キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 ちょっとスケジュールにずれ。

 あと1~2回くらいで第4章終わりです。


 


14:サトライザー ―戦機使いとの戦い―

 

          □□□

 

 

 恐るべき敵が現れた。キリトは直感でそう思うしかなくなっていた。自らのアファシスでなくなったリエーブルを始末するためにやってきたとされる、彼女のマスターを名乗る男サトライザー。

 

 その名前に引っ掛かりを覚えていたが、ユウキとカイムの話で思い出した。サトライザーと言えば、《ALO》のインプ領の現在の領主だ。《ALO》で領主になるにはそれ相応の実力が必要であるが、サトライザーはその規格を凌駕(りょうが)する実力の持ち主であるという話を聞いた事があった。

 

 なんでもサトライザーは先代インプ領主にその座を賭けて戦いを仕掛け、魔法も武器も使わずに格闘戦のみで先代インプ領主をあっという間に叩きのめし、その座を奪い取るというとんでもない事を仕出かしていたとの事だ。

 

 魔法と武器での戦いがメインであるはずの《ALO》で、自身の肉体と精神の経験の賜物(たまもの)である格闘だけで領主を叩き落すなんていうその戦い方は見る者全てを絶句させたという。

 

 そうしてサトライザーはインプ領主へと成り上がり、その後も挑み来る者全てを十分足らずで返り討ちにし続けている事から、《闇の皇帝サトライザー》などと呼ばれるようにもなった。

 

 いずれにしても誰からも恐れられる存在であるサトライザーが、この《GGO》に、自分達の目の前に敵として現れているなどというのは到底信じたくない現実であったが、受け入れるしかなかった。

 

 しかもサトライザーには従者が付き従っている。ドラゴンだ。全身を黒光りする甲殻のような鋼鉄の装甲に包み、人工筋肉と機械部品で構成された巨大な翼を生やしている。尻尾もやはり鋼鉄の装甲に包まれているが、人工筋肉が中身であるためにしなやかに動いていた。瞳に該当するカメラアイは金色に輝いている。

 

 一般的に西洋のドラゴンという言葉から連想される存在を機械技術で表現したような姿。しかしその実態は一般的に連想されるモノではないという事を、両肩に装着されている戦車から剥ぎ取って取り付けたかのようなキャノン砲、左上腕部のガトリング砲、右上腕部のミサイルランチャーが証明していた。

 

 アレは単に西洋のドラゴンを機械技術で作り上げた美術品でもなければ、浪漫(ろまん)を求めて作り出した芸術品でもない。街も人もその業火で焼き尽くすために作り出された殺戮(さつりく)兵器だ。現にそのカメラアイは殺戮(さつりく)と破壊による快楽を求めているかのような禍々しい視線を放っている。

 

 ドラゴンと言えば東洋では聖なる存在として(まつ)られている事もあるが、一方西洋の方では邪悪な厄災の象徴という扱いを受けている。

 

 西洋――欧州を中心とした地域に住んでいた人々は、ドラゴンの吐く炎が火災を引き起こし、ドラゴンの吐息が疫病を広め、ドラゴンが翼を羽ばたかせる際に作られる暴風が農作物を破壊するのだと信じていたという。

 

 自分達を襲うあらゆる厄災は全てドラゴンが(もたら)すものであり、ドラゴンは自分達を苦しめる邪悪の象徴である。それが古代の西洋人の考え方と信仰であった。

 

 サトライザーの従える機械のドラゴンは、まさに古代の西洋人が信じていた厄災の象徴としてのドラゴンを再現したものであろう。鋼の黒き龍――鋼黒龍(こうこくりゅう)と呼ぶべき存在。悔しいし恐ろしいが、《闇の皇帝》の従者にこれほど相応(ふさわ)しいモノはいないだろう。

 

 それが明らかに敵対心を持って目の前に立ち塞がっているのだから、正直たまったものではなかった。

 

 

「皆、リエーブルを守ろう!」

 

 

 アサルトライフルを構えるアルトリウスの号令に皆従い、それぞれの武器を構えてサトライザーと鋼黒龍に向けた。キリトは即座にリランの背に乗り、二本の操縦桿(そうじゅうかん)を握り締めて臨戦態勢に入る。

 

 

「リラン、あいつはどれくらい強そうだ。今まで見てきた奴と全然雰囲気が違うぞ」

 

 

 リランの《声》が頭に響いてきた。声色はかなり険しい。

 

 

《その通りだ。今まで相手にしてきたどの戦機よりも奴は強い》

 

 

 だろうな――キリトはその言葉を呑み込んだ。あの戦機から感じられる殺気、戦闘への渇望(かつぼう)はこれまで相手取って来たどの戦機よりも強い。それは実力もそうだろう。一体どのような攻撃を仕掛けてきそうか、どのくらいの火力を持っているか、あまり想像したくない。

 

 できればエクスカリバーの皆を(そろ)えた状態で戦うべきだっただろうが、ここにいるのは自分とシノンとリラン、アルトリウスとクレハとレイアとツェリスカ、ユウキとカイムとイリスの十人。

 

 十人もいれば何とかなりそうだが、あの鋼黒龍の相手をするとなると全く足りないとしか感じられない。せめて二十人以上いないと、あの鋼黒龍とまともに戦って勝つのは困難なのではないか。戦闘を始める前から、キリトの頭の中にはそんな考えが巡っていた。

 

 ここでやるべきなのはサトライザーと鋼黒龍と戦うのではなく、奴らの狙うリエーブルを抱えて逃げる事ではないか。いや、それが最善の方法であろう。あいつらがどこまで狙ってくるかはわからない。

 

 だが、少なくとも街の中に入ればプレイヤーも戦機も攻撃できなくなるし、したところで当たり判定はなくなっているから、何をしても相手に害を与える事はできなくなる。そこにリエーブルを連れていく事ができれば、あいつらも手出しはできなくなるはずだ。

 

 しかし、それであいつらが諦めるかと言われたらわからない。それにそもそも、サトライザーと鋼黒龍がいるのは丁度出口の前。自分達が逃げ出すための道をあらかじめ(ふさ)いでおいているのだ。つまり向こうはこちらを逃がすつもりはない。

 

 最早(もはや)戦う以外の選択肢が失われてしまっているに等しいが、果たしてあれに勝つ事などできるのだろうか。ここまで追い詰められたような気持ちになっているのは、アインクラッド以来だ。そこまでの相手がサトライザーという事になるが、本当にあいつは何者なのだ?

 

 

「はああああああああッ!!」

 

 

 思考を詰まらせて逡巡(しゅんじゅん)するキリトの横を何かが咆吼を上げながら高速で通り抜けていった。菖蒲(あやめ)色の長髪をはためかせて駆けていく一人の少女。ユウキだった。

 

 

「「ユウキ!?」」

 

 

 キリトの呼び声はカイムのそれと重なった。その時既にユウキはサトライザーの許へ辿り着き、光剣を振るっていた。

 

 

 

 

          □□□

 

 

 

 

「はあああああああああッ!!」

 

 

 紺野(こんの)木綿季(ゆうき)/ユウキは誰よりも早くサトライザーの許へ向かった。出そうとは思っていなかった声さえ出して、一目散に向かう。

 

 

「やはり来たか、絶剣(ぜっけん)

 

 

 サトライザーの口角が上がったのが見えた。それを見た途端、背中に冷や汗が流れたような感覚を抱いたが、ユウキは振り払って突進した。もうすぐサトライザーのところへ辿り着くかといったところで、サトライザーの従者となっている黒き機械龍が尻尾を振って薙ぎ払いを仕掛けてきた。

 

 巨大な鋼鉄でできているというのに、(むち)のようにしなっているそれを、ユウキは身体をきりもみ回転させながらジャンプして避ける。サトライザーへ向かうための勢いを殺さずに着地し、一気に駆けていった。間もなくサトライザーとの距離が縮まりきり、ユウキの刃が届く位置にまで到達できた。

 

 

「やあッ!!」

 

 

 思いきり力を乗せてサトライザーへ斬りかかる。因縁の相手を切り裂く刃は、しかし途中で動きを止めてしまった。間もなくして背筋を強い悪寒が襲う。手首の辺を掴まれているような感覚があるが、同時にその部分に異様なまでの冷たさが走っている。まるで氷でできた手で掴まれているかのようだ。サトライザーの手だった。

 

 彼の者は余裕そうだと明確にわかる表情を浮かべ、右手でユウキの右手首を掴み取っていた。伸ばされている手は悍ましいくらいに冷たい。あと少しで凍傷を起こさせるくらいの冷たさになりそうだ。

 

 

「やはり早いな、絶剣は」

 

 

 サトライザーの口から漏れた言葉が耳元に届いた途端、ユウキは身震いした。冷たい。彼の者が発する声も言葉も、空気を凍てつかせながら届けられてくる。実際はそうではないのだろうが、ユウキは毎度そう感じてならない。身体も攻撃も、声も言葉も冷たい。まるで液体窒素が人の形を作っているかのような存在。

 

 それがユウキにとってのサトライザーという男の像であったが、少し見ないうちにそれはもっとひどくなっていた。

 

 

「このッ!!」

 

 

 ユウキは身体の奥底から湧いてくる正体不明の嫌悪感を振り切るように、サトライザーに向けて回し蹴りを放った。それすらサトライザーの想定の範囲内だったようで、サトライザーは瞬時にユウキの手を離してバックステップ。ユウキの攻撃を回避してみせた。後方へ逃げるサトライザーをユウキは追いかけ、光剣で一閃する。

 

 しかし今度はサトライザーの腕がその刀身を防いできた。信じられない。光剣はレーザービームで刀身を形成しているので、プレイヤーの身体を容易に切り裂けるだけの力を持っている。切れないものと言えばビークルオートマタなどの戦機の鋼鉄の身体くらいだ。

 

 プレイヤーキラーとも言える光剣の刃を、あろう事かプレイヤーであるはずのサトライザーは腕で防いで、余裕綽々の顔をしている。ユウキは目を見開くしかなかった。

 

 

「光剣ならば私を切り裂ける。そう思っただろう」

 

 

 彼の者はユウキの疑問を口にしてきた。まるで心を読み取ったかのようだ。ユウキは喉から声を漏らす。

 

 

「……!」

 

 

 サトライザーの口が再び開かれた。光剣の刃を受け止めているはずなのに、痛そうでもなければ熱そうでもない。

 

 

「確かに光剣はプレイヤーの身体を簡単に切り落とす事ができる。レーザーブレードだからな。だが、光学兵器減衰フィールド装備の局所型を使えば、このように防ぐ事ができるようになる」

 

 

 そこでユウキは気が付いた。光の刀身を受け止めているサトライザーの腕に、奇妙な青紫色の光が生じている。光学兵器減衰フィールドが、光学弾を受け止めた時に出るエフェクトの色と同じだ。これがサトライザーの言っている装備か。

 

 

「速さや攻撃力を追い求めるあまり、君はそこを見落としている。やはり変わっていないな、絶剣」

 

 

 こちらの事をどこまでも見透かしているような口ぶりに、ユウキは強い怒りが湧いてくるのを感じた。いや、正確には怒りなのかわからないが、怒りと同じ性質を持った感情がサトライザーに向けて湧いて出てきたのは確かだった。

 

 この男はそういう男だ。

 

 妖精の世界の自分が所属している領の領主となった男。当時辻デュエルを仕掛けては無敗記録を作っていたユウキの、その記録を打ち破った唯一無二の存在である。それがサトライザーだった。

 

 そのサトライザーはまさに規格外という言葉が合うような男だった。彼の者は武器を使わずに格闘術だけで戦うスタイルを貫いているようで、先代インプ領主も、その他のプレイヤー達も平等に格闘術で一方的に叩きのめされていった。

 

 それをユウキは打ち破ろうとデュエルを仕掛けた。絶剣と呼ばれるほどの剣捌きを以てすれば勝てない相手ではない。そう思ってユウキはサトライザーに斬りかかった。

 

 そしてユウキは敗れた。一閃を仕掛けたかと思えば組み伏せられ、その後格闘による連撃を叩き込まれて敗れた。勿論何度も反撃の機会を(うかが)って、実際に反撃を仕掛けたりもしたが、全てサトライザーはいなしてみせた。ユウキは完全に手玉に取られて敗北させられた。本当に一太刀浴びせる事もできず、ただただ叩きのめされた。

 

 それはユウキにとってあまりにも屈辱的な敗北だった。いつもだったら相手が極端に強くて、自分の力量不足だったという現実を受け入れるのだが、サトライザーの時に限っては違った。こいつは倒さなければならない敵だ。絶対に許しておいてはいけない敵だ。サトライザーとのデュエルの後、ユウキの心にはそんな感情が渦を巻き続けていた。

 

 なんとしてでもサトライザーを倒さなければ気が済まない。あいつに負けたのを認めたくない。そう思ってユウキは何度もサトライザーに挑んだ。サトライザーの事情とか迷惑とか何も考えず、デュエルを挑み続けた。意外にもサトライザーはそれら全てを快く受け入れ、ユウキとの戦いに応じてくれた。

 

 結果ユウキは負け続けた。サトライザーとの戦いはいつも一方的で、ユウキが攻撃してもサトライザーには全く当たらず、彼の者が放つ格闘術に叩き伏せられるだけだった。サトライザーとの戦いはいつだって、ユウキは何もできずに終わる一方だった。

 

 だからこそユウキは強くなる事を隠れて目指していた。仲間達、友達を守るために、そしてサトライザーを倒すために強くなる事を求めた。それにいつか、サトライザーはとんでもない事を仕出かすかもしれないうえ、サトライザーが自分の仲間や友に甚大じゃない被害を出してくるかもしれない。仲間や友を傷付けてくる、或いはその命を奪おうとしてくるかもしれない。

 

 確たる証拠もないのにユウキはそう思えて仕方なかった。それだけサトライザーから感じられる気は異様極まりないものだった。それこそ邪気のようであり、発するサトライザーは魔物のよう。

 

 こいつはまともじゃない。絶対に近い将来何か仕出かすよ。ユウキはサトライザーの話を耳にするだけで、無意識にそんな予感を抱くようになっていた。その予感は今日この時をもって当たる事となった。

 

 

「お前だったんだ」

 

 

 ユウキはサトライザーの青い瞳を睨み付けた。サトライザーは目を若干細めてこちらを見返してくる。

 

 

「ん?」

 

「お前があんな事をしたんだ……お前があんな事をリエーブルに命令して、この世界をめちゃめちゃにしようとしたんだ!」

 

 

 リエーブルのマスターはサトライザーだった。リエーブルはマスターが「SBCグロッケンに攻め込め」という命令してきたために、あの厄災を起こし、この《GGO》の環境を激変させようとしてきた。あの混沌の戦争の根源に居たのはサトライザーだ。

 

 その指摘に、果たしてサトライザーは口角を上げてきた。如何にも悪びれていないかのようだ。

 

 

「鋭い……いや、君達ならばそれくらいわかって当然か」

 

「お前が起こしたあのイベントのせいで、どれだけのプレイヤーが怖い思いをして、リエーブルがどれだけ苦しんだと思ってるんだよ!」

 

「少し違うな。あのイベントは元々このゲームの運営が作っていたものだ。私はそれを少々早い段階で起こしたに過ぎない。君の言っている他プレイヤーの怖い思いやリエーブルの苦しみの元凶を作っていたのはこのゲームの運営と開発だ。私にそれを向けるのは間違いのはずだが」

 

 

 サトライザーは得々と語って来た。確かにあのイベントは元々運営と開発が作ったものという話は聞いていた。なので、あの混沌のイベントで起きた悲劇やプレイヤー達の散々な思いは運営のせいだと言える。だが、それを発動させるべきタイミングをサトライザーが誤らせてしまったために、あのような混沌の事態が起きてしまったのが現実だ。結局のところこの男が悪い事に変わりはない。

 

 

「それだよ。お前が変に早いタイミングで起こしたせいで、他の皆は――」

 

「君はこの()に及んで、他のプレイヤーの心配をしているのか?」

 

 

 言いかけたところをサトライザーは止めてきた。ユウキははっとしてサトライザーをもう一度見る。やはりその口角は上がっていた。

 

 

「なるほどな。やはり君は甘い。前から思っていた事ではあったが、やはり君は甘いのだ」

 

 

 ボクが甘い? やり方か? 考え方か? 一瞬ユウキは問いかけて、次の瞬間には胸の内に怒りを滾らせた。声が出てこない。代わりに出ていたのは強く食い縛られた歯からするミシミシという音だった。サトライザーは続ける。

 

 

「しかし、それは君の魂が純粋で(けが)れの無いものだからだ。君の魂は無垢だ。そしてその無垢さには、私が以前見た時より磨きがかかっている。ちょっと見ない間に君の魂はより洗練され、輝きを増している」

 

 

 ユウキは今度は呆気に取られた。魂? 魂が無垢で、その無垢さに磨きがかかってる? 一瞬のうちに頭の中が疑問でいっぱいになる。そして何を言われているのか、サトライザーの言っている事が何を意味しているのか、全く掴めない。

 

 サトライザーはどこまでも理解できない奴だとは思っていたが――彼の者の言葉を借りると、サトライザー自身が発する言葉の理解しがたさに磨きがかかっている。ちょっと見ない間に洗練されて、より理解が難しいどころか意味不明の領域に入り込んでいた。

 

 

「君の魂を磨いたのは、彼か?」

 

 

 その一言と、聞き慣れた声に寄る悲鳴でユウキは我に返った。今サトライザーから目を背けてはならないのに、ユウキは悲鳴の方角に向き直ってしまった。そこで目を見開く。

 

 

「――カイム!!」

 

 

 自分から見て背後の方向で、サトライザーの連れる機械龍と戦っていたと思われる仲間達。その中の一人であり、ユウキにとってはこれ以上ないくらいに大切な人である少年カイムが、機械龍に組み伏せられていた。

 

 カイムは既に満身創痍で、ダメージで全身が包まれてしまっている。《HPバー》も残り僅かになっていた。戦い始めてそんなに時間は経っていないはずだ。その短時間のうちにあそこまでカイムが追い詰められているなんて、全く気が付かなかった。

 

 間もなくして、機械龍はその長い首をぐんと伸ばし、勢いを乗せてカイムの右腕に喰らい付いた。ユウキが声を上げるよりも前に機械龍はカイムの右腕を鋼鉄の牙で噛み千切って砕く。

 

 

「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

 

 カイムは聞いた事がないような悲鳴を上げた。全身の毛が粟立(あわだ)つ、すさまじい痛みに襲われているかのような悲鳴。このゲームには痛覚抑制機構(ペインアブソーバ)があるために、実際になったらとんでもない事になるようなダメージを受けても痛みを感じる事はほとんどない。なのにカイムは本当に腕を食い千切られたかのように悲鳴を上げていた。

 

 

「カイムぅッ!!」

 

 

 思わず叫んだ次の瞬間、ユウキの首と後頭部が締め付けられた。サトライザーの腕が組み付いてきている。今の一瞬の隙を突かれてしまったのだ。

 

 

「やはりそうだったか。君はあの少年と共に魂を美しく磨き上げたのだ」

 

 

 ユウキは返事をする代わりに手足をばたつかせ、光剣をサトライザーに当てようとするが、それより先にサトライザーの絞め上げが来た。《軍隊格闘術(アーミー・コンバティブ)》スキルが発動する事によって首絞めの効果が出て、ユウキの身体から力が抜ける。瞬く間に《HPバー》が減少し、視界がモノクロに染まっていく。

 

 しかし、それよりもユウキが強く感じていたのは苦しさだった。力の強い人間に本当に首を絞められているかのような苦しさが襲ってきて、本当に息ができない。仮初の肺が空気を求めて暴れ出そうとしている。

 

 いや、現実世界にある紺野木綿季の身体の肺もそうなっているのかもしれない。最早現実と仮想の区別がつかなくなっている。これは何だ。何でこんな事になっているんだ。徐々に意識が薄れていく。

 

 

「あ゛ッ、くあはっ、あ゛あ゛ッ、があっ、かあッ……」

 

「今この時では、本当に君の魂に触れる事はできないだろう。だが、わかるよ。君の魂はさぞかし甘いだろう。そして、君の魂はきっと……」

 

 

 耳元でサトライザーの冷たい声がした。まるで愛しき人への呼びかけのようだった。

 

 

 

「《アリシア》を私の許へ導く鍵となるだろう」

 

 

 

 一言だけであったが、そこにサトライザーの渇望が詰まっている。そんな気がしたのと同時に、ごきりという嫌な音がして、ユウキの意識はブラックアウトした。

 

 これで何度目かわからないが、またしてもサトライザーに敗北した。

 

 

 また、勝てなかった。

 

 

 

 





 ――原作との相違点――

・サトライザー戦がある。

・サトライザーがビークルオートマタ使い。

・サトライザーが魂を求めている理由がアリシアに関連している。

・サトライザーに因縁を持っているのがシノンではなく、ユウキになっている。

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