キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 第三章、開始。

 


―フェイタル・バレット 03―
01:《SBCフリューゲル》


           □□□

 

 

 《GGO》にログインしたクレハは、アルトリウスのホームへ向かった。アルトリウスは必ずホームでログアウトをするようにしているため、ログインしてくる時もここに来る。

 

 いつものように彼を迎えるために向かってみたが、今回そこにアルトリウスの姿はなかった。フレンドリストを見たところ、オンラインになっていない。どうやら彼はまだログインしてきていないようだ。いつもはクレハの方が遅れてログインするというのに、今日ばかりはアルトリウスの方が遅かった。

 

 そんな主不在の部屋には、先客がいた。黒と白のコート状戦闘服に身を包んだ、黒茶色の髪の飄々(ひょうひょう)とした青年。イツキだ。

 

 スコードロン《アルファルド》のリーダーであり、トップランカーに何度も載っている程の実力者であり、ビークルオートマタ使い。その周囲には少しだけ近寄りがたい雰囲気が漂っていたが、クレハはなるべく気に留めずに、イツキに声掛けをした。

 

 

「イツキさん、来てたんですね」

 

「あぁクレハ君。君も来たんだ」

 

「はい。まさかアーサーよりも早いログインになるとは、思ってなかったんですけれどね」

 

 

 イツキは「ふふっ」と小さく笑った。こちらに同意できる部分があったらしい。

 

 

「意外だよね。このゲームにハマりまくってるアーサー君のログインが遅いなんてさ」

 

 

 この《GGO》にアルトリウスを誘ったのは自分だ。それは《GGO》が他人に勧めたくなるくらいに面白いゲームであり、何よりアルトリウスが好きそうだったからだ。クレハのそんな思惑は見事に的中し、アルトリウスは《GGO》に熱中している。しかもこれまでのどのゲームよりも深く深くハマっているようだ。

 

 毎日楽しそうに《GGO》にのめり込んでいるものだから、その様子を見ているクレハはいつにもなく嬉しい気持ちになっていた。ここまでアルトリウスに喜んでもらえるのは、計算外だった。

 

 

「そういえばイツキさん、今日は何の用事で?」

 

「あぁ、今日はアーサー君とパーティ組んで探索にでも行こうかなって思ってさ。クレハ君も同じだろう?」

 

「はい。あいつは強くなってますけれど、まだまだ弱いです。あたしが支えてやらないといけないんですから。攻略の時は一緒に居てやらないと……」

 

 

 そう言うと、胸の奥がずきりと痛んだような錯覚があった。本当の事を言っているだけなのに。クレハは無視して話を続ける。

 

 

「アーサー君は幸せだね。ここまで献身的な相棒に恵まれてるんだから。実際クレハ君の導きのおかげで、彼はあそこまで強くなれたんだと思うよ」

 

「そうでしょうか」

 

「あれ、自信なかったんだね。彼は確かにすごい潜在能力(ポテンシャル)を持っているけれども、それを引き出したのはクレハ君だよ。クレハ君がいたからこそ、アーサー君はあそこまで強くなれて、今もなお成長を続けられている。そうじゃないかな」

 

 

 イツキの言葉は素直に飲み込めなかった。確かに自分はこの《GGO》についての色々な事をアルトリウスに教えた。しかしアルトリウスはいつだって、自分が教えた事よりも倍の事を自ら身に着けて、どんどん強くなっていっている。

 

 どこまでが自分のおかげで、どこまでがアルトリウス自身の意志と力によるものなのか、全くわからなかった。胸に(わだかま)りのあるクレハに、イツキは更に続けた。

 

 

「だからさ、クレハ君はまさに《マーリン》だよね。性別は逆だけどさ」

 

「マーリン?」

 

「ほら、《アーサー王伝説》に出てくる、アーサー王を導いた魔術師の事さ」

 

 

 クレハは思わず目を見開いた。

 

 《アーサー王伝説》――アルトリウスがとても気に入っている物語郡であり、中でもアーサー王が大好きなのが彼だ。なので彼は自身のアバターネームを、アーサー王のモデルとされる《ルキウス・アルトリウス・カストゥス》から取って《アルトリウス》にしたと言っていた。その時には、あの有名なアーサー王にも由来の人物が存在しているのかと驚かされたものだ。

 

 そしてアルトリウスと名乗り始めた彼だったが、アルトリウスはいちいち呼びにくいと思って、《アーサー》と呼ぶようにしたのがクレハだった。

 

 そんなアルトリウスの由来の物語に、マーリンなんてものが登場してくるものなのか。思わず感心しているクレハを見て、イツキは軽く苦笑いした。

 

 

「あぁ、クレハ君はアーサー王物語はそんなに知らないんだね」

 

「はい。アルトリウスが好きな物語っていうのはわかるんですけれど、あたし自身はそんなに興味が持てなくて」

 

「となると、クレハ君はマーリン止まりで、《グィネヴィア》というわけではないのかもしれないのかな」

 

 

 またしてもわからない人名が出てきて、クレハは首を傾げた。グィネヴィア? その人はアーサー王物語の何なのか。聞こうとしたその時に、入口の戸が開いて、誰かが入ってきた。

 

 

「イツキ、女の子に変な事を教えようとしているんじゃないでしょうね」

 

 

 イツキと一緒に向き直ったところ、そこにはツェリスカとデイジーの姿があった。入って来て早々毒気付いて来たものだから、クレハは思わず驚いていたが、イツキは普通な反応を示していた。

 

 

「何も変な事を教えようとはしてないよ。それに君こそ、何の用事? アーサー君なら居ないよ。ついでにレイア君もだ」

 

「ただ、アーサーならもうすぐ来ると思います。あいつは《GGO》にのめり込みまくってますから。主にあたしのおかげで!」

 

 

 ツェリスカは「あらあら」と言って、デイジーは少し残念そうにした。

 

 

「なら、ちょっとここで待たせてもらおうかしらぁ」

 

「……念のため言っておくけど、僕の方が先約だよ。アーサー君とパーティ組んで戦うのは」

 

 

 イツキは目つきを鋭くしてツェリスカを睨み付けている。あまり良い仲であるとは思えない。ツェリスカは首を横に振って答えた。

 

 

「そんなに睨み付けなくたって大丈夫ですわぁ。大した用事があるわけじゃないの」

 

 

 イツキは「そうか」と応じたが、ツェリスカを睨んでいるのは変わらない。

 

 それにしても、イツキ、ツェリスカ、バザルト・ジョー、キリト達、レン達が加わり、アルトリウスのホームも随分と賑やかになったものだ。最初は本当に何もなかったというのに。

 

 一種の感慨深い気持ちになったクレハは、二人に言った。

 

 

「アルトリウスの部屋も賑やかになりましたね。キリトさん達もよく遊びに来ますし、レンさん達も来ますし」

 

「僕としてはもっと静かな雰囲気がいいなぁ。アーサー君ももう少し仲間を選んでくれたらいいのに」

 

 

 イツキが言うなり、ツェリスカが意外そうな顔をした。

 

 

「あら、珍しく意見が合ったわねぇ。わたしも同じような事を思っていたわぁ」

 

 

 ツェリスカがイツキを見つめると、イツキは目を逸らした。ツェリスカは続ける。

 

 

「そういえばアーサー君は、不思議と人を集めるところがあるわよねぇ。キリト君達もそうだし、レンちゃん達だってそう。皆アーサー君に導かれるようにして、集まっている気がするわぁ」

 

「そうでしょうか? どっちかと言えばキリトさんを中心にして人が集まってる気がしますけれど」

 

 

 そう言ってみるが、考えてみると確かに、アルトリウスは多くの仲間達に恵まれている。しかもそのほとんどがトップランカーであると来ているのだから、一般的に見ればすごいどころではないだろう。

 

 

「でもまぁ、アーサーがいくら人を集めるからって言っても、あいつにはあたしが付いてないと駄目ですけれどね。まだまだ未熟者(ぺーぺー)ですから!」

 

「んー、アーサー君は強くなっていってるし、もしかしたらもう未熟者じゃないかもしれないわよぉ? けれど、それも全部クレハちゃんが傍に居てくれてるおかげだわ」

 

 

 クレハは思わず目を見開いた。ツェリスカまで同じような事を言ってくれている。

 

 

「あたしのおかげ?」

 

「けれどクレハちゃんはアーサー君に付き添って、しっかりフォローし合ってる。アーサー君にとって、クレハちゃんは最高の相棒だと思うわ。戦闘力だったら上の人間は沢山いるけれど、クレハちゃんの代わりになる人はいないでしょうねぇ。それをよくわかってるから、アーサー君はクレハちゃんの事を信頼しているんだと思うわぁ」

 

 

 自分の代わりはいない。その言葉はクレハの胸にぽたりと雫のように落ちた。もしアルトリウスが本当にそう思ってくれているのであれば、いずれきっと――。

 

 

「そ、そうだと良いんですけれどね。なんていうか、あいつは昔から放っておけないような奴だったんで!」

 

「ふふ、良い関係を築いているのね。そういうの、(うらや)ましいわぁ」

 

 

 ツェリスカが笑むと、今度はイツキが意外そうな顔をした。

 

 

「へぇ、ツェリスカ君もそんなセンチメンタルな事を言えるんだね。万年ソロプレイヤーで、いつの間にか《無冠の女王》なんて呼ばれるようになってたツェリスカ君が」

 

「自分の心に嘘を吐いても仕方がないもの。イツキ、貴方も遊んでほしい相手には素直に「遊んで」と言える方が得だと思うわよ」

 

 

 イツキは喉を鳴らした。ツェリスカの言った事が気に障ったのは間違いない。

 

 

「……そうやって、さも相手の気持ちを知ってるように振舞うのは頂けないなぁ」

 

「だって貴方の顔に書いてあるのですものぉ」

 

 

 ツェリスカがにこりと笑うと、イツキは溜息を吐いて、

 

 

「じゃあ、顔を洗ってくるとしよう」

 

 

 と言って部屋を出ていった。その後姿を見たツェリスカが「あらあら」と零していたが、クレハは驚くしかなかった。

 

 アルファルドは勿論、その他の上位プレイヤーですら口で勝つ事のできないイツキに、ツェリスカは勝った。

 

 

「す、すごいですツェリスカさん。イツキさんを言い負かすなんて」

 

 

 ツェリスカは首を横に振った。

 

 

「そんなに誉めてもらえるような事じゃないわ。イツキとは《GGO》のサービス開始直後からの付き合いだから、なんとなくわかる部分も多くてねぇ。と言ってもまぁ、戦術も趣味も全く合わないから、いつも弾丸の応酬でお話しする仲なんだけれど。それでも最近は楽しそうにしてるから、良かったとは思うけれどねぇ」

 

 

 《GGO》は始まって一年と半年が経過しているゲームだから、ツェリスカとイツキの関係も既に一年と半年に及んでいるという事だ。それだけの時間をこの関係で続けられているのだから、この二人も互いに思う部分があるという事なのだろう。

 

 そんなツェリスカからの言葉を聞いて、デイジーが少し驚いたような顔をした。

 

 

「マスター、今のイツキの状態が楽しいと言えるものなのでしょうか。明らかに機嫌が悪そうに見えましたけれど」

 

「えぇ。退屈してるより、焼きもちを焼いていた方がきっと楽しいと思うわぁ。見ている方もね」

 

「焼きもち……」

 

 

 クレハは思わず反応をしていた。イツキはアルトリウスと遊ぶプレイヤーが一緒に居るのは嫌なのだろうか。いや、それはないだろう。イツキだってアルファルドを組んで、他プレイヤーと手を合わせて戦っているプレイヤーなのだから。

 

 それにイツキはアルトリウスと同性だから――。

 

 

「クレハちゃん、アーサー君との関係は続けた方が良いわよ」

 

 

 急に思考を邪魔されたクレハはびっくりした。声掛けしてきたのはツェリスカだった。

 

 

「え? それって……」

 

「ついさっきも言ったけれど、クレハちゃんとアーサー君は、この《GGO》でも珍しい方に入るくらいに仲の良いプレイヤー同士、相棒同士よ。どっちかが欠けてしまったら、それこそどちらも駄目になってしまうかもしれないくらいの、ね」

 

「……アーサーと……あたしが……」

 

「少なくともクレハちゃんは、アーサー君とは離れたくないと思ってる。そうじゃないかしら」

 

 

 穏やかな顔のツェリスカからの指摘は、クレハの図星を突いていた。

 

 そうだ。自分はアルトリウスの傍に居たい。かつては自分のため、名を広めたいためだけに強くなろうとしていたが、今は強くなっていくアルトリウスの傍に居たいために、強くなろうと思ってさえいる。

 

 アルトリウスの相棒に相応しくあり続けていれば、アルトリウスの傍に居られる。そしていずれ、自分の願いの許に辿り着けるはずだ。

 

 けれどそれは口に出したくない。口に出してしまったら、全てが変わりそうな気がする。

 

 だからクレハはそれを喋ろうとせずに、ツェリスカへ答えた。

 

 

「……ばれちゃいました? そのとおり、です。あいつの事は昔から放っておけないんですよ。今でこそすごくリアルラック高いみたいな感じですけれど、昔はカプセルトイの欲しいやつ一つ、全然引けなくて、あたしに(すが)ってたくらいなんですよ。それくらい、あいつにはあたしが必要なんです」

 

「まぁ、そんなに素敵な思い出があるのねぇ。良い事だわぁ」

 

「だからあたしも負けてられません。アーサーの相棒はあたしだけなんですから、アルトリウスの上を行っていないと!」

 

 

 そこまで言ったところで、ツェリスカはとても柔らかく笑んだ。

 

 

「ふふ、アーサー君はとても良い相棒さんに恵まれたのね。本当に運の良い人なんだわ」

 

「昔はとっても運無しだったんですけれどね」

 

「それを知ってるからこそ、クレハちゃんはアーサー君の相棒が務まるのよ~。これからもアーサー君と一緒に居てあげてねぇ。アーサー君は、きっとクレハちゃんを必要としているから~」

 

 

 アルトリウスは自分を必要としてくれている。それは間違いないだろう。ならばそれに答えられるようにしていかなければ。もっともっと、強くなって、常にアルトリウスを追い越せる位置にいなければ――クレハは胸の内で強く思っていた。

 

 

 

「あんたの相棒はあたしなんだからね……(りつ)

 

 

 

 

           □□□

 

 

 

 《GGO》の大型アップデートが行われた。

 

 昔はプレイヤーを締め出した状態でないとアップデートされなかったネットゲームも、今では内部にプレイヤーがいる状態でもアップデートが行われるようになった。アップデートの瞬間に立ち会えるようになったというわけだ。

 

 その瞬間を目にしたいと思ったキリトは仲間達と打ち合わせをし、《GGO》がアップデートされる寸前でログインし、どのような変化が現れるのかを確認しようとした。運営から告知が来て、ゲームそのもののアップデートが行われたが――《SBCグロッケン》では何も変わりがなかった。

 

 だが、目玉の新エリアである《SBCフリューゲル》はちゃんと追加されており、《忘却の森》と呼ばれるエリアに出現したという告知が流れてきた。ついに新エリアが追加された事に喜びを感じたが、それはすぐに次の行動への気持ちでなくなった。

 

 自分達がやりたかったのは、《SBCフリューゲル》に一番乗りし、一番乗りでクリアする事。つまり他プレイヤーの先を行く必要があるという事だ。キリトは、同じくログインしてきたアルトリウス、彼よりも動きの速かったクレハとイツキとレイア、そして仲間達全員をチームルームに呼び寄せ、作戦会議を行った。

 

 《SBCフリューゲル》は高難易度エリアであるというのが事前情報だった。どんな敵が出てくるのか全く見当が付かないため、下手に大人数で向かうのは危険である。

 

 まずは少数で偵察に向かい、ある程度進んで退却、再度作戦会議を行うのが懸命だ――《SAO》で血盟騎士団の団長を務めた時の感覚を活かして提案したところ、皆賛成してくれた。

 

 結果として、《SBCフリューゲル》を開く鍵となるレイア、その主であるアルトリウス、付き添いにクレハ、イツキとそのビークルオートマタの神武(ジンム)でパーティ一つ、更にキリト、シノン、リラン――はビークルオートマタなのでカウント無し――、ユウキ、カイムで一パーティ組まれる事になり、この八人で《SBCフリューゲル》へ向かう事になり、《忘却の森》へ赴いたのだった。

 

 

 転送装置は深い森の奥にあった。如何にも奇襲部隊(ゲリラ)が潜んでいそうだと思えるその奥に大きくて深い崖があり、そこに一機の巨大な宇宙船が姿を現していた。街一つが納まっているくらいの規模を持ち、その全てが鋼鉄に包まれた、星の海を渡っていた船。

 

 SF作品でよく出てくるそれを思い起こさせるデザインの船が、崖の上に浮遊していた。

 

 

「すっごーい……あれが《SBCフリューゲル》かぁ……」

 

「想像してたけど、本当に大きいね……流石大型アップデートの目玉……」

 

 

 《SBCフリューゲル》の近くに到着して早々、ユウキとカイムは度肝を抜かれたようになっていた。《SBCフリューゲル》がここまで巨大な宇宙船であるという事は想像できていなかったのだろう。

 

 そんな二人の感想は、キリトも思った事だった。《SBCフリューゲル》は《SBCグロッケン》のかつての姿と同じような巨大宇宙船だとは思っていたし、それに(ともな)った想像もしていたが、実際の《SBCフリューゲル》はもっと巨大だった。

 

 これだけ巨大だと、最早の内部は一つの都市に相当するほど広大かもしれない。もしかしたら《SBCグロッケン》そのものがダンジョンになったかのような感じかもしれない――想像を巡らせていくと、背中のあたりがぞくぞくしてきた。あの中がどのようになっているのか、とても見たくてたまらなくなってきている。

 

 

「アーサー君、あそこがレイアの故郷なんだってね?」

 

 

 イツキの問いかけにアルトリウス、そしてレイアが頷く。答えたのはレイアの方だった。

 

 

「はい。あそここそがわたし達アファシスの故郷である《SBCフリューゲル》です! そしてあの奥にはわたしの《おかあさん》が待っています!」

 

 

 シノンとクレハが首を傾げた。

 

 

「レイちゃんのおかあさんってどういう事なの。レイちゃんにもリラン達ユイ達みたいに、おかあさんがいるって事なの?」

 

「レイちゃんっていうか、レイちゃん達のおかあさんよね。そうなるとアファシス達が生まれるところがあるって感じかしら」

 

 

 そこに続けたのがリランだった。

 

 

《そういえば、アファシス達は元々《SBCフリューゲル》で製造された存在であり、現行のアファシスは《SBCフリューゲル》がここに墜ちた際に飛び散ったものという設定だったな。いくらゲームの世界観の設定とはいえ、随分と綺麗に残っていたものだ。《SBCフリューゲル》もな》

 

 

 リランの指摘に思わず苦笑いする。《SBCフリューゲル》は《SBCグロッケン》の勢力と戦争状態にあり、《SBCフリューゲル》はその戦争に敗北し、この場所に墜落したものの、この瞬間までステルス機能で隠れていたという話だ。

 

 その墜落の際に《SBCフリューゲル》から零れ落ちて、飛び散ったものがアファシスとそれに関連するパーツ郡であるというのだが、《SBCフリューゲル》には破損箇所のようなものは見受けられない。リアルな世界観を作っている《GGO》にしては、少々珍しいと感じられる乖離点(かいりてん)であった。

 

 

「つまりここにアファシス達を生んだ存在がいるって事なんだろうな。いずれにしても、どうなってるのか楽しみだ」

 

 

 キリトがそう言うと、ユウキがまたしても声を出してきた。

 

 

「あ、見てみて! 陸と船を繋ぐ橋があるよ。あそこから中に入れるんじゃないかな」

 

 

 ユウキの指差す先に視線を向けたところ、確かに橋があった。《SBCフリューゲル》から伸びてきており、陸と接続されている。奥には大きな扉も確認できた。あそこから入れるようになっているのは間違いないだろう。

 

 そしてあの扉にかかっている鍵を開けてくれるのが、レイアという事なのだろう。必要な道具は揃っている。あとはあそこへ向かうだけだ。同じ事を思ったのだろう、アルトリウスが皆に言った。

 

 

「よし、進んでみよう。多分俺達が一番乗りのはずだ」

 

 

 周囲にプレイヤーの気配は感じられないので、自分達が一番乗りだ。最高の瞬間に立ち会う事ができた。ここからは最高の攻略が始まる。キリトは心を躍らせ、アルトリウス達と共に進み始めた。

 

 だが、そこで一人遅れている者を見つけ、立ち止まった。カイムだった。ここに居る誰よりもチビのアバターになっている彼は、双眼鏡でじっと、これより向かう《SBCフリューゲル》を眺めていた。

 

 

「おいカイム、どうした。進むぞ」

 

「ねぇキリト。あの船、なんかおかしくない?」

 

「何? どういう事だ」

 

 

 カイムは双眼鏡を外し、《SBCフリューゲル》の後部から中央付近をなぞるように指差した。

 

 

「あの船の後ろとか横の(あた)りとか、なんかおかしいんだよ」

 

 

 キリトは目を細めてカイムの指差し、尚且つなぞっているところを見つめた。そこは《SBCフリューゲル》の後部と側面部だが――特に何か目立つようなものはない。

 

 

「何もないように見えるけど。お前には何が見えるんだ。というか、何を感じてる?」

 

「なんていうか……そう、ピトフーイのゴグとマゴグみたいな連結部分。《SBCフリューゲル》のところどころに、何かと連結するための連結器(ジョイント)みたいなものがあるように見えるんだ。後ろの方なんて特にそう」

 

 

 キリトはカイムから双眼鏡を借りて、その部分を覗き込んだ。《SBCフリューゲル》の後部辺りを確認すると、なるほど確かに、よくある連結器(ジョイント)らしきものが見受けられた。列車とも機械とも違う、それこそ戦機によくある連結器のように見える。

 

 だが、キリトにはそれが存在する意味や理由までは掴めなかった。あれがどうしたというのか。

 

 

「確かにそれっぽいものあるけれど、ただの飾りじゃないか? 気にする程のものでもないような気がするけど」

 

「んー、そうかなぁ。なんだろう、《SBCフリューゲル》は何かと合体できるようになってるんじゃないかって気がして……」

 

 

 キリトは思わず目を見開いた。あの巨大な《SBCフリューゲル》と合体できるものが存在するだって? あれだけ巨大な《SBCフリューゲル》が何かと合体する事になると、より巨大な機械が存在する事になってしまい、このフィールド全体がその存在に飲み込まれてしまう事になるだろう。

 

 それはそれで見てみたいが、あまりにも規模が大きすぎる。そんなものが存在している可能性は流石に低いだろう。

 

 キリトは率直な感想を親友に返した。

 

 

「おいおいカイム、《SBCフリューゲル》の時点でものすごくデカいんだぞ? それと合体できるのが居たとしたら、合体した時どんなのが出来上がるんだよ?」

 

「……ものすごく大きい戦機。街を踏み潰せるくらいの超々巨大怪獣みたいな」

 

「そんなもんいるわけないだろ。でもまぁ、《SBCフリューゲル》を調べれば、あの連結器の事もわかるかもしれないから、早く行こうぜ」

 

 

 カイムは「わかった」と答えて双眼鏡を仕舞い込み、先を進んだアルトリウス達へ向かって行った。彼と一緒にアルトリウス達に合流した時には、既に橋を渡り終え、扉の前に到着していた。

 

 

「ここが《SBCフリューゲル》の入口みたいだけど……レイア、どうするんだい」

 

 

 イツキが神武と一緒に向き直ると、レイアは扉に近付き、一礼した。

 

 

「おかあさん、わたしです! ただいまです!」

 

《……それで通じるのか……》

 

 

 思わずリランが目を細めたところ、突然大きな音が周囲に轟いた。警報にも感じられる嫌な音に皆が驚き、神武とリランが同時に身構える。

 

 

「レイア、これはなんだ。何が起きてる!?」

 

 

 アルトリウスの問いかけに、レイアが答えた。思いがけないような出来事を見たような顔になっている。

 

 

「え……《ゲートキーパー》と鍵が壊された? 中に侵入者がいる? これ以上の侵入者は排除する?」

 

「鍵を壊された? って事は、中にもう誰か入ってるって事?」

 

 

 シノンが問うと、レイアは首を横に振った。

 

 

「そ、そんな! わたし達が居ないと入る事のできない扉じゃないんですか、そこは!? それにゲートキーパーが壊されてるって、どういう……!?」

 

 

 レイアは完全に戸惑っている。彼女でさえ理解できない事が起きているようだ。そこに声掛けたのはユウキだった。

 

 

「もしかして、誰かが本来できないはずの事をして、ここを無理矢理突破したとか」

 

 

 カイムが続ける。

 

 

「それで本来はアファシスがいないと開かないはずの扉を強引に開けたって事?」

 

 

 そしてユウキが(こぼ)す。

 

 

「鍵のかかった扉を無理矢理開けるって、ショットガンだとできたよね? この扉をぶっ飛ばせるくらいのショットガンがあるとか?」

 

「そんなものあるわけないでしょ!」

 

 

 シノンがツッコみを入れると、扉が開いた。薄暗い内部から、巨大な機械が向かってくる。人型に似ているようで似ていない、四つ足の大型戦機。どうやらあれがここを守っている衛士であるようだ。

 

 

「何が起きてるのかよくわからないけど……あれを倒せば《SBCフリューゲル》の中に入れるみたいだね」

 

 

 イツキが言った直後、レイアが何かに気付いたような様子を見せた。

 

 

「はっ……ゲートキーパーを壊して侵入した人がいるという事は……まさかおかあさんに手を出そうと!? いけません、おかあさんが危ないかもしれないです!」

 

 

 侵入者が誰なのか、そもそもこのイベントが何なのかも定かではないが、ひとまずあの巨大戦機と戦うのは避けられそうにない。キリトは皆に声掛けした。

 

 

「皆、戦闘開始だ! とりあえずあいつを倒すぞ!」

 

 

 指示を受け取った皆は、それぞれ武器を構えた。

 




――原作との相違点――

・メンバーが多い。原作では主人公、アファシス、キリト、クレハの四人だけ。

・《SBCフリューゲル》が初っ端トラブル。原作では主人公とアファシスのみで行けば良いという条件のイベント。


――オリキャラの装備――

リラン⇒GAU-8アヴェンジャー、ヘルファイアミサイル、超巨大狙撃砲

ユピテル⇒光剣、FIM-92スティンガー

カイム⇒光剣&ベレッタM1951、DSR-1(狙撃銃)

イリス⇒デザートイーグル二丁、レーザーアサルトライフル


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