キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

435 / 565

 またまたまた新要素。





08:三機獣 ―敵との戦い―

 

          □□□

 

 

 闇のようにどす黒い雲。その下は並大抵ではない雨が降り、気温が冬くらいにまで下がる。そしてその闇の雨に紛れるようにして、亡者の軍隊というべき者達が現れる。

 

 そんな経験をしているキリトは、上空をどす黒い雲が覆ったのを確認した時点で、亡者達の襲撃に遭うのではないかと予想していた。その予想は残念な事に大当たりだった。

 

 黒雲が上空を覆ったかと思うと、闇の雨が降り始め、周囲が瞬く間に暗くなった。気温ががくんと下がり、吐く息が白くなったかと思うと、気配がした。身の毛がよだつような恐ろしい気配。その根源を探し出すと、すぐに見つかった。

 

 海洋生物であるシャチの背ビレや模様を思わせる装飾と色合いのスーツを纏っている、大型ナイフとアサルトライフル、ショットガンで武装したプレイヤーの群れ。(シャチ)だった。異様なステータスをしているような動きをし、何の理由を持っているのかわからないような戦い方をしてくる、異常な集団。

 

 どす黒い雲が上空を覆い、闇の雨が降っている時に高確率で現れる者達が、やはり現れてきた。正体がまるで掴めないようなその集団との会敵に驚き、焦っていたのはアルトリウス、レイア、クレハの三名のみで、残りの者達は鯱を見た時点で臨戦態勢になっていた。

 

 

「キリト、こいつらは!?」

 

「敵だ! 気を付けろ、こいつらは強いぞ!」

 

 

 襲い掛かってくる鯱から目を離さず、キリトはアルトリウスに答えた。アルトリウスも《M4》を構えているが、その手は震えている。見た事の無い敵がいて、しかもそれが異常な雰囲気を放っているのだから、当然の反応だった。

 

 間もなくして鯱の第一波とも言うべき集団がこちらへ到達してきた。鯱の数はこれまで五人から六人くらいだったが、今はその倍、十二人くらい確認できている。このうちの六人が大型ナイフとショットガンで武装した前衛で、残りはアサルトライフルとスナイパーライフルを携えている後衛だ。

 

 このうちの前衛はやはりAGIを極振りしている者達であり、目にも止まらぬ速さで駆け抜けてきて、一気に距離を詰めてきていた。そのうちの一人が眼前に躍り出てきたのを見計らって、キリトは光剣による一閃で横薙ぎした。光の刃が鯱の身体を斬り裂いていくが、やはり手応えは感じられない。この違和感も何度抱いたかわからないものだが、中々慣れる気配がなかった。

 

 一撃を受けた鯱は()ね飛ばされたように後退していったが、すぐに空中で受け身を取って体勢を立て直してきた。これまでは一撃で倒せたような気がしたが、どうやらこいつらも一撃でやられないくらいのステータスを手に入れるまでに至っているらしい。

 

 いや、そもそも鯱の前衛はAGIが高いために防御力が高く、打たれ強い傾向にあった。AGIが更に上がった事によって、光剣の一撃にも耐えられるようになったのかもしれない。強くなっているのは自分達だけではなく、あちらもそうだ。

 

 そんな凶悪な連中に、よりによって新人のアルトリウスとレイアは囲まれているのだから、最悪な事この上ないだろう。彼は幸運なようだが、不運も一緒に呼んでしまう体質なのだろうか。頭にそんな事を(よぎ)らせていると、レンの叫びが聞こえてきた。

 

 

「早いのはそっちだけじゃないんだからッ!!」

 

 

 直後、レンはぎゅんとダッシュを開始した。鯱同様に目にも留まらない速度で駆け抜けていき、ショットガン持ちの鯱二人と接敵する。

 

 鯱の二人は戸惑う事もなく応戦し、散弾をぶつけようとして来るが、レンはその全てを回避しつつ《P90》のライフル高速弾を撃ち込んだ。それを鯱達も恐るべき速度で回避を繰り返す。

 

 撃つ、回避する、撃つ、回避するのやり取りがレンと鯱達の間で繰り広げられていき、ショットガン持ち二人の動きがほぼ停止に近しい状態になる。

 

 

「レンちゃん、囮を買って出るとは流石だねぇー!」

 

 

 レンの思惑を話したピトフーイが声を出すと、彼女を載せたゴグマゴグが発進し、大型ナイフ持ちの鯱達に肩から生える巨腕で殴りかかった。鯱はレンとほぼ同じ速度を出して回避すると、ゴグマゴグの腕は地面に突き刺さった。

 

 地面は闇の雨によって泥濘(ぬかる)む泥地となっており、茶色い泥が思い切り跳ねて、ゴグマゴグとピトフーイに覆い被さった。シノンとクレハから「うぇ」という嫌そうな声が出る。女性が何よりも嫌う泥が被されたのを目の当たりにしたのだから、せずにはいられない反応なのだ。

 

 

「おおぉわあああ、ははははははは!!」

 

 

 しかし張本人のピトフーイからは笑いが出ていた。この状況を明らかに楽しんでいる。その様子からはキリトの思い描いている女性らしさはほとんどなく、女性の姿をした狂戦士(バーサーカー)のようにしか感じられなかった。ピトフーイとの会話でちらほらと感じられた狂戦士のような雰囲気は、気のせいではなかったらしい。

 

 そんな女性らしからぬ身振りを見せつけるピトフーイのスーツに包み込まれた四肢と、ポニーテールの形に纏められた黒髪を汚す泥は、あっという間に大量の雨水と交換された。非常に強い闇の雨は、それ自体がシャワーのような役割を果たしているらしい。

 

 

「ははー、シャワー要らずってのは良いもんだねー!」

 

 

 ピトフーイは楽しんでいるような声色で告げ、主を載せるゴグマゴグは同調するように次から次へと攻撃を繰り出していく。だが、それらは全て鯱達に回避されてしまっており、すぐさま数人の鯱がピトフーイとゴグマゴグを突破、プレミアとティア、イリスのいるところにまで迫った。そしてプレミアに向けて、二人の鯱より大型ナイフが振り下ろされる。

 

 

「ッ!」

 

 

 しかしその刃はプレミアに届くより前に止まった。片方はティアがミニガンそのもので、もう片方はイリスが頭の帽子で抑え込んでいた。イリスの被っている帽子は、実は虹鎧に付随する盾であり、大型ナイフの刃は勿論、そこら辺のアサルトライフルの弾丸さえも防ぐ強度を持っている。

 

 それを頭に被っているので、咄嗟に屈んだり頭を突き出す事で攻撃を防げるのが彼女だった。その様子を一目見てから、ティアがプレミアに声掛けをする。

 

 

「プレミア、呼んで! わたし達だけじゃやっぱり手に負えそうにない!」

 

「――ッ! わかりました!」

 

 

 呼んで? 何を呼ぶんだ? キリトが思わず疑問に思った直後に、プレミアは右人差し指を上に向けた。一秒も置かないうちにその指先より青白い光が放たれ、雲の中へと消えていった。まるで打ち上げ花火のようにも見えたそれの正体は、キリトが掴めないどころか、イリスさえもわからないようだった。

 

 

「プレミア、今なにした? そんなの教えた覚えがないんだけど」

 

 

 プレミアはイリスには答えず、キリトに応じた。

 

 

「キリト、多分すぐ来てくれます!」

 

「来てくれるって、何がだ」

 

 

 プレミアの答えを聞く寸前、レイアが割り込んできた。鯱達に向けて銃撃を行いながら、焦っている。

 

 

「このままじゃやられちゃいます! なんとかしなきゃいけません!」

 

「わかってらあ!」

 

 

 大声を返したのはフカ次郎。彼女はグレネードランチャーである《ダネルMGL》を両手に持ち、かなり猛烈な勢いで擲弾(てきだん)を発射し続けていた。美しい弧を描く軌道で飛んでいった擲弾は、鯱達の足元に着弾して爆発する。

 

 狙いはあまり正確ではない――そもそも鯱の動きが速すぎて狙いが付かないのだろう――が、擲弾の爆発は確かに鯱達を巻き込み、ダメージを与えてくれていた。その中にはレンも混ざっていそうだったが、レンはその驚異的な瞬発力と移動速度で回避をして無事だった。

 

 爆炎は闇の雨によってすぐに消火され、鯱達の姿が引き続き確認できたが、どいつも戦闘不能にさせられていない。先程からかなり攻撃を仕掛けているはずなのだが、中々倒すにまで至れていない。

 

 

「このッ!」

 

 

 ティアとイリスが止めている鯱に向かって、アルトリウスとレイアがそれぞれ《M4》と《ソーコム》で射撃する。突進してくる弾丸を、果たして鯱は瞬間的バックステップで回避、こちらから距離を取った。

 

 すれ違いざまで後衛の鯱達がアサルトライフルとスナイパーライフルによる攻撃を仕掛けてくる。複数のアサルトライフルの弾幕の中に混ざって、スナイパーライフルの鋭い超高速弾丸が飛んで来て、キリトの耳元を掠りそうになった。どうやらアサルトライフルの弾幕で動きを止めたうえでスナイパーライフルで射貫くといった戦法を取っているようだ。

 

 これまでの鯱達はあまり作戦を考えたりせず、ステータスの高さを最大限に利用したような動きと戦法で攻撃してくる傾向にあったが、今のこいつらはちゃんとした作戦や戦術を用いて戦っている。やはりこいつらも成長しているという事なのか。

 

 いやそもそも、こいつらは本当に何なのだろうか。この闇の雨が降っている時に高確率で現れては、突然戦闘を仕掛けてくる。言語によるコミュニケーションはあまり見受けられず、何を考えて何を目的しているのか、全く掴めない。

 

 そしてこの前はジョニー・ブラックと酷似した人物と一緒に行動もしていた。一貫性があるようで無く、意図も何もわからない。ここまで不気味な集団を見たのは、これが初めてだ。

 

 

「もう、なんだっていうのよ!」

 

「ッ!」

 

 

 クレハが嫌気が差したような声でプラズマランチャーを発射し、加えてシノンも《ヘカートⅡ》による対物ライフル弾を鯱にお見舞いした。クレハのプラズマ弾は外れたが、シノンの対物ライフル弾はしっかりと鯱のうちの一人を撃ち抜き、後方へと吹っ飛ばした。倒れた鯱は戦闘不能になったが、すぐに仲間の鯱が復活させるのは目に見えている。

 

 こいつらに勝つには、全員を戦闘不能にさせればいい。やるべき事は非常にシンプルだが、こいつら一人一人が異様な強さを持っているために、一人一人倒していくのが精いっぱいだ。

 

 勿論そのペースでは戦闘不能と蘇生を繰り返されてしまい、それがこちらが力尽きるまで延々と続く。現在のペースは明らかにそのパターンに嵌まってしまっており、活路が全く見いだせない。

 

 このまま戦い続けたところで勝てないが、とんでもない早さで移動してくる鯱達から走って逃げるのはほぼ不可能に近しい。戦っても勝てないし、退路も断たれていると来た。

 

 パーティの内の二人、アルトリウスとレイアは新人で、鯱達とも上手く戦えているとは言い難い。できれば彼らを守ってやりたいところだが、いよいよどうすればいいかわからない状態になりつつあった。

 

 どん詰まりの状況を目にしたキリトが思わず歯を食い縛ったその時だった。とても大きな破裂音が周囲に木霊した。

 

 いや、破裂音ではない。銃声だ。それも大型銃器からしか出せないような音だ。誰かがそんなものを持って発砲をしたようだが、その音を出せるくらいの銃器を持っている者はこの場に居ない。鯱達でさえも違う。

 

 

「今のは――」

 

 

 アルトリウスが呟いた次の瞬間、ゴグマゴグとピトフーイを襲っていた鯱の一人が遥か後方に吹き飛んでいったのが見えた。普通ならば上半身が粉々になりそうなくらいの威力の弾丸で貫かれたらしい。

 

 敵が一体減ったのを見るや否や、ゴグマゴグが鯱の反対方向に身体を向け、ピトフーイが不満そうな顔をしたのが見えた。

 

 

「はー、おっそい。これは再教育待ったなしだねー」

 

「へ?」

 

 

 ピトフーイの一言にレイアとクレハが首を傾げると、その視線の先に光が見えた。黒い影がこちらに向かって来ている。ヘッドライトが付いているので、車両かとも思ったが、シルエットが明らかに車両とは異なっていた。間もなくしてその姿がはっきりしたものに変わった。

 

 ――亀だ。全身が鋼鉄の装甲で包まれていて、特に背中の甲羅に該当する部分からはいくつかの砲門のようなものが見える。そして四本の足はキャタピラが装着されていて、この悪路を突破しているのがわかった。紛れもなく戦機の姿だったが、あのような戦機はこれまで戦っただろうか。

 

 思わず首を傾げそうになったその時、機械亀の甲羅から延びる砲門から弾丸が発射され、鯱達のうち二人が貫かれたのが見えた。そんなに早い弾丸ではなかったのに、鯱達は撃ち抜かれた。どうやら鯱達もあの亀の登場に呆気を取られてしまい、咄嗟に回避行動を取る事ができなかったらしい。

 

 

「ピト、居るな。やられていなくて何よりだ」

 

 

 迫り来る機械亀から声が聞こえた。それなりに野太い男の声だ。勿論聞き覚えはないが、その言葉の中にピトフーイの名前が含まれているので、彼女の関係者、もしくは仲間なのだろう。その姿が確認できない辺り、あの亀の中に完全に乗り込んでいるのだろうか。

 

 そんな事を思っている内に機械亀はキリト達の許へ到達したが、その時キリトは思わず息を呑んだ。近付いて来ていた機械亀は、リランよりも、ゴグマゴグよりも大きく、全長は恐らく十五メートル付近に到達している。砲塔の生えた甲羅を含む全高は五メートル前後で、フィールドでちらほらと見かける装甲車よりも大きい。

 

 しかも甲羅からは大砲のような砲塔が二本前方にある他、背部にはミサイルポッド、側面にはロケットランチャーが装着されている。さながら移動式の要塞のようだった。

 

 顔は角の生えたワニガメのような輪郭で、足はキャタピラが背面に合着している。安定性のある足だが、如何せん身体の重さがとんでもなさそうだから、どんな悪路も突破できるリランとは違うとわかった。

 

 

「おっそーい。何やってたんだゴラ」

 

 

 機械亀の到着を迎えるなり、ピトフーイが早速文句を言った。明らかに下の相手に言うような口調と声色であり、自分達と話している時には出されなかったものだった。そんなものをぶつけられた機械亀の、甲羅の一部が上方向に開いて、中から操縦士が姿を現した。

 

 身長は百九十センチを超えていて、全体的にとてもどっしりしている体格の、熊のような大男だった。深緑色のギリースーツを纏っているが、それはまるで毛皮のように見えて仕方がない。明らかに表に出て戦っているはずの大きな戦士が、鉄壁の守りを持つ要塞亀の中から出てきたものだから、キリトは思わず目を点にしていた。

 

 

「――エムさん、来てくれたんだ!」

 

 

 鯱の注意を逸らすのを終えたレンがやってきた。エム――非常に簡素な単語だが、それがこの大男のアバターネームであるらしい。呼ばれた大男はレンとピトフーイを交互に見てから、応じた。

 

 

「最近噂になっている黒雲を見たんでな。しかもそっちはピトの居る方とわかったから、駆け付けずには居られなかった」

 

「にしたって遅い。もっと早く来れたでしょうが」

 

「俺はレンみたいにAGIが高いわけじゃない。ついでに言えばこの《霊亀(レイキ)》もだ」

 

「はいはい。けど遅かったのは変わりないので、後で良い事してあげる」

 

 

 エムの顔が苦い物に変わる。ピトフーイの辛辣な態度を嘆いているようにも見えるし、彼女の期待に答えられなかった事を悔いているようにも見えた。

 

 そんな二人のやり取りを見つつ、アルトリウスが声を出す。

 

 

「ピトフーイ、この人は? 仲間なのか」

 

「あぁそうだよ。正確には――」

 

 

 ピトフーイが言いかけたところで、鯱達が一斉に攻撃を仕掛けてきた。エムとそのビークルオートマタによって崩された後衛、前衛の体勢を立て直し、こちらを包囲してきている。このままでは袋叩きにされるだけだ。エムとそのビークルオートマタが来ても状況は変わらなかったのか。

 

 

「拙いわ、取り囲まれて――」

 

 

 シノンが声を出した次の瞬間、空が一瞬だけ光ったかと思うと、間髪入れず鯱達の許に何かが降り注ぎ、連続で爆発した。

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

 グレネード弾による爆発にも似たそれを見て、フカ次郎が声を上げた。今の爆発はキリトはとても見覚えがあった。いや、見覚えがあるどころではなく、ここ最近毎日のように見ていたものだ。

 

 上空から降り注ぐ爆発物。頼もしい火力。それを積んでいるのは――。

 

 ふと顔を上げると、闇の雨に紛れて光が見えた。ヘッドライトだ。先端部にヘッドライトを付けた何かが、またしてもここに向けてやって来ている。その姿はすぐさまはっきりしたものになった。

 

 戦闘機だ。エネミーとしてもあまり登場する事のない、戦闘機が飛んで来ていた。その形は未来の物としても異様な方に入っている。その姿を確認するなり、キリトは思わず驚いてしまった。どうしてここに。

 

 間もなくして、プレミアが前に出て手を振った。

 

 

「来てくれました!」

 

 

 その姿を見たのか、戦闘機は一度ぎゅんと加速したかと思うと、空中で変形した。身体が上下に半回転し、それまで背中だった部分が腹になる。ジェットバーニアだった部位は展開されて後脚となり、翼は折れて肩部分に畳み込まれ、前脚が伸びる。そして頭部と連結されていた槍の穂先に見えるパーツが腹部に格納されると、狼の輪郭が姿を見せた。

 

 さながら特撮番組に出てくるマシンの変形シーンのようなシーケンスで姿を変えた狼型戦機は、どしんと着地して、まっすぐキリトの許へ走って来た。キリトは狼型戦機に駆け寄り、その名を呼ぶ。

 

 

「リラン、どうして!? お前には待機しろって言っておいたぞ!?」

 

 

 リランから《声》が返ってくる。何度も聞いている初老女性の声色だ。

 

 

《我も孤独にグルメを堪能するつもりでいた。だが、プレミアが信号を飛ばしてきて、どうしても来てくれというのでな》

 

 

 そういえば先程、プレミアが上空に向かって何かを飛ばし、「呼んだ」と言っていた。何の事なのかさっぱりわからなかったが、この時を以てはっきりした。その事をプレミア本人が告げる。

 

「はい。《MHHP》、《MHCP》の皆で作った信号連絡を使って、リランをここに呼びました。来てくれて嬉しいです、リラン」

 

「はえー! そんなものいつの間に作ったんだい」

 

 

 一番上の姉の到来に喜ぶプレミアと、子供達の行動に驚く母親のイリスだったが、その姉はすぐに妹と母に背を向け、視線を鯱達に向けた。

 

 

《何があったかと思えば、またこいつらか。しかも数が増しておる》

 

「しかもここにはアーサーとレイアも居る。こいつらのやってるのは新人(ニュービー)狙いの悪質な嫌がらせだ。けれど一筋縄じゃ行かないんだよ」

 

《なので我の力が必要というわけか》

 

「そういう事だ。来てくれてありがとうよ、相棒!」

 

 

 まさかの《使い魔》の到来に胸の高鳴りを覚え、キリトはリランの背中の操縦席に飛び乗った。視線が高い位置に移動し、視界の右端のステータスバーにリランの状態が表示される。

 

 残弾数は最大数、損傷率はゼロ%。バッテリーは……十%減って八十%になっていた。ビークルオートマタとなっているリランの弱点は、飛行時にバッテリー残量を著しく消費するという点だ。

 

 そしてリランはこのフィールドの転送地点からずっと飛んできたので、その分思い切り使われてしまったところだろう。またしてもバッテリーのチャージに相当なWCを使う事になってしまったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。今はこの鯱の群れを撃破する事が最優先事項だ。

 

 

「ねぇキリト、一気にやっちゃわない? 三機もビークルオートマタ居るんだから、すごいのできるよ! 三人くらい誰でもいいから乗せな!」

 

 

 ピトフーイから声がした。確かにこの場には大火力を持つビークルオートマタが、三機も揃っている。それらの火力と、皆の火力を一気にぶつければ、この状況を打開する事もできるはずだ。その誘いに乗らない手はない。

 

 

「わかった! シノンとアーサーとレイアとクレハ、俺の背後に乗り込め!」

 

「プレミアちゃんとティアちゃんに先生とやら、ゴグマゴグの背中に乗りな!」

 

「レンとフカ次郎、霊亀の背中に貼り付け!」

 

 

 三人で呼びかけると、リランの背中にシノン、アルトリウス、レイア、クレハの四人がジャンプして乗り込んできた。明らかに定員オーバーだが、流石はリラン、何ともなさそうにしていた。

 

 そしてピトフーイのゴグマゴグの背中にプレミアとティアとイリスが、エムの霊亀の背中にレンとフカ次郎が飛び乗った。三機のビークルオートマタでトライアングルを形成し、取り囲む鯱の群れを狙う。

 

 

「準備は良いね――!?」

 

 

 ピトフーイが声を上げたのを合図にして、キリトは号令を放った。

 

 

発射(ファイア)ッ!!」

 

 

 全員で全ての銃火器の引き金を絞った。間もなくしてトライアングルから拳銃弾、超大型拳銃弾、ライフル弾、ミサイル弾、ロケット弾、対物ライフル弾、レーザー弾による弾幕が鯱達へ向けて展開された。闇の雨を突き破らんばかりの弾幕と大爆発の嵐が吹き荒れる。

 

 鯱達はそのステータスを持って回避や防御、反撃をしようとしたが、あまりの弾の数に回避も防御もできず、吹き飛ばされていった。

 

 やがて三機のビークルオートマタとプレイヤー達による嵐が止むと、鯱達の姿は消え、その獲物だった銃器と武器は地面に落ちていた。それからほとんど時間を置かなず、闇の雨を降らせていた黒雲は消えて、黄昏のような光が差し込むようになった。

 




――今回登場武器解説――


ダネルMGL
 実在するグレネードランチャー。南アフリカにあるアームスコー社という会社が開発している、リボルバー式六連グレネード投擲銃。リボルバー拳銃と同じような回転する弾倉によって、グレネードの連続発射を可能としているのが特徴。

 世界各国の軍に配備されている他、南アフリカ軍や警察では対テロ、対ゲリラ用としても採用されている。


霊亀(れいき)
 本作オリジナル要素。正式名称は《駆動式亀型小型要塞:霊亀》。全身を分厚い宇宙戦艦装甲で固めている、守りに特化したタイプの戦機。エムのビークルオートマタ。

 背中の甲羅にコクピットがあり、そこに乗り込む事で操縦できる。甲羅とその周辺にミサイルランチャー、ロケットランチャーを配備、更に二本のスナイパーカノンが伸びている。

 並大抵の攻撃では破壊できないが、動きが他の戦機と比べると鈍重であるため回避は得意でなく、対ビークルオートマタ弾を撃ち込まれ続けると容易く破損する。更にコクピット内は熱が籠りやすい構造になっているため、扉を開けて換気したりする必要があるが、その時にグレネードでも投げ込まれたら終わり。


 くだらない事だが、あだ名は『カメックス』や『ドダイトス』。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。