キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 ――ご報告――

 本日をもって、2015年3月7日から始まった拙作、《キリト・イン・ビーストテイマー》は連載6周年目を迎えました。ここまで書き進められてきたのは、拙作を読んでくれて、時に感想や評価、メッセージを送ってくださる読者の皆様のお支えのおかげでございます。

 本当に、本当にありがとうございました。

 6年目もいつもどおり、完結目指して書き進めていきますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 


06:月猫の弾丸 ―戦機との戦い―

 

 

 

          □□□

 

 

 気が付いた時、彼女は見知らぬ世界にいた。そこは銀世界だった。

 

 大地はどこもかしこも真っ白い雪で化粧されている。生えている樹木もまた雪で覆われていて、一部は樹氷のような美しい姿になっていた。

 

 空もそうだ。雪を降らせる分厚い雲に覆われて、青い空なんて見えてこない。そんな見た事のない世界に、彼女は放り出されていた。

 

 ここはどこなのだろう。

 

 どうして私はこんな場所にいるのだろう。

 

 彼女の疑問は尽きなかった。だからこそ彼女はここまで来た経緯を思い出そうとした。しかしそれは叶わなかった。

 

 どんなに思い出そうとしても、何も思い出せないのだ。ここに来ている理由、ここがどこなのかという情報、ここに来る前に何が起きたのかという事情――必要としている情報全てを、彼女は思い出す事ができなくなっていた。

 

 唯一思い出せた事と言えば、自分の名前が《柊樹(ひいらぎ)紗幸(さち)》である事と、自分には大切な妹がいたという事だ。妹――それを思い出した途端(とたん)、紗幸ははっとして周囲を見回した。

 

 あなたはどこにいるの。

 

 あなたもここにいるの。

 

 紗幸の思いはすぐに通じた。紗幸のすぐ近くの雪の上に、一人の少女が倒れていた。自分と同じ髪色をしていて、黒い猫耳帽子を被っている、自分よりも年下の少女。間違いなく妹である《柊樹(ひいらぎ)舞姫(まき)》だった。

 

 舞姫、しっかりして、舞姫! 紗幸の声に舞姫は応じてくれた。ゆっくりと起き上がり、いつものように「おねえちゃん」と呼んでくれた。でもすぐに紗幸を困らせる質問をしてきた。

 

 ここはどこなの。あたしとおねえちゃんは、どうしてここにいるの。

 

 紗幸はありのまま答えるしかなかった。

 

 私にもわからないの。ここはどこなんだろうね。どうして私達はここにいるんだろうね?

 

 紗幸の問いかけに舞姫は答えてくれなかった。舞姫もどうしてここにいるのか、ここがどこなのか、わからないのだ。

 

 どんなに考えてもわかりそうにないこの状況について考えるのを、止めてきたのは舞姫だった。

 

 人がいるかもしれないから、ひとまずそこまで行って、ここがどこなのか聞いてみようよ――舞姫はそう提案してきた。

 

 昔から頭の回転が早くて、その場の解決を導き出してくれるのが舞姫だった。だからこそ心から信じる事ができる。そんな舞姫の提案に紗幸は乗った。まずは人に会えそうな場所に行ってみる事にする。そこで人に会って、ここがどこなのかを尋ねよう。

 

 二人でそう決め、人がいそうな建物を目指して歩いた。道中には敵がいた。機械だ。全身を鋼鉄の装甲で包んだ獣達が、二人の道を塞いできた。その時紗幸は、自分が武器を持っている事に気が付いた。

 

 それは拳銃だった。現代で幅広く普及している形状のそれではなく、一昔前の回転(リボルバー)式拳銃。どうしてそんなものを持っているのかはわからなかったが、敵が出てきたらこれで戦えばいいという事はわかった。

 

 しかし、紗幸は怖かった。機械のくせして獰猛(どうもう)な獣の姿をしていて、本当に生きているかのような動きと仕草をしている敵。それがとても恐ろしくて、紗幸は中々拳銃を構えて引き金を引く事ができなかった。

 

 ――おねえちゃん! だからこそというべきか、舞姫が紗幸と機械獣の間に躍り出た。舞姫も武器を持っていた。左手には自分と同じ回転式拳銃。右手には光を放つ剣を持っていた。

 

 どうしてそんなものを持っているの、舞姫――それを答えるより前に舞姫は機械獣に斬りかかっていった。敵が攻撃してくれば避け、的確に反撃を仕掛けていく。

 

 その光景が紗幸の記憶を少しだけ蘇らせた。そうだ。舞姫は、あの()はあぁいう存在との戦いにとても慣れていた。そしてあぁいう存在が出てくるものといえばゲーム、フルダイブVRのゲームだ。

 

 なるほど、ここはゲームの中の世界か。だとすれば自分の名前も本名の紗幸ではなく、ゲーム上での名前である《サチ》であろう。そして舞姫もまたゲームで使う名前である《マキリ》――マキでいいか――と呼ぶべきだ。

 

 ゲームが得意なマキは、あっという間に道を塞ぐ敵を倒した。おねえちゃん、もう大丈夫そうだよ。そう伝えて安全を教えてくれた。ありがとう、マキ。サチは礼を言ってからマキに並び、人の良そうなところを目指して進む歩みを再開した。

 

 しばらく進んでいくと、廃墟(はいきょ)に辿り着いた。もしかしたら人がいるかもと思って入ってみたが、いたのは敵である人型の機械だった。

 

 けれど人の気配は何となくするから、ここにいた方が良いかもしれない――サチは、またしてもマキの提案に乗って、しばらくここにいる事にした。出てくる敵はすべて倒し、安全を確保するようにして、人が来るのを待ち続けた。

 

 それからまた時間が経過した頃、サチは身体に異変を感じ始めた。なんだか苦しい。息が上手(うま)くできない。いや、息を邪魔する何かが身体の中にある。そんな感覚がぽつぽつと起こるようになった。

 

 その事を伝えるなり、マキはびっくりしてこちらを心配してきたが、一方でマキの様子もサチと同じような状態になり始めた。

 

 だからこそサチは人を探した。助けてくれる人を探して、人の気配がある場所へ向かった。そこでようやく人が見つかった。黒い髪に黒いコートを着た男性及び白銀の髪に銀色のコート状スーツを着た男性が中心となっている集団がそれだった。やっと助けを求められそうな人達に出会えた――そう喜ぶよりも前に奇妙な出来事が起きた。

 

 黒い髪に黒いコートを着た男性は、サチとマキを見るなりびっくりして、サチの事をよく知っているかのような口ぶりを見せていた。

 

 周りの者達の一部もそうだ。サチとマキの姉妹を知っているかのような様子を見せ、更に一部の者達は何故かマキに武器を向けてきた。そんな者達の事はサチもマキも知らなかった。男性の事も、その他の人達も、見知らぬ人達である。

 

 どうして私達を知っているの。あなた達はなんなの。そう尋ねたかったが、それと同時にサチを襲う苦しみは強くなった。身体の中にある正体不明の何かが大きくなり、内側から喰われていっているかのような感覚に襲われ、意識も朦朧(もうろう)とし始めた。

 

 

「原因が割れたよ。この子達を助けるために、君達の力を貸してほしい」

 

 

 少女の声がした。間もなく周りの人達も様々な声を発し始めるが、断片的で聞き取れない。聴覚が邪魔されているようだった。内側にいる何かは、そういった感覚さえも奪おうとしているのか。

 

 上手く息ができず、苦しくなる胸を押さえながら、サチはマキを見た。それを見てサチは驚き、悔しさにも悲しさにも似た感覚を抱いた。マキも同じような状態に陥っていたのだ。

 

 私だけならまだしも、この娘までこうなってるだなんて。

 

 お願い、私はどうなってもいい。

 

 マキだけは助けて。

 

 マキだけには手を出さないで――そう言って伝えたくても、サチの口と喉はいう事を聞いてくれなかった。そんな思いを抱えるサチ、心配でたまらないマキは、やがて機械の上に載せられた。巨大な狼のような相貌をした機械がその背中に載せてくれたのだ。

 

 機械はそのままサチとマキを運んでくれて、周りの者達は機械を囲んで動いてくれた。どうやらサチとマキを守ってくれているようだ。出会った人達は自分達を助けてくれるつもりでいるらしい。そこにサチは素直に感謝したが、それは言葉にはならなかった。

 

 そんな人達としばらく進んでいると、サチとマキは壁際に降ろされた。どうやら大きな敵が出てきたらしい。ゲームで言うボスだ。それさえ倒せばサチとマキリは助けられる、もう少しだけ待っていてくれ――黒い髪の男性がそう言うと、大きな敵は彼らに襲い掛かった。

 

 それは二匹の猫だった。猫と言ってもその大きさはライオンすらも超えるくらいのもので、全身が機械でできている。ここに来るまでに出くわした機械の獣と同じものだった。それが獰猛な顔をして、恐ろしい声を出して彼らに襲い掛かった。

 

 彼らは手練れのようだった。二匹の恐ろしい機械の猫が繰り出してくる攻撃を適切に避けて、反撃を叩き込んでいく。まるで英雄(ヒーロー)だ。アニメやゲームに出てくる主人公達さながらの動きで、二匹の猫を叩き伏せようとしていた。

 

 

「……あ、れ……」

 

 

 そんな彼らを見ていて、サチは違和感を覚えた。正体不明の何かが(うごめ)く頭の片隅に、引っ掛かるものがある。それは彼らの姿だった。初対面のはずである彼らの事が、頭の中に残っている気がする。どうしてだろう、彼らと出会ったのは今日が初めてのはずなのに、どうして――。

 

 

「……」

 

 

 サチは黒髪の男性を見た。黒いコートを翼のようにはためかせ、右手で光る剣を振るい、左手に拳銃を持って戦っている男性。最初に出会った時に一番強い反応をした人。

 

 

「あなたの事……」

 

 

 私は何も知らない。あなたの事なんて何も知らない。そのはずなのにあなたは私を知っている。

 

 あなたは一体誰なの。

 

 どうしてあなたは私を知っているの――そんな疑問を抱いたその時、不意に頭痛がした。

 

 

「……君は死なないよ」

 

 

 痛む頭に繋がる耳の中に声が響いた。それはあの男性の声だった。更に続けて一瞬だけ目の奥に映像が見えた。あの男性が自分の隣にいて、座っている。またしても声がした。

 

 

「大丈夫だよサチ。君は死なない。俺とマキが、君を死なせないから……大丈夫だよ」

 

 

 心の奥底にまで響いてくるくらいに、優しくて暖かい声。目の奥に映像が(よみがえ)る。自分はあの男性の近くにいて、抱き締めてもらっている。どうしてそうなっているかはサチには全く心当たりがない。しかしその映像を見ていると、心の中が暖かくなる気がした。

 

 心当たりがない?

 

 憶えていない?

 

 いや、違う。自分はあの男性の事を知っている。だからこそ、こんなにもあの男性の事が頭の中でちらついているのだ。

 

 また声がして、目の裏に映像が浮かび上がる。

 

 

「ごめん……ごめん……俺は、結局……君を死なせて……君の大切な妹を傷付けて、苦しめて、狂わせて……救えなくて……」

 

 

 今度は男性は謝っていた。ぼろぼろと涙をこぼしながら、震える声で、自分達に謝ってきていた。彼がそんな事を言い出すほどの事が起きたようだが、その詳細はうまく思い出せなかった。

 

 でも、徐々にわかって来た。やはり私は彼を知っている。間違いなく彼を知っているのだ。しかし、一番思い出したい事を思い出せない。

 

 彼の名前。あの人の名前だけが思い出せない。いつの間にか自分の中にある正体不明の何かが邪魔をして、彼の名前を思い出せないようにしている。そんなふうに思えてきた。

 

 お願い、邪魔をしないで。

 

 お願い、私にあの人を思い出させて。

 

 サチはそう願い、胸をぎゅうと押さえつけた。しかし何も変わらない。あの人に関する記憶は(よみがえ)ってきてくれない。頭痛が強くなる。見えない手で押さえつけられているようなものではなく、内側から食い破られようとしているような痛み。

 

 外ではなくて内から来ているものだから、どこにも逃げようがなかった。

 

 

「う、うう……」

 

 

 思わず(うめ)いたのと同じタイミングで、サチは背中の辺りに悪寒が走ったのを感じた。嫌な気配がする。何かがこちらに悪意――殺意や殺気に似た気配を飛ばしてきていて、それに当てられているのだ。

 

 一瞬その原因はあの二体の機械だと思ったが、その機械達はあの人達と戦っていて、こちらに殺気を向けてきてはいない。

 

 ではこれは一体何が、誰が? 導かれてはいけないのに導かれるようにして、サチはそこへと視線を向け、目を見開いた。

 

 

「え……?」

 

 

 そこにいたのは一人の少女だった。

 

 進んでいる時は黒い髪の男性の傍にいて、戦いになると一番後ろを陣取るようになった、翡翠(ひすい)がかった水色の髪の毛で、緑色を基調とした戦闘服を身にまとい、首に白いマフラーを巻いている少女が、髪と同様に翡翠がかった水色の瞳でこちらを見ていた。

 

 動けなくなっているサチとマキが心配になったから見てきていると思ったが、そうではない。

 

 彼女は強い恐怖の表情を顔に浮かべていた。恐るべきもの、忌むべきもの、(おぞま)しくて仕方がないものを眼の前にしているかのような顔で、こちらを見ていたのだった。

 

 それは本来あの二体の猫型機械に向けられているべきもののはずだが、しかし彼女は二体の機械ではなく、サチにそれを向けてきていた。

 

 

「……?」

 

 

 戸惑いのあまり声が出なかった。なんであなたはそんな顔で私を見ているの。私はあなたに何かをしたの――そう思っても、サチの中には彼女に関する記憶がない。

 

 一瞬だけ蘇っては消えるを繰り返している記憶の中にも、あの黒髪の男性の事はあっても、あの水色髪の少女の事はない。あなたは一体誰なの。

 

 そう思って瞳を交差させ続けていたところ、彼女は肩で息をし始めた。過呼吸になりかかっているように思える。やがて彼女の腕がゆっくりと動き、その両手で抱えられている大きなライフルが構えられ――銃口がサチに向けられた。

 

 

「ッ!」

 

 

 サチは思わず目を見開き、ただでさえ上手くできない息を詰まらせた。彼女はこちらを狙っている。彼女にとっての敵とは、あの二体の機械もそうだが、サチもそうだった。彼女の中で自分は排除すべき敵になってしまっている。

 

 考えなくてもそれがわかったが、相変わらず彼女に関する情報が一切思い出せない。だからこそ彼女に狙われているこの状態は、これ以上ないくらい理不尽に感じた。

 

 どうしてあなたは私を狙っているの。

 

 私はあなたに狙われるような事をしていたの。

 

 もしそうなら、それを教えてほしい。教えてくれるより前に撃たないで。

 

 サチの願いは届いていなかった。彼女は過呼吸に陥りかけながら、ゆっくりと指を引き金に伸ばしていっていた。もうすぐ撃たれてしまう。あれに撃たれたら、きっと終わりだ。あの人達の事を思い出せないまま、黒髪の男性の事を詳しく思い出せないまま終わってしまう。

 

 

「〇□※、お願い。マキを……マキを止めて。今ならマキを止められるよ!」

 

 

 突然頭の中に声が響いた。それは男性の声ではなく、自分の声だった。それと同時に世界がスローモーションとなり、ゆっくりと思考も確認もできるようになる。

 

 今のは私の声?

 

 それは誰に向けていったものだったっけ。

 

 

「うん……また会えたね〇□※。それで……ごめんね、うちの事でずっと、苦しめてきて……」

 

 

 またしても自分の声がした。やはり誰かに向けて言っている。その名前を口にしているはずなのに、その部分にだけノイズがかかっていて認識できない。何度も何度も思い出そうとしても、答えとなる名前に辿り着かせてもらえない。意図的にゴールを遠ざけられているかのようだ。

 

 

「うぐッ……!」

 

 

 その時、またしても不意に頭痛が襲ってきた。思わず両手で頭を抱える。サチは世界を置き去りにしていた。周りはほぼ制止に等しい速度のスローモーションになっているのに、サチの時間だけはいつもの速度で動いていた。全てが遅い世界の中で、サチは身体と頭が軽くなってきているのを感じていた。

 

 自分の中を侵喰(しんしょく)する得体のしれない何かの動きがゆっくりになってきている。おかげで自分自身が少しずつ取り戻されていっているような気がした。頭痛はこれのせいだ。自分の中で記憶が蘇ろうとしている。

 

 この得体のしれない何かから解放されてきている。そんな気がしてならない。理由はわからないが、あの二匹の機械が弱って来た辺りから起きているような気がした。この得体のしれないモノの元凶はあの二匹の機械なのか。

 

 

「ッ!」

 

 

 頭痛が弱まったタイミングでサチは目を開き、驚いた。恐怖と驚きで何が何だかわからなくなっているような顔をしている少女の向こうで、黒髪の男性が膝を付いていた。猫型機械の攻撃を受けて、動けなくなっているらしい。

 

 その黒髪の男性に狙いを定めて、猫型機械のうちの一体――白色の装甲を持つ猫の方が大きく上半身を振り上げて、黒髪の男性に一撃を叩き込もうとしていた。やはりその動きはスローモーションとなっている。

 

 ここまで来る途中で、黒髪の男性が水色髪の少女を大切にし、水色髪の少女もまた黒髪の男性を大事にしているとわかる仕草と様子が確認できていた。なのに水色髪の少女は黒髪の男性に背を向けていて、彼の身に危機が迫っている事に気が付かないでいる。

 

 このままでは男性はやられてしまう。それだけは駄目。そんな事だけはさせない。でも、彼の名前は思い出せない。あと少しなのに、あと少しなのに足りない。

 

 

「私ね、あなたの事が好きだった」

 

 

 その時聞こえた声で、サチはまたしてもハッとした。

 

 あなたの事が好きだった――そう言ったのは自分?

 

 私には好きな人がいて、その人があの黒髪の男性だった?

 

 それがわかった瞬間、身体と頭を蝕むモノの領域が狭まった。一気に様々な事が蘇ってくる。どれも断片的であるが、掴み取れないわけではない。

 

 あぁそうだ。私には好きな人がいた。忘れてはいけない、忘れられてはいけない人がいたのだ。

 

 

「……こんな私を忘れないでいれてくれて……大切な妹を止めてくれて……愛してくれて……」

 

 

 声を頭の中に響かせながら、サチは腰のホルスターに手を突っ込んだ。中にある回転式拳銃のグリップを握る。

 

 その時に、頭の中で光が爆発した。

 

 

 

「――――――キリトッ!!!」

 

 

 

 そう叫ぶと同時にサチは拳銃を引き抜いて構え、発砲した。一つの大きな破裂音が発せられたのと同時に弾丸が射出され、それは少女の隣の空間を切り裂いて突進していき、サチの好きだった人を襲おうとする猫型機械の左目を貫いた。猫型機械は本当に生きているかのような絶叫を上げて体勢を崩して倒れる。

 

 そこでようやくサチの時間と世界の時間は同期された。今の一撃を叩き込まれる事を、猫型機械は全く予想できていなかったようだ。そして自分達を助けようとしてくれている人達――キリトもまた、サチが弾丸を放つとは思っていなかったようで、驚いたような顔をしていた。

 

 

「サチ……!?」

 

 

 キリトが驚ききった声で言う。しかしそんな事をしてもらいたいわけではなかった。今のうちに攻撃をして――そう言いたくても口は動いてくれなかった。指の力が抜けて手から拳銃が(こぼ)れるように落ちる。大分(だいぶ)無理をしてしまったようだ。

 

 

《キリト、今だ! やれッ!!》

 

 

 頭の中に《声》が響いた。知らない初老女性の声色だ。次の瞬間にキリトは急にはっとしたような反応を示した。すぐさまキリトは光剣をぶんっと振って勢いを載せ、体勢を崩していた猫型機械へ突き刺した。

 

 そこは猫型機械の心臓に該当する部分だったらしく、猫型機械は悲鳴を上げたかと思うと、ぎゅいいんという機械が止まる時のような音を出して倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 

《これで沈めッ!!》

 

 

 直後、聞き覚えの無い大人の男性の声色の《声》がしたかと思うと、巨大な人狼のような姿の機械が勢いよく上空へ飛び上がり、生き残っている猫型機械に向けて急降下。その速度と勢いを載せて両腕で叩き付けた。鉄が鉄を砕くような激しい音が鳴り響き、床が捲りそうなくらいの衝撃が地面を這った。

 

 それが収まった時、その中心にいた猫型機械は次の瞬間には動かなくなっており、戦場となっていたこの場は静まり返っていた。しかし、間もなくして猫型機械は両方とも紅い光のシルエットに変わり、爆発。その身体を無数のガラス片に変えて消滅したのだった。

 

 それとほぼ同時に、サチの頭の中で白い光の爆発が起きた。

 

 

 

 




 次回以降、サチ達の様々な点が明らかに。



――原作との相違点――

・サチにオリジナルの本名がある。原作には勿論ない。

・ボスが猫型戦機。原作は大型超重武装ヒューマノイド、《スノーストームクイーン》。


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