイヤーが電子ドラッグを使っていたなんていう話は聞いた事がないので、彼らが電子ドラッグの過剰使用により死亡した可能性は皆無である。
「そう言えばアミュスフィアって何気なく使ってるけど、どういう仕組みで動いているものなんだ? 俺、そんなに知らないんだ」
並走しているアルトリウスが質問をしてきた。確かにアミュスフィアのメカニズム、VRMMOプレイ時にどういう動きを中で起こしているかという知識は一般的ではないので、アルトリウスが知らなくても当然だろう。だが細々と説明している時間はない。キリトはアミュスフィアの動作の基本的な部分だけを話す。
「アミュスフィアはプレイヤーの脳に一定の電気と信号を流す事で、プレイヤーをVR世界の中にダイブさせてるんだ。ここ《GGO》で感じてる全ての事は、アミュスフィアから伝達されてる電気と信号によるもの……って
キリトの説明にアルトリウスが目を丸くする。意外な答えを聞いたかのような反応だった。
「え、そんなに簡単な仕組みで動いてるのか、アミュスフィアとVRって」
「いや、本当はもっと細かくて複雑なんだけど、これを説明しろって言われるとちょっと困るって言うか……俺よりイリスさんの方が詳しく説明できるんだけどなぁ」
「とりあえずは、アミュスフィアは俺達の身体に電気信号を伝えてきてるって事なのか?」
「そういう感じ。微弱な電子パルスも出てて、それらを使って信号を渡してきてるっていう仕組みだ。とりあえずはここだけ掴んでてくれればいいかな」
アルトリウスは素直に頷いた。わかってもらいたい部分はわかってもらえたらしい。
そこでキリトはふと思い付いたものがあった。《死銃》の殺人の仕組みはアミュスフィアの機構を利用したものである可能性が高いという話が先程から出ているわけだが、もしかしたらアミュスフィアの電気信号、電子パルスを利用したものなのではないだろうか。そうだとするとアミュスフィアを利用している殺人というのにも納得できる部分が出てくる。
だが、まだ確信に至る事はできない。アミュスフィアの電子パルスと電気信号の強さはナーヴギアのそれよりも遥かに出力が低いものであるため、人体に傷を付ける事はできないのだ。ここもメカニズムが掴めないと来た。
やはり《死銃》の殺人の仕組みを掴むには《死銃》に殺人行為をやらせるしかないのか。そのためにユピテル、プレミア、ティア、サチ、マキリのいずれかに撃たれてもらうしかないのか。キリトは前にも後ろにも進めないような気持ちになりそうになっていた。
「アミュスフィアを使って殺人をするなんて前代未聞だから、怖いと同時に興味があるわ。でも、いくら興味があるからってそれをやらせるわけにはいかないわね。何を思っているのかわからないけれど、
ツェリスカがキリトに答えるかのように声を掛けてきた。いや、独り言だったようだが、その声色はいつにもなく険しいものになっている。彼女もまた《死銃》のやっている事が許せないのだ。だが、その意志を現わしていた言葉の後半に引っ掛かった。
確かにその通りだ。それは何も間違っていない。人を殺してはならないし、殺した事は許されない事だ。それが当たり前であり、この社会の常識であり、人間が心に刻み込んでおかなければならない事だ。
だが――。
「それが不可抗力なものであったとしても――」
キリトが言いかけたその時だった。不意に前方から悲鳴が聞こえてきた。それが恐怖と苦痛に満ちたものであるというのが直感でわかり、キリトは急ブレーキをかけるようにして立ち止まった。間もなく皆も同じように立ち止まる。悲鳴が聞こえたのだろう。
声の発生源はすぐ前方の遠く。キリトは目を
発砲しているのは同じチームのメンバー達だ。それ以外に敵らしきものは見受けられない。にもかかわらず、そのチームの者達は銃で撃っていた。放たれた弾丸は全て明後日の方向の
「なんだ……?」
「何あれ、どうしちゃったの……?」
キリトの疑問の呟きにマキリが続いてくる。全く持って彼女の言うとおりだ。連中は何もいないはずのところを撃っている。あんなふうに無駄撃ちしていたら、敵との交戦時に使える弾丸がなくなってしまうではないか。考えればすぐにわかる事だ。なのに、彼らはそれをやめようとしない。
一体どうしてしまったというのか。混乱状態にでも
銃を乱射していた者の一人の身体が、突然宙に浮き上がった。
「え!?」
「なっ……!?」
プレミアとティアの悲鳴のような声が出ると、皆からも同じような声が上がる。宙に浮いたプレイヤーの一人が戸惑ったような、怖くてたまらなくなっているかのような声を上げると、その身体の高度が上がる。かと思った次の瞬間に急降下し、地面に勢いよく激突した。
「!!」
どすんという轟音と共に、プレイヤーは少し離れたところに吹っ飛んでいった。今ので即死だったようだ。
急に浮かび上がったかと思えば地面に叩き付けられるようにして戦闘不能にさせられたというのが、あのプレイヤーに起きた出来事の一連の流れだ。まるで
「な、何だい、今のは?」
焦ったイツキの声がする。普段あまり驚かないイツキでも驚くべき出来事であるようだ。無論それは自分にとっても同じだった。あれを見て驚かないでいられる者など早々いるまい。
その驚くべき出来事の発生源である場所を見ていたところ、ある時キリトは「あ!」と声を出した。
急襲を受けていると思われるチームの近くの風景に、一瞬何かのシルエットが浮かび上がった。何かいる。容易に視認する事のできない何かがあのチームを襲っていたのだ。
《戦機だ。姿を消している戦機がいるぞ!》
リランの《声》が頭の中に届けられた。キリトは咄嗟に振り返りつつ尋ねる。
「リラン、見えるのか!?」
《見えぬ。だがレーダーに映っては消えてを繰り返しているモノがある。あそこに間違いなく敵がおるぞ!》
リランに搭載されているレーダーは、時に隠れている敵の位置も把握してくれる高性能なものだ。そしてリラン達のある意味の弱点は嘘を吐けない事。つまりその言葉は真実――あそこに敵が居るというのが真実だ。
キリトは改めて敵が居る場所を見た。一見何もないように見える空間に揺らめくシルエットにノイズが走り、その形がはっきりしたものになったかと思った次の瞬間に、その主が実体化した。
全身を深い黒緑色の装甲で包んでいて、節々に黒い人工筋肉が見える。全体的にどっしりしているために、ゆったりとした動きをしそうな体型で、
先端の丸まった機械の尻尾を持ち、背中の右側に大型の狙撃砲、左側に機関銃を装備している、ぎょろぎょろとした赤い目が背筋に寒気を走らせようとしてくる。
――カメレオンだ。リランぐらいの大きさのあるカメレオン型戦機が、こちらからも敵対しているチームを襲っているモノの正体だった。
「あいつは……!?」
この《スクワッド・ジャム》ではエネミーが原則出現しないようになっていて、仮に戦機と出会う事があったならば、それは敵チームの誰かが持ってきているビークルオートマタだという話だ。つまりアレは誰かのビークルオートマタ。あのチームは不運にもビークルオートマタを所有するチームに当たってしまっていたらしい。
――と、普段ならば気軽に考える事もできるだろう。だが、今はそうならなかった。カメレオン型戦機の背中で認められる存在がその原因だった。
引き締まった長身を灰色がかった黒緑のギリースーツで包み、更に同色のボロボロのマントを羽織っている。目の部分が赤い光を放つ骸骨の仮面を付けていて、顔を確認する事ができない。
まるで人の形を作っている死神のようにも見えるその者の姿は、自分達が倒そうと思っている――、
「《死銃》……!」