キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 バレンタインデーに間に合わせたかったけれど、一日ずれてしまった。

 それはさておき、ブリーフィングな第四章第十六話、どうぞ。





16:残された手段

          ■■■

 

 

 

 ぼくとのデュエルの後、木綿季は皆のところへ帰った。木綿季を出迎えた皆はそれぞれの暖かい言葉を木綿季に贈り、木綿季も嫌がる事なく全てを受け取った。

 

 そしてその木綿季の事を、信頼における精神科医であったイリスが()()。色々な事が重なって混乱していた木綿季の思いなどを聞き、落ち着かせてくれた。

 

 落ち着きを取り戻す事の出来た木綿季はログアウトして病院へ戻り、木綿季を帰らせるという当初の目的をひとまず達成出来た。それからぼくもログアウトして、少し遅れて夕飯へ、それから入浴へ向かう事になった。

 

 勿論夕飯の時点で、何故夕飯を遅くしてダイブしていたのかという話をおかあさんとする事になったけれども、その時には「ただ木綿季がいつまでも遊んでいて戻ってこないから、病院の先生から言われて、ゲームの中から戻らせるように言われていた」という事だけを教え、木綿季が二ヵ月の命しかないという事は告げないでおいた。

 

 まだ、あの話をするには早すぎるような気がしたからだ。

 

 いや、もしかしたらその話を認めたくないからという気持ちがぼくの中に存在していて、それがかなりの大きさになっているからなのかもしれない。

 

 実際ぼくは木綿季が二ヵ月後に死んでしまうなんて言うのを信じてないし、まだ何か手があるのではないかとさえ思っている。

 

 治美先生や倉橋先生も全力で木綿季のウイルスの治療方法を探してくれている。新薬が開発されたように、今回も何とか出来るのかもしれない。勿論これもぼくの勝手な思いだけれど、治美先生の木綿季の体内のウイルスが殺人ウイルスかもしれないっていうのも勝手な思いなのだ。両者に何も変わりはない。

 

 

 木綿季の命はたった二ヵ月で終わるものなんかじゃない。

 

 木綿季はこれからも生きる。

 

 木綿季は助かるのだ。

 

 おねえちゃんの二の舞になったりなどせずに――ぼくの恋人は生きる。

 

 

 木綿季に思いを告げ、木綿季の思いを聞いてからずっと、ぼくの中にはずっとその思いが存在していた。

 

 夕飯の後、入浴の後も変わらずにその思いを抱きながら、ぼくは就寝の準備を終えてから、アミュスフィアを起動し、《SA:O》に再びログインした。降り立った場所はいつもの《はじまりの街》の大宿屋ではなく、ジュエルピーク湖沼群最北部のキリト達の家だ。キリト達の家でログアウトしたのだから、当然ここに戻ってくる事になる。

 

 ログインして早々に、ぼくは親友とその仲間達に出迎えられた。その中に木綿季/ユウキはいない。病院のメディキュボイドの中に戻ったから当然だ。けれども、スリーピング・ナイツの皆は集まっていた。

 

 なんとかユウキを帰らせる事に成功した時は喜びに満ちた顔をしていたけれど、今の皆はそうじゃなかった。悔しそうな、悲しそうな表情を浮かべて、ぼくの事を待っていた。

 

 

「カイム……木綿季は」

 

 

 尋ねてきたのはシウネーだった。彼女もユウキの事を相当心配していたから、ユウキが戻って来た時にはかなり強い安堵を抱いている様子を見せていた。しかし今となっては再び不安のそれに表情が変わってしまっている。

 

 

「病院での木綿季の事は何も聞いてない。後はお医者さん達に任せるしかないみたい」

 

「そうかい……けれど、なんたって木綿季ばっかりこんな目に……」

 

「……そう、だね」

 

 

 いつもは威勢の良いノリでさえ、今にも泣き出しそうな様子だった。ノリは太陽のような人というイメージだったけれど、その太陽は今陰っている。

 

 そしてノリの言っている事は木綿季があの時言っていた事でもあり、ぼくも思っている事でもあり――スリーピング・ナイツの皆が思っている事だろう。

 

 

 ぼくも木綿季も神様を信奉する家族の生まれだ。特にぼくの家族――ぼくのおばあちゃんは白嶺神社の巫女だったから、白嶺の神様を信奉している。

 

 よく白嶺の神様の話をするおばあちゃん曰く、白嶺の神様はものすごく強力な縁切りと縁結びの神様であるらしく、その強さは、時々人を《幽世(かくりよ)》という神様やら妖怪やら妖精やらが一緒に住んでるっていうファンタジー感たっぷりの異世界と縁結びさせて、その《幽世》に行かせてしまうくらいだという。

 

 前にとある神社の巫女を務めていた女子高生が突然行方不明になって、現在も見つかっていないなんていう事件があったけれど、それは《幽世》とその巫女が縁結びされてしまい、本当に《幽世》に行ってしまったためだ――なんていうのが、白嶺の神様と幽世を信じるおばあちゃんの持論だ。……勿論ぼくはそんな話は信じていないけど。

 

 一方で、木綿季の家族が信奉しているという神様は、度々ぼく達に試練をお与えになるなんていう話を、主に木綿季のおかあさんが口々にしていたらしい。けれど、だとしたらあまりにひどすぎる。

 

 神様が木綿季に試練と称して苦しみを与えているのであれば、他と比べ物にならないくらいの苦しみを、彼女が生まれたときから現在までずっとお与えになさっている。最早木綿季を苦しめる事のを楽しんでいるとしか思えないくらいに、次から次へと木綿季に苦しみを降らせているではないか。

 

 言っては悪いのかもしれないけれど、木綿季に試練を与えているという神様は、人間で言えば危険異常人格者(サイコパス)だと言えるだろう。どうして木綿季ばかりこんな目に遭わなければならないだろう――最早、そう思う以外に何があると言うんだろう。

 

 

「……カイム」

 

「……キリト」

 

 

 そんなスリーピング・ナイツの皆とちょっとした事で交流を持つようになったのが、この家の主であり、ぼくの親友であるキリトだ。キリトはスリーピング・ナイツの皆の後ろで、ぼくの事を見ていた。隣にはリランとシノンと、ユイとストレア、プレミアの姿もある。

 

 キリトとリランは険しい顔をして、その他全員は悲しそうな表情を見せていた。そのキリト達に、ぼくはゆっくりと歩み寄る。すると、キリトはその口を静かに開けた。

 

 

「……木綿季の事、リラン達から聞かせてもらったぜ」

 

「……」

 

「その、本当なのか。木綿季の命が後二ヵ月しか持たなくなったっていうのは」

 

 

 ぼくは思わず驚いた。キリトの事だから、真っ先に「木綿季の身体から殺人ウイルスがばら撒かれるのは本当か」っていう話をすると思ったのに。もしかしたら、リラン達はその話をしなかったのだろうか。

 

 疑問を投げかけるように顔を向けてみると、リランは小さな頷きを返した。「ウイルスのばら撒きの話は仮定の段階だから話さなかったぞ」という意思表示だった。ぼくは少し安心して、キリトにもう一度顔を向ける。

 

 

「お医者さん達が言うには。でも、ぼくは信じたくない。ここまで頑張ってきた木綿季が後二ヵ月で死ぬなんて、ぼくは認めるつもりはないよ」

 

「俺も同じ気持ちだ。木綿季が死ぬなんて認めたくない。木綿季はお前の大切な人だし、俺の大切な仲間の一人だ。こんな形で仲間を喪うなんて、俺は嫌だよ」

 

 

 キリトの目には強い意志の光が宿っていた。SAOをクリアして戻って来た時からだろうか、キリトの目がこんなに強い光を宿すようになったのは。

 

 そしてその光は、ぼくにもあるのだろうか。ぼくの目は今、どうなっているのだろう。

 

 そんな事を考えていると、キリトの隣のシノンが声をかけてきた。

 

 

「でも、それなら私達は何をしたらいいんだろう。勿論木綿季が死ぬなんて、私も認めたくないけれど、後二ヵ月で木綿季が死んじゃうのが本当なら……私達は何をすれば、木綿季に何をしてあげればいいの」

 

「……シノン」

 

 

 リランがシノンへ振り向く。しかしシノンの言っている事も否定できない。

 

 ぼくもキリトも、ここにいる全員が木綿季が後二ヵ月の命だっていうのを認めない。でも、それだけで治美先生達の言っている未来が変わるなんて思えないし、現に今も木綿季の身体の中で新型ウイルスが猛威を振るっている。

 

 考えたくないけれど、治美先生達とウイルスの競争で後者が勝つ場合、それまでに木綿季に何をしてやるべきかを考えないといけない時でもある。

 

 

「『君達が認めないって言ったところで、木綿季の身体のウイルスが活動を止めてくれるわけじゃない。そんな事を言っているよりも、死に行く木綿季のために何をしてやるべきかを考えなきゃいけない時だよ』。……イリスさんなら、そう言いそうです」

 

 

 そう呟いたのはユイだった。確かにイリスならば、この場のぼく達にそう投げかけたに違いない。あの時はいた本人はいないけれど、今のぼく達をあの人が見たならば、そういわれるのは目に見えている。そんな気がした。

 

 

「木綿季にしてあげられる事……ぼく達が木綿季にしてあげられる事……」

 

 

 木綿季の命の篝火が消えてしまう前にやらなければならない事。それは木綿季の身体のウイルスを撃滅する方法を見つけて、実行する事なのだろうけれど、それは流石にぼく達の手では無理だ。

 

 ならば何をするべきか。咄嗟に思い付く事と言えば、木綿季にこれ以上ないくらいの最高の思い出を作ってあげる事だ。木綿季にとって一生に一番と思えるくらいに楽しくて心地良い思い出を、ぼく達の手で与えてあげる。最早それくらいがぼく達に残された手段なのかもしれない。

 

 

「木綿季に……木綿季に思い出を作ってやる事、とか」

 

 

 テッチが提案するように呟くと、皆の注目が集まった。ぼく達は同じ事を思い付いていたようだ。続けてジュンも言う。

 

 

「そうだよな。僕達が木綿季に出来る事って言ったら、そういうのしかないよな」

 

「アタシも同じ意見だよ」

 

「ワタクシもです。木綿季に最高の思い出を作ってあげたいです」

 

 

 ノリとタルケンまで同意見のようだった。一人何も言わなかったシウネーもやがて頷く。皆考えている事は一緒だった。木綿季にしてやれる事、ぼく達が木綿季にしてやるべき事は、最高の思い出作りだ。それしかない。

 

 スリーピング・ナイツがギルドリーダーのためにこれからやる事は、決定。確認するように皆で向き合った直後に声をかけてきた人がいた。それはキリトだった。

 

 

「俺もそれがいいと思う。勿論木綿季が助かる可能性を探すのを諦める訳じゃないけど、せめて木綿季に最高の思い出を作ってやりたいよ」

 

 

 ぼくは思わずきょとんとする。キリトの口ぶりは、如何にもぼく達の手伝いをしたいと立候補しているかのようだ。

 

 

「キリト、もしかして協力してくれるの」

 

「当たり前だろ。さっきも言ったじゃないか。木綿季もお前も、大事な仲間だって。その仲間にこれだけの一大事が起こってるんだから、協力しないわけにはいかないよ」

 

 

 キリトだけじゃなく、シノンもリランも、ユイとストレアとプレミアまでも頷いていた。全員、ぼく達スリーピング・ナイツに協力してくれるつもりでいるらしい。

 

 

「これはカイム達だけの問題じゃない。私達も協力させて頂戴」

 

「同感だ。これからログインしてくる者達にも呼び掛けてみるが、皆承諾してくれるはずだ。木綿季は我らと同じSAO生還者だからな」

 

「アタシも、出来る事があるならどんどん協力しちゃうよー!」

 

 

 シノンもリランも、ストレアもすごくやる気のようだ。そしてまだ確認も取っていないけれど、ここにいない仲間達もぼく達に協力してくれるつもりなのだろう。ぼく達スリーピング・ナイツが立ち向かうべき困難は、既にこれまで一緒にゲームを攻略してきた皆と攻略するべきモノに変わっていた。

 

 それがわかると、心の底から嬉しさが突き上げてきて、身体の中が暖かくなった気がした。

 

 

「カイム、わたしも協力します。わたしも持てる力で、木綿季に思い出を作ってあげます」

 

 

 キリトに続けてプレミアまで立候補してきた。ぼく達と比べてまだ力がない方にはいるプレミアまで協力してくれると言っているのだから、嬉しく思わないわけがなかった。が、そのプレミアはすぐに現状の真実を口にした。

 

 

「……それで、木綿季に何をしてあげればいいのでしょうか」

 

 

 そうだ。確かにぼく達のやるべき事は決まった。木綿季に最高の思い出を作ってあげるという目的が定まった。しかし、肝心な内容はまだ決まっていない。木綿季に作ってあげる思い出の具体的な形は、定まっていなかった。

 

 プレミアに図星を突かれたように、ノリが腕組をして溜め息を吐く。

 

 

「それなんだよねえ……思い出を作ってあげるって言ったところで、アタシ達は木綿季に何をしてあげればいいんだろ」

 

「僕達ってVRMMOでしか会えないから、VRMMOの中に収まってる必要があるよ」

 

 

 ジュンも困っている様子だった。いや、困っているのは全員だ。

 

 もしぼく一人が木綿季に最高の思い出を作ってあげるというのであれば、木綿季をおねえちゃんが好きだった京都旅行に連れていくなどの手段が取れるけれど、やりたいのは仲間達全員で木綿季に思い出を作ってあげる事だ。皆が現実世界で揃うのは難しいので、やはり場所はVRMMOの中に限定される。

 

 

「VRMMOの中で出来る事に限定して、木綿季を喜ばせる、かぁ。カイム、何か思い付かないか」

 

 

 テッチが聞いてくるのは想定内だった。

 

 スリーピング・ナイツの作戦当番はぼくだから、何かあった時に便りにされる事になるのもぼくの日常なのだ。だからこそテッチに言われる前から、ぼくは頭の中を回転させている。

 

 何かいい方法はないか。

 

 何かいいのはないか。

 

 思い付こうと必死になるけれど、困った事に思い付かない。戦闘中の作戦とかは咄嗟に思い付けるというのに。状況が違いすぎているせいだろうか。やはり何も思い付いてくれない。

 

 そんなぼくの状態なんかお構いなしで、スリーピング・ナイツのメンバー全員がぼくに眼差しを向けていた。皆、ぼくがアイディアを出す事に期待しているらしい。

 

 ここは正直に何も思い付かない事を伝えるべきなのだろうか。いや、そうした方が良さそうだ。

 

 

「えぇっと……皆」

 

「スリーピング・ナイツの皆さんでエリアボスを撃破なんてどうでしょうか」

 

 

 そう言ったのはユイだった。ユイはいつのまにかウインドウを展開して、何かしら操作していた。皆で驚きながら向き直ると、ユイは説明してくれた。

 

 何気なくやって来たけれど、《SA:O》ではエリアボスを一番乗りで倒す事に成功した場合、その時レイドチームに参加していたプレイヤー全員の名前が、黒鉄宮の記録碑と呼ばれるオブジェクトに記録されるようになっているらしい。そしてレイドチームがギルドを組んでいた場合は、そのギルドとプレイヤーの名前が記録されるようになっている。

 

 実際今の黒鉄宮の中のその記録碑には、リューストリア大草原、オルドローブ大森林のボスを撃破したレイドチーム名にはキリトとぼくを含めた仲間達全員の名前が刻まれているらしい。――ジュエルピーク湖沼郡はヴェルサとジェネシスに譲る事になってしまったけれど。

 

 そして今、ぼく達も含めた沢山のプレイヤー達によって、クルドシージ砂漠の攻略もほとんど完了し、残すはエリアボスを倒すだけになっているという。まだぼく達は全然探索も攻略もし足りないけれど、エリアボスに挑む事自体は可能になっているのだ。

 

 そこでぼく達スリーピング・ナイツだけがエリアボスに挑み、これを撃破。誰でも入れて、誰でも閲覧できる黒鉄宮の記録碑にスリーピング・ナイツの名を刻み込む。それがユイからの提案だった。

 

 

「なるほど。確かにそれなら、木綿季にとっても最高の思い出になりそうですね。木綿季は戦う事が大好きですから……」

 

 

 シウネーが納得したように呟くと、続けてジュンがわくわくした様子を見せる、

 

 

「僕達が一番乗りでエリアボスを倒すなんて最高じゃんか! それ賛成だよ!」

 

 

 他の皆も賛成している様子だった。皆ユイの言うスリーピング・ナイツ単隊でのエリアボス撃破をやるつもりでいるらしい。

 

 そしてぼくはというと、それに賛成だった。

 

 これまで相手にしてきたからわかるけれど、《SA:O》のエリアボスは強い。キリト達と組んで戦う時も、十人を越える大所帯での戦いになっていたし、何よりキリトとリランの《人竜一体》も駆使しないと勝てないような相手だった。

 

 そんなエリアボスに、ぼく達スリーピング・ナイツという十人以下のギルドが戦いを挑んで勝つなど、無謀だと言えるだろうし、いつもならそう思っていた事だろう。けれど、今はそんな気更々ない。寧ろ、ぼく達がやるべき事はそれとさえ思う。

 

 スリーピング・ナイツという全員病人の小規模ギルドが単隊でエリアボスに挑み、見事撃破して黒鉄宮の記録碑に名前を残させる。ほかプレイヤーからすれば、あんな小規模ギルドがエリアボスを倒すなんてと、驚くしかなくなるだろう。

 

 そして黒鉄宮の記録碑は誰もが見れるから、エリアボスを倒したプレイヤーを確認しようとする度に、スリーピング・ナイツの名前を目に入れる。《SA:O》が終わるときまでずっと。木綿季が死んでしまったあとも、ずっとユウキの名前はプレイヤー達に知れ渡り続けていくのだ。

 

 何よりバトル好きの彼女の事だから、エリアボスをスリーピング・ナイツだけで撃破する戦いそのものが、最高の思い出だと思ってくれるだろう。

 

 まさにぼく達に残された最後の手段だ。スリーピング・ナイツの中に、反対意見を唱える者はいない。

 

 

「……決定だね。それでいこう。スリーピング・ナイツの皆でエリアボスを倒そう。エリアボスをぼく達だけで倒して、黒鉄宮に名前を残してやろうよ! この一連の出来事を、木綿季に最高の思い出として贈ってあげよう!」

 

 

 いつもの作戦決定の時のように言うと、皆「おぉっ!」と腕を突き上げて賛成の声を上げてくれた。そもそもぼく達スリーピング・ナイツはALOの時は負け知らずのギルドとさえ言われてきた集団だ。《SA:O》という違い世界に居はするけれど、きっと今回のエリアボスだって勝てる。いや、絶対に勝てる――そう思えて仕方がなかった。

 

 しかし、その直後にぼく達を呼び止めたのはリランだった。

 

 

「待てカイム。決まったのはいいが、その前に問題がありそうだぞ」

 

「なにさ」

 

 

 リランによると、クルドシージ砂漠のエリアボス部屋が解放されたのは、とあるプレイヤーによって組まれた二十人付近のチームの功績によるものらしい。

 

 問題はそのチームを構成するプレイヤー達だ。それらは全員が異様な強さを持っていて、とても凶暴であるという。一応そのチームはエリアボス部屋の前まで攻略したところで撤退したので、エリアボスがまだ倒されていないという今の状況が作られているらしいのだけれど、そのチームがエリアボス攻略に乗り出すのも時間の問題だという。

 

 

「異様な強さを持ったプレイヤーの集団……もしかしてヴェルサとその取り巻きとか?」

 

「ヴェルサは無関係だ。だが、そのチームを見た者は皆、口を揃えて異様だったと言っている。エリアボスに挑むならば、そいつらがまず絡んでくるはずだ」

 

「それって、僕達の妨害をしてくるかもしれないって事?」

 

 

 ジュンの問いにリランは頷く。その異様なチームとかいうのも、考えている事は同じらしい。

 

 

「エリアボスの一番乗りをするつもりなら、カイム達は当然障害となる。目の前にいようものならば、真っ先に排除にかかるだろう。もしかしたら交戦は避けられないかもしれぬ」

 

 

 ぼくは思わず唾を呑んだ。最新エリアであるクルドシージ砂漠を一気に攻略してしまう集団がいるならば、当然その目的はエリアボスにあっておかしくない。ぼく達の向かう先も同じクルドシージ砂漠のエリアボスだから、もしかしたら攻略しようとした際に激突する可能性もないわけじゃない。

 

 そしてその集団は――ひょっとしなくてもぼく達より強い連中だろう。ぼく達で敵うかどうかさえ怪しいが、意外な事に、スリーピング・ナイツの皆は怯える様子も戸惑う様子も見せなかった。

 

 

「そうなったらそうなったまでだ。道を切り開くだけさ」

 

「そうだよ。現にアタシ達、ALOでボスに挑む時に邪魔する奴らが居たら、真っ先に片付けてきたからね。この世界でもそうなるなら、その時は戦うだけだよ」

 

 

 テッチとノリが威勢のよさを見せる。ジュンは勿論の事、シウネーもタルケンも同じような事を思っていそうな表情を見せている。皆やる気のようだ。その顔を見ていると、不思議とぼくまで一緒にやる気になってきた。

 

 例えクルドシージ砂漠をすごい勢いで攻略してしまうような連中が敵になったとしても、スリーピング・ナイツは負けないだろう。ぼく達はそもそも一人一人が一騎当千の実力者集団なのだから。

 

 

「ボス戦に向かうなら、明日の九時過ぎに出発した方がいい。丁度土曜日に差し掛かるから、いけるだろ。木綿季もいけるって話みたいだしさ」

 

「勿論。それで、キリト達はどうするつもりなの。ぼく達はボス戦をするけれど……」

 

 

 ぼくはスリーピング・ナイツの皆との行動は考えていた。でもこれはあくまでスリーピング・ナイツだけに限定したものであって、キリト達の事は含まれていない。キリト達は協力してくれるというけれど、キリト達には何をしてもらえばいいのだろうか。

 

 思わず悪い事をしたような気持ちになったぼくに、キリトは不敵な笑みを見せてきた。

 

 

「お前らが無事にボス戦に挑めるように、バックアップしてやるよ」

 

「その強力で異様なチームっていうのが気になるし、きっとそいつらが邪魔してくると思うわ。だから、私達でそいつらを押しとどめる」

 

 

 キリトの隣のシノンも、かなりやる気な顔で言っていた。ぼく達がボスに向かう時は、リランやキリトの言っているように、そのチームとぶつかる可能性が高いだろう。その時はぼく達だけだと難しいかもしれないが、キリト達が一緒ならば乗り越えられる。

 

 キリト達と一緒にそのチームを蹴散らして、ぼく達がボス部屋に辿り着き、ボスを倒す。話してもいないのに、キリトの考える作戦がわかった気がした。そして、この作戦ならば、ぼく達は木綿季の思い出作りのための戦いに打ち込める。そんな気もした。

 

 

「わかった。それじゃあ、明日はお願いするね、キリト」

 

「任せておけ、親友。木綿季にたっぷり良い思い出を作ってやれよ」

 

 

 親友の言葉に、ぼくは頷いた。

 

 明日は、大事な日だ。

 




 次回、スリーピング・ナイツがボス戦へ。

















――――――――――

1.《幽世(かくりよ)》という神様やら妖怪やら妖精やらが一緒に住んでるっていうファンタジー感たっぷりの異世界

2.とある神社の巫女を務めていた女子高生が突然行方不明になった事件


 さて、これらの元ネタは?

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