キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 あるキャラ、登場してくる。

 


13:再会する同業者達

          □□□

 

 

「……危ないところだったと思うが」

 

「あぁ。俺もそう思ったからこそ、退いたわけだ」

 

 

 自分達だけが知っているルームに、ミケルセンは戻って来ていた。多勢に無勢。多くの者を一度に相手にするのは良くない事。このGGOではそれが顕著である。これを理解していたからこそ、ミケルセンは戦場からここへ戻って来ていた。

 

 そんなミケルセンの説明を聞いた後、新入りの――しかし一番の実力者である――男は、少し呆れた様子でミケルセンに言っていた。

 

 男は金色の髪を短く切った、頭部の丸みがわかるような髪型をしている。その目は浅い海のように青いが、全ての光が届かない深海のような闇が宿っている。

 

 

「けれど、目立つプレイヤーのデータはしっかり手に入れられた。まだまだ足りないくらいではあるが、その一部を手に入れられはしたんだ。収穫はあった方さ。そっちは?」

 

 

 男は腕組みをやめて、ウインドウを開いた。ミケルセンが出ている間に手に入れたデータがまとめられているようだ。

 

 

「まぁまぁといったところだ。だがお前と同じで、手に入ったものは少ない方に入る」

 

「そんなに急いでいるわけじゃねえんだ。だからもっとゆっくりやっても問題ないぞ」

 

 

 男は目を細めた。

 

 

「……私はゆっくりしているのは嫌いだ。やるべき事はすぐにやる。その方が結果が出る」

 

「そのとおりだ。俺もそう思って、行動する時は多い。やっぱりお前とは馬が合うようだ」

 

 

 ミケルセンは嬉しかった。ALOでも現在進行形で名を馳せているこの者が協力者になってくれたおかげで、計画や作戦は恙なく進んでいる。最初は疑問に思っていた部分も多かったが、今ではこの者を招き入れられた事に感謝したい部分が多かった。

 

 

「ところで、この前渡したモノは理解できたか。ちゃんと英語で書いておいたんだが」

 

「文字面も説明も申し分ない。だが、本当にあの通りに行けばいいのか?」

 

 

 男からの問いかけに、ミケルセンは大いに頷く。

 

 

「あぁ。そのルートは基本的に高難易度に仕上がってるが、類稀(たぐいまれ)なお前の実力ならどうって事ない。その辺のクエストをこなすのと同じような感覚でクリアできるよ」

 

「私も随分と期待されたものだ」

 

「そりゃあ期待もするさ。お前はあんなデカくてごつくて、強いビークルオートマタまで平然と手に入れて手懐けてるくらいじゃないか。やろうと思えばこっちからお前に提供する事もできたっていうのに、お前ときたら実力でそれを手に入れやがった。ここまでできるお前を信頼して、期待しない話はないだろ?」

 

 

 男はふんと鼻を鳴らした。この男の強さは目を見張るものがある。これまで沢山のプレイヤーを見てきたミケルセンの記録の中で、もしかしたら最強の存在かもしれない。そう思う事も多々あった。

 

 なのでミケルセンは、この男に期待を抱かないでいる事は不可能だった。

 

 

「まぁ期待通り以上の働きをするのが私のモットーだ。ひとまずはその期待を上回れるように働くとしよう。そして、私の望む報酬を用意してくれるんだろうな?」

 

 

 男は鋭い眼光を見せてきた。どこまでも深い海の底、或いは闇の底のような瞳。あの実力者が、ここまで深い闇を抱えているのには当初驚かされたが、今では逆に納得できる要素となっている。

 

 この闇があるからこそ、こいつは強い。闇こそがこいつの原動力だ。まるであらゆるものを吸い込んでしまうブラックホールが持つという、膨大どころではないエネルギーを糧にして動いているかのようだ。

 

 そんな闇が()()()()にはどうなるのか、ミケルセンは純粋に気になっている。

 

 

「あぁ勿論さ。その約束だけは必ず守るよ。協力してくれるお前への報酬……お前が欲するものへ無事に辿り着けるように、手筈は整えているからよ。ただ、だいぶ後払いになっちまうのは許してくれ」

 

「構わない。手に入れたいものはすぐに手に入れたいが、そこまで短気ではない」

 

「そうか。でも、お前にはしっかり働いてもらってるからな、俺も早く応えたくなるってもんだよ。優秀な奴には沢山報酬を支払ってやるのが基本だ。それができてねえからこそ、この社会から優秀な奴は消えていくんだよ。居たところで無意味だからって判断されるんだからな。……あんなでけえ事があったっていうのに、この社会は何も学んじゃいねえ」

 

 

 ミケルセンの零した愚痴に、男は反応した。

 

 

「……そちらは相変わらずのようだな」

 

「相変わらずさ。でもまぁ、良くなってはいる方だぜ、一頃よりは」

 

「手引きがあったからな」

 

「そのとおりだ。それが無かったら今頃どうなってたか、考えただけでも嫌になるぜ」

 

 

 ミケルセンは男に背を向けた。

 

 

「さてと、俺はもう落ちるぜ。やるべき事は十分にやったからな」

 

「そうか。私はもう少し続けるつもりだが」

 

「そりゃあ結構。ところで、お前を特別ライバル視してる奴がこのGGOに来てるんだが……またやり合ったらどうだ?」

 

 

 男は溜息交じりで腕組をした。何か思うところはあるらしい。

 

 

「ふむ……考えておこう」

 

「向こうがやる気になるかどうかはわからねえが、多分やる気だろ。やる気になったそいつと出会ったら、まぁ迎えてやれよ。それじゃあな」

 

 

 ミケルセンは振り向き、男を見た。

 

 

 

Good(グッド) Luck(ラック).Subtilizer(サトライザー)

 

 

 

 そう言い残して、ミケルセンは部屋を出た。

 

 

 

 

 

          □□□

 

 

 

 

「あぁ、SBCグロッケンの風景が違って見えます! 賢くなる事は、こんなにも違いが出る事なのですね!」

 

「レイちゃん、本当に嬉しそうね。良かったわ」

 

 

 アルトリウスの隣を歩くレイア、クレハは嬉しそうにしていた。オールドサウスでのレイアのパーツ探しの探索を行ったところ、地下鉄遺構の方でキリト達が目的のそれを見つけ出してくれた。

 

 連絡を受けてすぐに向かったところ、キリト達は結構疲れた様子になっていたが、そこでキリトがパーツを渡してきた。

 

 それを見た途端にレイアが「それこそがわたし達のパーツです!」と喜んだため、間違いなく目的のアイテムであると判明。アルトリウスは皆に礼を言って、全員でSBCグロッケンへ帰還し、レイアにパーツを使用した。

 

 その次の瞬間、レイアはしゃっきりしたような様子を見せ、「頭がとてもとても良くなりました!」と大声を出した。頭が良くなった事で何が変わったのか、見た目では判断できない。

 

 君の頭が賢くなって、どうなったんだ――アルトリウスの問いかけにレイアは答えた。なんでも、これまで以上に複雑な言語や会話を使いこなせるようになったうえに、複雑な戦い方、身振りの仕方などがわかるようになったという。

 

 だが、アルトリウス達が喰い付いたのはそこではない。「これでわたしは、《SBCフリューゲル》に行けるようになりました」という一言だった。情報屋であるアルゴの話は正しくて、本当に《SBCフリューゲル》に一番乗りできるようになった。

 

 レイアが成長してくれたのも嬉しいが、《SBCフリューゲル》に行けるようになったというのが、やはり一番嬉しい事だった。

 

 《SBCフリューゲル》はどのようなところなのだろうか。

 

 どれくらいの難易度なのだろうか。

 

 どんな武器があれば攻略に困らなそうか。

 

 キリト達はそんな事を言い始め、やがてそれぞれ求めるもののあるところへ向かっていった。その中に混ざるようにして、アルトリウスもまたSBCグロッケンの街へと出ていたのだった。

 

 そしてアルトリウスについてきたレイアは、先程から大はしゃぎしていた。可視化されていないので、見た目からの判断はできないが、レイアはこれまで見えていたものが違って見えるようになっているらしい。

 

 それがどれ程喜ばしい事なのかはアルトリウスには理解できない事だが、レイアが嬉しそうにしているという事だけで、同じように嬉しい気持ちになれた。

 

 レイアは以前から太陽のように温かい雰囲気の女の子だと思っていたが、今のレイアは心地よい春の日差しを地上に降らせる、本物の太陽のようだった。

 

 

「それにしても、これで《SBCフリューゲル》に行けるようになったんだな」

 

「他にこのくらいになれてるプレイヤーはどのくらい居るのかしらね。もしかしてあたし達が本当に一番乗りだったりして!?」

 

 

 クレハが期待を込めた言い方をしている。情報屋アルゴ、情報通シュピーゲルとフィリアによると、《SBCフリューゲル》に行ける資格を得たプレイヤーの話はまだ出てきておらず、自分達が最初の可能性が非常に高いとの事だ。

 

 まさか自分達が、自分が《SBCフリューゲル》に最初に足を踏み入れられるプレイヤーの一人であるとは思ってもみず、アルトリウスは胸の内から湧き上がる喜びと期待を抑え込めなかった。

 

 

「そうかもな! そうすればきっと、俺達GGO内の有名人だよ」

 

「あたし達を中心にGGOに衝撃が走るってやつ? そんなの最高よ!」

 

 

 クレハも自分と似たような様子になっていた。やはり《SBCフリューゲル》へ一番乗りできるというのが、彼女も経験した事のないような出来事であるらしい。

 

 この後に控えている超大型アップデートの目玉フィールドに、誰よりも早く先に向かえるのだから、喜ばずにはいられないだろう。――ゲーマーとして喜ばしい事を思い出すと、すぐにその気持ちがわかった。

 

 そんな感じで話をしていると、少し離れたところから声がした。

 

 

「あらあら~、レイちゃんだけじゃなくて、クレハちゃんとアーサー君までハイテンションになってるのね~」

 

 

 ちょっと伸び気味であるものの、しっかりとした芯のある女性の声。それがする方へ向き直ってみれば、こちらへやってきている二人の女性の姿があった。ツェリスカとデイジーだった。

 

 

「ツェリスカさん!」

 

 

 クレハが反応した直後に、二人はアルトリウス達のすぐ傍に寄ってきた。デイジーが礼儀正しく一礼すると、レイアもまた同じように一礼を返し、ツェリスカが言葉をかけてくる。

 

 

「何か嬉しい事でもあったのかしらぁ?」

 

「あぁ。レイアのパーツが手に入ったんだ。これで《SBCフリューゲル》に行けるんだよ」

 

 

 アルトリウスの答えに、ツェリスカは少し驚いた。

 

 

「あら。もうそこまで行ったの? アーサー君、随分と早いじゃない。この前までは新人(ニュービー)さんだったっていうのに」

 

 

 確かにそうだ。だが、そんな新人の自分に付き添ってくれた仲間達がいてくれたからこそ、自分は《SBCフリューゲル》という最先端の場所へ向かえる権利を得る事ができた。改めて感謝の気持ちを抱きながら、アルトリウスはもう一度答えた。

 

 

「皆が協力してくれたおかげだよ。クレハやキリト達が一緒に戦ってくれたから、行けるようになったんだ」

 

「それだけじゃありません! マスター自身も、とっても強くなりました! マスターはもう新人なんかじゃありません!」

 

 

 レイアが自信満々に言ってくれて、アルトリウスはどこかくすぐったい気持ちになる。しかしレイアの言う通り、自分は強くなれたのだろう。

 

 皆が支えてくれたおかげで、もう新人扱いされないくらいにまで強くなれた。それだけは自信を持って言える。

 

 その事が伝わったのだろう、ツェリスカは柔らかく笑んだ。

 

 

「そうかもしれないわねぇ。アーサー君、なんだか全体的に変わったような気がするもの。アーサー君は確かに強くなったんだわぁ」

 

「それも皆が協力してくれたからだ。俺一人だけでこうなれたわけじゃないんだ」

 

「そうだろうけれど、結局はアーサー君が最後まで投げ出さずにやったからよぉ。その事については自信を持っていいわぁ。この調子だと、《SBCフリューゲル》の攻略になっても、問題なくやっていけそうねぇ」

 

 

 ツェリスカの言葉に、アルトリウスは胸の高鳴りを感じる。俺なら《SBCフリューゲル》を攻略する事もできる。最先端のエリアを、一番乗りで――まだイメージの範囲内だが、ツェリスカのおかげでそれは現実味を帯びてきていた。

 

 

「はい! マスターならばわたしの故郷である《SBCフリューゲル》も――ひぇえ!?」

 

 

 言いかけたレイアが、途中で突然悲鳴を上げたものだから、全員でびっくりした。その中に含まれていたデイジーがレイアに軽く怒る。

 

 

「ちょっと、なんですか。急に大声を上げないでください」

 

「よ、良からぬものが来ます! 後ろから来ています! つ、ツェリスカ、わたしを隠してくださーい!」

 

 

 レイアは焦った様子でツェリスカの背後へ飛びついた。あまりにも急な行動にツェリスカはもう一度びっくりする。

 

 

「ちょ、ちょっとレイちゃん? 何が来てるのよぉ?」

 

「わたしにとって怖いものです! あぁ、来ちゃいましたぁ!」

 

 

 そう言ってレイアはアルトリウスの背後を指差した。

 

 振り向いてみたところ、そこにはSBCグロッケンの街並みが広がっており、そこに多数のプレイヤーが行き交っているという普通な光景だけがあった。だが、目を凝らしてみたところで、アルトリウスはこちらへ向かってくる一つの人影を見つけた。

 

 

「ふあ~あ……眠い……今日の狩り、無事に終えられるか心配だなぁ……」

 

 

 それは欠伸(あくび)をかいて、こちらへ歩いてきていた。滅多(めった)に見ないくらいに小さいシルエットの割には、上半身を中心にごつめのバトルアーマーを纏っている。レイアに興味津々で、彼女が恐怖心を抱くくらいの勢いで迫ってくる()()

 

 イリスだった。

 

 

「イリス先生じゃないの」

 

 

 その姿を認めたクレハが呟くように言った。別に敵が来たわけじゃないわよ――そう続けてレイアに言いたそうだが、クレハはレイアがイリスを怖がっている事をあまりよく知らないからこそ、そんな事も思えるのだ。

 

 主人としてレイアの事をよく見ているアルトリウスからすると、レイアとイリスの関係は頭を抱えたい要素だった。

 

 

「イ……リス……!?」

 

 

 そんな悩みの種の名前を聞いた次の瞬間、ツェリスカが異様な反応を示したのを、アルトリウスは目にした。

 

 こんな反応のツェリスカを見たのは、これが最初ではない。一度目はユピテルと彼女が出会った時であり、そこでツェリスカとユピテルが深い関係同士だった事がわかった。

 

 その時と似たような反応をしたという事は――いや待てよ? この中で何か重要な話をしていなかっただろうか。ツェリスカとユピテルの話の中で、とても重要なものが入っていたような気がしてならない。

 

 しかしそれを思い出せないアルトリウスが声をかけるより先に、イリスの方がこちらに気付いてきた。

 

 

「おや? やぁ、アーサー君達」

 

「ひええええ!」

 

 

 イリスが向かってくるなり、レイアは一層激しく悲鳴を上げた。

 

 

「またわたしの観察ですか!? またわたしを怖いくらい細かく観察するつもりですか!?」

 

 

 イリスは歩く途中で苦笑いの顔になる。クライン曰く、本当はもっと背が高くてスタイルも良くて、胸も大きい、美人女性開発者であるという話のイリスは、今はレイアよりも背も体型も小さい。

 

 そんなイリスをここまで大袈裟に怖がるレイアという光景は、確かに苦笑いするしかなかった。

 

 

「レイちゃん、確かに私は君に興味があるけれど、そんな毎回毎回細かく観察しようだなんて思ってないよ。だからそんなに怖がらないでおくれ」

 

「いいえ怖がります! イリスはわたしを狙っているのです! こちらが隙を見せれば、飛びついてきます!」

 

「いつから君の中の私は猛獣になったんだい。そんな取って喰うような事はしないってば。いずれにしても、確実に間違った第一印象を与えてしまったパターンだね、これ……」

 

 

 ぼやきながら、イリスはアルトリウスとクレハのすぐ傍までやってきた。合わせてレイアは縮こまるが、そのレイアを隠しているツェリスカはというと、ひどく驚いた顔のままイリスを見ていた。

 

 気が付いたクレハが首を傾げて、ツェリスカに問いかける。

 

 

「あれ、ツェリスカさん。イリス先生がどうかしたんですか?」

 

 

 クレハが言ったその次の瞬間、イリスがかっとそちらへ顔を向けた。こちらもとても驚いたような感じだ。

 

 

「ツェリスカ、だって?」

 

「イリス、ですって?」

 

 

 イリスとツェリスカは同時に言っていた。そしてやがて、同時に向き合う。二人ともひどく驚いた様子のままだ。

 

 

「おやおやおや……まさか君……」

 

「チーフ、貴方なのですか……?」

 

 

 そこでアルトリウスの中で閃光が走った。思い出した。

 

 そうだ。イリスとツェリスカはかつて同じ会社の同じ部署にいて、それぞれ上司と部下の関係だったのだ。今はどちらも違うところにいるが、なんの偶然か、ここで再会する事になった。

 

 イリスはかつての部下を見上げ、ツェリスカはかつての上司を見下ろしていたが、やがてツェリスカの方が口を先に開いた。

 

 

「いいえ、もしかしたら違うかもしれないわ。ここは一つ、合言葉を確認しましょう。心に寄り添う守護者達は?」

 

「――しんなりなさったややこ」

 

 

 アルトリウスは目を点にしてしまった。ツェリスカから何か重厚な言葉が出てきたかと思えば、イリスからの答えは非常に(なま)った言葉。あまりの温度差に風邪をひきそうな言葉の応酬には、全員できょとんとしてしまう他なかった。

 

 しかし、それが通じたように、ツェリスカの顔に驚きと安堵(あんど)が混ざったような表情が浮かんだ。

 

 

「あぁやっぱり! 貴方なのですね、芹澤(せりざわ)チーフ」

 

「この合言葉がわかるって事は、やっぱり君か。星山(ほしやま)

 

 

 「えぇっ」とアルトリウスとクレハは声を合わせた。今のは明らかに、VRMMO内では口にしてはいけない、互いの苗字だ。

 

 それをこの場でうっかり口にしてしまった事に気付いたのだろう、二人とも口を軽く手で押さえた後に、言い直した。ツェリスカの方が先だった。

 

 

「ここではそう呼ぶべきではありませんでしたね。チーフ」

 

「あぁ、その通りだね。ツェリスカ」

 

「お久しぶりです。まさかここでまた会えるなんて、思ってもいませんでしたわぁ」

 

「こっちも同じ気持ちだよ。君とまた会って話ができるとは思わなんだ。いやー、驚いた驚いた」

 

 

 二人はこちらをそっちのけにしたうえで、とても楽しそうにしていた。その事に不服を申し立てたのは、ツェリスカのアファシスであるデイジーだった。

 

 

「あの、あなたはなんですか。マスターとどういった関係で、そのように近付かれているのですか」

 

 

 デイジーに見下ろされたイリスは「おっと」と言った。

 

 

「君は確かデイジーだったね。すまない、急に君のマスターと仲良くし始めるのは、面白くないよね」

 

 

 ツェリスカがほんの少し驚いたような顔をした。何か意外な事があったらしい。

 

 

「あらチーフ。デイジーちゃんの事をご存じなのですかぁ?」

 

「おや? あぁ、そうだった。本当に会えた事にびっくりしてて忘れてたけど、君の話はキリト君達から聞いてたんだよ。ユピテルからはもっと詳しくね」

 

「そうだったのですか。って、あら? ならチーフは、キリト君やアーサー君達と一緒にいたのですか?」

 

 

 イリスは頷きつつ、アルトリウスに向き直った。

 

 

「そうだよ。今ではキリト君達とアーサー君達と一緒に、このゲームを攻略させてもらってる。その様子だと君もそうみたいだね、ツェリスカ」

 

「そうですわぁ。割と最近ですけれども、キリト君とアーサー君達とご一緒させていただいていますの。ただ、一緒に狩りに出かけたりするのはまだですけれど」

 

「ほほーう。なら、すぐにでも探索や狩りに同行してみるといいよ。この子達との狩りはとっても楽しいよ」

 

 

 確かにイリスと一緒に戦った時、キューブセントリーガンとレーザーアサルトライフルを組み合わせた独特な立ち回り、二丁のデザートイーグルによる高い火力には助けられた。そんなイリスに、一緒に戦っていて楽しいと言ってもらえるのは、とても嬉しいと思えた。

 

 その直後、ツェリスカが急に話題を変えた。

 

 

「あぁそうですわ、チーフ。もしお会いできたなら、お聞きしたい事があったんです」

 

「今就いてる職場かい? それなら教えられないよ。雇い主に固い約束をされてるんだ」

 

「いいえ、そうではありません」

 

 

 いつの間にかツェリスカの表情は、静かで険しいものになっていた。いつもの彼女から感じられる、ほんわかしたような雰囲気がなくなっている。ツェリスカはこんな顔をする事もあるのか――アルトリウスはある種の呆気に取られていた。

 

 ツェリスカは続ける。

 

 

「……チーフ、貴方は何故、マーテルちゃんとユピテル君……ユイちゃん、ストレアちゃん達を()()()というのですか」

 

 

 イリスは上半身のアーマー下部、ポケット部に両手を入れた。

 

 

「突拍子もない事聞くね。どういう意味だい、それは」

 

「貴方は何が作りたくて、何が目的で、あの子達を()()()というのですか」

 

「そりゃあ、人の心を癒してくれますようにって祈りと願いを込めて()()()んだよ。それが当時の会社の上層部の目的であり、依頼だった。だから産んで育てた。それは君もよくわかってる事じゃないか」

 

 

 ツェリスカは首を横に振った。

 

 

「いいえ、それにしてはオーバーだったという事が、後で考えてみたらわかりましたわ。会社が指示したものにしては、あの子達は明らかにオーバースペックでした。あまりにも良くでき過ぎていたんです。あそこまで作り込む必要はなかったんですよ」

 

 

 どちらもこちらをそっちのけにしてしまっているが、アルトリウスは口を挟める気になれない。クレハもレイアも同じのようで、黙り込んだまま、二人の会話を聞くだけになっていた。

 

 

「チーフ。一体貴方は何を作ろうとして、あの子達を作ったのですか」

 

 

 ツェリスカはもう一度同じ問いかけた。対するイリスは特に様子を変える事もなく、沈黙を貫いていた。何か答えられない事があるのだろうか。

 

 この質問はどれだけ重要な事なのだろうか。アルトリウスには何も掴める事がない。問われているイリスは、やがてその顔をゆっくりと上げて、少しだけ口角も上げた。

 

 

「……もうすぐアファシス《Type-X》の故郷が解放されるそうだね?」

 

「はい?」

 

「そこならきっとアファシス達の秘密もわかるんだろう」

 

 

 きょとんとしてしまっているツェリスカの横を、イリスは通り抜けるように歩いた。少しだけ距離を取った位置にまで行くと、くるりと振り返った。

 

 

「その時一緒してくれるんなら、話してあげてもいい。だけど、今じゃせっかくこうして再会できたんだから、その事に感動させてくれたっていいだろう? ほら、喫茶店にでも行って、語り合おうじゃないか」

 

 

 そう言ったイリスは、本当に喫茶店のある方角へ歩いていった。かなり突拍子もない行動に五人でぽかんとしてしまっていたが、やがてツェリスカが溜息を吐いた。

 

 

「相変わらず、はんなりしている人、なのですねえ~……」

 

 

 ツェリスカはすぐさま「行きましょ」と言って、案内するように歩き始めた。

 

 アファシスの秘密が《SBCフリューゲル》にはある――その事だけが、何故かアルトリウスの中で引っ掛かっていた。

 

 

(フェイタル・バレット 03に続く)

 




――小ネタ解説――

・しんなり→京言葉で上品という意味。

・ややこ→京言葉で赤ちゃんという意味。

・はんなり→京言葉で天然、マイペースなどの意味。








――くだらないネタ――


オリキャラのイメージCV

・ミケルセン ⇒ 金尾哲夫さん



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