キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 新キャラ続々。

 


09:鋼の鳳凰 ―敵との戦い―

 

 

 

          □□□

 

 

 ツェリスカの仲間が危機を迎えている。ツェリスカの通信を聞いて察知したキリトは、合流した皆と一緒にそこへ向かった。奥へ進む(ごと)に激しい戦闘音が聞こえるようになってきたが、その中でキリトは一際大きな音に耳を傾けていた。

 

 鳥の鳴き声だ。甲高(かんだか)猛禽類(もうきんるい)のそれに似た鳴き声が(しき)りに響いてきている。しかし純粋な生物である鳥の鳴き声ではなく、機械特有の、鋼鉄の擦れるような音も混ざっている。

 

 それこそイツキのビークルオートマタである《神武(ジンム)》の鳴き声にも近しく思えるものだ。しかし神武――八咫烏型戦機の鳴き声とはまた異なっているものだともわかる。

 

 つまりあの時ツェリスカの端末の相手のところにいるのは鳥型戦機であると考えて間違いなさそうだが、同時に、神武と同じ種類であるとは考えられない。

 

 そしてここはSBCフリューゲルの文化が適応されているダンジョンだから、配備されている戦機は全て未知のものである。まだ誰も知らないような戦機がツェリスカの仲間を襲っているという認識で合っていそうだ。

 

 未知の存在が相手ならば、これまで以上に気を張っていかなければならないだろう。沢山の猛者の集まっている自分達ではあるが、それでも立ち向かったところで勝てる相手なのかさえも怪しい。この先に待っているのは何なのだろうか。キリトはじっと前を見ていた。

 

 そこから十数秒程度進んだところで、大部屋に出た。如何にもボスと戦うために用意されているスペースだとわかるくらいに広大な部屋で、戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「さぁーあ! 全部ぶっ飛ばしてやるわぁー! ストレス発散よぉ――ッ!!」

 

「これでどうかな! これで僕も強くなっただろう!?」

 

 

 聞こえてきた声にキリトは驚いた。それは他でもない、ツェリスカとイツキの声色だったのだ。しかしその声が聞こえてきた方角の先にツェリスカとイツキはおらず、代わりに巨大な影が踊っていた。

 

 ――鳥だ。ギラギラとした光沢のある装甲に身を包む鋼鉄の鳥型戦機だった。

 

 どちらもイツキのビークルオートマタである神武に容姿が似てはいるものの、三本の脚が無かったり、色が異なっていたりしている。その数は二機。まるで(つがい)のようにも思える二羽の鋼鉄鳥と、戦闘を繰り広げているプレイヤーの姿が確認できた。

 

 その数は十人。よく見てみれば、そのうち七人は別行動をしていたアスナ達、リーファ達だった。彼女達もここに辿り着き、あの戦機と交戦する事になったようだ。

 

 

「皆ッ!」

 

「応援を連れてきたわよ!」

 

 

 キリトとツェリスカの声が重なった。間もなくしてアスナ達とリーファ達がキリトの許へと寄ってきた。すぐにアスナの方が声を掛けてくる。

 

 

「キリト君、あれってイツキさんとツェリスカさんじゃない!?」

 

「なんだって!?」

 

 

 驚きながら、キリトはアスナ達の示す方向を見た。そこに居たのは二機の鳥型戦機である。よく見れば片方ずつ装備と容姿、色が異なっているのがわかった。

 

 右側に居るのは赤と朱色のギラギラ光沢の装甲を纏い、頭は(ニワトリ)に似ていて、尾からは孔雀(クジャク)の羽を模した金属の装飾が垂れている。頭部の形状のせいか、雄であるようなイメージを感じられた。

 

 もう片方は(タカ)に似た頭部と身体つきであり、脚部はコンドルのそれに似ていて、装甲の色は鮮やかな緑色と赤色で構成されている。こちらはどちらかと言えば雌のような印象を受けた。

 

 雌雄関係にある鋼鉄の二羽の鳥型戦機。片方は孔雀の尾羽を模したと思われる装飾がされているが、どちらも複数の鳥類を混ぜ合わせたような姿をしている。その特徴は鳳凰(ホウオウ)のモノと一致していた。レンの仲間であり、現在は自分の仲間でもあるエムのビークルオートマタである霊亀(レイキ)と同じ、古代中国神話の霊獣である。

 

 そんな鳳凰が、未来の機械技術で実在するようになったモノの背中に(またが)る者を認めて、キリトはもう一度驚いた。

 

 実は(ホウ)(オウ)の一対を合わせて一体の霊獣として数えるという説がある鳳凰のうち、雄である鳳の背中には先程取り逃がしていたエネミーアファシスのイツキが、そして雌である凰の背中にはツェリスカが搭乗していた。

 

 しかしその髪色は黒ずんでいて、衣装も紫の部位をワインレッドに変えたようなものになっているという、今のツェリスカとは全く異なってたものなので、ツェリスカのエネミーアファシスと思ってよさそうだ。

 

 

「本当だな、あれは確かにツェリスカさんだ」

 

「そうだが、今とは違う。アレは昔のツェリスカだ。特に荒れていた時の」

 

 

 言葉を付け足してきた存在をキリトは認めた。ツェリスカの隣に、いつの間にか見知らぬプレイヤーが三人姿を現していた。

 

 一人は随分と古風なカウボーイのようなデザインの、土色の服装を纏った、口と鼻の間に(ひげ)のある男。更に一人はところどころがタイツ状になっている、マントを伴った黒いコンバットスーツを着て、ゴーグルで目を隠した長身の男。

 

 そして最後の一人は女性で、やや赤みがかった長い銀髪で、ジャケットの下にビキニしか着けておらず、下半身も赤いホットパンツと白いストッキングを履いているという、露出の高いのが特徴的だった。恐らく多くの男が目のやりどころに困っていそうだが、彼女の近くの男は全然そんなふうになっていない。

 

 この三人のうち、黒スーツの男こそが、キリトに付け加えをしてきた人物だった。

 

 

「ん? あんた達は」

 

「よぉ、今人気のビークルオートマタ使い。安心しな、俺がいるから百人力だ」

 

 

 答えたのはカウボーイ風の男だった。別に何も不安になっている事はないのだが。それを察したように銀髪の女性が続いてくる。

 

 

「張り切ってるのはわかるけど、いきなり変な事を言ったようにしかなってないわよ、ダイン。闇風も何か言ってあげて」

 

「いや、こんなふうに暢気に話をしている場合じゃないのだが、銃士X(マスケティア イクス)も」

 

 

 闇風の言葉でキリトは把握した。銀髪の女性は《銃士X》、黒スーツの男は《闇風》、カウボーイ風の男は《ダイン》というそうだ。なるほど、この者達がツェリスカの言っていた協力者であり、今のツェリスカのパーティメンバーであるようだ。その三人を認めたクレハが突然大きな声を出して驚く。

 

 

「え、えぇー!? 銃士Xに闇風にダイン!? 全員BoB、《GGO》最大の大会の常連じゃないの!」

 

「えぇそうよ。わたしの昔馴染みでねぇ、なんだか難しいところに行く事になるから、一緒に来てくれないかしらって誘ってみたの。そしたら皆来てくれたってところなのぉ~」

 

 

 ツェリスカは仲間を紹介する雰囲気で言った。BoBという大会はキリトも知っている。

 

 正式名称を《バレット・オブ・バレッツ》と言い、《BoB》と略して呼ばれるその大会は、この《GGO》で最も強いプレイヤーを決めるトーナメント形式の大会だ。毎度巨額のWC、GC、レアアイテムが優勝賞品とされていて、初心者から猛者まで導き、集めて戦わせるという、銃の祭典。

 

 キリトはあまりそこに目を向けていなかったので、優勝者や参加者がどのようなプレイヤー達なのか知らないでいた。なので、ここにいる三人というBoBの参加者常連のも初めてだったが――一目見ただけで、全身から猛者のオーラを放っているとわかった。この者達は何百、何千という銃撃戦を掻い潜って来た戦士達で違いない。

 

 このような猛者達と昔馴染みでいるとは、ツェリスカは何という交流網(ネットワーク)の持ち主なのだろうか。キリトは改めて驚いていたが、それを止めてきたのはリーファだった。

 

 

「おにいちゃん、あそこにいるツェリスカさんとイツキさんって、あたし達と同じじゃない? アレって結局何なの」

 

 

 キリトより先に答えたのはツェリスカだった。

 

 

「過去のわたし……ようやく確信できたわ。アレはどうやら、プレイヤーの過去データログを参照してアファシスに適用し、エネミーとして復元させたもののようね。過去データのログを参照して適応するだけで作れるから、完全オリジナルのType-Xを作るより遥かに簡単に製作できるわね」

 

「えぇっ、プレイヤーの過去データの再現なんてできちゃうんですか!?」

 

「げ、ゲームのコンテンツとしては面白いかもだけど、それって問題だらけな気がしてくるわよ。実装しちゃってよかったわけ?」

 

 

 シリカが驚いて、リズベットが気持ちが悪そうな顔をする。

 

 プレイヤーの過去データを参照し、アファシスに適応する事で新しいエネミーを作るというのは、確かに良いアイディアであろう。アファシスという器に、ログに残っているプレイヤーの過去のデータを入れ込むだけで良いエネミーを作る事ができる。

 

 製作工程はアファシスやエネミーを一から作るよりも遥かに簡単で、人件費やら製作費やらを大幅削減する事もできるであろう。ゲーム制作の手段としては中々画期的なやり方だ。

 

 だがしかし、そんな事をして得をするのは運営と製作陣だけで、エネミーアファシスの素材となる過去データを使われたプレイヤーからすれば迷惑極まりない。自分の過去のデータが勝手に引っ張り出され、勝手にエネミーアファシスにされ、勝手に《GGO》中に解き放たれて全国公開にされてしまうのだから。

 

 そんなものはある意味では公開処刑と言ってもよいし、運営も製作陣もやっていい事ではない。こんな事をするのであれば、事前に何らかの発表をするべきであるが、《GGO》の運営からそのような話を聞いた憶えはない。

 

 自分が聞き逃していただけならば、周りの者達が知っていたはずだが、ここにいる仲間全員がこの情報を初めて聞いたような様子をしている。完全に未発表の要素であるようだ。

 

 思わずキリトは愚痴るように言った。

 

 

「なんつーものを作りやがったんだ……」

 

 

 シノンが頷いて、答えてくる。

 

 

「同感。プライバシーとかそういうのを考えてないのかしらね」

 

「何も考えてないんだろうね。だから焼かないと」

 

 

 イツキが言ったかと思うと、彼を乗せる神武がナパーム弾を鳳と凰に向けて放った。鳳と凰はぐんと後方と横方向に飛んで回避し、鳳が下半身に取り付けられているレーザー銃を連射してきた。更に凰はレーザーランチャーの光弾を放ってくる。

 

 鳳凰――ファンタジー作品などで登場した際には炎のイメージが付きやすいそれは、《GGO》では炎に関連する武器は搭載しておらず、レーザー武器を得物としているようだ。

 

 レーザー、(すなわ)ち光学銃ならば防具の減衰フィールドで被弾時威力減衰を見込めるが、ビークルオートマタの持っているモノとなると、あまりの高出力(ゆえ)に威力減衰が効かないと同じになる。自分達の防具にも減衰フィールド発生装置が付いているが、鳳凰の火力の前では無意味に等しい。つまり、やるべき事は回避しながら戦う事だ。

 

 こいつらを倒さなければならない理由は確認できていないが、イツキが躍起になっていて逃げてくれる気配がないし、イツキとツェリスカのエネミーアファシスに駆られている鋼鉄の鳳凰も逃がしてくれるとは思えない。やるしかない。

 

 

「イツキさん、そんな無理に戦う必要なんて」

 

 

 クレハが一人奮戦中のイツキに声を掛けるが、彼は耳を傾けてくれていない。いつもの態度はどこかに消えてしまっていて、エネミーアファシスのイツキを倒す事しか考えていないらしい。

 

 エネミーアファシスのイツキを見つけてからというもの、彼はずっとこの調子だ。ツェリスカの言っている事が真実ならば、あのエネミーアファシスはイツキの過去の姿だという事になるが、イツキは何故そこまでして過去の自分を嫌っているというのだろう。

 

 イツキは内側に何を抱えているか全くわからない人物だとは思っていた。それは今かなりの速度で加速してしまっている。何が彼をここまで駆り立てているのか、何故彼は昔の自分にこれほど怒っているのか。

 

 

「イツキ、やっぱり変だ。どうしたっていうんだ」

 

 

 アルトリウスがキリトに声掛けしてきた。どうやら同じ事を考えていたらしい。

 

 

「何かある事は間違いなさそうだ。……後で聞いてみるか」

 

「うん。俺も本当の事が知りたい。あんなふうになっているイツキに何があったのか、仲間として知りたい」

 

 

 そこまで聞くのは深入りし過ぎだ。そう言いたくなったが、キリトは途中で止めた。アルトリウスはイツキを本当に信頼できる仲間だと思っている。だからこそ、あそこまで取り乱しているイツキが心配になっているのだろう。

 

 それはスコードロンのリーダーという立場から来る気持ちなのか、それとも彼の本心から来ているものなのか。いずれにしても、イツキを心配するアルトリウスの気持ちは本物だ。

 

 

「なら、ひとまずはあいつらを倒さないとだ。行くぞ、アーサー!」

 

「行こう、キリト! 皆、戦おう!!」

 

 

 アルトリウスが叫ぶなり、皆一斉に武器を構えて散らばった。

 

 鳳と凰に乗っているイツキとツェリスカのエネミーアファシスだが、武器を構えてくる様子はない。飛び回っている鳳と凰を掴んでいるので精一杯なのだろう。ビークルオートマタ使いと戦う場合、乗っているプレイヤーからの攻撃も懸念されやすいが、鳳と凰の仕様上、あまり心配はなさそうに見える。

 

 つまり、鳳と凰の対処に集中できるというわけだ。それが確認できた皆は一斉にばらばらの立ち位置に向かい、それぞれ銃撃を開始した。

 

 

「こんなエネミーを見るのは初めてだナ。こいつは売れるゾー!」

 

「アルゴさん、こんな時でも情報集めに熱中なんですね! 尊敬します!」

 

 

 ニシシと笑っているアルゴと並んで、シリカが《MP5》による連射を仕掛けた。そこに続いてアスナが《AR-57》で、リーファが《FA-MAS》で銃撃を凰に向けて放っていく。

 

 常に翼をはばたかせて飛んでいる凰はひらひらと銃弾を避け、胸部の機銃から掃射を返してきた。それらはレーザー弾を放つものだったが、当たった床が真っ赤に焼けるのが見えた。自分達が使えるものとは比べられないくらいの高出力レーザー砲である事に間違いない。まともに受けようものならば一溜まりもないだろう。

 

 そして戦機の特徴なのか、四人の放った弾丸の数発が凰に当たってはいたのだが、あまりダメージを受けている様子がない。鳳凰は珍しく実弾に対しての耐性を持っているのだろうか。

 

 ならば大分(だいぶ)相手が悪い。ここにいる仲間達のほぼ全員が実弾銃をメインウェポンとしており、サブウェポンの光学銃は出力の高いものではない傾向にある。勢いを出して戦ったとしても、思ったよりダメージは期待できないだろう。

 

 

「あーもう! 飛んでないで降りてきなさいよ! 斬れないじゃない!」

 

「同感だよ! 降りてこいってのー!」

 

電子妨害(チャフ)を使って武器を封印しないでくださいー!」

 

 

 鳳を相手取っているフィリアとユウキとユピテルが鳳凰の両方に向けて文句を言う。ユウキとユピテルに至ってはぴょんぴょんと小さく跳ねながら抗議だ。

 

 鳳と凰は常に飛んでいる性質を持った戦機であるらしく、地上に降りてくる気配がない。メインウェポンが光剣である彼女達とキリトの、光剣による攻撃は全然届いていかないので、不服を申し立てるしかない。

 

 ならばジャンプして攻撃を届かせればいいではないかと思いたいところだが、それだとすぐに反撃を受けて撃ち落されるのがオチだ。しかもあぁいうエネミーに限って、地上から飛んできたプレイヤーに異常な感度で反応し、正確に撃ち落そう、振り払おうとしてくる傾向さえある。

 

 「光剣なんて武器を使っている人は場違いでーす」なんて煽られているようで、腹が立ったのは一度や二度ではない。きっと今回もそうだ。ジャンプによる光剣の攻撃に異常反応して、ほぼ無効化してくるだろう。なので光剣による接近戦も仕掛けられないであろう。しかもここ一帯が電子妨害に包まれていて、ミサイルの誘導が効かなくなっているとも来ている。

 

 

「光剣は届かねえから当然だが、アサルトライフルも効く様子がねぇ。こいつは困ったぞ。どうするんだ」

 

 

 先程「俺がいるから百人力」なんて言っていたダインも、《SIG SG550》を持って出方を(うかが)っていた。

 

 《BoB》の常連になれるくらいだから、何種類もの戦機と戦ってきており、どんな戦機が出ても平然と戦えるであろうと思っていたが、どうやら鳳凰は彼らも初めて見るタイプの戦機であるらしい。

 

 戦い続けて駄目なら攻め方を聞いてみようと思っていたが、その期待は早くも裏切られてしまっていた。

 

 

「方法ならあるぞ」

 

「え?」

 

 

 闇風にアルトリウスが首を傾げた直後。闇風が床を蹴って走り出した。その速度は尋常ならざるもので、一秒ほどで向こうの壁に到着した。闇風はレンと同じAGI極振りステータスをしているらしい。

 

 残像しか見えないくらいの速度で走る闇風は壁に向かうと、驚くべき事に、そのまま壁を垂直に駆け上がっていった。AGIを極振りする事によって出される速度で、重力を打ち消している。もしかしたら履いているブーツにも仕掛けがあるのかもしれないが、壁を高速で駆け上がる黒装束という闇風の姿は、まるで創作世界の超人忍者の再現だった。

 

 そんな忍者の如き闇風は天井付近まで行ったところで、壁を蹴り上げて宙を舞った。鳳凰の頭上を取った。そこで闇風は手持ちのサブマシンガンである《キャリコM900》で連射した。

 

 

「ぐあッ」

 

「ぐッ」

 

 

 全てが当たったわけではないが、何発かがエネミーのイツキとツェリスカに命中した。彼らが(うめ)くと同時に鳳凰の動きが鈍る。その中で闇風が着地すると、そこに向けて鳳凰がレーザー銃による掃射を仕掛けたが、彼は忍者の速さを発揮して、既に射線から消えていた。

 

 

「今のは一体……どういう事?」

 

 

 カイムが不思議そうに闇風を見ていたが、闇風の速度ではなく、鳳凰の動きが鈍ったところに首を傾げているようだ。間もなくして、シノンが声を上げた。

 

 

「そうよキリト、パイロットを直接狙えばいいんだわ!」

 

 

 その一声でキリトははっとした。

 

 エネミーアファシス達が鳳凰に乗っているという事は、鳳凰はあのエネミーアファシス達のビークルオートマタという事になるだろう。

 

 フィールドにエネミーやボスとして存在している戦機達となると話は異なるが、ビークルオートマタとなっている戦機ならば、持ち主がやられると機能停止してしまい、それ以上の戦闘行動はできなくなる。例外は明確な自我と意識を持っている規格外AIであるリランのみだ。

 

 エネミーアファシスがビークルオートマタに乗って現れるというケースは初めて見るが、恐らくこれまでのビークルオートマタのルールを(くつがえ)してはいないはず。つまり鳳凰を止めるには、背中に乗っているエネミーアファシスのイツキとツェリスカを仕留めれば良い。

 

 エムの霊亀のような全方位が装甲に守られたコクピットに乗っていたならば撃破は困難だっただろうが、幸運な事に、鳳凰の背中はシートとハンドルがあるだけで、搭乗者を守る装甲は確認できない。

 

 あれならば対処は比較的簡単な方に入る。キリトは皆に声を掛けた。

 

 

「皆、戦機の気を引いてくれ! 狙撃銃を使ってる奴は、その隙にエネミーアファシスを撃ち抜け!」

 

 

 キリトの声が部屋中に(とどろ)くと、皆は頷きの後に次の行動を開始した。

 

 

「ほらほら、こっち来なさいっての!」

 

「ショットガン持った乙女がこっちにいるんだから、来なさいよ!」

 

 

 クレハとリズベットが呼びかけつつ、それぞれ光学ロケットランチャーと、ショットガンである《ベネリM3》で弾丸を凰に浴びせた。

 

 凰はホバリングの姿勢を崩さないまま、胸部と脚部に装着された機関銃で反撃する。動きが一定になり、狙いを定められやすくなっている事に気付いていないようだ。(ある)いはそこまでの判断能力はないのか。

 

 

「見えてきたわ!」

 

 

 そう言ってシノンはリランから飛び降り、後方の平地へ走った。間もなく《ヘカートⅡ》を構えて伏せる。確認したところ、部屋の右側の平地でも、銃士Xが同じように狙撃銃《M14EBR》を構えて伏せていた。彼女の得物も狙撃銃、ポジションは狙撃手(スナイパー)であったようだ。

 

 

《シノン達だけでは足りないだろう。重い一撃を叩き込んでやろうではないか》

 

 

 リランの《声》が頭に響くと、キリトは思わず口角を上げた。リランの右肩に装備されているのは超大口径狙撃砲(エレファントスナイパーカノン)。シノンの《ヘカートⅡ》をも超える、規格外の超大型狙撃弾をぶち込む重火器であり、今のところ最強の狙撃武器だ。

 

 狙撃が必要になっている今ならば、こいつを使わない手はない。

 

 

「よし、ぶち込んでやるぜ。剣が使えない腹いせにな!」

 

 

 キリトはハンドルを握ったまま、リランの背中の上に伏せた。眼前のディスプレイ装置が超大口径狙撃砲とリンクし、スコープとなる。超大口径狙撃砲を使用する時は、こうして伏せてディスプレイ装置を覗き込むようにする事で、狙いを付けられるようになっているのだ。

 

 如何にも必殺武器を使っているような気がするので、キリトはこの武器と機能を大変気に入っていた。そんな超大口径狙撃砲の狙いの先だが――そこで鳳凰のうち鳳が暴れていた。アルトリウス達が注意を()らしてくれているが、狙い撃つには適さないくらい動き回られてしまっている。

 

 だが、チャンスは必ずあるはずだ。キリトは呼吸をゆっくりにして、やがて止める。《バレットサークル》の揺らぎがどんどん縮まっていき、鳳の背中に居るイツキのエネミーアファシスに狙いが定まっていく。しかしまだ足りない。もう少しだけ動きが静かになれば――。

 

 

「神武を使ってるみたいにするんじゃないッ!!」

 

 

 次の瞬間、イツキの声がするのと合わせるようにして鳳の身体が爆発し、燃え上がった。神武のナパーム弾だ。鳳の動きが静かになるのを狙って、イツキもナパーム弾で攻撃したようだ。それは見事に命中して、鳳は炎に包まれて墜落する。

 

 《HPバー》にそれほどの減少は見られないが、動きが止まった。

 

 ――好機!

 

 

「そこだッ!!」

 

「そこよッ!!」

 

 

 キリトとシノンの声は同時だった。二人で同時に引き金を引き、それぞれの狙撃銃砲から弾丸を放った。轟音とともに射出された大口径弾は空を裂いて進み、鳳の搭乗者であるイツキのエネミーアファシスへ向かい――同時に着弾した。

 

 エネミーアファシスのイツキは一瞬にして鳳より引き剥がされ、宙を舞ったかと思うと、更に一瞬にして赤い光のポリゴン片となって爆散した。間もなく鳳は機能を停止する。鳳凰のうち、鳳を止める事はできた。

 

 後は凰を操るエネミーアファシスのツェリスカを倒せば終わりだ。そう思って向き直ったところで、凰が墜落して停止しているのが確認できた。

 

 どうやら皆の攻撃を立て続けに受けた事によって、一時的に機能不全になったようだ。そしてエネミーアファシスのツェリスカも戸惑ったような様子で、動きが止まっているに等しくなっている。

 

 

「狩るわよ、ツェリスカ」

 

 

 そこで銃士Xの声が響き、銃声が轟いた。狙撃弾がエネミーアファシスのツェリスカを凰から引き剥がした。《HPバー》が削り切れていない。もう一度何か攻撃が必要だ。

 

 

「何よ、知性は並みのNPCレベルなのね。ちょっと残念」

 

 

 咄嗟にツェリスカが光学ショットガンを引き抜いたかと思うと、その時既に引き金が引き絞られていた。ショットガンにしては集弾している軌道で弾丸が飛んでいき、エネミーアファシスのツェリスカを貫いた。《HPバー》がゼロになる。

 

 

「上司……死す……べし……」

 

 

 エネミーアファシスのツェリスカはそう吐き捨てて、ポリゴン片となって消えていった。

 

 イツキとツェリスカのエネミーアファシスの撃破が確認されると、鳳凰もポリゴン片になって爆散し、消滅していった。

 


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