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意識を持った途端、身体がびしょ濡れになった。無数の雫が地面へ落ちる音が聞こえる。雨の中にいるらしい。目を開けると、雨水が目に入ってきたが、すぐに慣れた。降ってくる雨は思いの外強かった。
どぉどぉと音立てて、黒く染まった空から耐える事なく降ってきている。辺りは一面水浸しになっているが、流石に身体が浸かってしまう程ではない。そして周りは平原だった。大雨が降ってきているというのもあるが、暗い。今は夜のようだ。
夜、平原、そして雨。三つのキーワードを頭の中に揃えた和人ははっとした。自分はどうしてここに来たのか。それは大切な人を迎えに行くためだ。だから深夜であるにも関わらず家を出て、大切な人がいるとされる場所へ来たのだった。
そここそが、ここだ。大雨の中を走り続け、ついにここまで来たのだ。和人/キリトは咄嗟に周囲を見回す。この夜と雨が作る闇の中に、その人はいる。それがわかっているからこそ、自分はここにいるのだ――。
「!」
やがてキリトは、自身から見て右方向の遠くに、二つの影を認めた。一つは自分と同じくらいの人影。もう一つは自分より遥かに大きな獣の影。その獣は自身の《使い魔》であり、頼もしき相棒。
その近くの、もう一人こそが、大切な人だ。大切な人であると気付かされた少女。キリトは咄嗟に人影の許へ駆け寄る。
ようやく会えた。
迎えに行く事が出来た。
間に合ってよかった。
「リラン、シノン!」
《使い魔》の名前、そして大切な人の名前を呼び、キリトは手を振った。影達の姿ははっきりしている。
それはやはり白き狼竜であるリランと、黒髪と軽装が特徴的なシノンだった。キリトは二人に向けて走った。
「あ、れ……」
その途中でキリトは気が付いた。いくら走っても二人の許へ辿り着けない。走っているはずなのに、距離が縮まって行かないのだ。まるで二人との間を際限なく引き伸ばされているかのようだった。
走っても走っても埒が明かないので、キリトは思わず声を出した。
「リラン、シノン――!」
その呼び声に、二人は答えた。
だがどういう事なのか、二人は見知らぬ人間を見ているような顔でキリトを見つめて――声を返してきた。
「……あなたは、誰?」
《お前は、誰だ……?》
キリトは驚いて立ち止まった。彼女達の顔は変わらない。見知らぬ人を見る表情でキリトを見つめてきている。
あなたは誰? お前は誰? 二人はそんな問いをキリトにかけてきていた。それがキリトには全く理解できなかった。
二人とも何言ってんだよ。
シノン、君とは昨日まで一緒に居たじゃないか。
リランも何を言ってるんだ。お前はついさっきまで一緒に居ただろ。
そう返そうとしながら、キリトは二人との思い出を頭の中から出そうとした。しかし、次の瞬間に異変は起きた。
……思い出せない。
シノンと、リランとの思い出が、頭の中から出てこない。
いや、無い。
シノンとリランと一緒に過ごした日々が、全部無くなっている。
「あ、れ」
キリトは頭を抱えた。シノンとリランという名前は思い出せる。シノンが大切な人であって、リランが頼れる相棒であるというのも思い出せる。だが、その者達と過ごした時間の内容が出てこない。
そもそも、この二人とどう出会ったかもわからない。
リランとの出会いはどうだっただろうか。
どうしてリランはリランと言う名前をしているのだろうか。
どうしてリランが自分の《使い魔》になっているのだろうか。
シノンとの出会いはどうだっただろうか。
どうしてシノンは自分の近くにいる人なのだろうか。
――どうしてシノンを大切な人と思うようになったのだろうか――
空っぽになった頭の中に無尽蔵に湧いてくる疑問を、キリトは二人にぶつけようとした。そこに二人の姿はない。どこからもいなくなってしまっている。
そして彼女達が居た方から――黒い波が来ていた。
津波と言うほどの強さはないが、キリトを呑み込んでしまえるくらいの大きさはある。キリトは逃げられなかった。足がすくんで、動けない。
どうして、なんで、こんな――そう思ったキリトを、黒い水は呑み込んだ。
「――――ッ!!!」
飛び起きると、目の前の風景は変わっていた。薄っすらと暗い事は変わらないが、部屋の中だ。闇に染められているものの、白い壁、同じように白い床と天井で構成されている。そして自身の居る場所は、ベッドの上だ。自分の部屋のものではない。これは病院によくあるベッドだ。
……ここは、病院なのか? そう思うと同時に、キリトは和人に戻っている事に気が付いた。
ここは現実だ。そしてどうやら病院の一室にいるらしい。
少しぼーっとしていると、呼びかけてくる声があった。
「……和人?」
反応を示してそちらに目を向ける。そこにいたのは、黒いセミロングの髪を白いリボンで頬の辺りに結わえている髪型をした、眼鏡――実は度が入っていない伊達眼鏡である事は知っている――をかけた黒い瞳の少女。更にもう一人いる。
日本人にしては珍しいオレンジがかった金色の髪をショートボブくらいにしている、青い瞳をした少女。
それぞれ和人の大切な人である朝田詩乃、そして仲間の一人で良き友人、竹宮琴音だ。二人はひどく驚いたような顔をして和人を見つめていた。
「詩乃……琴音……?」
どうして二人がここに。そもそもここはどこなんだ。俺は確か恵比寿ガーデンプレイスに居て――そう尋ねるよりも前に、和人は強い衝撃を受けてベッドに押し倒された。何かに飛び掛かられたようだ。
見下ろすと、胸元に琴音の頭頂部があった。琴音が飛びついてきたらしい。
「和人っ、和人ぉッ!!」
「こ、琴音……」
琴音は泣きそうな声を出していた。いや、違う。胸元に湿り気を感じる。彼女は本当に泣いている。泣いて、自分の胸に顔を押し当てて来ているのだ。それが自分の覚醒によるものなのかは、まだわからない。
「う゛、ぐぅッ……」
直後、その胸元を中心に軋むような鈍い痛みが走った。それどころか身体のあちこちが痛んでいる。思わず呻くと、琴音がびっくりしたように胸から離れていった。その顔には、涙の跡がくっきりと残っていた。
「ご、ごめんなさ……」
咄嗟に謝ってくるが、琴音はどこか戸惑っているようだった。戸惑いたいのは和人も同じだったが、実際に和人が戸惑うよりも前に、詩乃がその手を和人の肩に乗せて来た。
「和人……あなた……」
「……詩乃」
そこで和人ははっとする。琴音もそうだったが、詩乃の目元と頬にも涙の跡が残っている。それも琴音以上にはっきりとしていた。琴音も相当泣いたようだが、詩乃はそれ以上に泣いてしまっていたらしい。
その原因は他でもなく、自分であろう。和人は条件反射のように反応して、詩乃の身体を抱き締めた。身体は容赦なく軋んで痛んだが、それでも詩乃を抱き締めてやらずにはいられなかった。
しかしすぐに、和人は疑問を抱いた。それは容易く、胸の中の詩乃の温もりを上書きした。
――……あれ? どうして俺は詩乃を抱き締めようと思った?
疑問は続いた。
――……あれ? 詩乃と俺はどういう関係だ?
それに対する答えは出せた。
――……あぁ、俺にとって詩乃は大切な人だ。詩乃が大切な人だから、俺はこうして抱き締めようと思ったんだ。詩乃は俺の恋人だ。だから、俺は抱き締めてるんだ。
そう思い直す和人を、更に疑問が塗り潰しにかかる。
――……あれ? じゃあどうして詩乃が俺の恋人なんだ? 彼女との間に何があったからこそ、俺は詩乃を大切に思っているんだ?
更なる疑問が湧いて出てきて、それが決定打のようになった。
――……あれ? 俺と詩乃は、どこでどう出会ったんだ?
「和人君、無事のようだね」
聞こえてきた声で和人は我に返った。その時詩乃は和人の胸から離れ、琴音の隣の椅子に腰を掛けている。そのすぐ後ろに、新たな人影が現れていた。
白い服の上からでもわかる大きな胸と、赤茶色の瞳、さらさらとした黒い長髪が特徴的な二十代後半の女性。
その名前は思い出せた。芹澤愛莉。普段和人は「愛莉先生」と呼んでいる彼女は、ほっとしたような顔をしてこちらを見下ろしてきていた。立っているのもあるが、彼女の背が高いのが一番だろう。
その愛莉の出現と同時に、小さな灯りが付けられて、自分達はぼんやりと照らされていた。
「……愛莉先生」
「あぁ、そうだよ。目は見えてるみたいだね」
和人は周囲を見回した。やはりここは病院のようだが、何がどうなったが故にここに居るに至っているのか、まるでわからない。
そう、目の前にいる詩乃と琴音の事のように。
「ここって、どの辺ですか。俺、何があって……」
話してくれたのは詩乃だった。
彼女達によると、自分は恵比寿ガーデンプレイスで皆と一緒にオーディナル・スケールをやっていたが、その中で吹っ飛ばされてきた琴音を全身で受け止めた。その時点で怪我を負ったが、更に琴音を狙って来た狼竜から彼女を守るべく、盾になった。
その際に雷に打たれたようになって――気を失ったそうだ。その後、彼女達は救急車を呼んでくれて、自分は近くの病院に搬送、治療されたらしい。怪我は幸いにもごく軽傷で、絆創膏やガーゼ、大事を取って包帯を巻く程度で済んでおり、入院をする必要はない。明日――もう時間は深夜の二時を廻っているため今日――には退院できるそうだ。
だが、今この時刻まで気絶していたというのは、医者にとっても彼女達にとっても、とても心配な事だったらしい。
「そんな事があったのか……」
「えぇ。明日奈はすぐに目を覚ましたけど……あなたは全然目を覚ましてくれなくて……」
詩乃に続けて、愛莉が溜息を吐く。
「だから、私も含めこの娘達は君につきっきりでここに居たのさ。君が倒れたのは二十一時二十分頃、今午前二時半だから、六時間も昏倒してたんだよ」
その時の事はまだ憶えていられているようだ。あれから六時間も経ってしまっていたのか。だが、問題はそこではない。しかし、これを話すべきなのだろうか。
言葉を詰まらせた和人に、続けて愛莉が声を掛けてきた。
「詩乃は勿論なんだけど、琴音がいてびっくりしただろう?」
和人はひとまず頷きつつ、琴音に振り返る。詩乃と愛莉が病室に居てくれるというのは分かるが、ここに琴音が加わっているのは珍しい事だ。和人が言葉をかけるより先に、琴音が言ってきた。
「だって和人は、わたしを受け止めてくれて、わたしを庇ってくれたから怪我して……わたしのせいで怪我したようなものだから……だから……」
琴音はまた泣きそうになっていた。言葉もどこかたどたどしい。確かにあの時琴音を庇ったからこそ現在に至っているわけなのだが、これが全て琴音のせいだとは思っていない。
琴音に怪我をさせたくないと思った自分が悪いのだし――元はと言えば。
「君は悪くない。あいつが悪いんだ。あいつが琴音を、シリカを……」
あの時オーディナル・スケールに現れた元血盟騎士団団員のノーチラス。現在の名前をエイジという青年が琴音/フィリア、シリカ/珪子の首を掴んでぶん投げたのだ。
あれは明らかに悪意を持った行為であり、怪我させようとして行った暴力だ。
「愛莉先生、あいつはどうなったんですか。警察も動いたんでしょう」
「勿論。けれど逮捕にも職務質問にも、任意同行にも至ってないよ」
和人は驚いた。あれだけの事をやったエイジが逮捕されていないだと? そんなのおかしいに決まっている。
「なんで!?」
「彼がやったのは明らかに暴行に等しいものだったが、彼はエイジというアバターでやった。あの場にもエイジっていう名前のプレイヤーは結構居て、エイジっていう名前だけじゃどのエイジかわからない」
「そんな。あいつはオーディナル・スケールランキング二位の有名人で、アバターだって現実と同じじゃ――」
愛莉は首を横に振った。悔しそうな表情をしている。
「オーディナル・スケールランキングもアバターの姿も当てにならないよ。もしこれから問題のエイジが二位から転落して百位くらいになって、その際九十九位、百位、百一位、百二位に全員エイジっていうアバターネームのプレイヤーが偶然ランクインしたら、どのエイジが問題のエイジだって判別できるんだい。
それにアバターだっていくらでも作り変えられるようになってるんだよ、君達がしないだけでさ。アバターを作り変えて、ランキングから下がれば、あのエイジがどのエイジなのかわからなくなる。そして現実のエイジの姿を見た者はあの場に居ない。だから警察も動けなかったんだ。オーディナル・スケールなんていうゲームのランキングなんていう不確かなものは、証拠にならない」
和人は歯を食い縛った。あのエイジというプレイヤーのせいであんな事になったのは確かなのに、警察に捕まる事はない。物的証拠があっても、いくらでも書き換えが利くのだから。
あのエイジはそれを理解したうえで暴行に及んだのかもしれない。まんまと先を読まれていた。悔しくてたまらない。
しかし、和人はすぐに疑問の先を変えた。あのエイジにやられたのは琴音だけじゃなく、珪子もそうだった。そして珪子は明日奈が庇ったはずだ。
「そういえばシリカ……珪子はどうなったんですか。あの娘は明日奈に守られて……」
「そうだよ。珪子は明日奈が守ってくれたから助かった」
愛莉からの答えを受けて、和人はまたしても疑問に気が付いた。先程詩乃は、明日奈はすぐに目を覚ましたと言った。自分と同じ目に遭ったはずなのに。
それを問うより先に、愛莉が続けてきた。
「だが、あの時はぎょっとしたよ」
「え?」
明日奈が珪子を庇ってボスモンスターの攻撃を受けた時、彼女は自分と同じように雷に打たれたようになった。
だが、その瞬間に明日奈の許へ《使い魔》形態のユピテルが駆け付けてきた。更にその次の瞬間、明日奈の真上でユピテルの身体が爆発。《使い魔》形態のユピテルは身体をばらばらにして地面へ落ち、元の姿へ戻った。
その時のユピテルは、両腕が破裂したように無くなっていたという。
間もなく明日奈は回復したが、彼女が見たのは《使い魔》形態でばらばらになって地面に転がり、更に元の姿になったら両腕がもがれていた我が子。そんな惨状を目にした明日奈は
和人が昏睡し、明日奈が狂い叫び、ユピテルは両腕が無くなり、珪子はユピテルを見て大泣き、琴音と詩乃は昏睡した和人に恐慌、ボスモンスターは三匹暴れている。何もかもが狂って
「ユピテルが、そんな……!」
「しかもどういう事か、和人君とユピテルが倒れた途端、エイジの《使い魔》のドラゴンが急に怒って暴れ出してね。周辺のプレイヤーは勿論、一緒に居たボスモンスターにまで当たり散らしてさ。結局そいつがボスモンスターの気を引いてくれたおかげで
エイジの《使い魔》が暴れ出したとかはどうでもよかった。両腕を失ったユピテルとはどういう事だ。彼は無事なのか。
その和人の問いを――愛莉は汲み取ってきた。
「君、ユピテルが心配だね。顔がそう言ってるよ」
「当たり前です! ユピテルはどうなったんですか!?」
「あの子が《
和人はひとまず安心した。ユピテル達《電脳生命体》はバックアップを用意しておく事で、不測の事態で破損しても回復できるから、バックアップさえあればなんとかなる。
そして、明日奈がバックアップからユピテルを復元する作業をしたとは言っていないので、リラン達だけが出来る作業なのだろう。いずれにしてもユピテルが助かったのは、不幸中の幸いと言える。
「……ねぇ和人、何かない?」
和人は「え?」と言って向き直った。声の主は詩乃だった。
「ユピテルがあんなふうになったんだから、きっとあなた達に何か起きたんでしょ。だからあなたは今まで気を失ってたんでしょ……?」
詩乃の問いに和人は瞠目する。一番聞かれたくない事を聞かれた。
「……君が目を覚ますまで私も考えてたんだけど、あの時君達はボスモンスターの攻撃を受けたのを
「……」
「和人君、正直に答えてくれないか。君、今何か感じる事はないかい」
愛莉と詩乃、琴音に詰め寄られた和人は頭の中を探ろうとした。
《思い出》という本が沢山詰まった、記憶という本棚が沢山並ぶ
しかし、それには何もない。本ならば、ただ白紙だけがそこにある。昨日まで確かにあった思い出は、全て白紙になっていた。
SAOに閉じ込められる前までの記憶はしっかり残っている。その後の、ALOで皆と遊んだ記憶、《SA:O》で遊んだ記憶。それらはある。だが――SAOに閉じ込められてから、そこから抜け出すまでの記憶が、白く塗り潰されてしまっていた。
いや、全部が塗り潰されているのではなく、薄っすらと残されてはいるが……思い出せないと同じだ。
皆との出会い、皆との共同戦線、力を合わせた日々――SAOをクリアするために培った日々は、全て白く染まってしまっていた。
「……思い出せないんだ」
「え?」
和人は思わず琴音の両肩を掴んだ。しっかり顔を合わせて問いかける。
「琴音。君のアバターネームはフィリアだ。君と出会ったのはSAOの中だ。けれど……俺達が出会ったのはSAOのどの辺だ。何層、何があった時だ」
「……え」
続けて和人は――詩乃の両肩を掴んだ。彼女は既に唖然としきっている。
「詩乃、俺は君が好きだ。俺にとっての大切な人は君なんだ。それで、俺達が出会ったのもSAOの中だ。けれど、その出会いはいつだった? 俺と君はどう出会って、俺はどうして君を大切な人だと思うようになったんだ。一緒に暮らしたのはどれくらいだ?」
詩乃は変わらず唖然としていた。和人は首を横に振る。
そうじゃない。そんな反応を見たいんじゃない。そんな答えを聞きたいんじゃない――。
「教えてくれ、詩乃。俺は、俺達は、なんで――」
「――こんな時に冗談言わないで」
「え?」
和人を止めた詩乃は、両手で和人の手を覆った。
「私達がいつ出会ったかですって? どうしてあなたにとって私が大切な人ですって? そんなの、教えてくれたのはあなたじゃない。全部、あなたが私に教えてくれたんじゃない。あなたが私を受け入れてくれたんじゃない。それにあなたはすごい無茶してまで、私をわかってくれるようになって……」
詩乃の言葉を頭の中で反響させてみる。だが、効果は見られない。何も思い出せない。だから和人は――
「……そう、なのか……?」
事実を言うしかなかった。その事実を受けた途端、詩乃の顔が青ざめた。手から温もりが抜けていき、やがてその手は離れて、身体はふらついた。そのふらつく詩乃を琴音が受け止めて椅子に座らせる。
すぐさま、愛莉が和人の肩に手を載せてきた。かなり険しい表情をしていた。
「……思い出せないのか、和人君。いや、キリト君」
「……はい。SAOの記憶が、全然……ALOと《SA:O》は思い出せる……でも、SAOは……」
「って事は、私とどうして出会ったかも、思い出せないんだね。そして、君の《使い魔》であるリランがどうして《リラン》っていう名前をしてて、君の《使い魔》になったのか……」
愛莉の問いかけには全部答えられなかった。愛莉との出会いも、リランとの出会いも、リランがどうして《使い魔》なのかも、全部白く塗り潰されている。そんな和人をじっと見つめていた愛莉は、やがて静かに言った。
「……和人君、転院するわよ。御茶ノ水の大病院に。そこであなたをメディキュボイドに接続しましょう。それまであなたは、眠った方が良いわ」
和人は何も言わず、ただ頷くしかなかった。
――原作との相違点――
①キリトが記憶喪失に。
②アスナが記憶喪失にならなかった。
この違いが起きた詳細については次回。ただしもう答えは出てる。