キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 加わる人達。

 


07:新たな同志達

 

         □□□

 

 

「レンちゃんー、急にゴグとマゴグに命令しちゃ駄目だってー」

 

「だって、ピトさんが攻撃しちゃ駄目な人達を襲おうとしてたんだもん」

 

「いや、レンちゃんに言われるまでわからなかったよ、そんなん」

 

 

 キリトの目の前で、二人の女子が話し合っていた。

 

 《ピンクの悪魔》と呼ばれるプレイヤーと交戦して勝利したあと、彼の者達と話し合い、自己紹介をし合った。

 

 《ピンクの悪魔》と呼ばれていたのは、サブマシンガン使いの《レン》という女性プレイヤーだった。キリト同様にAGIを上げているステータスをしているが、その上げ方はまさしく極振りで、キリトでは到底出せないような速度で移動、ジャンプができるのが売りだという。

 

 だが、目に付くのは彼女はプレミア並みに小柄であり、全身をピンク色の装備に包んでいるという特徴だった。ここまでピンクで目立つのに、見つけたプレイヤーを目にも止まらぬ速さで倒してしまうから、《ピンクの悪魔》などという不名誉な別名で呼ばれるようになってしまっていたらしい。

 

 そんなレンの詳しい話をしてくれたのが、彼女に付き添っているグレネードランチャー使いの小柄な少女、《フカ次郎》。かなりテンションが高めであり、一緒に話をするだけで場の雰囲気を一気に明るくする、姿を持つ南風のような人物だ。

 

 倒れたフカ次郎を蘇生し、どちらも敵意がない事を示し合った後、レンは離れた友達に連絡をした。するとその友達の方からシノンとアルトリウスの声と戦闘音がしたからキリトは大いに驚き、停戦を求めた。

 

 レンは即座に友達に停戦連絡、更に犬にするような命令をした。そこで通信端末から戦闘音が止んでくれて、彼らの無事が確認できるようになった。キリトはレンとフカ次郎、プレミアとティア、イリスと一緒にシノン、アルトリウス達の(もと)へ向かった。

 

 着いた先にて、分かれて行動していたシノンとアルトリウス達と合流し、そこでレンの友達、《ピトフーイ》と出会う事になり、今に至っている。

 

 

「にしてもびっくりしたぜ。ピトフーイって言ったら、トップランカーだったじゃないか。しかもビークルオートマタを使ってたなんて」

 

 

 レンと話し中だったピトフーイが振り向き、にかりと笑う。

 

 ピトフーイと出会った時の一番の驚きは、やはり彼女がビークルオートマタ使用者だった事だ。しかもそれはリランと同じ狼型で、二つの頭を持つ異型のモノだった。なんてものを持っているんだと思えば、それは分離して二体の狼になったものだから、驚きが連続した。

 

 今は少し離れた位置で待機しているその二匹の狼に、プレミアとティアが構い続けている。そんな様子を一目見てピトフーイが言った。

 

 

「まぁねー。でも、この子達を手に入れられたのはホント偶然だったんだよね。《SBCグロッケン》の地下遺跡だったかなぁ、そこで《オルトロス》っていう強いボスエネミーが居てさ。そいつとの戦いが面白いのなんの! ついつい通っちゃって、何度も何度も戦ってたんだわ」

 

「ピトさん、変な事してるでしょ。経験値とかドロップアイテム目当てとかじゃないんだよ?」

 

 

 レンからのピトフーイへの追伸に、キリトは苦笑いする。

 

 特定のボスと何度も戦うために、出現ポイントに通うというのはよくある事だ。現に自分もレベリング、レアドロップ目当てで、一つのダンジョンに通ってボスと何度も戦うような事をやった。だが、そこでボスと戦う事そのものが楽しくて通うなんて事は自分でもやらなかった。

 

 そんな不可思議行為をやっていたというピトフーイは続けた。

 

 

「そしたらいつの間にか、オルトロスのパーツが全部揃っちゃってて。めちゃくちゃ高いWC取られはしたけど、まぁいいかと思って完成させちゃったんだよねぇー」

 

「それがあんたのオルトロスなのね」

 

 

 シノンはピトフーイのビークルオートマタを見た。二匹の鋼鉄の黒狼は行儀よくお座りをして待機し、プレミアとティアと接している。しかし、すぐに持ち主のピトフーイは首を横に振った。

 

 

「あぁ、だからね、オルトロスっていうのは型番っていうか、製品の名前っていうかでね。あの子達は《ゴグマゴグ》っていう名前なんだわ。右にいるのが《ゴグ》、左にいるのが《マゴグ》」

 

 

 《ゴグマゴグ》――その名前にキリトは思わずもう一度苦笑いした。

 

 ゴグマゴグとは、ブリテン島に伝わる神話に登場する巨人の事だ。その名は《敵対する者》を意味しており、神の勢力に反旗を翻す悪しき者達を率いる者だったという。しかしそんなゴグマゴグにもいくつか説があり、一説ではゴグとマゴグという兄弟を合わせてそう呼ぶというのもあるという。

 

 そしてゴグマゴグは、後にアーサー王伝説に登場するブリタニアの先住民の一族とも言われている。そんなゴグマゴグの名前を、本来オルトロスという名を持つ戦機に付けるとは。キリトは思わずピトフーイのネーミングセンスに脱帽したい気持ちになっていた。

 

 直後、ピトフーイはキリトに向き直った。

 

 

「それで、キリトも同じじゃない? 私と同じビークルオートマタ使いっていう希少種だっていうの」

 

「あぁ。そのあたりの話は有名だろうな」

 

「プレイヤーの間じゃ当たり前の事みたいになってるわよぉ。けど変だねぇ。キリトのビークルオートマタ、どこよ? もしかして壊した? それとも奪われた?」

 

 

 キリトはまたしても苦笑いしながら状況を話した。話し終わるとピトフーイは納得したようにけらけらと笑った。

 

 

「なるほどねぇ。動かすだけでも大金が必要だから、出撃させてないんだぁ。残念、ここに居れば私のゴグマゴグとロボバトルもできたかもしれないのに」

 

「確かにな。そう言うピトフーイはゴグマゴグをここまで連れて来てるけど、そんなにWCに余裕があるのか」

 

 

 そこで割り込んできたのがレンだった。

 

 

「ピトさんはね、色んなプレイヤー達を進んで襲ってるから、WCにできる武器を沢山手に入れては売り(さば)いてるんだよ。おかげでゴグとマゴグをずっと動かしてても大丈夫みたい」

 

「そのとおり! 確かにバッテリー代と修理費は高くつくけど、その時は稼げばいいだけだよ。現にゴグとマゴグが入れば大体のプレイヤーもスコードロンもぶちのめせるし」

 

 

 確かにピトフーイの様子はどこか盗賊や山賊を思い起こすところがある。ゴグとマゴグを動かしていくためにゴグとマゴグを稼働させて、通行人のプレイヤー達を襲い、その武器を奪って売り捌いているなど、本当に賊のようだった。

 

 

「だからキリトもがんがんビークルオートマタは使った方が良いよー。やっぱり強いんだから使ってあげないとさ」

 

「あぁ、前向きに検討しておくぜ」

 

「けど、ビークルオートマタの命令権とかには気を付けなよ。なぁんかゴグとマゴグは私よりレンちゃんを気に入ってるみたいで、レンちゃんの言う事ばっかり聞くんだよねぇ……」

 

「め、命令権な。それは問題ないぜ……」

 

 

 そう答えると、脳裏にリランの姿が思い浮かんできた。彼女は今頃父親に教えてもらったという《孤独な食事》を《SBCグロッケン》で堪能している事だろう。その時も至福の時なんだそうだが、やはり狼竜――ここでは機鋼狼――になってフィールドを駆け、空を飛んでいる時には(かな)わないそうだ。

 

 やはりリランを率先して戦わせてやる事にしよう。ピトフーイに意見をもらったキリトは、考えを改めていた。

 

 

「それにしてもフカ、何があったの。気付いた時にやられちゃってたけど……」

 

 

 レンが問いかけるなり、どこからともなく取り出したジャーキーを(かじ)っていたフカ次郎が答えた。

 

 

「いやね、あの時はなんか空飛ぶ兵器みたいなのにやられたんだよな。なんか空に急に出てきて、急にレーザービーム飛ばしてきてさ」

 

 

 キリトはその仕組みに心当たりがあった。その主の(もと)へ目を向けたところ、居たのは自分の右隣のシノン、その隣に座っているイリスだった。手元を見てみると、青い光を纏う白い小さなキューブがふよふよと浮かんでいた。やがてその持ち主は口を開けた。

 

 

「そいつはきっとこれの仕業だね。キューブセントリーガン」

 

 

 直後、フカ次郎が喰い付く様にイリスに近付いた。かなり興奮しているような眼をしていた。

 

 

「えっ、何それ!? 見た事ないんだけど!?」

 

 

 そう言われたイリスは説明した。彼女の使っているキューブセントリーガンとは、アファシスのアップデートと共に《GGO》に実装された新要素だ。

 

 ルービックキューブのような形の白い立方体は、ドローンのように浮遊して動き回り、敵を補足すると内部よりレーザー光線を撃つようになっている。しかしその最大の特徴はステルス機能で、接敵して砲撃を行うまで透明になっていて、目視では発見できない。

 

 砲撃時に強制的にステルスが解除されるが、その際に敵の死角に飛ばせていれば、事実上発見されないまま一方的に砲撃する事ができる。敵の不意打ちするには最高のアイテムと言えるのだが、放てるものがレーザーだけであり、プレイヤーは光学減衰防具を装備しているのが当たり前であるため、思ったよりも威力が出ないという事で、注目を浴びる事はなかった。

 

 イリスの説明が終わると、フカ次郎が悔しそうな顔をした。

 

 

「そんなのあったのかよー。どこの攻略サイトでも取り上げてなかったぜ」

 

「そりゃそうだろうね。最近の攻略サイトは企業が作ってるものばっかりで、プレイヤーに主に支持されてる情報しか基本的に載せない。マイナーな武器とかあまり役立たないアイテムとかはメイン情報に隠れているか、もしくは掲載されてないかのどっちかだからね」

 

 

 フカ次郎は完全に「やられた」と言わんばかりの様子だった。だが、イリスの持っている装備はまだある。その事に気付いたのはレンだった。

 

 

「フカを倒した装備はわかったけど、あの時わたしを撃ったイリスさんは何を使ってたの。煙幕が無くなってたのに、全然見つからなかったよ」

 

 

 イリスは「くふふ」と笑って、帽子の(つば)を軽く摘まんだ。

 

 

「それはこれだよ」

 

 

 イリスがそう言った瞬間、その姿が()()()()()()()()。突然イリスの姿が確認し辛くなった事によって、アルトリウスとクレハとレイア、レンとフカ次郎に驚きが走る。しかしピトフーイだけは冷静で、「へぇ~え」と言っていた。

 

 

(レゲンボゲン)(リュストゥング)ね。面白い装備使ってんじゃないの」

 

「レゲンボゲンリュストゥング?」

 

 

 クレハが首を傾げながら言うと、イリスがまたしても説明をした。

 

 《レゲンボゲン・リュストゥング》とは、光学迷彩ならぬ()()()()を搭載している防具である。光学迷彩のように姿を完全に消す事はできないが、周囲の風景や地面のテクスチャを瞬時に読み取ってコピーし、その色合いや質感を完全再現する事によって、敵から補足されにくくなる性質を持っている。

 

 その擬態効果は折り紙付きで、虹学迷彩を起動したイリスを遠くから補足しようとしても、全く見つけられなかったという経験をシノンがしているくらいだ。レンとフカ次郎と交戦した時にイリスの姿が見つからなくなったのは、イリスが狙撃手(スナイパー)さえ(あざむ)く擬態効果を出して周囲に溶け込んだからだった。

 

 ただし、虹鎧は姿勢を低くしたり、伏せていたりしていないと擬態効果が得られないというデメリットも存在しているので、完全や完璧がやたらと求められる《GGO》の現環境では、ほとんど採用されない傾向にあった。

 

 その説明を聞き終えたレイアが、アルトリウスと一緒に頷きながら答えた。

 

 

「そんなものもあるのですね! 光学迷彩ばかりだと思っていたのに、意外です!」

 

「攻略サイトとか見てるけど、そういうのは全然見当たらないんだよな。どれがおすすめとか、おすすめの銃はどれとか、そういう情報ばっかり上がって来てる気がする」

 

 

 アルトリウスの言葉に、イリスが呆れたように両掌を広げた。

 

 

「だから言っただろう? 企業の攻略サイトはどこも皆そんな感じだよ。客呼べそうな情報ばかり載せてるせいで、本当に強い武器とか装備が埋もれたりしてるんだ。だから、攻略サイトに載ってないような、もしくはそれ書いてる人が見落としてるような情報を掴めたなら、拡散しないとだよ」

 

 

 キリトは思わず頷いた。攻略情報を自ら探し出して広めるというのも、ゲームの醍醐味の一つなのだ。それをこの者達に話さずにはいられなかった。

 

 

「そうだぜ。自分で正しい情報を見つけられたら、遠慮せずに発信していくんだ。そしたら役立つ情報としてどんどん拡散していくよ。それで発信者は一躍有名人になったりするぞ」

 

 

 そこでクレハが何かに気付いたように声を上げた。

 

 

「あ、だから《SBCフリューゲル》一番乗りなんですね! 誰よりも早く《SBCフリューゲル》に乗り込めば、中の情報を拡散する事ができますもんね!」

 

「それに加えて一番乗りって事で、《GGO》ですごく有名になっちまうかもな。アーサー、クレハ。そういうの、わくわくしてこないか」

 

 

 キリトの言葉に、アルトリウスもクレハも頷いた。言葉通りのわくわくしているような顔をしている。

 

 

「あぁ、すごくわくわくしてくる。俺達が一番乗りになって、一番早い情報の拡散者になって、後続プレイヤー達が求める情報を持ってるチームになるなんて」

 

「そうなれば《GGO》があたし達を中心にして一気に盛り上がるわ! そんなのすごいに決まってるじゃない!」

 

 

 この国内外のプレイヤーが集まる《GGO》で、大きな話題を(さら)う存在になりたいし、何より新要素をこの目で確かめて楽しみ、後続プレイヤー達に拡散していきたい――キリトはそんな思いと目標を胸にしているからこそ、《SBCフリューゲル》を一番早く攻略するためにレベリング、探索を進めている。

 

 その思いと目標はアルトリウスとクレハにも無事伝わり、彼らも抱くに至ったようだ。そんな彼らを見て、レンとフカ次郎が反応を示した。

 

 

「え? キリト達は《SBCフリューゲル》一番乗りを目指してるの」

 

「マジか? 私達と同じなのかよ」

 

 

 キリトは少し驚いたような気持ちになって、彼女達へ向き直った。

 

 

「レン達も同じなのか」

 

「そうだよ。わたし達も《SBCフリューゲル》を誰よりも早く攻略したいって思って、こうしてフィールドに出てたんだ」

 

「《SBCフリューゲル》は今や《GGO》のプレイヤー達の憧れの的だぜ。そんなもんに飛び付かないで居られない私達じゃねえし、一番乗り目指さないってのも無しだ!」

 

 

 つまり彼女達と目的は同じであり、志も同じくしている。キリトはふと思い付いたように答えた。

 

 

「じゃあ、一緒に行くってのはどうかな。こっちもできる限り戦力が大きい方が嬉しいんだ」

 

「それに、こっちには女の子が沢山いるのよ。女の子は《GGO》じゃ数少ないから、皆女の子にもっと来てもらえないかって言ってるわ」

 

 

 

 シノンが続けると、レンとフカ次郎が「マジで!」とハモった。女の子が沢山いるというのが、彼女達にとっては輝かしい要素だったらしい。

 

 

「丁度わたし達、もっと沢山の女の子プレイヤーと友達になれないかなって思ってたんだ!」

 

「どれくらいいるのかわかんないけど、多分女子会できるレベルだろ? 《GGO》で女子会とか、やってみたかったんだよなぁ!」

 

「えぇ、女子会なんか毎日やってるレベルよ。レンとフカ次郎が来てくれれば、もっと盛り上がってくれるわ」

 

 

 そう伝えるシノンの顔は穏やかだった。シノンも友人達との女子会を大いに楽しんでいるし、女子会は人数が多ければ多いほど楽しいとも言っていた。なのでレンとフカ次郎にも加わってほしいのだろう。そんなシノンの思いは、割と簡単に通じたようだった。

 

 その対象の一人であるフカ次郎が、アルトリウスに向き直った。

 

 

「それにさ、キリト達のところに居るんだろ、アーサーはさ」

 

「あぁ、そうだよ。俺とクレハもキリト達のチームに居る」

 

 

 アルトリウスの返事を聞いたフカ次郎は、にかっと口角を上げた。しかしそれは何かを(たくら)んでいるような悪い笑みに近しい。

 

 

「アーサー、お前さん噂になってんぜ。とんでもねぇ幸運(リアルラック)の持ち主だってな」

 

「えっ、そうなのか」

 

「おいおい、無自覚かよぉ。お前は何をした? そうだ、《GGO》ログイン初日で大会に出場してみたらアファシスの《Type-X》なんていう、誰も手に入れた事のないレアものを手に入れた。更に《GGO》攻略の猛者集団のキリト達の仲間になった。こんな奇跡みたいな事できてるの、アーサーだけなんだぜぇ? これはお前がとんでもねぇリアルラックの持ち主じゃなきゃできねえ所業さぁ」

 

 

 フカ次郎の言うとおり、アルトリウスの運の良さの話は《GGO》に広がっている。やはりアファシスの《Type-X》であるレイアを《GGO》初日で手に入れる事ができているというのは、他プレイヤーの誰もが成し遂げられていない出来事であり、余程リアルラックが高くなければできない事である。なので(いや)が応でも注目が集まるのだ。

 

 そしてこの《GGO》で注目の的になる事は、プレイヤー達にフィールドで狙われやすくなり、アイテムやアファシスを奪われやすくなるという事でもある。アルトリウスとその仲間であるクレハをチームに加えたのは、リアルラックは高いけれどもまだ新人(ニュービー)の域を出ないアルトリウスを、他プレイヤー達から守りたいという思いもあったからだった。

 

 

「だからよぉ、お前と一緒に居れば私もそのリアルラックに(あやか)れる。そうだろぉ?」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「そうだぜ。お前と一緒に居れば、なかなか手に入らないアイテムもすんなり手に入るだろうし、何なら懸賞で良い物当てまくれるだろうし、宝くじで大金手に入れるのも夢じゃねえかもなぁ。あぁ幸運の神様、どうかこの私に最高の幸運を(さず)けてくださいませ! ジャーキーと手に入った武器防具を奉納(ほうのう)しますゆえ!」

 

 

 そう言ってフカ次郎がねだるような、拝むような動作を見せつけてくるものだから、アルトリウスとクレハとレイアの三人はびっくりしていた。更にレンがツッコみを入れる。

 

 

「な、なんかフカの中でアーサーが神格化されてるッ!? つーか宝くじとか《GGO》と全然関係ないものねだるな!」

 

 

 確かにアルトリウスはリアルラックが高いのだが、そんな神通力を使える招き猫みたいな力があるわけでもない。レンのツッコみは的を得ていたのだが――なんだか二人が漫才師のように見えてきて、キリトは思わず苦笑いした。

 

 直後、レンがキリトに向き直った。

 

 

「……けど、わたしもフカと同じ。キリト達と目的同じだし、何よりキリト達と一緒に居ると楽しそう! だから一緒に行きたいんだけど、いいかな」

 

 

 レンとフカ次郎、ピトフーイは全員が実力者だ。彼女達が加われば百人力どころか千人力にもなるだろうから頼もしいし、仲間達の中で大半を占める女性陣が、新たな女性陣の到来に喜んでくれるのも間違いない。断る理由は存在しない。

 

 把握したキリトは、頷きを返した。

 

 

「いいぜ。これからよろしくな」

 

「ありがとう! こちらこそよろしくね!」

 

 

 そう言ってレンはにっと笑った。新たな仲間となった彼女達の姿は、一段と頼もしくなって見えた。これからの攻略は彼女達によって、もっと楽しくて快適なものになってくれるに違いない。その時が目に見えるようだった。

 

 だが、次の瞬間にピトフーイが強引にキリトの肩に腕を回し、ぐいと引き寄せてきた。急な動きに驚くキリトを差し置き、ピトフーイは(ささや)いてきた。

 

 

「キリト、あんたこれで何人目?」

 

「何がだよ」

 

「女の子の数だよ。あんたの仲間だけでも相当な数の女の子いるじゃん? そこに私達も加わるじゃん? それをまとめ上げるキリトって、ハーレムの主じゃん~? なになに~、何か特殊なフェロモンとか出しちゃってる~? 女の子に囲まれてへらへらできるなんて、ただれてるねぇ~え?」

 

 

 あからさまにからかってきているのがわかり、キリトは溜息を吐いた。

 

 確かに自分の周りには女の子――というか女性――が多い。シノン、リラン、ユイ、アスナ、ユウキ、リズベット、シリカ、フィリア、リーファ、ストレア、アルゴ、レイン、セブン、プレミア、ティア、クレハ、レイア、ツェリスカ、デイジー、イリス。そしてレンとフカ次郎とピトフーイ。合計で二十三人もいる。言われてみれば確かに、ピトフーイの言うとおりの部分もある。

 

 だが、彼女達はその全員が共に死線を潜り抜けた仲間であり、かけがえのない存在だ。女性ばかりなのは、その性別がたまたま女性に偏っていただけに過ぎない。

 

 それにそもそも彼女達全員、その能力が有名男性プレイヤーよりも遥かに高くて強い場合も多いから、一緒に行動していたいと思える部分もある。現に極限環境に晒された時、本当に冷静で的確な判断を下し、力を発揮するのもまた女性の方であると言われている。

 

 だからこそ組織の幹部などに女性がなっている場合も多々あり、そんな女性に素直に付いていく男性も非常に多い。そんな事もあるから、もしかしたら自分に女の子達が付いて来ているのではなく、自分が無意識に女の子達に付いて従っているのではないか――そう思った事も一度や二度ではない。

 

 

「……確かに皆女の子だけど、へらへらした事ないよ」

 

「本当にぃ? 男ならへらへらしなきゃいけない状況でしょ~?」

 

「だって皆強いし、頼もしいからな。それこそ君みたいに」

 

「おやおや~? キリトさんはそうやって女の子口説いちゃうタイプなのかなぁ~――」

 

 

 いよいよ不快感が増して、答える気が無くなってきたその時だった。少し遠くにいるゴグとマゴグに接しているプレミアとティアが声を上げてきた。誘われて見てみれば、ゴグとマゴグは身構えるような姿勢を取って北を向いている。

 

 

「皆、空を見てください!」

 

()()が来てる!」

 

 

 空を指す彼女達の視線の先に、同じように視線を向けた。闇のようにどす黒い巨大な雲が、こちらに向かってきていた。気付いたキリト達が逃げるよりも前に、雲は上空を覆い尽くしてきた。

 

 




――今回登場武器解説――


キューブセントリーガン
 本作オリジナル要素。ルービックキューブのような掌サイズの立方体であり、ドローンのように浮遊している。所有者の敵を認識するとステルスになって飛び回り、死角から敵を撃つ事ができる。

 ただし発砲する際には姿が見えてしまううえに、一度目以降はバレットラインが出てしまうため、一度目しか不意打ちができない。それ以降は持ち主と一緒に射撃をするなどのバックアップをする事が大半。


(レゲンボゲン)(リュストゥング)
 本作オリジナル要素。虹学迷彩という、テクスチャそのものを取り込んで反映する事で高いカムフラージュ効果を出す事が出来る迷彩を搭載した戦闘鎧。光学迷彩のように姿を完全に消す事はできないが、狙撃手でも発見は困難なくらいのカムフラージュができる。

 ちなみにレゲンボゲンとリュストゥングはそれぞれドイツ語で虹、鎧。


オルトロス
 本作オリジナル要素。正式名称は《鋼双狼(こうそうろう)オルトロス》。通常は身体の細い二機の狼型戦機だが、どちらも左右のどちらかにしか武装が無く、更に武装の無い方の前足が大きく太い形になっているのが特徴的。

 これは左右合体機構のためであり、二機が並んで身体同士を合着させる事で、強靭な鋼鉄の身体、肩から生える巨腕、双頭を揃えた一機の狼型戦機となる。ビークルオートマタとして手に入れる事も可能だが、そうなった時は命令権がちゃんと持ち主を優先するようにする必要がある。





――おまけ・リランの《孤独な食事》――


リラン「時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たす時の束の間くらい、人は自分勝手で、自由であるべきだ。何故なら、誰にも邪魔されず、気を遣わずに物を食べるという孤高の行為こそが、現代人に平等に与えられた、最高の《癒し》と呼べるからである――それが我が父の教えだ。
 その教えに従い、我は孤独な食事による《癒し》を得に行く」


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