01:アルトリウス
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「リラン、このイベント大会の景品が《アファシス》って言うのは本当なのか」
《そういう噂ではあるな。もしかしたらその他のアイテムである可能性もあるが》
「んんー、出来れば《アファシス》がいいなぁ。今回のアップデートの目玉じゃないか」
滑走する戦機《リンドガルム》となっている《使い魔》、リランの背中の操縦席に乗っているキリトは、頭の中に響くリランの《声》に応じていた。
このイベント大会にて、先日の大型アップデートで導入された《新要素》が手に入るかもしれない――そう聞いたからこそキリトはこのイベント大会に参加し、このダンジョンに潜っていた。
一応このダンジョンにはシノンと一緒に潜っているが、彼女とは別行動中であり、手分けしてこのダンジョンの探索を行っているのだった。
別行動という事で、現在の彼女がどうなっているかは音声通信でしか知る事が出来ないため、心配ではあるが、ここ最近でより強くなったのが彼女だ。そんなすぐに苦戦する事もないだろう。そう信頼できるからこそ、キリトは彼女との別行動を選んでいた。
さて、彼女のルートでは何が見つかっているのだろう――そんな事を考えていると、リランの《声》がまた届いてきた。
《キリト、優勝賞品だけが目玉というわけではないぞ。いや、もしかしたら優勝賞品は狙う必要がないのかもしれぬ》
「どういう事だ」
《運営が事前に出している情報によると、このダンジョンのどこかに激レアアイテムが隠されているという話だ。もしかしたらそちらを狙う方が、この大会でやるべき事かもしれぬぞ》
キリトは少しだけはっとする。
そういえば、《GGO》の運営からのイベント大会開催の発表の時、そんな情報があった。優勝賞品もレアアイテムであるが、会場となるダンジョンのどこかに非常にレアなアイテムが眠っているから、探し出すのも良いという話だった。
「そんな話があったな……ん? って事は優勝賞品が《アファシス》じゃなく、その激レアアイテムこそが《アファシス》かもしれないのか!?」
《その可能性も十分にあると言えるだろう。探してみるか》
勿論探してみるしかない。キリトは頷く代わりにリランのハンドルを力強く掴んで答えた。
「リラン、お前のレーダーで探し出せるか」
しかしリランは首を横に振った。
《残念だが、ここにはレーダーを狂わせるジャミングが常時張り巡らされているらしい。おかげで何も検知する事が出来ぬ》
それは予想していなかった事ではない。ビークルオートマタの搭載しているレーダーシステムは、プレイヤーもエネミーも、アイテムも探し出せる優れ物なのだが、一般プレイヤーが所持できないものである。
そんなものを公式の大会に持ち出せようものならば、ビークルオートマタを持っているプレイヤーと持っていないプレイヤーの間で大きな格差が出来てしまう。だからこそ、この大会内ではリランのレーダーシステムは使えないようになっている。
それに、敵対する事になる相手プレイヤーも、全員が対ビークルオートマタ特効弾薬の配布を受けている。対ビークルオートマタ特効弾丸は、普通の弾丸では到底倒せないビークルオートマタを容易に倒す事が出来る特殊弾薬であり、ビークルオートマタを所有していないプレイヤーが持ちうる、ビークルオートマタを所有しているプレイヤーへの最高の抵抗手段だ。
公式大会で必ず配布される代物であるそれは、最強のビークルオートマタであるリランにも数発で激甚なダメージを与えられるものであり、キリトからすれば非常に危険な存在だ。
だから今はいつもより気を張って、敵対プレイヤーの存在を感じ取ろうとしていた。それに加えて、レアアイテムの気配も察知しなければいけなくなったようだ。
「そうだろうな。なら、レアアイテム探知は俺に任せてもらおうか。俺がレーダーになって探し出してやる」
《……お前、何か感じ取れるのか》
「……何も感じない」
直後、リランはずっこけるように一瞬だけ体勢を崩した。その背中に居るキリトも一緒にずっこけそうになったが、ハンドルを握り直す事で体勢を維持した。会敵中だったら一瞬にして狙いの的にされて危ないところだった。
思わず怒ったキリトはリランに言う。
「リラン、急に揺らすなっての! なんだよ今の動き!」
《お前が自信満々に言ったかと思えば、結局何もないと続けたからずっこけたのだ! 何も感じ取れないならば最初からそんな事を言うでない!》
彼女の言っている事は
勿論そんなものはただの思い過ごしだ、思い込みだとリランにもシノンにも、他の仲間達にも言われたが、キリトが予感したところに本当にエネミーが潜んでいたり、レアアイテムが隠れていたりするものだから、その時は否定した者が全員
意外と俺の勘は当たるのか――半信半疑の域は出ないが、キリトは今、自分の直感を信じるようにしていた。
その直感は今、目の前の方角を指している。そこにいけばきっと何かがあるはずで、レアアイテムである可能性もないわけではない。
キリトはその直感を信じる事にして、リランに指示をした。
「あぁ、今のは取り消す。何も感じてないわけじゃないんだ。前だよ。前の方角から、何かがありそうなのを感じる。だからこのまま進んでくれ」
《本当かぁ? まぁ、道は真っ直ぐに続いておるから、進むしかないわけだが》
そう伝えてきたリランは滑走を続けた。中々風景に変化は出て来ない。鋼鉄の壁に鋼鉄の床。乱雑に積まれた工事用具や建物を建設する際に使う階段。そして建築に使われていたであろうタワークレーンが分解された物。
かつての文明の名残を感じさせるそれらは、今となっては銃弾や擲弾を防ぐ遮蔽物であり、一種の土嚢のようだった。
その群れが見えてきたため、リランは滑走を止めて脚を地面に着け、がしゃがしゃと音を立てて走るようになった。揺れるようになったリランの背中のハンドルに掴まりながら、キリトは気を張って周囲を確認する。
遮蔽物に隠れているエネミー、もしくは敵対プレイヤーの姿はないか。
こちらを狙っている者はいないか。
とりあえずそんな気配は感じられない。
この周辺に来てからは、明らかにエネミーとは出会っておらず、敵対しているプレイヤーとも交戦していない傾向にあった。エネミーがいないのも気になるが、敵対プレイヤーと交戦していないのは、そもそも参加者自体が少ないからだろうか。
いや、そんな事はない。このイベント大会には結構な数の参加者が居るという話は聞いていたし、ここに来るまでにそれなりの数のプレイヤーと交戦してはいる。ただ、一定のところで遭遇しなくなっただけで、プレイヤーは居るのだ。
そしてそれらは、自分達と同じように同じようにレアアイテム、もしくは優勝を目指して戦っているライバルだ。負けるわけにはいかないし、レアアイテムだって渡したくはない。キリトはリランに引き続き進むよう指示をし、気を張り巡らせながら先へ進んだ。
そうしていると、耳元にセットしている通信装置から音が聞こえてきた。声だ。シノンからの通信だった。
《キリト、聞こえる!?》
「シノン? どうした」
《こっちに来て! 見つけたわ!》
「見つけたって、何をだ?」
《アファシスよ! あなたが探してたアファシスを見つけたの!》
「なんだって!?」
思わず大声を出して驚いてしまった。真偽は定かではないけれども、ここまで勘が当たるとは思ってもみなかった。
このイベント大会に参加した目的の代物に出会えたのであれば、向かわない選択肢は存在しない。キリトは通信装置のマイクを口に近付け、シノンへ尋ねる。
「シノン、確認させてくれ。そっちはどうなってるんだ。そこに誰か居たりしないか」
《それが、先手を取られてたっていうか……アファシスのいるカプセルの前にプレイヤーが一人いるの。仲間がいるのかわからないし、アファシスに当たるかもしれないから、撃てなくて》
シノンの精密射撃能力は折り紙付きで、狙った獲物は確実に射抜くような精度を誇っている。しかしそれは必中かと言われたらそうではないし、外す時だってある。彼女ならばアファシスに接触していると思われるプレイヤーを撃ち抜く事は容易だろうが、それがアファシスごと撃ち抜いてしまう可能性がないわけではない。
「アファシスに接触しているプレイヤーが居たから、撃ったらアファシスごと撃ち抜いてしまった」という報告をしてこなかったシノンに、キリトは胸中で感謝をした。早まった判断をしてくれなくてよかった。
確認したキリトはシノンへ返事をする。
「わかった。見つけてくれてありがとな。ひとまずそっちへ向かうから、気を付けててくれ!」
《えぇ、お願い!》
通信を終了すると、立ち止まっていたリランが走り出した。ここではレーダーシステムは役に立たないかと思いきや、仲間の反応がどこにあるかを検知する事は出来るという話をリランは伝えてきた。今、シノンの反応を拾って、そこに向かっているという。
敵やアイテムの捜索はできないが、仲間の許へ駆けつけられるのは便利だ。キリトはリランに感謝をし、スピードを上げるように指示する。工事用具置き場地帯をジャンプの連続で切り抜けたリランは歩行移動モードからスライド移動モードに移行し、指示どおりスピードアップして進み始めた。
宇宙船の中、ブリッジのすぐ前広場と言えるような風景の空間に辿り着くと、そこでようやく人型戦機数体と出会った。全員が実弾を使うアサルトライフルを持っており、キリトとリランを見つけてすぐに射撃してきた。
しかもご丁寧な事に、全ての弾道がリランの背中のキリトを狙っており、キリトの視界は《弾道予測線》であちこちが赤く発光していた。だが、こんなものは既に怯むに値しない。キリトは飛んできた弾丸を光剣で弾いて防御、エネミー達の銃撃の間を縫ってUSPによる射撃を仕掛けて倒した。
このUSPも初期から使っているが、この世界でも鍛冶屋としての立場を確立させたリズベットが改造と強化を施してくれているおかげで、三ヶ月経過した今の最前線でも使っていける代物となっている。
そして右手の光剣《
そしてこれらを持ってしても敵わないエネミーが出ても、リランの超火力兵器で焼き切れる。キリトは挑んでくる敵対プレイヤーもエネミーも全部ねじ伏せる事ができるようになっていた。
こんな戦い方をしていたためなのか、それとも光剣使い兼ビークルオートマタ使いという、《GGO》では全く使われない役職で戦い続けていたためか、《GGO》プレイ開始の初月最終日時点でトップランカーになっており、すぐさま《GGO》内の有名人になっていった。
この《GGO》で有名になるという事はつまり、他プレイヤーからは賞金首のように狙われるようになるという事だ。現にこの時点で沢山のプレイヤーから狙われるようになっていたが、やはりというべきか、キリトの手に入れた火力に敵うプレイヤーはいなかった。
ここでもしアファシスを得ようものならば、その有名さは加速し、狙われる危険性も爆上がりしそうなものだが、それでもキリトはアファシスを得たいという気持ちを抑えられそうになかった。誰もが羨むアファシスとは、どのようなものなのだろう。
そんな思いと考えを抱いてリランを走らせ続けていると、部屋を抜けた。リランが難なく通れる廊下を渡っていき、次の部屋に出て、キリトは驚いた。
そこは宇宙船のメイン動力部というべき装置が設置されている部屋であり、その中央には一際目立つカプセルのような装置がある。間違いなく、先日のアップデートで追加された新要素、アファシスの眠るカプセルだ。
それがここにあるという事はシノンの言っていたとおりだったが、肝心な彼女の姿は見えない。ここからは見えない位置にいるのだろうか。キリトはそれも気になったが、彼女が教えてくれたものの方へ優先的に目を向けた。
アファシスの眠る装置。あそこで一定の操作を加える事によって、内部のアファシスが目を覚まし、目覚めさせたプレイヤーを主人として認識する。そういう仕様になっているという話を運営からの発表で聞いた。
そのアファシスのカプセルがすぐそこにあるというのはこれ以上ないくらいの幸運であり、アファシスを手に入れる最高のチャンスだ。だが、不運も同時にあった。
シノンの言っていたとおり、アファシスのカプセルの前にプレイヤーの姿が一つだけある。しかもカプセルの蓋は開けられており、その下部に一人の少女と思わしき人影が倒れているのまで確認できる。
恐らくあの少女と思わしき人影こそがアファシスであり、プレイヤーはそれが眠る装置を起動させたのだろう。
「アファシスが出てきてる……!」
《先を越されたか!?》
キリトはリランに首を横に振る。そうとは言えない。アファシスが主人をどのタイミングで認識するのかは定かではないから、まだあれはあのプレイヤーを主人として認識していない可能性がある。
ここであのプレイヤーを倒してしまえば、アファシスを掠め取る事も出来るはずだ。
キリトはリランの背から飛び降りると、そのまま床を蹴って走り出した。目指すはアファシスを狙うプレイヤーであり、ライバルである存在。幸いあちらは背を向けている。アファシスやその装置に気を取られていて、気付くのが遅れているようだ。
この戦いは、このイベント大会はアファシス争奪戦であり、競争だ。
勝つのはどっちだ? 勿論こっちだ――キリトは口内でそう言いつつ、突進する。敵対プレイヤーとの距離が縮まってきて、もう少しのところでキリトは光剣を突き出した。
背中から一突き、これでどうだ――キリトが思ったその瞬間だった。
「――ッ!」
キリトとアファシスの間に入っているプレイヤーがキリトの方へ向き直り、両腕を咄嗟に広げる姿勢を作ってきた。明らかに反撃や応戦の姿勢ではない。
アファシスの盾になろうとしている。
「なッ……!?」
何故反撃の姿勢になっていない――思わずキリトは減速する。しかし刃は引き続きプレイヤーの許へ向かっていく。そしてプレイヤーの胸元へ突き立てられようとしたその瞬間。
「――マスター?」
という小さな声を感じ取り、キリトは止まった。突進時の姿勢のまま停止したおかげで、光剣の刃はプレイヤーへ突き刺さる直前で止まっていた。白緑の光がプレイヤーの、銀色のライトアーマーに守られた胸部を照らしていた。
「……マスター、だって?」
思わず呟いたキリトは、目の前のプレイヤーを見ていた。両腕を広げてアファシスを守ろうとしていたそれは、少年だった。
白銀色の髪は自分と同じくらいの長さで、銀色のコンバットスーツに包まれた体格もまた自分に近しい。それどころか朱色の瞳を除けば、顔つき、目つきといった細かいパーツですら自分に近しいと感じられるくらいのアバターだった。
「マスター……え?」
その少年は不意に呟き、背後を見た。キリトも続けて視線を送る。
そこにいるのは一人の少女。白と紫で構成された、身体のシルエットがはっきりわかる独特なスーツに身を包み、白い髪をセミロングくらいにしている。くりくりとして愛らしい大きめの紫の瞳が特徴的なその少女は、じっと少年を見つめていた。
「アルトリウス……アーサー!」
右方向から声がして、二人でそちらに向き直る。その次の瞬間に更に声が続いた。
「動かないで。両手を上げないと撃ち抜くわよ」
凛として冷ややかな色の少女の声。向き直った先にはシノンが居た。しかしその前方には、サブマシンガンを持った、ピンク色の髪をサイドテールにしているのが特徴的な少女が、両手を上げて驚いている。
その姿を認めた少年が声を出した。
「く、クレハ!?」
「い、いつの間に背後を取られて……!?」
少年に《クレハ》と呼ばれた少女は驚いたまま動かないでいる。隠れていたシノンに気付かなかったのだろう。そしてシノンは狩りをする山猫のような険しい表情のまま、対物狙撃銃をクレハに突き付けていた。
だが、その行為はもう無意味だ。ここで彼らを攻撃しても、なんの意味もなくなったのだ。キリトは光剣のスイッチを切り、USPと一緒にホルスターへ仕舞い込んだ。
「シノン、大丈夫だ。こいつらを狙う必要はないよ」
「えっ、なんで」
シノンの反論を聞かず、キリトは目の前の少年とその仲間と思わしき、クレハという少女に話しかけた。
「とりあえず話を聞いてくれ。俺達はもう戦うつもりはないよ。残念だけど、間に合わなかったみたいだからな。戦う意味がなくなったんだ」
「間に合わなかった? どういう事よ」
クレハを見てから、少年の方へ向き直る。少年の事をアファシスはじっと見つめていた。
「このアファシスは、どうやらこいつの事をマスターと認めたらしいんだ。そうだろ?」
キリトの問いかけに少年は首を傾げたが、やがてアファシスと目を合わせて気付いた。アファシスは主人に出会えた事を喜ぶ従者の表情をしていたのだ。完全に少年の事を主人であると認めているらしい。
だが、その主人に選ばれた少年は戸惑ったままだった。
「……えっと、どういう事なんだ。俺がマスターっていうのは? それにそもそもアファシスっていうのは……」
少年自身はアファシスの存在を知らないようだ。この分だと大型アップデートの詳細情報も知らない可能性がある。キリトはシノンとリランに声掛けし、クレハと少年を呼び寄せて、話をした。
その説明が終わった時に声を上げたのはクレハだった。
「この
「あぁ。この前の超大型アップデートで実装された新要素、プレイヤーサポートAIの《アファシス》だよ」
クレハは信じられないような顔をしてアファシスを見ていた。
アファシスとは、先日行われた超大型アップデートの目玉である要素で、プレイヤーのサポートをしてくれるAIの事だ。何でも、これまでのゲームに登場するAIとは一線を画す知能と賢さを持ったAIであり、もし手に入れる事が出来れば、一緒に戦ってゲーム攻略を進めたり、親密なコミュニケーションを取ったりする事ができるようになるという。
ただし、それを容易に入手できる事は勿論できず、激レアのビークルオートマタに匹敵する程の代物であり、厳密な情報は存在しない――それが《GGO》の公式から発表されたアファシスという存在の説明の全てだった。
「あー、この大会がゲットできる一番のチャンスだと思ったんだけどなぁ。まさか先を越されちまうなんて、ついてない」
「そうなっちゃ仕方ないわね。また高難度エネミーでも倒して、ドロップを狙ってみましょ、キリト」
シノンの言葉に反応したのもまたクレハだった。信じられないようなものを見つめる顔を、キリトに向けた。
「キリト? 一ヶ月で《GGO》のトップランカーにのし上がって、その後も無双してるっていう、光剣とビークルオートマタ使いのキリトさん!?」
「キリトでいいよ。それでこっちは仲間のシノンで、こっちは俺のビークルオートマタのリランだ」
シノンが「よろしく」と一言、リランは無言で頷いた。《声》は余計な混乱を呼び込みかねないので、沈黙してもらっていた。間もなくクレハがまた驚く。
「シノンの方は知ってる。何度もランキングに載ってるもの。……まさかこんな有名人まで、アファシスを狙ってたなんて」
確かに、アファシスの人気は《GGO》のあちこちに広がっており、トップランカーや有名人プレイヤーの大多数が喉から手が出る勢いで欲しがっている有様だ。
もしこの二人が少し遅く到着していたならば、自分達か、もしくはその他のトップランカー勢にアファシスを掠め取られていただろう。この二人は運が良かったと言える。
そんな二人のうちのクレハが、アファシスへ向き直った。
「けど、そんなものをトップランカーよりも早く手に入れられたなんて、ラッキー過ぎるわ! さぁアファシス、今日からあたしがあんたのマスターになるクレハよ」
アファシスはうきうきしているクレハから、少年へ顔を向けた。
「……わたしは
「へっ?」
アファシスは機械的な口調で続けた。
「――アルトリウス。この方がわたしのマスターです」
クレハの目が見開かれる。《アルトリウス》と呼ばれた少年もひどく驚いた顔をしていた。アファシスが更に続ける。
「現在メインシステムを五十%まで起動中。もうしばらくお待ちください」
そう言ってアファシスは沈黙した。直後、クレハがゆっくりと顔をアルトリウスへ向ける。まるでロボットの駆動音が聞こえてきそうな動きだ。
「……アーサー、これって」
「なんか、いつの間にかそういうふうになったみたいで……」
「そ、そんなあああああ!?」
叫ぶクレハにキリトは苦笑いした。アルトリウスに斬りかかる寸前で、アファシスは確かにアルトリウスを《マスター》と呼んでいた。
あの時点で既にアファシスはアルトリウスのものとなっており、アルトリウスを倒したところで無意味になっていたのだ。
納得した直後に、クレハがアルトリウスに掴みかかる。
「ちょっと、なんで勝手にマスター登録なんてしてんのよ! あんたのモノはあたしのモノでしょうが! なのに一人だけ抜け駆けして!」
アルトリウスは焦って、掌をクレハに向ける。
「いやいやいや、それはないぞ! 本当に勝手にこうなったんだ」
「言い訳したって無駄! あーもう、なんでこんなレアアイテムを、よりによってあんたに取られるわけ!?」
「だからわざとやったんじゃないって……」
クレハは「んんー!」と悔しそうにしてから、もう一度口を開けた。
「よし、じゃあ引き続きあんたのモノはあたしのモノ。だからあんたのアファシスもあたしのモノ。そういう事にしてあげるわ。……あんたにはさっき迷惑かけちゃったわけだし」
そう言ったクレハは鎮まった。どうにか状況を呑み込めたようだ。間もなくして、リランの《声》が頭に響いてきた。
《キリト、目的の物は手に入らなかったな》
クレハとアルトリウスに気付かれないように応じる。
「あぁ。この際だから、このまま優勝目指して突っ走るか。優勝賞品もそれなりに豪華なんだろ?」
《左様だ。アファシス程ではないが、狙う価値は十分にあるぞ》
「なら狙ってみようか。お前も結構傷付いたし、バッテリーも結構減っただろ。資金稼ぎに丁度いい」
キリトはシノンに声掛けして、リランの背中に飛び乗った。続けてシノンがキリトの後ろに飛び乗ってきて、腕を回して来た。更にクレハの声が飛んでくる。
「キリトさん!」
「俺達はこれで行くよ。まだ時間も残ってるから、優勝狙ってやるんだ」
「そうなんですね。……あ! あたしはクレハです! あたし、これでもトップランカー狙ってるんで、憶えておいてくださいね!」
そう伝えてくるクレハの青水色の瞳は情熱で燃えていた。本当にやりたい事をやるのを目指して走っている者の目であり、見る者に希望を与える色だった。キリトは思わず笑み、クレハに返事する。
「そっか。その息を忘れるんじゃあないぜ。それと――」
キリトはクレハの隣にいるアルトリウスに向き直った。自分と同じような背格好で、なんとなく顔つきも似てる気がする。
色は髪が白銀、瞳が朱色なのが特徴的だが、やはり全体的に自分と雰囲気が似ている。そんなアルトリウスに、キリトは声を掛けた。
「そういえばまだ、お前から直接名前聞いてなかったなお前の名前は――」
アルトリウスはキリトと目を合わせた。その瞳は暖かく優し気でありながら、力強い光を
そんなアルトリウスは、ようやく名乗りを上げた。
「――アルトリウス」
「っていうんですけど、長いんで、《アーサー》って呼んであげてください!」
クレハの付け足しに、キリトは思わず笑った。
「それじゃあアーサー、また会おう! お前とは気が合いそうだ!」
キリトが言った直後に、リランは走り出した。
――くだらないネタ――
・オリキャラのイメージCV
アルトリウス:梶裕貴さん(喋り方はFBでのボイスタイプ7)